説明

高周波用低損失誘電体材料、その製造方法及び部材

【課題】高周波領域における低い誘電損失とともに高い熱伝導を有する低損失誘電体材料とその製造方法及び部材を提供する。
【解決手段】窒化ケイ素を主体とし、周期律表第3a族化合物、及び、不純物的酸素を含有する窒化ケイ素質焼結体からなり、該焼結体の粒界が結晶化され、かつ2GHzと3GHzにおける誘電損失が2×10−4以下であり、熱伝導率が90W・m−1・K−1以上の高周波用低損失誘電体材料、その製造方法及び部材。
【効果】2GHzと3GHzにおける誘電損失が2×10−4以下で、かつ熱伝導率が90W・m−1・K−1以上である高熱伝導・低誘電損失の高周波用低損失緻密質誘電体材料及び部材等を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波用低損失誘電体材料に関するものであり、更に詳しくは、低い誘電損失と高い熱伝導率の両者の要求を満たすことを実現した新規高周波用低損失誘電体材料及びその部材等に関するものである。本発明は、プラズマ処理装置部材、例えば、半導体製造装置、液晶製造装置などにおいて、主にマイクロ波などの高周波を使用してプラズマを発生させる装置に用いられる高周波用低損失誘電体材料等を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、主に半導体、液晶薄膜製造におけるCVD、エッチング、レジスト工程に、マイクロ波プラズマ処理装置が多用されている。マイクロ波などの高周波を用いてプラズマを発生させるこれらの装置には、高周波透過性の良い材料で構成された部材が使用されている。これらの部材には、高周波透過性(低い誘電率、低い誘電損失)とともに、部材内の温度分布をなくして反応の均一性を高めるために、高い熱伝導率が必要とされている。
【0003】
高周波透過性については、例えば、シリカガラスが、低誘電率で誘電損失も低くて優れるが、熱伝導率は〜2W・m−1・K−1と低く、部材としての要求を満たさない。また、高純度のアルミナセラミックスも、低誘電損失であるが、熱伝導率が〜30W・m−1・K−1と低く、要求を満たさない。反対に、窒化アルミニウムは、熱伝導率が〜160W・m−1・K−1と非常に高いが、誘電損失が10−3以上あるので、要求を満たすことができない。
【0004】
一方、耐熱性、耐熱衝撃性、機械的強度が上記セラミックスに比べて格段に優れるセラミックスとして、窒化ケイ素(Si)が知られ、100W・m−1・K−1以上の高い熱伝導率を有するSiも開発されている。また、Siの誘電損失に関しては、高周波導入窓材の信頼性を付与するために、機械的強度に優れた窒化ケイ素の誘電損失を低下させることを目的とした研究が行われている。
【0005】
先行引用文献として、例えば、窒化ケイ素を用いた低誘電損失な高周波導入窓材の報告例があるように、従来、10GHzにおいて10−4以下の低い誘電損失が達成されている。しかしながら、前述の要求を満たすために、低い誘電損失とともに、高い熱伝導率を兼ね備える緻密質Siに関しては、これまで、ほとんど検討されてこなかった。
【0006】
これまでは、先行技術として、例えば、周期律表第3a族化合物(RE3)とSiOのモル比、(RE/SiO)が0.1〜0.67の組成が低誘電損失窒化ケイ素材料として有望であることが報告されている(特許文献1)。
【0007】
また、周期律表第3a族化合物を添加した窒化ケイ素質焼結体の熱伝導率に関して、RE/SiO比が〜1まで上昇するに従い窒化ケイ素粒内の固溶酸素が低減され、熱伝導率が100W・m−1・K−1程度まで向上することが報告されている(非特許文献1)。
【0008】
これらの知見からすると、従来報告されている組成の低誘電損失窒化ケイ素の熱伝導率の向上は困難であり、市販されている低誘電損失窒化ケイ素質材料の熱伝導率は60W・m−1・K−1程度にとどまっている。
【0009】
