説明

高圧ノズル装置

【課題】狭隘部における施工容易性および施工精度(切削面の平坦性)の向上を図る高圧ノズル装置を提供する。
【解決手段】分岐管12に設けられた一対のノズル11から互いに衝突する高圧噴流WJを噴射して、高圧噴流WJにより被切削面を切削するための高圧ノズル装置であって、分岐管12に先端が支持されると共に、分岐管12の管軸線を通る平面上に配置され、ノズル11に高圧流体を導く中空のロッド13と、分岐管12およびロッド13の重量と略同一の重量を有し、ロッド13の軸線ARと略同軸でロッド13の後方に配置される平衡錘14と、筐体15に収容されると共に、ロッド13を軸線AR方向に往復動させる第1の往復動機構16、18と、筐体15に収容されると共に、平衡錘14をロッド13に対して逆位相で軸線AR方向に往復動させる第2の往復動機構17、18とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の支承付近の橋桁下面、橋脚上面等、狭隘部の被切削面を高圧噴流により切削するための高圧ノズル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高圧噴流により被切削面を切削する高圧ノズル装置が知られている(下記特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1は、回転部材と、回転部材の回転軸線以外の箇所に設けられた複数のノズルとを有し、構築物の表面を切削する装置を開示している。この装置は、回転部材の回転軸線が被切削面に対して略垂直をなすように配置される。そして、この装置は、回転部材の回転中に複数のノズルから被切削面に対して略垂直に高圧水を噴射しながら、被切削面に沿って移動する。
【0004】
特許文献2は、液体噴射管と、噴射管の先端にL字状に設けられた単一のノズルとを有し、橋梁の支承付近の橋桁下面を切削する装置を開示している。この装置は、噴射管の先端部が橋桁下面と橋脚上面との間に位置するように配置される。そして、噴射管は、単一のノズルから被切削面に向けて高圧水を噴射している最中に、被切削面全体に対して噴射位置を調節するために手動で移動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−256647号公報
【特許文献2】特開2003−166217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、橋梁の支承付近の橋桁下面、橋脚上面等、狭隘部の施工では、施工精度および施工速度等の点で、所望の施工性を十分に達成できない場合があった。
【0007】
特許文献1に記載の装置では、装置自体が狭隘部へアクセスできない場合がある。また、この装置に限らず施工面に略垂直な回転軸線に対して回転部材を回転させる回転式の装置では、スイベル等の接合構造により回転部材を含む先端部の嵩が大きくなるので、狭隘部へのアクセスが困難となり易い。
【0008】
特許文献2に記載の装置では、被切削面に隈なく高圧水を噴射するために噴射管を手動で往復動させて噴射位置を調節しなければならず、高速施工が困難となる。仮に、噴射管を動力により往復動させるとしても、回転式の装置と同等の施工速度を達成するためには移動速度を余程大きくしなければならず、噴射管を支持する筐体に往復動に伴って大きな振動が生じてしまう。振動を抑制するために筐体の剛性を高くすることも考えられるが、装置が重量化し、特に足場上での施工では施工自体が困難となりうる。
【0009】
また、上記いずれの装置でも、被切削面に対して略垂直に高圧水を噴射するので、切削面の切削深にばらつきが生じ、特に補修材の充填性の面で重要となる、切削面の平坦性を確保することが困難となり易い。
【0010】
そこで本発明は、狭隘部における施工容易性および施工精度(切削面の平坦性)の向上を図る高圧ノズル装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のある態様によれば、分岐管に設けられた一対のノズルから互いに衝突する高圧噴流を噴射して、高圧噴流により被切削面を切削するための高圧ノズル装置が提供される。この装置は、分岐管に先端が支持されると共に、分岐管の管軸線を通る平面上に配置され、ノズルに高圧流体を導く中空のロッドと、分岐管およびロッドの重量と略同一の重量を有し、ロッドの軸線と略同軸でロッドの後方に配置される平衡錘と、筐体に収容されると共に、ロッドを軸線方向に往復動させる第1の往復動機構と、筐体に収容されると共に、平衡錘をロッドに対して逆位相で軸線方向に往復動させる第2の往復動機構とを備えることを特徴とする。
