説明

高圧タンクの製造方法、および、高圧タンク

【課題】ライナーの外表面に繊維強化プラスチック層を備える高圧タンクの製造工程において、比較的少ない工程数で、フィラメントワインディング法を用いて繊維強化プラスチック層を形成する際の繊維の巻き崩れを抑制する。
【解決手段】高圧タンクの製造工程において、内層54の形成工程は、ライナー円筒部42の外表面に、第1のフープ層54aを形成する工程と、第1のフープ層54aに含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化することなく、ライナードーム部44の外表面、および、第1のフープ層54aの外表面に、低角度ヘリカル層54bを形成する工程と、第1のフープ層54aに含まれる熱硬化性樹脂、および、低角度ヘリカル層54bに含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化することなく、第1のフープ層54a上における低角度ヘリカル層54bの外表面に、第2のフープ層54cを形成する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンクの製造方法、および、高圧タンクに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料ガスの燃焼エネルギーや、燃料ガスの電気化学反応によって生成される電気エネルギーによって駆動する車両が開発されている。このような車両には、天然ガスや水素等の燃料ガスが貯蔵された高圧タンクが搭載される場合がある。この場合、高圧タンクの車両への搭載性を考慮して、高圧タンクの小型化を図りつつ、車両の航続距離の延伸を図るために、より高い充填圧力で燃料ガスを高圧タンクに充填することが求められる。
【0003】
より高い充填圧力で燃料ガスを高圧タンクに充填するためには、高圧タンクの強度を向上させる必要がある。そして、高圧タンクの強度を向上させるための技術として、金属製あるいは樹脂製のライナー(内容器)の外表面に、フィラメントワインディング法を用いて、繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)層を形成する技術が知られている。そして、ライナーが、円筒形状を有する円筒部と、ドーム形状を有し円筒部の両端部に設けられたドーム部と、を有する場合、このフィラメントワインディング法による繊維強化プラスチック層には、一般に、フープ巻きによって形成されるフープ層と、ヘリカル巻きによって形成されるヘリカル層とが含まれることが多い。フープ層は、主として、ライナーの周方向に作用する内圧に対する強度(以下、「ライナーの周方向の強度」とも言う)を向上させるために用いられる。一方、ヘリカル層は、主として、ライナーの軸方向作用する内圧に対する強度(以下、「ライナーの軸方向の強度」とも言う)を向上させるために用いられる。
【0004】
ところで、従来、ライナーの外表面に繊維強化プラスチック層を備える高圧タンクについて、高圧タンクの強度を向上させるための種々の技術が提案されている。例えば、下記特許文献1に記載された技術では、中空体(ライナー)に樹脂含浸繊維を巻き付けてフィラメントワインディング層を形成する工程と、フィラメントワインディング層に含まれる樹脂を硬化させる工程とを複数回繰り返すことによって、ライナーの外表面に繊維強化プラスチック層を形成し、高圧タンクの強度を向上させている。また、この技術では、フィラメントワインディング層の形成と、樹脂の硬化とを複数回に分けて行うため、フィラメントワインディング層、特に、フープ層を形成する際に、フープ層の縁部において生じる樹脂含浸繊維の巻き崩れを抑制することもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−320193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載された技術では、フィラメントワインディング層の形成と、樹脂の硬化とを複数回に分けて行うため、高圧タンクの製造に要する工程数が多くなり、高圧タンクの高コスト化を招く。
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、ライナーの外表面に繊維強化プラスチック層を備える高圧タンクの製造工程において、比較的少ない工程数で、フィラメントワインディング法を用いて繊維強化プラスチック層を形成する際の繊維の巻き崩れを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]
流体を貯蔵するための高圧タンクの製造方法であって、
円筒形状を有する円筒部と、ドーム形状を有し前記円筒部の両端部に設けられたドーム部と、を有するライナーを用意する工程と、
フィラメントワインディング法を用いて、前記ライナーの外表面に繊維強化プラスチック層を形成する繊維強化プラスチック層形成工程と、
を備え、
前記繊維強化プラスチック層形成工程は、
前記円筒部の外表面のみに、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を複数層フープ巻きすることによって、第1のフープ層を形成する第1フープ層形成工程と、
前記第1のフープ層に含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化することなく、前記ドーム部の少なくとも一部の外表面、および、前記第1のフープ層の外表面に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維をヘリカル巻きすることによって、ヘリカル層を形成するヘリカル層形成工程と、
