説明

高圧ガスタンクの製造装置と製造方法

【課題】ライナー外周に形成した繊維強化樹脂層における熱硬化性樹脂の昇温のバラツキを抑制する。
【解決手段】第1誘導加熱コイル220は、軸支した中間生成品タンク12をタンク長手方向に沿ってタンク軸周囲にて取り囲むよう配設され、そのコイル巻き軌跡は、繊維強化樹脂層20の最外層の樹脂含浸カーボン繊維Wの配向とほぼ揃っている。第2誘導加熱コイル222は、中間生成品タンク12の外周と対向するよう配設され、第1誘導加熱コイル220より強い磁束を発生する。共通する高周波電流生成電源240に並列に接続された第1誘導加熱コイル220と第2誘導加熱コイル222は、高周波電流の通電を受けて磁束を形成し、中間生成品タンク12の繊維強化樹脂層20における樹脂含浸カーボン繊維Wを導体として繊維強化樹脂層20を誘導加熱する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガスタンクの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、燃料ガスの燃焼エネルギや、燃料ガスの電気化学反応によって発電された電気エネルギによって駆動する車両が開発されており、高圧ガスタンクには、天然ガスや水素等の燃料ガスが貯蔵され、車両に搭載される場合がある。このため、高圧ガスタンクの軽量化が求められており、カーボン繊維強化プラスチックや、ガラス繊維強化プラスチック(以下、これらを総称して、繊維強化樹脂層と呼ぶ)で中空のライナーを被覆したFRP(Fiber Reinforced Plastics : 繊維強化プラスチック)製の高圧ガスタンク(以下、単に高圧ガスタンクと称する)の採用が進んでいる。ライナーとしては、軽量化の観点から、通常、ガスバリア性を有する樹脂製の中空容器が用いられる。
【0003】
一般に、こうした高圧ガスタンクの製造に際しては、フィラメントワインディング法(以下、FW法)が採用され、このFW法により、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸した繊維をライナーの外周に繰り返し巻回して繊維強化樹脂層とする。そして、その後に、当該樹脂層に含まれる熱硬化樹脂を熱硬化させることで、ライナーを繊維強化樹脂層で被覆・補強した高圧ガスタンクが製造される。
【0004】
得られた高圧ガスタンクでは、硬化済みの繊維強化樹脂層の内部にクラックがないことが強度や耐久性の確保の上から望ましい。樹脂層の内部クラックは、熱硬化樹脂の昇温が樹脂層内部でばらつくために樹脂の硬化速度が不均一となって起きることが知られている。よって、近年では、クラックの発生防止と生産性の向上の観点から、熱硬化性樹脂の熱硬化のための加熱に際して、高周波誘導加熱を誘起する誘導加熱コイルを用いて誘導加熱する手法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−335973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、繊維はライナー両端のドーム部と円筒状のシリンダー部との外周に繰り返し巻回されるが、この繊維巻回に際しては、ライナー軸芯に対して繊維がなす角度である繊維の配向を一律とするのではなく、この繊維の配向を変えたフープ巻きとヘリカル巻きとが通常使い分けられる。ヘリカル巻きは、ライナー軸芯に対して、例えば10°〜60°の角度(繊維配向)をつけて繊維を巻回する手法であり、この角度範囲の内の10°〜30°程度の低角度ヘリカル巻きと、それ以上の角度の高角度ヘリカル巻きとに区別される。フープ巻きは上記の角度を90°に近似させて繊維を周方向に揃えて巻回する手法である。ここで言う角度は、ライナー10のタンク軸芯に対してなす角度であって繊維の配向程度を表す。そして、タンク製造に際しては、フープ巻きとヘリカル巻きを、繊維強化樹脂層におけるライナー側の樹脂層とこれより外側の樹脂層とで使い分けることがなされている。
【0007】
繊維強化樹脂層において上記したようにフープ巻きとヘリカル巻きを使い分けると、フープ巻きの樹脂層とヘリカル巻きの樹脂層とでは、繊維の配向が異なることになる。その一方、誘導加熱コイルに高周波電流を流すことにより発生する磁束の向きは、コイル巻き軌跡に依存して定まり不変であることから、フープ巻きの樹脂層とヘリカル巻きの樹脂層とでは、各樹脂層を巻回形成する繊維と誘導加熱コイルの生じた磁束の交差の様子が相違することになる。繊維強化樹脂層を巻回形成する繊維は、磁束との交差に基づいて誘起した渦電流と繊維固有の抵抗によって発熱するので、上記したように磁束との交差の様子が相違すると、発熱状況に差が生じ、繊維強化樹脂層において樹脂の昇温が不均一となることが危惧される。この場合、磁束の向きはコイル巻き軌跡に依存することから、繊維の配向とコイル巻き軌跡が揃うほど渦電流の流れる範囲が増して加熱が進みやすくなる。このため、コイル巻き軌跡と揃うような配向で繊維が巻回された樹脂層部位が、仮に繊維強化樹脂層の外表層側であると、この外表層側の樹脂層では加熱が進むことになる。その一方、外表層側より内側の樹脂層では、繊維強化樹脂層の外表層表面から離れるために渦電流自体が低下することと、繊維の配向とコイル巻き軌跡が揃わなくなることとによって、加熱が進まず、繊維強化樹脂層における樹脂の昇温のバラツキが顕在化する。上記した特許文献で提案された手法では、上記した繊維の配向に対しての配慮に欠けるため、繊維強化樹脂層における熱硬化性樹脂の昇温のバラツキの抑制を図る新たな手法が要請されるに到った。
【0008】
