説明

高周波部品のSパラメータを補正する方法、及び高周波部品を搭載したモジュールの特性算出方法

【課題】簡単な作業のみで高周波部品のSパラメータを補正することができる高周波部品のSパラメータを補正する方法、及び補正したSパラメータに基づいて高周波部品を搭載したモジュールの特性算出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】全ての第1端子及び第2端子からの入射波に基づく反射波及び通過波を測定して高周波部品2のSパラメータである第1パラメータを取得する第1ステップと、第2端子を終端状態として、全ての第1端子からの入射波に基づく反射波及び通過波を測定して高周波部品2のSパラメータである第2パラメータを取得する第2ステップと、第1ステップで取得した第1パラメータの第1端子に関する各要素を、第2ステップで取得した第2パラメータの対応する各要素に基づいて補正する第3ステップとを含む。また、補正したSパラメータに基づいて高周波部品2をモジュール基板に実装したモジュールの高周波特性を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波部品のSパラメータを補正する方法、及び補正した高周波部品のSパラメータに基づく高周波部品を搭載したモジュールの特性算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無線通信等の普及により、高周波部品を搭載したモジュールを組み込んだ様々な機器が開発されている。機器の開発には、モジュールの高周波特性を算出するシミュレーションを行って所望の高周波特性を有するように(高周波部品を搭載した)モジュールを設計し、設計したモジュールを実際に製造して、製造したモジュールが所望の高周波特性を有しているか否かを評価する作業工程が必要である。
【0003】
しかし、モジュールの高周波特性を算出するシミュレーションの精度が悪い場合、シミュレーションを行って所望の高周波特性を有するようにモジュールを設計した場合であっても、実際に製造したモジュールの高周波特性と、所望の高周波特性とが一致せず、モジュールの設計を変更し、モジュールを製造する作業工程を繰り返す必要があった。そのため、シミュレーション等を行って算出したモジュールの高周波特性と、実際に製造したモジュールの高周波特性とが略一致するように、シミュレーションの精度を高くする必要があった。モジュールの高周波特性を算出するシミュレーションは、高周波部品のSパラメータと、高周波部品を実装するモジュール基板の回路特性とに基づいてモジュールの高周波特性を算出することが知られている。そのため、モジュールの高周波特性を算出するシミュレーションの精度を高くするには、不要な成分を含まない高周波部品のSパラメータ、及び高周波部品を実装するモジュール基板の回路特性を取得する必要がある。
【0004】
高周波部品のSパラメータを精度よく補正する方法が、特許文献1に開示してある。特許文献1に開示してある方法は、測定器(ネットワークアナライザ)で測定した高周波部品のSパラメータから、高周波部品の端子から測定器の測定ポートまでの配線で生じる誤差(例えば、配線抵抗により高周波信号が減衰することによる誤差)、及び高周波が無反射となるようにした端子の状態(端子の終端状態)により生じる誤差(例えば、端子から反射した高周波信号による誤差)を取り除いて、不要な成分を含まない高周波部品のSパラメータを取得することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−88844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示してある方法は、高周波部品の端子から測定器の測定ポートまでの配線で生じる誤差、及び端子の終端状態により生じる誤差を算出するために、誤差の測定用に既知の長さの配線を別途用意し、用意した配線を複数回測定する必要がある。特に、端子の終端状態により生じる誤差を算出するためには、端子を終端状態にするために取り付ける各無反射終端器と測定器の測定ポートとの間に配線を挿入して、それぞれの無反射終端器のSパラメータを正確に測定する必要がある。そのため、特許文献1に開示してある方法では、高周波部品のSパラメータを測定する以外に、さまざまな測定を行う必要があり作業が非常に煩雑であるという問題があった。
【0007】
