説明

高圧処理方法および高圧処理装置

【課題】減圧に伴って樹脂成形体等の被処理体が発泡してしまう問題を解決する技術を提供する。
【解決手段】高圧処理チャンバー内で、被処理体と高圧流体とを接触させることで被処理体の高圧処理を行った後、大気圧まで減圧するための高圧処理方法であって、複数の減圧工程を含み、高圧処理直後の第1減圧工程では、上記チャンバー内の高圧流体の密度を略同等に維持しつつ減圧することを特徴とする高圧処理方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフィルム等の樹脂成形体等の表面を高圧流体を用いて改質する際に、樹脂成形体の性状劣化を抑制しつつ減圧を行うことのできる高圧処理方法および高圧処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願発明者等は、高圧流体、特に超臨界二酸化炭素を用いて、半導体ウエハ等の微細構造体を洗浄する際に、効率的に減圧を行う方法にかかる発明をしてきた(特許文献1および2)。
【0003】
特許文献1に記載の発明は、断熱膨張を伴う減圧操作では、液体と気体とが混在する二相共存領域を通過するため減圧に時間がかかり、また、洗浄用薬液が固体として析出するという問題を解決するために、減圧工程の前に、清浄な高圧流体へと置換する工程を高圧処理よりも高い温度で行い、減圧工程での断熱膨張による液体発生割合を減少させるというものである。ただし、特許文献1に記載の発明では、チャンバーから排出される高圧流体を入れておく容器が複数必要であり、装置全体が大型化するというデメリットがある。また、特許文献2に記載の発明は、高圧処理チャンバー内の温度を断熱膨張によって降下する温度よりも高く維持する様に制御しながら、断熱膨張させて減圧する発明である。
【0004】
ところで、近年では、超臨界二酸化炭素等の高圧流体を用いた樹脂成形体の表面改質が行われている。この場合、高圧処理によって、樹脂成形体の表面層に高圧流体が滲入する。このため、特許文献2に記載の方法のように断熱膨張による減圧を行うと、表面層の高圧流体が膨張し、樹脂成形体の表面層で発泡してしまうという問題があった。
【0005】
このような発泡の問題を回避するために、特許文献3では導電性樹脂成形体を超臨界二酸化炭素を利用して製造するに当たり、10〜15MPa/1時間程度のゆっくりとした減圧速度を採用しているが、実操業を考えると、より速く減圧を終えることが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−367943号公報(図2等)
【特許文献2】特許第4173781号公報(図4等)
【特許文献3】特開2006−8945号公報([0029])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明では、減圧による樹脂成形体の発泡を回避しながら高圧状態から大気圧まで速やかに減圧を行うことができる高圧処理方法を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高圧処理チャンバー内で、被処理体と高圧流体とを接触させることで被処理体の高圧処理を行った後、大気圧まで減圧するための高圧処理方法であって、複数の減圧工程を含み、高圧処理直後の第1減圧工程では、上記チャンバー内の高圧流体の密度を略同等に維持しつつ減圧することを特徴とする。
【0009】
大気圧まで減圧するための最終減圧工程での減圧速度(MPa/分)が、上記第1減圧工程での減圧速度(MPa/分)よりも大きいものであることが好ましい。
【0010】
また、上記第1減圧工程と上記最終減圧工程との間に、高圧流体を直前の減圧工程での処理温度よりも高い温度に加温する昇温工程を含む態様、上記第1減圧工程と上記最終減圧工程との間に行われる減圧工程において、断熱膨張条件下での減圧を行う態様は、いずれも本発明の好ましい実施態様である。
【0011】
上記高圧流体は、超臨界または亜臨界状態の二酸化炭素であることが好ましい。
【0012】
また、被処理体が樹脂成形品であることも好ましく、本発明には、上記高圧処理が行われた樹脂成形品、および本発明の高圧処理方法を実施するための高圧処理装置であって、少なくとも、高圧流体供給手段と、高圧処理チャンバーと、熱交換器とを備えた高圧処理装置も、包含される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の高圧処理方法では、減圧工程で問題となる液やドライアイスの発生や気液二相領域の通過、さらには樹脂成形体の発泡を抑制しつつ、大気圧まで速やかに減圧できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を実施するための装置の一例を示す図である。