本発明は、上記した課題を踏まえ、ライナー外周に形成した繊維強化樹脂層における熱硬化性樹脂の昇温のバラツキの抑制をもたらす新たなタンク製造手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明は、以下の適用例として実施することができる。
【0010】
[適用例1:高圧ガスタンクの製造装置]
タンク容器となる中空のライナーの外周に熱硬化性樹脂を含浸して熱硬化した繊維強化樹脂層を有する高圧ガスタンクの製造に用いる装置であって、
熱硬化前の前記熱硬化性樹脂を含浸した繊維を前記ライナーの外周に巻回して前記繊維強化樹脂層を形成し、タンク中間生成品を得る繊維巻回手段と、
前記タンク中間生成品を軸支し、該軸支した前記タンク中間生成品をタンク軸回りに回転させつつ加熱して前記繊維強化樹脂層を熱硬化させる熱硬化手段とを備え、
前記熱硬化手段は、
前記回転する前記タンク中間生成品の全体を加熱する第1加熱手段と、
前記タンク中間生成品を高周波誘導加熱する誘導加熱コイルを前記タンク中間生成品の外周と対向して配設し、前記回転する前記タンク中間生成品を前記外周の側から前記誘導加熱コイルにより局所的に高周波誘導加熱する第2加熱手段とを備える
ことを要旨とする。
【0011】
この適用例1の高圧ガスタンクの製造装置では、ライナーの外周に巻回形成した繊維強化樹脂層の熱硬化を経て高圧ガスタンクを製造する当たり、回転するタンク中間生成品の全体を第1加熱手段にて加熱しつつ、第2加熱手段では、タンク中間生成品の外周と対向する誘導加熱コイルにより、タンク中間生成品をその外周の側から局所的に高周波誘導加熱する。このため、第1加熱手段だけでは、繊維強化樹脂層において他の樹脂層部位より昇温が進まない部位(以下、説明の便宜上、低昇温部位と称する)が生じたとしても、この低昇温部位を第2加熱手段の誘導加熱コイルにより局所的に高周波誘導加熱して昇温を高めることができる。よって、上記の適用例1の高圧ガスタンクの製造装置によれば、低昇温部位の昇温を高めることで、繊維強化樹脂層における熱硬化性樹脂の昇温のバラツキを抑制することが可能となる。換言すれば、上記した適用例1の高圧ガスタンクの製造装置は、ライナー外周に形成した繊維強化樹脂層における熱硬化性樹脂の昇温のバラツキを抑制可能な新たなタンク製造装置となる。
【0012】
上記した適用例1の高圧ガスタンクの製造装置は、次のような態様とすることができる。例えば、第1加熱手段については、これを、前記タンク中間生成品を高周波誘導加熱する誘導加熱コイルを備えるものとした上で、当該誘導加熱コイルを、前記軸支した前記タンク中間生成品をタンク長手方向に沿って前記タンク軸周囲にて取り囲むタンク長手方向誘導加熱コイルとする。そして、このタンク長手方向誘導加熱コイルにより、前記タンク中間生成品の全体を高周波誘導加熱する。その一方、第2加熱手段については、その有する誘導加熱コイルを、前記タンク長手方向誘導加熱コイルより強い磁束を形成する誘導加熱コイルとする。こうすれば、第2加熱手段の誘導加熱コイルによる局所的な高周波誘導加熱は、繊維の配向がコイル巻き軌跡に揃う・揃わないを問わず、強い磁束により起きることになる。ライナーの外周に形成された繊維強化樹脂層の内周層は、繊維強化樹脂層の外表層表面から離れてタンク長手方向誘導加熱コイルでの誘導加熱の際の渦電流が低下するために昇温が往々にして進まないが、上記の態様によれば、昇温が進み難い内周層の昇温を強い磁束に基づいた高周波誘導加熱により高めるので、繊維強化樹脂層における熱硬化性樹脂の昇温のバラツキ抑制の実効性が高まる。この場合、タンク長手方向誘導加熱コイルについては、ライナーの外周に形成された繊維強化樹脂層の外表層側の樹脂層における繊維の配向が当該誘導加熱コイルのコイル巻き軌跡と揃うようにされていれば、この外表層側の樹脂層の熱硬化性樹脂を効率よく加熱昇温させる。
【0013】
その一方、繊維強化樹脂層においてこの外表層側の樹脂層より内側の樹脂層では、当該樹脂層における繊維の配向がタンク長手方向誘導加熱コイルのコイル巻き軌跡と揃っていないと、繊維強化樹脂層の外表層表面から離れていることと相まって、タンク長手方向誘導加熱コイルによる誘導加熱は外表層側ほど進まない。ところが、上記の態様では、このように加熱が進まないことが有り得る内側の樹脂層については、タンク長手方向誘導加熱コイルより強い磁束を形成する誘導加熱コイルにて、その昇温を高める。つまり、タンク長手方向誘導加熱コイル以外の誘導加熱コイルは、軸支した前記タンク中間生成品の外周と対向するよう配設された上で、タンク長手方向誘導加熱コイルより強い磁束を形成するので、加熱が進まないことが有り得る内側の樹脂層での繊維の配向がコイル巻き軌跡と揃っていなくても、当該内側の樹脂層を誘導加熱して昇温を高める。この結果、上記の態様によれば、繊維強化樹脂層の外表層側の樹脂層における繊維の配向がタンク長手方向誘導加熱コイルのコイル巻き軌跡と揃い、外表層側の樹脂層より内側の樹脂層における繊維の配向がタンク長手方向誘導加熱コイルのコイル巻き軌跡と揃っていないとしても、このような繊維強化樹脂層での熱硬化性樹脂の昇温のバラツキを高い実効性で抑制できる。
【0014】
また、第2加熱手段の誘導加熱コイルについては、これをタンク長手方向誘導加熱コイルより短いコイル長と低い抵抗とを有するものとできる。こうすれば、タンク長手方向誘導加熱コイルより強い磁束を形成する上で、簡便となる。
【0015】
また、前記第1加熱手段の前記タンク長手方向誘導加熱コイルと前記第2加熱手段の前記誘導加熱コイルとを、共通する高周波電流生成電源に並列に接続するようにできる。こうすれば、第2加熱手段の誘導加熱コイルの形成する磁束を、高周波電流生成電源が共通でありながらタンク長手方向誘導加熱コイルより強くできるので、通電制御の簡略化や、低コスト化が可能となる。