一方、窒化ケイ素の高熱伝導化は、例えば、高熱伝導化を促すための希土類酸化物と、緻密化を促進する焼結助剤としてのMg元素化合物の添加により行われている(非特許文献2)。
【0010】
しかしながら、MgOを6.6mol%添加して焼結した窒化ケイ素の9.1GHzにおける誘電損失が2×10−3と大きいことが報告されており(非特許文献3)、誘電損失の観点からは、MgやCaなどのアルカリ土類金属やNaやKなどのアルカリ金属は窒化ケイ素の誘電損失に悪影響を及ぼすものと考えられてきた。
【0011】
また、例えば、先に示した特許文献(特開平10−134956号公報)などでは、低誘電損失化するためには、これらのアルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物は好ましくなく、できる限り存在しないことが必要とされてきた。すなわち、アルカリ土類金属を焼結助剤に用いた窒化ケイ素においては、緻密かつ高熱伝導となるが、誘電損失を低減することは困難であると予想される。
【0012】
アルカリ土類金属を用いずに周期律表第3a族化合物の単独添加の場合、先に示したように、先行技術文献(Journal of American Ceramics Society,第83巻(2000),pp.1985−1992)において、RE/SiOが〜1まで増加するに従い熱伝導率が向上することが報告されているが、この組成では、ガス圧焼結のみでは十分に緻密化させることがこれまでは困難であり、難焼結性を示す。
【0013】
これは、RE/SiO比が〜1の場合には、REとSiOの反応よる液相の生成温度が高く、この比が小さい組成のものに比べて焼結温度近傍での液相の生成量が少ないためである。
【0014】
このため、製造コストのかさむ熱間静水圧焼結法(ホットプレス焼結)などによらなければ緻密な焼結体を得ることが難しく、低損失誘電体材料の工業的な生産には不向きであるとして、この組成領域の誘電特性は調査されてこなかったのが実情である。
【0015】
【特許文献1】特開平10−134956号公報
【非特許文献1】Journal of American Ceramics Society,第83巻(2000),pp.1985−1992
【非特許文献2】日本セラミックス協会学術論文誌、第109巻、第12号(2001)、pp.1046−1050
【非特許文献3】Journal of Nuclear Materials,第155−157巻(1988),pp.372−377
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このような状況の中で、本発明者等は、上記従来技術に鑑みて、低い誘電損失と高い熱伝導率の両者の要求を満たす新しい高周波用低損失緻密質誘電体材料を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、窒化ケイ素質焼結体に含まれる周期律表第3a族元素化合物の含有量を特定量に制御し、焼結体の緻密化を促進し、更に、粒界相を結晶化させることにより、2GHzと3GHzにおける誘電損失を2×10−4以下に、熱伝導率を90W・m−1・K−1以上にすることができ、これが、高熱伝導・低誘電損失な緻密質セラミックス誘電体材料として好適な材料となることを見出し、本発明に至った。
【0017】
本発明は、窒化ケイ素を主体とし、周期律表第3a族元素化合物と不純物的酸素を含有する窒化ケイ素質焼結体からなり、該焼結体中の結晶粒界が結晶化され、2GHzと3GHzにおける誘電損失が2×10−4以下で、熱伝導率が90W・m−1・K−1以上である高周波用低損失緻密質誘電体材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)窒化ケイ素を主体とし、周期律表第3a族元素化合物、不純物的酸素を含有する窒化ケイ素質焼結体からなり、相対密度97%以上の緻密な焼結体であり、2GHzと3GHzにおける誘電損失が2×10−4より低く、かつ熱伝導率が90W・m−1・K−1より高いことを特徴とする高周波用低損失誘電体材料。