【0012】
このようなノズル装置によれば、分岐管に設けられた一対のノズルから互いに衝突する高圧噴流が噴射される。よって、噴流の衝突点では噴流のエネルギーが略消散するので、衝突点より深い箇所に切削が及び難くなり、切削面の切削深を高精度に制御できる。また、ロッドは、分岐管に先端が支持されると共に、分岐管の管軸線を通る平面上に配置される。よって、分岐管およびノズルを含めたロッドの先端部の高さが抑えられるので、狭隘部へのアクセスが容易となる。さらに、分岐管およびロッドの合計重量と略同一の重量を有し、ロッドの軸線と略同軸でロッドの後方に平衡錘が配置される。そして、第1の往復動機構が、筐体に収容されると共に、ロッドを軸線方向に往復動させる。第2の往復動機構が、筐体に収容されると共に、ロッドに対して逆位相で平衡錘を軸線方向に往復動させる。よって、ロッドの往復動に伴う筐体の振動は、ロッドに対して逆位相で往復動する平衡錘の慣性力によって筐体に生じる振動で相殺することができる。その結果、ロッドを把持して往復動させる本体部の重量化を生じずに、切削面の平坦性を高めつつ高速施工を実現することができる。
【0013】
また、高圧ノズル装置は、筐体を、被切削面に平行して延在する平面上で、軸線方向に対して少なくとも交差する方向に移動させるための移動装置をさらに備えてもよい。これにより、ロッドの往復動中に、該平面上で軸線方向に対して少なくとも交差する方向に筐体を移動させると、噴流の噴射位置の移動軌跡が面的となることで、均質な切削面を確保できる。
【0014】
また、分岐管には、被切削面に対向して延在する平面上で摺動する荷重支持部が設けられてもよい。これにより、噴射の反動により分岐管を被切削面から離間させる力に抗して分岐管を支持できるので、切削深を高精度に制御できる。
【0015】
また、荷重支持部材には、平面に接するブレード状の先端部が設けられることが好ましい。これにより、被切削面に対向して延在する平面上に切削物が多数散乱していても、荷重支持部材は、切削物をかき分けて進むことができ、該平面上で分岐管を円滑に移動できる。なお、荷重支持部材の先端部は、必ずしも鋭利である必要はない。
【0016】
ここで、「切削」なる文言は、切断、狭義の切削のみならず、はつり、または破壊や砕破等の概念をも含むものである。また、「軸線方向に対して少なくとも交差する方向」は、軸線方向に対して直交する方向または平行な方向を除外するものではない。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、狭隘部における施工容易性および施工精度(切削面の平坦性)の向上を図る高圧ノズル装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る高圧ノズル装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る高圧ノズル装置を示す側面図である。
【図3】高圧ノズル装置の往復動作を示す図である。
【図4】高圧ノズル装置を用いた施工状況を示す側面図である。
【図5】高圧ノズル装置を用いた施工状況を示す平面図である。
【図6】ロッドに対する分岐管の取付け角度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[1.高圧ノズル装置の構成]
図1および図2を参照して、本発明の一実施形態に係る高圧ノズル装置の構成について説明する。図1および図2は、高圧ノズル装置の斜視図および側面図をそれぞれに示している。
【0020】
図1および図2に示すように、高圧ノズル装置は、一対のノズル11、分岐管12、中空のロッド13、平衡錘14、筐体15、第1のシリンダ16、第2のシリンダ17、および駆動バルブ18を備える。なお、以下では、ロッド13側を前方、平衡錘14側を後方とも称する。
【0021】
一対のノズル11は、互いに衝突する高圧噴流WJ(ウォータージェット)を噴射する。噴流WJの衝突点CPでは噴流WJのエネルギーが略消散するので、衝突点CPより浅い箇所でコンクリートを確実に切削できる一方で、衝突点CPより深い箇所が切削され難くなる。
【0022】
分岐管12は、外部の高圧水供給装置(不図示)から導かれる高圧水PWを一対のノズル11に分岐する管である。分岐管12には、ほぼ両端に一対のノズル11が設けられている。なお、分岐管12は、T字状に限らず、Y字状でもよい。分岐管12は、詳細は後述するが、ロッド13に対する取付け角度を調整可能であることが好ましい。