【0016】
[適用例2:高圧ガスタンクの製造方法]
高圧ガスタンクの製造方法であって、
タンク容器となる中空のライナーの外周に、熱硬化性樹脂を含浸した繊維を巻回して形成された繊維強化樹脂層を有するタンク中間生成品を準備する工程(a)と、
前記タンク中間生成品を軸支し、該軸支した前記タンク中間生成品をタンク軸回りに回転させつつ加熱して前記繊維強化樹脂層を熱硬化させる工程(b)とを備え、
前記工程(b)では、
前記軸支した前記タンク中間生成品をタンク長手方向に沿って前記タンク軸周囲にて取り囲んで前記タンク中間生成品を高周波誘導加熱するタンク長手方向の誘導加熱コイルにより、前記回転する前記タンク中間生成品の全体を高周波誘導加熱しつつ、
前記タンク中間生成品の外周と対向して配設され前記タンク長手方向の誘導加熱コイルより強い磁束を形成する誘導加熱コイルにより、前記回転する前記タンク中間生成品を前記外周の側から局所的に高周波誘導加熱する
ことを要旨とする。
【0017】
上記した適用例2の高圧ガスタンクの製造方法によれば、ライナー外周に形成した繊維強化樹脂層における熱硬化性樹脂の昇温のバラツキが抑制された高圧ガスタンクを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例としての高圧ガスタンクの製造工程を模式的に示す説明図である。
【図2】この製造工程に用いるFW装置100の構成を概略的に示す説明図である。
【図3】繊維強化樹脂層の形成の様子を模式的に示す説明図である。
【図4】得られた中間生成品タンク12における繊維強化樹脂層20の内外の樹脂層における樹脂含浸カーボン繊維Wの配向の様子を示す説明図である。
【図5】図1(c)に示した熱硬化炉200における誘導加熱コイルの配置構成を中間生成品タンク12の側面側から概略的に示す説明図である。
【図6】図5を平面視して誘導加熱コイルの配置構成を概略的に示す説明図である。
【図7】誘導加熱コイルの配置構成を中間生成品タンク12を断面視して概略的に示す説明図である。
【図8】本実施例の熱硬化炉200と対比される既存の高周波誘導加熱炉におけるコイル構成を図5相当に概略的に示す説明図である。
【図9】本実施例の熱硬化炉200と既存の高周波誘導加熱炉とにおける繊維強化樹脂層20の内外の樹脂層ごとの昇温の様子を対比して示す説明図である。
【図10】図5相当に変形例の熱硬化炉200における誘導加熱コイルの配置構成を中間生成品タンク12の側面側から概略的に示す説明図である。
【図11】図6相当に誘導加熱コイルの配置構成を平面視して概略的に示す説明図である。
【図12】図7相当に誘導加熱コイルの配置構成を中間生成品タンク12を断面視して概略的に示す説明図である。
【図13】第2誘導加熱コイル223を有する変形例の熱硬化炉200による繊維強化樹脂層20の昇温の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は本発明の一実施例としての高圧ガスタンクの製造工程を模式的に示す説明図、図2はこの製造工程に用いるFW装置100の構成を概略的に示す説明図、図3は繊維強化樹脂層の形成の様子を模式的に示す説明図である。本実施例では、高圧ガスタンクを、高圧水素を貯蔵する高圧水素タンクとした。
【0020】
本実施例のタンク製造工程では、まず、図1(a)に示したように、水素ガスに対するガスバリア性を有する樹脂製容器をライナー10として用意する。ライナー10は、半径が均一である略円筒形状のシリンダー部10aと、シリンダー部両端に設けられた凸曲面形状のドーム部10bを有する。ドーム部10bは、等張力曲面によって構成されており、その頂点に、外部配管等と接続するための口金14を有する。本実施例では、樹脂容器として、ナイロン系樹脂からなる樹脂製容器を用いるものとした。樹脂容器として、水素ガスに対するガスバリア性を有すれば、他の樹脂からなる樹脂容器を用いるものとしてもよい。
【0021】
次に、図1(b)に示したように、ライナー10の外周に繊維強化樹脂層20を形成する(繊維強化樹脂層形成工程)。本実施例では、繊維強化樹脂層形成工程として、図2に示すFW装置100を用いる。このFW装置100は、ライナー10の外周に、熱硬化性樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸したカーボン繊維を繰り返し巻回することにより、繊維強化樹脂層20としてのカーボン繊維層を形成する。これにより、ライナー10の外周に樹脂硬化前の繊維強化樹脂層20を有する中間生成品タンク12が得られる。FW装置100の構成と当該装置による繊維巻回の様子については、後述する。
【0022】
繊維強化樹脂層20の形成に続いては、熱硬化を行う。熱硬化工程では、図1(c)に示す熱硬化炉200を用いる。この熱硬化炉200は、高周波誘導加熱炉として構成され、図示しない架台に、タンク両端のタンク軸支シャフト212を介して中間生成品タンク12を回転可能に軸支し、図示しないモーターにて中間生成品タンク12を加熱の過程において回転させる。この他、熱硬化炉200は、第1誘導加熱コイル220と、第2誘導加熱コイル222とを有する。第1誘導加熱コイル220は、軸支した中間生成品タンク12をタンク長手方向に沿ってタンク軸周囲にて取り囲むよう配設され、そのコイル巻き軌跡は、タンク軸に対して15°程傾いている。なお、このコイル巻き軌跡の傾斜程度は、タンク形状、詳しくは軸方向のタンク寸法等に応じて変わるようにすることができる。第2誘導加熱コイル222は、本実施例では、5個用意され、軸支した中間生成品タンク12の外周と対向するよう配設されている。これら第1、第2の誘導加熱コイルは、高周波電流の通電を受けて磁束を形成し、中間生成品タンク12の繊維強化樹脂層20におけるカーボン繊維(樹脂含浸カーボン繊維W)を導体として繊維強化樹脂層20を誘導加熱する。
