説明

高圧放電ランプおよび照明装置

【課題】 本発明は、演色性などの発光特性、特に赤色演色評価数R9に優れた高圧放電ランプおよび照明装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 気密容器21内に発光物質および希ガスからなる放電媒体を封装した発光管4と、この発光管4を包囲する外囲器1と、この外囲器1の表面に酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子およびケイ素系化合物を主体材料として混合形成された可視光選択吸収膜6とを具備し、色温度3600〜4200K、色偏差duv0〜−0.005、平均演色評価数Raおよび赤色演色評価数R9が90以上で点灯する高圧放電ランプL1および照明装置9である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光特性を改善した高圧放電ランプおよび照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧放電ランプは、高効率、高演色性、長寿命の光源として、店舗、工場、ホールやスポーツ施設などの照明用として広く用いられている。
【0003】
そして、例えば店舗などにおいて展示商品などの照明用として用いられる高圧放電ランプは、色温度3600〜4200K、平均演色評価数Raは比較的高いものの赤色演色評価数R9が一般的には+(プラス)側で良くても60前後であり、食品や衣料などにおいて赤色の見え方が悪くこれら商品の照明には不向きであった。
【0004】
そこで、発光管や発光管を包囲する外囲管の表面に光干渉膜などからなるフィルター膜を形成して、可視光領域における短波長側の光出力を低減させ色温度は下がるが、平均演色評価数Raを維持ないしは赤色演色評価数R9も維持して赤の見え方を改善した高圧放電ランプが開発されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この高圧放電ランプは多重管構造内の石英ガラスが用いられた発光管の表面にフィルター膜が形成されたものであって、点灯時に相当高温になる発光管においては光学特性や膜強度が早期に劣化して発光特性の低下がはやく生じるとともに被膜の形成作業を高温下で行わなければならないなど作業性にも問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みなされたもので、近時、耐熱性や耐薬品性などに優れたアルミナなどのセラミックスからなる容器が用いられるようになりさらに諸発光特性の向上と小形化がはかれるようになってきた発光管を用いた放電ランプに好適する、演色性などの発光特性、特に赤色演色評価数R9に優れた、品質および作業性など生産性の向上がはかれた高圧放電ランプおよび照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載の高圧放電ランプは、気密容器内に発光物質および希ガスからなる放電媒体を封装した発光管と;この発光管を包囲する外囲器と;この外囲器の表面に酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子およびケイ素系化合物を主体材料として混合形成された可視光選択吸収膜と;を具備し、色温度3600〜4200K、色偏差duv0〜−0.005、平均演色評価数Raおよび赤色演色評価数R9が90以上で点灯することを特徴とする。
【0008】
上記構成の本発明の高圧放電ランプは、発光管を包囲する内管や外管などの外囲器の内または外表面に600nm付近に吸収ピークを有する酸化コバルトアルミニウム微粒子、530〜540nm付近に吸収ピークを有する金微粒子およびケイ素系化合物を主体として混合された可視光選択吸収膜を形成することによって、黄色光を低減し黄色味を減らし、かつ、演色性を改善しつつ色偏差duvの制御を可能にした高圧放電ランプを得ることができる。
【0009】
なお、本発明および以下の各発明において、特に指定しない限り用語の定義および技術的意味は次による。
【0010】
〔発光管について〕 本発明において、発光管は耐熱透光性のセラミックスまたは石英ガラスなどの硬質ガラスからなる材料で形成された気密容器に、少なくとも一対の電極およびこの電極の支持と給電をなす電流導入導体ならびに放電媒体を備えている。特にセラミックス製の容器を用いる場合には、小形で高効率化をはかることができる。
