説明

高周波4重極型線形加速器

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えばイオン注入装置等に用いられる高周波4重極(以下、RFQ:Radio Frequency Quadrupoleと称する) 型線形加速器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】イオン注入装置は、拡散したい不純物をイオン化し、この不純物イオンを磁界を用いた質量分析法により選択的に取り出し、電界により加速してイオン照射対象物に照射することで、イオン照射対象物内に不純物を注入するものである。そして、このイオン注入装置は、半導体プロセスにおいてデバイスの特性を決定する不純物を任意の量および深さに制御性良く注入できることから、現在の集積回路の製造に重要な装置になっている。
【0003】近年、半導体デバイスメーカでは、C−MOSデバイス製造プロセスにおけるレトログレイドウエルの形成、ROM後書込み等の利点を有する、MeV級の高エネルギーイオン注入装置の必要性が高まっている。
【0004】上記高エネルギーイオン注入装置には、イオン加速手段としてRFQ型線形加速器が用いられている。このRFQ型線形加速器には、図7および図8に示すように、筒状の導電性真空容器51内に4本の棒(Rod )状の電極52・52・53・53を互いに90゜の間隔で水平軸まわりに配置し、これらの電極を導電性の第1ポスト56・56と第2ポスト57・57とで支持した構造の、いわゆる4Rod−RFQ型線形加速器がある。
【0005】上記第1ポスト56・56は対角線上に相対向する一対の電極52・52を支持し、また、第2ポスト57・57は同じく対角線上に相対向する一対の電極53・53を支持している。これら第1ポスト56・56および第2ポスト57・57は、真空容器51の内底部に固着された導電性のベース58に立設されている。
【0006】上記4Rod−RFQ型線形加速器は、2対の電極(52・52および53・53)が電極間のキャパシタンスと第1および第2ポスト56・57のインダクタンスとで結合された共振器となり、その構造により共振周波数が決定される。
【0007】従って、所定の共振周波数を得ようとする場合、第1および第2ポスト56・57の高さHやこれらの間隔hが適当に選定される。
【0008】そして、図示しない高周波電源から電極52・52・53・53に所定周波数の高周波電力を供給し、これらの中心軸上に4重極電場ができるように共振させることにより、これを通過するイオンが所定エネルギーまで加速される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上記従来の4Rod−RFQ型線形加速器において、共振周波数をより低くする場合、第1および第2ポスト56・57のインダクタンスを大きくする必要があり、このため、第1および第2ポスト56・57の高さHを高くしたり、これらの間隔hを大きくしなければならず、装置が大型化するのは拒めない。
【0010】従って、装置の製作コストは大きなものとなり、また、その取扱いにおいても大きな負担となる。さらに真空容器51の表面積が大きくなり、真空のガスロードも大きくなる。
【0011】本発明は、上記に鑑みなされたものであり、その目的は、小型で取扱い易く、製作コストおよび真空のガスロードを小さくできる高周波4重極型線形加速器を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明の高周波4重極型線形加速器は、上記の課題を解決するために、筒状の導電性真空容器と、この真空容器内を通過する被加速粒子の通過経路のまわりに配置され、対角線上に対向する第1対向電極対および第2対向電極対とを備え、上記第1対向電極対導電性の第1支持部材によって上記導電性真空容器に支持され、上記第2対向電極対導電性の第2支持部材によって上記導電性真空容器に支持される高周波4重極型線形加速器であって、以下の手段を講じている。
【0013】即ち、上記第1支持部材および第2支持部材は上記真空容器に立設され、且つ、第1支持部材と第2支持部材とは互いに立設方向が異なっている。
【0014】
【作用】上記の構成によれば、筒状の導電性真空容器内には、導電性の第1支持部材に支持された第1対向電極対と、導電性の第2支持部材に支持された第2対向電極対とが、対角線上に対向するかたちで被加速粒子の通過経路のまわりに配置されている。
【0015】ここで、上記第1支持部材および第2支持部材は上記真空容器に立設されている。即ち、第1支持部材と第2支持部材とは、真空容器の壁を介して接続されることになる。