【図2】二酸化炭素のモリエル線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の高圧処理方法を図面を参照しながら説明する。図1には、本発明法を実施するための装置図の一例を示した。この例では、高圧処理チャンバー(以下単にチャンバーということがある)は、10と16の2機が配置されている。例えばチャンバー10において高圧処理を行う際には、まず、チャンバー10を開放して被処理体を入れ、密封する。流体貯槽4に貯えられている流体を、冷却器5を介して、ポンプ6で加圧し、加熱器7にて加熱してから、熱交換器8を介し、開放状態の遮断弁9を通して、チャンバー10へ導入する。ポンプ6と加熱器7でチャンバー10内の高圧流体を所定の温度および圧力へと、昇温・昇圧する。
【0016】
高圧処理工程では、上記所定の圧力・温度で高圧処理を行う。高圧処理に用いる高圧流体としては、1MPa(ゲージ圧:以下同様)以上の圧力の流体が好ましく、高密度、高溶解性、低粘度、高拡散性を示す流体であり、特に好ましいのは超臨界状態または亜臨界状態の二酸化炭素である。高圧流体として二酸化炭素を使用する場合の条件は、高圧処理の目的や被処理体の種類によって適宜変更可能であるが、例えば二酸化炭素は31℃、7.4MPa以上とすることで超臨界状態となるので、5〜30MPaの亜臨界(高圧流体)または超臨界二酸化炭素として用いることが好ましく、7.4〜20MPaで高圧処理を行うことがより好ましい。
【0017】
温度は、高圧処理の目的に応じる点に加えて、被処理体の耐熱温度や熱可塑性樹脂であるか熱硬化後の樹脂であるか等を考慮して設定すべきであり、25〜300℃が好ましい。高圧処理工程には、チャンバーを密封状態とし、チャンバーへの流体の導入およびチャンバーからの流体の導出を行わないバッチ処理や、チャンバーへの流体の導入およびチャンバーからの流体の導出を行う流通処理があるが、圧力制御弁11を閉めて、遮断弁18を開放し、循環ポンプ19を用いて高圧流体を循環させて処理を行う流通処理が好ましい。
【0018】
このとき高圧流体中には、高圧処理に必要な薬液(後述する)が、図示しない薬液貯層からいずれかの経路を通じて導入される。後述するように、下処理を最初に行い、その後に目的とする高圧処理を行ってもよい。高圧処理を行った後、薬液を含まない清浄な高圧流体でチャンバー内のリンスを行ってもよい。リンス工程では遮断弁18を閉じ、圧力制御弁11を開けて、高圧流体を熱交換器(冷却器)12を介して分離槽13へと導入してもよい。本発明においては、リンス工程を行う際はリンス工程を含めて高圧処理工程とする。
【0019】
高圧処理後は、減圧工程を行う。本発明での減圧操作は、複数の減圧工程に別れている。高圧処理直後の第1減圧工程では、圧力制御弁11を閉め、遮断弁18を開けた状態で流体を循環させながら行う。チャンバーの容積が一定で容器内の流体の質量も一定のため、等密度で減圧できる。このため、チャンバー内の高圧流体量を減らすことで減圧する際の断熱膨張等とは異なり、チャンバー内の高圧流体量が変わらないことから密度の変化がなく、樹脂成形体の発泡等の不具合を抑制でき、また、減圧を速くすることができる。
【0020】
本発明の第1減圧工程は、高圧流体を循環させながら熱交換器8の出口温度を高圧処理の最終温度よりも下げることによって減圧する方法が一例として挙げられる。一定容積内の流体の温度を下げると圧力が低下するが、超臨界流体では、圧力低下作用が顕著に現れるため、この作用を利用するのである。
【0021】
この第1減圧工程では、流体の密度が略等密度になるように温度および圧力を下げる。図2には二酸化炭素のモリエル線図を示す。図中、左下がりの点線が、等密度線である。点線の右端にはそれぞれの等密度線における密度が記載してある。
【0022】
例えば、20MPa、150℃、225kg(チャンバー10内の高圧流体量)、密度330kg/m3の超臨界二酸化炭素を、略等密度で13.7MPaまで減圧するには、熱交換器8の出口温度を90℃にすればよい。このとき、熱交換器8の出口温度を徐々に下げていくことが好ましい。例えば、150℃→140℃→131℃→121℃→112℃→102℃→93℃→90℃というように、チャンバー10と熱交換器8を含む循環通路を7回循環させる毎に、熱交換器8の出口温度を下げるように設定すれば、圧力は20MPa→19MPa→18MPa→17MPa→16MPa→15MPa→14MPa→13.7MPaというように減少していく。密度は330kg/m3と一定である。エンタルピーは、825kJ/kgから753kJ/kgまで減少する。この第1減圧工程の例(以下、第1減圧工程の例1ということがある)で、8.4分掛けて20MPaから13.7MPaまで減圧したとすると、減圧速度は0.75MPa/分(1分当たり平均で0.75MPaずつ減圧する)となる。なお、上記の条件は、あくまで一例(以下同様)である。
【0023】
上記の圧力となるような減圧を断熱膨張状態で行ったとすると、流体の温度は、150℃→147℃→144℃→141℃(密度、287kg/m3)→138℃→134℃→131℃(密度、241kg/m3)となる。断熱膨張では、急激に密度が低下するため、例えばフィルムに含浸した二酸化炭素が急激に体積膨張するため、フィルムが発泡してしまう。また、断熱膨張過程での温度変化を見ると、本発明の上記第1減圧工程よりも高温で推移していることがわかる。このため、特に、耐熱性の低い熱可塑性樹脂の成形体を被処理体とする場合、高圧処理後にも長時間高温に曝されることとなって性能劣化が否めないが、本発明法では、このような不具合がない。
