説明

高固形分コーティングのためのアクリレートをベースとするフッ素化コポリマー

【解決手段】メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート及び2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートを含む、一連の低分子量、中分子量及び高分子量コポリマーをモノマー枯渇条件下に溶液重合により合成した。そのコポリマーをメチル化メラミンホルムアルデヒド樹脂により架橋して、熱硬化性アクリルを提供する。
【効果】コポリマー組成物中のフッ素化モノマーがより高い濃度の場合には、より低い湿潤化能、より高い酸素透過性及びより低い屈折率が観測され、そして、高分子量コポリマーの数平均ヒドロキシル官能価が高いことにより、アクリルフィルムの架橋密度が増加し、それにより、引張強度及び引張弾性率が改良された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本願は2010年10月1日に出願された米国特許仮出願第61/388,665号の優先権を主張し、その全内容を参照により本明細書中に取り込む。
【0002】
発明の分野
本発明はアクリレートコポリマーに関し、特に、コーティングのために使用されるアクリレートフルオロポリマーに関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
フルオロポリマーは耐薬品性(酸、塩基、溶剤及び炭化水素に対する)、高熱安定性[1]、低摩擦[2]及び優れた耐候性が要求されるコーティング用途のための理想的な解決法であると考えられている。また、光学及び電気特性、低誘電定数、低誘電正接[3]及び低表面エネルギー[4、5]のユニークな組み合わせにより、広範囲の用途のためのフッ素化学における興味が増大している。フッ素化オレフィンをベースとするポリマーに加えて、段階成長フルオロポリマーは同様の性能を得るために、また、コーティング用途の可能な範囲を広げるために開発されてきた。低いフッ素含有分でさえ、実質的に有利な特性をもたらす[6]。アクリルは非黄変性でありかつ耐薬品性、すなわち、ガソリン、塩、オイル、不凍剤に耐性である。このように、商業コーティングにおいて、フッ素化アクリルは自動車産業において、特に、自動車クリアコート配合物のために使用されている。
【0004】
フルオロアクリルコポリマーは光学[7、8]、エレクトロニクス[9]及び建設(保護コーティング[10〜12]及び高性能コーティング[13])に用途を見いだすように広く研究されてきた。エマルジョン重合[14〜18]、原子移動ラジカル重合[19〜21]及び高放射線重合[22、23]により調製されたフルオロアクリレートの多くの報告がなされてきた。さらに、フッ素化メタクリレートは重合収縮の低減及び改良された強度[24]のフルオロポリマーの合成について調査されてきた。表面エネルギー及び表面湿潤化能の低減に対するフッ素化モノマーの効果は他にも公表されている[25、26]。
【0005】
多くのフッ素化コーティングは最近にも報告されている。Wynneら[27]は短いフッ素化側鎖によるポリウレタンの表面変性に焦点を当てた。フッ素化基は疎水性を改良し、一方で、従来のポリウレタンのバルク特性を残していた。また、抗菌性コーティングの有効性はフッ素化側鎖及び第四級アルキルアンモニウム側鎖[28]の両方の種類に依存することも示された。Oberら[29]は表面領域として疎水性(フッ素化)及び親水性官能基をベースとする防汚性コーティングを報告した。明確な湿潤化能とともに表面領域での海洋生物付着挙動も研究した。Delucchiら[30]はイソシアネートにより硬化されるペルフルオロエーテルオリゴマージオールをベースとするフルオロポリエーテルコーティングを研究した。架橋密度、相分離及びガラス転移温度などの他の物理的特性がコーティング性能に主要な役割を果たすことができるので、フッ素含有分は必ずしも支配的なパラメータでないことが結論付けられた。
【0006】
溶剤型高固形分アクリル技術は自動車及び一般産業プラスチックのコーティングになおも広く使用されている。溶剤型アクリル技術の主要な利点は付着性、急速乾燥及び耐久性である[31]。他方、幾つかの政府の規制の要求は環境を改善するための製品開発をもたらし、そのことがコーティング産業における主要な動力源の1つである。それゆえ、高固形分アクリルは継続的な研究の対象となっていた[32〜36]。しかしながら、高固形分コーティングのためのフッ素化アクリルコポリマーの合成及び特性化に関する非常に包括的な研究は未だに報告されていない。コーティング産業はなおも、アクリルの製造のために従来のフリーラジカル開始重合に依存しているので、官能性アクリルコポリマーを経済的に製造することができる技術によって、高固形分(60wt%)の表面活性アクリルを適度の多分散度をもって得ることが重要である。
【発明の概要】
【0007】
発明の要旨
メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート及び2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートを含む、一連の低、中及び高分子量コポリマーをモノマー枯渇条件下に溶液重合により合成した。このアクリレートをベースとするコポリマーはFTIR、H,13C及び19F NMR及びMALDI−TOF質量分析法を用いて特性化した。コポリマーの分子量及びガラス転移温度はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)及び示差走査熱量法(DSC)を用いて決定した。コポリマーをメチル化メラミンホルムアルデヒド樹脂により架橋し、熱硬化性アクリルを得た。アクリルコーティングの表面、光学、バリア、機械及び粘弾性特性を調査した。アクリル表面におけるフッ素化単位の濃縮度は動的接触角を測定して直接的に確かめた。コポリマー組成物中のフッ素化モノマーがより高濃度であると、湿潤化能がより低く、酸素透過性がより高く、そして屈折率がより低いことが観測された。高分子量コポリマーの数平均ヒドロキシル官能価が高いと、アクリルフィルムの架橋密度が増加し、引張強度及び引張弾性率が改良されることになった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図面の簡単な説明
【図1】図1は(a)フッ素化及び(b)非フッ素化アクリルコポリマーの分子構造の模式図である。
【0009】
【図2】図2はF10−CTA5で特定したコポリマーのフーリエ変換赤外分光(FTIR)スペクトルである。
【0010】
【図3】図3はF10−CTA5で特定したコポリマーの質量分析スペクトルである。
【0011】
【図4】図4は本発明の実施形態による酸触媒下でのコポリマー中のヒドロキシル基とメラミンホルムアルデヒド樹脂による架橋反応の模式図である。
【0012】
【図5】図5は本発明の実施形態によるコポリマーのTFEMA含有分の関数としての(a)引張強度及び(b)引張弾性率のグラフプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明の詳細な説明
本発明はトップコート組成物及び該トップコート組成物の製造方法を開示する。トップコート組成物は自己重層化コーティングの一部として用いられも又は用いられなくてもよく、その組成物は自動車用コーティングとしての利用性を有する。
【0014】
トップコート組成物は、フッ素化アクリレート、フッ素化メタクリレート、又は、メタクリレートもしくはアクリレートと共重合したフッ素化炭化水素などのアクリレート及び/又はメタクリレートを含むコポリマーであることができる。さらに、開始剤、溶剤、連鎖移動剤、触媒及び/又は架橋剤は、トップコート組成物及び/又はトップコートの製造方法において含まれてよい。特定の場合に、アクリレートは複数種のアクリレートであることができ、たとえば、下記の2種以上のもの:メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートなどを含むことができる。さらに、アクリレートはトップコート組成物の1〜25wt%、2.5〜15wt%又は5〜12.5wt%であることができる。
【0015】
架橋剤はメチル化メラミンホルムアルデヒドであることができ、又は、代わりに、ホルムアルデヒド不含樹脂であることができる。たとえば、例示の目的のみとして、架橋剤はエチレングリコールアクリレート、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミドなどであることができる。
【0016】
よりよく例示するために、しかし、本発明の範囲を決して限定することなく、例示のトップコート組成物及びトップコート組成物の製造方法を下記に提供する。
【0017】
材料
メチルメタクリレート(MMA)、n−ブチルアクリレート(BA)、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、p−トルエンスルホン酸一水和物(ACS試薬、≧98.5%)、2−ヒドロキシルエチルメルカプタン、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)(AIBN)、メチルエチルケトン(MEK)(ACS試薬、≧99.0%)及びn−ヘキサン(ACS試薬、≧99.0%)をAldrich Chemical Companyから購入した。2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA、商品名:Fluorester)はTosoh F-Tech, Inc.により提供された。メタノールエーテル化メラミンホルムアルデヒド樹脂(商品名:Luwipal 072)をBASF Corporationから得た。すべての材料をさらなる精製なしに受け取ったまま使用した。
【0018】
モノマー、溶剤、開始剤、連鎖移動剤及び触媒の化学構造を表1に示す。
【表1】

