説明

高圧ガスタンクの製造方法と製造装置

【課題】ライナー外周に形成した繊維強化樹脂層の厚み方向でのVfのバラツキの抑制をもたらす新たなタンク製造手法を提供する。
【解決手段】ライナー10の外周に形成した繊維強化樹脂層20は、誘導加熱コイル220にて高周波誘導加熱を受ける。この誘導加熱は、誘導加熱コイル220への高周波電流の通電により誘起されるが、繊維強化樹脂層20の厚み方向の各樹脂層部位において、繊維強化樹脂層20の外表側の最外層部位(層番号1)より、その内側の樹脂層部位(層番号2)が、最も高い温度となる。これを踏まえ、最大の温度と樹脂層部位(層番号2)の温度が誘導加熱コイル220への高周波電流の通電を制御する際の上限温度となるように、通電制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガスタンクの製造方法と製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、燃料ガスの燃焼エネルギーや、燃料ガスの電気化学反応によって発電された電気エネルギーによって駆動する車両が開発されており、高圧ガスタンクには、天然ガスや水素等の燃料ガスが貯蔵され、車両に搭載される場合がある。このため、高圧ガスタンクの軽量化が求められており、カーボン繊維強化プラスチックや、ガラス繊維強化プラスチック(以下、これらを総称して、繊維強化樹脂層と呼ぶ)で中空のライナーを被覆したFRP(Fiber Reinforced Plastics : 繊維強化プラスチック)製の高圧ガスタンク(以下、単に高圧ガスタンクと称する)の採用が進んでいる。ライナーとしては、軽量化の観点から、通常、ガスバリア性を有する樹脂製の中空容器が用いられる。
【0003】
一般に、こうした高圧ガスタンクの製造に際しては、フィラメントワインディング法(以下、FW法)が採用され、このFW法により、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸した繊維をライナーの外周に繰り返し巻回して繊維強化樹脂層とする。そして、その後に、当該樹脂層に含まれる熱硬化樹脂を加熱して熱硬化させることで、ライナーを繊維強化樹脂層で被覆・補強した高圧ガスタンクが製造される。熱硬化樹脂の加熱とその熱硬化には、温風吹き付けや電熱ヒーターによる加熱、或いは高周波誘導加熱等、種々の加熱方式が採用可能であるが、熱硬化性樹脂の速やかな昇温が可能な高周波誘導加熱を誘起する誘導加熱コイルを用いて誘導加熱する手法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−335973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FW法にて得られた高圧ガスタンクの強度や耐久性等のタンク性能は、ライナー外周の硬化済み繊維強化樹脂層における繊維体積含有率(以下、Vf)に依存することが知られている。このVfは、繊維強化樹脂層の単位体積に占める繊維の割合であり、熱硬化前の繊維強化樹脂層からの樹脂の染み出しが増えるとVfは高くなる。そして、Vfが高いと、繊維の割合が増えるために強度は増すものの、繊維同士を接着硬化する樹脂が少なくなるため、耐久性の低下を来すことが危惧される。このため、高圧ガスタンクとしての実用に耐える強度と耐久性の両立を図る上で、高Vfとなることを抑制しつつVfを所定の範囲で達成することが望ましい。
【0006】
Vfに影響を及ぼす樹脂の染み出しは、誘導加熱コイルを用いた繊維強化樹脂層の誘導加熱の際に、樹脂の低粘度化に伴って顕著となり得る。つまり、上記した公報で提案された高周波誘導加熱手法では、他の加熱方式に比べて高い効率で短時間の内に加熱できることから、繊維強化樹脂層は急速に昇温して、樹脂の粘度も大きく低下しかねない。しかも、高周波誘導加熱は、誘導加熱コイルに最も近い樹脂最外層で顕著に誘起されるので、繊維強化樹脂層の厚み方向で昇温状況が相違する。そして、こうした繊維強化樹脂層の厚み方向での昇温状況の相違は、繊維強化樹脂層の厚み方向での粘度低下の相違をもたらし得るので、繊維強化樹脂層の厚み方向でのVfのバラツキを招きかねない。上記した特許文献では、こうした熱硬化の過程における樹脂挙動についての配慮がないことから、繊維強化樹脂層の厚み方向でのVfのバラツキの抑制を図る手法が要請されるに到った。
【0007】
本発明は、上記した課題を踏まえ、ライナー外周に形成した繊維強化樹脂層の厚み方向でのVfのバラツキの抑制をもたらす新たなタンク製造手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、以下の適用例として実施することができる。
【0009】
[適用例1:高圧ガスタンクの製造方法]
高圧ガスタンクの製造方法であって、
タンク容器となる中空のライナーの外周に、熱硬化性樹脂を含浸した繊維を巻回して形成された繊維強化樹脂層を有するタンク中間生成品を準備する工程(a)と、
前記タンク中間生成品をタンク軸回りに回転させつつ、高周波誘導加熱を誘起する誘導加熱コイルを用いて前記タンク中間生成品の前記繊維強化樹脂層を誘導加熱して熱硬化させる工程(b)とを備え、
前記工程(b)では、
前記誘導加熱を受けて昇温する前記繊維強化樹脂層の層厚み方向における樹脂層部位についての温度分布の存在を前提に、前記誘導加熱コイルへの高周波電流の通電を制御する
ことを要旨とする。
【0010】