【0024】
一方、熱交換器8を使用せず、ポンプ6と加熱器7で流体貯槽4から高圧流体をチャンバー10内の流体温度よりも低い温度で供給し、供給した高圧流体と同質量の高圧流体を圧力制御弁11から排出する方法によっても、チャンバー内の高圧流体質量を一定に保ちつつ、温度を低下させることができ、略等密度での第1減圧工程が行える。この場合、ポンプ6から供給した高圧流体質量よりも、圧力制御弁11から排出する高圧流体質量を若干多くし、チャンバー10内の高圧流体の温度を下げながら、高圧流体質量も若干減らすことにより、等密度よりも密度が低下する方向で減圧してもよい。ただし、断熱膨張で減圧する際の密度よりは高密度となるように、圧力制御弁11から排出される高圧流体の質量を制御することが重要である。
【0025】
上記のように、本発明の第1減圧工程は、厳密に等密度で行わなくてもよく、「略同等の密度」であればよい。「略同等の密度」の程度は、被処理体の樹脂の可塑性により異なり、低可塑性(硬い)樹脂の場合は、被処理体の性能が劣化しない程度に、断熱膨張時の密度よりも少し高ければよく、高可塑性樹脂の場合は、例えば、高圧処理最後の密度と等密度で減圧を行うか、その密度よりも概略10%程度、低密度にすることは許容される。
【0026】
第1減圧工程でどの程度まで減圧するかという目安については、高圧処理を超臨界状態で行っている場合は、流体の臨界圧力をPc(MPa)、臨界温度をTc(K)とすると、1.05Pc以上の圧力で、かつ、0.8Pc,1.1Tcのときのエンタルピー以下のエンタルピーとなる圧力までの範囲に減圧することが好ましい。二酸化炭素でいえば、Pcが7.4MPa、Tcが304Kであり、0.8Pc,1.1Tcのときのエンタルピーは787kJ/kgなので、第1減圧工程では、7.8MPa以上で、かつ、図2のモリエル線図における787kJ/kgのところから左側の領域に減圧するとよい。ただし、モリエル線図における気液平衡曲線の内側に入るまで減圧・降温してしまうと、気液二相共存領域となるため、避けなければならない。
【0027】
なお、減圧開始前の高圧流体が、0.8Pc、1.1Tcのときのエンタルピーよりも小さい場合、例えば、20MPa、80℃から第1減圧工程を行う場合は、このときの二酸化炭素の密度は595kg/m3であり、例えば、33℃、8MPaの二酸化炭素の密度も595kg/m3なので、高圧流体の温度を80℃→70℃→60℃→50℃→40℃→33℃と下げればよい。チャンバー内の高圧流体量は変わらないため、20MPaから8MPaまで減圧することができる。
【0028】
このように減圧開始前の高圧流体が、0.8Pc、1.1Tcのときのエンタルピーよりも小さい場合に、従来の断熱膨張による減圧工程を行うと、モリエル線図における気液平衡曲線を横切ることになるため減圧途中に液が発生したり、大気圧まで減圧したときの流体の理論温度が低いため、被処理体を取り出すときに結露する等の不具合が起こる。また、減圧の最終段階では二相共存領域における比較的高密度のガスを大気中に放出しなければならないため、流体の回収率が低くなる。しかし、本発明の高圧処理方法を採用すれば、これらの不都合を起こすことなく、減圧することができる。
【0029】
第1減圧工程の減圧速度は、0.5MPa/分以上、5MPa/分以下が好ましい。
【0030】
熱交換器8から排出される流体やチャンバー10内の流体の圧力は、それぞれに圧力計を付設して探知すればよく、熱交換器8から排出される流体やチャンバー10内の流体の温度は、温度計を付設して測定すればよい。
【0031】
続いて、第1減圧工程とは異なる条件で減圧する第2減圧工程以降の減圧工程を行う。第2減圧工程以降の減圧工程では、第1工程と同様にして、さらに温度を下げて略等密度での減圧を続けてもよく、密度を下げるように減圧してもよい。密度を下げるように減圧する場合は、具体的には、遮断弁18を閉め、圧力制御弁11を開け、チャンバー10内の高圧流体の一部を熱交換器(冷却器)12で冷却する。圧力制御弁11を通過した流体は減圧され、断熱膨張したガス状態となるが、熱交換器(冷却器)12で冷却した後、分離槽13へと導入し、不純物を除去した後、凝縮器3で凝縮され、4の流体貯槽へと送られる。これにより、高圧流体が回収されたこととなる。不純物は、弁14を開けることで排出され、回収される。なお、二酸化炭素の場合、回収に適した圧力は、6MPa程度(CO2飽和温度22℃)、40℃程度(CO2密度154kg/m3)である。
【0032】
第2減圧工程は、断熱膨張でも構わない。チャンバー10中の高圧流体の一部を取り出すこと(断熱膨張させること)により、減圧することができる。例えば、上記の第1減圧工程の例1に引き続いて第2減圧工程(第2減圧工程の例1)を行うとすると、第1減圧工程終了後の超臨界二酸化炭素は、90℃、13.7MPa、225kgであるので、これを130kgにまで減らすことにより、容器内の二酸化炭素は、7.4MPa、53℃となる。このときの二酸化炭素の密度は190kg/m3、エンタルピーは断熱膨張のため変わらず、753kJ/kgである。
【0033】