【0023】
ロッド13は、高圧ホース13aを介して供給される高圧水PWを分岐管12に導く剛性に富む高圧パイプである。ロッド13は、その先端が分岐管12を支持し、分岐管12の管軸線を通る平面上に配置される。ロッド13の先端は、水密ジョイント(不図示)を介して分岐管12にシール接続される。ロッド13は、その後端が第1のシリンダ16から前方に突出するシリンダ軸16aに連結され、シリンダ軸16aの往復動に追従して軸線AR方向に往復動する。ロッド13は、被切削面CFへのアクセス性を高めるために、その長さが調整可能であると好ましい。
【0024】
平衡錘14は、ロッド13の往復動により生じる筐体15の振動を抑制するための錘である。平衡錘14は、ロッド13の軸線ARと略同軸AW上でロッド13の後方に配置される。平衡錘14は、分岐管12(ノズル11を含む)およびロッド13の重量と略同一の重量を有する。平衡錘14は、高比重材からなる錘部14aと、錘部14aを支持する支持部材14bとからなる。平衡錘14の軸線AW(重心の移動方向)は、錘部14aの軸線(重心の移動方向)にほぼ一致する。支持部材14bは、その一端が錘部14aに固定され、他端が第2のシリンダ17から後方に突出するシリンダ軸17aに固定される。平衡錘14は、シリンダ軸17aの往復動に追従して軸線AW方向に往復動する。
【0025】
筐体15は、第1および第2のシリンダ16、17、および駆動バルブ18を収容する支持体である。筐体15は、フレーム構造またはボックス構造等からなる剛性に富む支持体である。筐体15は、支持体の形状を規定するフレーム部材15aと、筐体15の前面・後面を覆うパネル部材15bと、平衡錘14の支持部材14bに当接する当接軸15cとを有する。筐体15には、カバー部材(不図示)等が設けられてもよい。フレーム部材15aには、第1および第2のシリンダ16、17、および駆動バルブ18が直接的または間接的に固定される。また、当接軸15cは、往復動する平衡錘14の慣性力の一部を平衡錘14との当接により筐体15に伝達する。パネル部材15bには、シリンダ16、17のシリンダ軸16a、17aおよび当接軸15c等が支持される。なお、筐体15は、2つのシリンダ16、17を水平方向に並置するように構成されてもよい。また、筐体15は、平衡錘14を収容するように構成されてもよく、駆動バルブ18を収容しないように構成されてもよい。
【0026】
第1のシリンダ16は、一定のストロークでロッド13を軸線AR方向に往復動させる機構である。第1のシリンダ16は、駆動バルブ18を介して供給される高圧エアPAにより往復動するシリンダ軸16aを有する。第1のシリンダ16は、駆動バルブ18と協働して第1の往復動機構を構成する。
【0027】
第2のシリンダ17は、一定のストロークで平衡錘14をロッド13に対して逆位相で軸線AR方向に往復動させる機構である。第2のシリンダ17は、駆動バルブ18を介して供給される高圧エアPAにより往復動するシリンダ軸17aを有する。第2のシリンダ17は、駆動バルブ18と協働して第2の往復動機構を構成する。
【0028】
駆動バルブ18は、第1および第2のシリンダ16、17に対する駆動力の供給を制御する機構である。駆動バルブ18は、外部の高圧エア供給装置(不図示)から高圧ホース18aを介して供給される高圧エアPAを、第1および第2のシリンダ16、17に同期して逆位相で供給するバルブである。ここで、駆動バルブ18は、第1および第2のシリンダ16、17が略同一の駆動力を発揮するように各シリンダ16、17に高圧エアPAを供給する。駆動バルブ18は、単一の電磁バルブであることが好ましいが、他の形式の単一のバルブ、または同期制御される2つのバルブでもよい。
【0029】
なお、高圧ノズル装置には、外部の電源供給装置(不図示)から電源が供給される。また、高圧ノズル装置には、ロッド13の移動速度、ストローク長、噴流WJの噴射量、ロッド13に対する分岐管12の取付け角度等を制御する制御装置(不図示)が設けられる。制御装置は、筐体15上に設けられた操作パネル(不図示)、または装置の遠隔制御を可能にするコントローラ(不図示)等に接続される。
【0030】
高圧ノズル装置の諸元の一例は、非限定的にではあるが、筐体長:約1m、ロッド長:約1m、ノズルを含む分岐管の高さ:約100mm、ロッド径:35mm、ロッドストローク長:約100mm、ロッド移動速度:約30m/分となり、収容物を含む筐体の重量:約50kg、ロッド・平衡錘の各重量約20kgとなる。