また、高周波部品の中にはフィルタ等のグランド端子を備えた部品も多くあり、高周波部品はモジュール基板に実装され、高周波部品側のグランド端子とモジュール基板側のグランド端子とが配線電極で接続されている。高周波部品とモジュール基板とを接続する配線電極は、長さや形状に応じたインピーダンスを有し、高周波部品単体での高周波特性と、モジュール基板に実装されたときの高周波特性とが異なるという問題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡単な作業のみで高周波部品のSパラメータを補正することができる高周波部品のSパラメータを補正する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、補正した高周波部品のSパラメータに基づいて、高周波部品をモジュール基板に実装したモジュールの高周波特性を算出することができる高周波部品を搭載したモジュールの特性算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために第1発明に係る高周波部品のSパラメータを補正する方法は、高周波信号の入出力を行う少なくとも一つの第1端子と、前記第1端子以外の少なくとも一つの第2端子とを有する高周波部品のSパラメータを補正する方法であって、全ての前記第1端子及び前記第2端子からの入射波に基づく反射波及び通過波を測定して前記高周波部品のSパラメータである第1パラメータを取得する第1ステップと、前記第2端子を終端状態として、全ての前記第1端子からの入射波に基づく反射波及び通過波を測定して前記高周波部品のSパラメータである第2パラメータを取得する第2ステップと、前記第1ステップで取得した前記第1パラメータの前記第1端子に関する各要素を、前記第2ステップで取得した前記第2パラメータの対応する各要素に基づいて補正する第3ステップとを含む。
【0010】
また、第2発明に係る高周波部品のSパラメータを補正する方法は、第1発明において、前記第1ステップでは、前記第1端子又は前記第2端子から測定器の測定ポートまでの配線に生じる誤差を補正した前記第1パラメータを取得し、前記第2ステップでは、前記第1端子から前記測定器の測定ポートまでの配線に生じる誤差を補正した前記第2パラメータを取得する。
【0011】
また、第3発明に係る高周波部品のSパラメータを補正する方法は、第1発明において、前記第3ステップで補正した前記第1パラメータに対して、前記第1端子又は前記第2端子から測定器の測定ポートまでの配線に生じる誤差を補正する第4ステップをさらに含む。
【0012】
また、第4発明に係る高周波部品のSパラメータを補正する方法は、第1乃至第3発明のいずれか一つにおいて、前記第3ステップは、前記第1ステップで取得した前記第1パラメータの前記第1端子に関する各要素を、前記第2ステップで取得した前記第2パラメータの対応する各要素に合わせる。
【0013】
また、第5発明に係る高周波部品のSパラメータを補正する方法は、第1乃至第4発明のいずれか一つにおいて、前記第2端子は、少なくとも一つのグランド端子を含む。
【0014】
上記目的を達成するために第6発明に係る高周波部品を搭載したモジュールの特性算出方法は、第1乃至第5発明のいずれか一つの方法で補正した前記高周波部品のSパラメータと、前記高周波部品を実装するモジュール基板の回路動作をシミュレーションして算出した前記モジュール基板の回路特性とに基づいて、前記高周波部品を前記モジュール基板に実装したモジュールの高周波特性を算出する。
【0015】
第1発明では、第2端子を終端状態にして端子の終端状態により生じる誤差を含まないように取得した第2パラメータの対応する各要素に基づいて、第1パラメータの第1端子に関する各要素を補正するので、各無反射終端器の高周波特性を測定する等の煩雑な作業を行うことなく簡単な作業のみで、端子の終端状態により生じる高周波部品のSパラメータの誤差を補正することができる。
【0016】
第2又は第3発明では、高周波部品のSパラメータから、第1端子又は第2端子から測定器の測定ポートまでの配線に生じる誤差を補正するので、さらに高周波部品のSパラメータを精度よく補正することができる。
【0017】
第4発明では、第1ステップで取得した第1パラメータの第1端子に関する各要素を、第2ステップで取得した第2パラメータの対応する各要素に合わせることで、第1パラメータにより導き出せる所定の二つの端子間の反射特性及び通過特性と、端子の終端状態により生じる誤差を含まないように取得した第2パラメータにより導き出せる所定の二つの端子間の反射特性及び通過特性とが略一致するように第1パラメータを補正することができ、各無反射終端器の高周波特性を測定する等の煩雑な作業を行うことなく簡単な作業のみで、端子の終端状態により生じる高周波部品のSパラメータの誤差を補正することができる。