【0023】
図1(c)に示す上記の熱硬化炉200を用いた熱硬化工程では、熱硬化炉200への中間生成品タンク12の搬入に先だち、繊維強化樹脂層20を形成済みの中間生成品タンク12にタンク軸支シャフト212を装着する。タンク軸支シャフト212は、中間生成品タンク12の両端の口金14に挿入され、タンク両端からシャフトを出した状態で、中間生成品タンク12を水平に軸支する。こうして中間生成品タンク12を軸支した後、熱硬化炉200は、中間生成品タンク12を熱硬化工程に処する。この熱硬化工程では、中間生成品タンク12をタンク軸支シャフト212ごと定速で回転させ、その回転を熱硬化工程の間に亘って維持する。タンク回転と同時に、或いは、定速回転となると、熱硬化炉200は、繊維強化樹脂層20の形成に用いた上記の熱硬化樹脂(例えば、エポキシ樹脂)の熱硬化が起きるよう、制御機器230にて第1誘導加熱コイル220と第2誘導加熱コイル222とに高周波電流を通電して繊維強化樹脂層20を誘導加熱する。これにより、中間生成品タンク12では、ライナー10の外周に形成された繊維強化樹脂層20における熱硬化樹脂の熱硬化が起きる。上記両コイルの特性と両コイルによる誘導加熱の様子については後述する。
【0024】
熱硬化炉200による上記した樹脂の熱硬化後には、加熱を受けた中間生成品タンク12は、冷却養生に処される。そして、この冷却養生を経ることで、ライナー10の外周にエポキシ樹脂を含浸して熱硬化した繊維強化樹脂層20を有する高圧水素タンク30が得られる。
【0025】
ここで、FW装置100による繊維強化樹脂層20の形成の様子(図1(b))と、その後の熱硬化炉200による繊維強化樹脂層20の熱硬化(図1(c))について順を追って説明する。図2に示すように、本実施例のFW装置100は、クリールスタンド110と、巻取部130と、クリールスタンド110と巻取部130とを結ぶ経路部120と、制御部150とを備える。
【0026】
クリールスタンド110は、熱硬化樹脂としてのエポキシ樹脂を含浸済みのカーボン繊維(以下、樹脂含浸カーボン繊維Wと称する)を巻きつけた複数のボビン112を備え、固定滑車114等を用いて各ボビン112から所定の方向に樹脂含浸カーボン繊維Wを繰り出す機能を有する。本実施例では、熱硬化性樹脂を含浸済みのいわゆるプリプレグの樹脂含浸カーボン繊維Wとしたが、ボビン112にはカーボン繊維のみを巻き取って備え、クリールスタンド110からの繊維繰り出し経路途中で、その繰り出されるカーボン繊維に熱硬化性樹脂を含浸させるようにすることもできる。なお、カーボン繊維に代えて、適当な強度と導電性を有するフィラメントワインディングに適した他の材料の繊維とすることもできる。また、エポキシ樹脂に代えて、熱硬化により適当な接合強度を有するフィラメントワインディングに適した熱硬化性樹脂、例えばポリエステル樹脂やポリアミド樹脂等の熱硬化性樹脂とすることもできる。
【0027】
各ボビン112からは、巻取部130の働きにより樹脂含浸カーボン繊維Wがそれぞれ引き出され、各樹脂含浸カーボン繊維Wは経路部120を介して巻取部130へ導かれる。
【0028】
経路部120は、ローラーやガイド等を備え、クリールスタンド110から巻取部130への樹脂含浸カーボン繊維Wへの経路を構成する。
【0029】
巻取部130は、アイクチガイド132と、ライナー10がセットされる回転駆動装置134とを備える。回転駆動装置134は、ライナー10を軸支してそのタンク軸周りにライナー10を回転駆動させる。
【0030】
アイクチガイド132は、ライナー10の外周に樹脂含浸カーボン繊維Wを供給しつつ、ライナー10に樹脂含浸カーボン繊維Wが巻回される際の巻回張力を調整する。また、樹脂含浸カーボン繊維Wのフープ巻きとヘリカル巻きの使い分けにも関与する。つまり、アイクチガイド132は、ライナー10の長軸方向であるx軸、x軸に垂直なy軸、x軸およびy軸に垂直なz軸の3次元で移動して、経路部120から供給された複数本の樹脂含浸カーボン繊維Wを束ねてライナー10に向かって供給する。制御部150による制御を経たアイクチガイド132の3次元方向への移動と回転駆動装置134によるライナー10の回転とにより、樹脂含浸カーボン繊維Wは、ライナー10の外周に繰り返し巻回されることになる。詳細には、図3に示すように、フープ巻きとヘリカル巻きとが使い分けられて、樹脂含浸カーボン繊維Wは、ライナー両端のドーム部10bと円筒状のシリンダー部10aとの外周に繰り返し巻回される。図示するように、まず、ライナー10の略円筒状のシリンダー部10aの領域をフープ巻きにて樹脂含浸カーボン繊維Wを巻回し、その後に、シリンダー部両端のドーム部10bに掛け渡るよう、その折り返し位置に応じた角度のヘリカル巻きにて樹脂含浸カーボン繊維Wを巻回する。
【0031】