【0011】
耐熱透光性の気密容器の形状は、円筒状(T形)、球状(G形など)、楕円球状(T形やG形などの複合形)など多様であることを許容し、その内容積すなわち放電空間の体積は、高圧放電ランプの定格ランプ電力の大きさに応じて多様な値に設定することができる。
【0012】
〔電極について〕 電極は、透光性気密容器内に少なくても一対が封装されて先端が互いに離間して放電空間に臨んでいる。また、電極は、タングステン(W)、ドープドタングステン、レニウム(Re)、レニウム−タングステン合金(Re−W)またはモリブデン(Mo)などの耐火性金属を用いて形成することができる。
【0013】
また、電極は、電極軸の先端に配設されて陰極や陽極として作用する部分であり、電極軸が電極を兼ねてもよいがその表面積を大きくして放熱を良好にするために、必要に応じて例えばタングステン線のコイルを巻装したりすることができる。
【0014】
〔放電媒体について〕 放電媒体は、発光金属および始動用の希ガスにより構成され、また、好適にはランプ電圧形成物質を含むことができる。発光金属としては、水銀(Hg)、ナトリウム(Na)、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、スズ(Sn)などの金属やセリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ディスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、ツリウム(Tm)などの希土類金属が知られており、ランプ特性に合わせこれら金属を一種ないし複数種選択して用いることができる。
【0015】
また、これら金属は、発光管内に、ヨウ素(I)、臭素(Br)、塩素(Cl)やフッ素(F)などとのハロゲン化物として封入することができる。
【0016】
希ガスは、少なくとも高圧放電ランプを始動させるときに放電を開始させるのに寄与する。しかし、具体的なガスの種類は限定されない。一般照明用の高圧放電ランプの場合、好適にはアルゴン(Ar)ガスが用いられるが、アルゴン(Ar)とネオン(Ne)などとの混合ガスであってもよい。
【0017】
ランプ電圧形成物質は、主として緩衝体として点灯中に一対の電極間に現れる電圧を形成するのに主体的に寄与する放電媒体であり、水銀および/または金属ハロゲン化物を用いることができる。ランプ電圧形成物質としての金属ハロゲン化物には、蒸気圧の比較的高い金属のハロゲン化物などを用いることができる。
【0018】
〔外囲器について〕 外囲器とは二重管構造の場合は発光管を封装する外管を、また、三重管構造の場合は発光管を封装する内管およびこの内管を収容する外管あるいは発光管を囲うよう設けられた発光管の破損時、破片の飛散を防止する中管(シュラウド)および中管を収容する外管を指す。また、PAR形などの反射形の容器の場合は、光放射をする前面レンズおよびこのレンズに連接する反射体部を外管(外囲器)と称する。
【0019】
発光管や内管などを内蔵する態様は、外部に対して気密および連通のいずれであってもよい。また、外管(外囲器)は、発光管を所定に始動するため必要に応じて始動用の部品要素、例えば紫外線発生源、高電圧パルス発生器または近接導体などを内部の所定位置に収納することができる。
【0020】
内管の材質は、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラスあるいはソーダライムガラスなど特段限定されない。また、内管は、外管で覆われるので、指で直接触れることがなくなり、内管が汚損することもない。一般照明用の高圧放電ランプとしては、内管内部を真空または不活性ガス(例えば、窒素(N)やアルゴン(Ar)など)雰囲気にするのが一般的である。
【0021】
外管は、その内部に内管や中管(シュラウド)を収容して、これら部材の機械的損傷および触指による汚損などに対して保護する。外管の材質は、特段限定されない。例えば硬質ガラス、半硬質ガラスや軟質ガラスにより形成することができる。また、外管は、T形、BT形、R形やこれら形状の一部組合せなど各種形状の管を所望に応じて適宜選択して採用することがきる。
【0022】
