説明

高周波電磁誘導装置用のセル・キット及び該キットを用いた有機物質の抽出方法

【課題】火器等の加熱装置を用いずに、簡単且つ安全に分析用試料をガラスチューブ中に封管するための高周波電磁誘導装置用のセル・キットを提供する。
【解決手段】分析用試料セルを加熱するための高周波加熱コイルを備えた高周波電磁誘導装置に用いる試料セル・キットであって、一方の端部が封管され、他方の端部に開口部を有するガラスチューブ(A)と、該ガラスチューブの開口部を密封する封止部材(B)とからなり、該封止部材(B)が、該ガラスチューブ(A)の開口部を密封するための樹脂パッキン(b1)と、該樹脂パッキン(b1)を包むためのポリプロピレン製フィルム(b2)と、該開口部を密封するように取り付けられた、ポリプロピレン製フィルム(b2)で包まれた樹脂パッキン(b1)を覆い、該樹脂パッキン(b1)を該開口部に固定するための樹脂キャップ(b3)とからなること、を特徴とする高周波電磁誘導装置用試料セル・キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電磁誘導加熱装置に用いる試料セル・キットに関し、更に詳しくは、試料中の溶剤可溶性成分の抽出に有用な試料セル・キット、及びこれを用いた有機物質の抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料が充填され、かつ試料の分解温度未満の温度まで発熱する電磁誘導発熱性金属体で覆われた試料セルを高周波電磁誘導加熱装置内に配し、これをキューリー温度まで高周波電磁誘導加熱して該試料から有機低分子量化合物を揮発させて抽出する有機低分子量化合物の抽出方法が特許文献1に記載されている。当該特許文献では、ガラスを加熱封管することにより分析用試料をガラスチューブ中に密封している。
【0003】
このガラス封管による分析用試料の密封は、高周波加熱装置を用いた抽出操作が比較的、高温・高圧となるため添加剤の抽出効率が高まり、好適である。しかしながら、ガラス封管にはガスバーナー等の火器を使用しなければならず、封管作業自体が熟練を要し、また、やけど等の危険性がある。更に、場所によっては火気の使用が禁止されていて、ガラス封管作業ができないことがある。
【0004】
また、特許文献2では高周波電磁誘導装置用のセル・キット及び該キットを用いた分析方法が開示されており、開口部にゴム栓をすることにより分析用試料をガラスチューブ内に密封している。特許文献2は、溶剤を用いて分析用試料中から微量成分を抽出する方法に関する技術であるが、開口部にゴム栓を嵌めただけでは、ガラスチューブ中の溶剤が蒸気となってゴム栓の隙間から出てしまうことがあった。また、ゴム栓中の成分が溶剤によって抽出されたり、その抽出物が分析試料と反応して分析結果に影響を及ぼすこともあった。
【0005】
【特許文献1】特開平9−329589号公報
【特許文献2】特開平11−258123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、高周波電磁誘導装置を用いて分析試料中の有機成分を抽出するための器具であって、火器等の加熱装置を用いずに、簡単且つ安全に分析用試料をガラスチューブ中に封管するための高周波電磁誘導装置用のセル・キット及び該キットを用いた有機物質の抽出方法を提供することである。
【0007】
また、本発明の他の目的は、上記目的を達成し、更に、分析用ガラスチューブ中の抽出溶剤をガラスチューブ外に揮散させず、且つガラスチューブの封止部材中の化学成分が抽出されて検出されたり、その抽出物質が溶媒や分析試料と反応して分析結果に影響を及ぼす可能性を極力防止した高周波電磁誘導装置用のセル・キット及び該キットを用いた有機物質の抽出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討した結果、ガラスチューブ開口部に、極薄ポリプロピレンフィルムで包んだ樹脂パッキンを樹脂製のキャップで固定することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、分析用試料セルを加熱するための高周波加熱コイルを備えた高周波電磁誘導装置に用いる試料セル・キットであって、