図3(A)に示すように、シリンダー部10aにおいては、フープ巻きをシリンダー部両端で折り返しつつ繰り返すことで、繊維強化樹脂層20のライナー外周側の内側樹脂層を形成する。つまり、ライナー10をタンク中心軸AXの回りで回転させつつ、樹脂含浸カーボン繊維Wの供給元であるアイクチガイド132をタンク中心軸AXに沿って所定速度で往復動させることで、繊維強化樹脂層20における内側樹脂層が樹脂含浸カーボン繊維Wにて巻回形成される。このフープ巻きでは、アイクチガイド132からの樹脂含浸カーボン繊維Wが、シリンダー部10aのタンク中心軸AXに対してほぼ垂直に近い巻き角度(繊維角α0:例えば約89°)をなすようにされる。そして、ライナー回転速度とアイクチガイド132の往復動速度を調整した上で、タンク中心軸AX方向に沿ってアイクチガイド132を往復移動させて、樹脂含浸カーボン繊維Wをシリンダー部10aに繰り返し巻回する。
【0032】
こうしたフープ巻きに続き、図3(B)に示す低角度のヘリカル巻きにて樹脂含浸カーボン繊維Wを巻回する。低角度のヘリカル巻きでは、ドーム部10bの湾曲外表面領域とフープ巻き済みのシリンダー部10aを繊維巻回対象とし、ライナー10をタンク中心軸AXの回りで回転させつつ、アイクチガイド132から延びた樹脂含浸カーボン繊維Wをタンク中心軸AXに対して低角度の繊維角αLH(例えば、約11〜25°)で交差させた状態を保持し、ライナー回転速度とアイクチガイド132の往復動速度を調整する。その上で、タンク中心軸AX方向に沿ってアイクチガイド132を往復移動させて、樹脂含浸カーボン繊維Wをシリンダー部10aの両端のドーム部10bに掛け渡るよう螺旋状に繰り返し巻回する。この場合、両側のドーム部10bでは、アイクチガイド132の往路・復路の切換に伴って繊維の巻き付け方向が折り返されると共に、タンク中心軸AXからの折り返し位置も調整される。ドーム部10bにおける巻き付け方向の折り返しを何度も繰り返すことにより、ライナー10の外表面には、低角度の繊維角αLHで樹脂含浸カーボン繊維Wが網目状に張り渡された繊維巻回層が形成され、この層が繊維強化樹脂層20における外表面側の最外層側樹脂層となる。なお、上記した低角度のヘリカル巻きを行う前に、タンク中心軸AXに対して高角度の繊維角(例えば、約30〜60°)で樹脂含浸カーボン繊維Wを巻回する高角度のヘリカル巻きを組み込むこともできる。上記したフープ巻きおよびヘリカル巻きにおいて、制御部150は、ライナー10の回転速度制御やアイクチガイド132での巻回張力調整等を行うが、本発明の要旨と直接関係しないので、その説明については省略する。
【0033】
こうして樹脂含浸カーボン繊維Wのフープ巻きおよびヘリカル巻きが使い分けてなされることで、樹脂含浸カーボン繊維Wがライナー10の外周に層状に重なった繊維強化樹脂層20が形成される。そして、樹脂含浸カーボン繊維WのFW法による巻回を経て、ライナー10の外周に繊維強化樹脂層20を形成した中間生成品タンク12が得られる(図1(b)参照)。図4は得られた中間生成品タンク12における繊維強化樹脂層20の内外の樹脂層における樹脂含浸カーボン繊維Wの配向の様子を示す説明図である。
【0034】
図示するように、ライナー10の外表面に形成された繊維強化樹脂層20は、ライナー10の外周側から、最内層の樹脂層と中間層の樹脂層と最外層の樹脂層に区分でき、最内層の樹脂層は、図3(A)に示したフープ巻きによる繊維巻回層となり、繊維の配向は既述した約89°となる。中間層は、フープ巻きから低角度のヘリカル巻きに推移する層であり、繊維の配向は89°から既述した約11〜25°に切り替わる。最外層の樹脂層は、図3(B)に示した低角度のヘリカル巻きによる繊維巻回層となり、繊維の配向は既述した約11〜25°となる。そして、ライナー10の外周側のフープ巻きの樹脂層に低角度のヘリカル巻きの樹脂層を積層した繊維強化樹脂層20とすることで、最終製品たる高圧水素タンク30のタンク強度を高めることができる。
【0035】
図4では、タンク中心軸AXを含んでタンクを長手方向に断面視していることから、繊維の配向が約89°の最内層〜中間層では、樹脂含浸カーボン繊維Wは繊維と交差するよう切断したほぼ円形に断面視される。その一方、繊維の配向が約11〜25°の中間層〜最外層では、樹脂含浸カーボン繊維Wは繊維長手方向に沿って切断した矩形状に断面視される。
【0036】
次に、図4で示したような樹脂層構成の繊維強化樹脂層20の熱硬化炉200による熱硬化について説明する。図5は図1(c)に示した熱硬化炉200における誘導加熱コイルの配置構成を中間生成品タンク12の側面側から概略的に示す説明図、図6は図5を平面視して誘導加熱コイルの配置構成を概略的に示す説明図、図7は誘導加熱コイルの配置構成を中間生成品タンク12を断面視して概略的に示す説明図、図8は本実施例の熱硬化炉200と対比される既存の高周波誘導加熱炉におけるコイル構成を図5相当に概略的に示す説明図である。
【0037】
図5〜図7に示すように、本実施例の熱硬化炉200では、第1誘導加熱コイル220を既述したように中間生成品タンク12をタンク長手方向に沿ってタンク軸周囲にて取り囲むに当たり、繊維強化樹脂層20の外表面からの距離がシリンダー部10aとドーム部10bにおいてほぼ同じとなるよう巻かれている。この際、第1誘導加熱コイル220は、中間生成品タンク12を軸支するタンク軸支シャフト212(図1参照)と干渉しないようにされている。そして、タンク軸に対して15°程の第1誘導加熱コイル220のコイル巻き軌跡は、図7において中間生成品タンク12の両側で第1誘導加熱コイル220が上下にずれて傾斜していることで示されている。
【0038】