【0019】
一般合成手順
恒温水浴中に浸漬された、温度計、メカニカルスターラ、窒素ガスインレット及び還流凝縮器を装備した500mL4つ口丸底フラスコ中で溶液重合を行った。メチルエチルケトンを溶剤として用いた。溶剤の半分(60mL、48.24g)を最初に反応フラスコに装填し、そして60℃の温度に加熱した。残りの溶剤(60mL、48.24g)を連鎖移動剤(2−ヒドロキシエチルメルカプタン)及び開始剤(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル))とともにモノマー溶液に添加した。シリンジ/ニードル/ポンプセットアップを用いて、1時間にわたって一定フィード速度で混合物を反応フラスコにフィードした。その後、初期量の10wt%の開始剤を溶剤(5mL)中に溶解させ、そして凝縮器をとおして系に添加した。さらに攪拌を数時間行った(表2を参照されたい)。未反応のモノマー及び溶剤を最初に、ロータリーエバポレータを用いて過剰の加熱を行うことなく除去した。溶液を過剰のn−ヘキサン(2×500mL)で洗浄し、存在していた残留モノマー及び他の不純物を完全に除去した。沈殿したコポリマーを真空炉中にて40℃で96時間乾燥した。後に、生成物をメチルエチルケトン中に再溶解し、60wt%高固形分溶液を得た。さらなるロータリーエバポレーション及びn−ヘキサン抽出の後に、フーリエ変換赤外(FTIR)分光分析はモノマーのビニル基から生じるC=C結合伸縮ピークの消失を確認した。
【0020】
一連の低、中及び高分子量コポリマーを表2に示す合成系に使用される化学物質の量を用いて合成した。コポリマー組成はH NMR分光法により、定量分析のためのモノマー官能基のケミカルシフトの積分面積を用いて判り、そして収率は90%±5%と決定された。
【表2】

【0021】
コポリマーの命名ではモノマーである2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)及び連鎖移動剤である2−ヒドロキシエチルメルカプタンの組成物中での濃度に焦点を当てている。特定は2つの用語と2つの数値からなる。例として、表2のコポリマーF5CTA2.5では、第一の用語「F」はTFEMAモノマーを指し、そして文字「F」の次の数字「5」はフィード中のTFEMAモノマーの濃度が5vol%であることを示す。第二の用語「CTA」は連鎖移動剤を指定し、そして続く数字「2.5」は連鎖移動剤の濃度(2.5wt%)を示す。アクリルコポリマーのH及び13C NMR共鳴割り当てを表3に示す。
【表3】