【0016】ところで、上記高周波4重極型線形加速器は、2対の対向電極対が電極間のキャパシタンスと第1支持部材および第2支持部材のインダクタンスとで結合された共振器とみなされ、共振電流は、真空容器の内壁表面を介して第1支持部材および第2支持部材の表面部を流れる。従って、真空容器の内壁に沿った第1支持部材と第2支持部材との間の距離は、共振空洞のインダクタンスを決定する。
【0017】そして、上記第1支持部材と第2支持部材とは互いに立設方向が異なっているため、真空容器の内壁に沿った第1支持部材と第2支持部材との間の距離は、第1支持部材と第2支持部材との被加速粒子の加速方向(対向電極対の長さ方向)の間隔よりも長くなる。
【0018】従って、第1支持部材および第2支持部材の高さや幅、およびこれらの被加速粒子の加速方向の間隔が同じであり、装置そのものの大きさが同じであっても、共振空洞のインダクタンスをより大きくでき、共振周波数を低くすることができる。換言すれば、共振周波数が同じであれば、装置の小型化を実現できる。
【0019】
【実施例】本発明の一実施例について図1ないし図4に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0020】本実施例に係る4Rod−RFQ型線形加速器10は、図4に示すように、高エネルギーイオン注入装置に適用されるが、これに限定されるものではない。
【0021】上記イオン注入装置において、引出し電源22によってイオン源21から引出されたイオンは、質量分析器23によって質量分析され、所定質量のイオン(被加速粒子)のみが選択的に導出されて静電加速管24に導入される。この静電加速管24は、加速電源25によって4Rod−RFQ型線形加速器10に適合するエネルギーまでイオンを加速する。加速されたイオンはQレンズ等の集束系26によって整形された後、4Rod−RFQ型線形加速器10に導入される。4Rod−RFQ型線形加速器10は、高周波電源27からの高周波電力を受けて所定の高エネルギーまで上記イオンを加速する。この後、上記高エネルギーイオンは、図示しない注入室内のウエハ等のターゲット28に照射される。
【0022】上記4Rod−RFQ型線形加速器10は、図2および図3に示すように、縦断面正方形の筒状の導電性真空容器1を備えている。尚、本実施例の場合、真空容器1の一辺の長さが20cm以下であり、圧力に対する強度にはなんら問題はない。この真空容器1は、縦断面L字状の第1分割壁1aおよび第2分割壁1bから成り、これら第1分割壁1aと第2分割壁1bとは、溶接によるか、または、一般的な真空シールにより接合されている。
【0023】そして、上記真空容器1内には被加速粒子としてのイオンの通過経路のまわりに互いに90゜の間隔で4本の棒(Rod )状の電極2a・2b・3a・3bが配置されている。上記電極2a・2bおよび電極3a・3bは対角線上に相対向しており、電極2a・2bにより第1対向電極対2が、また、上記電極3a・3bにより第2対向電極対3が構成されている。
【0024】上記第1対向電極対2は、第1支持部材としての導電性(例えば金属製)の第1ポスト6a・6bにより支持されている。また、上記第2対向電極対3は、第2支持部材としての導電性(例えば金属製)の第2ポスト7a・7bとにより支持されている。
【0025】また、上記第1ポスト6a・6bは、間隔Cをおいて上記第1分割壁1aに立設されている。本実施例の場合、これら第1分割1aおよび第1ポスト6a・6bはNC(Numerical Control )加工により一体に成形されているが、第1ポスト6a・6bと第1分割1aとがボルト等の締結手段により接続されてもよい。尚、第1ポスト6a・6bと第1分割1aとが一体に成形されている場合は必要がないが、締結手段により接続される場合、これらの面接部には、例えば表面に銀メッキが施されたステンレス線を挟んで締めつけ、電気的コンタクトをとる、いわゆる高周波シールが施される。
【0026】また、上記第2ポスト7a・7bは、上記第1ポスト6a・6bの間隔Cと同じ間隔をおいて第2分割壁1bに立設されている。上記同様、これら第2分割1bおよび第2ポスト7a・7bはNC加工により一体に成形されているが、ボルト等の締結手段により接続されてもよい。
【0027】そして、上記第1分割壁1aと第2分割壁1bとを合体させて筒状の真空容器1を形成すれば、第1ポスト6aと第2ポスト7aとのイオン加速方向の間隔Eと、第1ポスト6bと第2ポスト7bとのイオン加速方向の間隔Eは等しくなり、第1ポスト6a(6b)の立設方向と第2ポスト7a(7b)の2設方向とが互いに成す角度θは90゜となる(第1ポスト6a(6b)と第2ポスト7a(7b)とは、互いに立設方向が異なっている)。