(2)焼結体中に含有される周期律表第3a族元素化合物(RE)の割合が、酸化物換算(RE)で少なくとも16重量%であり、酸窒化ケイ素化合物結晶相を含有する、前記(1)に記載の高周波用低損失誘電体材料。
(3)酸窒化ケイ素化合物が、RESi7で示される化合物である、前記(2)に記載の高周波用低損失誘電体材料。
(4)焼結体中に含有される周期律表第3a族元素が、Yb、Y、Dy、Er、Tm、Lu又はScである、前記(1)に記載の高周波用低損失誘電体材料。
(5)焼結体中の粒界相が主にRE−Si−O−N化合物からなり、結晶化している、前記(1)に記載の高周波用低損失誘電体材料。
(6)Al含有量が、酸化物換算(Al)で0.1重量%以下である、前記(1)に記載の高周波用低損失誘電体材料。
(7)前記(1)から(6)のいずれかに記載の高周波用低損失誘電体材料からなる部材であって、電気部品の製造装置に適用される高周波透過用部材であることを特徴とする高周波透過用部材。
(8)部材が、半導体製造装置、又は液晶製造装置に適用される高周波透過用部材である、前記(7)に記載の高周波透過用部材。
(9)前記(1)に記載の材料を製造する方法であって、周期律表第3a族元素化合物の存在量が、酸化物換算で少なくとも7モル%であり、酸化ケイ素(SiO)とのモル比(RE/SiO)が、1.0〜1.5の範囲にある出発原料を用いて、成形、焼成することを特徴とする高周波用低損失誘電体材料の製造方法。
(10)少なくとも400MPaの静水圧プレス成形により、52%以上の相対密度を有する成形体を作製し、これを焼成する、前記(9)に記載の高周波用低損失誘電体材料の製造方法。
【0019】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、低誘電損失と高熱伝導率の両者を満たす高周波用低損失誘電体材料であって、窒化ケイ素を主体とし、周期律表第3a族元素化合物、不純物的酸素を含有する窒化ケイ素質焼結体からなり、相対密度97%以上の緻密な焼結体であり、2GHzと3GHzにおける誘電損失が2×10−4より低く、かつ熱伝導率が90W・m−1・K−1より高いことを特徴とするものである。
【0020】
本発明では、焼結体中に含有される周期律表第3a族元素化合物(RE)の割合が、酸化物換算(RE)で少なくとも16重量%であり、酸窒化ケイ素化合物結晶相を含有すること、酸窒化ケイ素化合物が、RESi7で示される化合物であること、焼結体中に含有される周期律表第3a族元素が、Yb、Y、Dy、Er、Tm、Lu又はScであること、焼結体中の粒界相が主にRE−Si−O−N化合物からなり、結晶化していること、を好ましい実施の態様としている。
【0021】
本発明に係る高周波用低損失緻密質誘電体材料は、窒化ケイ素を主成分とするものであり、窒化ケイ素以外の成分として、不純物的酸素と周期律表第3a族元素を含有するものである。ここで、不純物的酸素とは、窒化ケイ素原料中に不可避的に含まれる不純物酸素、又は意図的に添加された酸化ケイ素(SiO)を意味する。
【0022】
また、周期律表第3a族元素は、焼結助剤として添加される成分であり、Yb、Y、Dy、Er、Tm、Lu又はScが例示される。これらの周期律表第3a族元素は、出発原料として、酸化物換算で7モル%以上が適当で、上記不純物的酸素のSiO換算量は、RE/SiOモル比が、1〜1.5が適当である。
【0023】
この組成領域では、REとSiOの反応よる液相の生成温度が高く、この比が小さい組成のものに比べて、焼結温度近傍での液相の生成量が少なくなるために、これまで、ガス圧焼結を用いて十分に緻密化させることが困難であった。
【0024】
しかしながら、本発明に係る低損失誘電体材料の作製において重要な点は、冷間静水圧プレスのプレス圧力を400MPa以上と高く設定することにより、成形体の相対密度を52%以上に上昇させることで、焼結温度付近での液相生成量が比較的少ない組成においても、コストの低いガス圧焼結で、相対密度97%以上の緻密化が達成できることを明らかにした点にある。