一方の端部が封管され、他方の端部に開口部を有するガラスチューブ(A)と、該ガラスチューブの開口部を密封する封止部材(B)とからなり、
該封止部材(B)が、
該ガラスチューブ(A)の開口部を密封するための樹脂パッキン(b1)と、
該樹脂パッキン(b1)を包むためのポリプロピレン製フィルム(b2)と、該開口部を密封するように取り付けられた、ポリプロピレン製フィルム(b2)で包まれた樹脂パッキン(b1)を覆い、該樹脂パッキン(b1)を該開口部に固定するための樹脂キャップ(b3)とからなること、
を特徴とする高周波電磁誘導装置用試料セル・キットを提供するものである。
【0010】
また、本発明は、上記高周波電磁誘導装置用試料セル・キットの前記ガラスチューブ(A)中に、分析用試料と該分析用試料中の有機成分を抽出するための溶剤を入れ、
次いで、該ガラスチューブの開口部を、前記ポリプロピレン製フィルム(b2)で包んだ前記樹脂パッキン(b1)で封止し、
更に、該樹脂パッキン(b1)を該開口部に固定するための前記樹脂キャップ(b3)を取り付けることにより、該ガラスチューブ(A)の該開口部を密封した試料セルを組み立て、
その後、該試料セルを電磁誘導発熱性金属体で覆い、
これを高周波加熱コイルを備えた高周波電磁誘導装置内に装填して、該電磁誘導発熱性金属体のキューリー温度まで高周波電磁誘導加熱することにより該試料から有機成分を抽出することを特徴とする有機化合物の抽出方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ガラスを加熱溶融する封管作業を省くことができ、安全であり、分析用試料を簡便かつ迅速に封管することができる。また、分析用試料及び抽出溶剤の密封も良好であり、高周波電磁誘導装置内での抽出操作中にガラスチューブ内の溶剤が系外に揮散することがない。しかも、抽出溶剤により封止部材中の化学成分が抽出されて検出されたり、その抽出物質が溶媒や分析試料と反応することを極力防止できるので試料の分析を正確に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の試料セル・キットについて、図面を用いて説明する。図1は、試料セル・キットを組み立てたときの概略図であって、1は下端を封管したガラスチューブ(A)である。ガラスチューブ(A)の上端は開口部となっており、該開口部は封止部材(B)により密封されている。
【0013】
封止部材(B)は、2の樹脂パッキン(b1)と、3のポリプロピレン製フィルム(b2)と、4の樹脂キャップ(b3)とからなり、樹脂パッキン(b1)は、樹脂パッキン(b1)中に含有される化学成分を該ガラスチューブ内に抽出させないためのポリプロピレン製フィルム(b2)により包まれる。したがって、3のポリプロピレン製フィルム(b2)は、4の樹脂キャップ(b3)が露出しないように完全に包み込むために必要な十分な大きさを有している。また、ガラスチューブ(A)はポリプロピレン製フィルム(b2)に包まれた樹脂パッキン(b1)により密封され、該樹脂パッキン(b1)は樹脂キャップ(b3)によりガラスチューブの開口部に固定されている。
【0014】
樹脂キャップ(b3)による固定方法は公知の種々の手段を用いることができるが、樹脂キャップ(b3)の内側と、該樹脂キャップ(b3)が接触するガラスチューブの外壁部分にネジが切られ、そのネジの締め付けにより前記樹脂パッキン(b1)を開口部に圧着するような機構となっていることが好ましい。
【0015】
本発明の試料セル・キットを用いて分析する際には、ガラスチューブ(A)中に分析用試料と該試料中から有機成分を抽出するための有機溶剤を入れた後に、図1の如く試料セル・キットを組み立て、その後、該試料セルを図1中5で示した電磁誘導発熱性金属体で覆い、これを高周波加熱コイルを備えた高周波電磁誘導装置内に装填して、該電磁誘導発熱性金属体のキューリー温度まで高周波電磁誘導加熱することにより該試料から有機成分を抽出する。
