説明

高周波用誘電体磁器並びにその製造方法およびそれを用いた高周波回路素子

【課題】 高周波領域での電気特性に優れ製造が容易な高周波用誘電体磁器およびその製造方法を提供する。また、そのような高周波用誘電体磁器を構成部材として用いた電気特性に優れた高周波回路素子を提供する
【解決手段】 組成式
a(Sn,Ti)O−bMgSiO−cMgTi−dMgSiO
で表され、前記組成式におけるa、b、c、及びd(ただし、a、b、c、及びdはモル%である)がそれぞれ4≦a≦37、34≦b≦92、2≦c≦15、及び2≦d≦15の範囲内にあり、ここでa+b+c+d=100である主成分と、ZrOからなる添加成分とを含んでなり、該添加成分は前記主成分100重量部に対して3.0〜12.0重量部添加されていることを特徴とする高周波用誘電体磁器ならびに、それを構成部材とする高周波回路素子

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波及びミリ波等の高周波域で使用される高周波回路素子を構成する部材として好適な高周波用誘電体磁器に関する。このような高周波用誘電体磁器の例としては、例えば、誘電体共振器、誘電体導波路および誘電体アンテナなどの構成部材である誘電体ブロックや誘電体基板、さらには各種高周波回路素子において使用される基板及び支持部材などが挙げられる。高周波回路素子は、例えば、高周波域の通信機器などの電子装置を構成する。
【背景技術】
【0002】
誘電体共振器の最も基本的なものとして、同軸誘電体共振器が挙げられる。この同軸誘電体共振器では、誘電体磁器からなるブロックに貫通孔を設け、該貫通孔が開口するブロックの一面(開放面)だけは誘電体磁器の表面そのままの状態とし、誘電体磁器の他の表面及び貫通孔内面には導体膜を形成している。
【0003】
また、平面型高周波回路素子である誘電体導波路の最も基本的なものとして、マイクロストリップ線路が挙げられる。このマイクロストリップ線路では、誘電体磁器基板の表裏両面のうち一方の面にストリップ導体を設け、誘電体磁器基板の他方の面に接地導体膜を設けている。
【0004】
以上の同軸誘電体共振器およびマイクロストリップ線路を用いて誘電体共振器制御型マイクロ波発信器を構成することができる。このマイクロ波発信器では、同軸誘電体共振器を誘電体磁器からなる支持部材を介して誘電体磁器基板に取り付け、同軸誘電体共振器の外部に漏れ出る電磁界を利用して、同軸誘電体共振器と誘電体磁器基板に設けたマイクロストリップ線路との結合をとる。
【0005】
この種の高周波回路においては、電界が支持部材を介して漏れるのを抑制することによって、無負荷Qの高い共振系が構成される。このため、支持部材の材料としては、比誘電率が低く誘電損失(tanδ)が小さい(すなわちQm×f。が大きい:ここでQmは材料の損失係数)ものを使用する必要がある。このため、従来、支持部材の材料としては、比誘電率εrが約7で、Qm×f。が約150000GHzのフォルステライト(MgSiO)が採用されていた。また、誘電体磁器基板の材料としては、主として比誘電率εrが約10で、Qm×f。が200000GHz以上のアルミナ磁器(Al)が採用されていた(例えば、特許文献1参照)。しかし、これらの材料では、共振周波数の温度係数τが−30〜−70ppm/℃となりやすいため、高周波回路の用途が制限されている。また、これら材料は不純物が混入すると、生成相の構成及び電気特性が大きく変動する等の問題がある。
【0006】
また、フォルステライト(MgSiO)に酸化チタン(TiO)を加えた誘電体磁器組成物(非特許文献1参照)が提案されている。しかし、この誘電体磁器組成物では、酸化チタン(TiO)の添加とともに共振周波数の温度係数τが徐々にプラス側へシフトしているものの、酸化チタン30wt%添加でも共振周波数の温度係数τが−62ppm/℃と負で大きい値であるため、これに基づく誘電体磁器は実用的ではない。
【0007】
一方、誘電体導波路を構成する誘電体磁器基板の材料としては、一般的にはテフロン(登録商標)、アルミナ磁器(Al)が採用されている。しかし、これらの材料は共振周波数の温度係数τが−30〜−70ppm/℃となりやすいため、高周波回路の用途が制限されている。
【0008】
