説明

高圧タンク及び高圧タンクの製造方法

【課題】水素ガスが充填された加圧状態の高圧タンクにおいて、樹脂ライナーとFRP層との間の水素ガスの滞留を抑制する高圧タンク及び高圧タンクの製造方法を提供する。
【解決手段】高圧タンクは、樹脂ライナー12と、樹脂ライナー12に形成された微小球24を含む中間層20と、樹脂を含浸した繊維を中間層20に巻回して形成されたFRP層22とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧タンク及び高圧タンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧タンク等の高圧容器は、鉄等に比べ軽量であって強靱性を有するFRP(Fiber Reinforced Plastic)部材が用いられ、ライナー表面にFRP部材からなるFRP層が形成されている。ここで、FRP部材は、例えば、繊維と樹脂を含み、プラスチックが強化されたものである。
【0003】
FRP層を形成する方法として、例えば、フィラメントワインディング法(以下「FW法」ともいう)が知られており、このフィラメントワインディング法は、樹脂を含浸した繊維を、円筒状の基材に巻き付けて、FRP層を形成する方法である。FRP層を形成したのち、通常、熱硬化処理が施される。
【0004】
また、特許文献1には、タンクライナの外周部に巻廻した強化繊維を樹脂で固化させた高圧ガスタンクにおいて、前記樹脂の少なくとも一部に熱伝導性の高い粉末を混入させて、タンク壁の熱伝導率を高め、高圧ガスタンク内に水素ガスを充填する際の発熱を放散させることが提案されている。ここで、熱伝導性の高い粉末として、銅粉が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−183753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水素ガスが加圧充填された高圧タンクでは、高圧タンク内が加圧されているため、口金部近傍のライナーとFRP層との間及び口金部とFRP層との間がシールされた状態になっている。一方、高圧タンクのライナーとして樹脂ライナーを用いた場合、高圧タンク内の加圧された水素ガスは微量ながら徐々に樹脂ライナーを透過していくため、樹脂ライナーを透過した水素ガスは、樹脂ライナーとFRP層との間に滞留してしまう場合がある。このような状態で高圧タンクが減圧されると、口金部近傍の樹脂ライナーとFRP層との間及び口金部とFRP層との間に隙間が生じ、樹脂ライナーとFRP層との間に滞留していた高濃度の水素ガスが、一度に、口金部とFRP層との隙間から放出されることになる(図7,8参照)。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、水素ガスが充填された加圧状態の高圧タンクにおいて、樹脂ライナーとFRP層との間の水素ガスの滞留を抑制する高圧タンク及び高圧タンクの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の高圧タンク及び高圧タンクの製造方法は以下の特徴を有する。
【0009】
(1)樹脂ライナーと、樹脂ライナーに形成された微小球を含む中間層と、樹脂を含浸した繊維を中間層に巻回して形成されたFRP層と、を有する高圧タンクである。
【0010】
水素ガスが加圧充填された高圧タンクにおいて、樹脂ライナーを透過した微量の水素ガスは、ガス排出経路となる樹脂ライナーに形成された微小球を含む中間層を介して高圧タンクの口金部に移動し、高圧タンクの外に安定的に放出される。これにより、加圧状態の高圧タンクにおいて、樹脂ライナーとFRP層との間の水素ガスの滞留が抑制される。
【0011】
(2)上記(1)に記載の高圧タンクにおいて、前記微小球が、微小中空球である。
【0012】
微小中空球は強度が高いので、高圧下であっても潰れることなく、樹脂ライナーとFRP層との間に形成された中間層が、ガス排出経路として機能し続けることができる。
【0013】
(3)上記(2)に記載の高圧タンクにおいて、前記微小中空球が、マイクロバルーンである。
【0014】
マイクロバルーンは、微小中空球の中でも高強度であるため、高圧下であっても潰れることなく、樹脂ライナーとFRP層との間に形成された中間層が、ガス排出経路として機能し続けることができる。
【0015】
(4)樹脂ライナーに微小球を含む樹脂を塗布して中間層を形成する工程と、樹脂を含浸した繊維を中間層に巻回してFRP層を形成する工程と、を有する高圧タンクの製造方法である。