第2減圧工程においても、減圧速度は0.5MPa/分以上、5MPa/分以下が好ましい。第2減圧工程終了時の温度や圧力は第1減圧工程よりも下であれば特に限定されない。
【0034】
続いて、昇温工程および最終減圧工程を行う。昇温工程では第2減圧工程終了時の流体の加温を行う。加温を行うのは、最終減圧工程で減圧速度を一気に高めても、容器内が零度以下の低温にならないようにして、被処理体を容器外に取り出すときにその表面に結露するのを防止するためと、容器内温度を上げて流体の密度を下げ、容器内に残存する流体を減少させるためである。この意味で、昇温工程は最終減圧工程の直前の工程として行うことが好ましいが、それ以外の段階においても昇温工程を行っても構わない。加温の程度は特に限定されないが、チャンバー10内の温度が昇温工程直前の減圧工程よりも高く、高圧処理最終時の温度よりも低くなるように加温することが好ましい。
【0035】
加温するには、第2減圧工程終了時の流体の温度よりも高い温度の流体を、チャンバー10へ入れる方法が簡便である(チャンバー10自体を加熱してもよい)ので、液体貯槽4から、ポンプ6を用いて、加熱器7で加熱された流体をチャンバー10へと導入する。本発明法の最終目的は減圧することであるので、昇温工程でチャンバー10内の圧力が上昇しないようにするため、チャンバー導入量よりも排出量の方が多くなるように、流体の導入および排出を行うことが好ましい。このとき、第2減圧工程と同様に、遮断弁18は閉じたまま、圧力制御弁11は開放状態である。その後の高圧流体への操作も第2減圧工程と同様である。なお、排出量の方が多い場合、チャンバー10の内部は流体の排出によって減圧されて、温度が下がるため、この降下分を加味して、導入する加温流体の温度を決めることが好ましい。また、この昇温工程では、流体の加温が目的のため、チャンバー10への導入量よりも排出量を少なくして、チャンバー10内の流体を若干加圧しても構わない。
【0036】
具体的には、加圧流体を0.8Pc以上の圧力になるようにチャンバー10に供給し、チャンバー10内部の流体を、0.8Pc,1.05〜1.2Tcのエンタルピーの範囲となるように調整することが好ましい。二酸化炭素であれば、46℃〜92℃の温度範囲の高圧二酸化炭素を、チャンバー10内部が5.9MPa以上の圧力になるように導入することが好ましい。
【0037】
例えば、上記の第2減圧工程の例1に引き続いて昇温工程(昇温工程の例1)を行うとすると、第2減圧工程終了後の二酸化炭素は、7.4MPa、53℃となっている。また、このときの二酸化炭素の密度は190kg/m3、エンタルピーは753kJ/kgであり、内容量は130kgである。これを昇温工程で、チャンバー10の内温が80℃(1.16Tc)にまで上がるように100〜150℃程度に加温された高圧二酸化炭素を導入し、チャンバー10内の流体の一部を排出して内容量を93kgにすると、チャンバー10内の圧力は6.9MPa(0.93Pc)になる。この条件での高圧二酸化炭素の密度は、137kg/m3であり、エンタルピーは加温により増大して、803kJ/kgである。なお、昇温工程で同時に減圧を行う場合の減圧速度は、流体の加温に時間がかかるため、第1減圧工程よりも遅く、0.01MPa/分以上、0.5MPa/分以下とすることが好ましい。
【0038】
昇温工程終了時程度の圧力・温度条件になると、たとえ被処理体が熱可塑性樹脂成形体であっても、高圧処理時点に比べると、フィルムの膨潤度が低下すると共に、被処理体のガラス転移温度(Tg)が高くなっているため、このTgとチャンバー10の内温との温度差が低温側に大きくなり、可塑性が低下してくる。従って、被処理体は、急激な温度変化や、圧力変化にも堪えられるようになっている。従って、昇温工程終了後の最終減圧工程では、遮断弁9を閉じ、チャンバー10にさらなる高圧流体を入れることなく、断熱膨張によって、一気に大気圧(0MPa:ゲージ圧)まで減圧する。この際、高圧流体が二酸化炭素であれば、圧力制御弁11は閉め、圧力制御弁21を開放して、大気へ放出すればよい。また、図示しない圧縮機等を配設し、チャンバー10から排出される流体を圧縮し、熱交換器12を介して分離槽13へ導入して、回収してもよい。分離槽13で分離された不純物は、弁14から排出する。上記した昇温工程の例1に引き続き、断熱膨張による最終減圧工程を行うと、二酸化炭素の密度は4kg/m3となり、エンタルピーは803kJ/kgのままとなる。最終減圧工程では、これまでの減圧工程の減圧速度よりも速くすることができ、2MPa/分〜10MPa/分程度で減圧を行うことが好ましい。
【0039】
上記説明においては、第1減圧工程、第2減圧工程、昇温工程(昇温工程が同時に減圧を伴う場合は第3減圧工程となる)、最終減圧工程の4工程に別れた例を元に説明を行ったが、重要なのは、第1減圧工程の略等密度減圧と、最終減圧工程の一つ前工程における昇温工程と、最終減圧工程であり、第2減圧工程は必要により行えばよい。また、5以上の工程に分けて減圧を行っても構わない。
【0040】
チャンバー10内の流体の減圧を行っている間、チャンバー16を用いて高圧処理を並行して行うこともできる。この装置例では、循環ポンプ19はチャンバー10と16とで共通して用いているので、第2減圧工程が終了し、遮断弁9および18が閉じられた後であれば、チャンバー16での流通処理での高圧処理が可能である。
