説明

高圧による有機化合物の選択的抽出及び分離方法

植物又は動物原材料から可溶性物質を高圧下に得るための方法であって、
超臨界ガスを溶媒として使用し、
一又は二以上の高圧容器に有機原材料を充填し、密封し、800barより高い圧力に加圧し、その後、
抽出工程において、充填された前記高圧容器に、超臨界ガスを少なくとも一回貫流し、この際、超臨界ガスには追加の添加用剤を混合せず、次に、
負荷されたガスの全てまたは一部を、分離工程に供給し、この分離工程において、圧力の降下の下に、天然物又は混合物が単離または互いに分離され、
この際、抽出工程における圧力が、超臨界ガス中への原料固有の油又は脂肪の最大溶解度圧を少なくとも10%超え、この際、各々の原料固有の油又は脂肪が添加溶剤として作用する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、添加溶剤の添加を全く行うことなく、超臨界ガスを用いてかつ1100barを超え、5000barまでの圧力下に、有機原料からそれに含まれる可溶性物質を得るための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物及び動物原材料の抽出方法は既知であり、通常、溶媒として超臨界COを使用して行われる。この際、超臨界ガスは、超臨界ガスがほぼ液体と同じ挙動をしそして超臨界CO中への重要な物質の非常に良好な溶解度が生ずるような状況で利用される。コーヒーの脱カフェインが良く知られている。
【0003】
さらに、中でも温度及び圧力を用いて物質の溶解度を高めることが知られている。さらに、一定温度下に圧力を高めると、溶解度が最高値を超えることも知られている。最高値を超える圧力の増加は、溶解度を下げることになる。
【0004】
国際公開第2006/05537A1号パンフレットには、COを使用して茶の植物よりカフェインを分離する抽出方法が示されている。そのためには、プロセスパラメーターとして、80℃までの温度下に最大1000barの圧力が提案されている。
【0005】
欧州特許第1424385B1号明細書には、キサントフモールが富化されたホップエキスの生産のための更なる方法とその使用が記載されている。この方法は、最大1000barまでの圧力及び60℃を超える温度で行われる。上記の二方法は、抽出工程における圧力の限界値として、同じくらいの温度において1000barの値を挙げている。抽出のための理想の範囲は1000barより幾らか下にあるとされている。これらの国際公開第2006/05537A1号パンフレット及び欧州特許第1424385B1号明細書に記載の1000barという限界値は、物理的に決定される範囲と一致し、この範囲では、超臨界ガスCO2に対する原料固有の天然油の溶解度最大が存在し、この際、正確な圧力は、その時々の温度に依存する。
【0006】
これらの圧力は、工業用途から見れば、既に非常に高い値と見なさざるを得ない。というのは、抽出時の圧力は通常は300〜500barの範囲だからである。独国特許発明第19524481C2号明細書、独国特許発明第4400096C2号明細書、独国特許出願公開第19854807A1号明細書にこのような方法が記載されている。
【0007】
現在の技術水準によれば、圧力をさらに高くする代わりに、いわゆる添加溶剤(Schleppmittel)を使用することで溶解度を上昇させるのが通常である。エタノール、アセトン、ヘキサン、及び、水などの添加溶剤は、溶媒の極性を変化させ、それにより、それの溶解特性も変化させる。その欠点としては、添加した添加溶剤自体を再び分離する必要があるということである。これにより抽出工程のコストが増加し、この際、多くの場合に100%の分離は可能ではなく、望ましくない不純物を結果としてまねく。独国特許出願公開第19854807号明細書では、乾燥卵のレシチン抽出のために、共溶媒又は添加溶剤としてエタノール又はヘキサンの添加が提案されている。
【0008】
添加溶剤を加える必要のない方法も又知られている。例えば、米国特許第4466923号明細書は、超臨界二酸化炭素を使用して、脂質を含む原材料から脂質を抽出する方法を記載しており、それによれば、抽出は550〜1200℃の圧力範囲で行い、そして圧力と温度の選択によって、抽出するべき材料に対する超臨界二酸化炭素の少なくとも5%の溶解性が調節される。しかしながら、抽出するべき物質混合物は、異なる物質が異なる溶解挙動を示し、そして、圧力と温度が上昇するにつれ、成分うちの一部のものの溶解度は高まるが、他方で、成分のうちの(多くの場合には、より容易に溶解する)他のものの溶解度が低下するという問題を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2006/05537号
