説明

高圧噴射攪拌工法

【課題】設備の小型化や低コスト化を図りながら、より大きな外径の地盤改良体を造成することができる高圧噴射攪拌工法を提供すること。
【解決手段】地盤に貫入したロッド12の噴射口13から、空気を含む高圧流体ジェット20を噴射して地盤Gを切削しつつ攪拌する工程と、ロッド12を上昇させる工程とを行うことで地盤改良体10を形成する高圧噴射攪拌工法において、高圧流体ジェット20の噴射方向を、水平面に対して斜め上向きに噴射させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧の水や硬化材及び空気を地盤に噴射して地盤を切削し、硬化材の充填や攪拌を行うことにより、地盤改良体を造成する高圧噴射攪拌工法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の大規模な都市開発・再開発等に伴い、耐震性、液状化、大深度など、条件の難しい工事を克服しながら構造物を構築するために、地盤改良工事の重要性はますます増大している。
【0003】
従来、高圧噴射攪拌工法として、超高圧水と圧縮空気の回転噴射によって切削した空洞に硬化材溶液を充填して地盤中に円柱状又は非円柱状の地盤改良体を造成する方法が知られている。
【0004】
さらに、この高圧噴射攪拌工法として、特許文献1に記載のように、多重管ロッドの先端から、超高圧で硬化材液と圧縮空気を同時に回転、噴射して地盤中に円柱状又は非円柱状の地盤改良体を造成する方法も広く知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11―50443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような従来の高圧噴射攪拌工法においては、高圧水に空気を沿わせることで、高圧水のみを噴射する場合よりも、高圧流体ジェット(噴流)の到達距離を長くでき、その分、大きな径の地盤改良体を造成することができる。また、設備も比較的小型で低騒音(無騒音)施工できる利点もある。
【0007】
しかしながら、従来の高圧噴射攪拌工法においては、高圧流体ジェットの噴射方向が水平となり、水中での切削となるため高圧流体ジェットの減衰が大きく、それ以上の大きな径の地盤改良体を造成することには限界があった。例えば、地盤改良径は最大でも5m程度であった。
【0008】
ここで、径の大きい地盤改良体を造成するには、高圧流体ジェットの噴射圧力や噴射量、噴射時間等をさらに増大させることも考えられる。しかし、この場合には、設備の大型化やコスト増大等の問題が生じるため、得策ではない。
【0009】
よって、本発明の課題は、従来と同様に設備の小型化や低コスト化を図りながら、より大きな外径の地盤改良体を造成することができる高圧噴射攪拌工法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決するため、本発明は、硬化材を使用した地盤改良体を造成する際に、地盤に貫入したロッドの噴射口から空気を含む高圧流体ジェットを噴射する工程と、前記ロッドを上昇させる工程とを行う高圧噴射攪拌工法において、前記高圧流体ジェットの噴射方向を、水平面に対して斜め上向きに噴射させることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、空気を含む高圧流体ジェットを斜め上向きに噴射することにより、その高圧流体ジェットによる地盤切削空間の上部にエア溜り(空気溜り)を作り出し、エア溜りによってできた空間(気中)に高圧流体ジェットを噴射することで、高圧流体ジェットを水平方向へ噴射する従来の水中切削に比べて高圧流体ジェット(噴流)の減衰を小さくし、噴流到達距離を長くすることができる。これにより、従来よりも大きな改良体を造成することが可能になる。
【0012】
本発明においては、前記高圧流体ジェットにより、噴射口より上部の地盤を切削して噴射口より上部にエア溜りを形成し、次いでロッドを上昇させて、前記切削部分に取り込まれるエア溜りのエアと、高圧流体に含まれるエアとによってできる切削部分のエア溜りに、高圧流体ジェットを噴射することが望ましい。
【0013】
このように施工することで、高圧流体ジェットを、エア溜りによってできた気中に、より効率的に噴射させることができる。
【0014】
本発明においては、前記ロッドを上昇させる工程の終段において、前記高圧流体ジェットの噴射圧力を徐々に低くする工程と、噴射流量を徐々に少なくする工程と、噴射時間を徐々に短くする工程の少なくとも一つを行うことが望ましい。
【0015】
このように、ロッドを上昇させる工程の終段において、高圧流体ジェットの噴射圧力を徐々に低くする工程と、噴射流量を徐々に少なくする工程と、噴射時間を徐々に短くする工程の少なくとも一つを行うことで、造成される地盤改良体上部のエア溜りを徐々になくすことができる。これにより、造成後に地盤改良体上部に形成される空隙を無くすことができる。