【0041】
また、チャンバー16においてバッチ式で高圧処理を行うのであれば、遮断弁18の開閉には関係なく高圧処理が行える。すなわち、加熱器7で加熱された高圧流体をポンプ6で加圧しながらチャンバー16へ導入して所定の圧力まで高めた段階で、遮断弁15,圧力制御弁17および遮断弁20を閉じることにより、バッチ式の高圧処理を行うことができる。
【0042】
流体貯槽4の中の流体が減ってきたら、液化流体貯槽1から、ポンプ2によって、凝縮器3へ流体を供給し、凝縮した流体を流体貯槽4へと追加導入すればよい。凝縮器3は、分離槽13から供給されるガス状態の高圧流体を凝縮し、液化するものであり、冷却器5は、ポンプ6でのガス化を防止するためのものである。
【0043】
なお、加熱器7を配設せずに、チャンバー10や16そのもの、またはその近傍に加熱手段を付設し、チャンバー10や16内で行われる各工程に適した温度にそれぞれ加熱する構成としてもよい。
【0044】
また、図1には、薬液貯槽、薬液供給手段、チャンバーまでの経路、あるいは経路中の弁等を省略したが、本発明を実施するための高圧処理装置がこれらを備えている場合もあることはいうまでもない。また、薬液を直接、開放状態のチャンバーに入れる場合は、これらの手段・装置を備えていなくてもよい。その他、この分野において、高圧処理が可能な装置に対して通常配設される公知の装置や手段の付加(例えば、チャンバー10に被処理体を装入・取り出すためのロボット装置等)は、本発明の範囲内とする。
【0045】
次に高圧処理の対象および高圧処理の具体例について説明する。本発明の高圧処理方法における高圧処理とは、樹脂成形体等の被処理体に機能性物質を付与する処理、あるいは汚染物質が付着している被処理体から汚染物質を剥離・除去する洗浄処理が代表例として挙げられる。前記した発泡を抑制するという課題からは、被処理体は樹脂成形体に限られるが、効率的な減圧方法を見出し、また、高圧流体の回収率を上げる、という課題からは、被処理体は樹脂成形体に限られず、金属、セラミック、例えば、半導体ウエハ等の無機系の被処理体であってもよい。
【0046】
樹脂成形体としては、プラスチック(公知の各種樹脂)の他、ゴム、熱可塑性エラストマーが用いられる。その形態は、各種形状をした成形品そのままの形状(例えば、フィルム状、板状、容器状など)等の他、不織布状、織編物状、繊維状、粉末・粒子状等、一定形状を有するものであればいずれも利用可能である。例えば、平面状であってもよいし、線状であってもよい。平面状の例としては、厚みが比較的小さいフィルム状、不織布状、織編物状や、厚みが比較的大きいシート状、板状が挙げられる。また、フィルム状の被処理物をロール状に巻き取ったものでもよい。線状の例としては、繊維状や糸状が挙げられる。また、成形方法、紡糸方法、粒状化方法も特に限定されない。
【0047】
プラスチックとしては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、ポリスチレン、ABS等のスチレン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂等のハロゲン含有樹脂等の汎用熱可塑性樹脂;液晶ポリマー等の特殊樹脂;ポリアセタール、ポリカーボネート、脂肪族または芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル等のエンジニアリングプラスチック等が使用可能である。また、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、オリゴアクリレート等の成形材料として公知の硬化性樹脂の硬化体を用いることもできる。
【0048】
ゴムとしては、例えば、天然ゴムやSBR、NBR、EPM、EPDM等の合成ゴムが挙げられる。熱可塑性エラストマーとしては、SEPS等のスチレン系エラストマーの他、オレフィン系、ポリエステル系、ウレタン系等公知の熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0049】
無機系の被処理体としては、例えば、セラミックやシリコン、金属[例えば、鉄や鋼(特に、ステンレス鋼)、亜鉛、アルミニウム等]等が挙げられる。
【0050】
上記被処理体の厚みについても特に限定されないが、例えば、電磁波シールド用銅張フィルムを製造するには、被処理体の厚みを0.02〜2mm程度とすればよい。
【0051】
本発明の高圧処理方法を実施する際に用いられる高圧流体としては、安全性、価格、超臨界状態にすることの容易性、といった点で、二酸化炭素が好適であるが、この他、水、アンモニア、亜酸化窒素、エタノール等も使用可能である。高圧流体を用いるのは、拡散係数が大きく、樹脂成形体等の被処理体表面に滲入することができるためである。超臨界流体は、気体と液体の中間の性質を有するものであり、高密度であるため、気体に比べて遙かに大量の表面改質用薬液を含むことができる。
【0052】