前記第1のフープ層に含まれる熱硬化性樹脂、および、前記ヘリカル層に含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化することなく、前記第1のフープ層上における前記ヘリカル層の外表面に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を複数層フープ巻きすることによって、第2のフープ層を形成する第2フープ層形成工程と、
前記第1のフープ層に含まれる熱硬化性樹脂と、前記ヘリカル層に含まれる熱硬化性樹脂と、前記第2のフープ層に含まれる熱硬化性樹脂と、を加熱硬化する加熱硬化工程と、
を含む高圧タンクの製造方法。
【0010】
適用例1の高圧タンクの製造方法では、ライナーにおける円筒部の外表面に第1のフープ層を形成した後に、この第1のフープ層の外表面を覆うように、ヘリカル層が形成され、第1のフープ層上におけるヘリカル層の外表面に第2のフープ層が形成される。したがって、第1のフープ層をヘリカル層によって押さえつけて、第1のフープ層の縁部における繊維の巻き崩れを抑制することができる。また、第1のフープ層と第2のフープ層との間にヘリカル層を挟むことによって、第1のフープ層をヘリカル層によって固定した後に第2のフープ層を形成することができるので、ヘリカル層を挟まずに、第1のフープ層と第2のフープ層とを連続的に形成する場合よりも、第1のフープ層および第2のフープ層の縁部における繊維の巻き崩れを抑制することができる。また、適用例1の高圧タンクの製造方法では、第1フープ層形成工程とヘリカル層形成工程との間、および、ヘリカル層形成工程と第2フープ層形成工程との間に、各層に含まれる熱硬化性を加熱硬化する工程が含まれない。したがって、各層の形成ごとに、各層に含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化する場合よりも、高圧タンクの製造における工程数を短縮することができる。つまり、適用例1の高圧タンクの製造方法によって、比較的少ない工程数で、フィラメントワインディング法を用いて繊維強化プラスチック層を形成する際の繊維の巻き崩れを抑制することができる。
【0011】
なお、適用例1の高圧タンクの製造方法において、第1のフープ層に含まれる熱硬化性樹脂と、ヘリカル層に含まれる熱硬化性樹脂と、第2のフープ層に含まれる熱硬化性樹脂とは、すべて同一の種類であってもよいし、少なくとも1つが異なる種類であってもよい。また、第1のフープ層に含まれる繊維と、ヘリカル層に含まれる繊維と、第2のフープ層に含まれる繊維とは、すべて同一の種類であってもよいし、少なくとも1つが異なる種類であってもよい。
【0012】
[適用例2]
適用例1記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記ヘリカル層形成工程におけるヘリカル巻きは、前記第1のフープ層の外表面において前記ヘリカル層を構成する前記繊維が前記ライナーの中心軸を一周する前に、前記ドーム部において前記繊維の巻き付け方向が折り返されるヘリカル巻きである、
高圧タンクの製造方法。
【0013】
ヘリカル巻きは、ライナーの円筒部において上記繊維がライナーの中心軸を少なくとも一周した後に、ライナーのドーム部において上記繊維の巻き付け方向が折り返される比較的大きな巻き付け角度を有するヘリカル巻き(以下、「高角度ヘリカル巻き」とも言う)と、ライナーの円筒部において上記繊維がライナーの中心軸を一周する前に、ライナーのドーム部において上記繊維の巻き付け方向が折り返される比較的小さな巻き付け角度を有するヘリカル巻き(以下、「低角度ヘリカル巻き」とも言う)とに大別される。そして、低角度ヘリカル巻きは、高角度ヘリカル巻きよりも、ライナーの軸方向の強度を向上させる効果が大きい。
【0014】
適用例2の高圧タンクの製造方法では、ヘリカル層形成工程において、低角度ヘリカル巻きを用いるので、第1のフープ層の巻き崩れを抑制するとともに、ライナーの軸方向の強度を向上させることができる。また、低角度ヘリカル巻きでは、ライナーの軸方向の強度について、同じ強度を得るために、高角度ヘリカル巻きよりも、巻き数、換言すれば、上記繊維の使用量を少なくすることができるため、高圧タンクの小型化、軽量化、低コスト化を図ることができる。
【0015】
[適用例3]
適用例1または2記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記第1フープ層形成工程は、前記円筒部上において、前記円筒部と前記ドーム部との境界部に近いほど、前記第1のフープ層の厚さが薄くなるように、前記第1のフープ層を形成する工程を含む、
高圧タンクの製造方法。
【0016】
適用例3の高圧タンクの製造方法によって、第1のフープ層の縁部をスラント形状とし、第1のフープ層の縁部における上記繊維の巻き崩れを抑制することができる。また、第1のフープ層の縁部をスラント形状とすることによって、ヘリカル層の形成に低角度ヘリカル巻きを用いる場合に、上記繊維を巻き付ける際の繊維蛇行、すなわち、上記繊維の巻き付け位置のずれを抑制し、低角度ヘリカル巻きの、ライナーの軸方向の強度を向上させる効果を効果的に利用することもできる。
【0017】
なお、第1のフープ層の縁部をスラント形状とする態様としては、ライナーの円筒部のドーム部との境界部において、巻き付ける繊維の巻き数を部分的に変化させる態様や、繊維の太さを部分的に変化させる態様が挙げられる。第1のフープ層の縁部以外の部位の厚さは、ほぼ一定である。
【0018】
[適用例4]
適用例1ないし3のいずれかに記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記第2フープ層形成工程は、前記円筒部上において、前記円筒部と前記ドーム部との境界部に近いほど、前記第2のフープ層の厚さが薄くなるように、前記第2のフープ層を形成する工程を含む、
高圧タンクの製造方法。
【0019】