また、比誘電率εr=24、Qm×f。=350000GHz、共振周波数の温度係数τ=0ppm/℃の誘電体を平面型フィルタに適用した開発例(非特許文献2)があるが、今後の更なる高周波化の要請に対応するためには、やはり比誘電率εrが約12以下で、Qm×f。が50000GHz以上で、しかも共振周波数f。の温度係数τの絶対値が30ppm/℃以下であることが必要である。
【0009】
また、高周波領域になるほど、表皮効果の影響が大きくなり、例えば、導体としてAgを用いた場合には、1〜3GHzの領域で、表皮深さは1.18〜2.04μmとなる(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62−103904号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Journal of the European Ceramic Society(第23巻(2003)第2575頁、表3参照)
【非特許文献2】A Ka−band Diplexer Using Planar TE Mode Dielectric Resonators with Plastic Package(Metamorphosis,No.6,pp.38−39(2001))
【非特許文献3】理科年表 平成19年度版
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のような従来の高周波用誘電体磁器が有する技術的課題に鑑みて、本発明者らは、誘電体磁器の組成を適切なものにすること、および、誘電体磁器の相対密度を適切なものとすることにより、高周波領域の電気特性が優れたものになり製造が容易になるという知見を得た。そして、本発明はこの知見に基づいてなされたものである。
【0013】
すなわち、本発明の目的は、高周波領域での電気特性に優れ製造が容易な高周波用誘電体磁器およびその製造方法を提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、そのような高周波用誘電体磁器を構成部材として用いた高周波回路素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明によれば、以上の如き目的のうちのいずれかを達成するものとして、組成式
a(Sn,Ti)O−bMgSiO−cMgTi−dMgSiO
で表され、前記組成式におけるa、b、c、及びd(ただし、a、b、c、及びdはモル%である)がそれぞれ4≦a≦37、34≦b≦92、2≦c≦15、及び2≦d≦15の範囲内にあり、ここでa+b+c+d=100である主成分と、ZrOからなる添加成分とを含んでなり、該添加成分は前記主成分100重量部に対して3.0〜12.0重量部添加されていることを特徴とする高周波用誘電体磁器、が提供される。
【0016】
本発明の一態様においては、相対密度が95%以上であり、前記高周波用誘電体磁器は、比誘電率εrが7.5〜12.0であり、Qm×f。値が50000GHz以上であり、共振周波数f。の温度係数τが−20〜+20ppm/℃である。
【0017】
また、本発明によれば、以上の如き目的のうちのいずれかを達成するものとして、上記の高周波用誘電体磁器を製造する方法であって、SnO、TiO及びMgSiOの所定量を混合し仮焼した後に粉砕したものを出発原料として用い、該出発原料100重量部に対してZrOを焼結助剤として3.0〜12.0重量部添加して得られた粉末に有機バインダを添加して成形し、焼成することを特徴とする、高周波用誘電体磁器の製造方法、が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、以上の如き目的のうちのいずれかを達成するものとして、上記の高周波用誘電体磁器からなる部材を含むことを特徴とする高周波回路素子、が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高周波領域での電気特性に優れ製造が容易な高周波用誘電体磁器が提供され、とくに、比誘電率εrが7.5〜12.0であり、Qm×f。値が十分に大きく、さらに共振周波数f。の温度係数τの絶対値が30ppm/℃以下であり、比較的低い温度で焼成可能な高周波用誘電体磁器が提供される。この高周波用誘電体磁器を構成部材として用いることで、特性が良好で良好な加工性と小型化容易性との両方の特長を備えた高周波回路素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】高周波回路素子の一例である誘電体共振器制御型マイクロ波発信器の模式的断面図である。
