説明

高周波電力増幅器

【課題】小型化及び低価格化を実現するとともに、電力効率が良好な高周波電力増幅器を提供する。
【解決手段】入力された所定の周波数を有する基本波を飽和動作して増幅する第1増幅器23と、第1増幅器23により増幅された信号を分配する分配器24と、基本波の周波数において分配器24の出力を整合する基本波出力整合回路25と、基本波出力整合回路25から出力された基本波を遅延する遅延線路と、2次高調波の周波数において分配器24の出力を整合する2次高調波出力整合回路27と、2次高調波出力整合回路27から出力された2次高調波の位相及び振幅を調整する調整器と、遅延線路から出力された基本波と調整器から出力された2次高調波とを合成する合成器と、合成器により合成された信号を増幅する第2増幅器とを備えることを特徴とする高周波電力増幅器100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高周波信号を増幅する高周波電力増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高周波電力増幅器は、例えば、高調波発生器で発生させた2次高調波の位相及び振幅の調整を行い、増幅器の入力信号に合成する。
【0003】
関連のある技術として、以下の文献が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−194421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の高周波電力増幅器は入力信号に2次高調波を注入することにより電力損失を抑えることができるものの、高調波発生器が必要となるため、高周波電力増幅器の容積が大きく高価であった。
【0006】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、小型化及び低価格化を実現するとともに、電力効率が良好な高周波電力増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明の高周波電力増幅器は、入力された所定の周波数を有する基本波を飽和動作して増幅する第1増幅器と、前記第1増幅器により増幅された信号を分配する分配器と、前記基本波の周波数において前記分配器の出力を整合する基本波出力整合回路と、前記基本波出力整合回路から出力された基本波を遅延する遅延線路と、2次高調波の周波数において前記分配器の出力を整合する2次高調波出力整合回路と、前記2次高調波出力整合回路から出力された前記2次高調波の位相及び振幅を調整する調整器と、前記遅延線路から出力された基本波と前記調整器から出力された2次高調波とを合成する合成器と、前記合成器により合成された信号を増幅する第2増幅器とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
小型化及び低価格化を実現するとともに、電力効率が良好な高周波電力増幅器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施の形態に係る高周波電力増幅器の構成ブロック図である。
【図2】本実施の形態に係る高周波電力増幅器で用いる分配増幅器の構成ブロック図である。
【図3】本実施の形態に係る高周波電力増幅器で用いる合成増幅器の構成ブロック図である。
【図4】本実施の形態に係る高周波電力増幅器における基本波及び2倍波の入力−出力特性を示す模式説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施の形態に係る高周波電力増幅器100について図を用いて説明する。なお、以下の説明で用いる図は、説明で用いるために必要な図のみ記載しており、これらに限定されるものではない。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る高周波電力増幅器100の構成ブロック図である。図2は、本実施の形態に係る高周波電力増幅器100で用いる分配増幅器20の構成ブロック図である。図3は、本実施の形態に係る高周波電力増幅器100で用いる合成増幅器60の構成ブロック図である。高周波電力増幅器100は、図1に示すように、入力端子10と、分配増幅器20と、遅延線路30と、可変位相器40(調整器)と、可変減衰器50(調整器)と、合成増幅器60と、出力端子70とを有する。
【0012】