中間生成品タンク12の外周と対向するよう配設された第2誘導加熱コイル222は、図6に示すように、タンク平面視の状態で上下にオフセットされて点在する。このように点在するそれぞれの第2誘導加熱コイル222は、図7に示すように、繊維強化樹脂層20の外表面からの距離がほぼ同じとなるよう、タンク周りに配設されている。そして、第1誘導加熱コイル220とそれぞれの第2誘導加熱コイル222とは、共通する高周波電流生成電源240に並列に接続されている。その上で、それぞれの第2誘導加熱コイル222は、第1誘導加熱コイル220より短いコイル長とされた上で、その断面積にあっても、第1誘導加熱コイル220より小さくされている。このため、それぞれの第2誘導加熱コイル222は、第1誘導加熱コイル220より低い抵抗を有することになるので、高周波電流生成電源240からの高周波電流の通電を受けると、第1誘導加熱コイル220より強い磁束を生成する。こうしたコイル構成を有する熱硬化炉200は、炉内への中間生成品タンク12のセット後のタンク定速回転に合わせて、制御機器230にて第1誘導加熱コイル220と第2誘導加熱コイル222とに高周波電流を通電する。
【0039】
こうして通電を受けた第1誘導加熱コイル220は、水平に軸支されてタンク軸回りに回転する中間生成品タンク12を図7に点線で示すように上下に貫く磁束を発生する。繊維強化樹脂層20を構成する樹脂含浸カーボン繊維Wは、この第1誘導加熱コイル220による磁束と交差することから渦電流を誘起し、カーボン繊維固有の抵抗によって発熱して、繊維強化樹脂層20の熱硬化性樹脂を高周波誘導加熱する。中間生成品タンク12の外周に対向する第2誘導加熱コイル222のそれぞれにあっても、高周波電流の通電を受けて磁束を発生し、この生成された磁束は、図7に点線で示すように繊維強化樹脂層20を貫くことになる。このため、繊維強化樹脂層20を構成する樹脂含浸カーボン繊維Wは、この第2誘導加熱コイル222による磁束と交差することから渦電流を誘起し、カーボン繊維固有の抵抗によって発熱して、繊維強化樹脂層20の熱硬化性樹脂を高周波誘導加熱する。これに対し、図8に示す既存の高周波誘導加熱炉では、繊維強化樹脂層20を構成する樹脂含浸カーボン繊維Wが第1誘導加熱コイル220による磁束と交差することによる繊維強化樹脂層20の熱硬化性樹脂の高周波誘導加熱しか起こさない。以下、本実施例の熱硬化炉200による樹脂加熱の様子と図8の既存の高周波誘導加熱炉による樹脂加熱の様子とを、図4で示した繊維配向との関係を含めて説明する。図9は本実施例の熱硬化炉200と既存の高周波誘導加熱炉とにおける繊維強化樹脂層20の内外の樹脂層ごとの昇温の様子を対比して示す説明図である。
【0040】
まず、図8のコイル構成の既存の高周波誘導加熱炉にて繊維強化樹脂層20を高周波誘導加熱させることを想定し、繊維強化樹脂層20の最内層、最外層、その間の中間層の各層に熱電対を埋め込んだ。そして、この状態で、第1誘導加熱コイル220に高周波電流を通電して、既述したように繊維強化樹脂層20を高周波誘導加熱する。この高周波誘導加熱の経過時間ごとに最内層、最外層、および中間層の熱電対出力をプロットして、図9の左側に示したグラフを得た。このグラフに見られる温度挙動は、次のように説明できる。
【0041】
図8の第1誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱は、繊維強化樹脂層20の上記最内層、中間層および最外層の各層で進むものの、各層での誘導加熱の状況は次のように相違する。繊維強化樹脂層20の最外層は、第1誘導加熱コイル220に最も近くて第1誘導加熱コイル220の発生した磁束の影響を受けやすく生じる渦電流も大きいことから、第1誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱が最も進む。そして、第1誘導加熱コイル220から離れる中間層、最内層は、磁束の影響が受け難くなって生じる渦電流も小さくなるので、最外層ほど加熱は進まない。その一方、繊維強化樹脂層20の最外層では、樹脂含浸カーボン繊維Wは、低角度のヘリカル巻きの配向となっている故に、中間生成品タンク12をタンク長手方向に沿ってタンク軸周囲にて取り囲む第1誘導加熱コイル220のコイル巻き軌跡と揃うことになる。よって、渦電流の流れる範囲が増して第1誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱がより進むことになる。つまり、繊維強化樹脂層20の最外層は、第1誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱が繊維配向の観点からも活発となる。
【0042】
繊維強化樹脂層20の中間層は、当該層部位での高周波誘導加熱に加えて最外層からの熱伝播を受ける。その一方、最外層ではその層表面からの放熱が起きるので、グラフに見られるように、中間層の温度は最外層より高くなる。こうしたことを考慮して、中間層の温度が制御上限温度となるよう、第1誘導加熱コイル220への高周波電流が通電制御される。この場合の制御上限温度は、ライナー10の源材料樹脂および繊維強化樹脂層20の形成のための熱硬化性樹脂の溶解温度や、樹脂含浸カーボン繊維Wの繊維表面に付着された薬剤、具体的には繊維と樹脂の馴染みを向上させる薬剤の耐性温度等から定まる。そして、中間層の温度が制御上限温度となるよう第1誘導加熱コイル220への高周波電流の通電制御を行って、繊維強化樹脂層20を高周波誘導加熱すると、図9の左側に示したグラフのように、最内層の温度は最外層および中間層より大きく低下する。
【0043】