【0016】
ガラスチューブ(A)の大きさは、長さ7〜20cm、外径5〜12mm(内径3〜10mm)の範囲が好ましい。また形状は円筒形であることが好ましい。もちろん、高周波電磁誘導加熱装置の大きさや能力、試料の使用量などにより異なる大きさとなることもある。
【0017】
樹脂パッキン(b1)の大きさは、ガラスチューブ(A)の大きさにより種々のサイズのものを使用するが、ガラスチューブ(A)の開口部を覆うのに十分な直径を有する円柱形状のものが好ましい。厚さ(円柱形状の場合の高さに相当する)は、2mm〜5mmであることが好ましい。また、材質はシリコンゴム、アクリルゴム、ポリブタジエンゴム、ブタジエン・アクリロニトリルゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム等、種々のものが使用可能であるが、本発明ではシリコンゴムを使用することが好ましい。シリコンゴムの市販品としては、セプタムゴムを使用することが好ましい。
【0018】
ポリプロピレン製フィルム(b2)の厚さは、4μm〜10μmであることが好ましく、6μm〜7μmであることがより好ましい。この範囲の厚さであると、樹脂パッキン(b1)の柔軟性が損なわれずガラスチューブの密封性が良好であり好ましい。また、大きさは、樹脂パッキン(b1)を包むのに十分な大きさであれば良い、
本発明で使用する樹脂キャップ(b3)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリウレタン、アクリル樹脂、特殊フェノール樹脂等、公知のものを使用することができるが、特殊フェノール樹脂製の樹脂キャップを使用することが好ましい。特殊フェノール樹脂製でガラスチューブを密封すると充填した溶媒の加熱時の損失を極力防ぐ事ができ、効率的な抽出が可能となる。また、特殊フェノール樹脂製キャップは耐熱性にも優れており、溶媒抽出には高すぎる充分な温度(パイロホイルの表示温度で235℃)でも変形は全く無く、何回でも再使用が可能であり、コストも廉価で良好である。
【0019】
本発明では、樹脂パッキン(b1)としてシリコンゴム(セプタムゴム)を使用し、厚さは6μm〜7μmのポリプロピレン製フィルム(b2)を使用し、ポリプロピレン製樹脂キャップ(b3)を組み合わせて使用することが好ましい。このような組み合わせであると、シリコンゴム(セプタムゴム)の柔軟性がポリプロピレン製フィルムとの密着、並びにガラスチューブの開口部との密着のバランスが最良となり、溶媒の高温加熱時におこる溶媒蒸気、内部の高圧化にも耐え得る密着を実現できて好ましい。
【0020】
本発明で使用する電磁誘導発熱性金属体5は、高周波の照射を受けて試料の分解温度未満まで高周波電磁誘導発熱し、しかも試料セルを覆うことのできる金属体であればよく、通常、昇温が早く短時間で安定的に抽出を終了させることができることから、試料の分解温度未満で、かつ試料中の溶剤可溶性成分を抽出可能なキューリー温度を有する強磁性金属体からなる厚さ0.01〜0.5mm程度の金属箔(ホイル)や金属板を適宜選択して用いる。
【0021】
そのような強磁性金属体としては、強磁性金属を有しており、高周波電磁誘導加熱によりキューリー温度(磁性転移点)まで急速に発熱し、その後は高周波電磁誘導加熱を続けることによりキューリー温度を保持する金属体であって、例えば、ニッケル、鉄、コバルトなどの強磁性金属の1種もしくは2種以上からなる金属体、またはこれらと銅、クロム、亜鉛、マンガン、アルミニウムなどのその他の金属との合金からなる金属体が挙げられる。
【0022】
これら強磁性金属体のキューリー温度は、金属の種類や配合組成により大きく異なり、例えばニッケルと銅の合金のキューリー温度は150〜200℃程度であるが、ニッケルのキューリー温度は358℃、ニッケルと鉄の合金のキューリー温度は500〜650℃程度、鉄のキューリー温度は770℃と高温である。本発明では、高周波電磁誘導加熱時の高温加熱により試料の分解や試料の蒸気圧上昇による試料セルの破損を防止するため、これら強磁性金属体の中からキューリー温度が50〜400℃、なかでもキューリー温度が100〜350℃の強磁性金属体を適宜選択して用いることが好ましい。