分配増幅器20は、図2に示すように、入力端子21と、基本波入力整合回路22と、第1増幅器23と、分配器24と、基本波出力整合回路25と、基本波出力端子26と、2次高調波出力整合回路27と、2次高調波出力端子28とを有する。
【0013】
基本波入力整合回路22は、入力端子21に入力された基本波の周波数fにおいて、入力インピーダンスを入力端子21に接続された回路の出力インピーダンスに整合させたインピーダンス変換回路である。基本波入力整合回路22は、マイクロストリップライン等の伝送線路、コンデンサやコイルといった回路素子、またはこれらを組み合わせた回路によって構成される。
【0014】
第1増幅器23は、基本波入力整合回路22から出力された基本波を増幅する。第1増幅器23としては例えばFET(Field Effect Transistor)、ダイオード、バイポーラトランジスタ、電子管等が挙げられる。第1増幅器23としてFETを用いる場合、FETのゲート端子には入力信号が印加され、また、ソース端子は接地されている。分配器24は第1増幅器23から出力された信号を分配する。また、第1増幅器23は飽和動作することにより2次高調波を発生させることになる。
【0015】
基本波出力整合回路25は、基本波の周波数fにおいて入力インピーダンスを分配器24の出力インピーダンスに整合させたインピーダンス変換回路である。2次高調波出力整合回路27は、2次高調波の周波数2fにおいて入力インピーダンスを分配器24の出力インピーダンスに整合させたインピーダンス変換回路である。
【0016】
遅延線路30は、2次高調波出力整合回路27、可変位相器40、可変減衰器50における処理時間分、基本波出力端子26から出力された基本波を遅延させる。可変位相器40は2次高調波出力端子28から出力された2次高調波の位相を調整する。可変減衰器50は可変位相器40から出力された2次高調波の振幅を調整する。なお、可変位相器40及び可変減衰器50は2次高調波のベクトル調整を行うベクトル調整器に相当し、可変位相器40と可変減衰器50の順序が逆であっても構わない。可変位相器40及び可変減衰器50では、2次高調波の位相及び振幅を合成増幅器60で発生する2次高調波の位相及び振幅の関係が最適となるよう調整するとともに、基本波と2次高調波との位相のずれ及び振幅レベルの比が後述する合成器65に入力される際に最適となるよう調整するものである。
【0017】
合成増幅器60は、図3に示すように、基本波入力端子61と、基本波入力整合回路62と、2次高調波入力端子63と、2次高調波入力整合回路64と、合成器65と、第2増幅器66と、基本波・2次高調波出力整合回路67と、出力端子68とを有する。
【0018】
基本波入力整合回路62は、基本波の周波数fにおいて入力インピーダンスを基本波入力端子61に接続された回路の出力インピーダンスに整合させたインピーダンス変換回路である。2次高調波入力整合回路64は、2次高調波の周波数2fにおいて入力インピーダンスを2次高調波入力端子63に接続された回路の出力インピーダンスに整合させるためのインピーダンス変換回路である。
【0019】
合成器65は、遅延線路30で遅延され基本波入力整合回路62により整合された基本波と、可変位相器40で位相が調整され可変減衰器50で振幅が調整され2次高調波入力整合回路64で整合された2次高調波とを合成して、第2増幅器66に出力する。第2増幅器66は第1増幅器23と同様の構成を有する。基本波・2次高調波出力整合回路67は、基本波の周波数fと2次高調波の周波数2fの周波数の両方において、第2増幅器66の出力インピーダンスと共役整合したインピーダンス変換回路である。
【0020】
また、基本波・2次高調波出力整合回路67は反射回路を有し、第2増幅器66のドレイン端子に接続され、基本波の周波数及び奇数次高調波周波数に対して開放し、且つ偶数次高調波周波数に対して短絡となるインピーダンス特性を備えている。したがって、第2増幅器66の出力端子(ドレイン端子)における負荷のインピーダンス周波数特性は、基本波の周波数で整合、偶数次高調波周波数で短絡、奇数次高調波周波数で開放となる。
【0021】
このように、合成増幅器60は第2増幅器66をB級バイアス条件で動作させて基本波の周波数の正弦波を入力すれば、理論上、ドレイン端子とソース端子との間の電圧の時間波形は、基本波と奇数次高調波成分のみを有する矩形波となる。また、ドレイン端子とソース端子との間の電流の時間波形は、基本波と偶数次高調波成分のみを有する半波形となる。