高圧処理によって表面改質を行う場合、高圧流体に表面改質用薬液を混合して処理を行う。表面改質用薬液としては、MMA等の易重合性モノマー、染料、フッ素化剤、疎水化剤、親水化剤、紫外線吸収剤、柔軟剤、めっき用薬剤、無電解めっき用触媒等の各種改質剤が挙げられる。これらは、高圧流体に溶解させ易くするために、低級アルコール類[例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等]に溶解させて用いることが好ましい。例えば、無電解めっき用の銅めっき液とIPAとを体積比で1対1で混合液等が使用可能である。
【0053】
上記無電解めっき用触媒としては、Ni、Cu、Cr、Pt、Au、Ag、Pd、Fe等を1種以上を含む有機金属錯体が好ましい。有機金属錯体としては、パラジウムアセチルアセトナート、パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナート、ジベンゼンクロム、ニッケロセン(ビスシクロペンタジエニルニッケル)、C1018Pt等が挙げられる。これらの触媒を用いた場合には、高圧流体の作用により被処理体の表面層にこれらの触媒が付着・含浸された状態となる。
【0054】
また、表面改質用薬液による高圧処理の前に、被処理体の表面改質を促進するための下処理を行ってもよい。被処理物を表面改質する前に、下処理することで、表面改質を促進でき、表面改質の仕上がりを良好なものとすることができる。また、下処理することによって、被処理体と表面改質層との密着性が高くなり、被処理体の表面から表面改質層が剥離するのを防止できる。なお、下処理の後は、高圧流体で被処理体を洗浄することが好ましい。
【0055】
下処理剤は、上述した表面改質用薬液であってもよいし、表面改質用薬液による表面改質を促進するものであってもよい。下処理剤の形状は特に限定されず、粉末状であってもよいし、液体状であってもよいが、好ましくは、液体状である。下処理剤としては、例えば、モノマーに対するラジカル重合開始剤等を用いることができる。
【0056】
本発明の高圧処理方法を適用すれば、次に例示する表面改質品を製造することができる。
【0057】
(例1)被処理体として、ポリイミド板や液晶ポリマー板を用い、表面改質用薬液として銅めっき用触媒であるパラジウム錯体(例えば、パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナート)等を用いれば、その後の処理で無電解用銅めっきを行うことで、フレキシブルCu張積層板を製造することができる。
【0058】
(例2)被処理体として、ポリエチレンフィルムや、ポリエチレンテレフタレートフィルムを用い、表面改質用薬液として銅めっき用触媒であるパラジウム錯体(例えば、パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナート)等を用いれば、その後の処理で無電解用銅めっきを行うことで、電磁波シールド用Cu張フィルムを製造することができる。
【0059】
なお、フィルム表面に、銅めっきを施して得られた電磁波シールド用銅張フィルムを、フォトエッチングして銅を網目状(例えば、ピッチが300μm、線幅が10μm)に残し、この表面に透明樹脂を塗布すれば、電磁波シールド材を製造できる。
【0060】
(例3)被処理体として、EPDMゴムを用い、表面改質液として耐油性や接着性付与剤(例えば、MMA等)を用いれば、EPDMゴムの表面にMMAが含浸し、これを重合することで、EPDM/PMMA複合体となり、耐油性や接着性を付与することができる。このとき下処理剤としては、例えば、重合開始剤(例えば、アゾビスイソブチロニトリル等)を用いることができる。
【実施例】
【0061】
以下実施例によって本発明をさらに詳述するが、下記実施例は本発明を制限するものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施することは全て本発明に包含される。
【0062】
実施例1
ポリエチレンフィルムにパラジウム錯体を含浸させるために、超臨界CO2による高圧処理を行った。ポリエチレンフィルムは、0.3mm厚で、巾1.25m、長さ500mであり、これを0.3mmの隙間を空けてロール状に巻回したもの2本を被処理体とした。フィルム容積はCO2が15質量%含浸した状態で、187.5リットル/本となる。
【0063】
図1に示した装置を用い、予め150℃に加温したポリエチレンフィルムロール2本とPd(hfa)2(パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナート)700gとを、容量1m3のチャンバー10に入れた後、チャンバー10を密封した。流体貯槽4に貯えられたCO2をポンプ6を用いて、加熱器7で150℃に加熱しながら、チャンバー10に、682リットル(225kg)導入した。圧力制御弁11はチャンバー10内の圧力を維持するために閉まっており、遮断弁9と18を開けた状態で循環ポンプ19を用いてCO2を循環させることにより、チャンバー10の内部およびその周辺の配管部を、150℃、20MPaとした。チャンバー10内のPd(hfa)2は超臨界CO2に溶解し、ポリエチレンフィルムに超臨界CO2と共にPd(hfa)2を含浸させた。60分、この高圧処理を行った。