【0016】
FRP層の形成前に、微小球を含む樹脂を樹脂ライナーに塗布して、ガス排出経路として機能する中間層を形成するので、加圧時の高圧タンクにおいて、樹脂ライナーから微量の水素ガスが透過したとしても、透過した水素ガスは中間層を介して高圧タンクの口金部に移動し、高圧タンクの外に安定的に放出される。これにより、樹脂ライナーとFRP層との間に水素ガスが滞留することが抑制される。
【0017】
(5)上記(4)に記載の高圧タンクの製造方法において、前記ライナーに塗布される樹脂及び繊維に含浸される樹脂は、未硬化の状態の熱硬化性樹脂である。
【0018】
未硬化の状態の熱硬化性樹脂を用いることで、熱硬化後の樹脂ライナーと中間層とFRP層の密着性を向上させることができる。
【0019】
(6)上記(4)又は(5)に記載の高圧タンクの製造方法において、前記微小球が、微小中空球である。
【0020】
微小中空球は、微小中実球に比べ強度が高いので、得られた高圧タンクにおいて、高圧下であっても潰れることなく、樹脂ライナーとFRP層との間に形成された中間層が、ガス排出経路として機能し続けることができる。
【0021】
(7)上記(6)に記載の高圧タンクの製造方法において、前記微小中空球が、マイクロバルーンである。
【0022】
マイクロバルーンは、微小中空球の中でも高強度であるため、得られた高圧タンクにおいて、高圧下であっても潰れることなく、樹脂ライナーとFRP層との間に形成された中間層が、ガス排出経路として機能し続けることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、水素ガスが充填された加圧状態の高圧タンクにおいて、樹脂ライナーとFRP層との間の水素ガスの滞留が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明における高圧ボンベの構成の一例を示す断面図である。
【図2】図1の一点破線で囲んだX部分の拡大断面図である。
【図3】図2の一点破線で囲ったY部分の拡大断面図である。
【図4】本発明における中間層の形成工程の一例を示す概略斜視図である。
【図5】本発明におけるFRP層の形成工程の一例を示す概略斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態における高圧タンクの製造方法の一例を説明するフローチャートである。
【図7】従来の水素充填後の加圧及び放置時の高圧タンクの状態の一例を示す口金付近の断面図である。
【図8】従来の減圧時の高圧タンクの状態の一例を示す口金部付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0026】
図7に示すように、例えば、従来の高圧タンクにおいて、水素ガスが充填されている時、高圧タンク内は加圧されているため、口金部16近傍の樹脂ライナー12とFRP層22との間及び口金部16とFRP層22との間がシールされた状態になる。一方、高圧タンク内の加圧された水素ガスは微量ながら徐々に樹脂ライナー12を透過していき(図7の矢印で示すように)、樹脂ライナー12を透過した水素ガスは、樹脂ライナー12とFRP層22との間80に滞留してしまう場合がある。このような状態で高圧タンクが減圧されると、図8に示すように、口金部16近傍の樹脂ライナー12とFRP層22との間及び口金部16とFRP層22との間に隙間が生じ、加圧時に樹脂ライナー12とFRP層22との間に滞留していた高濃度の水素ガス90が、一度に、口金部16とFRP層22との隙間82から放出されることになる。
【0027】
そこで、以下に、水素ガスが充填された加圧状態の高圧タンクにおける樹脂ライナーとFRP層との間の水素ガスの滞留を抑制する、本発明の高圧タンク及び高圧タンク製造方法の一例を挙げる。なお、以下に示すものは一例であって、これに限定されるものではない。
【0028】
本実施の形態における高圧タンクの構造の一例を図1に示す。図1に示すように、高圧タンク10は、中空の樹脂ライナー12の両側に口金部16が設けられ、樹脂ライナー12の外周には外層14が設けられている。
【0029】
さらに、図1の一点破線で囲んだX部分を拡大した図2を用いて、口金部16付近の断面について説明する。図2に示すように、口金部16の先端付近を覆うように外層14が設けられ、口金部16の突起部に当接するように樹脂ライナー12が配置されている。