適用例4の高圧タンクの製造方法によって、第2のフープ層の縁部をスラント形状とし、第2のフープ層の縁部における上記繊維の巻き崩れを抑制することができる。また、第2のフープ層の縁部をスラント形状とすることによって、第2のフープ層上に低角度ヘリカル巻きによって上記繊維を巻き付ける際の繊維蛇行、すなわち、上記繊維の巻き付け位置のずれを抑制し、低角度ヘリカル巻きの、ライナーの軸方向の強度を向上させる効果を効果的に利用することもできる。
【0020】
なお、第2のフープ層の縁部をスラント形状とする態様としては、ライナーの円筒部のドーム部との境界部において、巻き付ける繊維の巻き数を部分的に変化させる態様や、繊維の太さを部分的に変化させる態様が挙げられる。第2のフープ層の縁部以外の部位の厚さは、ほぼ一定である。
【0021】
[適用例5]
適用例3または4記載の高圧タンクの製造法であって、
前記第1フープ層形成工程、および、前記第2フープ層形成工程は、前記円筒部の軸方向について、前記第1のフープ層の最外層の端部が、前記第2のフープ層の最内層の端部よりも前記境界部側に配置されるように、前記第1のフープ層、および、前記第2のフープ層を形成する工程を含む、
高圧タンクの製造方法。
【0022】
適用例5の高圧タンクの製造方法によって、第1のフープ層から第2のフープ層にわたって、これらの縁部をスラント形状とし、第1のフープ層、および、第2のフープ層の縁部における上記繊維の巻き崩れを防止することができる。
【0023】
なお、適用例3ないし5の高圧タンクは、特に、ライナーの軸方向の長さLとライナーの円筒部の直径Dとの比(L/D比)が小さい場合に、高圧タンクの軽量化の効果が大きい。
【0024】
[適用例6]
適用例1ないし5のいずれかに記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記繊維強化プラスチック層形成工程は、前記第1のフープ層と、前記ヘリカル層と、前記第2のフープ層とからなる内層の外表面に、さらに、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を巻き付けて、外層を形成する外層形成工程を含み、
前記第1フープ層形成工程と、前記ヘリカル層形成工程と、前記第2フープ層形成工程と、前記外層形成工程とは、前記円筒部上において、前記内層の厚さと前記外層の厚さとの和の内層側の75(%)以内の範囲内に、前記第1のフープ層の厚さと前記第2のフープ層の厚さとの和の90(%)以上が配置されるように、前記内層および前記外層を形成する工程を含む、
高圧タンクの製造方法。
【0025】
フープ巻きは、ヘリカル巻きよりも、ライナーの周方向の強度を向上させる効果が大きい。また、高圧タンクに高圧ガスを充填したときに、ライナーの円筒部の外表面に形成された繊維強化プラスチック層において、ライナーの周方向に作用する応力は、内層側(内部側)ほど大きくなる(厚肉円筒理論)。
【0026】
適用例6の高圧タンクの製造方法では、ライナーの周方向に作用する応力が比較的大きくなる内層側に、ライナーの周方向の強度を向上させる効果が大きいフープ巻きを集めて積層するので、ライナーの周方向の強度を効果的に向上させることができる。なお、ライナーの円筒部上における内層および外層の厚さとは、ライナーの円筒部上において、内層および外層の厚さがほぼ一定の領域における厚さである。これは、ライナーの円筒部上における第1のフープ層の厚さ、および、第2のフープ層の厚さについても同様である。
【0027】
また、繊維強化プラスチック層における各層の高圧タンクの強度を向上させる効果を従来よりも効果的に利用することできるので、従来と同等の高圧タンクの性能(耐圧性能や耐久性能)を得るために、繊維強化プラスチック層を構成する総層数を減少させることができる。したがって、高圧タンクの小型化、軽量化、低コスト化を図ることができる。また、従来と同等の高圧タンクの性能を得るために、強度や剛性について、低グレードの繊維を用いれば、高圧タンクの低コスト化を図ることができる。また、繊維強化プラスチック層の層数を従来と同じにする場合には、高圧タンクの強度を向上させることができる。また、高圧タンクの外径形状を従来と同じにする場合には、ライナーの容積を増大することが可能となる。したがって、この高圧タンクに燃料ガスを充填し、例えば、車両に搭載する場合には、この車両の航続距離を延伸することができる。
【0028】
[適用例7]
適用例5記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記繊維強化プラスチック層形成工程は、前記第1のフープ層と、前記ヘリカル層と、前記第2のフープ層とからなる内層の外表面に、さらに、熱硬化性樹脂を含む繊維をヘリカル巻きすることによって第2のヘリカル層を形成する第2ヘリカル層形成工程を含み、
前記ライナーは、前記円筒部と前記ドーム部との境界部が不連続な形状を有しており、
前記第1フープ層形成工程と、前記ヘリカル層形成工程と、前記第2フープ層形成工程とは、前記ドーム部上の前記ヘリカル層、および、前記第2のフープ層の外表面が等張力曲面を成すように、前記第1のフープ層と、前記ヘリカル層と、前記第2のフープ層とを形成する工程を含む、
高圧タンクの製造方法。
【0029】
適用例7の高圧タンクの製造方法では、ドーム部上のヘリカル層、および、第2のフープ層の外表面が等張力曲面を成すので、上記内層の外表面に形成される第2のヘリカル層を等張力で形成し、高圧タンクの強度向上に効果的に利用することができる。
【0030】
なお、本発明は、上述の高圧タンクの製造方法としての構成の他、上述の製造方法によって製造された高圧タンクの発明として構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施例としての高圧タンク10の概略構成を示す説明図である。
【図2】繊維強化プラスチック層を成形する際に用いられる繊維の種々の巻き付け方法を示す説明図である。