〔可視光選択吸収膜について〕 被膜の形成材料としては、粒径が30〜200nmの酸化コバルトアルミニウム微粒子、粒径が5〜30nmの金微粒子およびケイ素系化合物を主体としたものが用いられる。この被膜は、コバルトアルミニウム微粒子で600nm付近に吸収ピークを有し、また、金微粒子で530〜540nm付近に吸収ピークを有し、これにより黄色光を低減し黄色味を減らし、かつ、演色性と色偏差duvを制御する。
【0023】
被膜は、発光管を包囲する内管や中管あるいはこれらを収容する外管などの外囲器あるいは照明装置(器具)の透光性前面カバー部材の内外面のいずれか一方の表面に形成することができる。
【0024】
また、被膜の膜厚は1〜10μmが好ましく、1μm未満では吸収がある有機化合物の濃度を高くする必要があり透過率低下など光学特性に悪影響を及ぼし、また、10μmを超えると膜強度の低下、透過率の変動が起こり易いことや材料使用量の増加によるコストアップなどの問題がある。
【0025】
〔口金について〕 口金は、高圧放電ランプの本体をソケットに保持し、電源と電気的に接続する機能を果たすランプ構成要素であり、本発明においてはねじ込み形(E形など)、差込み形(G形やS形など)、ピンなし差込み形やバイポスト形の口金など既知の多様な構造を採用することができる。
【0026】
なお、外囲器、発光管や口金などを相互に固定支持させるのに用いられる接着剤は、高圧放電ランプの点灯中の動作温度に耐えるものであれば特段限定されない。一般的には耐熱性のセラミックス系の無機質接着剤が適するが、接着剤を用いないで、凹凸やかしめなどのメカニカル的な手段によって固定される態様でもよい。
【0027】
本発明の請求項2に記載の高圧放電ランプは、上記可視光選択吸収膜が、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化イットリウムの少なくとも一種を含み形成されたものであることを特徴とする。
【0028】
上記請求項1に記載の作用を奏するほか、上記材料を添加することにより膜厚や透過率の調整が容易にはかれるとともに被膜強度の向上した高圧放電ランプを得ることができる。
【0029】
本発明の請求項3に記載の高圧放電ランプは、気密容器内に発光物質および希ガスからなる放電媒体を封装した発光管と;この発光管を包囲する外囲器と;この外囲器の表面に酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子およびケイ素系化合物を主体材料とし、これらに酸化鉄を添加混合して形成された可視光選択吸収膜とを具備し、色温度3200〜3600K、色偏差duv0〜−0.005、平均演色評価数Raおよび赤色演色評価数R9が90以上で点灯することを特徴とする。
【0030】
被膜材料に酸化鉄を添加混合したことにより色温度の調整が容易に行える。このランプは請求項1のランプに比べ色温度を低くすることができるとともに、黄色光を低減し黄色味を減らし、かつ、演色性と色偏差duvを制御した高圧放電ランプを得ることができる。
【0031】
また、このランプにおいて被膜材料に酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化イットリウムなどを添加し被膜を形成するようにしてもよく、この添加によって請求項2に記載の作用を併せ得ることができる。
【0032】
本発明の請求項4に記載の照明装置は、器具本体と;この器具本体内に配設したソケットに装着されたた高圧放電ランプと;この器具本体の開口部を閉塞するよう設けられた透光性前面カバー部材と;この透光性前面カバー部材の表面に酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子およびケイ素系化合物を主体材料として混合形成された可視光選択吸収膜とを具備し、色温度3600〜4200K、色偏差duv0〜−0.005、平均演色評価数Raおよび赤色演色評価数R9が90以上で光照射することを特徴とする。
【0033】
本発明の照明装置は、器具本体の開口部を閉塞するよう設けられた透光性前面カバー部材の表面に600nm付近に吸収ピークを、また、530〜540nm付近に吸収ピークを有し、これにより透光性前面カバー部材を透過する光線の黄色光を低減し黄色味を減らし、かつ、演色性と色偏差duvを制御する所定の発光特性を呈する照明装置を得ることができる。
【0034】
また、この照明装置の透光性前面カバー部材の表面に形成する可視光選択吸収膜は、上記請求項2あるいは3に記載の材料が添加された被膜であってもよく、その場合は請求項2あるいは3に記載の作用を併せ呈する。