【0030】
さらに、図2の一点破線で囲んだY部分を拡大した図3を用いて、本実施の形態における外層14の構成の一例を説明する。図3に示すように、樹脂ライナー12には、微小球24を含む中間層20が設けられ、中間層20には、樹脂を含浸した繊維を巻回してなるFRP層22が設けられ、外層14は、中間層20とFRP層22とからなる。
【0031】
樹脂ライナー12の材質は、特に制限されるものではなく、例えば、ナイロン樹脂、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂その他の硬質樹脂が挙げられる。
【0032】
また、本実施の形態における中間層20は、微小球24と、樹脂ライナー12及びFRP層22との接着性を確保するための樹脂26とからなる。
【0033】
微小球24は、微小中実球であっても、微小中空球であってもよいが、好ましくは微小中空球である。微小中空球は、微小中実球に比べ軽量で且つより強度が高いので、高圧下であっても潰れることなく、その結果、樹脂ライナー12とFRP層22との間に形成された中間層20は、ガス排出経路として機能し続けることができる。
【0034】
微小中空球として、例えば、マイクロスフィア、マイクロバルーン、ホローバブル、シンタクティックフォーム材などが挙げられるが、本実施の形態では、マイクロバルーンが好適である。マイクロバルーンとして、例えば、ガラスマイクロバルーン、シリカマイクロバルーン、シラスマイクロバルーン、カーボンマイクロバルーン、フェノールマイクロバルーン、塩化ビニールマイクロバルーン、アルミナマイクロバルーン、ジルコニアマイクロバルーンなどが挙げられるが、本実施の形態では、ガラスマイクロバルーンが好適である。
【0035】
本実施の形態で用いるガラスマイクロバルーンの径は、50μmから300μmが好適である。ガラスマイクロバルーンの径が50μm未満の場合、中間層20の強度は高いものの、高圧タンクの加圧時に樹脂ライナー12を透過してくる水素ガスは、中間層20に沿って口金部16に移動し難くなり、高圧タンクの外に排出され難くなる。一方、ガラスマイクロバルーンの径が300μmを超えると、高圧タンクの加圧時に樹脂ライナー12を透過してくる水素ガスは、中間層20に沿って口金部16に移動し易くなるものの、中間層20の強度が低下してしまう。本実施の形態では、上述の範囲の径を有し、高強度のガラスマイクロバルーンがより好ましい。
【0036】
中間層20に用いる樹脂26として、熱硬化性樹脂を用いることが好ましい。熱硬化性樹脂は、以下に示す樹脂と硬化剤との混合物からなる。
【0037】
樹脂としては、硬化剤との反応により熱硬化する樹脂であれば如何なる樹脂でもよいが、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。主剤として、好ましくは、エポキシ樹脂であり、直鎖型であっても分岐型であってもよい。
【0038】
また、硬化剤は、熱硬化性樹脂を反応により得ることができれば如何なる硬化剤であっても良いが、例えば、脂肪族アミン、芳香族アミン、変性アミンなどの一級、二級、三級アミンであって、具体的には、ピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノールなどのアミン系硬化剤や、ポリアミド樹脂、メルカプタン系硬化剤、トリアジンチオール等のチオール系硬化剤など挙げられる。
【0039】
また、エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂等が挙げられる。なお、熱硬化性樹脂の硬化速度は、上述のエポキシ樹脂と硬化剤を適宜選択して配合することにより制御することができる。
【0040】
本実施の形態において、中間層20は、強度と水素ガスの通気性を考慮し、上述したマイクロバルーンがほぼ一層並ぶ程度の厚みがより好ましいが、これに限定されるものではない。
【0041】
本実施の形態におけるFRP層22は、樹脂を含浸した繊維を中間層20に巻回して形成される。樹脂としては、上述した熱硬化性樹脂が好ましい。一方、繊維は、例えば、金属繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、アルミナ繊維などの無機繊維や、アラミド繊維等の合成有機繊維や、綿等の天然有機繊維が用いられる。これらの繊維は、単独で使用しても良いし、混合して(混繊として)使用しても良い。本実施形態における繊維としては、カーボン繊維が好ましい。