【0031】
[2.高圧ノズル装置の動作]
つぎに、図3を参照して、高圧ノズル装置の動作について説明する。図3には、高圧ノズル装置の往復動作が示されている。高圧ノズル装置では、図3(a)に示す後方位置と、図3(b)に示す前方位置との間でロッド13が往復動する。
【0032】
図3(a)では、ロッド13が第1のシリンダ16の往復動により筐体15に近接する方向D1(後方)に移動する。すると、筐体15には、分岐管12(ノズル11を含む)およびロッド13の慣性力により筐体15を後方に推進する力F1が作用する。後方推進力F1は、筐体15の剛性により部分的に吸収されるとともに、筐体15を振動させる。一方、ロッド13の移動と同期して、平衡錘14が第2のシリンダ17の往復動により筐体15に近接する方向D2(前方)に移動する。すると、筐体15には、平衡錘14の慣性力により筐体15を前方に推進する力F2が作用する。前方推進力F2は、筐体15の剛性により部分的に吸収されるとともに、筐体15を振動させる。
【0033】
これにより、筐体15には、分岐管12およびロッド13の慣性力による後方推進力F1と、平衡錘14の慣性力による前方推進力F2とが同時に作用する。ここで、分岐管12およびロッド13と平衡錘14とは、略同一の重量を有し、略同一軸上を逆位相で移動する。よって、筐体15では、後方推進力F1に伴う振動と、前方推進力F2に伴う振動とが相殺され、振動の発生を抑制することができる。
【0034】
同様に、図3(b)では、ロッド13が第1のシリンダ16の往復動により筐体15から離間する方向D3(前方)に移動する。一方、ロッド13の移動と同期して、平衡錘14が第2のシリンダ17の往復動により筐体15から離間する方向D4(後方)に移動する。これにより、筐体15には、分岐管12およびロッド13の慣性力による前方推進力F3と、平衡錘14の慣性力による後方推進力F4とが同時に作用する。ここで、分岐管12およびロッド13と平衡錘14とは、略同一の重量を有し、略同一軸上を逆位相で移動する。よって、筐体15では、前方推進力F3に伴う振動と、後方推進力F4に伴う振動と相殺され、振動の発生を抑制することができる。
【0035】
[3.高圧ノズル装置を用いた施工方法]
つぎに、図4〜図6を参照して、高圧ノズル装置を用いた施工方法について説明する。図4および図5は、施工状況の側面図および平面図をそれぞれに示している。図6は、ロッド13に対する分岐管12の取付け角度を示している。なお、図5および図6は、高圧ノズル装置および被切削面CFを上側から見た図である。また、図4および図5では、筐体15の周辺構造が簡略的に示されている。
【0036】
図4および図5には、コンクリート橋梁の支承S付近の橋桁下面LFでの施工状況が示されている。橋桁下面LFでは、例えばコンクリートの劣化箇所を補修するために、所定の範囲および所定の切削深Dで切削される被切削面CF(切削対象面)が設定される。このような施工現場では、橋桁下面LFと橋脚上面TFとの間隔Gが150mm程度まで制限されるので、通常、被切削面CFの切削に困難が伴う。
【0037】
施工は、例えば、橋脚に沿って設けられた足場SC上の作業スペースで実施される。作業スペースには、筐体15を移動させるためのX−Yテーブル等の移動装置20が設置される。移動装置20は、被切削面CFに平行して延在する平面上で、ロッド13の軸線AR方向に対して少なくとも交差する方向に筐体15を移動させるための装置である。なお、移動装置20は、ロッド13の軸線AR方向に直交する方向(図5のY方向)にのみ筐体15を移動させるように構成されてもよい。
【0038】
X−Yテーブル20は、高圧ノズル装置を載置する移動台20aと、橋軸に直交する方向(図5のY方向)への移動台20aの移動を案内する第1のガイド部材20bと、橋軸方向(図5のX方向)への移動台20aの移動を案内する第2のガイド部材20cとを含んでいる。X−Yテーブル20は、第1および第2のガイド部材20b、20c上での移動台20aの移動を制御することで、橋軸に直交する方向(図5のY方向)、橋軸方向(図5のX方向)、橋軸に対して傾斜する方向に移動台20aを移動させることができる。なお、X−Yテーブル20は、いずれも不図示の電源供給装置(不図示)およびコントローラ(不図示)等に接続される。
【0039】
高圧ノズル装置では、ロッド13の先端部が被切削面CFと橋脚上面TFとの間に挿入され、筐体15が移動台20aに載置される。高圧ノズル装置は、例えば、橋脚付近の地面に設置された高圧水供給装置、高圧エア供給装置、および電源供給装置に高圧ホースおよび電気ケーブル等を通じて接続される。