【0035】
なお、この照明装置は、器具本体内に点灯回路装置を備えていても、本体外に点灯回路装置を設け放電ランプと接続されるものであってもよく、また、本体内に反射体や光放射側にレンズや透光性の前面カバー部材が設けられていてもよい。また、上記照明装置は、照明器具と呼び代えられてもよい。
【発明の効果】
【0036】
請求項1の発明によれば、赤色の発光を補正し平均演色評価数Raおよび赤色演色評価数R9が90以上の高い演色性を示すとともに、かつ、色偏差duvを−側に制御可能で変化が少ない、食品、衣料など暖色系の赤色を中心とする商品を照明するのに適する高圧放電ランプを提供することができる。
【0037】
請求項2の発明によれば、上記請求項1のランプにおいてさらに発光特性や被膜強度の優れた高圧放電ランプを提供することができる。
【0038】
請求項3の発明によれば、色温度の調整が容易に行え、上記請求項1のランプに比べ色温度の低いランプにおいて、請求項1に記載したと同様な効果を奏する高圧放電ランプを提供することができる。
【0039】
請求項4の発明によれば、この照明装置は、赤色の発光を補正し平均演色評価数Raおよび赤色演色評価数R9が90以上の高い演色性を示すとともに、かつ、色偏差duvを−側に制御可能で変化が少ない、鮮魚、精肉、果物、野菜、生花などの色彩商品の照明、洋品店などの衣料などの照明あるいは家庭の食卓などの照明に用い効果が大きい照明装置(器具)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の高圧放電ランプの第1の実施の形態を示す一部断面正面図である。
【図2】高圧放電ランプの相対エネルギー分布を示すグラフである。
【図3】本発明の高圧放電ランプ(反射形)の第3の実施の形態を示す正面図である。
【図4】本発明の照明装置(器具)の実施の形態を示す一部断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0042】
図1は、本発明の高圧放電ランプを実施するための第1の実施の形態を示す一部断面正面図である。
【0043】
本形態の高圧放電ランプL1は、例えば定格ランプ電力70Wで、二重の外囲器を形成する外管1および内管2、発光管4、口金5および外管1の表面に形成された可視選択吸収膜6などを主要部材とした三重管で構成されている。
【0044】
外側の外囲器を形成する外管1は、硬質ガラス製の先端側が閉塞された有底円筒状をなすT形のバルブからなり、基端部11の端面は開放された開口部となっている。この外管1は、肉厚が約2mm、外径が約20mm、長さ(頭頂の閉塞部を含む)が約75mmのガラス管からなる。
【0045】
内側の外囲器を形成する内管2は、肉厚が約1.5mm、外径が約15mm、長さ(ピンチシール部を含む)が約60mmの石英ガラス製の気密容器21からなり、閉鎖された先端部の中央には排気チップオフ部22が形成されている。
【0046】
また、基端部にはピンチシール部23が形成されている。ピンチシール部23には、モリブデン(Mo)などからなる一対の封着用金属箔24,24が並行して気密に埋設され、各封着金属箔24の両端部には内部導入線25および外部導入線26が接続してある。なお、ピンチシール部23の両扁平面には平坦面を横切って1ないし複数条の突条部が形成してあってもよい。
【0047】
また、本形態において、内管2の内部には、発光管4に加えて発光管4などを支持するサポート部材31(上記内部導入線25が延在して形成したものであってもよい)、UVエンハンサなどの紫外線発生源32およびゲッタ33などが配設されている。
【0048】
発光管4は、透光性多結晶アルミナセラミックスからなる略球形状などをした気密容器41の対向する部位にこの気密容器41と連通して一対の封止体42,42としての小径筒部が設けられ、この小径筒部内には電流導入導体43,43が封止され、この導入導体43,43の先端には放電空間を形成する気密容器41内に突出して放電電極(図示しない)が設けられた構成としてある。
【0049】
また、気密容器41内には、発光金属のハロゲン化物、水銀および始動ガスからなる放電媒体が封入されている。なお、この発光金属としては、例えばナトリウム(Na)、インジウム(In))、タリウム(Tl)およびツリウム(Tm)などの希土類金属のグループから選択された金属のハロゲン化物が、また、始動ガスとしてはアルゴン(Ar)などが封入されている。