繊維強化樹脂層20の最内層は、第1誘導加熱コイル220からの隔たりが大きいために第1誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱が最外層や中間層ほど進まない。これに加え、この最内層での樹脂含浸カーボン繊維Wの配向は、フープ巻きの配向なために既述した第1誘導加熱コイル220のコイル巻き軌跡と揃わない。このため、繊維強化樹脂層20の最内層は、第1誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱が繊維配向の観点からも進まないことになる。上記した繊維強化樹脂層20の各層での加熱状況の相違から、図8に示したコイル構成の熱硬化炉での高周波誘導加熱では、繊維強化樹脂層20の最外層、中間層および最内層での樹脂の昇温が図9の左側に示したグラフのようにばらつくことになる。この場合、繊維強化樹脂層20の最内層を低角度のヘリカル巻きした樹脂含浸カーボン繊維Wで形成すれば、最内層でも、樹脂含浸カーボン繊維Wの配向が第1誘導加熱コイル220のコイル巻き軌跡と揃うことから、第1誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱を繊維配向の観点からも高めることは可能である。ところが、繊維強化樹脂層20の最内層についても低角度のヘリカル巻きとすれば、繊維強化樹脂層20はその全てが低角度のヘリカル巻きの樹脂含浸カーボン繊維Wで巻回形成されるので、タンク強度の確保の上から現実的ではない。よって、図4に示したように、繊維強化樹脂層20の最内層をフープ巻きとし、最外層を低角度のヘリカル巻きとしてタンク強度を確保した上で、繊維強化樹脂層20の最外層、中間層および最内層での樹脂の昇温のバラツキを抑制する必要があり、本実施例では、次のようになる。
【0044】
本実施例の熱硬化炉200は、図5〜図7に示すように、第1誘導加熱コイル220に加え、中間生成品タンク12の外周に対向配設した第2誘導加熱コイル222によっても、繊維強化樹脂層20の最外層、中間層および最内層において高周波誘導加熱を起こす。しかも、それぞれの第2誘導加熱コイル222は、第1誘導加熱コイル220より既述したように低抵抗であって第1誘導加熱コイル220より強い磁束を生成する。このため、上記したように加熱が進まない繊維強化樹脂層20の最内層にあっても、図7に点線で示す当該層を貫く強い磁束と交差することから、第1誘導加熱コイル220による誘導加熱の場合より多くの渦電流を誘起して高周波誘導加熱される。つまり、第2誘導加熱コイル222は、強い磁束を発生するが故に、第1誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱が進まない繊維強化樹脂層20の最内層での繊維配向がコイル巻き軌跡と揃っていなくても、この最内層を誘導加熱して昇温を高める。この結果、本実施例の熱硬化炉200によれば、延いては、この熱硬化炉200を用いて中間生成品タンク12から高圧水素タンク30を製造する手法によれば、繊維強化樹脂層20の最外層、中間層および最内層での樹脂の昇温のバラツキを図9の右側に示したグラフのように抑制できる。そして、繊維強化樹脂層20の熱硬化の際の樹脂の昇温バラツキが抑制されることから、得られた高圧水素タンク30にあっては、硬化済みの繊維強化樹脂層20の内部でのクラックの発生を抑制して、高いタンク強度や耐久性を有するタンクとなる。この場合、図9の右側のグラフにあっても、既述したように熱電対を埋め込んで測定した結果である。
【0045】
また、本実施例の熱硬化炉200では、第2誘導加熱コイル222を第1誘導加熱コイル220より低抵抗とした上で、第1誘導加熱コイル220と並列に高周波電流生成電源240に接続したに過ぎない。従って、第2誘導加熱コイル222の形成する磁束を、高周波電流生成電源240が共通でありながら第1誘導加熱コイル220より強くできるので、通電制御の簡略化や、低コスト化を図ることができる。
【0046】
次に、熱硬化炉200の変形例について説明する。図10は図5相当に変形例の熱硬化炉200における誘導加熱コイルの配置構成を中間生成品タンク12の側面側から概略的に示す説明図、図11は図6相当に誘導加熱コイルの配置構成を平面視して概略的に示す説明図、図12は図7相当に誘導加熱コイルの配置構成を中間生成品タンク12を断面視して概略的に示す説明図、図13は第2誘導加熱コイル223を有する変形例の熱硬化炉200による繊維強化樹脂層20の昇温の様子を示す説明図である。
【0047】
この変形例では、一つの第2誘導加熱コイル223を、軸支した中間生成品タンク12の外周と対向するよう配設して備える。第2誘導加熱コイル223は、図12に示すように、いわゆる笠状にコイル巻きされたコイル軌跡を備え、先に説明した第2誘導加熱コイル222と同様、共通する高周波電流生成電源240に第1誘導加熱コイル220と並列に接続されている。その上で、第2誘導加熱コイル223にあっても、第1誘導加熱コイル220より短いコイル長とされた上で、その断面積は第1誘導加熱コイル220より小さくされている。このため、第2誘導加熱コイル223は、第1誘導加熱コイル220より低い抵抗を有することになるので、高周波電流生成電源240からの高周波電流の通電を受けると、第1誘導加熱コイル220より強い磁束を生成する。従って、この変形例によっても、第1誘導加熱コイル220による高周波誘導加熱が進まない繊維強化樹脂層20の最内層での繊維配向がコイル巻き軌跡と揃っていなくても、この最内層を誘導加熱してその昇温を高め、繊維強化樹脂層20の最外層、中間層および最内層での樹脂の昇温のバラツキを図13に示したグラフのように抑制できる。この場合、得られた高圧水素タンク30にあっても、クラックの発生の抑制により高いタンク強度や耐久性とできる。また、この変形例では、第1誘導加熱コイル220の外に一つの第2誘導加熱コイル223を有するに過ぎないので、コイル冷却のための構成が簡略化でき、省スペース化や低コスト化を図ることができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、上記の実施例では、高圧ガスタンクは、高圧水素タンク30であるものとしたが、本発明は、これに限られない。例えば、天然ガス等、他の高圧ガスを貯蔵する高圧ガスタンクとしてもよい。