【図3】高圧タンク10の製造方法の一部を示す説明図である。
【図4】比較例としての高圧タンク10Rの概略構成を示す説明図である。
【図5】比較例の高圧タンク10R、および、実施例の高圧タンク10における繊維強化プラスチック層50R,50の層構成、および、比較例の高圧タンク10R、および、実施例の高圧タンク10の評価結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施の形態について、実施例に基づき説明する。
A.高圧タンクの構成:
図1は、本発明の一実施例としての高圧タンク10の概略構成を示す説明図である。図1(a)に、高圧タンク10の断面図を示した。また、図1(b)に、図1(a)の部分拡大図を示した。なお、図1(b)では、後述する繊維強化プラスチック層50の図示は省略している。
【0033】
図1(a)に示したように、高圧タンク10は、ライナー40と、ライナー40の表面を覆う繊維強化プラスチック層50と、2つの口金部14と、を備えている。口金部14は、開口部14aを有している。なお、本実施例では、高圧タンク10は、2つの口金部14を備えるものとしたが、1つの口金部14を備えるものとしてもよい。
【0034】
ライナー40は、高圧タンク10の内殻をなし、内容器とも言われる中空状の部材であり、流体を貯蔵する空間部25を内部に有する。ライナー40は、ガスバリア性を有し、水素ガス等の気体の外部への透過を抑制する。ライナー40は、ナイロン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等の合成樹脂や、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属を用いて作製される。本実施例では、ライナー40は、ナイロン系樹脂を用いて一体成形されるものとした。ライナー40は、複数の部材を接合して形成するものとしてもよい。
【0035】
繊維強化プラスチック層50は、ライナー40の外表面に形成され、熱硬化性樹脂が繊維によって補強された層である。本実施例では、繊維強化プラスチック層50は、フィラメントワインディング法を用いて形成される。フィラメントワインディング法とは、熱硬化性樹脂が含浸された繊維をマンドレル(本実施例では、ライナー40)に巻き付けて、熱硬化性樹脂を熱硬化させる方法である。なお、繊維の巻き付け方法については後述する。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等を用いることができる。本実施例では、エポキシ樹脂を用いるものとした。また、繊維としては、金属繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、アルミナ繊維等の無機繊維、アラミド繊維等の合成有機繊維、又は、綿等の天然有機繊維の各種繊維を用いることができる。これらの繊維は、単独で用いてもよいし、2種類以上混合して用いてもよい。本実施例では、繊維として、カーボン繊維を用いるものとした。
【0036】
高圧タンク10は、略円筒状の円筒部20と、円筒部20の両側に位置するドーム状のドーム部30とを有している。ドーム部30は、ライナー円筒部42の中心軸AX方向について、円筒部20から離れるにしたがって縮径している。最も縮径した部分は開口し、開口には口金部14が挿入されている。
【0037】
図1(b)に示したように、ライナー40は、円筒形状を有するライナー円筒部42と、ドーム形状を有し、ライナー円筒部42の両端部に設けられたライナードーム部44と、を有している。ライナードーム部44は、ライナー円筒部42の中心軸AX方向について、ライナー円筒部42から離れるにしたがって縮径している。また、ライナードーム部44の外表面は等張力曲面である。なお、ライナー40は、ライナー円筒部42とライナードーム部44との境界部40bにおいて、ライナー円筒部42の外表面の接線42fとライナードーム部44の外表面の接線44fとが不連続となるように成形されている。換言すれば、ライナー40は、ライナー円筒部42とライナードーム部44との境界部40bにおいて、ライナー円筒部42の外表面の接線42fとライナードーム部44の外表面の接線44fとが同一とならないように成形されている。さらに換言すれば、ライナー40は、ライナー円筒部42とライナードーム部44との境界部40bにおいて、ライナードーム部44の外表面の接線44fが、ライナー円筒部42の外表面の接線42fに対して角度θ傾くように成形されている。
【0038】
また、図1(a)から分かるように、高圧タンク10における円筒部20とドーム部30との境界部と、ライナー40におけるライナー円筒部42とライナードーム部44との境界部40bとは、中心軸AX方向の位置が異なっている。
【0039】
B.高圧タンクの製造方法:
高圧タンク10の製造方法を説明する前に、繊維強化プラスチック層を形成する際に用いられる一般的な繊維の巻き付け方法について説明する。
【0040】
図2は、繊維強化プラスチック層を成形する際に用いられる繊維の種々の巻き付け方法を示す説明図である。本明細書では、フープ巻き、および、ヘリカル巻きについて説明する。なお、ヘリカル巻きについては、後述する低角度ヘリカル巻き、および、高角度ヘリカル巻きについて説明する。
【0041】
図2(a)は、フープ巻きを示す説明図である。フープ巻きによってライナー40に繊維51が巻き付けられていく様子を示した。「フープ巻き」とは、繊維51の巻き付け方向が、ライナー円筒部42の中心軸AXに対して略垂直になるように巻き付けるとともに、中心軸AX方向に巻き付け位置(リール15の位置)を移動させる方法である。すなわち、「フープ巻き」とは、中心軸AXと繊維51の巻き付け方向とがなす角度α(「巻き付け角度α」)が略垂直になるように巻き付ける方法である。なお、「フープ巻きによる繊維51の巻き付け角度が略垂直」とは、90度、および、繊維同士が重ならないように繊維の巻き付け位置をずらすことによって生じ得る90度前後の角度を含む。このフープ巻きによって形成される層を「フープ層」と呼ぶ。