【0018】
第5発明では、第2端子は、少なくとも一つのグランド端子を含むので、第2端子をグランド電極に接地した状態で第2パラメータを取得することができる。
【0019】
第6発明では、第1乃至第5発明のいずれか一つの方法で補正した高周波部品のSパラメータと、モジュール基板の回路特性とに基づいて、高周波部品を搭載したモジュールの高周波特性を算出するので、実際に製造するモジュールの高周波特性と略一致するモジュールの高周波特性を算出することができ、モジュールの開発期間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、全ての第1端子及び第2端子からの入射波に基づく反射波及び通過波を測定して高周波部品のSパラメータである第1パラメータを取得する第1ステップと、第2端子を終端状態として、全ての第1端子からの入射波に基づく反射波及び通過波を測定して高周波部品のSパラメータである第2パラメータを取得する第2ステップと、第1ステップで取得した第1パラメータの第1端子に関する各要素を、第2ステップで取得した第2パラメータの対応する各要素に基づいて補正する第3ステップとを含むことで、第1ステップで取得した第1パラメータにより導き出せる所定の二つの端子間の反射特性及び通過特性と、第2ステップで取得した第2パラメータにより導き出せる所定の二つの端子間の反射特性及び通過特性とが略一致するように第1パラメータを補正することができ、各無反射終端器の高周波特性を測定する等の煩雑な作業を行うことなく簡単な作業のみで、端子の終端状態により生じる高周波部品のSパラメータの誤差を補正することができる。
【0021】
また、本発明は、補正した高周波部品のSパラメータと、モジュール基板の回路特性とに基づいて、高周波部品を搭載したモジュールの高周波特性を算出するので、実際に製造するモジュールの高周波特性と略一致するモジュールの高周波特性を算出することができ、モジュールの開発期間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1に係る高周波部品のSパラメータを補正する方法を説明するための高周波部品及び測定器の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る高周波部品のSパラメータを補正する方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】第1測定基板及び配線を取り除いた高周波部品を示す模式図である。
【図4】高周波信号の入出力を行う三つの第1端子に対応する配線を有する第2測定基板に実装した高周波部品を示す模式図である。
【図5】第2測定基板及び配線を取り除いた高周波部品を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る高周波部品を搭載したモジュールの特性算出方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】本発明の実施の形態2に係る高周波部品のSパラメータを補正する方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態に係る高周波部品のSパラメータを補正する方法、及び高周波部品を搭載したモジュールの特性算出方法について、図面を用いて具体的に説明する。以下の実施の形態は、特許請求の範囲に記載された発明を限定するものではなく、実施の形態の中で説明されている特徴的事項の組み合わせの全てが解決手段の必須事項であるとは限らないことは言うまでもない。
【0024】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る高周波部品のSパラメータを補正する方法を説明するための高周波部品及び測定器の構成を示す模式図である。図1に示すように、測定器1は、高周波部品2のSパラメータを取得するため、第1測定基板3(モジュール基板)に高周波部品2を実装し、第1測定基板3の配線4a〜4hと測定ポート5とを接続する。
【0025】
測定器1は、高周波部品2のSパラメータを取得するための装置であり、例えばネットワークアナライザである。また、測定器1は、測定ポート5を有し、測定ポート5と第1測定基板3の配線4a〜4hとをケーブルあるいはプローブで接続して、高周波部品2のSパラメータを取得する。