この適用例1の高圧ガスタンクの製造方法では、工程(a)、工程(b)を経て高圧ガスタンクを製造する当たり、高周波誘導加熱を誘起する誘導加熱コイルを用いて繊維強化樹脂層を誘導加熱して熱硬化させる工程(b)では、誘導加熱コイルへの高周波電流の通電を制御する。前記繊維強化樹脂層が前記誘導加熱を受けて昇温する際、繊維強化樹脂層の外表側の最外層部位は、誘導加熱コイルに最も近いことから、誘導加熱コイルによる高周波誘導加熱がより進む。この外表側の最外層部位より内側の樹脂層部位は、当該樹脂層部位での誘導加熱コイルによる高周波誘導加熱に加えて最外層部位からの熱伝播を受ける。そして、最外層部位は、誘導加熱コイルによる高周波誘導加熱がより進むとはいえ、その層表面からの放熱と内側の樹脂層部位への熱伝播の影響を受ける。このため、層厚み方向における樹脂層部位では温度分布が起きる。上記の適用例1の高圧ガスタンクの製造方法では、温度分布の存在を前提に、誘導加熱コイルへの高周波電流の通電を制御するので、例えば、繊維強化樹脂層が誘導加熱を受けて昇温する際に最大の温度となる樹脂層部位の温度を通電制御の際の上限温度に設定できることになる。
【0011】
こうした通電制御を行う上記の適用例1の高圧ガスタンクの製造方法は、繊維強化樹脂層が誘導加熱を受けて昇温する際に層厚み方向における樹脂層部位では温度分布が起きるという新たな知見を得て、最大の温度となる樹脂層部位の温度が誘導加熱コイルへの高周波電流通電を制御する際の上限温度になるまで、繊維強化樹脂層を誘導加熱できる。仮に、この最大の温度となる樹脂層部位以外の樹脂層部位の温度が上限温度となるように通電制御すれば、最大の温度となる樹脂層部位は、上限温度より高くなって樹脂の粘度低下やこれに伴う染み出しが顕著となって高Vfとなりかねない。ところが、上記の適用例1の高圧ガスタンクの製造方法によれば、繊維強化樹脂層が誘導加熱を受けて昇温する際に最大の温度となる樹脂層部位を上限温度とできるので、Vfについては、この上限温度に対応した範囲に留めることができ、Vfのバラツキの抑制も可能となる。
【0012】
上記した適用例1の高圧ガスタンクの製造方法は、次のような態様とすることができる。例えば、前記工程(b)では、前記層厚み方向における樹脂層部位のうちで最大の温度となる最大温度樹脂層部位の温度が、前記熱硬化性樹脂の性状を含む条件で定まる加熱上限温度を超えないように、前記誘導加熱コイルへの高周波電流の通電を制御する。熱硬化性樹脂の性状を含む条件で定まる加熱上限温度は、樹脂の粘度低下やこれに伴う染み出しを抑制し得る上記の通電制御の際の上限温度と同等であることから、上記の態様によれば、最大温度樹脂層部位を加熱上限温度を超えないようにすることで、Vfをこの加熱上限温度に対応した範囲に留めることができ、Vfのバラツキの抑制が可能となる。
【0013】
また、前記工程(b)では、前記繊維強化樹脂層が前記誘導加熱を受けて昇温する際の昇温状況を前記繊維強化樹脂層の層厚み方向における樹脂層部位ごとに対応付けた対応関係に基づいて、最大温度樹脂層部位を前記繊維強化樹脂層の外表側の最外層部位より内側の樹脂層部位とする。つまり、既述したように、繊維強化樹脂層の外表側の最外層部位は、誘導加熱コイルによる高周波誘導加熱がより進むものの、その内側の樹脂層部位に熱を伝播する等の理由から、内側の樹脂層部位が最大温度樹脂層部位となる。上記の態様では、最大温度樹脂層部位を内側の樹脂層部位とするので、この内側の樹脂層部位の温度を前記上限温度に設定したり加熱上限温度を超えないようにできる。そして、最大温度樹脂層部位を内側の樹脂層部位とする上で必要な対応関係を、タンク製造、詳しくは、繊維強化樹脂層の誘導加熱に先だって、実験或いはシミュレーション等の手法で予め把握しておくことで、Vfのバラツキが抑制された高圧ガスタンクを容易、且つ確実に製造できる。
【0014】
また、前記工程(b)では、前記誘導加熱を受けて前記繊維強化樹脂層が昇温する際に、前記対応関係を用いて前記内側の樹脂層部位の温度を求め、該求めた前記内側の樹脂層部位の温度に応じて前記誘導加熱コイルへの高周波電流の通電を制御したり、前記内側の樹脂層部位の温度と前記対応関係に倣って対応する他の樹脂層部位の温度を求め、該求めた前記他の樹脂層部位の温度を前記内側の樹脂層部位の温度に代用して前記誘導加熱コイルへの高周波電流の通電を制御したりできる。こうすれば、繊維強化樹脂層が実際に昇温する際に、その昇温状況に合わせた通電制御が可能となるので、Vfのバラツキ抑制の実効性が高まる。
【0015】
また、前記工程(b)において、前記繊維強化樹脂層の前記最外層部位からの放熱を図りつつ前記誘導加熱コイルにて前記繊維強化樹脂層を誘導加熱するようにできる。こうすれば、最外層部位からの放熱を通して繊維強化樹脂層の厚み方向での温度分布を抑制できることから、Vfのバラツキ抑制の実効性が高まる。
【0016】
[適用例2:高圧ガスタンクの製造装置]
タンク容器となる中空のライナーの外周に熱硬化性樹脂を含浸して熱硬化した繊維強化樹脂層を有する高圧ガスタンクの製造に用いる装置であって、
熱硬化前の前記熱硬化性樹脂を含浸した繊維を前記ライナーの外周に巻回して前記繊維強化樹脂層を形成し、タンク中間生成品を得る繊維巻回手段と、
前記タンク中間生成品をタンク軸回りに回転させつつ、高周波誘導加熱を誘起する誘導加熱コイルを用いて前記回転する前記タンク中間生成品の前記繊維強化樹脂層を誘導加熱して熱硬化させる熱硬化手段とを備え、
前記熱硬化手段は、
前記誘導加熱を受けて前記繊維強化樹脂層が昇温する際の昇温状況を前記繊維強化樹脂層の層厚み方向における樹脂層部位ごとに対応付けた対応関係を記憶する記憶部と、
前記繊維強化樹脂層が昇温する際に前記樹脂層部位のうちで最大の温度となる最大温度樹脂層部位を前記対応関係に基づいて定め、該定めた前記最大温度樹脂層部位の温度が、前記熱硬化性樹脂の性状を含む条件で定まる加熱上限温度を超えないように、前記誘導加熱コイルへの高周波電流の通電を制御する制御部とを有する
ことを要旨とする。
【0017】