【特許文献2】欧州特許第1424385号明細書
【特許文献3】独国特許発明第19524481号明細書
【特許文献4】独国特許発明第4400096号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第19854807号明細書
【特許文献6】米国特許第4466923号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それゆえ、植物又は動物性原材料に含まれる溶解度が小さい物質を高純度で抽出することへの要望が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、植物性もしくは動物性有機原材料から高圧下に可溶性物質を得るための方法であって、この際、少なくとも一種の超臨界ガスを溶媒として使用し、ここで
・一又は二以上の高圧容器中に有機原材料を充填し、密封し、次いで、800barより高い圧力に加圧し、その後、
・抽出工程においては、超臨界ガスを、充填された高圧反応器に一回以上貫流し、この際、超臨界ガスには、追加の添加溶剤を混合せず、次いで
・負荷された超臨界ガスの全部もしくは一部を分離工程に供給し、分離工程では、圧力の降下の下に、天然物質又は物質混合物を単離するか又は互いに分離し、そして
・抽出工程における圧力が、超臨界ガス中の原料固有の油又は脂肪の最大溶解度圧を少なくとも10%超え、この際、原料固有の各々の油又は脂肪は添加溶剤として作用する、
本発明による抽出方法によって解決される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この際、抽出工程における圧力が、超臨界ガス中の原料由来の油又は脂肪の最大溶解度圧を少なくとも10%超えることが決定的に重要であり、圧力の増加は、超臨界ガス中の原料由来の油又は脂肪の最大溶解度圧よりもかなり大きくても良い。超臨界ガスとして二酸化炭素(CO)を使用するとき、圧力は、好ましくは1100〜5000barであり、理想的には、1300〜2500barである。
【0013】
驚くべきことに、抽出工程におけるこのような圧力の過剰の上昇によって、原料固有の油及び脂肪が、回収すべき物質又は混合物に対して、原料固有もしくは種特有の添加溶剤として作用することを確認できた。このような方法により、物質混合物の場合において、これまでは、一般的に超臨界抽出では回収できなかったかまたは有機添加溶剤を使用しないと回収できなかった物質も、追加の添加溶剤を用いずに抽出することができる。
【0014】
本発明の実施形態の一つでは、有機材料は、抽出工程における高圧反応器中で、循環流としての超臨界ガスによって、複数回貫流される。本発明の別の実施形態の一つによれば、分離工程の前に又は分離工程において、熱交換器によって超臨界ガスの温度を変化させる。
【0015】
この抽出工程は、抽出工程の下流の第一の分離器において、CO中への原料固有の油又は脂肪の最大溶解度の範囲内の圧力が存在するように、理想的には、その最大溶解度の上下でせいぜい2%以内となるように改善することができる。さらに、驚くべきことが観察された。すなわち、抽出が困難な物質の得られた画分が、この圧力レベルでは、溶剤及び油からなるガス状混合物中に残り、それ故、易可溶性の物質からなる混合物から比較的簡単に分離することができる。これらの難溶性物質の分離は、後続の分離器で行われる。好ましくは、最初の分離器における圧力は、800〜1000barである。
【0016】
該方法の改善された形態の一つでは、抽出を二段階で行う。前記した1100barを超える圧力での抽出の前に、予め抽出工程を行う。この工程では、CO中への原料固有の油又は脂肪の最大溶解度の範囲内の圧力が、理想的には、その最大の上下で最大で2%以内の圧力が存在する。すなわち、全抽出後の第一分離器の場合と同じである。この第一工程における先行する抽出によって、抽出するべき物質の大部分を分離することができ、それによって、第二抽出工程において超臨界ガス中への原料固有の油もしくは脂肪の最大溶解度圧を少なくとも10%超える圧力下に難溶性の成分を抽出するために、次いで圧力をもう一度高める場合に、それらが溶液から再び析出することが防がれる。なお、前記の難溶性の成分の抽出時に、個々の原料固有の油または脂肪が添加溶剤として働く。原料固有の油又は脂肪の一部は、添加溶剤として働かせるので、第一の抽出工程においては当然にそれを完全に分離してはならず、後続の抽出のための添加溶剤作用が損なわれない範囲でのみ分離する。