【0026】
第1測定基板3は、高周波部品2の端子6a〜6hと測定器1の測定ポート5とを接続するための配線4a〜4hを設けた基板である。第1測定基板3は、高周波部品2が八つの端子6a〜6hを有している場合、端子6a〜6hのそれぞれに対応して八つの配線4a〜4hを有している。
【0027】
高周波部品2は、例えば八つの端子6a〜6hを有するSAW(弾性表面波)デュプレクサであり、八つの端子6a〜6hのうち、三つの端子6a、6b、6cが高周波信号の入出力を行う第1端子で、それぞれANT(アンテナ)端子、Tx(送信)端子、Rx(受信)端子である。他の五つの端子6d〜6hは、高周波信号の入出力を行う第1端子以外の第2端子であり、例えばGND(グランド)端子である。各端子6a〜6hは、第1測定基板3に高周波部品2を実装することで、配線4a〜4hとそれぞれ接続される。
【0028】
図2は、本発明の実施の形態1に係る高周波部品2のSパラメータを補正する方法を説明するためのフローチャートである。まず、測定器1は、八つの配線4a〜4hのうちの所定の二つの配線(例えば、配線4b、4f)に測定ポート5a、5bを接続して、高周波部品2の所定の二つの端子(例えば、端子6b、6f)に所定の周波数の信号を入力し、一方の端子6bから他方の端子6fあるいは他方の端子6fから一方の端子6bへの通過信号の特性(通過特性)と二つの端子6b、6fからの反射信号の特性(反射特性)を測定する。測定器1は、全ての端子6a〜6hからの測定した結果から計算にて、第1測定基板3に実装した高周波部品2のSパラメータ(第1aパラメータ)を取得する(ステップS201)。
【0029】
ここで、Sパラメータとは、部品や配線等の高周波特性を表すために使用されるパラメータであり、(式1)のように表すことができる。但し、(式1)に示すnは、自然数である。例えば、高周波部品2が八つの端子6a〜6hを有する場合、n=8となり、Sパラメータは8×8の行列として表すことができる。
【0030】
【数1】

【0031】
次に、測定器1は、高周波部品2を実装していない第1測定基板3の全ての配線4a〜4hの入射波に基づく反射波及び通過波を測定し、測定した結果から計算にて、配線4a〜4hのSパラメータ(第1bパラメータ)を取得する(ステップS202)。測定器1は、ステップS201で取得した第1aパラメータから、ステップS202で取得した第1bパラメータを差し引いて、配線4a〜4hで生じる誤差を補正した高周波部品2のSパラメータ(第1パラメータ)を取得する(ステップS203)。図3は、第1測定基板3及び配線4を取り除いた高周波部品2を示す模式図である。ステップS203で取得した第1パラメータは、図3に示す第1測定基板3及び配線4を取り除いた高周波部品2の全ての端子6a〜6hを考慮したSパラメータである。
【0032】
図4は、高周波信号の入出力を行う三つの第1端子6a、6b、6cに対応する配線4a、4b、4cを有する第2測定基板(モジュール基板)7に実装した高周波部品2を示す模式図である。図4に示すように、三つの第1端子6a、6b、6cは配線4a、4b、4cとそれぞれ接続し、三つの第1端子6a、6b、6c以外の五つの第2端子6d〜6hは終端状態としてそれぞれGND(グランド)電極に接地する。測定器1は、三つの第1端子6a、6b、6cについて配線4a、4b、4cを有する第2測定基板(モジュール基板)7に高周波部品2を実装して、第1端子6a、6b、6cであるANT端子、Tx端子、Rx端子からの入射波に基づく反射波及び通過波を測定する。ここで、終端状態とは、第2端子6d〜6hが0Ωのインピーダンスを有する端子であればGND電極に接地し、第2端子6d〜6hが1kΩのインピーダンスを有する端子であれば1kΩの抵抗に接続した状態である。
【0033】
図2に戻って、測定器1は、三つの第1端子6a、6b、6cに対応する配線4a、4b、4cのうちの所定の二つの配線(例えば、配線4a、4b)に測定ポート5a、5b(図1参照)を接続して、高周波部品2の所定の二つの第1端子(例えば、第1端子6a、6b)からの入射波に基づく反射波及び通過波を測定する。測定器1は、測定ポート5と第2測定基板7の配線4a、4b、4cとの接続を順次切り替えて三つの第1端子6a、6b、6cからの入射波に基づく反射波及び通過波を測定し、測定した結果から計算にて、第2測定基板7に実装した高周波部品2のSパラメータ(第2aパラメータ)を取得する(ステップS204)。