【0040】
橋脚上面TFには、該上面TFを保護するための鋼板SP等が設置される。鋼板SP上での摺動を容易にするために、分岐管12には、鋼板SP上に配置される荷重支持部材19が設けられている。
【0041】
荷重支持部材19は、噴流WJの噴射の反動により分岐管12を被切削面CFから離間させる力に対抗するための部材である。荷重支持部材19の高さや鋼板SPの厚さは、噴流WJの衝突点CP(噴射位置)の深さが被切削面CFの切削深Dに対応するように設定され、特に、鋼板SPの厚さを変更して調整される。これにより、噴射の反動が増加しても、切削深Dを高精度に制御できる。剛性に富む部材からなる荷重支持部材19には、鋼板SPにほぼ線接触するブレード状の先端部が設けられることが好ましい。これにより、鋼板SP上にコンクリートの切削物が多数散乱していても、荷重支持部材19は、切削物をかき分けて進むことができ、鋼板SP上で分岐管12を円滑に移動できる。
【0042】
高圧ノズル装置は、ロッド13の軸線ARが橋軸(図5のX方向)に一致するように配置されるが、ロッド13の軸線ARが橋軸に直交するように配置されてもよい。分岐管12は、詳細を後述するように、ロッド13の軸線ARに交差する方向、好ましくは軸線ARに対して45°の角度で取り付けられる。
【0043】
施工の開始に際して、まず、X−Yテーブル20は、被切削面CFの隅部(図5では左上隅)に位置する切削開始点が噴流WJの噴射位置と重なるように筐体15を位置決めする。
【0044】
高圧ノズル装置は、一対のノズル11から噴流WJを噴射しながらロッド13を橋軸方向(図5のX方向)に往復動させる。X−Yテーブル20は、ロッド13の往復動中に、筐体15(つまり装置全体)を橋軸に直交する方向(図5のY方向)、つまりロッド13の軸線ARに直交する方向に除々に移動させる。すると、噴流WJの衝突点CPは、橋軸に対して傾斜したジグザグ状の軌跡T1を描き、よって切削開始点を基準として所定のストローク幅の切削面が得られる。
【0045】
なお、X−Yテーブル20は、ロッド13の往復動中に筐体15を移動させる代わりに、ロッド13が1ストローク往動および復動するたびに筐体15を移動させてもよい。すると、噴流WJの衝突点CPは、橋軸に沿ってジグザグ状の軌跡を描き、よって切削開始点を基準としてストローク幅の切削面が得られる。
【0046】
X−Yテーブル20は、衝突点CPが被切削面CFの端(図5では被切削面CFの下端)まで達すると、被切削面CFの切削開始点から1ストローク分だけ橋軸方向に離れた地点が噴流WJの噴射位置となるように筐体15を(図5では右上方向に)移動させる(軌跡T2)。そして、前述した場合と同様に、切削開始点から1ストローク分だけ離れた地点を基準としてストローク幅の切削面が得られる。
【0047】
このようにして、ロッド13の往復動と装置全体の移動とを組み合わせることで、被切削面CF全体を所定の切削深Dで面的に切削でき、均質な切削面を確保できる。なお、ロッド13の往復動中にロッド13の軸線ARに直交する方向に筐体15を移動させる代わりに、ロッド13の軸線ARに任意の角度で交差する方向に筐体15を移動させてもよい。
【0048】
図6には、ロッド13に対する分岐管12の取付け角度が示されている。分岐管12は、通常、ロッド13に対して0〜90°の角度、特に45°の角度で取り付けられる。これは、被切削面CFに格子状に埋設されている鉄筋等の埋設物を考慮したものである。ここでは、ロッド13の軸線ARが埋設物の埋設方向と略平行および略直交することが前提とされる。このような取付け角度を採用することで、埋設物の背面を切削する場合、噴流WJは、埋設物に衝突し難くなり、よって埋設物の背面に回り込んで被切削面CFを適切に切削できる。
【0049】
一方、狭隘部の施工に際しては、ロッド13の先端部による被切削面CFへのアクセス性を確保するために、例えば図6に示すように、分岐管12の取付け角度を調整することが好ましい。分岐管12の取付け角度は、分岐管12自体の交換により調整されてもよく、分岐管12自体の交換を伴わずにロッド13に対する取付け角度の変更により調整されてもよい。
【0050】