【0022】
フィルムの調製
フィルム形成はコポリマーをメラミンホルムアルデヒド(MF)樹脂により架橋することにより行った。60wt%高固形分アクリルコポリマー溶液(10g)を、MF樹脂(2.406g)と、MF樹脂中のメトキシ基/コポリマー中のヒドロキシ基の2:1当量比を基準に混合した。MF樹脂の当量は80g/eqであり、ダイマー、トリマー及びより高級のオリゴマーの存在から得られた[37]。強酸触媒としてp−トルエンスルホン酸一水和物、1wt%(0.02406g)のMF樹脂を配合物に添加した。混合物を周囲条件下(1atm、24±2℃)に1時間攪拌し、その後、薄いフィルムをスチールパネル及びガラスパネル上にドローダウンバーにより、湿潤厚さ125μmでキャスティングした。フィルムを室温にて12時間、蒸発させ、そして120℃で1時間硬化した。ガラスパネル上にキャスティングしたフィルムを、粘弾性特性、引張試験、酸素透過性及び屈折率測定、ガラスパネルからのフィルムのピールオフのために準備した。スチールパネル上にキャスティングしたフィルムは、鉛筆硬度(ASTM D3363)、クロスハッチ付着力(ASTM D3359)、プルオフ付着力(ASTM D4541)、耐衝撃(ASTM D2794)、テーバー摩擦(ASTM D4060)、グロス(ASTM D523)及び耐溶剤性(ASTM D4752)などのコーティング試験に用いた。乾燥フィルム厚さは、通常、50〜80μmであった。すべてのフィルムを試験前に7日間室温にて保存した。
【0023】
計器
ダイアモンド結晶UATRを用いたThermo Scientific Nicolet 380 FTIRで4000〜400cm−1で32回スキャンしてフーリエ変換赤外(FTIR)分光分析を行った。H NMR、13C NMR及び19F NMRスペクトルを、溶剤としてクロロホルム−d中で、Gemini-300MHzスペクトロメータ(Varian)にて記録した。
【0024】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)ではWaters装置を用い、その装置ではHR4、HR2、HR1、HR0.5ステラゲル(styragel)及び500Åウルトラステラゲル(ultrastyragel)カラムが直列に連結されている。ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析は蒸留されたテトラヒドロフラン(THF)中の0.1%(w/v)サンプル溶液で室温にて行った。溶液を0.45μm膜シリンジフィルタ上でろ過し、そして200μLをエフルエント流速1.0mL/分でクロマトグラフ中に注入した。検量曲線はポリスチレン(PS)標準を用いて得た。
【0025】
LSIモデルVSL-337NDパルス窒素レーザ(337nm、3nmパルス幅)、2段階グリッドレスリフレクタ及び単一ステージパルスイオン抽出源を装備したBruker REFLEX-III 飛行時間型マトリックス支援レーザ脱離イオン化質量分析計 (Bruker Daltonics, Bi11erica, MA)を用いて、マススペクトル実験を行い、コポリマーの化学構造を決定するのを支援した。ジトラノールマトリックスの別個のTHF(非晶性、≧99.9;Aldrich)溶液(20mg/mL)(>97%;Alfa Aesar)、トリフルオロ酢酸ナトリウム(10mg/mL)(>98%;Aldrich)及びコポリマー(10mg/mL)をマトリックス:カチオン化塩:コポリマー(10:1:2)の比で混合し、そして得られた混合物0.5μLをMALDI標的プレート上に導入した。リフレクトロンモードでスペクトルを得た。窒素レーザの減衰を調節して、所望しないコポリマーフラグメンテーションを最小化し、そして感度を最大化した。マススケールの検量を、サンプルとして同様の分子量を有するポリ(メチルメタクリレート)標準(Fluka)を用いて外部的に行った。
【0026】
ガラス転移温度(Tg)は、約10mgの封入されたサンプルを用いて示差走査熱量計(DSC)(2920、TA Intstruments)により測定した。データは、最初に−50℃に冷却し、その後、10℃/分のスキャン速度で200℃に加熱することにより、動的窒素流(40mL/分)下に行われる第二のスキャンにより選択された。第一のスキャンは熱履歴を除去するために行った。ガラス転移温度(Tg)値は熱容量遷移領域の中心点として取った。
【0027】
Brookfield LV DV II + プロデジタル粘度計を用いて、固形分(コポリマー)の分子量がコポリマー溶液(60wt%固形分)の粘度に対して及ぼす効果を評価した。使い捨てサンプルチャンバーと組み合わせた小サンプルアダプタアクセサリを用いて16mLという非常に少量サンプル体積で粘度を測定した。0.22の剪断速度定数でSC-25スピンドルを用いて、周囲条件(1atm、24±2℃)で測定を行った。剪断速度はスピンドルの回転速度、スピンドル及びサンプルチャンバーのサイズ及び形状、そしてこのように、チャンバー壁とスピンドル表面との距離に依存する。結果として、剪断速度はスピンドルの剪断速度定数(SRC=0.22)を100rpmの選択されたスピンドル速度と積算することにより計算し、それは精密な剪断速度22s−1を提供した。
【0028】
Rame-Hart 接触角ゴニオメータ、モデル100-00により、脱イオン水及びエチレングリコールを用いて接触角を測定した。シリコンウエハを小さい正方形の片に切断し、スチームバスにて1時間還流凝縮器を用いてHSO(70wt%)及びH(30wt%)の溶液中で洗浄した。その後、ウエハを蒸留水で洗浄し、そして窒素ガスで乾燥した。後に、シリコンウエハをコポリマー希釈溶液でスピンコートティングした。各サンプルから3つのランダムに選択したスポットでの前進角及び後退角の6つの画像を画像捕獲装置(Dazzle DVC, Dazzle media)を用いて撮った。ドロップレットの両側での接触角をScion画像を用いて測定した。すべての接触角の平均値を表面エネルギーの計算に用いた。さらに、各動的接触角(前進及び後退)の6つの測定値の標準偏差を計算し、誤差として報告した。測定値は周囲条件(1atm、24±2℃)で行った。
【0029】
正弦引張モードで1Hzの周波数及び−50〜200℃の範囲にわたって3℃/分の加熱速度を用いて、動的機械熱分析器(Perkin Elmer Instruments, Pyris Diamond DMTA)で粘弾性特性を測定した。測定の間、40psiに設定したN流速でDMAファーネス中に循環させた。長方形試験試料(長さ15mm、幅8〜10mm及び厚さ0.05〜0.08mm)に対して、ギャップ距離を2mmで設定した。Tanδの最大値を用いて、ガラス転移温度を決定し、一方、ゴム弾性平坦領域の最小貯蔵弾性率を用いて架橋密度を決定した。
【0030】
Instron universal electromechanical tester 5567を用いて、すべての配合物に関して試料の引っ張り試験を行った。試験の間に、長方形試験試料(長さ35mm、幅6mm及び厚さ0.05〜0.08mm)を試験機械のグリップ中に入れ、グリップが均一かつ硬く締められていることを注意深く確認し、試験の間の試料の滑りを防止した。機械のクロスヘッド速度を1mm/分の速度に設定した。その速度は試料のゲージ長さ25mm及び歪み速度0.04分−1を考慮して計算した。試料を一定の伸張速度で引っ張った。各配合物で10個の試料を試験し、最も近い値を選択して平均値を得た。標準偏差を誤差バーとして示した。
【0031】
架橋したフィルムの酸素透過率を8001モデル酸素透過分析器(Illinois Instruments,Inc.)により測定した。0.05〜0.08mmの厚さの各フィルムサンプルを、フィルムサンプルのサイズよりも小さい円形の孔を中心に含む2つのスチールマスキングプレートの間にサンドイッチした。後に、シリコーン不含フィルムシーラントを用いて、試験チャンバー中にプレートを入れた。純粋な酸素ガス(99.9%)を40psiでチャンバーの上部半分に20cm/分の流速で送り、一方、酸素不含(99.999%ゼログレード窒素)キャリアガスを40psiでチャンバーの下部半分に10cm/分の流速で導入した。下部チャンバー中にフィルムをとおして拡散する酸素分子は窒素ガスによりセンサーに輸送された。これにより、フィルムをとおした酸素透過率(OTR)の直接測定が可能であった。試験は乾燥条件下に0%相対湿度で行い、そして測定のOTR単位は(cm)/m/日及びバーラー(10−11(cm)cm.cm−2.s−1.mmHg−1)として報告した。「cm」はフィルムの厚さを示す。「cm−2」及び「mmHg−1」はそれぞれフィルムの表面積の逆数及び酸素ガスの圧力の逆数である。
【0032】
コポリマーのn値はアッベ屈折計、モデル60/HR(Epic, Inc.)を用いて周囲温度で測定した。屈折計の光源はナトリウムD1(イエロー)ランプであった。プリズムの屈折率nDprismは20℃で589.6nmの使用波長(λ)で1.91617である。コポリマー溶液をピペットから数滴、プリズム表面に直接的に吐出させ、そしてサンプル上でヒンジ付きプリズムボックスを閉めた。硬化したフィルムでは、既知の屈折率を有する適切な湿潤性液体(nDsample<nDliquid<nDprism)を用いて、上部プリズム及び下部プリズムの表面ならびにサンプルをコーティングした。観測されるフィールドが明部及び暗部に分かれ、暗部が下方になる位置にコントロールノブを回転させて、目盛り読みをフィールド望遠鏡で行った。サンプルの屈折率nDsampleを下記表現を用いて目盛り読み値から直接的に得た。
【数1】