【0028】尚、上記第1対向電極対2および第2対向電極対3、そして第1ポスト6a・6bおよび第2ポスト7a・7bには、大きな高周波電流が流れるので、これらは高温になる。そこで、電極2a・2b・3a・3b内部には冷却液を流す冷却液路13が形成されている。また、上記冷却液路13に接続されて第1分割壁1aの外部へと続く冷却液路14が、第1ポスト6a・6bおよび第1分割壁1aの内部に形成されている。また、第2ポスト7a・7bおよび第2分割壁1bの内部にも、冷却液路13に接続される冷却液路(図示せず)が形成されている。
【0029】また、上記冷却液路14の端部からは、冷却液を上記冷却液路13・14へ導入・導出する冷却液導入出管9・9が図示しない循環ポンプへと延びている。
【0030】上記4Rod−RFQ型線形加速器10は、第1対向電極対2と第2対向電極対3とが電極間のキャパシタンスと第1および第2ポスト6a・6b・7a・7bのインダクタンスとで結合された共振器とみなされる。
【0031】そして、高周波電源27(図4参照)から第1対向電極対2および第2対向電極対3に所定周波数の高周波電力を供給し、これらの電極中心軸上に4重極電場ができるように共振させることにより、電極中心を通過するイオンが所定エネルギーまで加速される。
【0032】このとき、磁場は第1および第2ポスト6a・6b・7a・7bを取り巻くようにして発生し、共振電流iは、図1に示すように、真空容器1の内壁表面部を伝わって第1ポスト6aおよび第2ポスト7aの表面部を流れる。従って、第1ポスト6aと第2ポスト7aとを接続する真空容器1の内壁の距離B(B=B1 +B2 )は、第1および第2ポスト6a・7aの高さHや幅Wと共に、共振空洞のインダクタンスを決定する。
【0033】従来の4Rod−RFQ型線形加速器では、第1ポストと第2ポストとは共に同一のベース上に立設されているため、共振電流iは、第1ポストと第2ポストとのイオン加速方向の間隔と同じ距離のベース表面部を伝わって第1ポストと第2ポストとの表面を流れる。即ち、共振電流iが第1ポストと第2ポストとの間を伝わる距離は、第1ポストと第2ポストとのイオン加速方向の間隔と同じである。
【0034】一方、本実施例における4Rod−RFQ型線形加速器10は、上記のように、第1ポストと第2ポストとのイオン加速方向の間隔Eが従来のものと同じであっても、共振電流iが第1ポスト6aと第2ポスト7aとの間を伝わる距離、即ち、第1ポスト6aと第2ポスト7aとを接続する真空容器1の内壁の距離B(B=B1 +B2 )は、第1ポスト6aと第2ポスト7aとのイオン加速方向の間隔Eよりも当然大きくなる。
【0035】このため、本実施例に係る4Rod−RFQ型線形加速器10においては、第1および第2ポスト6a・7aの高さH、幅W、およびこれらのイオン加速方向の間隔Eが従来のものと同じであり、装置そのものの大きさが従来と何ら変わりなくとも、共振空洞のインダクタンスを従来のものより大きくでき、共振周波数を低くすることができる。換言すれば、本実施例に係る4Rod−RFQ型線形加速器10は、従来と同様の共振周波数のものであれば、装置の小型化を実現できる。
【0036】従って、本実施例に係る4Rod−RFQ型線形加速器10は、装置の小型化を実現できると共に、従来必要であったベースを省けるので、従来に比べて装置の製作コストを削減できる。また、小型化されるため、真空のガスロードを小さくできると共に、取扱い上の負担も小さくなる。
【0037】尚、本実施例の4Rod−RFQ型線形加速器は小型のものであるため、筒状の真空容器1の縦断面を正方形状にしているが、これに限定されるものではなく、真空容器1は例えば円筒形であってもよい。この場合、例えば図5(図1ないし図3に示した部材と同一の機能を有する部材には、同一の符号を付記している)に示すように、第1ポスト6aと一体に成形された縦断面半円状の第1分割壁1cと、第2ポスト7aと一体に成形された縦断面半円状の第2分割壁1dとを接合して真空容器1を形成するようにすればよい。
【0038】また、本実施例では、第1ポスト6a(6b)の立設方向と第2ポスト7a(7b)の立設方向とが互いに成す角度θは90゜であるが、第1ポスト6a(6b)と第2ポスト7a(7b)との立設方向が互いに異なっていれば(即ち、θ≠0゜であれば)、何ら問うものではない。従って、例えば図6(図1ないし図3に示した部材と同一の機能を有する部材には、同一の符号を付記している)に示すように、上記角度θが180゜になるように設けられていてもよい。この場合、共振電流iが第1ポスト6aと第2ポスト7aとの間を伝わる距離が最も長くなり、共振周波数が最も低くなる。