【0042】
図2(b)は、低角度ヘリカル巻き示す説明図である。低角度ヘリカル巻きによってライナー40に繊維51が巻き付けられていく様子を示した。「低角度ヘリカル巻き」とは、ライナー円筒部42において繊維51が中心軸AXを一周する前に、ライナードーム部44において繊維51の巻き付け方向が折り返される比較的小さい巻き付け角度αを有する巻き付け方法である。この低角度ヘリカル巻きによって形成される層を「低角度ヘリカル層」と呼ぶ。
【0043】
図2(c)は、高角度ヘリカル巻きを示す説明図である。高角度ヘリカル巻きによってライナー40に繊維51が巻き付けられていく様子を示した。「高角度ヘリカル巻き」とは、ライナー円筒部42において繊維51が中心軸AXを少なくとも一周した後に、ライナードーム部44において繊維51の巻き付け方向が折り返される比較的大きな巻き付け角度αを有する巻き付け方法である。この高角度ヘリカル巻きによって形成される層を「高角度ヘリカル層」と呼ぶ。
【0044】
図3は、高圧タンク10の製造方法の一部を示す説明図である。図3では、高圧タンク10の部分的な断面図を示した。なお、ライナー円筒部42の中心軸AXの図示は省略しているが、図の左右方向がライナー円筒部42の中心軸AX方向である。
【0045】
まず、先に説明した形状を有するライナー40(図1参照)を用意して、図3(a)に示したように、ライナー円筒部42の外表面のみに、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を複数層(本実施例では、5層)フープ巻きすることによって、第1のフープ層54aを形成する(第1フープ層形成工程)。このとき、第1のフープ層54aは、ライナー円筒部42とライナードーム部44との境界部40bに近いほど、第1のフープ層54aの厚さが薄くなるように形成する。本実施例では、第1のフープ層54aを1層形成するごとに、フープ巻きの折り返し位置、すなわち、第1のフープ層54aにおける各層の端部を、境界部40b側から中心軸AX方向(ライナー円筒部42の中央部方向)にずらすものとした。
【0046】
次に、第1のフープ層54aに含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化することなく、図3(b)に示したように、ライナードーム部44の外表面、および、第1のフープ層54aの外表面全体に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を低角度ヘリカル巻きすることによって、低角度ヘリカル層54bを形成する(ヘリカル層形成工程)。なお、本実施例では、低角度ヘリカル層54bの層数は、1層とした。
【0047】
次に、第1のフープ層54aに含まれる熱硬化性樹脂、および、低角度ヘリカル層54bに含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化することなく、図3(c)に示したように、第1のフープ層54a上における低角度ヘリカル層54bの外表面に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を複数層(本実施例では、6層)フープ巻きすることによって、第2のフープ層54cを形成する(第2フープ層形成工程)。このとき、第2のフープ層54cは、ライナー円筒部42とライナードーム部44との境界部40bに近いほど、第2のフープ層54cの厚さが薄くなるように形成する。本実施例では、第1のフープ層54aと同様に、第2のフープ層54cを1層形成するごとに、フープ巻きの折り返し位置、すなわち、第2のフープ層54cにおける各層の端部を、境界部40b側から中心軸AX方向(ライナー円筒部42の中央部方向)にずらすものとした。
【0048】
また、第1のフープ層54aの最外層の端部(折り返し位置)は、第2のフープ層54cの最内層の端部(折り返し位置)よりも境界部40b側に配置される。そして、ライナードーム部44上の低角度ヘリカル層54b、および、第2のフープ層54cの外表面が等張力曲面を成している。
【0049】
次に、図3(d)に示したように、第1のフープ層54aと、低角度ヘリカル層54bと、第2のフープ層54cとからなる内層54の外表面に、外層56を形成する(第2ヘリカル層形成工程を含む外層形成工程)。なお、図3(d)では、外層56の厚さは、図示の都合上、内層54の厚さとの対比において、薄く描かれている。本実施例における外層56の層構成については、後述する。
【0050】
そして、外層56の形成後、内層54、および、外層56に含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化する(加熱硬化工程)。以上の製造工程によって、高圧タンク10は完成する。
【0051】
C.実施例の効果:
本実施例の高圧タンク10と比較例の高圧タンク10Rとを比較することによって、本実施例の高圧タンク10の効果について説明する。
【0052】
図4は、比較例としての高圧タンク10Rの概略構成を示す説明図である。高圧タンク10Rの部分断面図を示した。また、図5は、比較例の高圧タンク10R、および、実施例の高圧タンク10における繊維強化プラスチック層50R,50の層構成、および、比較例の高圧タンク10R、および、実施例の高圧タンク10の評価結果を示す説明図である。
【0053】
図4に示したように、比較例の高圧タンク10Rは、実施例の高圧タンク10における繊維強化プラスチック層50の代わりに、繊維強化プラスチック層50Rを備えている。そして、この繊維強化プラスチック層50Rは、実施例の高圧タンク10における内層54、および、外層56の代わりに、内層54R、および、外層56Rとからなる。