(上式中、φは度での目盛り読み値であり、αは60.000°であり、βは29.500°であり、nDsampleはプリズムガラスの屈折率(1.91617)である)。
【0033】
本研究の主な目的はフルオロアルキル含有モノマーの存在及び他の非フッ素化反応体中でのその正確なバランスにより付与されるユニークな特性を有するアクリレートをベースとするコポリマーを合成することであった。さらに、この研究は高固形分フルオロアクリレートに対して、ヒドロキシ官能性連鎖移動剤とともに、コポリマーの分子量が及ぼす効果を調べるために行われた。したがって、高固形分アクリルコーティング中にフッ素を含ませることに関する、より詳細な情報を獲得するために総合的な特性化を行った。
【0034】
コポリマーの調製及び記述
低、中及び高分子量のアクリルを、すべて、モノマー枯渇条件下にセミバッチ装置において合成した。フルオロアルキルメタクリレートモノマーを開始剤、溶剤及び連鎖移動剤とともにモノマーの混合物に添加し、そして重合の全過程にわたって反応物に添加した。2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)を、ラジカルの低い水素引き抜き能の理由から、開始剤として選択した[38]。溶液重合は、重合度及び反応速度を低減させることになる沈殿を回避するために、モノマー及び得られるコポリマーの両方が反応条件下で可溶性であることを要求した。メチルエチルケトンは反応体及び生成物の溶解性のために、コポリマーの合成のための好ましい反応溶剤であった。コポリマーの数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)ならびに多分散度は表4に示すとおりにGPCにより決定した。低分子量コポリマーのPDIは1.5に近く、一方、高分子量対応物のPDIは2.0に近いことが観測された。ラジカル再結合及び不均化によるコポリマーのPDIの理論値はそれぞれ1.5〜2.0である[39、40]。このことは、低分子量コポリマーはラジカル再結合による成長鎖の停止により主に生成され、そして高分子量コポリマーは不均化により停止されること示唆する。
【表4】

