説明

高周波機器

【課題】高周波回路ブロック間でグラウンドパターンを切断してアイソレーション特性を改善できると共に、切断部での反射を抑制すること。
【解決手段】テレビション信号入力回路3が設けられた第1の高周波回路ブロック6と、周波数変換回路4が設けられた第2の高周波回路ブロック7とで挟まれた第3の高周波回路ブロック10において、高周波信号伝送線路12の両側で高周波信号伝送線路12と磁気的に結合し得る位置に接地線路13を設け、基板5の裏面の第1の高周波回路ブロック6側に設けられた第1のグランドパターン8と第2の高周波回路ブロック7側に設けられた第2のグランドパターン9とが分離していても、かかる切断部でのインピーダンスを下げて高周波信号伝送線路12におけるインピーダンス整合を実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の高周波回路ブロックと他方の高周波回路ブロックとが高周波伝送線路を介して接続される高周波機器に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波信号を取り扱う高周波機器では、基板(積層基板の中間層を含む)に複数の高周波回路等の回路ブロック(以下、高周波回路ブロックという)が形成されており、高周波回路ブロック間がマイクロストリップライン等の高周波伝送線路で接続されている。
【0003】
例えば、テレビジョンチューナの場合、高周波フィルタが構成された高周波回路ブロックと高周波フィルタの後段に接続され周波数変換回路が構成された高周波回路ブロックとを備え、双方のブロック間に形成された高周波伝送線路には例えば50MHz〜1GHzの高周波信号が伝搬する。図5は高周波機器における高周波回路ブロック間の高周波伝送路構造を示す模式図である。2つの高周波回路ブロック101、102が形成されており、ブロック間は高周波伝送線路103で接続されている。一方の高周波回路ブロック101の形成領域に対向してグラウンドパターン104が配置され、他方の高周波回路ブロック102の形成領域に対向してグラウンドパターン105が配置されている。一方の高周波回路ブロック101と他方の高周波回路ブロック102との間には中間ブロック106が形成されている。中間ブロック106の基板表面を高周波伝送線路103が形成され、基板裏面にグラウンドパターン104、105と一体のグラウンドパターン107が形成されている。
【0004】
チューナ側の高周波回路ブロック102では混合器に入力する局部発振信号を生成している。高周波フィルタ側の高周波回路ブロック101とチューナ側の高周波回路ブロック102との間のアイソレーションが不十分であると、チューナ側の高周波回路ブロック102で生成した局部発振信号が高周波フィルタ側の高周波回路ブロック101へ混入して受信性能を劣化させる恐れがある。このため、高周波フィルタ側の高周波回路ブロック101のグラウンドパターン104とチューナ側の高周波回路ブロック102のグラウンドパターン105とを切断してアイソレーション特性を改善する提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図6は、高周波機器において隣接する高周波回路ブロックのグラウンドパターンを切断した模式図である。2つの高周波回路ブロック101、102が形成されており、ブロック間は高周波伝送線路103で接続されている。一方の高周波回路ブロック101の形成領域に対向してグラウンドパターン104が配置され、他方の高周波回路ブロック102の形成領域に対向してグラウンドパターン105が配置されている。一方の高周波回路ブロック101のグラウンドパターン104と、他方の高周波回路ブロック102のグラウンドパターン105とは切断部108にて完全に分離されている。この切断部108によってグラウンドパターン104,105間のアイソレーションが確保される。
【特許文献1】特開2003−124826号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、アイソレーションを改善するために高周波回路ブロック間でグラウンドパターンを切断すると、その切断部でインピーダンス整合が取れなくなり、反射が生じるといった課題があった。