【0054】
内層54Rは、ライナー円筒部42の外表面に形成されたフープ層のみからなり、ライナー円筒部42とライナードーム部44との境界部40bに近いほど、フープ層の厚さが薄くなるように形成されている。すなわち、比較例の高圧タンク10Rにおける内層54Rは、実施例の高圧タンク10における内層54において、低角度ヘリカル層54bを省略した構成を有している。なお、図4においても、図3(d)と同様に、外層56Rの厚さは、内層54Rとの対比において、薄く描かれている。
【0055】
また、図5に示したように、比較例の高圧タンク10Rにおける繊維強化プラスチック層50Rは、内層54Rとして、11層のフープ層を備えており、さらに、外層56Rとして、1層の低角度ヘリカル層と、4層のフープ層と、17層の低角度ヘリカル層と、1層のフープ層とをこの順に備えている。
【0056】
一方、実施例の高圧タンク10における繊維強化プラスチック層50は、内層54として、5層のフープ層(第1のフープ層54a)と、1層の低角度ヘリカル層54bと、6層のフープ層(第2のフープ層54c)とをこの順に備えており、さらに、外層56として、1層の低角度ヘリカル層と、4層のフープ層と、16層の低角度ヘリカル層と、1層のフープ層とをこの順に備えている。
【0057】
なお、実施例の高圧タンク10における繊維強化プラスチック層50において、フープ層、および、ヘリカル層の1層あたりの厚さは、すべて等しいものとした。したがって、フープ層、および、ヘリカル層の1層あたりの厚さをtとすると、ライナー円筒部42上において、内層54の厚さTiと外層56の厚さToとの和Ttotalは、Ttotal=Ti+To=34tである。また、内層54におけるフープ層の厚さ、すなわち、第1のフープ層54aの厚さTif1と第2のフープ層54cの厚さTif2との和Tifは、Tif=Tif1+Tif2=11tである。つまり、Tif/Ttotal=11t/34t≒0.323・・・より、内層54の厚さTiと外層56の厚さToとの和Ttotalの内層側の33(%)以内の範囲内に、第1のフープ層54aの厚さTif1と第2のフープ層54cの厚さTif2の和Tifの100(%)が配置されている。
【0058】
上述したように、比較例の高圧タンク10R、および、実施例の高圧タンク10は、ともに、繊維強化プラスチック層50R,50として、同数のフープ層と低角度ヘリカル層、具体的には、16層のフープ層と、18層の低角度ヘリカル層とを備えている。それにも関わらず、比較例の高圧タンク10Rと、実施例の高圧タンク10の評価結果には、顕著な差異が現れた。なお、今回は、高圧タンク10R,10の評価項目として、巻き崩れ(内層54R,54のフープ層の縁部における繊維51の巻き崩れの程度)、耐圧性能(タンクバースト圧力)、疲労性能(加速サイクル試験における耐久回数)の評価を行った。
【0059】
巻き崩れについては、比較例の高圧タンク10Rでは、図5中に「△」で示したように、内層54Rの形成時に、巻き崩れが生じたのに対し、実施例の高圧タンク10では、図5中に「◎」で示したように、内層54の形成時に、巻き崩れはほとんど生じなかった。また、耐圧性能については、比較例の高圧タンク10Rのタンクバースト圧力を1としたときに、実施例の高圧タンク10のタンクバースト圧力は約1.1であり、耐圧性能が約1.1倍に向上した。また、疲労性能については、加速サイクル試験における比較例の高圧タンク10Rの耐久回数を1としたときに、実施例の高圧タンク10の耐久回数は約2.7であり、疲労性能が約2.7倍に向上した。
【0060】
以上説明したように、本実施例の高圧タンク10の製造方法では、高圧タンク10におけるライナー円筒部42の外表面に第1のフープ層54aを形成した後に、この第1のフープ層54aの外表面全体を覆うように、低角度ヘリカル層54bが形成され、第1のフープ層54a上における低角度ヘリカル層54bの外表面に第2のフープ層54cが形成される。したがって、第1のフープ層54aの全体を低角度ヘリカル層54bによって押さえつけて、第1のフープ層54aの縁部における繊維51の巻き崩れを抑制することができる。また、第1のフープ層54aと第2のフープ層54cとの間に低角度ヘリカル層54bを挟むことによって、第1のフープ層54aを低角度ヘリカル層54bによって固定した後に第2のフープ層54cを形成することができるので、低角度ヘリカル層54bを挟まずに、第1のフープ層54aと第2のフープ層54cとを連続的に形成する場合よりも、第1のフープ層54aおよび第2のフープ層54cの縁部における繊維51の巻き崩れを抑制することができる。また、本実施例の高圧タンク10では、第1フープ層形成工程とヘリカル層形成工程との間、および、ヘリカル層形成工程と第2フープ層形成工程との間に、各層に含まれる熱硬化性を加熱硬化する工程が含まれない。したがって、各層の形成ごとに、各層に含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化する場合よりも、高圧タンクの製造における工程数を短縮することができる。つまり、本実施例の高圧タンク10の製造方法によって、比較的少ない工程数で、フィラメントワインディング法を用いて繊維強化プラスチック層50を形成する際の繊維51の巻き崩れを抑制することができる。
【0061】
また、本実施例の高圧タンク10の製造方法では、ヘリカル層形成工程において、低角度ヘリカル巻きを用いるので、第1のフープ層54aの縁部における繊維51の巻き崩れを抑制するとともに、ライナー40の中心軸AX方向の強度を向上させることができる。また、低角度ヘリカル巻きでは、ライナー40の中心軸AX方向の強度について、同じ強度を得るために、高角度ヘリカル巻きよりも、巻き数、換言すれば、繊維51の使用量を少なくすることができるため、高圧タンクの小型化、軽量化、低コスト化を図ることができる。