【0017】
向上された変法の一つでは、分離工程において、異なる圧力段階を有する少なくとも二つ、理想的には3または4つの分離器が設けられる。このように段階を設けることによって、抽出された物質混合物の事前の分離を達成することができる。
【実施例】
【0018】
複数回の試験において、ヘーゼルナッツの種を40℃及び異なる圧力で抽出した。一つの試験では、仕込み物を、1500barで本発明の方法を用いて抽出し、この際、ナッツの種の量は、500bar下での従来技術方法を用いた比較試験と同量を用いた。本発明の方法では、同量のCOにおいて、2倍量を超える収量で油及びアルカノイドを得ることができ、その際、油及びアルカノイドの割合は概ね同程度に増加した。これらの実験において、本発明方法による高圧抽出が熱的に非常に緩やかな方法であることも確認できる。
【0019】
さらなる試験シリーズにおいて、対応する慣用の従来技術に対して比較試験を行った。最初に、0.5kgのピーマン(Capsicum annuum)を抽出器に充填し、そして1800bar、60℃で3時間抽出した。供給原料に対する溶媒の比率は、質量を基準として、40であった。1000bar、40℃に制御した第一の分離器において、カプサンシン、カプソルビン、β−カロチン、β−クリプトキサンチン、ルテイン、ビオラキサンチン、及びゼアキサンチンを含んだ15gの暗赤色の半固体物質を分離することができた。これは3%の収率に相当した。1000bar、40℃に制御した後続の分離器において、芳香族化合物成分と水のエマルジョンが分離した。固体の残留成分には、カロチンとカロチノイドが未だ含まれていた。本発明に相当する比較試験においては、同量のピーマンを、同じ圧力及び同じ温度で、ただし供給原料に対する溶媒の比率を13とし、抽出時間は1時間のみとして抽出した。第一の分離器において、同様の物質が分離された。上記に述べた同じ条件に制御した後続の分離機において、芳香族化合物成分と水のエマルジョンが同様に分離されが、このエマルジョンは再度濃縮し、高圧抽出器に戻した。さらなる抽出工程において、カロチン及びカロチノイドも抽出され、カプサンシン、カプソルビン、β−カロチン、β−クリプトキサンチン、ルテイン、ビオラキサンチン、及びゼアキサンチンをも含めた収率は合計8%となり、油の収率はこの場合も10%であった。両方の抽出工程を通した供給原料に対する溶媒の比率は、上記にも示したように質量を基準として、40であった。
【0020】
さらなる比較試験においては、0.5kgのトウガラシ(Capsicum frutescens)を抽出器に充填し、2300bar、60℃で2時間抽出した。供給原料に対する溶媒の比率は、質量を基準として35であった。1000bar、40℃に制御した第一分離器において、カプサンシン、カプソルビン、β−カロチン、β−クリプトキサンチン、ルテイン、ビオラキサンチン、及びゼアキサンチンを含んだ18gの暗赤色の半固体物質を分離することができた。これは3.6%の収率に相当した。300bar、40℃に制御した後続の分離器において、芳香族化合物成分と水のエマルジョンが分離した。固体の残留成分には、カロチンとカロチノイドが未だ含まれていた。本発明に相当する比較試験においては、同量のトウガラシを、同じ圧力及び同じ温度で、ただし供給原料に対する溶媒の割合は先ず17.5とし、抽出時間は1時間のみとして抽出した。第一の分離器において、同様の物質が分離された。上記に述べた同じ条件に制御した次の分離器において、芳香族化合物成分と水のエマルジョンが分離されたが、このエマルジョンは再度濃縮し、高圧抽出器に戻した。さらなる抽出工程において、カロチン及びカロチノイドも抽出され、カプサンシン、カプソルビン、β−カロチン、β−クリプトキサンチン、ルテイン、ビオラキサンチン、及びゼアキサンチンをも含めた収率は合計7%となり、油の収率はこの場合も10%であった。両方の抽出工程を通して供給原料に対する溶媒の比率は、上記にも示したように質量を基準として40であった。
【0021】