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、高周波回路ブロック間でグラウンドパターンを切断してアイソレーション特性を改善できると共に、切断部での反射を抑制することのできる高周波機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の高周波機器は、基板の所定領域において高周波信号を取り扱う第1の高周波回路ブロックと、前記基板であって前記第1の高周波回路ブロックとは異なる所定領域において高周波信号を取り扱う第2の高周波回路ブロックと、前記第1の高周波回路ブロックと前記第2の高周波回路ブロックとの間に形成される第3の高周波回路ブロックと、前記第1及び第2の高周波回路ブロックに対して設けられ前記第3の高周波回路ブロックにおいて切断されたグラウンドパターンと、前記第1の高周波回路ブロックから前記第2の高周波回路ブロックにかけて前記第3の高周波回路ブロックを経由して形成された高周波信号伝送線路と、高周波的に接地され前記第3の高周波回路ブロックにおいて前記高周波信号伝送線路と磁気的に結合し得る位置に設けられた導体と、を具備したことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、第1及び第2のグラウンドパターン間を切断したので第1の高周波回路ブロックと第2の高周波回路ブロックとのアイソレーション特性を改善できる。しかも、第3の高周波回路ブロックにおいてグラウンドパターンを切断することによってインピーダンスが高くなるが、その第3の高周波回路ブロックにおいて高周波信号伝送線路と導体とが磁気的に結合してインピーダンスを下げる方向に作用するので、結果としてグラウンドパターン切断部においてインピーダンス整合する方向にインピーダンス調整され、切断部での反射を抑制することができる。
【0010】
また本発明は、上記高周波機器において、前記導体は、直流電圧伝送用のバイアス線路であることを特徴とする。
【0011】
この構成により、直流電圧伝送用のバイアス線路を利用してグラウンドパターン切断部のインピーダンス調整が可能であるので、高周波信号伝送線路における整合をとるための新たな線路を設ける必要がなく、コストアップを最小限に抑えることができる。この場合、直流電圧伝送用のバイアス線路はコンデンサ等で高周波的にグランドに接地されているので、接地線路又は接地と見なせる線路として使用することができる。
【0012】
また本発明は、上記高周波機器において、前記導体は、前記第1の高周波回路ブロックと前記第2の高周波回路ブロックとに延伸され、前記第1及び第2の高周波回路ブロックにおいては前記高周波信号伝送線路と磁気的に結合しない又は結合が所定以下となる離れた位置に設けられたことを特徴とする。
【0013】
この構造によれば、インピーダンス調整が必要な第3の高周波回路ブロック以外の領域となる第1及び第2の高周波回路ブロックでは、導体を高周波信号伝送線路と磁気的に結合しない又は結合が所定以下となる離れた位置に設けるので、第3の高周波回路ブロックにおけるインピーダンス整合にだけ寄与させることができ、既存の配線設計をそのまま適用できる。
【0014】
上記高周波機器において、前記第1の高周波回路ブロックは、高周波フィルタを含むテレビジョン信号入力回路であり、前記第2の高周波回路ブロックは、局部発振回路を含む周波数変換回路であるテレビジョンチューナに適用することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高周波回路ブロック間でグラウンドパターンを切断してアイソレーション特性を改善できると共に、切断部での反射を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は高周波機器の一つであるテレビジョンチューナの概略図である。図1に示すテレビジョンチューナ1は、アンテナ2と、アンテナ2から出力された高周波信号から所定帯域を取り出す高周波フィルタを有するテレビション信号入力回路3と、テレビション信号入力回路3で抽出された高周波信号に発振回路(図示略)から入力する局部発振信号を乗算して周波数変換する周波数変換回路4とを備える。
【0017】
図2は、図1のテレビジョンチューナ1における高周波回路ブロック間の信号伝送路の構成を模式的に示した図である。同図において、テレビション信号入力回路3は、配線基板5の第1の高周波回路ブロック6に設けられ、周波数変換回路4は配線基板5の第2の高周波回路ブロック7に設けられる。配線基板5の裏面で、第1の高周波回路ブロック6に対向する領域に第1のグランドパターン8が設けられており、第2の高周波回路ブロック7に対向する領域に第2のグランドパターン9が設けられている。第1の高周波回路ブロック6と第2の高周波回路ブロック7とで挟まれ、第1のグランドパターン8と第2のグランドパターン9とが分離している領域11を第3の高周波回路ブロック10とする。
【0018】