上記した適用例2の高圧ガスタンクの製造装置は、ライナー外周に形成した繊維強化樹脂層の厚み方向でのVfのバラツキを抑制可能な新たなタンク製造装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例としての高圧ガスタンクの製造工程を模式的に示す説明図である。
【図2】この製造工程に用いるFW装置100の構成を概略的に示す説明図である。
【図3】繊維強化樹脂層の形成の様子を模式的に示す説明図である。
【図4】得られた中間生成品タンク12における繊維強化樹脂層20の内外の樹脂層部位を樹脂含浸カーボン繊維Wの巻回の様子と合わせて示す説明図である。
【図5】図1(c)に示した熱硬化炉200の概略構成を誘導加熱コイル220の配置構成を含めて示す説明図である。
【図6】本実施例の熱硬化炉200における繊維強化樹脂層20の厚み方向の各樹脂層部位ごとの昇温の様子をその測定の様子と併せて示す説明図である。
【図7】誘導加熱コイル220への高周波電流の通電制御を説明するフローチャートである。
【図8】変形例の熱硬化炉200の概略構成を示しつつ繊維強化樹脂層20の各樹脂層部位の温度分布の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の一実施例としての高圧ガスタンクの製造工程を模式的に示す説明図、図2はこの製造工程に用いるFW装置100の構成を概略的に示す説明図、図3は繊維強化樹脂層の形成の様子を模式的に示す説明図である。本実施例では、高圧ガスタンクを、高圧水素を貯蔵する高圧水素タンクとした。
【0020】
本実施例のタンク製造工程では、まず、図1(a)に示したように、水素ガスに対するガスバリア性を有する樹脂製容器をライナー10として用意する。ライナー10は、半径が均一である略円筒形状のシリンダー部10aと、シリンダー部両端に設けられた凸曲面形状のドーム部10bを有する。ドーム部10bは、等張力曲面によって構成されており、その頂点に、外部配管等と接続するための口金14を有する。本実施例では、樹脂容器として、ナイロン系樹脂からなる樹脂製容器を用いるものとした。樹脂容器として、水素ガスに対するガスバリア性を有すれば、他の樹脂からなる樹脂容器を用いるものとしてもよい。
【0021】
次に、図1(b)に示したように、ライナー10の外周に繊維強化樹脂層20を形成する(繊維強化樹脂層形成工程)。本実施例では、繊維強化樹脂層形成工程として、図2に示すFW装置100を用いる。このFW装置100は、ライナー10の外周に、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸したカーボン繊維を繰り返し巻回することにより、繊維強化樹脂層20としてのカーボン繊維層を形成する。これにより、ライナー10の外周に樹脂硬化前の繊維強化樹脂層20を有する中間生成品タンク12が得られる。FW装置100の構成と当該装置による繊維巻回の様子については、後述する。
【0022】
繊維強化樹脂層20の形成に続いては、熱硬化を行う。熱硬化工程では、図1(c)に示す熱硬化炉200を用いる。この熱硬化炉200は、高周波誘導加熱炉として構成され、図示しない架台に、タンク両端のタンク軸支シャフト212を介して中間生成品タンク12を回転可能に軸支し、図示しないモーターにて中間生成品タンク12を加熱の過程において回転させる。この他、熱硬化炉200は、誘導加熱コイル220を有する。誘導加熱コイル220は、軸支した中間生成品タンク12をタンク長手方向に沿ってタンク軸周囲にて取り囲むよう配設され、そのコイル巻き軌跡をタンク軸に対して傾斜させている。誘導加熱コイル220は、高周波電流生成電源240と接続され、制御機器230による高周波電流生成電源240の制御を経て高周波電流の通電を受けて磁束を形成し、中間生成品タンク12の繊維強化樹脂層20におけるカーボン繊維(樹脂含浸カーボン繊維W)を導体として繊維強化樹脂層20を誘導加熱する。
【0023】
図1(c)に示す上記の熱硬化炉200を用いた熱硬化工程では、熱硬化炉200への中間生成品タンク12の搬入に先だち、繊維強化樹脂層20を形成済みの中間生成品タンク12にタンク軸支シャフト212を装着する。タンク軸支シャフト212は、中間生成品タンク12の両端の口金14に挿入され、タンク両端からシャフトを出した状態で、中間生成品タンク12を水平に軸支する。こうして中間生成品タンク12を軸支した後、熱硬化炉200は、中間生成品タンク12を熱硬化工程に処する。この熱硬化工程では、中間生成品タンク12をタンク軸支シャフト212ごと定速で回転させ、その回転を熱硬化工程の間に亘って維持する。タンク回転と同時に、或いは、定速回転となると、熱硬化炉200は、繊維強化樹脂層20の形成に用いた上記の熱硬化樹脂(例えば、エポキシ樹脂)の熱硬化が起きるよう、制御機器230にて誘導加熱コイル220に高周波電流生成電源240から高周波電流を通電して繊維強化樹脂層20を誘導加熱する。これにより、中間生成品タンク12では、ライナー10の外周に形成された繊維強化樹脂層20における熱硬化樹脂の熱硬化が起きる。誘導加熱の様子については後述する。
【0024】
熱硬化炉200による上記した樹脂の熱硬化後には、加熱を受けた中間生成品タンク12は、冷却養生に処される。そして、この冷却養生を経ることで、ライナー10の外周にエポキシ樹脂を含浸して熱硬化した繊維強化樹脂層20を有する高圧水素タンク30が得られる。
【0025】
ここで、FW装置100による繊維強化樹脂層20の形成の様子(図1(b))と、その後の熱硬化炉200による繊維強化樹脂層20の熱硬化(図1(c))について順を追って説明する。図2に示すように、本実施例のFW装置100は、クリールスタンド110と、巻取部130と、クリールスタンド110と巻取部130とを結ぶ経路部120と、制御部150とを備える。
