説明

高圧力を利用したリポソームの粒子径制御方法

【課題】目的の粒子径を有するリポソームの調製法の提供。
【解決手段】膜融合化脂質を含有した混合脂質二分子膜を水溶液中に分散し、この分散液を加圧することで脂質二分子膜間の膜融合を促進させて粒子径を制御することを特徴とするリポソーム調製方法。従来の方法では正確にある特定の粒子径を持つリポソームを得ることは難しく、特に小さい粒子径のリポソームを除去するのが困難であった。あらかじめ調製された不飽和脂質により構成されるリポソーム水溶液に、高圧力を長時間作用させることにより、リポソーム融合を促進させて粒子径制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の粒子径を有する脂質二分子膜集合体(リポソーム)の調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質分子を水中に分散させると自発的に自己会合し、リポソームと呼ばれる閉鎖型の二分子膜小胞体を形成する。リポソームはその粒子径により、小さな一枚膜リポソーム(SUV:10 nm 〜 100 nm)、大きな一枚膜リポソーム(LUV:50 〜 200 nm)、多重層リポソーム(MLV:100 〜 1000 nm)、巨大一枚膜リポソーム(GUV:> 1000 nm)に分類することができる。これらリポソームは医薬品や化粧品を生体内に輸送する担体として注目されている。薬剤はリポソーム内の水相あるいは脂質二分子膜中で保持される。
【0003】
リポソームを調製する方法は数多く存在し、代表的なものは静置水和法、超音波照射法、溶媒置換法、逆相蒸発法、電場形成法である。
【0004】
均一なサイズ分布を有するリポソームを調製する方法として、超音波照射法と細孔膜からの押し出し法が主に行われてきた。前者はリポソームに超音波を照射することにより、より小さな粒子へ破砕する方法であり、後者は特定のサイズの細孔膜にリポソームを通すことによりサイズを均一化する方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、超音波処理法ではその出力と照射時間を制御しても正確にある特定の粒子径を持つリポソームを得ることは難しく、押し出し法では膜目のサイズ以下の粒子径のリポソームは必ず存在するので、狭い分布を持つリポソームを得ることは難しいという欠点を有している。
【0006】
従って、本発明は上記の問題点を解決するものであり、特定の粒子径を有するリポソームの調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明のリポソーム調製法は膜融合化脂質である不飽和脂質と高圧力を用いることを特徴とする。
【0008】
すなわち、あらかじめ超音波処理法で調製されたリポソームに高圧力を作用させることにより、リポソーム(SUVおよびGUV)同士の融合が促進されてリポソームの粒子径が増大する現象を利用する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は小さなリポソームを大きなものへ変化させるため、従来の手法の課題であった小さなリポソームの除去が可能となる。同時に有機溶媒等の化学物質が最終調製されたリポソーム溶液には残らないため、生体で使用する上での安全性が高い。
【0010】
また、圧力の強度および加圧時間を調整することによりリポソーム融合の頻度を変えられるので、目的のサイズに即した調製が可能となる。
【0011】
本発明の手法、特徴および効果は以下の説明と図表により理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】不飽和リン脂質であるジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)およびジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)の分子構造を示す。
【0013】
【図2】(A)塩化ランタンを含む水溶液中での加圧によるGUV成長の様子を捉えた顕微鏡写真を示す(25°C):(左)0時間、100MPa、(右)72時間、100MPa(黒線は100 mm)。(B)塩化ランタンを含む水溶液中でのGUVの加圧成長への処理圧力の影響を示す:各圧力下におけるR/R0((R0)加圧前の粒子径、(R)加圧後の粒子径)を加圧時間に対してプロットする。
【0014】
【図3】高圧力下におけるGUVの球形成長過程の顕微鏡写真と膜融合の模式図を示す。
【0015】
【図4】実験に使用したリポソームの粒子径を示す:(A)散乱光強度平均分布、(B)数平均分布。
【0016】
【図5】(A)SUVに対する圧力の効果(25°C):各圧力下におけるR/R0を加圧時間に対してプロットする。(B)膜融合による溶液状態の変化を示す(25°C、400 MPa、24時間):(左)加圧処理前、(右)加圧処理後。
【0017】
【図6】圧力解放後の粒子径の変化(25°C、24時間加圧):(A)200 MPaおよび(B)400 MPaにおけるR/R0を加圧時間に対してプロットする。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の手法を用いて、GUVおよびSUVリポソームに対して粒子径制御を行った実施例1および2を記載する。
【0019】
実施例1において使用したGUVを構成する膜融合化脂質としてはジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)およびジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)を用いた。図1にDOPEおよびDOPCそれぞれの分子構造を示す。DOPEおよびDOPCを等モルずつクロロホルム中に溶解し、アスピレーターを用いて減圧乾燥させ、フィルム状の乾燥物をナス型フラスコの内側に付着させた。次に真空ポンプを用いてそのまま約2時間減圧乾燥後に、膜融合の促進剤として報告されている添加塩(塩化ランタン:LaCl3)を10