【0064】
その後、第1減圧工程を行った。超臨界CO2を循環させながら、熱交換器8の出口温度を150℃→140℃→131℃→121℃→112℃→102℃→93℃→90℃と下げていった。圧力は20MPa→19MPa→18MPa→17MPa→16MPa→15MPa→14MPa→13.7MPaと減少した。チャンバー10内のCO2量は225kg、密度は330kg/m3と一定であった。エンタルピーは、825kJ/kgから753kJ/kgまで減少した。この第1減圧工程は、8.4分掛けたので、減圧速度は0.75MPa/分であった。図2のモリエル線図上、150℃、20MPaのポイントから、左下側に斜めに下がる実線が実施例1の第1減圧工程である。
【0065】
続いて、第2減圧工程を行った。第2減圧工程では、チャンバー10中のCO2を225kgから130kgにまで減らす断熱膨張によって減圧を行った。チャンバー10から排出されたCO2は、圧力制御弁11を通過した後、熱交換器(冷却器)12、分離槽13、凝縮器3、流体貯槽4から構成される回収系で回収された。チャンバー10内のCO2は、7.4MPa、53℃となった。このときのCO2の密度は190kg/m3、エンタルピーは断熱膨張のため変わらず753kJ/kgであった。この第2減圧工程での減圧速度は0.75MPa/分であった。図2のモリエル線図上、150℃、20MPaのポイントから左下側に斜めに下がる実線に続いて真下に下がる実線部分が実施例1の第2減圧工程である。
【0066】
次に昇温工程(第3減圧工程)を行った。第3減圧工程では、チャンバー10の内温が80℃(1.16Tc)にまで上がるように150℃程度に加温されたCO2を導入しながら、チャンバー10内のCO2を排出して内容量を93kgにした。遮断弁9と圧力制御弁11が開放状態、遮断弁18は閉じたままである。チャンバー10内のCO2の圧力は6.9MPa(0.93Pc)になった。チャンバー10から排出されたCO2は、圧力制御弁11を通過した後、熱交換器(冷却器)12、分離槽13、凝縮器3、流体貯槽4から構成される回収系で回収された。チャンバー10内の高圧CO2の密度は137kg/m3であり、エンタルピーは加温により増大して803kJ/kgとなった。また、第3減圧工程での減圧速度は0.15MPa/分であった。図2のモリエル線図上、真下に下がる実線部分から、右方向へ若干下がりながら伸びる実線が実施例1の第3減圧工程である。
【0067】
続いて、最終減圧工程を行った。遮断弁9を閉じ、チャンバー10にさらなるCO2を高圧流体を入れることなく、圧力制御弁21を開放し、断熱膨張によって一気に大気圧(0MPa:ゲージ圧)まで減圧した。圧力制御弁21を通過した流体は断熱膨張によってガス状態となり、大気中に放出された。二酸化炭素の密度は4kg/m3となり、エンタルピーは803kJ/kgである。図2のモリエル線図上、右方向へ若干下がりながら伸びる実線に続いて、真下に伸びる実線が実施例1の最終減圧工程である。
【0068】
第1〜最終減圧工程のトータルの所要時間は、約22分と非常に短時間であった。表1に各減圧工程の条件をまとめた。括弧内は、二酸化炭素の臨界圧力Pcおよび臨界温度Tcに対する圧力(MPa)と温度(K)を表している。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例2
実施例1と同じ高圧処理を行った。実施例2の第1減圧工程では、チャンバー10内の圧力が8MPaに達するまで、チャンバー10に循環させる超臨界CO2の温度を次第に下げながら、実施例1よりも長く等密度での第1減圧工程を行った。第1減圧工程終了時のCO2の温度は39℃、エンタルピーは691kJ/kgであった。図2のモリエル線図上、実施例1の第1減圧工程を表す左斜め下がりの実線と、この実線に続く長めの点線が、実施例2の第1減圧工程である。
【0071】
続いて、昇温工程(第2減圧工程となる)を行った(実施例1の第3減圧工程に相当する)。加温されたCO2をチャンバー10に導入しながら、CO2の排出を行い、チャンバー10内のCO2を93kgまで減らした。CO2の密度は137kg/m3、エンタルピーは803kJ/kgであった。図2のモリエル線図上、実施例2の第1減圧工程の実線から、右方向に若干下がり気味に伸びる長めの点線と実施例1の第3減圧工程の実線とが、実施例2の第2減圧工程である。
【0072】
次に、実施例1と同様にして、断熱膨張による最終減圧工程を行った。実施例1と同様の結果となった。表2に、実施例2の各減圧工程の条件をまとめた。
【0073】
【表2】

【0074】
実施例3
実施例3では、処理温度を80℃にした以外は実施例1と同様の高圧処理を行った。高圧処理直後(減圧開始前)のCO2の密度は595kg/m3、チャンバー10内のCO2の量は406kg、エンタルピーは679kJ/kgであった。
【0075】
第1減圧工程では、等密度を維持したまま、CO2を33℃まで降温し、8MPaまで減圧した。CO2のエンタルピーは617kJ/kgとなった。図2のモリエル線図上、左斜め下がりの一点鎖線が実施例3の第1減圧工程である。