【0026】
クリールスタンド110は、熱硬化樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸済みのカーボン繊維(以下、樹脂含浸カーボン繊維Wと称する)を巻きつけた複数のボビン112を備え、固定滑車114等を用いて各ボビン112から所定の方向に樹脂含浸カーボン繊維Wを繰り出す機能を有する。本実施例では、熱硬化性樹脂を含浸済みのいわゆるプリプレグの樹脂含浸カーボン繊維Wとしたが、ボビン112にはカーボン繊維のみを巻き取って備え、クリールスタンド110からの繊維繰り出し経路途中で、その繰り出されるカーボン繊維に熱硬化性樹脂を含浸させるようにすることもできる。なお、カーボン繊維に代えて、適当な強度と導電性を有するフィラメントワインディングに適した他の材料の繊維とすることもできる。また、エポキシ樹脂に代えて、熱硬化により適当な接合強度を有するフィラメントワインディングに適した熱硬化性樹脂、例えばポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂とすることもできる。
【0027】
各ボビン112からは、巻取部130の働きにより樹脂含浸カーボン繊維Wがそれぞれ引き出され、各樹脂含浸カーボン繊維Wは経路部120を介して巻取部130へ導かれる。
【0028】
経路部120は、ローラーやガイド等を備え、クリールスタンド110から巻取部130への樹脂含浸カーボン繊維Wへの経路を構成する。
【0029】
巻取部130は、アイクチガイド132と、ライナー10がセットされる回転駆動装置134とを備える。回転駆動装置134は、ライナー10を軸支してそのタンク軸周りにライナー10を回転駆動させる。
【0030】
アイクチガイド132は、ライナー10の外周に樹脂含浸カーボン繊維Wを供給しつつ、ライナー10に樹脂含浸カーボン繊維Wが巻回される際の巻回張力を調整する。また、樹脂含浸カーボン繊維Wのフープ巻きとヘリカル巻きの使い分けにも関与する。つまり、アイクチガイド132は、ライナー10の長軸方向であるx軸、x軸に垂直なy軸、x軸およびy軸に垂直なz軸の3次元で移動して、経路部120から供給された複数本の樹脂含浸カーボン繊維Wを束ねてライナー10に向かって供給する。制御部150による制御を経たアイクチガイド132の3次元方向への移動と回転駆動装置134によるライナー10の回転とにより、樹脂含浸カーボン繊維Wは、ライナー10の外周に繰り返し巻回されることになる。詳細には、図3に示すように、フープ巻きとヘリカル巻きとが交互に使い分けられて、樹脂含浸カーボン繊維Wは、ライナー両端のドーム部10bと円筒状のシリンダー部10aとの外周に繰り返し巻回される。図示するように、まず、ライナー10の略円筒状のシリンダー部10aの領域をフープ巻きにて樹脂含浸カーボン繊維Wを巻回し、その後に、シリンダー部両端のドーム部10bに掛け渡るよう、その折り返し位置に応じた角度のヘリカル巻きにて樹脂含浸カーボン繊維Wを巻回する。
【0031】
図3(A)に示すように、シリンダー部10aにおいては、フープ巻きをシリンダー部両端で折り返しつつ繰り返すことで、繊維強化樹脂層20のライナー外周側の内側樹脂層を形成する。つまり、ライナー10をタンク中心軸AXの回りで回転させつつ、樹脂含浸カーボン繊維Wの供給元であるアイクチガイド132をタンク中心軸AXに沿って所定速度で往復動させることで、繊維強化樹脂層20における内側樹脂層が樹脂含浸カーボン繊維Wにて巻回形成される。このフープ巻きでは、アイクチガイド132からの樹脂含浸カーボン繊維Wが、シリンダー部10aのタンク中心軸AXに対してほぼ垂直に近い巻き角度(繊維角α0:例えば約89°)をなすようにされる。そして、ライナー回転速度とアイクチガイド132の往復動速度を調整した上で、タンク中心軸AX方向に沿ってアイクチガイド132を往復移動させて、樹脂含浸カーボン繊維Wをシリンダー部10aに繰り返し巻回する。
【0032】
こうしたフープ巻きを所定の工程繰り返した後、図3(B)に示す低角度のヘリカル巻きに切り換えて樹脂含浸カーボン繊維Wを繰り返し巻回する。低角度のヘリカル巻きでは、ドーム部10bの湾曲外表面領域とフープ巻き済みのシリンダー部10aを繊維巻回対象とし、ライナー10をタンク中心軸AXの回りで回転させつつ、アイクチガイド132から延びた樹脂含浸カーボン繊維Wをタンク中心軸AXに対して低角度の繊維角αLH(例えば、約11〜25°)で交差させた状態を保持し、ライナー回転速度とアイクチガイド132の往復動速度を調整する。その上で、タンク中心軸AX方向に沿ってアイクチガイド132を往復移動させて、樹脂含浸カーボン繊維Wをシリンダー部10aの両端のドーム部10bに掛け渡るよう螺旋状に繰り返し巻回する。この場合、両側のドーム部10bでは、アイクチガイド132の往路・復路の切換に伴って繊維の巻き付け方向が折り返されると共に、タンク中心軸AXからの折り返し位置も調整される。ドーム部10bにおける巻き付け方向の折り返しを何度も繰り返すことにより、ライナー10の外表面には、低角度の繊維角αLHで樹脂含浸カーボン繊維Wが網目状に張り渡された繊維巻回層が形成される。なお、上記した低角度のヘリカル巻きを行う前に、タンク中心軸AXに対して高角度の繊維角(例えば、約30〜60°)で樹脂含浸カーボン繊維Wを巻回する高角度のヘリカル巻きを組み込むこともできる。
【0033】
こうしたヘリカル巻きを所定の工程繰り返した後、再度、既述したフープ巻きによる樹脂含浸カーボン繊維Wの巻回と、ヘリカル巻きによる樹脂含浸カーボン繊維Wの巻回とを交互に繰り返すことで、繊維強化樹脂層20が巻回形成される。この場合、ヘリカル巻きが最後となれば、ヘリカル巻きによる樹脂層が繊維強化樹脂層20における外表面側の最外層側樹脂層となる。上記したフープ巻きおよびヘリカル巻きにおいて、制御部150は、ライナー10の回転速度制御やアイクチガイド132での巻回張力調整等を行うが、本発明の要旨と直接関係しないので、その説明については省略する。