【0034】
次に、測定器1は、高周波部品2を実装していない第2測定基板7の配線4a、4b、4cの入射波に基づく反射波及び通過波を測定し、測定した結果から計算にて、配線4a、4b、4cのSパラメータ(第2bパラメータ)を取得する(ステップS205)。測定器1は、ステップS204で取得した第2aパラメータから、ステップS205で取得した第2bパラメータを差し引いて、配線4a、4b、4cで生じる誤差を補正した高周波部品2のSパラメータ(第2パラメータ)を取得する(ステップS206)。図5は、第2測定基板7及び配線4を取り除いた高周波部品2を示す模式図である。ステップS206で取得した第2パラメータは、図5に示すように、第2測定基板7及び配線4を取り除いた高周波部品2の三つの第1端子6a、6b、6cを考慮したSパラメータである。
【0035】
次に、ステップS206で取得した第2パラメータに基づいて、ステップS203で取得した第1パラメータを補正する(ステップS207)。具体的に、ステップS203で取得した第1パラメータの三つの第1端子6a、6b、6cに関する各行列要素を、ステップS206で取得した第2パラメータの対応する各行列要素に合わせる。各行列要素に合わせることで、ステップS203で取得した第1パラメータにより導き出せる所定の二つの端子間の反射特性及び通過特性と、ステップS206で取得した第2パラメータにより導き出せる所定の二つの端子間の反射特性及び通過特性とが略一致するように第1パラメータの第1端子6a、6b、6cに関する各行列要素を補正することができる。なお、この補正作業は、第1パラメータ及び第2パラメータをそれぞれ回路シミュレータに取り込み、その回路シミュレータにより行っている。ステップS207で補正した第1パラメータは、最終的に測定器1が取得する高周波部品2のSパラメータである。また、ステップS206で取得した第2パラメータは、三つの第1端子6a、6b、6cの行列要素のみで3×3の行列である。さらに、第2パラメータは、五つの第2端子6d〜6hを理想的な終端状態にして取得するため、対応する各行列要素が五つの第2端子6d〜6hの終端状態により生じる誤差を含むことはない。
【0036】
ここで、第2端子6d〜6hをGND電極に接地する構成や抵抗に接続して第2端子6d〜6hを終端状態にする構成の場合、第2端子6d〜6hとモジュール基板に形成したGND電極や実装された抵抗と接続するための接続配線が必要である。高周波部品2単体の高周波特性を示す第1パラメータを取得するためには、高周波部品2を実際のモジュール基板に実装した形態に近い状態での高周波特性を示す第1aパラメータから接続配線のみの高周波特性を示す第1bパラメータを差し引く必要がある。しかし、接続配線のみの高周波特性を示す第1bパラメータの値を正確に取得することは難しく、ステップS203で取得する第1パラメータには誤差が含まれる。特に、第2端子6d〜6hをGND電極に接地する構成の場合、接続配線に生じる誤差が小さくても高周波部品2単体の高周波特性が大きく変化し、高周波部品2をモジュール基板に実装した場合に所望の高周波特性が得られないという問題があった。
【0037】
また、ステップS204やステップS205で第2測定基板7を用いて取得する第2パラメータは、第2測定基板7の第2端子6d〜6hに対応する部分にスルーホールを形成し、第2端子6d〜6hとGND電極とを最も短く接続して測定するので、第2端子6d〜6hがほぼ理想的なGND状態となる。しかし、高周波部品2をモジュール基板に実装して使用する場合、第2端子6d〜6hをGND電極等に接続するための接続配線の高周波特性が含まれることになり、高周波部品2を搭載したモジュールが所望の高周波特性を得られないという問題があった。
【0038】
そこで、本発明では、ステップS203で取得した第1パラメータにおける第2端子6d〜6hに接続される配線4d〜4hに生じる誤差ができるだけ小さくなるように、ステップS207でモジュール基板に実装した形態に近い状態で取得した第1パラメータを第2パラメータに基づいて補正する。
【0039】
なお、ステップS207で行う第1パラメータの補正は、第1パラメータの三つの第1端子6a、6b、6cに関する各行列要素を、単純に第2パラメータの対応する三つの第1端子6a、6b、6cに関する各行列要素に合わせる補正に限定されるものではなく、所定の係数を乗算した第2パラメータの各行列要素に合わせたり、所定の基準値以上の第1パラメータの行列要素のみ、第2パラメータの行列要素に合わせたりしても良い。