【0022】
このときの第2増幅器66の動作としては、ドレイン電流が流れているときにドレイン電圧がゼロとなり、逆にドレイン電圧が印加されているときにドレイン電流がゼロとなるので、ドレイン端子とソース端子間の消費電力を常にゼロの状態にすることができる。すなわち、電圧及び電流の時間波形が重なっていない状態では、第2増幅器66で消費する電力をゼロにすることができ、内部損失を抑えることができる。
【0023】
更に、上述した第2増幅器66の代わりに、基本波の周波数で整合、偶数次高調波周波数で開放、奇数次高調波周波数で短絡となり、前述の波形とは逆の波形が得られる増幅器を用いることもできる。このような増幅器では、高調波反射回路は偶数次の高調波を反射する。この場合にも、ドレイン電流が流れているときにドレイン電圧がゼロとなり、逆にドレイン電圧が印加されているときにドレイン電流がゼロとなるので、同様にドレイン端子とソース端子間の消費電力を常にゼロの状態にすることができる。
【0024】
高周波電力増幅器100の動作について図1〜図4を用いて説明する。図4は、本実施の形態に係る高周波電力増幅器100における基本波及び2次高調波の入力−出力特性を示す模式説明図である。入力端子10から入力された基本波は、基本波入力整合回路22でインピーダンス変換された後、第1増幅器23で増幅され、分配器24に出力される。
【0025】
第1増幅器23に入力された基本波は図4に示す非線形領域の動作点が示す基本波出力に増幅される。ここで、非線形領域の動作点は第1増幅器23が飽和動作する領域の動作点である。非線形領域の動作点の出力は線形領域の動作点の出力より大きい。すなわち、第1増幅器23は入力と出力との関係が非線形の領域で動作することにより基本波を増幅する。このため、図4に示すように、点線で示す2次高調波出力も増幅する。
【0026】
第1増幅器23により増幅され2次高調波が発生された信号は分配器24により分配される。分配器24で分配された一方の信号は基本波出力整合回路25により基本波の周波数fにおいてインピーダンス変換され、遅延線路30で遅延されて位相が遅らされ、合成増幅器60の基本波入力端子61に入力される。また、分配器24で分配された他方の信号は、2次高調波出力整合回路27により2次高調波の周波数2fにおいてインピーダンス変換され、可変位相器40で位相調整され、可変減衰器50で振幅調整され、合成増幅器60の2次高調波入力端子63に入力される。
【0027】
基本波入力端子61に入力された基本波は基本波入力整合回路62でインピーダンス変換され合成器65に入力される。同様に、2次高調波入力端子63に入力された2次高調波は2次高調波入力整合回路64でインピーダンス変換され合成器65に入力される。
【0028】
合成器65に入力された各波は合成された後に第2増幅器66で増幅され、基本波・2次高調波出力整合回路67を介して出力端子68に出力される。また、第2増幅器66で発生した奇数次高調波は、基本波・2次高調波出力整合回路67で反射されて第2増幅器66に入力され、更に増幅される。
【0029】
以上のように、本実施の形態に係る高周波電力増幅器100によれば、特に電源回路等の歪や高調波を抑制する必要がない場合には、図4に示すように、第1増幅器23の動作を非線形の領域で飽和動作させることにより、2次高調波を発生させる。このため、高周波電力増幅器100は2次高調波発生装置を別途設ける必要がなく、小型化及び低価格化を実現するとともに、良好な電力効率を有することが可能となる。
【0030】
また、高周波電力増幅器100では、注入する高調波をレベルの高い2次高調波としているので、効率向上の効果が一層大きくなる。
【0031】
また、本実施の形態に係る高周波電力増幅器100では、可変位相器40と可変減衰器50とを調整することにより、2次高調波の位相及び振幅を、合成増幅器60の第2増幅器66で発生する2次高調波の位相及び振幅と最適な関係となるよう調整することができる。このため、簡易な構成で、一層効率を向上させることができる効果がある。
【0032】
また、本実施の形態に係る高周波電力増幅器100は、構成の簡単なアナログ回路から成り、基本波と2次高調波との位相のずれ及び必要な振幅レベルの比を調整するので、合成増幅器60に必要な高調波の出力レベル及び位相を正確に調整でき、合成増幅器60における増幅動作を高効率で行うことができるものである。