【0034】
こうして樹脂含浸カーボン繊維Wのフープ巻きおよびヘリカル巻きが交互に使い分けてなされることで、樹脂含浸カーボン繊維Wがライナー10の外周に層状に重なった繊維強化樹脂層20が形成される。そして、樹脂含浸カーボン繊維WのFW法による巻回を経て、ライナー10の外周に繊維強化樹脂層20を形成した中間生成品タンク12が得られる(図1(b)参照)。図4は得られた中間生成品タンク12における繊維強化樹脂層20の内外の樹脂層部位を樹脂含浸カーボン繊維Wの巻回の様子と合わせて示す説明図である。
【0035】
図示するように、ライナー10の外表面に形成された繊維強化樹脂層20は、ライナー10の外周側から、フープ巻きによる樹脂含浸カーボン繊維Wの樹脂層部位とヘリカル巻きによる樹脂含浸カーボン繊維Wの樹脂層部位とが交互に積層される。図においては、図示の都合から、各樹脂層部位は単一の樹脂含浸カーボン繊維Wを含むようにされているが、各樹脂層では、既述したようにフープ巻きとヘリカル巻きでの樹脂含浸カーボン繊維Wの巻回により、複数の樹脂含浸カーボン繊維Wがフープ巻きとヘリカル巻きで重なることになる。そして、既述したフープ巻きとヘリカル巻きの交互切換により、ライナー10の外周側の最内層の樹脂層部位では、図3(A)に示したフープ巻きによる繊維巻回層となり、繊維の配向は既述した約89°となる。その外側の樹脂層部位は、フープ巻きから低角度のヘリカル巻きに切り換えられていることから、図3(B)に示した低角度のヘリカル巻きによる繊維巻回層となり、繊維の配向は既述した約11〜25°となる。以下、層ごとに上記の繊維の配向が切り換わる。
【0036】
図4では、タンク中心軸AXを含んでタンクを長手方向に断面視していることから、繊維の配向がフープ巻きに基づいた約89°の各樹脂層部位では、樹脂含浸カーボン繊維Wは繊維と交差するよう切断したほぼ円形に断面視される。その一方、繊維の配向が低角度のヘリカル巻きに基づいた約11〜25°の各樹脂層部位では、樹脂含浸カーボン繊維Wは繊維長手方向に沿って切断した矩形状に断面視される。本実施例では、フープ巻きによる繊維巻回層とこれに重なるヘリカル巻きによる繊維巻回層を一つの樹脂層部位と捉えたので、図4では、繊維強化樹脂層20は、外表面側の最外層部位からライナー外周側まで5層の樹脂層部位が示されていることになる。
【0037】
次に、図4で示したような樹脂層構成の繊維強化樹脂層20の熱硬化炉200による熱硬化について説明する。図5は図1(c)に示した熱硬化炉200の概略構成を誘導加熱コイル220の配置構成を含めて示す説明図である。
【0038】
図示するように、本実施例の熱硬化炉200では、誘導加熱コイル220を既述したように中間生成品タンク12をタンク長手方向に沿ってタンク軸周囲にて取り囲むに当たり、図5の平面視方向から見て、繊維強化樹脂層20の外表面からの距離がシリンダー部10aとドーム部10bにおいてほぼ同じとなるよう巻かれている。この際、誘導加熱コイル220は、中間生成品タンク12を軸支するタンク軸支シャフト212(図1参照)と干渉しないと共に、タンク軸に対して傾斜したコイル巻き軌跡とされている。
【0039】
この他、熱硬化炉200は、制御機器230と温度センサー242とを有する。温度センサー242は、非接触で繊維強化樹脂層20の外表面温度を検出するよう構成され、その検出温度を制御機器230に出力する。制御機器230は、内部にCPU、RAM、ROMを備えるマイクロコンピュータとして構成されており、ROMに記憶されたコンピュータプログラムをRAMに展開して実行することで、高周波電流生成電源240から誘導加熱コイル220への高周波電流の通電を制御する。この通電制御は、熱硬化炉200の炉内への中間生成品タンク12のセット後のタンク定速回転に合わせて、制御機器230にてなされる。誘導加熱コイル220は、高周波電流生成電源240からの高周波電流の通電を受けると、水平に軸支されてタンク軸回りに回転する中間生成品タンク12の繊維強化樹脂層20を貫く磁束を発生する。繊維強化樹脂層20を構成する樹脂含浸カーボン繊維Wは、この誘導加熱コイル220による磁束と交差することから渦電流を誘起し、カーボン繊維固有の抵抗によって発熱して、繊維強化樹脂層20の熱硬化性樹脂を高周波誘導加熱する。この高周波誘導加熱は、図4に示した繊維強化樹脂層20の各樹脂層部位で起きる。
【0040】
次に、制御機器230による通電制御の様子を、繊維強化樹脂層20の昇温の状況と併せて説明する。図6は本実施例の熱硬化炉200における繊維強化樹脂層20の厚み方向の各樹脂層部位ごとの昇温の様子をその測定の様子と併せて示す説明図である。
【0041】
まず、繊維強化樹脂層20の外表面側の最外層部位からライナー外周側まで5層の各樹脂層部位の昇温状況を測定するため、各層の樹脂層部位に熱電対を埋設した。図6では、この熱電対は、図中に四角で示されており、図3で説明したフープ巻きからヘリカル巻きへの切換の際に、熱電対を装着し、そのままヘリカル巻きを継続する。これにより、各樹脂層部位に熱電対を埋設した昇温状況測定用の中間生成品タンク12が得られる。次いで、この測定用の中間生成品タンク12を通常のタンク製造工程手順に従って、熱硬化炉200の高周波誘導加熱に処する。この熱硬化炉200による高周波誘導加熱は、熱硬化炉200の制御機器230が高周波電流生成電源240から誘導加熱コイル220に高周波電流を通電することで繊維強化樹脂層20の各樹脂層部位で既述したように起きる。そして、誘導加熱の間の各樹脂層部位の測定温度をプロットして、図6に示す加熱時間と各層ごとの昇温状況の関係と、層の深さと温度の関係とを得た。図6のグラフは、最終製品たる高圧水素タンク30を得る際の中間生成品タンク12に見られる温度状況を表している。