【0035】
ヒドロキシル官能基を有する非常に有効なメルカプタンを用いて、分子量を低減しそして有意な数のオリゴマー分子に追加のヒドロキシル官能基を導入した。数平均分子量をコポリマーの当量で割ることにより平均官能価を計算した。さらに、コポリマーの分子量のアクリル溶液(コポリマー含有分が60質量%)の粘度に対する効果も評価し、そしてすべて表4に要約した。
【0036】
フッ素化アクリルコポリマー及びその非フッ素化類似体の構造(提案)を図1に示す。
【0037】
コポリマーの構造特性化
FTIRスペクトル(図2)はすべての側面でコポリマー(F10CTA5)の構造を確認している。ポリ(HEMA)のスペクトルとコポリマーのスペクトルとの比較から、3300〜3600cm−1の範囲の広い吸収ピークはコポリマーの2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)部分のO−H伸縮に帰因する。2958及び2877cm−1で生じる2つの明確なバンドはメチル(CH)及びメチレン(CH)基のC−H伸縮モードによる。コポリマーにおいて、強いC=O伸縮振動は1712cm−1に観測される。カルボニル伸縮振動はエステル基による。他方、エステル基のC−O伸縮振動は1166及び1147cm−1での2つのバンドに割り当てられる。1452及び1412cm−1での吸収はCH基中でのC−H結合の面内曲げ振動に帰因しうる[41]。1365cm−1での吸収バンドはCH基のC−H曲げ振動に帰因する。
【0038】
1640cm−1でのC=C結合の特徴的な吸収はすべてのコポリマーで消失している。コポリマー中にそのピークが存在しないことは共重合にビニル基が参加したことを示す。C−F伸縮[42]のために、F10−CTA5は1100〜1300cm−1の範囲に振動を示す。一方、C−F結合に関連する特徴的なバンドはフッ素不含コポリマーのFTIRスペクトルでは観測されない。935及び836cm−1で生じる2つの明確なバンドはメチル基及びメチレン基の面外C−H曲げ(捩れ)振動によるものである。強いバンドが746cm−1で現れ、それはコポリマー構造中のメチレン基の面内揺れ振動から生じるものである。
【0039】
19F NMRは−70〜−74ppmの領域に一重項を示し、それは−CF基中のフッ素に割り当てられる。コポリマーのH NMRスペクトルは2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートからのO−C−CFプロトンの存在を確認する(4.4〜5.3ppm付近での一重項)。コポリマーの13C NMRスペクトルは2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートからのO−CH炭素の存在を確認する(122ppm付近での一重項)。H NMRスペクトル及び13C NMRスペクトル中の他のケミカルシフトは実験セクション中に要約されている(表3を参照されたい)。
【0040】
アクリルコポリマーの構造をMALDI−TOF質量分析法により特性化した。MALDI−TOFをフリーラジカル重合の間に期待される末端基の証拠のために使用した。すべての低及び中分子量アクリルコポリマーは高分子量(F0CTA0.5、F5CTA0.5及びF10CTA0.5)コポリマー(Mn>10000)よりも比較的に明確なマススペクトルを提供した。10000よりも高いMnでの欠点は分析において使用されるマススペクトルが高分子量コポリマーに必要とされる解像度よりもずっと低い、限定された解像度であるという事実に基づく。この問題はコポリマーを部分的に分解して、コポリマーのモル質量を低減することにより克服されうる。分解を続けると、鎖の長さが低減し、そして新たな末端基が生成する。しかしながら、部分分解されたコポリマーのシーケンスは初期のコポリマーと同一であろう[43]。
【0041】
1000〜1500のイオン質量領域でのF10CTA5(Mn=1970)の拡大マススペクトルをコポリマー組成及び末端基の詳細な分析のために選択した(図3を参照されたい)。分析を未精製サンプルに直接的に適用した。3つの主要シリーズ(A、B及びC)及び4つの非主要シリーズ(D、E、F及びG)をF10CTA5のMALDIマススペクトルにおいて観測した。生長しているコポリマーは水素又は系中に存在する開始剤、溶剤又は連鎖移動剤からの他の種の移動により停止しうる。それゆえ、各ポリマー鎖は、H(水素)+H、H+I(開始剤)、H+CTA(連鎖移動剤)、I+I、I+CTA、CTA+CTA、H+S(溶剤)、I+S、S+S及びCTA+Sなどの種々の種を末端とすることができる。
【表5】

【0042】
図3及び表5は各コポリマー鎖がランダム共重合において異なるモノマー単位及び末端基を有することができることを示している。溶液中のモノマーの反応比及び濃度はすべて異なるので、7つの明確なピーククラスタがスペクトル中に観測される。図3に示すピークはMMA、BA、HEMA及びTFEMAモノマー単位を、R及びR末端の異なる末端基とともに含むコポリマー鎖に割り当てられた。各コポリマーのイオン質量計算値を等式(2)により表した。
【数2】

(上式中、イオン質量(m/z)calcはコポリマーのイオン質量計算値であり、Δ[MMA]又はΔ[BA]又はΔ[HEMA]又はΔ[TFEMA]は対応するモノマー単位のモノアイソトピック質量であり、[Na]はナトリウムイオンの質量である)。
【0043】
表5は、また、各ピーククラスタ中のそれぞれのピーク中に最も強いシグナル(最高強度)のイオン質量の観測値(実測値)も示している。ここで、ランダム構造化学量論は幾つかの末端基の可能性に基づいて予測した。計算値のイオン質量を実験値と比較した。m/z値は0.01%以下の誤差で一致している。例として、1000〜1200の質量領域で観測されるAシリーズのイオン質量(m/z=1125.58Da)は下記に示すとおりに期待される末端基を有する5つの可能なコポリマー鎖のイオン質量値の計算値とほとんど一致した。
【数3】

【0044】
表5に示すとおり、約1481Da付近でのピークはS(溶剤)及びCTA(連鎖移動剤)の末端基を有する[(MMA)−(BA)−(HEMA)−(TFEMA)]Na鎖に帰因することができ、又は、それはH(水素)及びCTA(連鎖移動剤)を末端基として有する[(MMA)−(BA)−(HEMA)−(TFEMA)]Naに対応しうる。各シリーズに対応するピークは、図3に示す1つのブチルアクリレート単位(128Da)の付加又は引き抜きにより互いに相関している。たとえば、[A+Na]はm/z=1509からm/z=1125で3個までのブチルアクリレート単位を失う。同様に、[B+Na]シリーズにおいて、ピークの差異はここでも128ダルトン(Da)であり、それはブチルアクリレート単位の質量に対応する。同一の相関が各シリーズのピーク間で観測される。さらに、[A+Na]シリーズは1つのメチルメタクリレート単位(100Da)で[B+Na]と相関している。たとえば、1225Daでの[B+Na]に対応するピークは1つのメチルメタクリレート単位(100Da)を失い、1125Daで[A+Na]シリーズのピークを示す。したがって、[B+Na]対[C+Na]、[C+Na]対[D+Na]、[D+Na]対[E+Na]、[E+Na]対[F+Na]及び[F+Na]対[G+Na]シリーズはすべて1つのメチルメタクリレート単位(100Da)で互いに相関している。フィード中に異なるモノマー比を有する他のランダムコポリマー(低分子量及び中分子量シリーズ)での同様の結果もMALDI−TOF質量分析法により確認された(データは示していない)。
【0045】
表面特性
コポリマーの湿潤化能挙動を調査するためにスピンコーティングにより薄いフィルムを調製した。湿潤化能挙動は2つのプローブ液体を用いた接触角測定により調べた。すべての配合物で可能な最も高い角度である前進角及び可能な最も低い角度である後退角を測定し、表4にまとめた。アクリルフィルムの表面張力は前進接触角(θadv)及び後退接触角(θrec)の平均から計算した。2液法を用いたOwens-Wendt幾何平均[44]を適用した。固体表面上での液滴の平衡接触角は、通常、ヤング式(3)及びフォーク式(4)で議論される。
【数4】