【0040】
次に、ステップS207で補正した第1パラメータ(Sパラメータ)を用いて、高周波部品2をセラミックあるいは樹脂を用いた多層基板やアルミナ等を用いたパッケージ基板であるモジュール基板に実装したモジュールの高周波特性を算出する方法について説明する。図6は、本発明の実施の形態1に係る高周波部品2を搭載したモジュールの特性算出方法を説明するためのフローチャートである。シミュレーション装置は、高周波部品2を実装するモジュール基板の回路動作をシミュレーションして、モジュール基板の回路特性を算出する(ステップS601)。ここで、シミュレーション装置は、SPICE等の回路動作をシミュレーションするソフトウェアを実行するコンピュータで構成されている。
【0041】
シミュレーション装置は、ステップS207で補正した第1パラメータ(Sパラメータ)と、ステップS601で算出したモジュール基板の回路特性とに基づいて、高周波部品2をモジュール基板に実装したモジュールの高周波特性を算出する(ステップS602)。具体的に、シミュレーション装置は、補正した第1パラメータ(Sパラメータ)、及び算出したモジュール基板の回路特性を考慮してシミュレーションモデルを作成し、作成したシミュレーションモデルに対してSPICE等の回路動作をシミュレーションすることでモジュールの高周波特性を算出する。
【0042】
次に、シミュレーション装置は、ステップS602で算出したモジュールの高周波特性が、設計して実際に製造するモジュールの目標(所望の)特性を有しているか否かを判断する(ステップS603)。シミュレーション装置は、ステップS602で算出したモジュールの高周波特性が、設計して実際に製造するモジュールの目標特性を有していると判断した場合(ステップS603:YES)は、シミュレーション装置は、算出したモジュール基板の回路特性に基づいてモジュール基板を製造することが可能である旨を出力する(ステップS604)。なお、シミュレーション装置は、例えば表示部を有し、該表示部にモジュール基板を製造することが可能である旨を表示する。
【0043】
シミュレーション装置は、ステップS602で算出したモジュールの高周波特性が、設計して実際に製造するモジュールの目標特性を有していないと判断した場合(ステップS603:NO)は、シミュレーション装置は、高周波部品2の各端子6a〜6hと接続するモジュール基板の配線4a〜4hの設計を変更する必要がある旨を出力する(ステップS605)。なお、モジュール基板の配線4a〜4hの設計を変更する必要がある旨を、例えばシミュレーション装置の表示部に出力する。ステップS605での出力に従い、高周波部品2の各端子6a〜6hと接続するモジュール基板の配線4a〜4hの設計を変更し、変更したモジュール基板に対して、ステップS601で再度、モジュール基板の回路動作をシミュレーションする。
【0044】
以上のように、本発明の実施の形態1に係る高周波部品2のSパラメータを補正する方法では、ステップS203で取得した第1パラメータの三つの第1端子6a、6b、6cに関する各行列要素を、ステップS206で取得した第2パラメータの対応する各行列要素に合わせることで、第1パラメータにより導き出せる所定の二つの端子間の反射特性及び通過特性と、第2パラメータにより導き出せる所定の二つの端子間の反射特性及び通過特性とが略一致するように第1パラメータの第1端子6a、6b、6cに関する各行列要素を補正することができ、各無反射終端器の高周波特性を測定する等の煩雑な作業を行うことなく簡単な作業のみで、配線4a、4b、4cで生じる誤差、及び第2端子6d〜6hの終端状態により生じる誤差を補正することができる。
【0045】
また、本発明の実施の形態1に係る高周波部品2を搭載したモジュールの特性算出方法は、本発明の実施の形態1に係る高周波部品2のSパラメータを補正する方法で補正した高周波部品2のSパラメータと、モジュール基板の回路特性とに基づいて、高周波部品2を搭載したモジュールの高周波特性を算出するため、算出したモジュールの高周波特性と、実際に製造するモジュールの高周波特性とが略一致する。
【0046】
しかし、従来の補正方法で補正した高周波部品のSパラメータに基づいてモジュールの高周波特性を算出した場合、高周波部品をモジュール基板に実装した状態とは異なる状態で算出しているため、算出したモジュールの高周波特性と、実際に製造するモジュールの高周波特性とが一致しない。そのため、算出したモジュールの高周波特性と、実際に製造するモジュールの高周波特性とが略一致するまで、例えば高周波部品の各端子と接続するモジュール基板の配線の設計を変更し、モジュール基板の配線の設計を変更したモジュールを製造する作業工程を繰り返す必要があった。