【0042】
この図6から、最も温度が高くなるのは、図において層番号1で示される繊維強化樹脂層20の外表面側の最外層部位の内側の樹脂層部位(層番号2)であり、次いで高いのは層番号1の最外層部位となる。層番号3〜5の各樹脂層部位は、層の深さが深くなる順に、層番号1の最外層部位より温度が低下する。そして、ある時点、例えば図6において各層の温度が安定した時点での各樹脂層部位の温度分布は、上記の各層ごとの温度状況が反映し、繊維強化樹脂層20の最外層部位(層番号1)とその内側の樹脂層部位(層番号2)とでは、図中に白抜き矢印で示す温度差ΔTmが生じる。こうした現象は、次のように説明できる。
【0043】
図5の誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱は、繊維強化樹脂層20の最外層部位(層番号1)とその内側の樹脂層部位(層番号2)およびその下層側の樹脂層部位(層番号3〜5)の各層で進むものの、各層での誘導加熱の状況は次のように相違する。繊維強化樹脂層20の最外層部位(層番号1)は、誘導加熱コイル220に最も近くて誘導加熱コイル220の発生した磁束の影響を受けやすく生じる渦電流も大きいことから、誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱が最も進む。最外層部位(層番号1)より下層側の樹脂層部位(層番号2〜5)は、誘導加熱コイル220による誘導加熱を受けるとはいえ、当該コイルから離れることで磁束の影響を受けにくくなって生じる渦電流も小さくなるので、最外層部位(層番号1)ほど加熱は進まない。
【0044】
繊維強化樹脂層20の最外層部位(層番号1)より内側の樹脂層部位(層番号2)は、当該層部位での高周波誘導加熱に加え、誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱が最も進む最外層部位(層番号1)からの熱伝播を受ける。その一方、最外層部位(層番号1)ではその層表面からの放熱が起きるので、図6のグラフに見られるように、内側の樹脂層部位(層番号2)の温度は最外層より高くなる。層番号2の樹脂層部位より下層側の樹脂層部位(層番号3〜5)では、各樹脂層部位での高周波誘導加熱と上層側の樹脂層部位からの熱伝搬とが起きるものの、これらは層番号2の樹脂層部位より進まないので、各層の温度は層番号2の樹脂層部位より低くなる。こうしたことを考慮して繊維強化樹脂層20の最外層部位(層番号1)より内側の樹脂層部位(層番号2)の温度が制御上限温度となるよう、熱硬化炉200は、その制御機器230により誘導加熱コイル220への高周波電流の通電を制御する。この場合の制御上限温度は、熱硬化性樹脂を加熱する際の加熱上限温度でもあり、ライナー10の源材料樹脂および繊維強化樹脂層20の形成のための熱硬化性樹脂の溶解温度等の性状や、樹脂含浸カーボン繊維Wの繊維表面に付着された薬剤、具体的には繊維と樹脂の馴染みを向上させる薬剤の耐性温度等から定まる。特に、熱硬化性樹脂にあっては、その性質上、その溶解温度に近い温度となると、粘度低下が顕著となるので、こうした点も制御上限温度の決定に考慮される。
【0045】
本実施例の熱硬化炉200では、図5に示すように、制御機器230のメモリー領域に図6で示した各層部位ごとの温度状況を記憶し、これを参照しつつ上記した高周波電流の通電を制御する。こうして記憶された温度状況は、繊維強化樹脂層20の層厚み方向における樹脂層部位(層番号1〜5)ごとに対応付けられており、製造対象となる高圧水素タンク30ごとに用意される。例えば、高圧水素タンク30のサイズや、繊維強化樹脂層20を構成する熱硬化性樹脂が異なれば、それぞれについての図6の各層部位ごとの温度状況が記憶されることになる。図7は誘導加熱コイル220への高周波電流の通電制御を説明するフローチャートである。
【0046】
図7に示す通電制御は、熱硬化炉200の炉内への中間生成品タンク12のセット、並びに軸回りの回転が定速となると開始され、制御機器230は、誘導加熱コイル220に高周波電流生成電源240から高周波電流を通電し、これを継続する(ステップS100)。次いで、制御機器230は、繊維強化樹脂層20の外表面温度を温度センサー242(図5参照)から入力し(ステップS110)、その入力温度、即ち図6に示した繊維強化樹脂層20の最外層部位(層番号1)の温度とメモリーに記憶済みの図6の温度状況を参照して、最外層部位(層番号1)より内側の樹脂層部位(層番号2)の温度を演算する(ステップS120)。こうした温度演算の対象となる内側の樹脂層部位(層番号2)は、繊維強化樹脂層20の層厚み方向における樹脂層部位(層番号1〜5)ごとに対応付けられた温度状況から、熱硬化の際に最大温度となる樹脂層部位として特定されることになる。
【0047】
ステップS120での温度演算では、上記したような温度センサー242からの最外層部位(層番号1)の入力温度を用いることができるほか、誘導加熱コイル220への電流通電を開始してからの経過時間に基づいて最外層部位(層番号1)の温度を推定し、この推定温度を用いることもできる。また、図6に示した最外層部位(層番号1)とその内側の樹脂層部位(層番号2)の温度差ΔTmは、最外層部位の昇温状況に対応して加熱開始から求まるので、この温度差ΔTmを参照して演算することもできる。この他、最外層部位(層番号1)の温度を用いることなく、最外層部位(層番号1)より内側の樹脂層部位(層番号2)の温度を演算することもできる。つまり、図6の温度状況は、内側の樹脂層部位(層番号2)についての温度状況を含むので、通電開始後の経過時間により、内側の樹脂層部位(層番号2)の温度を演算してもよい。