また、第1のグランドパターン8及び第2のグランドパターン9が設けられている面とは異なる面(本例では基板表面)には、第1の高周波回路ブロック6から第3の高周波回路ブロック10を経由して第2の高周波回路ブロック7を貫く高周波信号伝送線路12が形成されている。また、高周波信号伝送線路12と同一形成面である基板表面には、第1の高周波回路ブロック6から第3の高周波回路ブロック10を経由して第2の高周波回路ブロック7を貫く接地線路13が形成されている。接地線路13は高周波的には接地されている。この接地線路13が第3の高周波回路ブロック10では高周波信号伝送線路12とギャップを介して磁気的に結合し得る位置に近接して配置されている。第3の高周波回路ブロック10は、グラウンドパターンが形成されていないので、第3の高周波回路ブロック10において高周波信号伝送線路12はグラウンドパターンが形成されている第1及び第2の高周波回路ブロック6、7に比べて高インピーダンスとなる。本実施の形態では、第3の高周波回路ブロック10において接地線路13を高周波信号伝送線路12に近接配置して磁気的に結合したことにより、第3の高周波回路ブロック10におけるインピーダンスを下げるように作用する。好ましくは、高周波信号伝送線路12を高周波信号が伝搬する際に第3の高周波回路ブロック10におけるインピーダンスと第1及び第2の高周波回路ブロック6、7におけるインピーダンスが均一化(インピーダンス整合)するように、接地線路13と高周波信号伝送線路12との間隔及び線幅を設定する。
【0019】
また、接地線路13は、第3の高周波回路ブロック10以外の領域である第1及び第2の高周波回路ブロック6,7では再び高周波信号伝送線路12から離れて配置され、高周波信号伝送線路12との間では磁気的に結合しないか又は非常に弱い結合となっている。これは、第3の高周波回路ブロック10以外の領域でも接地線路13を高周波信号伝送線路12に近づけて配置すると、高周波的に高周波信号伝送線路12の幅を広くしたことと同様になり、インピーダンスが規定値(例えば50Ω)から外れてインピーダンス不整合となるからである。このインピーダンス変化を低く抑えるために、接地線路13は第3の高周波回路ブロック10でのみ高周波信号伝送線路13に結合可能な位置まで近づけるようにしている。
【0020】
本実施の形態では第3の高周波回路ブロック10において高周波信号伝送線路12の両側から2つの接地線路13で挟むように配置している。接地線路13は、高周波的に接地されているか又は接地と見做せる線路であっても良い。また、接地線路の代わりにグラウンドそのものであっても良い。すなわち、主として第3の高周波回路ブロック10において高周波信号伝送線路12と磁気的に結合してインピーダンスを調整可能な導体であれば良い。本実施の形態では、接地線路13として、周波数変換回路4側からテレビション信号入力回路3側へ直流電圧(+B)を印加するために設けられたバイアス線路を用いている。バイアス線路は高周波的に接地されており、接地線路13として機能する。接地線路13としてバイアス線路を用いることにより、第3の高周波回路ブロック10のインピーダンス調整のためにだけに新たな高周波部品(線路)を追加する必要がなくなる。
【0021】
図3は、図2の点線で囲んだ部分を拡大した図であり、具体的な各部の寸法の一例を示している。第3の高周波回路ブロック10における高周波信号伝送線路12と接地線路13とのギャップL1を0.2mm、第1及び第2の高周波回路ブロック6,7(但し、第3の高周波回路ブロック10の近傍領域を除く)における高周波信号伝送線路12と接地線路13とのギャップL2を2mm以上とした。また、第1のグランドパターン8と第2のグランドパターン9とのギャップL3を1.5mmとする。また、第1の高周波回路ブロック6と第2の高周波回路ブロック7とをつなぐ基板幅L4を4.2mm、高周波信号伝送線路12の線幅L5を0.9mm、接地線路13の線幅L6を0.9mm、基板5の板厚tを1.0mmとした。
【0022】
高周波信号伝送線路12と接地線路13との結合度は、線幅が固定であれば、ギャップL1の寸法によって変化する。ギャップL1の寸法を調整することで、第1のグランドパターン8と第2のグランドパターン9とのギャップL3でのインピーダンスを調整できる。また、高周波信号伝送線路12の線幅L5と接地線路13の線幅L5の設定によってインピーダンスを調整できる。
【0023】
図4は、図2及び図3に示す高周波伝送路(本実施の形態)と、図6に示す高周波伝送路(従来例)のリターンロス(反射特性)をシミュレーションした結果を示す図である。特性曲線Aが本実施の形態のシミュレーション結果であり、特性曲線Bが従来例のシミュレーション結果である。同図から分るように、高周波信号伝送線路12と磁気的に結合し得る位置に接地線路13を設けることで、第1のグランドパターン8と第2のグランドパターン9とが分離していても、リターンロスを低く抑えることができる。従来の高周波伝送路はインピーダンス整合していないために大きなロスが生じているが、本実施の形態の高周波伝送路では接地線路13によりインピーダンス整合しているためにロスが小さくなっている。
【0024】
このように、本実施の形態の高周波機器1によれば、基板5のテレビション信号入力回路3が設けられた第1の高周波回路ブロック6と、基板5の周波数変換回路4が設けられた第2の高周波回路ブロック7とで挟まれた第3の高周波回路ブロック10において、高周波信号伝送線路12の両側で高周波信号伝送線路12と磁気的に結合し得る位置に接地線路13を設けたので、基板5の裏面の第1の高周波回路ブロック6側に設けられた第1のグランドパターン8と第2の高周波回路ブロック7側に設けられた第2のグランドパターン9とが分離していても、かかる切断部でのインピーダンスを下げることができ、高周波信号伝送線路12における不整合を低く抑えることができる。