【0047】
そこで、本発明の実施の形態1に係る高周波部品2を搭載したモジュールの特性算出方法は、端子6から測定器1の測定ポート5までの配線4で生じる誤差、及び端子6の終端状態により生じる誤差を補正した高周波部品2のSパラメータと、モジュール基板の回路特性とに基づいて、モジュールの高周波特性を算出するため、実際に製造するモジュールの高周波特性と略一致するモジュールの高周波特性を算出することができ、モジュールの開発期間を短縮することができる。
【0048】
(実施の形態2)
本実施の形態2では、実施の形態1で説明した高周波部品2のSパラメータを補正する方法とは別の高周波部品2のSパラメータを補正する方法を説明する。図7は、本発明の実施の形態2に係る高周波部品2のSパラメータを補正する方法を説明するためのフローチャートである。なお、測定器1、高周波部品2及び第1測定基板3の構成は、実施の形態1で説明した構成と同じであり、以下の説明では、実施の形態1の図面を用いて説明する。
【0049】
まず、図1に示す測定器1は、測定ポート5を有し、測定ポート5と第1測定基板3の配線4a〜4hとの接続を順次切り替えて、高周波部品2の全ての端子6a〜6hからの入射波に基づく反射波及び通過波を測定し、測定した結果から計算にて、第1測定基板3に実装した高周波部品2のSパラメータ(第1aパラメータ)を取得する(ステップS701)。
【0050】
次に、測定器1は、図4に示すように、三つの第1端子6a、6b、6cに対応する配線4a、4b、4cを有する第2測定基板7に高周波部品2を実装して、三つの第1端子6a、6b、6cであるANT端子、Tx端子、Rx端子からの入射波に基づく反射波及び通過波を測定する。三つの第1端子6a、6b、6cは配線4a、4b、4cとそれぞれ接続し、三つの第1端子6a、6b、6c以外の五つの第2端子6d〜6hは終端状態としてそれぞれGND電極に接地する。
【0051】
測定器1は、測定ポート5と第2測定基板7の配線4a、4b、4cとの接続を順次切り替えて三つの第1端子6a、6b、6cからの入射波に基づく反射波及び通過波を測定し、測定した結果から計算にて、第2測定基板7に実装した高周波部品2のSパラメータ(第2aパラメータ)を取得する(ステップS702)。
【0052】
次に、測定器1は、ステップS702で取得した第2aパラメータに基づいて、ステップS701で取得した第1aパラメータを補正する(ステップS703)。具体的に、ステップS703での補正は、ステップS701で取得した第1aパラメータの三つの第1端子6a、6b、6cに関する各行列要素を、ステップS702で取得した第2aパラメータの対応する各行列要素に合わせる。ここで、ステップS702で取得した第2aパラメータは、三つの第1端子6a、6b、6cの行列要素のみで3×3の行列である。また、第2aパラメータは、五つの第2端子6d〜6hを理想的な終端状態にして取得するため、対応する各行列要素が五つの第2端子6d〜6hの終端状態により生じる誤差を含むことはない。
【0053】
なお、ステップS703で行う第1aパラメータの補正は、第1aパラメータの三つの第1端子6a、6b、6cの各行列要素を、単純に第2aパラメータの三つの第1端子6a、6b、6cの各行列要素に合わせる補正に限定されるものではなく、所定の係数を乗算した第2aパラメータの各行列要素に合わせたり、所定の基準値以上の第1aパラメータの行列要素のみ、第2aパラメータの行列要素に合わせたりしても良い。
【0054】
次に、測定器1は、高周波部品2を実装していない第2測定基板7の全ての配線4a、4b、4cの入射波に基づく反射波及び通過波を測定し、測定した結果から計算にて、配線4a、4b、4cのSパラメータ(第1bパラメータ)を取得する(ステップS704)。測定器1は、ステップS703で補正した第1aパラメータから、ステップS704で取得した第1bパラメータを差し引いて、第1aパラメータを補正する(ステップS705)。つまり、ステップS703で補正した第1aパラメータに対して、高周波部品2の第1端子6a、6b、6cから測定器1の測定ポート5までの配線4a、4b、4cで生じる誤差をさらに補正して、最終的な高周波部品2のSパラメータを測定器1が取得する。
【0055】