さらなる比較試験においては、0.5kgのトマト粉末(Lycoperscum esculentum)を抽出器に充填し、2800bar、60℃で2時間抽出した。供給原料に対する溶媒の比率は、質量を基準として35であった。1000bar、40℃に制御した第一の分離器において、カロチン及びカロチノイド、主にはリコペン(Licopen)及びβ−カロチンを含んだ12gの暗赤色の半固体物質を得ることができた。これは、収率2.4%に相当する。300bar、40℃に制御した後続の分離器において、芳香族成分と水のエマルジョンが分離した。固体の残留成分には、カロチンとカロチノイドが未だ含まれていた。本発明に相当する比較試験においては、同量のトマト粉末を、同じ温度及び同じ圧力で、ただし供給原料に対する溶媒の比率は17.5であり、抽出時間は1時間のみとして抽出した。第一の分離機において同様の物質が分離された。上記に述べた同じ条件に制御した後続の分離器において、芳香族成分と水のエマルジョンが分離されたが、このエマルジョンは再度濃縮し、高圧抽出器に戻した。さらなる抽出工程において、カロチン及びカロチノイドが更に抽出され、収率は合計4%となり、油の収率はこの場合も10%であった。両方の抽出工程を通して供給原料に対する溶媒の比率は、質量を基準として40であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性もしくは動物性有機原料から高圧下に可溶性物質を得るにあたり、超臨界ガスを溶媒として使用し、この際、
・一又は二以上の高圧容器に有機原材料を充填し、密封し、800barより高い圧力に加圧し、その後、
・抽出工程において、超臨界ガスを、充填された前記高圧反応器に少なくとも一回貫流し、この際、前記超臨界ガスに追加の添加溶剤を混合せず、次に、
・負荷された超臨界ガスの全てまたは一部を分離工程に供給し、この分離工程において、圧力が降下する中で、天然物又は物質混合物を単離するか又は互いに分離する、
抽出方法であって、
抽出工程における前記圧力が、超臨界ガス中への原料固有の油又は脂肪の最大溶解度圧を少なくとも10%超え、この際、各々の原料固有の油又は脂肪が添加溶剤として作用することを特徴とする方法。
【請求項2】
超臨界ガス及び溶媒としてCOを使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抽出工程において、1100〜5000barの作業圧力が選択されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
抽出工程において、1300〜2500barの作業圧力が選択されることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
抽出工程の高圧容器中の有機原材料に、超臨界ガスを循環流で複数回貫流することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
分離工程の前に又は分離工程の最中に、熱交換器によって超臨界ガスの温度を変化させることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
抽出工程の後に続く第一の分離器における圧力が、CO中への原料固有の油又は脂肪の最大溶解度の範囲内の圧力、理想的には、その最大溶解度の上下の最大2%以内の圧力であることを特徴とする請求項2〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
第一の分離器における圧力が800〜1000barであることを特徴とする請求項1〜7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
分離工程において2以上、理想的には3又は4の分離器が設けられていることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1に記載の抽出の前にさらに抽出工程を設け、この際、この抽出工程の圧力が、CO中への原料固有の油又は脂肪の最大溶解度の範囲内の圧力、理想的には、その最大溶解度の上下の最大2%以内の圧力であることを特徴とする、請求項2〜9の何れか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−510057(P2010−510057A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537528(P2009−537528)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/010065
【国際公開番号】WO2008/061716
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(505180243)ウーデ・ハイ・プレッシャー・テクノロジーズ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (5)
【Fターム(参考)】