【0016】
本発明は、高圧流体ジェットの噴射方向を、水平面に対して斜め上向きに噴射させるので、前記高圧流体ジェットが硬化材を含む場合や、前記噴射口とは別の噴射口から前記硬化材を噴射する高圧噴射攪拌工法に対しても積極的に適用することができる。また、本発明は、高圧水のみを噴射する一相流方式以外であれば、高圧水とエアを噴射する二相流方式以上の工法において広く適用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高圧流体ジェットの噴射方向を、水平面に対して斜め上向きに噴射させることで、従来と同様に設備の小型化や低コスト化を図りながら、より大きな地盤改良体を造成可能な高圧噴射攪拌工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る高圧噴射攪拌工法を示す概略説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係る高圧噴射攪拌工法を示す概略工程図である。
【図3】本発明の実施形態に係る高圧噴射攪拌工法を示す概略工程図である。
【図4】本発明の実施形態に係る高圧噴射攪拌工法を示す概略工程図である。
【図5】本発明の実施形態に係る高圧噴射攪拌工法を示す概略工程図である。
【図6】本発明の実施形態に係る高圧噴射攪拌工法を示す作用説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0020】
図1は、本実施形態に係る高圧噴射攪拌工法を概略的に示した説明図、図2〜図5はその工程図、図6は作用説明図であり、それぞれを全体として縦断面で示している。これらの図において、10は地盤改良体であり、12はロッド、13は噴射口、15造成装置である。
【0021】
本実施形態に係る高圧噴射攪拌工法は、地盤Gに貫入したロッド12の噴射口13から、空気を含む高圧流体ジェット20を噴射して地盤Gを切削し攪拌する工程と、ロッド12を上昇させる工程とを行うことで地盤改良体10を造成する際に、高圧流体ジェット20の噴射方向を、水平面に対して斜め上向きに噴射させる工程を行う。次いで、これらの詳細について説明する。
【0022】
地上には、地盤改良体10造成を行う造成装置15が設置されている。造成装置15は、本体部16と、その本体部16に支持されたロッド12とを備えている。ロッド12は鉛直方向に伸びる多重管または多孔管構造であって、鉛直方向に移動可能に、かつその鉛直方向を軸として回転可能な状態で支持されている。ロッド12の先端部の側面には噴射口13が形成され、この噴射口13から、空気を沿わせた高圧流体ジェット20が水平面に対して斜め上向きに高圧噴射されるようになっている。
【0023】
ロッド12は、本実施形態では多重管または多孔管構造となっている。即ち、このロッド12を備える造成装置15は、セメントミルク等の液状の硬化材と圧縮空気を同時に回転、噴射して円柱状や非円柱状の固結体となる地盤改良体10を造成可能な、いわゆる多重管ロッドおよび多孔管ロッドを備えている。
【0024】
ここで、高圧流体ジェット20の水平面に対する噴射角度θとしては、3度〜30度の範囲に設定される。好ましくは5度から15度の範囲である。3度以下の場合には、噴射角度θが小さすぎるため、高圧流体ジェット20が水中を通る距離が長くなり、その分、エア溜り内を通る距離が短くなりすぎるからである。噴射角度θが30度以上の場合には、上向き角度が大きくなりすぎて、その分、高圧流体ジェット20の到達距離が短くなるからである。
【0025】
次に、図2〜図5の工程図及び図6の作用説明図を参照して、本実施形態の高圧噴射攪拌工法例について説明する。図2に示すように、造成装置15により、ロッド12を回転駆動して地盤Gを削孔し、所定の深度まで貫入させる。なお、ロッド12は、その下端位置が標準的には10〜20m程度、最大では100m程度の深度に達するまで下降させることが可能である。
【0026】
ロッド12が目的とする所定の深度に達したら、次に、図3に示すように、ロッド12の噴射口13から、水平面に対して、斜め上向きに高圧流体ジェット20を噴射させる。その際、ロッド12を回転させて、セメントミルク等の硬化材液と圧縮空気を同時に回転、噴射させながら、図4に示すように、ロッド12を次第に引き上げることにより地盤改良体10を順次造成していく。
【0027】
高圧流体ジェット20はその噴流エネルギーでロッド12の周囲の地盤を切削し、切削された地盤と硬化材液とが攪拌混合される。これにより、ロッド12を引き上げた位置までの間に地盤改良体10が造成されるが、本実施形態による地盤改良体10は、従来工法の改良径(直径2〜5m)に比べて、その1.2倍から2.0倍程度の改良径を有したものを得ることが可能になる。
【0028】