【図2】高周波回路素子の一例である同軸誘電体共振器の模式的斜視図である。
【図3】高周波回路素子の一例であるマイクロストリップ線路の模式的斜視図である。
【図4】平面型高周波回路素子を構成する種々のマイクロストリップ線路のパターンを示す模式的平面図である。
【図5】本発明の高周波用誘電体磁器のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の高周波用誘電体磁器の主成分は、組成式a(Sn,Ti)O−bMg2Si
O4−cMgTi−dMgSiOで表され、前記組成式におけるa、b、c、及
びd(ただし、a、b、c、及びdはモル%である)がそれぞれ4≦a≦37、34≦b
≦92、2≦c≦15、及び2≦d≦15の範囲内にあり、ここでa+b+c+d=10
0である。本発明の高周波用誘電体磁器の添加成分は、ZrOからなる。この添加成分主成分100重量部に対して3.0〜12.0重量部添加されている。
【0022】
本発明の高周波用誘電体磁器は、とくに、図5のX線回折図に示されるように、チタン酸スズ((Sn,Ti)O)、フォルステライト(MgSiO)、マグネシウムチタネート(MgTi)、及びステアタイト(MgSiO)を主生成相とする。前記(Sn,Ti)Oとしては、(Sn0.8Ti0.2)O及び(Sn0.2Ti0.8)Oが知られている。このうち(Sn0.8Ti0.2)Oは、(Sn0.2Ti0.8)Oよりも、焼結が容易で、且つτも制御しやすい特徴がある。尚、図5では、主生成相のみ表れており、添加成分ZrOは微量であるため表れていない。
【0023】
本発明の高周波用誘電体磁器は、Qm×f。が50000GHz以上と高い値を示すことから、誘電損失が非常に小さい高周波用誘電体磁器及びこれを用いた高周波回路素子の提供が容易になる。また、本発明の高周波用誘電体磁器は、共振周波数の温度係数τの絶対値が20ppm/℃以下であることから、温度による特性への影響の少ない高周波用誘電体磁器及びこれを用いた高周波回路素子の提供が容易になる。しかも、本発明の高周波用誘電体磁器は、比誘電率εrが7.5〜12.0であることから、加工性の向上と小型化との両方の特長を備えた高周波回路素子の提供が容易になる。
【0024】
さらに、本発明の高周波用誘電体磁器は、添加成分ZrOの添加量が主成分100重量部に対して3.0〜12.0重量部であり且つ相対密度が95%以上であるため、上記Qm×f。、τ及びεrに関する特性が良好であり且つ製造時の焼成に際して接触するジルコニア(ZrO)やアルミナ(Al)などからなる敷板と反応することなく高い歩留まりで製造される。従って、高周波回路素子の提供が容易になる。このような高周波回路素子の一例として、図2に示されるような同軸誘電体共振器が挙げられる。ここでは、外形寸法10.6mm×10.6mm×12mm(軸長)の誘電体磁器のブロックに、軸長方向に沿って穴径3mmの円筒形貫通孔を設け、該貫通孔が開口するブロックの一面(開放面)だけは誘電体磁器の表面(セラミックス面)そのままの状態とし、誘電体磁器の他の表面及び貫通孔内面にはAg導体からなる導体膜を形成している。
【0025】
本発明の高周波用誘電体磁器における組成の限定理由を説明する。主成分の組成式a(Sn,Ti)O−bMgSiO−cMgTi−dMgSiOにおいて、aが4未満では、共振周波数の温度係数τが−30ppm/℃より小さくなり(すなわち、温度係数τの絶対値が30ppm/℃より大きくなり)、好ましくない。aが37を超えると、比誘電率εrが12.0より大きくなり、好ましくない。aのより好ましい範囲は、18≦a≦36である。この範囲内であれば、共振周波数の温度係数τの絶対値が20ppm/℃以下となる。bが34未満では、比誘電率εrが12.0より大きくなり、好ましくない。bが92を超えると、共振周波数の温度係数τが−30ppm/℃より小さくなり(すなわち、温度係数τの絶対値が30ppm/℃より大きくなり)、好ましくない。bのより好ましい範囲は、34≦b≦68である。この範囲であれば、共振周波数の温度係数τの絶対値が30ppm/℃以下となる。cが2未満では、共振周波数の温度係数τが−30ppm/℃より小さくなり(すなわち、温度係数τの絶対値が30ppm/℃より大きくなり)、好ましくない。cが15を超えると、比誘電率εrが12.0より大きくなり、好ましくない。dが2未満では、共振周波数の温度係数τが−30ppm/℃より小さくなり(すなわち、温度係数τの絶対値が30ppm/℃より大きくなり)、好ましくない。dが15を超えると、比誘電率εrが12.0より大きくなり好ましくない。