【0023】
そのような強磁性金属体の市販品としては、例えば、日本分析工業株式会社製のパイロホイルF160、F170、F220、F235、F255、F280、F358(キューリー温度160〜1040℃)などが挙げられる。
【0024】
本発明の試料セル・キットを用いた分析方法に適用可能な分析用試料としては、例えば、樹脂、ペレット、ゴム、紙、木材、セメント硬化物、植物、医薬品錠剤などが挙げられ、その性状は、固形物、顆粒状粉末であっても良い。その形状は、セルに格納可能な大きさであれば、特に制限なく用いることができるが、樹脂又はペレットの場合、冷凍粉砕した粉末状の物が好ましい。
【0025】
ガラスチューブに配する電磁誘導発熱性金属体6の位置は、試料セル・キットを高周波電磁誘導加熱装置にセットした時に高周波の発生位置と電磁誘導発熱性金属体6の位置とが一致するように設定することが好ましい。また、効率的に加熱するために、図1に示したように、試料セル・キットに採取された固形試料が、電磁誘導発熱性金属体6と隣接するようにセットすることが好ましい。
【0026】
本発明の分析方法は、以上のような構成の試料セル・キットのガラスチューブに固形試料と溶剤を入れた後、試料セル・キットを高周波電磁誘導加熱装置内に配し、これをキューリー温度までに高周波電磁誘導加熱して、固形試料中の溶剤可溶化物を溶解した溶剤溶液を分析試料として定性分析、定量分析に用いる方法である。
【0027】
本発明の分析方法に使用する溶剤は、固形試料を溶解せず、固形試料中に含まれる添加剤等を溶解するものを選択する。固形試料がポリスチレン、ポリエチレンペレット等の場合、溶剤としては、例えば、アセトン、n−ヘキサン、クロロホルム、エタノール、メタノール、アセトニトリル等が挙げられる。溶剤の使用量は、先に推奨した大きさ(長さ15〜20cm、内径4〜15mm)のガラスチューブを用いた場合、0.5〜1.5mlの範囲が好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0028】
固形試料の充填量は、特に限定されないが、試料セル容量の2〜50%の範囲が好ましい。本発明の分析方法で用いる高周波電磁誘導加熱装置は、高周波の照射により電磁誘導発熱性金属体を高周波電磁誘導加熱できるものであればよく、特に限定されない。また、高周波の照射による高周波電磁誘導加熱時間は、特に限定されないが、通常10〜120分間の範囲が好ましく、60〜120分間の範囲が特に好ましい。
【0029】
高周波電磁誘導加熱装置を用いて加熱した後、試料セル・キットを取り出し、冷却し、固形試料を分離して固形試料2中の溶剤可溶化物を溶解した溶剤溶液を分析試料とする。このようにして得た試料は、ガスクロマトグラフィー(GC)、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC/MS)などの分析機器を用いた定性分析あるいは定量分析に供される。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0031】
(ブランク実験)
メタノール約300μlを図1の形状の下端が封管され、上端に開口部を有し、開口部付近の外面にネジが切られているカラス試料管に採取した後、シリコンセプタムを内壁面にガラス試料管のネジと嵌合するネジが切られた特殊フェノール樹脂製キャップに装着して、ガラス管口を密封した。これに235℃に加熱可能なパイロホイルを溶液部分にガラス管外側から装着し、高周波加熱コイルを備えた高周波電磁誘導装置(DIC社製、品番03F005)内に装填して、235℃/1時間加熱における溶媒の損失量を検討した。結果を表1に示す。損失量を減少率で示すと1%程度であり、シリコンセプタムによる密封は極めて良好であることが判った。
(1)ガラス試料管:
長さ10cm
外径13mm(上部:開口部)
外径6mm(下部:試料加熱部)
内径7.5mm(上部:開口部)
内径3.8mm(下部:試料加熱部)
(2)シリコンセプタム:スペルコ社製LB/S-11、品番3007-41135
直径11mm×高さ3mmの円柱形
(3) 特殊フェノール樹脂製キャップ:内壁面にガラス試料管のネジと嵌合するネジが切られた特殊フェノール樹脂製キャップ。IWAKI社製、品番9998CAPH415-13
直径15.6mm×高さ13mmの円柱形
【0032】
【表1】

採取質量=メタノール約300μlの質量。
【0033】
(実施例1〜3)
上記ブランク実験における溶媒加熱時にセプタムを厚さ6.0μmのポリプロピレン製フィルム(PPフィルム:(株)リガク社製、品番CH436)でセプタムが露出しないように完全に包んだ以外は、ブランク実験と同様に加熱実験を行った。
結果を表2に示す。
【0034】
【表2】

【0035】
溶媒損失量を減少率で示すと2%以下であり、シリコンセプタム+PPフィルムによる密封でも極めて良好であることが分かった。
【0036】
(実施例4〜6)
実施例1における溶媒をエタノールに変えた以外は実施例1と同様に実施例4〜6の加熱実験を行った。
結果を表-3に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
溶媒損失量を減少率で示すと1%以下であり、シリコンセプタム+PPフィルムによる密封でも極めて良好であることが判った。
【0039】
(実施例7〜9)
実施例1における溶媒をアセトニトリルに変えた以外は実施例1と同様に実施例7〜9の加熱実験を行った。結果を表-4に示す。
【0040】
【表4】

【0041】
溶媒損失量を減少率で示すと1%以下であり、シリコンセプタム+PPフィルムによる密封でも極めて良好であることが判った。
【0042】
(比較例1〜3)
実施例1におけるPPフィルムを市販バルカーテープ(VALQUA社製、品番20-101315)に変えた以外は実施例1と同様に比較例1〜3の加熱実験を行った。
結果を表-5に示す。
【0043】
【表5】

【0044】
溶媒損失量を減少率で示すと40%強であり、シリコンセプタム+バルカーテープによる密封では適切な抽出はできないことが判った。
【0045】
(比較例4〜9)
実施例1におけるPPフィルムをPETフィルム((株)リガク社製、品番3377F3)に変えた以外は実施例1と同様に比較例4〜9の加熱実験を行った。結果を表-6に示す。
【0046】
【表6】

【0047】
溶媒損失量を減少率で示すとバラバラであり、再現性がなかった。シリコンセプタム+PETフィルムによる密封では適切な抽出はできないことが判った。
【0048】
(実施例10)
実施例1においてガラス試料管中にポリエチレン樹脂ペレットの粉砕物15mgを入れた以外は実施例1と同様に実施例10の加熱実験を行った。
図2に従来のガラス封管(本発明のキットを用いずに、試料と溶媒を投入後、上部を加熱溶融封管したガラス管)での抽出物のGC/MS測定のトータルイオンクロマトグラム(TIC)を上段、本法によるキャップ密封による抽出物のTICを下段に示す。主成分のピークは紫外線吸収剤の商品名チヌビン327であるが、ほぼ同等に抽出されていることが判った。又、その他の小さい成分も同等なクロマトグラムを示していた。以上から、本法によるキャップ密封法は従来の加熱溶融ガラス封管法と同様に有効な方法であることが確認された。
【0049】
(実施例11)
実施例1においてガラス試料管中にポリスチレン樹脂に脂肪酸金属塩であるステアリン酸カルシュウムを1500mg/kg(1500ppm)添加した樹脂粉末15mgを入れ、170℃及び235℃/1時間加熱した以外は実施例1と同様に実施例11の加熱実験を行った。