(上式中、γ、γSL、γ、θ、γ、γ及びγはそれぞれ、固体の表面張力、固体及び液体の間の表面張力、液体の表面張力、接触角、合計の表面張力、分散成分及び極性成分である)。固体表面及び液体の表面張力ならびにその関係は以下により与えられる。
【数5】

(上式中、γ、γ、γ及びγはそれぞれ液体及び固体の極性成分及び分散成分である)。アクリルフィルムの表面張力は接触角ならびに2つの異なるプローブ液体である脱イオン水の表面張力(γ=22.0mJ/m、γ=50.2mJ/m、γ=72.2mJ/m)及びエチレングリコールの表面張力(γ=29.3mJ/m、γ=19.0mJ/m、γ=48.3mJ/m)から、式(3)及び(7)より導き出される下記式を用いることにより得られた。
【数6】

【表6】

【0046】
前進角及び後退角の間の差異は接触角ヒステリシスと呼ばれ、表面研究の重要な診断ツールである[45]。表6に要約されるとおり、表面上の少量のフッ素はかなり高い前進接触角を報告している。というのは、液体は表面を進行しそして湿潤化するのを忌避しているからである。しかしながら、フッ素は後退接触角に対して比較的に低い効果しか有しなかった。脱イオン水に対する前進接触角値は非常に高かったが、一方、後退接触角値はより低かった。結果として、非常に大きなヒステリシス値であることが判った。接触角ヒステリシスは最上層の化学不均一性及び脱イオン水との接触後のポリマーフィルムの表面再構成によって最も起こりやすかった[46]。
【0047】
接触角測定値はフッ素化アクリルコポリマーの表面がフッ素不含アクリレートと比較して疎水性であり、そしてコポリマー組成物中のフッ素の量が増加するととも接触角が高くなることを示す。さらに、等百分率の連鎖移動剤(CTA)導入量で、P(MMA−ran−BA−ran−HEMA−ran−TFEMA)の表面エネルギーはそのP(MMA−ran−BA−ran−HEMA)フッ素不含類似体よりも常に低い。最も低い表面エネルギー(27mJ/m付近)はF10シリーズで報告され、それはフッ素及び水素の間の電気陰性度の差、より高い炭素−フッ素結合強度及び炭素−フッ素結合の小さい結合分極に基づいて説明されうる[47]。
【0048】
熱硬化性アクリルの調製及びコーティング特性
コポリマーとメラミンホルムアルデヒド樹脂との間の主な架橋反応を図4に示す。Bauerら[48]は強酸触媒により、ヒドロキシル基が完全アルキル化メラミンとより反応性になる傾向があることを報告している。それゆえ、我々の研究において、市販のメチル化MFクラスI樹脂を強酸触媒であるp−トルエンスルホン酸一水和物とともに使用した。アクリルコポリマーをMF樹脂により架橋した後に、一般コーティング試験を行い、また、引張、動的機械、バリア及び光学特性を評価した。
【表7】

【0049】
表7はコポリマーシリーズ及びメラミンホルムアルデヒド樹脂の混合物から得られた硬化したフィルムのコーティング特性を示す(フィルムはキャスティングし、そして12時間周囲条件に維持し、次いで、120℃で1時間熱硬化した)。高い硬度及び高い耐溶剤性をすべてのフィルムで観測した。Gray[32]は以前に、種々のヒドロキシ官能性連鎖移動剤及び非ヒドロキシ官能性連鎖移動剤を用いることにより調製したアクリルオリゴマーの熱硬化コーティングを評価した。彼の結果はヒドロキシ官能性メルカプタンが非ヒドロキシ官能性メルカプタンよりも良好な硬度及び耐溶剤性をコーティングに付与することを示した。それゆえ、配合物中のヒドロキシ官能性連鎖移動剤である2−ヒドロキシエチルメルカプタンは硬度を上げるとともに、フィルムの全体の性能をよりよく変更したものと考えられる。
【0050】
表7に見られるとおり、フィルムの鉛筆硬度、クロスハッチ付着力及び外観は非フッ素化対照物とほぼ同一である。しかしながら、より低い分子量及びフッ素含有分の増加とともに高度のグロスを観測した。20°及び60°での入射光によるグロス測定をスチール基材上で硬化したアクリルフィルムに対して行い、表面から鏡面角で反射された光の量を定量化した。60°で得られた読み値は70を超えていたので、より高い精度を得るために20°でも読みを行った。たとえば、F0(低Mn)の20°でのグロスは78と測定されたが、F10(低Mn)では95に達した。他方、耐摩耗性及び基材に対する付着性はより高い分子量のコポリマーで改良された。テーバー磨耗試験機で500サイクル後に、高分子量コポリマーを用いて調製したアクリルコーティングではより低い質量損失が検知された。これらのコーティングは、また、プルオフ付着力試験でより良好な付着力(186lb/in.)を示した。
【0051】
コポリマーの引張特性を図5(a)及び5(b)に要約する。図5は、MF樹脂とともにアクリルコポリマーからキャスティングされたフィルムでは、引張強度及び引張弾性率値はTFEMAの導入量を増加させるときに均一に増加したことを明確に示す。架橋剤を導入したときに、引張強度及び弾性率は、架橋剤を含まないフィルムに対して期待されるよりも有意に改良された[49]。
【0052】
引張弾性率及び引張強度の両方はコポリマーの分子量、及び、コポリマーを用いて調製されるフィルムの架橋密度によって大きく影響される。このため、中分子量コポリマーで引張弾性率及び引張強度の増加となり、次いで、より高分子量のシリーズでなおもさらなる増加となる。さらに、同一の分子量のシリーズでTFEMA含有分を増加させることにより、引張弾性率及び引張強度の増加が非フッ素化対応物と比較したときにずっと小さい。最も高い弾性率(3000MPa)は高分子量コポリマーで10%TFEMAで示され、得られた最も低い値(1000MPa)は低分子量コポリマーで0%TFEMA含有分であった。同様に、引張強度は35MPaまで増加し、それは高分子量コポリマーでの10%TFEMA含有分から得られ、一方、引張強度の最低値はフッ素不含低分子量コポリマーで15MPaとして報告された。
【表8】