m mol/ kg含む水溶液を用いて最終脂質濃度が添加塩と等モルとなるように添加し、無外部摂動の調製方法である静置水和法にてDOPE-DOPC混合二分子膜のGUVを調製した。
【0020】
実施例1ではGUVリポソームの粒子径制御に関して記載する。常圧および加圧下、25°C、GUVの形状変化を時間の関数として顕微鏡下でその場観察した。常圧下において、10 mm程のGUVの形状を72時間観測したが全く変化がなかった。一方、100 MPaの加圧下において同様にGUVの形状を72時間観測したところ、当初10 mm程度であったGUVが時間の経過と共に徐々に成長し、72時間後にはほぼ球形で150 mmを超えるGUVに成長するのを見出した。図2(A)にその結果を示す。また、72時間経過後に減圧したところ、巨大リポソームに縮小等のサイズ変化は見られず、成長した形態をそのまま維持したことから、この成長現象は可逆的ではなく不可逆的なものであることがわかった。
【0021】
続いて、顕微鏡下において観測したGUVリポソームの加圧前の平均粒子径(R0)に対して加圧して24時間放置後の平均粒子径(R)の比(R/R0)を処理圧力に対してプロットしたものを図2(B)に示す。R/R0値は処理圧力に伴い増大していることから、このGUVの不可逆的成長は加圧に相関していることが明らかとなった。加圧によるGUVの球形成長過程を捉えた顕微鏡写真と対応する膜融合の模式図を図3に挙げる。
【0022】
実施例2において使用したSUVを構成する膜融合化脂質は実施例1と同様のDOPEおよびDOPCを用いた。添加塩を含まない水溶液中で実施例1と同様の方法でGUVを終濃度10
m mol/ kg1となるように調製した。そしてSUVにするために超音波照射(50 °C、5分)を行い、あらかじめ一定の初期粒子径(散乱強度および数平均粒子径約50 nm)に調製した。図4に実験に使用したリポソームの光散乱測定の一例を示す。調製したリポソームの散乱強度粒子径分布には約50 nmと300 nmに2つのピークが現れているが、数平均粒子径分布では約50 nmの一つのピークである。これは大きな粒子は光散乱が大きくなるために、調製したリポソームは数ではほぼ圧倒的に50 nmであるが、僅かに大きな300 nmの粒子が混在していることを意味する。以下では主として大多数の集団である50 nmの分布に焦点を当てる。
【0023】
図5(A)に各圧力下において得られたR/R0値を加圧時間に対してプロットした。ここでR値は各圧力下、所定時間加圧修了後、直ちに減圧して光散乱光度計で測定して得られた値である。24時間経過後、300 MPaまでの加圧下においてはR/R0値にほとんど変化は見られなかったが、400 MPaにおいて急激なR/R0値の増加を観測した。この変化は目視でも明確に確認することができた(図5(B))。以上の結果より、GUVだけでなくSUVに関しても圧力膜融合法により粒子径の増大を引き起こすことができることを確認した。
【0024】
さらに、上記の変化の不可逆性を確認するために圧力解放後の粒子径の変化を追跡した。図6に200 MPaおよび400
MPaの加圧直後に減圧した粒子径(R0,AP)に対して一定の放置時間経過後のRの比をプロットした。400
MPaにおいて減圧後5時間までにおいて若干の粒子径増加が見られたが、その後はほぼ一定値に落ち着いたことから、SUVにおける粒子径成長もGUVと同様に不可逆であることが確認された。
【0025】
本発明により調製されたSUVおよびGUVリポソームを用いることにより医療ならびに化粧品業界の必須技術である薬剤送達系(DDS)の効率化が期待できる。特に抗がん剤の輸送担体としてのリポソームには最適サイズがあり約100 〜 150 nmと報告されている。本発明のSUVリポソームを用いることにより抗がん剤の高効率な機能発現につながるであろう。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜融合化脂質を含有した混合脂質二分子膜を水溶液中に分散し、この分散液を加圧することで脂質二分子膜間の膜融合を促進させて粒子径を制御することを特徴とするリポソーム調製方法。
【請求項2】
膜融合化脂質が不飽和鎖を有するリン脂質ホスファチジルエタノールアミンである請求項1に記載のリポソーム調製方法。
【請求項3】
水溶液が純水および膜融合促進添加塩として2価以上の陽イオンを含む塩化物塩水溶液である請求項1に記載のリポソーム調製方法。
【請求項4】
調製するリポソームの初期粒子径が小さなもの(SUV)から大きなもの(GUV)に至るまでのリポソームである請求項1に記載のリポソーム調製方法。
【請求項5】
調製されたリポソームの粒子径が小さなもの(SUV)から大きなもの(GUV)に至るまでのリポソームである請求項1に記載のリポソーム調製方法。
【請求項6】
粒子径の制御を加圧強度と加圧時間を調節することにより行う請求項1に記載のリポソーム調製方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−158576(P2012−158576A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21310(P2011−21310)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(711001077)
【Fターム(参考)】