【0025】
更に、本発明の低誘電損失材料においては、窒化ケイ素質焼結体中の粒界相が結晶化していることも重要である。粒界相が影響する原因として、粒界相がガラス化した場合、粒界相の誘電損失が増大することが予想される。ここで、粒界相とは、窒化ケイ素結晶相以外の部分で、主に珪素(Si)と前記周期律表第3a族元素(RE)、酸素及び窒素を含み、主にRE−Si−O−N化合物からなる。結晶相としては、RESi相を析出させることが望ましい。
【0026】
また、誘電損失に大きな影響を与える焼結体中の陽イオン不純物としては、焼結体中のアルミニウム(Al)が、酸化物換算量で2重量%以下であることが好ましい。一方、熱伝導率の観点からは、Al含有量がごく微量であっても、熱伝導率は著しく低下することが知られており、焼結体中のAl元素が更に低減されることが望ましい。先行技術文献によれば、わずか1モル%のAlの添加により熱伝導率が約35%低下することが報告されている。Alの存在量が0から1モル%の範囲では、熱伝導率が存在量に対し直線的に減少すると仮定して、熱伝導率の減少率が5%以内までを許容範囲と考えるならば、Alの存在量は0.1重量%以下であることが望ましい(Journal of Materials Research,第13巻(1998),pp.3473−3477)。
【0027】
本発明の低損失誘電体材料を製造する方法としては、窒化ケイ素原料に、周期律表第3a族元素の酸化物などの化合物を添加し、これを混合した後、400MPa以上の高圧の冷間静水圧プレスで成形して相対密度を52%以上にした後、Al元素の汚染がない黒鉛抵抗炉などを用いて焼成する。
【0028】
焼成は、窒素中で窒化ケイ素の分解を抑制できる条件下で焼成することが必要であり、窒素ガス圧焼結や熱間静水圧焼結法など、周知の焼成方法による。焼結温度としては、その組成によるが、1600〜2000℃の温度範囲で、相対密度97%以上が達成されるように焼成する。
【0029】
以上のようにして作製される誘電体材料は、2GHzと3GHzでの高周波での誘電損失が2×10−4以下で、熱伝導率が90W・m−1・K−1以上の緻密な焼結体である。したがって、本発明の誘電体材料は、例えば、半導体製造工程などにおいて、2.45GHzでの高周波を用いてプラズマを発生させて処理を行う装置内での使用に適した材料であり、該材料を用いることで、高周波を十分に透過できるのみならず、処理材の温度分布が平坦化されて均一な反応が促進されることから、製品の歩留まりの向上が図れる。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)2GHzと3GHzにおける誘電損失が2×10−4以下で、かつ熱伝導率が90W・m−1・K−1以上である高熱伝導・低誘電損失の高周波用低損失緻密質誘電体材料を提供することができる。
(2)本発明の誘電体材料は、例えば、半導体製造工程などにおいて、2.45GHzでの高周波を用いてプラズマを発生させて処理を行う装置内で好適に使用される。
(3)本発明の誘電体材料を用いることで、高周波を十分に透過できるのみならず、処理材の温度分布が平坦化されて均一な反応が促進され、製品の歩留まりの向上が図れる。
(4)誘電体材料では、熱伝導率が高いことから、耐熱衝撃性に優れることが一般に予想されるが、本発明の誘電体材料を用いることで、耐熱衝撃性が改善され、部材の長寿命化や、急速な昇温や降温といったより苛酷な条件下での利用が可能となる。
(5)本発明の誘電体材料は、機械的特性に優れる窒化ケイ素を主成分とすることから、本発明の誘電体材料を用いることで、機械的特性が改善され、薄肉の部材でも強度を維持できるようになり、それにより、部材の軽量化を図ることができる。
(6)本発明の製造方法によれば、製造コストのかさむホットプレス焼結を使わないでガス圧焼結のみで誘電体材を製造でき、粒界ガラス相の結晶化のための熱処理工程が不要であることから、製造コストの低減を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