【0042】
次に、本発明の高圧タンクの製造方法の一例を図4から図6を用いて説明する。図6に示すように、本実施の形態の高圧タンクの製造方法は、微小球を含む樹脂を中空のライナーに塗布して中間層を形成する工程(S100)と、樹脂を含浸した繊維を中間層に巻回してFRP層を形成する工程(S102)と、を有する。さらに、樹脂として、上述した熱硬化性樹脂を用いた場合には、FRP層を巻回形成後に、加熱炉にて加熱して樹脂を硬化させる(S104)。また、樹脂ライナーの開口部であった箇所に口金部を設け、高圧タンクが形成される。
【0043】
中間層の形成工程(図6のS100)の一例を図4に示す。図4に示すように、中空の樹脂ライナー12の口金部16用の開口部に回転軸30を通して仮固定し、回転軸30を回転させながら、ガラスマイクロバルーン等の微小球と低粘度の熱硬化性樹脂とからなる樹脂液50を塗布する。図4では、樹脂塗布機40を用いてスプレー塗装を行っているがこれに限るものではなく、例えば、刷毛塗り、ロール塗り、ロールコーターなどの塗装方法から適宜選択してもよい。樹脂液50に用いる低粘度の熱硬化性樹脂として、例えば、上述した硬化剤とエポキシ樹脂との混合物であって低粘度のものが好ましく、また未硬化の状態のものが好ましい。さらに、次工程の樹脂含浸繊維を巻回させることを考慮すると、硬化速度が比較的遅い熱硬化性樹脂がより好ましい。また、樹脂液50中の微小球と熱硬化性樹脂との比率は、中間層の強度と水素ガスの通気性を考慮して適宜選択される。
【0044】
FRP層の形成工程(図6のS102)の一例を図5に示す。図5に示すように、回転軸30を回転させながら、塗布された樹脂が未硬化の状態の中間層18の外周に、繊維束ガイド(アイロ)70を介して、樹脂含浸繊維60をFW法を用いて巻回させる。ここで、樹脂含浸繊維60に含浸されている樹脂は、熱硬化性樹脂が好ましく、上述した硬化剤とエポキシ樹脂との混合物がより好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、高圧タンクを用いる用途であれば、いかなる用途にも有効であるが、特に車両用の燃料電池に燃料ガスを供給するための高圧タンクに供することができる。
【符号の説明】
【0046】
10 高圧タンク、12 樹脂ライナー、14 外層、16 口金部、18 塗布された樹脂が未硬化の状態の中間層、20 中間層、22 FRP層、24 微小球、26 樹脂、30 回転軸、40 樹脂塗布機、50 樹脂液、60 樹脂含浸繊維、70 繊維束ガイド(アイロ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂ライナーと、
樹脂ライナーに形成された微小球を含む中間層と、
樹脂を含浸した繊維を中間層に巻回して形成されたFRP層と、
を有することを特徴とする高圧タンク。
【請求項2】
請求項1に記載の高圧タンクにおいて、
前記微小球が、微小中空球であることを特徴とする高圧タンク。
【請求項3】
請求項2に記載の高圧タンクにおいて、
前記微小中空球が、マイクロバルーンであることを特徴とする高圧タンク。
【請求項4】
樹脂ライナーに微小球を含む樹脂を塗布して中間層を形成する工程と、
樹脂を含浸した繊維を中間層に巻回してFRP層を形成する工程と、
を有することを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の高圧タンクの製造方法において、
前記ライナーに塗布される樹脂及び繊維に含浸される樹脂は、未硬化の状態の熱硬化性樹脂であることを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載の高圧タンクの製造方法において、
前記微小球が、微小中空球であることを特徴とする高圧タンクの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の高圧タンクの製造方法において、
前記微小中空球が、マイクロバルーンであることを特徴とする高圧タンクの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−231900(P2011−231900A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−104753(P2010−104753)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】