【0048】
次に、制御機器230は、上記演算した樹脂層部位(層番号2)の温度が既述した制御上限温度に達したか否かを判定し(ステップS130)、樹脂層部位(層番号2)の温度が制御上限温度に達するまでステップS100から処理を繰り返す。一方、ステップS130にて、樹脂層部位(層番号2)の温度が制御上限温度に達すると、制御機器230は、誘導加熱コイル220への高周波電流の通電を停止すると共に、繊維強化樹脂層20の冷却養生を図る(ステップS140)。これにより、繊維強化樹脂層20が硬化済みの高圧水素タンク30が得られる。
【0049】
以上説明したように、本実施例では、熱硬化した繊維強化樹脂層20にて補強を図った高圧水素タンク30を製造するに当たり、繊維強化樹脂層20の熱硬化性樹脂の熱硬化に際し、繊維強化樹脂層20の最外層部位(層番号1:図6参照)より内側の樹脂層部位(層番号2)の温度を誘導加熱コイル220への高周波電流の通電を制御する際の制御上限温度に設定した。このため、誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱を行う場合に昇温が最も進む層番号2の樹脂層部位を制御上限温度を超えないように加熱(誘導加熱)することができる。これに対し、誘導加熱コイル220に最も近くて当該コイルによる高周波誘導加熱が最も進む最外層部位(層番号1)の温度が制御上限温度となるように誘導加熱コイル220への高周波電流の通電を制御上限温度に設定すれば、最外層部位(層番号1)より内側の樹脂層部位(層番号2)を制御上限温度より高い温度まで加熱してしまうことになる。そして、このように樹脂層部位(層番号2)が制御上限温度より高温となれば、当該部位の熱硬化性樹脂の粘度低下やこれに伴う染み出しが顕著となってしまい、高Vfを招きかねない。ところが、本実施例の熱硬化炉200によれば、延いては、この熱硬化炉200を用いて中間生成品タンク12から高圧水素タンク30を製造する手法によれば、繊維強化樹脂層20の各樹脂層部位が誘導加熱を受けて昇温する際に最大の温度となる内側の樹脂層部位(層番号2)の温度を制御上限温度とするので、Vfについては、この上限温度に対応した範囲に留めることができ、Vfのバラツキを抑制できる。そして、繊維強化樹脂層20の熱硬化の際のVfのバラツキが抑制されることから、得られた高圧水素タンク30にあっては、実用に耐え得る高いタンク強度や耐久性を有するタンクとなる。
【0050】
また、本実施例のタンク製造手法では、予め繊維強化樹脂層20の各樹脂層部位(層番号1〜5)が誘導加熱コイル220による誘導加熱を受けて昇温する際の昇温状況を各樹脂層部位ごとに予め対応付けて、その対応関係(図6のグラフ参照)を記憶する。そして、高周波誘導加熱が最も進む最外層部位(層番号1)について検出した温度と記憶済みの昇温状況とを参照しつつ、昇温が最も進む層番号2の樹脂層部位を制御上限温度を超えないように加熱(誘導加熱)するので、Vfのバラツキが抑制された高圧水素タンク30を容易、且つ確実に製造できる。
【0051】
次に、熱硬化炉200の変形例について説明する。図8は変形例の熱硬化炉200の概略構成を示しつつ繊維強化樹脂層20の各樹脂層部位の温度分布の様子を示す説明図である。
【0052】
この変形例の熱硬化炉200は、繊維強化樹脂層20を誘導加熱する誘導加熱コイル220に加え、冷却機構を有する。この冷却機構は、繊維強化樹脂層20の外表側の最外層部位を冷却する構成を備え、例えば、冷風吹出ノズルを最外層部位に対向配置したり、冷却水等の冷媒の循環配管を最外層部位の表面近くに配設等して構成される。そして、この冷却機構は、繊維強化樹脂層20の外表側の最外層部位を冷却して当該層部位からの放熱を図る。この場合、繊維強化樹脂層20は、既述したように誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱を受けていることから、この変形例では、繊維強化樹脂層20の外表側の最外層部位からの放熱を図りつつ誘導加熱コイル220にて繊維強化樹脂層20を誘導加熱することになる。そして、この変形例によれば、図8に示すように、最外層部位からの放熱を通して繊維強化樹脂層20の厚み方向での温度分布のバラツキを抑制できるので、Vfのバラツキを高い実効性で抑制できる。しかも、繊維強化樹脂層20の熱硬化の際の温度分布のバラツキ抑制により、樹脂の硬化収縮もばらつかないようにできることから、硬化収縮のバラツキに基づくクラックの発生も抑制できる。よって、得られた高圧水素タンク30は、高いタンク強度と耐久性を備えたものとなる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、上記の実施例では、高圧ガスタンクは、高圧水素タンク30であるものとしたが、本発明は、これに限られない。例えば、天然ガス等、他の高圧ガスを貯蔵する高圧ガスタンクとしてもよい。
【0054】