【0026】
後述の実施例で示されるように、本発明の高周波用誘電体磁器における組成範囲内で主成分の組成式におけるモル比a、b、c及びdを適宜変更することで、共振周波数f。の温度係数τの絶対値が30ppm/℃以下すなわちτが零に近い範囲内で十分大きなQm値を実現しつつ、比誘電率εrを7.5〜12.0の範囲の所望値に調整することが可能である。
【0027】
また、主成分100重量部に対する添加成分ZrOの添加量が3.0重量部未満では、1350℃以下とくに1300℃以下の比較的低温の焼成で相対密度を95%以上とすることが難しく、良好なQm×f。値が得難くなるので、好ましくない。一方、主成分100重量部に対する添加成分ZrOの添加量が12.0重量部を超えると、良好なQm×f。値及びεrが得難くなり、且つ共振周波数の温度係数τが−30ppm/℃より小さくなり(すなわち、温度係数τの絶対値が30ppm/℃より大きくなり)、好ましくない。
【0028】
本発明の高周波用誘電体磁器の製造方法の一実施形態は次の通りである。SnO、TiO、及びMgSiOを所定量ずつ、アルコール等の溶媒とともに湿式混合する。続いて溶媒を除去した後、1000〜1150℃で仮焼して粉砕し、出発原料粉末を得る。
【0029】
この出発原料粉末に、ZrOを焼結助剤として所定量添加して、アルコール等の溶媒とともに湿式混合する。続いて溶媒を除去して得られた粉末にポリビニルアルコールの如き有機バインダを添加し、混合して均質にし、乾燥、解砕した後、成形密度が2.0〜2.4g/cm、好ましくは2.2〜2.4g/cmになるように加圧成形する。得られた成形物を空気の如き酸素含有ガス雰囲気下にて1200〜1350℃で焼成することにより上記組成式で表される主成分とZrOからなる添加成分とを含み、該添加成分が前記主成分100重量部に対して3.0〜12.0重量部添加されており、相対密度が95%以上である高周波用誘電体磁器を得ることができる。
【0030】
後述の実施例で示されるように、SnO及びTiOを当モル量用いることができる。この場合、とくに、前記生成相(Sn,Ti)Oは、(Sn0.8Ti0.2)Oであることが好ましい。
【0031】
このようにして得られた高周波用誘電体磁器は、必要により適当な形状およびサイズに加工することができる。
【0032】
本発明の高周波用誘電体磁器は、例えば、外部に銀や銅等の導体からなる膜または配線などを形成することにより、図2のような同軸型誘電体共振器やこれを利用した同軸型誘電体フィルタ等の高周波回路素子を構成するのに利用することが可能である。本発明の高周波用誘電体磁器であって板状のものは、銀や銅等の導体配線を形成することにより、各種高周波回路のための誘電体配線基板として利用することができる。
【0033】
また、出発原料粉末にZrOを焼結助剤として所定量添加し、低融点ガラスを添加し、その後ポリビニルブチラール等のバインダ樹脂、フタル酸ジブチル等の可塑剤、及びトルエン等の有機溶剤と混合し、ドクターブレード法等によるシート成形を行い、得られたシートと導体シートとを積層化し、一体焼成することにより、積層型誘電体フィルタや積層型の誘電体配線基板等の積層型の高周波回路素子を得ることができる。
【0034】
なお、本発明の高周波用誘電体磁器を構成する元素であるSn、Mg、Si、及びTi、並びにZrOの原料としては、SnO、TiO、MgSiO、ZrOの他に、MgO、SiO等の酸化物を用いることもでき、さらには焼成時に酸化物となる硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、塩化物、有機金属化合物等を使用することもできる。
【0035】
なお、本発明の高周波用誘電体磁器は、その構成元素がO、Sn、Mg、Si、及びTi、並びにZrであるが、例えば粉砕ボールや原料粉末の不純物に由来するCa、Ba、Ni、Fe、Cr、P、Na等が不純物として混入してもよい。