【0062】
また、本実施例の高圧タンク10の製造方法によれば、図3(a)に示したように、第1フープ層形成工程において、第1のフープ層54aの縁部をスラント形状とし、第1のフープ層54aの縁部における繊維51の巻き崩れを防止することができる。また、第1のフープ層54aの縁部をスラント形状とすることによって、低角度ヘリカル層54b(図3(b)参照)を形成する際の繊維蛇行、すなわち、繊維51の巻き付け位置のずれを抑制し、低角度ヘリカル層54bの、ライナー40の中心軸AX方向の強度を向上させる効果を効果的に利用することができる。
【0063】
また、本実施例の高圧タンク10の製造方法によれば、図3(c)に示したように、第2フープ層形成工程において、第2のフープ層54cの縁部をスラント形状とし、第2のフープ層54cの縁部における繊維51の巻き崩れを防止することができる。また、第2のフープ層54cの縁部をスラント形状とすることによって、図3(d)に示したように、第2ヘリカル層形成工程において、第2のフープ層54c上に外層56における低角度ヘリカル層を形成する際の繊維蛇行、すなわち、繊維51の巻き付け位置のずれを抑制し、低角度ヘリカル層54bの、ライナー40の中心軸AX方向の強度を向上させる効果を効果的に利用することもできる。
【0064】
また、本実施例の高圧タンク10の製造方法によれば、図3(c)に示したように、第1のフープ層54aから第2のフープ層54cにわたって、これらの縁部をスラント形状とするので、第1のフープ層54a、および、第2のフープ層54cの縁部における繊維51の巻き崩れを防止することができる。
【0065】
なお、本実施例の高圧タンク10は、特に、ライナー40の中心軸AX方向の長さLとライナー40の円筒部の直径Dとの比(L/D比)が小さい場合に、高圧タンクの軽量化の効果が大きい。
【0066】
また、フープ巻きは、ヘリカル巻きよりも、ライナー40の周方向の強度を向上させる効果が大きい。また、高圧タンク10に高圧ガスを充填したときに、ライナー円筒部42の外表面に形成された繊維強化プラスチック層50において、ライナー40の周方向に作用する応力は、内層側(内部側)ほど大きくなる(厚肉円筒理論)。そして、本実施例の高圧タンク10の製造方法では、図5に示したように、ライナー円筒部42上において、内層54の厚さと外層56の厚さとの和の内層側の33(%)以内の範囲内に、第1のフープ層54aの厚さと第2のフープ層54cの厚さの和の100(%)が配置されている。つまり、ライナー40の周方向に作用する応力が比較的大きくなる内層側に、ライナー40の周方向の強度を向上させる効果が大きいフープ巻き(フープ層)を集めて積層するので、ライナー40の周方向の強度を効果的に向上させることができる。
【0067】
また、本実施例の高圧タンク10の製造方法では、繊維強化プラスチック層50における各層の高圧タンク10の強度を向上させる効果を従来よりも効果的に利用することできるので、従来と同等の高圧タンクの性能(耐圧性能や耐久性能)を得るために、繊維強化プラスチック層50を構成する総層数を減少させることができる。したがって、高圧タンクの小型化、軽量化、低コスト化を図ることができる。また、従来と同等の高圧タンクの性能を得るために、強度や剛性について、低グレードの繊維を用いれば、高圧タンクの低コスト化を図ることができる。また、繊維強化プラスチック層50の層数を従来と同じにする場合には、高圧タンクの強度を向上させることができる。また、高圧タンクの外径形状を従来と同じにする場合には、ライナーの容積を増大することが可能となる。したがって、この高圧タンクに燃料ガスを充填し、例えば、車両に搭載する場合には、この車両の航続距離を延伸することができる。
【0068】
また、本実施例の高圧タンク10の製造方法では、ライナードーム部44上の低角度ヘリカル層54bおよび第2のフープ層54cの外表面が等張力曲面を成すので、内層54の外表面に形成される外層56における低角度ヘリカル層を等張力で形成し、高圧タンク10の強度向上に効果的に利用することができる。
【0069】
D.変形例:
以上、本発明のいくつかの実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形が可能である。
【0070】
D1.変形例1:
上記実施例では、繊維強化プラスチック層50の内層54において、低角度ヘリカル層54bを用いるものとしたが、本発明は、これに限られない。低角度ヘリカル層54bの代わりに、高角度ヘリカル層を用いるようにしてもよい。
【0071】
D2.変形例2:
上記実施例では、図5に示したように、ライナー円筒部42上において、内層54の厚さと外層56の厚さとの和の内層側の33(%)以内の範囲内に、第1のフープ層54aの厚さと第2のフープ層54cの厚さの和の100(%)が配置されているものとしたが、本発明は、これに限られない。ライナー円筒部42上において、内層54の厚さと外層56の厚さとの和の内層側の75(%)以内の範囲内に、第1のフープ層54aの厚さと第2のフープ層54cの厚さとの和の90(%)以上が配置されているようにすればよい。
【0072】
D3.変形例3:
上記実施例では、繊維強化プラスチック層50の内層54において、第1のフープ層54aを5層とし、低角度ヘリカル層54bを1層とし、第2のフープ層54cを6層としたが、これらの層数は、それぞれ、高圧タンク10に要求される強度に応じて任意に設定可能である。繊維強化プラスチック層50の外層56の層構成についても同様である。
【0073】
D4.変形例4:
上記実施例では、繊維強化プラスチック層50を構成する熱硬化性樹脂、および、繊維は、それぞれ、すべて同一の種類であるものとしたが、これらのうちの少なくとも一部が異なる種類であるものとしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10,10R…高圧タンク