その理由として、図4に示すように、空気を含む高圧流体ジェット20を、噴射角度θだけ上向きに噴射することにより、その高圧流体ジェット20による地盤切削空間の上部にエア溜り(空気溜り)18を作り出し、エア溜り18によってできた空間(気中)に高圧流体ジェット20を噴射することで、高圧流体ジェット20を水平方向へ噴射する従来の水中切削に比べて高圧流体ジェット(噴流)20の減衰を小さくし、噴流到達距離を長くすることができるからである。これにより、従来よりも大きな外径の地盤改良体10を造成することができる。
【0029】
即ち、本実施形態においては、高圧流体ジェット20を斜め上向きに噴射して噴射口13より上部の地盤を切削し、切削部分に噴射したエアの比重差を利用してエアを地盤改良体10の上部に滞留させ、エア溜り18を作ることができる。その場合、噴射する硬化材、水、エア及び切削土の中で、エアが最も比重が小さく、最上部へ滞留するからである。
【0030】
本発明においては、前記高圧流体ジェット20により、噴射口13より上部の地盤を切削して噴射口13より上部にエア溜りを形成し、次いでロッド12を上昇させて、地盤切削時、前記切削部分に取り込まれるエア溜りのエアと、高圧流体に含まれるエアとによってできる切削部分のエア溜りに、高圧流体ジェット20を噴射する。
このように施工することで、高圧流体ジェットを、エア溜りによってできた気中に、より効率的に噴射させることができる。
【0031】
図6の作用説明図においては、ロッド12を中心として、その右側に切削途中の状況を示し、その左側に、1ステップ前の状況を示している。右側の切削途中の図において、切削時のエア溜りのエアの流れを矢印21で示すように、1ステップ前のエア溜りのエアが切削部に取り込まれるエアと、高圧流体ジェット20に含まれるエアとによってできる切削部分のエア溜り18aによって、高圧流体ジェット20の減衰が抑えられる。
【0032】
なお、前記ロッド12を上昇させる工程の終段においては、図5に示すように、前記高圧流体ジェットの噴射圧力を徐々に低くする工程と、噴射流量を徐々に少なくする工程と、噴射時間を徐々に短くする工程をのうち少なくとも一つを行うことが望ましい。勿論、3つの工程の全てを行ってもよい。
【0033】
このように、ロッド12を上昇させる工程の終段において、高圧流体ジェット20の噴射圧力を徐々に低くする工程と、噴射流量を徐々に少なくする工程と、噴射時間を徐々に短くする工程の少なくとも一つを行うことで、造成される地盤改良体10の上部のエア溜り18を徐々になくすことができる。これにより、造成後に地盤改良体10の上部に形成される空隙を無くすことができる。
【0034】
本発明による高圧噴射攪拌工法は、地盤改良体が円柱形状でない場合、例えば壁状、扇形、格子状その他の形状であっても適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
10 地盤改良体
12 ロッド
13 噴射口
15 造成装置
16 本体
18 エア溜り
20 高圧流体ジェット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化材を使用した地盤改良体を造成する際に、地盤に貫入したロッドの噴射口から空気を含む高圧流体ジェットを噴射する工程と、前記ロッドを上昇させる工程とを行う高圧噴射攪拌工法において、
前記高圧流体ジェットの噴射方向を、水平面に対して斜め上向きに噴射させることを特徴とする高圧噴射攪拌工法。
【請求項2】
前記高圧流体ジェットにより、噴射口より上部の地盤を切削して、噴射口より上部にエア溜りを形成し、次いでロッドを上昇させて、前記切削部分に取り込まれるエア溜りのエアと、高圧流体に含まれるエアとによってできる切削部分のエア溜りに、高圧流体ジェットを噴射することを特徴とする、請求項1に記載の高圧噴射攪拌工法。
【請求項3】
前記ロッドを上昇させる工程の終段において、前記高圧流体ジェットの噴射圧力を徐々に低くする工程と、噴射流量を徐々に少なくする工程と、噴射時間を徐々に短くする工程の少なくとも一つを行うことを特徴とする、請求項1又は2に記載の高圧噴射攪拌工法。
【請求項4】
前記高圧流体ジェットは硬化材を含むことを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の高圧噴射攪拌工法。
【請求項5】
前記噴射口とは別の噴射口から前記硬化材を噴射することを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の高圧噴射攪拌工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−62616(P2012−62616A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205005(P2010−205005)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】