【0036】
また、本発明の高周波用誘電体磁器は、低誘電率および高Qm値が求められるものであれば、種々の高周波回路素子の構成部材として使用できる。そのような例の1つとして、図1に示されるような誘電体共振器制御型マイクロ波発信器における構成部材が挙げられる。このマイクロ波発信器では、同軸誘電体共振器1を誘電体磁器からなる支持部材2を介して誘電体磁器基板3に取り付け、同軸誘電体共振器1の外部に漏れ出る電磁界Hを利用して、同軸誘電体共振器1と誘電体磁器基板3に設けたマイクロストリップ線路のストリップ導体4との結合をとる。符号5は、電磁シールド機能を発揮する金属ケースを示す。このマイクロ波発信器において、本発明の高周波用誘電体磁器は、図2に関し説明したような同軸誘電体共振器1の誘電体ブロックとして、支持部材2として、さらには誘電体磁器基板3として、それぞれ使用することができる。図3に、マイクロストリップ線路の詳細を示す。マイクロストリップ線路では、誘電体磁器基板6(上記誘電体磁器基板3に相当)の表面にストリップ導体7を設け、誘電体磁器基板6の裏面に接地導体膜8を設けている。ストリップ導体7の材料としては、Pd、Cu、Au、Agが例示される。
【0037】
本発明の高周波用誘電体磁器が構成部材として使用される高周波回路素子の他の例としては、図4の(a)〜(i)にそれぞれ示されるような平面型高周波回路素子が挙げられる。これらの平面型高周波回路素子9は、マイクロストリップ線路と同様に、誘電体磁器基板6の表面にストリップ導体7を設け、誘電体磁器基板6の裏面に接地導体膜を設けている。誘電体磁器基板6の表面には、ストリップ導体7と同一の材料により、各種パターン状の導体膜が形成されており、該導体膜によりそれぞれの素子の機能を発揮する。図4において、(a)の素子はインタディジタルキャパシタであり、(b)の素子はスパイラルインダクタであり、(c)の素子は分岐回路であり、(d)の素子は方向性結合器であり、(e)の素子は電力分配合成器であり、(f)の素子は低域通過フィルタであり、(g)の素子は帯域通過フィルタであり、(h)の素子はリング共振器であり、(i)の素子はパッチアンテナである。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例により、本発明を更に説明する。
【0039】
[実施例1]
SnOを4.8mol%、TiOを4.8mol%、MgSiOを90.5mol%となるように所定量を秤量し(表1参照)、これらをエタノール及びZrOボールとともにボールミルに入れ、12時間湿式混合した。その後、溶液を脱媒後、1100℃で2時間仮焼し、粉砕した。この仮焼粉を出発原料として用い、仮焼粉100重量部に対して3.0重量部のZrOを添加し、これらをエタノール及びZrOボールとともにボールミルに入れ、12時間湿式混合した。その後、溶液を脱媒し、更に適量のポリビニルアルコール(PVA)溶液を加えて乾燥した後、直径20mm、厚み8.2mmのペレットに成形し、空気雰囲気下において、1250℃で2時間焼成した。
【0040】
こうして得られた高周波用誘電体磁器(表1参照)につき、アルキメデス法を用いて相
対密度を測定したところ、96%であった。
【0041】
更に、この高周波用誘電体磁器を、直径16.7mm及び厚み7.8mmの大きさに加工した後、誘電共振法による測定で、共振周波数5.9〜6.5GHzにおけるQm×f。値、比誘電率εr、および共振周波数の温度係数τを求めた。その結果を表1に示す。
【0042】
得られた高周波用誘電体磁器についてX線回折分析を行ったところ、図5に示されるように、主生成相はチタン酸スズ((Sn0.8Ti0.2)O)、フォルステライト(MgSiO)、マグネシウムチタネート(MgTi)、及びステアタイト(MgSiO)の結晶相から構成されていることが確認された。また、得られた高周波用誘電体磁器について蛍光X線分析を行ったところ、ZrOの存在が確認された。
【0043】
一方、上記の出発原料粉末100重量部に対して、ZrOを焼結助剤として3.0重量部添加し、更にPVA2.75重量部、セロゾール1重量部、及び分散剤1重量部を添加してスプレー顆粒を作製した。このスプレー顆粒を用いて、グリーン密度が2.3g/cmになるように成形し、その後1250℃×2時間の空気雰囲気条件下で焼成した。かくして得られた高周波用誘電体磁器を構成部材として用いて、図2に示されるような同軸誘電体共振器を作製した。該同軸誘電体共振器の大きさは、軸長12mm、外形(大略矩形状の開放面の一辺の長さ)10.6mm、穴径3mmであった。