【0053】
コポリマーのガラス転移温度を表8に示す。より低いガラス転移温度はF0及びF10対応物と比較してF5シリーズのコポリマーで観測された。F5配合物中のn−ブチルアクリレート(高分子量ホモポリマーのTg:−54℃)のより高い量が、Tg値の若干の低下をもたらしている。又は、ポリ(TFEMA)のガラス転移温度は常にポリ(MMA)のガラス転移温度よりも低いけれども、組成物中のMMA/TFEMA比の増加はTgに劇的に提供を及ぼすことはない。すべての低分子量コポリマーでは、Tg値は室温よりも低い。コポリマーの分子量が増加すると、より高いTgが観測される。ガラス転移温度の分子量に対する依存性はGibbs及びDiMarzioにより以前に報告された[50]。分子量に伴うガラス転移温度の変動に関する定量的な予測を行い、そして非晶性ポリマーでは、分子量とともに漸近的な限定値に向けてTgが増加することを結論付けており、その限定値は数平均分子量約10000で達成された[51,52]。Mazzolaら[12]も、アンモニウム2−フルオロアクリレート及びアクリル酸をベースとする部分フッ素化アクリルコポリマーの分子量の増加とともにTgが増加することを報告した。
【0054】
硬化したフィルムの架橋密度は動的機械分析からの粘弾性測定値を用いて計算した。フィルムの架橋密度は、サンプル1立方メートル当たりの弾性有効ネットワーク鎖のモルとして定義されている[53、54]。硬化した材料のTgより十分に高い温度での貯蔵弾性率(E’)値は架橋密度の指標である[55]。架橋密度はゴム弾性の理論から導き出される下記表現を用いて計算されうる[56]。式中、Rは気体定数(8.3145N.m/モル.K)であり、Tはケルビンでの絶対温度であり、そしてE’minはゴム弾性平坦域の弾性率の最小値である。
【数7】

【0055】
9種のコーティングフィルムのTg、E’min、架橋密度及び最大tanδを表8に要約する。架橋したフィルムのTgはα−転移の最大値から得られた。F0シリーズでは、コポリマー分子量の増加とともにTgは117から128℃に増加し、一方、架橋密度は666から2278モル/mに増加した。F5シリーズでは、コポリマー分子量が増加したときに、Tgは121から135℃に増加し、同様に、架橋密度は723から2209モル/mに増加した。より高いフッ素百分率(10%)でもこの傾向を変化させず(低分子量F10は架橋密度863モル/mでTgが118℃であり、そして数平均官能価の増加とともに、Tgは130℃まで増加し、そして架橋密度は2444モル/mの値に達した)。結果として、発見したものは、架橋が進行すると、Tgが増加し、そして硬化の程度が増加すると、tanδピークの高さは減少するということであった(表8を参照されたい)。最終の反応したコーティングのガラス転移温度は未硬化のコポリマー対応物よりも高かった。容易に架橋されるフィルムは強いネットワークを形成し、硬化したフィルムのガラス転移温度よりも50℃高い温度付近で測定して高い架橋密度を提供した。
【0056】
バリア及び光学特性
25℃での酸素透過率をcc/m/日及びバーラーとして表9に報告する。各フィルムの酸素透過率(OTR)はOTR対時間グラフの平坦領域で観測される最後の20データポイントの平均値として示し、そして標準偏差は3%未満と報告される。
【表9】