【0076】
続いて、昇温工程(第2減圧工程となる)を行った(実施例1の第3減圧工程に相当する)。加温されたCO2をチャンバー10に導入しながら、CO2の排出を行い、チャンバー10内のCO2を93kgまで減らした。CO2の密度は137kg/m3、エンタルピーは803kJ/kgであった。図2のモリエル線図上、実施例3の第1減圧工程の一点鎖線から、右方向に若干下がり気味に伸びる一点鎖線と実施例1の第3減圧工程の実線とが、実施例3の第2減圧工程である。
【0077】
次に、実施例1と同様にして、断熱膨張による最終減圧工程を行った。実施例1と同様の結果となった。表3に、実施例3の各減圧工程の条件をまとめた。
【0078】
【表3】

【0079】
比較例1
実施例1と同様に高圧処理を行った。その後、遮断弁9を閉じ、圧力制御弁11を開けて、断熱膨張による減圧工程を行った。20MPa、150℃(240kg/m3)から、6.9MPaまでの減圧である。13.7MPaまで減圧したときのCO2の温度は130℃と高かった。密度は240kg/m3であった。エンタルピーは不変である。また、7.4MPaまで減圧したときのCO2の温度は99℃、密度は131kg/m3であり、6.9MPaまで減圧したときのCO2の温度は97℃、密度は124kg/m3であった。続いて、圧力制御弁11を閉じ、圧力制御弁21を開けて、CO2を大気中に排出し、減圧工程を終了した。
【0080】
図2のモリエル線図上、比較例1の減圧工程は、20MPa、825kJ/kgの点から真下に伸びる長めの点線である。
【0081】
比較例2
実施例3と同様に高圧処理を行った後、断熱膨張による減圧工程を行う。この比較例2の減圧工程は図2には記載していないが、実施例3を示す線の起点から真下に伸びる線である。従って、気液平衡曲線を横切ることになる。チャンバー10内が気液平衡曲線を横切ったとき、チャンバー10内に液が発生し、高圧流体の液とガスとの二相状態となり、気液平衡曲線の液側とガス側に沿って、圧力が減少する。
【0082】
実際に実施例3と同様の高圧処理を行った後、断熱膨張による減圧工程を行ったところ、チャンバー10内を6.9MPaまで減圧したときのCO2の温度は28℃で、密度は、液が617kg/m3であり、ガスが323kg/m3であった。続いて、圧力制御弁11を閉じ、圧力制御弁21を開けて、CO2を大気中に排出し、減圧工程を終了した。チャンバー10内部は、局部的に零度以下となる部分があった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、樹脂成形体等の被処理体に機能性物質を付与する処理、あるいは汚染物質が付着している被処理体から汚染物質を剥離・除去する洗浄処理等に適している。
【符号の説明】
【0084】
1 液化流体貯槽
2 液化流体用ポンプ
3 凝縮器
4 流体貯槽
5 冷却器
6 ポンプ
7 加熱器
8 熱交換器
9,15,18,20 遮断弁
11,17,21 圧力制御弁
12 熱交換器(冷却器)
13 分離槽
14 弁
19 循環ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧処理チャンバー内で、被処理体と高圧流体とを接触させることで被処理体の高圧処理を行った後、大気圧まで減圧するための高圧処理方法であって、複数の減圧工程を含み、高圧処理直後の第1減圧工程では、上記チャンバー内の高圧流体の密度を略同等に維持しつつ減圧することを特徴とする高圧処理方法。
【請求項2】
大気圧まで減圧するための最終減圧工程での減圧速度(MPa/分)が、上記第1減圧工程での減圧速度(MPa/分)よりも大きいものである請求項1に記載の高圧処理方法。
【請求項3】
上記第1減圧工程と上記最終減圧工程との間に、高圧流体を直前の減圧工程での処理温度よりも高い温度に加温する昇温工程を含む請求項1または2に記載の高圧処理方法。
【請求項4】
上記第1減圧工程と上記最終減圧工程との間に行われる減圧工程において、断熱膨張条件下での減圧を行う請求項1〜3のいずれかに記載の高圧処理方法。
【請求項5】
高圧流体が、超臨界または亜臨界状態の二酸化炭素である請求項1〜4のいずれかに記載の高圧処理方法。
【請求項6】
被処理体が樹脂成形品である請求項5に記載の高圧処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法で処理されたことを特徴とする樹脂成形品。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の高圧処理方法を実施するための高圧処理装置であって、少なくとも、高圧流体供給手段と、高圧処理チャンバーと、熱交換器とを備えることを特徴とする高圧処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−174071(P2010−174071A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15694(P2009−15694)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】