14…口金部
14a…開口部
15…リール
20…円筒部
25…空間部
30…ドーム部
40…ライナー
40b…境界部
42…ライナー円筒部
42f…接線
44…ライナードーム部
44f…接線
50,50R…繊維強化プラスチック層
51…繊維
54,54R…内層
54a…第1のフープ層
54b…低角度ヘリカル層
54c…第2のフープ層
56,56R…外層
AX…中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を貯蔵するための高圧タンクの製造方法であって、
円筒形状を有する円筒部と、ドーム形状を有し前記円筒部の両端部に設けられたドーム部と、を有するライナーを用意する工程と、
フィラメントワインディング法を用いて、前記ライナーの外表面に繊維強化プラスチック層を形成する繊維強化プラスチック層形成工程と、
を備え、
前記繊維強化プラスチック層形成工程は、
前記円筒部の外表面のみに、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を複数層フープ巻きすることによって、第1のフープ層を形成する第1フープ層形成工程と、
前記第1のフープ層に含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化することなく、前記ドーム部の少なくとも一部の外表面、および、前記第1のフープ層の外表面に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維をヘリカル巻きすることによって、ヘリカル層を形成するヘリカル層形成工程と、
前記第1のフープ層に含まれる熱硬化性樹脂、および、前記ヘリカル層に含まれる熱硬化性樹脂を加熱硬化することなく、前記第1のフープ層上における前記ヘリカル層の外表面に、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を複数層フープ巻きすることによって、第2のフープ層を形成する第2フープ層形成工程と、
前記第1のフープ層に含まれる熱硬化性樹脂と、前記ヘリカル層に含まれる熱硬化性樹脂と、前記第2のフープ層に含まれる熱硬化性樹脂と、を加熱硬化する加熱硬化工程と、
を含む高圧タンクの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記ヘリカル層形成工程におけるヘリカル巻きは、前記第1のフープ層の外表面において、前記ヘリカル層を構成する前記繊維が前記ライナーの中心軸を一周する前に、前記ドーム部において、前記繊維の巻き付け方向が折り返されるヘリカル巻きである、
高圧タンクの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記第1フープ層形成工程は、前記円筒部上において、前記円筒部と前記ドーム部との境界部に近いほど、前記第1のフープ層の厚さが薄くなるように、前記第1のフープ層を形成する工程を含む、
高圧タンクの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記第2フープ層形成工程は、前記円筒部上において、前記円筒部と前記ドーム部との境界部に近いほど、前記第2のフープ層の厚さが薄くなるように、前記第2のフープ層を形成する工程を含む、
高圧タンクの製造方法。
【請求項5】
請求項3または4記載の高圧タンクの製造法であって、
前記第1フープ層形成工程、および、前記第2フープ層形成工程は、前記円筒部の軸方向について、前記第1のフープ層の最外層の端部が、前記第2のフープ層の最内層の端部よりも前記境界部側に配置されるように、前記第1のフープ層、および、前記第2のフープ層を形成する工程を含む、
高圧タンクの製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記繊維強化プラスチック層形成工程は、前記第1のフープ層と、前記ヘリカル層と、前記第2のフープ層とからなる内層の外表面に、さらに、熱硬化性樹脂が含浸された繊維を巻き付けて、外層を形成する外層形成工程を含み、
前記第1フープ層形成工程と、前記ヘリカル層形成工程と、前記第2フープ層形成工程と、前記外層形成工程とは、前記円筒部上において、前記内層の厚さと前記外層の厚さとの和の内層側の75(%)以内の範囲内に、前記第1のフープ層の厚さと前記第2のフープ層の厚さとの和の90(%)以上が配置されるように、前記内層および前記外層を形成する工程を含む、
高圧タンクの製造方法。
【請求項7】
請求項5記載の高圧タンクの製造方法であって、
前記繊維強化プラスチック層形成工程は、前記第1のフープ層と、前記ヘリカル層と、前記第2のフープ層とからなる内層の外表面に、さらに、熱硬化性樹脂を含む繊維をヘリカル巻きすることによって第2のヘリカル層を形成する第2ヘリカル層形成工程を含み、
前記ライナーは、前記円筒部と前記ドーム部との境界部が不連続な形状を有しており、
前記第1フープ層形成工程と、前記ヘリカル層形成工程と、前記第2フープ層形成工程とは、前記ドーム部上の前記ヘリカル層、および、前記第2のフープ層の外表面が等張力曲面を成すように、前記第1のフープ層と、前記ヘリカル層と、前記第2のフープ層とを形成する工程を含む、
高圧タンクの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の製造法によって製造された高圧タンク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−149739(P2012−149739A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10329(P2011−10329)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】