【0057】
F0シリーズでは、0.235から0.120バーラーのOTRの有意な低下(48%)はコポリマーの数平均分子量のMn=1873からMn=11177への増加とともに観測される。F10シリーズに関して、酸素透過率は低分子量(F10−CTA5、Mn=1970)から高分子量(F10−CTA0.5、Mn=10987)での61%低下でより顕著であるようである。対照的に、フッ素モノマーの含有はより低いバリア特性をもたらす。TFEMA濃度を0vol%から10vol%とするときに、OTR値は低Mnコポリマー(F0CTA5、Mn=1873からF10CTA5、Mn=1970)で2.1倍、そして高Mn対応物(F0CTA0.5、Mn=11177からF10CTA0.5、Mn=10987)で2.8倍増加する。
【0058】
硬化前及び後のコポリマーの屈折率も比較した(表9を参照されたい)。フッ素置換モノ官能性メタクリレートモノマーは光学特性に有意な効果を示した。Liuら[57]はポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)をベースとする光ファイバーのための良好なクラッディング材料を得るために、フルオロアルコール中でのメチルメタクリレート(MMA)と2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)との共重合を研究した。彼らはPMMAフィルムの屈折率をコポリマーの屈折率と比較し、そしてコポリマーのより低い屈折率をフッ素化単位の存在と関連付けた。我々の研究では、組成物中で2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートを0から10%に増加させたときに、低分子量コポリマー溶液では、屈折率値は1.46557から1.43479に低下し、そして硬化したフィルムでは、屈折率は1.53068から1.49045に低下した。フッ素化モノマーを標準配合物中に導入すると、中及び高分子量コポリマーでそれぞれ2.1%及び3%低下することにより、改良された屈折率となった。
【0059】
アクリレートをベースとするコポリマーを種々のアクリルモノマーを用いてうまく合成し、自動車産業のための使用に可能性のある新規の高固形分表面活性アクリルを得た。表面特性は、最初に、フッ素をコーティングに添加するこの研究の動機付けとなった。明らかに、フルオロポリマーが最終フィルムに、化学不活性、耐熱性、低摩擦性及び撥水性を含む特定の範囲の特性をもたらす。誘電及び耐熱性のためには、コーティング全体にわたって多量のフッ素の使用が必要であることがある。しかしながら、共重合に少量のフルオロアルキルモノマー(5〜10wt%)を導入することが所望の表面特性を得るのに適切であり、このため、フィルムのバルク全体に多量のフッ素化基が必要ないことがことが期待された。
【0060】
一般的なコーティング特性に関して、Malsheら[11]は以前に、メチルメタクリレート(MMA)、ブチルアクリレート(BA)及び2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)をベースとするフッ素化アクリルコポリマーのコーティング特性を研究した。彼らはHEMAのヒドロキシル官能基をテトラフルオロプロパン酸により部分エステル化し、そしてポリマーをブチル化メラミンホルムアルデヒド樹脂により硬化した。彼らの研究において、フッ素の導入は腐食に対するコーティングの保護能力を高めるが、コーティング特性(すなわち、鉛筆硬度、光沢、耐衝撃性、耐溶剤性)は顕著に改良しなかった。トップコートコポリマー中に使用される低レベルのフッ素はフィルムのコーティング特性を劇的に変化させなかったが、より高い耐溶剤性、鉛筆硬度及び光沢を有するアクリルフィルムがMarshe及びその共同研究者により報告された研究と比較して得られた[11]。理論に拘束されないが、そのことはより高いヒドロキシル官能価を有するコポリマーが、架橋反応のために、フィルムをより強固でかつより耐溶剤性とし、そして未架橋コポリマーを可塑剤として作用させる傾向を低減するという事実よるものであることができる[58]。
【0061】
酸素透過率を改良するためにコンタクトレンズ中にフルオロアルキル含有モノマーを用いることがよく知られている[59]。ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)は0.5バーラーの透過率を有する酸素に対するバリアとして以前に報告された。それは長期の装着に適切でなかった。このため、酸素透過率が改良されたレベルにある新規のフルオロアクリレートをベースとするコンタクトレンズが後に導入された。本発明では、フッ素濃度の増加は、また、より高い酸素透過率をもたらした。しかしながら、その値はポリマーコンタクトレンズ材料中のものと比較してなおもかなり低いことが判った[60]。
【0062】
高分子量アクリルは高い弾性率及び架橋密度で応じ(図5及び表8を参照されたい)、結果的に、気体分子の有効拡散経路長さの有意な増加をもたらし、酸素透過率の評価可能な低減をもたらす。期待されるとおり、O透過率は架橋密度及び分子量に逆相関であることが確認された。高分子量(より高い数平均官能価)と関連する有機領域でのより高い架橋密度(より低い自由体積)により、酸素透過率が減少した(表9を参照されたい)。小分子、特に水及び酸素に対する透過率は腐食に寄与する。それゆえ、低い酸素透過率が保護コーティングで得られたことは非常に満足される。
【0063】
本開示に記載されるアクリル樹脂はより高い固形分によって環境規制を満足する。表面活性の高バリア性のアクリルコーティングは減量された溶剤とともに配合された。そのコーティングは従来の装置を用いてなおも塗布されうる。より低い分子量のアクリルコポリマーの使用により、粘度が低くなった(表4を参照されたい)。さらに、酸素化された溶剤であるメチルエチルケトン(MEK)は、また、これらのアクリルコポリマーにとって好ましい粘度減少プロファイルを有した。MEKはなおも揮発性有機化合物(VOC)と分類されているが、2005年末に出した危険空気汚染物(HAPs)リストからMEKは除外されている[61]。結果的に、固形分含有率が60質量%である上記のアクリル樹脂はなおもほとんど溶剤型である自動車の相手先ブランド製造業者(OEM)コーティング装置のための高固形分クリアコートにおける使用に適切である。
【0064】
本明細書中に示された教示を見ると、本発明の多くの変更及び変形が当業者に容易に明らかであることが理解されるべきである。たとえば、本発明は主にメチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート及び2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートを参照して記載してきたが、フルオロアルキル含有モノマーを含む他のアクリルコポリマーは本発明の範囲に含まれる。そのため、上記は本発明の特定の実施形態の例示であるが、その実施を制限することが意図されない。すべての等価物を含めた請求の範囲が本発明の範囲を規定するものである。
【0065】
参考文献
【表10】

【表11】

【表12】

【表13】

【表14】

【表15】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化アクリレート、フッ素化メタクリレート、アクリレートと共重合したフッ素化炭化水素、メタクリレートと共重合したフッ素化炭化水素及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレート及びメタクリレート、及び、
架橋剤、
を含む、トップコート組成物。
【請求項2】
前記アクリレートは複数種のアクリレートである、請求項1記載のトップコート組成物。
【請求項3】
前記複数種のアクリレートは、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートからなる群より選ばれる、請求項2記載のトップコート組成物。
【請求項4】
前記フッ素化メタクリレートは2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートである、請求項1記載のトップコート組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種の前記アクリレート及び前記メタクリレートは前記トップコート組成物の1〜25wt%である、請求項1記載のトップコート組成物。
【請求項6】
前記少なくとも1種の前記アクリレート及び前記メタクリレートは前記トップコート組成物の2.5〜15wt%である、請求項1記載のトップコート組成物。
【請求項7】
前記架橋剤はメチル化メラミンホルムアルデヒド樹脂である、請求項1記載のトップコート組成物。
【請求項8】
前記架橋剤はエチレングリコールアクリレートである、請求項1記載のトップコート組成物。
【請求項9】
前記架橋剤はメチレンビスアクリルアミドである、請求項1記載のトップコート組成物。
【請求項10】
前記架橋剤はメチレンビスアクリルアミドである、請求項1記載のトップコート組成物。
【請求項11】
溶剤を提供すること、
フッ素化アクリレート、フッ素化メタクリレート、アクリレートと共重合したフッ素化炭化水素、メタクリレートと共重合したフッ素化炭化水素及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる少なくとも1種のアクリレート及びメタクリレートと、前記溶剤を接触させること、
連鎖移動剤及び開始剤を添加してコポリマーを形成させること、及び、
前記コポリマーを架橋剤と接触させること、
を含む、トップ組成物の製造方法。
【請求項12】
前記アクリレートは複数種のアクリレートである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記複数種のアクリレートは、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートからなる群より選ばれる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記フッ素化メタクリレートは2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレートである、請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1種の前記アクリレート及び前記メタクリレートは前記トップコート組成物の1〜25wt%である、請求項11記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1種の前記アクリレート及び前記メタクリレートは前記トップコート組成物の2.5〜15wt%である、請求項11記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−177111(P2012−177111A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−22554(P2012−22554)
【出願日】平成24年2月3日(2012.2.3)
【出願人】(507342261)トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド (135)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(509144579)ユニバーシティ オブ アクロン (3)
【Fターム(参考)】