【0039】
【発明の効果】本発明の高周波4重極型線形加速器は、以上のように、対角線上に対向する第1対向電極対導電性の第1支持部材によって導電性真空容器に支持さ、対角線上に対向する第2対向電極対導電性の第2支持部材によって上記導電性真空容器に支持され、上記第1支持部材と第2支持部材とは、導電性の真空容器に立設され、且つ、第1支持部材と第2支持部材とは互いに立設方向が異なっている構成である。
【0040】それゆえ、真空容器の内壁に沿った第1支持部材と第2支持部材との間の距離は、第1支持部材と第2支持部材との被加速粒子の加速方向の間隔よりも長くなる。このため、第1支持部材および第2支持部材の高さや幅、およびこれらの被加速粒子の加速方向の間隔が従来と同じであり、装置そのものの大きさが従来のものと変わらなくとも、共振空洞のインダクタンスをより大きくでき、共振周波数を低くすることができる。換言すれば、共振周波数が同じであれば、従来のものに比べてより装置の小型化を図れる。従って、小型で取扱い易く、製作コストおよび真空のガスロードを小さくできるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すものであり、4Rod−RFQ型線形加速器を示す一部断面斜視図である。
【図2】上記4Rod−RFQ型線形加速器を示す縦断面図である。
【図3】図2のX−X線矢視断面図である。
【図4】上記4Rod−RFQ型線形加速器が適用されているイオン注入装置の一例を示す概略構成図である。
【図5】本発明の他の実施例を示すものであり、円筒形の真空容器を有する4Rod−RFQ型線形加速器を示す縦断面である。
【図6】本発明の他の実施例を示すものであり、第1ポストの立設方向と第2ポストの立設方向とが互いに成す角度θが180゜である4Rod−RFQ型線形加速器を示す縦断面である。
【図7】従来例を示すものであり、4Rod−RFQ型線形加速器を示す縦断面である。
【図8】上記4Rod−RFQ型線形加速器を示す縦断面図である。
【符号の説明】
1 真空容器
2 第1対向電極対
3 第2対向電極対
6a・6b 第1ポスト(第1支持部材)
7a・7b 第2ポスト(第2支持部材)
10 4Rod−RFQ型線形加速器(高周波4重極型線形加速器)

【特許請求の範囲】
【請求項1】筒状の導電性真空容器と、この真空容器内を通過する被加速粒子の通過経路のまわりに配置され、対角線上に対向する第1対向電極対および第2対向電極対とを備え、上記第1対向電極対導電性の第1支持部材によって上記導電性真空容器に支持され、上記第2対向電極対導電性の第2支持部材によって上記導電性真空容器に支持される高周波4重極型線形加速器であって、上記第1支持部材および第2支持部材は上記真空容器に立設され、且つ、第1支持部材と第2支持部材とは互いに立設方向が異なっていることを特徴とする高周波4重極型線形加速器。
【請求項2】筒状の導電性真空容器と、この真空容器内を通過する被加速粒子の通過経路のまわりに配置され、対角線上に対向する第1対向電極対および第2対向電極対と、上記第1対向電極対を支持する導電性の第1支持部材と、上記第2対向電極対を支持する導電性の第2支持部材とを備えている高周波4重極型線形加速器において、上記第1支持部材および第2支持部材は、被加速粒子の加速方向に互いに間隔を開けて上記真空容器に立設され、且つ、第1支持部材と第2支持部材とは、上記被加速粒子の加速方向の軸線回りに互いに立設方向が異なることで、共振電流の流れる距離を長くし、共振空洞のインダクタンスを大きくすることを特徴とする高周波4重極型線形加速器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【特許番号】特許第3047548号(P3047548)
【登録日】平成12年3月24日(2000.3.24)
【発行日】平成12年5月29日(2000.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−238110
【出願日】平成3年9月18日(1991.9.18)
【公開番号】特開平5−74597
【公開日】平成5年3月26日(1993.3.26)
【審査請求日】平成9年12月24日(1997.12.24)
【出願人】(000003942)日新電機株式会社 (328)
【参考文献】
【文献】特開 平4−342999(JP,A)
【文献】特開 昭58−212100(JP,A)
【文献】特開 平5−190298(JP,A)