【0050】
サポート部材31は、図1中に示すように、内部導入線25が一体に延長して形成されていてもよく、一方の内部導入線25は発光管4下部の封止体42から導出した電流導入導体43に溶接され、また、他方の内部導入線25は内管2の気密容器21内壁に接近した位置を管軸方向に沿って延在し、気密容器21の先端付近で屈曲され、発光管4上部の封止体42から導出してその先端部が内管2の排気チップオフ部22内に挿入した電流導入導体43に溶接されることによって発光管4を管軸上に固定支持している。
【0051】
口金5は、内管固定部52、外管固定部53および受電部絶縁体54を一体的に形成したステアタイトの成形体からなる口金基体51を有し、受電部絶縁体54には受電部が設けられている。この受電部はいずれも導電性金属からなる外周にねじ溝を形成したシェル55aおよび受電部絶縁体54の中央先端に配設されているアイレット端子55bとからなる。
【0052】
また、内管固定部52は、口金基体51の中心に内管2のピンチシール部23が挿入される長四角形状の凹部からなり、また、外管固定部53は、上記口金基体51の環状周壁の内側に同心的に形成した外管1の基端部13が挿入される環状溝からなる。
【0053】
そして、上記内管固定部52内に挿入された内管2のピンチシール部23および上記外管固定部53内に挿入された外管1は固定部52,53内に注入された接着剤56を固化することにより接合固定される。接着剤56は、高圧放電ランプの点灯中の動作温度に耐えるものであれば特段限定されないが、一般的には耐熱性のアルミナなどのセラミックス系などの無機質の耐熱接着剤が好ましく、接着剤56を用いないで、機械的の手段によって固定されるものであってもよい。
【0054】
また、口金基体51の受電部絶縁体54の中心孔(図示しない)に挿通された外部導入線26,26の一方に接続したリード線(図示しない)がシェル55aに、また、他方に接続したリード線(図示しない)がアイレット端子55bにろう付けや溶接などの手段で接続されている。
【0055】
外管1の外側表面に形成された可視選択吸収膜6は、粒径が30〜200nmの酸化コバルトアルミニウム(CoAlまたはCoO・Al)微粒子、粒径が5〜30nmの金(Au)微粒子およびケイ素(Si)系化合物を主体材料として形成してある。
【0056】
この被膜6の形成は、例えば1−メトキシ−2−プロパノールに対し耐熱温度約325℃のケイ素(シリコーン)系樹脂を約30wt%と、ケイ素(シリコーン)系樹脂に対し約4wt%の酸化コバルトアルミニウム微粒子(粒径が約80nm)と、約0.5wt%の金(Au)微粒子(粒径が約10nm)とを混合して調合したコーティング液を用意する。
【0057】
つぎに、このコーティング液中に外管1を浸漬して一定速度で引き上げた後、外管1外表面に付着した塗膜を自然乾燥させ、塗膜が乾燥したら大気雰囲気中において約250℃、約1時間の熱処理を行うことにより膜厚約2μmの被膜6が得られる。なお、この膜厚は、コーティング液濃度、引き上げ速度や浸漬回数などを選択することにより所定のものが得られる。
【0058】
上記構成の本実施の形態に示す高圧放電ランプL1は、発光管4を封装した内管2をさらにT形の外管1内に収容した三重管構造のメタルハライドランプL1として、例えば口金体5側が上方や下方にくる鉛直や水平あるいは傾斜した状態で点灯される。
【0059】
上記高圧放電ランプの発光特性は、外管1に可視選択吸収膜6の形成前の被膜を形成していない状態での色温度約3600〜4200K、色偏差duv約−0.002〜+0.004、平均演色評価数Raが85以上、赤色演色評価数R9が60〜80程度、例えば色温度約3728K、色偏差duv約+0.0002、平均演色評価数Raが約95、赤色演色評価数R9が約78で発光するのに対して、このランプL1の外管1の外側表面に上記酸化コバルトアルミニウム、金および酸化ケイ素を主体材料とした可視選択吸収膜6を形成した後は、色温度が約3735K、色偏差duv約−0.0049、平均演色評価数Ra約96、赤色演色評価数R9約99で発光する。
【0060】