また、上記の実施例では、誘導加熱コイル220への通電停止を含む通電制御を行うに当たり(ステップS140)、記憶済みの温度状況(図6)の参照を経て最大温度となる内側の樹脂層部位(層番号2)の温度を演算したが、これに限らない。例えば、温度センサー242から得た繊維強化樹脂層20の外表面温度、即ち繊維強化樹脂層20の最外層部位(層番号1)の温度を、最大温度となる内側の樹脂層部位(層番号2)の温度に代用することもできる。これは、繊維強化樹脂層20の最外層部位(層番号1)の温度は、記憶済みの温度状況(図6)に倣って内側の樹脂層部位(層番号2)の温度に対応するので、繊維強化樹脂層20の最外層部位(層番号1)の温度を、最大温度となる内側の樹脂層部位(層番号2)の温度に代用し、この代用温度(最外層部位(層番号1)の温度)に基づいて、ステップS140の誘導加熱コイル220への通電停止を行うようにすることもできる。具体的には、温度センサー242から得た繊維強化樹脂層20の最外層部位(層番号1)の温度が、既述した制御上限温度より所定の温度差(図6のΔTm)だけ低い温度となると、ステップS140の誘導加熱コイル220への通電停止を行う。こうしても、最大温度となる内側の樹脂層部位(層番号2)については、その温度を制御上限温度を超えないようにでき、既述した効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0055】
10…ライナー
10a…シリンダー部
10b…ドーム部
12…中間生成品タンク
14…口金
20…繊維強化樹脂層
30…高圧水素タンク
100…FW装置
110…クリールスタンド
112…ボビン
114…固定滑車
120…経路部
130…巻取部
132…アイクチガイド
134…回転駆動装置
150…制御部
200…熱硬化炉
212…タンク軸支シャフト
220…誘導加熱コイル
230…制御機器
240…高周波電流生成電源
242…温度センサー
W…樹脂含浸カーボン繊維
AX…タンク中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガスタンクの製造方法であって、
タンク容器となる中空のライナーの外周に、熱硬化性樹脂を含浸した繊維を巻回して形成された繊維強化樹脂層を有するタンク中間生成品を準備する工程(a)と、
前記タンク中間生成品をタンク軸回りに回転させつつ、高周波誘導加熱を誘起する誘導加熱コイルを用いて前記タンク中間生成品の前記繊維強化樹脂層を誘導加熱して熱硬化させる工程(b)とを備え、
前記工程(b)では、
前記誘導加熱を受けて昇温する前記繊維強化樹脂層の層厚み方向における樹脂層部位についての温度分布の存在を前提に、前記誘導加熱コイルへの高周波電流の通電を制御する
高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項2】
前記工程(b)では、前記層厚み方向における樹脂層部位のうちで最大の温度となる最大温度樹脂層部位の温度が、前記熱硬化性樹脂の性状を含む条件で定まる加熱上限温度を超えないように、前記誘導加熱コイルへの高周波電流の通電を制御する請求項1に記載の高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の高圧ガスタンクの製造方法であって、
前記工程(b)では、
前記誘導加熱を受けて前記繊維強化樹脂層が昇温する際の昇温状況を前記層厚み方向における樹脂層部位ごとに対応付けた対応関係に基づいて、前記最大温度樹脂層部位を前記繊維強化樹脂層の外表側の最外層部位より内側の樹脂層部位とする
高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)では、前記誘導加熱を受けて前記繊維強化樹脂層が昇温する際に、前記対応関係を用いて前記内側の樹脂層部位の温度を求め、該求めた前記内側の樹脂層部位の温度に応じて前記誘導加熱コイルへの高周波電流の通電を制御する請求項2または請求項3に記載の高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)では、前記誘導加熱を受けて前記繊維強化樹脂層が昇温する際に、前記内側の樹脂層部位の温度と前記対応関係に倣って対応する他の樹脂層部位の温度を求め、該求めた前記他の樹脂層部位の温度を前記内側の樹脂層部位の温度に代用して前記誘導加熱コイルへの高周波電流の通電を制御する請求項4に記載の高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項6】
前記工程(b)では、前記繊維強化樹脂層の外表側の最外層部位からの放熱を図りつつ前記誘導加熱コイルにて前記繊維強化樹脂層を誘導加熱する請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の高圧ガスタンクの製造方法。
【請求項7】
タンク容器となる中空のライナーの外周に熱硬化性樹脂を含浸して熱硬化した繊維強化樹脂層を有する高圧ガスタンクの製造に用いる装置であって、
熱硬化前の前記熱硬化性樹脂を含浸した繊維を前記ライナーの外周に巻回して前記繊維強化樹脂層を形成し、タンク中間生成品を得る繊維巻回手段と、
前記タンク中間生成品をタンク軸回りに回転させつつ、高周波誘導加熱を誘起する誘導加熱コイルを用いて前記回転する前記タンク中間生成品の前記繊維強化樹脂層を誘導加熱して熱硬化させる熱硬化手段とを備え、
前記熱硬化手段は、
前記誘導加熱を受けて前記繊維強化樹脂層が昇温する際の昇温状況を前記繊維強化樹脂層の層厚み方向における樹脂層部位ごとに対応付けた対応関係を記憶する記憶部と、
前記繊維強化樹脂層が昇温する際に前記樹脂層部位のうちで最大の温度となる最大温度樹脂層部位を前記対応関係に基づいて定め、該定めた前記最大温度樹脂層部位の温度が、前記熱硬化性樹脂の性状を含む条件で定まる加熱上限温度を超えないように、前記誘導加熱コイルへの高周波電流の通電を制御する制御部とを有する
高圧ガスタンクの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−64429(P2013−64429A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202597(P2011−202597)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】