【0025】
なお、本実施の形態では、基板5が両面配線基板であったが、多層配線基板であっても構わない。多層配線基板の場合、接地線路13を高周波信号伝送路12と同一面に設ける必要は必ずしもなく、磁気的に結合し得る位置であれば上層面又は下層面に設けることもできる。このように、多層配線基板の場合、高周波信号伝送路12に対する接地線路の自由度が高まる。
【0026】
また、多層配線基板の場合は、第1のグランドパターン8と第2のグランドパターン9とが必ずしも同一面(本実施の形態では”裏面”)に位置するとは限らず、例えば第2のグランドパターン9が第1のグランドパターン8に対して上層に配置することもできる。
【0027】
また、本実施の形態は、高周波信号伝送線路12と磁気的に結合し得る位置に接地線路13を高周波信号伝送線路12の両側に設けたが、片方のみであってもよい。また、上述したように多層配線基板の場合、2本の接地線路13を必ずしも高周波信号伝送線路12と同一面に設ける必要はなく、例えば高周波信号伝送線路12の上層に設けることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、テレビ受信機や無線通信機に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施の形態に係る高周波機器の概略構成を示すブロック図
【図2】図1の高周波機器のテレビション信号入力回路と周波数変換回路との接続部分を模式的に示した斜視図
【図3】図2の高周波回路のテレビション信号入力回路と周波数変換回路との接続部分の一部分を拡大した図
【図4】図1の高周波機器における反射特性および図6の高周波機器における反射特性を示す図
【図5】従来の高周波機器において周波数変換回路とテレビション信号入力回路の接続部分にグランドパターンが存在している場合を模式的に示した斜視図
【図6】従来の高周波において周波数変換回路とテレビション信号入力回路の接続部分にグランドパターンが存在していない場合を模式的に示した斜視図
【符号の説明】
【0030】
1…テレビジョンチューナ(高周波機器)
2…アンテナ
3…テレビション信号入力回路
4…周波数変換回路
5…配線基板
6…第1の高周波回路ブロック
7…第2の高周波回路ブロック
8…第1のグランドパターン
9…第2のグランドパターン
10…第3の高周波回路ブロック
11…グランドパターン分離部分
12…高周波信号伝送線路
13…接地線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の所定領域において高周波信号を取り扱う第1の高周波回路ブロックと、前記基板であって前記第1の高周波回路ブロックとは異なる所定領域において高周波信号を取り扱う第2の高周波回路ブロックと、前記第1の高周波回路ブロックと前記第2の高周波回路ブロックとの間に形成される第3の高周波回路ブロックと、前記第1及び第2の高周波回路ブロックに対して設けられ前記第3の高周波回路ブロックにおいて切断されたグラウンドパターンと、前記第1の高周波回路ブロックから前記第2の高周波回路ブロックにかけて前記第3の高周波回路ブロックを経由して形成された高周波信号伝送線路と、高周波的に接地され前記第3の高周波回路ブロックにおいて前記高周波信号伝送線路と磁気的に結合し得る位置に設けられた導体と、を具備したことを特徴とする高周波機器。
【請求項2】
前記導体は、直流電圧伝送用のバイアス線路であることを特徴とする請求項1記載の高周波機器。
【請求項3】
前記導体は、前記第1の高周波回路ブロックと前記第2の高周波回路ブロックとに延伸され、前記第1及び第2の高周波回路ブロックにおいては前記高周波信号伝送線路と磁気的に結合しない又は結合が所定以下となる離れた位置に設けられたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高周波機器。
【請求項4】
前記第1の高周波回路ブロックは、高周波フィルタを含むテレビジョン信号入力回路であり、
前記第2の高周波回路ブロックは、局部発振回路を含む周波数変換回路であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の高周波機器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−114109(P2010−114109A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−282740(P2008−282740)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】