【0044】
得られた同軸誘電体共振器について、共振周波数2GHzで無負荷Q値を評価した。その結果、同軸誘電体共振器としての無負荷Q値は1250であった。このように、本発明に係る高周波用誘電体磁器を使用することにより、優れた高周波特性を有する同軸誘電体共振器が得られた。
【0045】
[実施例2〜18]
SnO、TiO、及びMgSiOを表1に示した配合比になるように所定量を秤量し、実施例1と同条件で混合し、仮焼し、粉砕した。この仮焼粉を出発原料として用い、表1に示した配合量になるようにZrOを所定量秤量して混合し、実施例1と同様にしてバインダ添加及び成形などを行い、空気雰囲気下において表1に示されるような温度にて2時間焼成して、高周波用誘電体磁器を作製し、実施例1と同様な方法で特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0046】
[比較例1〜12]
SnO、TiO、及びMgSiOを表1に示した配合比になるように所定量を秤量し、実施例1と同条件で混合し、仮焼し、粉砕した。この仮焼粉を出発原料として用い、表2に示した配合量になるようにZrOを所定量秤量して混合し、実施例1と同様にしてバインダ添加及び成形を行い、空気雰囲気下において表2に示されるような温度にて2時間焼成して、高周波用誘電体磁器を作製し、実施例1と同様な方法で特性を評価した。その結果を表2に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明の高周波用誘電体磁器は、低誘電率且つ高Q値であり温度特性に優れるため、例えば、マイクロ波及びミリ波などの高周波領域で使用される集積回路等の高周波回路素子の構成部材として最適である。
【符号の説明】
【0050】
1・・・同軸誘電体共振器
2・・・支持部材
3・・・誘電体磁器基板
4・・・ストリップ導体
5・・・金属ケース
H・・・電磁界
6・・・誘電体磁器基板
7・・・ストリップ導体
8・・・接地導体膜
9・・・平面高周波回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式a(Sn,Ti)O−bMgSiO−cMgTi−dMgSiOで表され、前記組成式におけるa、b、c、及びd(ただし、a、b、c、及びdはモル%である)がそれぞれ4≦a≦37、34≦b≦92、2≦c≦15、及び2≦d≦15の範囲内にあり、ここでa+b+c+d=100である主成分と、ZrOからなる添加成分とを含んでなり、該添加成分は前記主成分100重量部に対して3.0〜12.0重量部添加されていることを特徴とする高周波用誘電体磁器。
【請求項2】
前記高周波用誘電体磁器は、相対密度が95%以上であり、比誘電率εが7.5〜12.0であり、Qm×f。値が50000GHz以上であり、共振周波数f。の温度係数τが−30〜+30ppm/℃であることを特徴とする請求項1に記載の高周波用誘電体磁器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高周波用誘電体磁器を製造する方法であって、SnO、TiO及びMgSiOの所定量を混合し仮焼した後に粉砕したものを出発原料として用い、該出発原料100重量部に対してZrOを焼結助剤として3.0〜12.0重量部添加して得られた粉末に有機バインダを添加して成形し、焼成することを特徴とする高周波用誘電体磁器の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の高周波用誘電体磁器からなる部材を含むことを特徴とする高周波回路素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−162419(P2011−162419A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29619(P2010−29619)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】