図3及び図4に従来のガラス封管での抽出物のTIC(上段)、本法によるキャップ密封による抽出物のTIC(下段)に示す。図3の170℃/1時間加熱では矢印ピーク(脂肪酸金属塩がメタノールと反応し、脂肪酸メチルエステルが生成。図3-2の矢印の左ピークはパルミチン酸メチル、矢印の右のピークはステアリン酸メチルである)の大きさはガラス封管、キャップ密封共に小さい。一方、図4に示した235℃加熱時のTICの矢印部分の大きさはガラス封管、キャップ密封共に大きくなっている。これは170℃より235℃加熱の方がより反応が進んでいる事を示している。ガラス封管、キャップ密封共にほぼ同等なピーク強度を示すことが確認できた。以上から、本法によるキャップ密封法でも充分定性分析が可能な方法であることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の試料セル・キットの一例に固形の分析用試料及び溶剤を入れた状態を示す断面図である。
【図2】従来のガラス封管での抽出物のGC/MS測定のトータルイオンクロマトグラム(TIC:上段)と、本法によるキャップ密封による抽出物のTIC(下段)チャートである。
【図3】170℃/1時間加熱時の従来のガラス封管での抽出物のGC/MS測定のトータルイオンクロマトグラム(TIC:上段)と、本法によるキャップ密封による抽出物のTIC(下段)チャートである。
【図4】235℃/1時間加熱時の従来のガラス封管での抽出物のGC/MS測定のトータルイオンクロマトグラム(TIC:上段)と、本法によるキャップ密封による抽出物のTIC(下段)チャートである。
【符号の説明】
【0051】
1 ガラスチューブ(A)
2 樹脂パッキン(b1)
3 ポリプロピレン製フィルム(b2)
4 樹脂キャップ(b3)
5 電磁誘導発熱性金属体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析用試料セルを加熱するための高周波加熱コイルを備えた高周波電磁誘導装置に用いる試料セル・キットであって、
一方の端部が封管され、他方の端部に開口部を有するガラスチューブ(A)と、該ガラスチューブの開口部を密封する封止部材(B)とからなり、
該封止部材(B)が、
該ガラスチューブ(A)の開口部を密封するための樹脂パッキン(b1)と、
該樹脂パッキン(b1)を包むためのポリプロピレン製フィルム(b2)と、該開口部を密封するように取り付けられた、ポリプロピレン製フィルム(b2)で包まれた樹脂パッキン(b1)を覆い、該樹脂パッキン(b1)を該開口部に固定するための樹脂キャップ(b3)とからなること、
を特徴とする高周波電磁誘導装置用試料セル・キット。
【請求項2】
前記樹脂パッキン(b1)が、シリコン製ゴムである請求項1記載の高周波電磁誘導装置用試料セル・キット。
【請求項3】
前記樹脂キャップ(b3)が、特殊フェノール樹脂製キャップである請求項1又は2記載の高周波電磁誘導装置用試料セル・キット。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の高周波電磁誘導装置用試料セル・キットの前記ガラスチューブ(A)中に、分析用試料と該分析用試料中の有機成分を抽出するための溶剤を入れ、
次いで、該ガラスチューブの開口部を、前記ポリプロピレン製フィルム(b2)で包んだ前記樹脂パッキン(b1)で封止し、
更に、該樹脂パッキン(b1)を該開口部に固定するための前記樹脂キャップ(b3)を取り付けることにより、該ガラスチューブ(A)の該開口部を密封した試料セルを組み立て、
その後、該試料セルを電磁誘導発熱性金属体で覆い、
これを高周波加熱コイルを備えた高周波電磁誘導装置内に装填して、該電磁誘導発熱性金属体のキューリー温度まで高周波電磁誘導加熱することにより該試料から有機成分を抽出することを特徴とする有機化合物の抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−54215(P2010−54215A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216546(P2008−216546)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】