【0033】
また、高周波電力増幅器100において、合成器65で合成された合成波には2次高調波が含まれるため、第2増幅器66で発生する2次高調波は高レベルとなり、第2増幅器66が高調波に対する利得が少なく、また、高調波が少ない低出力時であっても効率よく動作することができる。
【0034】
更に、基本波・2次高調波出力整合回路67は反射回路を有するため、基本波の周波数に対しては作用せずに2次高調波の周波数に対しては反射するので、出力の2次高調波反射レベルを一層大きくして電圧電流波形の重なりを減らすことができ、効率を向上させることが可能となる。
【0035】
本実施の形態に係る高周波電力増幅器100は、位相を調整する可変位相器40と振幅を調整する可変減衰器50とを用いた構成としているが、第1増幅器23で発生した高調波の位相及び振幅を調整する調整器として位相と振幅が調整できればよく、同等の機能があればどのような方法を用いてもよい。
【0036】
また、本実施の形態における高周波電力増幅器100では、基本波・2次高調波出力整合回路67が反射回路を有する構成としたが、高周波電力増幅器100の外(出力端子70より後段)に反射回路を挿入した増幅器を構成してもよい。この場合、基本波の周波数だけでなく、2次高調波の周波数においても、第2増幅器66、ワイヤボンディングその他の影響によるリアクタンスや、第2増幅器66自身のインピーダンスの存在を考慮した回路構成が必要になる。
【0037】
2次高調波の周波数2fを利用して、第2増幅器66の存在に起因する各種の浮遊リアクタンスの影響を回避し、効率の向上を図る増幅器を用いてもよい。この増幅器を用いると、電圧波形を矩形波に近づけ、高効率動作に必要なスイッチング動作を容易に実現できる。
【0038】
また、本実施の形態では、2次高調波を基本波に合成するための構成について説明したが、更に4次以上の偶数次高調波を注入することで、電流と電圧の波形の重なりを一層小さくすることができるものである。この場合、4次以上の高調波を発生する高調波発生回路を、図2に示す第1増幅器23から図3に示す合成器65までの回路に並列に設ければよい。この構成は2次高調波の場合と同様であり、発生する高調波の周波数を変えればよい。
【0039】
また、入力端子10に入力される基本波は、入力端子10に入力される前に、外部の装置によりインピーダンス変換されていてもよい。
【符号の説明】
【0040】
10及び21 入力端子、20 分配増幅器、22 基本波入力整合回路、23 第1増幅器、24 分配器、25 基本波出力整合回路、26 基本波出力端子、27 2次高調波出力整合回路、28 2次高調波出力端子、30 遅延線路、40 可変位相器、50 可変減衰器、60 合成増幅器、61 基本波入力端子、62 基本波入力整合回路、63 2次高調波入力端子、64 2次高調波入力整合回路、65 合成器、66 第2増幅器、67 基本波・2次高調波出力整合回路、68及び70 出力端子、100 高周波電力増幅器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された所定の周波数を有する基本波を飽和動作して増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された信号を分配する分配器と、
前記基本波の周波数において前記分配器の出力を整合する基本波出力整合回路と、
前記基本波出力整合回路から出力された基本波を遅延する遅延線路と、
2次高調波の周波数において前記分配器の出力を整合する2次高調波出力整合回路と、
前記2次高調波出力整合回路から出力された前記2次高調波の位相及び振幅を調整する調整器と、
前記遅延線路から出力された基本波と前記調整器から出力された2次高調波とを合成する合成器と、
前記合成器により合成された信号を増幅する第2増幅器と
を備えることを特徴とする高周波電力増幅器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−70278(P2013−70278A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208104(P2011−208104)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】