原料として、イミド分解法にて製造されたα率95%以上の高純度窒化ケイ素原料(遷移金属不純物総量100ppm以下)と、周期律表第3a族酸化物として、純度99.9%以上の微粉のYbを使用した。Yb粉末の添加量は、表1に示すように、0.5,1,2,3,5,7モル%の5水準とした。これらの組成となるように粉末を秤量した後、窒化ケイ素製ポットに入れ、窒化ケイ素製のボールとメタノール溶媒を用いて、回転数280rpmの遊星ボールミルにて1時間湿式混合した。
【0033】
得られたスラリーを、なすフラスコに移し替え、ロータリーエバポレーターで約30分乾燥させ、その後、110℃の真空乾燥器内で24時間乾燥させた。次いで、メッシュ#60の篩がけを行った。得られた粉末をゴム袋に充填して、441MPa(4.5ton/cm)の静水圧プレスにより、直径13mmで長さ約100mmの円柱形状に成形し、焼成用試料とした。
【0034】
比較として、118MPa(1.2ton/cm)の静水圧プレスを用いた成形体も作製し、焼成した。成形体の相対密度は、組成にもよるが、プレス圧力118MPaの場合は47〜50%であったが、プレス圧力441MPaの場合は52〜57%であり、プレス圧力118MPaの成形体に比べて、明らかに上昇していた。
【0035】
BNの詰め粉を敷き詰めたBN製の焼成るつぼに、焼成用試料を埋没させ、このるつぼを黒鉛抵抗炉にセットした。焼成は、9気圧窒素中で1900℃、3時間行って焼結体を作製した。
【0036】
得られた焼結体を切断し、平面研削により、誘電特性測定用試料として、1.5mm×1.5mm×75mmの細長い角柱に加工した。また、円筒研削などを用いて、熱伝導率測定用試料として、直径9mmで厚さ3mmのペレット試料を作製した。各試料から2〜3個の測定試料をそれぞれ作製した。
【0037】
これらの試料を用いて、アルキメデス法により、かさ密度を求めた。添加したYbとSiOがそのままの相で残っているものとして、添加した助剤量から計算した理論密度でかさ密度を除することにより、相対密度を算出した。
【0038】
誘電損失の測定は、試料を十分に乾燥させた後に、円筒空洞共振器を用いた摂動法により、2GHzと3GHzの共振周波数にて測定した。熱伝導率は、ペレット試料表面をイオンスパッタ装置で金コーティングした後に、カーボンスプレーでカーボンを被覆して、レーザーフラッシュ法により測定した。
【0039】
いずれの測定においても、ひとつのサンプルについて、3回測定を繰り返し、3回の測定値の平均を求めた。そして、各試料の測定値は、2〜3サンプルの平均値を用いた。ただし、静水圧プレス圧力を118MPaとして成形後、焼結した試料で、相対密度が90%以下の緻密化が不十分な試料については、測定をしなかった。
【0040】
X線回折により、窒化ケイ素結晶相以外の結晶相の同定を行った。静水圧プレス圧力を441MPaとして成形し、焼結した試料中心部から切出した試料をICP分析し、Yb量を定量し、Ybの重量%に換算した。以上の結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から明らかなように、静水圧プレス圧力が441MPaの試料は、プレス圧力が118MPaの試料に比べて、いずれの組成においても高い相対密度を示した。特に、Yb/SiO比が0.5以上の試料No.4、5、6の試料において、プレス圧力を441MPaとすることにより、10%程度の著しい緻密化促進効果が見られ、Yb添加量が7モル%のNo.12の試料においては、相対密度97%以上の緻密体が得られた。
【0043】
焼結体のICP発光分析で得られたYb元素の存在量を酸化物換算の重量%で表した表1の値(Yb含有量)は、Yb添加量から計算される値にほぼ等しく、添加したYb元素がほぼ残っていることが確認された。
【0044】