以上のように、本発明の実施の形態2に係る高周波部品2のSパラメータを補正する方法では、ステップS701で取得した第1aパラメータの三つの第1端子6a、6b、6cに関する各行列要素を、ステップS702で取得した第2aパラメータの対応する各行列要素に合わせる補正を行い、補正した第1aパラメータからステップS704で取得した第1bパラメータを差し引いて、第1aパラメータをさらに補正するので、各無反射終端器の高周波特性を測定する等の煩雑な作業を行うことなく簡単な作業のみで、高周波部品2のSパラメータの、配線4a、4b、4cで生じる誤差、及び第2端子6d〜6hの終端状態により生じる誤差を補正することができる。
【0056】
つまり、本発明の実施の形態2に係る高周波部品2のSパラメータを補正する方法では、実施の形態1とは異なり、端子6の終端状態により生じる誤差を補正した第1aパラメータに対して配線4で生じる誤差を補正する。
【0057】
なお、ステップS705で取得したSパラメータを用いて、高周波部品2をモジュール基板に実装したモジュールの高周波特性を算出する方法については、実施の形態1と同じであるため詳細な説明は省略する。
【符号の説明】
【0058】
1 測定器
2 高周波部品
3、7 測定基板(モジュール基板)
4、4a〜4h 配線
5 測定ポート
6、6a〜6h 端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号の入出力を行う少なくとも一つの第1端子と、前記第1端子以外の少なくとも一つの第2端子とを有する高周波部品のSパラメータを補正する方法であって、
全ての前記第1端子及び前記第2端子からの入射波に基づく反射波及び通過波を測定して前記高周波部品のSパラメータである第1パラメータを取得する第1ステップと、
前記第2端子を終端状態として、全ての前記第1端子からの入射波に基づく反射波及び通過波を測定して前記高周波部品のSパラメータである第2パラメータを取得する第2ステップと、
前記第1ステップで取得した前記第1パラメータの前記第1端子に関する各要素を、前記第2ステップで取得した前記第2パラメータの対応する各要素に基づいて補正する第3ステップと
を含むことを特徴とする高周波部品のSパラメータを補正する方法。
【請求項2】
前記第1ステップでは、前記第1端子又は前記第2端子から測定器の測定ポートまでの配線に生じる誤差を補正した前記第1パラメータを取得し、
前記第2ステップでは、前記第1端子から前記測定器の測定ポートまでの配線に生じる誤差を補正した前記第2パラメータを取得することを特徴とする請求項1に記載の高周波部品のSパラメータを補正する方法。
【請求項3】
前記第3ステップで補正した前記第1パラメータに対して、前記第1端子又は前記第2端子から測定器の測定ポートまでの配線に生じる誤差を補正する第4ステップをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の高周波部品のSパラメータを補正する方法。
【請求項4】
前記第3ステップは、前記第1ステップで取得した前記第1パラメータの前記第1端子に関する各要素を、前記第2ステップで取得した前記第2パラメータの対応する各要素に合わせることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の高周波部品のSパラメータを補正する方法。
【請求項5】
前記第2端子は、少なくとも一つのグランド端子を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の高周波部品のSパラメータを補正する方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法で補正した前記高周波部品のSパラメータと、
前記高周波部品を実装するモジュール基板の回路動作をシミュレーションして算出した前記モジュール基板の回路特性とに基づいて、
前記高周波部品を前記モジュール基板に実装したモジュールの高周波特性を算出することを特徴とする高周波部品を搭載したモジュールの特性算出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−169667(P2011−169667A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32082(P2010−32082)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】