例えば、図6(a)に示す例では、ロッド13の挿入方向から見て奥行き方向端部の被切削面CF(図6(a)の右端)が壁体等の障害物W1に隣接している。この場合、分岐管12の取付け角度を90°(ロッド13の軸線ARと直交する方向)に調整することで、ロッド13の先端部による被切削面CFの端部へのアクセスが容易となる。また、図6(b)に示す例では、ロッド13の挿入方向に直交する方向から見た端部の被切削面CF(図6(b)の上下端)が壁体等の障害物W2に隣接している。この場合、分岐管12の取付け角度を0°(ロッド13の軸線ARと平行する方向)に調整することで、ロッド13の先端部による被切削面CFの端部へのアクセスが容易となる。なお、いずれの例でも、アクセス性が阻害されない範囲では、取付け角度をロッド13に対して傾斜する角度、特に45°の角度とすることが好ましい。
【0051】
[4.まとめ]
以上説明したように、本発明の実施形態に係る高圧ノズル装置によれば、互いに衝突する高圧噴流WJを噴射する一対のノズル11を採用することで、切削面の切削深Dを高精度に制御できる。また、分岐管12の管軸線を通る平面上に配置されるロッド13を採用することで、ロッド13の先端部による狭隘部へのアクセスが容易となる。さらに、ロッド13を軸線AR方向に往復動させる第1の往復動機構(第1のシリンダ16、駆動バルブ18)と、ロッド13に対して逆位相で平衡錘14を軸線AR方向に往復動させる第2の往復動機構(第2のシリンダ17、駆動バルブ18)とを採用することで、ロッド13の往復動に伴う振動を往復動する平衡錘14の慣性力により生じる振動で相殺できる。これにより、ロッド13を把持して往復動させる本体部の重量化を生じずに、切削面の平坦性を高めつつ高速施工を実現することができる。
【0052】
以上、本発明の一実施形態に係る高圧ノズル装置について説明した。しかし、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。
【0053】
例えば、前述した実施形態では、ウォータージェットを用いる場合について説明したが、ウォータージェットに代えてアブレシブジェット、エアジェット等を用いてもよい。また、前述した実施形態では、第1および第2のシリンダ16、17をエアシリンダにより構成する場合について説明したが、エアシリンダに代えて油圧シリンダ、電動モーター等により構成してもよい。また、前述した実施形態では、橋梁の支承S付近の橋桁下面LFを切削する場合について説明したが、本発明は、例えば、橋脚上面TFや管状構造物の内面を切削する場合等、狭隘部の被切削面CFを切削する場合にも適用できる。
【符号の説明】
【0054】
11…一対のノズル、12…分岐管、13…ロッド、14…平衡錘、15…筐体、16…第1のシリンダ、17…第2のシリンダ、18…駆動バルブ、19…荷重支持部材、20…移動装置、WJ…噴流、CF…被切削面、AR…ロッドの軸線、


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐管に設けられた一対のノズルから互いに衝突する高圧噴流を噴射して、該高圧噴流により被切削面を切削するための高圧ノズル装置であって、
前記分岐管に先端が支持されると共に、該分岐管の管軸線を通る平面上に配置され、前記ノズルに高圧流体を導く中空のロッドと、
前記分岐管および前記ロッドの重量と略同一の重量を有し、該ロッドの軸線と略同軸で該ロッドの後方に配置される平衡錘と、
筐体に収容されると共に、前記ロッドを軸線方向に往復動させる第1の往復動機構と、
前記筐体に収容されると共に、前記平衡錘を前記ロッドに対して逆位相で軸線方向に往復動させる第2の往復動機構と
を備えることを特徴とする高圧ノズル装置。
【請求項2】
前記筐体を、前記被切削面に平行して延在する平面上で、前記軸線方向に対して少なくとも交差する方向に移動させるための移動装置をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の高圧ノズル装置。
【請求項3】
前記分岐管には、前記被切削面に対向して延在する平面上で摺動する荷重支持部が設けられることを特徴とする、請求項1または2に記載の高圧ノズル装置。
【請求項4】
前記荷重支持部材には、前記平面に接するブレード状の先端部が設けられることを特徴とする、請求項3に記載の高圧ノズル装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−96191(P2013−96191A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242591(P2011−242591)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(500403309)株式会社ケミカル工事 (10)
【Fターム(参考)】