各試料の誘電損失を見ると、Yb添加量が最も少ない試料No.1、7の誘電損失が1〜2×10−4と小さいが、Yb添加量が1、2モル%と増加するに伴い、誘電損失は徐々に増加する傾向を示した。
【0045】
しかし、Yb添加量が3、5モル%と増加すると、誘電損失は減少傾向を示し、Yb添加量が7モル%の試料No.12の場合、2×10−4以下の誘電損失が達成された。熱伝導率はYb/SiOの増加に従い単調に増加し、Yb添加量が7モル%の場合において、90W・m−1・K−1以上の高い熱伝導率を得ることができた。尚、他の周期律表第3a族元素化合物を用いた場合についても同様の結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上詳述したとおり、本発明は、高周波用低損失誘電体材料、その製造方法及び部材に係るものであり、本発明により、2GHzと3GHzの高周波でも誘電損失が2×10−4以下の優れた特性を示すと同時に、高い熱伝導を有する低損失緻密質誘電体材料を提供することができる。本発明の高周波用低損失誘電体材料を用いることで、温度分布が均一で処理反応の均一性を保障することができ、ひいては半導体などの製品の歩留まりの向上に貢献することができる。本発明は、2GHzと3GHzにおける誘電損失が2×10−4以下で、かつ熱伝導率が90W・m−1・K−1以上である高熱伝導・低誘電損失の高周波用低損失緻密質誘電体材料及びその部材を提供するものとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素を主体とし、周期律表第3a族元素化合物、不純物的酸素を含有する窒化ケイ素質焼結体からなり、相対密度97%以上の緻密な焼結体であり、2GHzと3GHzにおける誘電損失が2×10−4より低く、かつ熱伝導率が90W・m−1・K−1より高いことを特徴とする高周波用低損失誘電体材料。
【請求項2】
焼結体中に含有される周期律表第3a族元素化合物(RE)の割合が、酸化物換算(RE)で少なくとも16重量%であり、酸窒化ケイ素化合物結晶相を含有する、請求項1に記載の高周波用低損失誘電体材料。
【請求項3】
酸窒化ケイ素化合物が、RESi7で示される化合物である、請求項2に記載の高周波用低損失誘電体材料。
【請求項4】
焼結体中に含有される周期律表第3a族元素が、Yb、Y、Dy、Er、Tm、Lu又はScである、請求項1に記載の高周波用低損失誘電体材料。
【請求項5】
焼結体中の粒界相が主にRE−Si−O−N化合物からなり、結晶化している、請求項1に記載の高周波用低損失誘電体材料。
【請求項6】
Al含有量が、酸化物換算(Al)で0.1重量%以下である、請求項1に記載の高周波用低損失誘電体材料。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の高周波用低損失誘電体材料からなる部材であって、電気部品の製造装置に適用される高周波透過用部材であることを特徴とする高周波透過用部材。
【請求項8】
部材が、半導体製造装置、又は液晶製造装置に適用される高周波透過用部材である、請求項7に記載の高周波透過用部材。
【請求項9】
請求項1に記載の材料を製造する方法であって、周期律表第3a族元素化合物の存在量が、酸化物換算で少なくとも7モル%であり、酸化ケイ素(SiO)とのモル比(RE/SiO)が、1.0〜1.5の範囲にある出発原料を用いて、成形、焼成することを特徴とする高周波用低損失誘電体材料の製造方法。
【請求項10】
少なくとも400MPaの静水圧プレス成形により、52%以上の相対密度を有する成形体を作製し、これを焼成する、請求項9に記載の高周波用低損失誘電体材料の製造方法。

【公開番号】特開2009−12994(P2009−12994A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174664(P2007−174664)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】