【0049】
また、第2誘導加熱コイル222或いは第2誘導加熱コイル223を第1誘導加熱コイル220と並列に高周波電流生成電源240に接続したが、第1誘導加熱コイル220とは別の電源を設けて当該電源に第2誘導加熱コイル222や第2誘導加熱コイル223を接続するようにすることもできる。
【0050】
また、繊維強化樹脂層20については、その最内層をフープ巻きで形成し、最外層については低角度のヘリカル巻きで形成するよう層ごとに区別したが、これに限らない。例えば、フープ巻きによる層と低角度のヘリカル巻きによる層とを、交互に繰り返すようにした繊維強化樹脂層20であっても、最外層もしくはその近傍に低角度ヘリカル巻きによる繊維配向が第1誘導加熱コイル220のコイル巻き軌跡と揃う樹脂層が形成され、その下層側にフープ巻きに夜繊維配向の層が位置するので、第2誘導加熱コイル222或いは第2誘導加熱コイル223による強い磁束での高周波誘導加熱により、樹脂の昇温バラツキを抑制できる。
【符号の説明】
【0051】
10…ライナー
10a…シリンダー部
10b…ドーム部
12…中間生成品タンク
14…口金
20…繊維強化樹脂層
30…高圧水素タンク
100…FW装置
110…クリールスタンド
112…ボビン
114…固定滑車
120…経路部
130…巻取部
132…アイクチガイド
134…回転駆動装置
150…制御部
200…熱硬化炉
212…タンク軸支シャフト
220…第1誘導加熱コイル
222…第2誘導加熱コイル
223…第2誘導加熱コイル
230…制御機器
240…高周波電流生成電源
W…樹脂含浸カーボン繊維
AX…タンク中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンク容器となる中空のライナーの外周に熱硬化性樹脂を含浸して熱硬化した繊維強化樹脂層を有する高圧ガスタンクの製造に用いる装置であって、
熱硬化前の前記熱硬化性樹脂を含浸した繊維を前記ライナーの外周に巻回して前記繊維強化樹脂層を形成し、タンク中間生成品を得る繊維巻回手段と、
前記タンク中間生成品を軸支し、該軸支した前記タンク中間生成品をタンク軸回りに回転させつつ加熱して前記繊維強化樹脂層を熱硬化させる熱硬化手段とを備え、
前記熱硬化手段は、
前記回転する前記タンク中間生成品の全体を加熱する第1加熱手段と、
前記タンク中間生成品を高周波誘導加熱する誘導加熱コイルを前記タンク中間生成品の外周と対向して配設し、前記回転する前記タンク中間生成品を前記外周の側から前記誘導加熱コイルにより局所的に高周波誘導加熱する第2加熱手段とを備える
高圧ガスタンクの製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧ガスタンクの製造装置であって、
前記第1加熱手段は、前記タンク中間生成品を高周波誘導加熱する誘導加熱コイルを、前記軸支した前記タンク中間生成品をタンク長手方向に沿って前記タンク軸周囲にて取り囲むタンク長手方向誘導加熱コイルとして備え、該タンク長手方向誘導加熱コイルにより、前記タンク中間生成品の全体を高周波誘導加熱し、
前記第2加熱手段は、前記タンク中間生成品の外周と対向して配設した前記誘導加熱コイルを、前記タンク長手方向誘導加熱コイルより強い磁束を形成する誘導加熱コイルとして備える
高圧ガスタンクの製造装置。
【請求項3】
前記第2加熱手段の前記誘導加熱コイルは、前記タンク長手方向誘導加熱コイルより短いコイル長と低い抵抗とを有する誘導加熱コイルとされている請求項2に記載の高圧ガスタンクの製造装置。
【請求項4】
前記第1加熱手段の前記タンク長手方向誘導加熱コイルと前記第2加熱手段の前記誘導加熱コイルとは、共通する高周波電流生成電源に並列に接続されている請求項2または請求項3に記載の高圧ガスタンクの製造装置。
【請求項5】
高圧ガスタンクの製造方法であって、
タンク容器となる中空のライナーの外周に、熱硬化性樹脂を含浸した繊維を巻回して形成された繊維強化樹脂層を有するタンク中間生成品を準備する工程(a)と、
前記タンク中間生成品を軸支し、該軸支した前記タンク中間生成品をタンク軸回りに回転させつつ加熱して前記繊維強化樹脂層を熱硬化させる工程(b)とを備え、
前記工程(b)では、
前記軸支した前記タンク中間生成品をタンク長手方向に沿って前記タンク軸周囲にて取り囲んで前記タンク中間生成品を高周波誘導加熱するタンク長手方向の誘導加熱コイルにより、前記回転する前記タンク中間生成品の全体を高周波誘導加熱しつつ、
前記タンク中間生成品の外周と対向して配設され前記タンク長手方向の誘導加熱コイルより強い磁束を形成する誘導加熱コイルにより、前記回転する前記タンク中間生成品を前記外周の側から局所的に高周波誘導加熱する
高圧ガスタンクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−64430(P2013−64430A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202598(P2011−202598)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】