また、本発明は可視選択吸収膜6の形成材料として、上記酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子およびケイ素系統合物を主体材料としたものに限らず、これら材料に酸化鉄(例えばFe)を添加してもよい。この酸化鉄を添加した第2の実施の形態に示す高圧放電ランプL2は、色温度の調整が容易になるとともに赤色発光の補正が高まるなどの作用効果を奏する。
【0061】
因みに、上記実施の形態に示す膜形成材料にさらに約1〜10wt%の酸化鉄(例えばFe23)微粒子(粒径が約30〜100nm)を添加したコーティング液に外管5を浸漬して、可視選択吸収膜6を形成したランプL2は、上記実施の形態のランプ比べ低い色温度で所望の平均演色評価数Ra、赤色演色評価数R9および色偏差などの発光特性を得ることができた。
【0062】
さらに、上記酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子およびケイ素系化合物を主体とした材料に酸化亜鉛(例えばZnO)、酸化アルミニウム(例えばAl23)、酸化ケイ素(例えばSiO2)、酸化イットリウム(例えばY23)のうちから選ばれた少なくとも一種の酸化物微粒子を溶液に対し10〜50wt%程度添加混合して被膜を形成してもよく、この添加によって膜厚、透過率の調整がはかれるとともに被膜強度の向上がはかれた。
【0063】
図2は上記酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子およびケイ素系化合物を主体した材料を用い外管1の外側表面に被膜6を形成した本発明の高圧放電ランプL1(実線)と、上記材料にさらに酸化鉄(例えばFe)を添加した材料を用い被膜6を形成した本発明の高圧放電ランプL2(一点鎖線)と、被膜6を形成する前の被膜6なしの高圧放電ランプL(点線)との相対エネルギー分布(放射エネルギー強度)を示すグラフで、図中、横軸は波長(nm)、縦軸は相対エネルギー分布(放射エネルギー強度)を対比させてある。
【0064】
図2は各ランプL1、L2、Lの光色を比較して示すグラフである。被膜6に酸化コバルトアルミニウム微粒子の約600nmにピーク波長を調整して吸収するのみでは、平均演色評価数Raは改善できるが、赤色演色評価数R9の改善は不足気味である。
【0065】
これに対し、上記酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子およびケイ素系化合物を主体材料とした被膜6を有するランプL1、L2は、被膜6なしのランプLに比べ光量(全光束)は低下するが、600nm付近および530〜540nmに吸収ピークを有し、黄色光を低減し照射光の黄色味を減らし、平均演色評価数Ra、赤色演色評価数R9とも高い演色性を示すとともに、かつ、色偏差duvを−側に制御可能で変化が少ない、食品、衣料など暖色系の赤色を中心とする商品を照明するのに適する高圧放電ランプを得ることができる。
【0066】
また、表1は上記第1の実施の形態に示す酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子およびケイ素系化合物を主体とした材料で可視選択吸収膜6を形成した高圧放電ランプL1、上記材料に酸化鉄を添加した被膜を形成した第2の実施の形態に示す高圧放電ランプL2、比較用として被膜を形成していない従来の高圧放電ランプLの3種のランプの色度座標(x、y)、色温度(CCT(K))、色偏差(duv)、演色評価数(Ra、R9)、光量比(%)などの諸発光特性の比較表である。(なお、各ランプは、被膜を除き同一条件で製作されたものである。)
【表1】

【0067】
つぎに、本発明の高圧放電ランプの第3の実施の形態を説明する。図3は反射形の高圧放電ランプL3の正面図であって、上記実施の形態のランプL1と同一部分には同一の符合を付してその説明は省略する。
【0068】
この第3の実施の形態の高圧放電ランプL3は、外囲器を形成するバルブ(外管)1が硬質ガラスからなる表面などに反射膜(図示しない)が形成された椀状の反射基体71と前面レンズ72とが接着剤を介してや機械的な接合あるいは融合して形成したPAR形をなし、内部に上述の第1の実施の形態で示したと同様の発光特性を有し基本的には略同構成の発光管4を封装した内管2が収容されていて、反射基体71の基端部には口金5が接合された構成である。
【0069】
そして、上記前面レンズ72の内外面の少なくとも一方の表面、ここでは外面に上記第1の実施の形態で示した発光特性を有する可視選択吸収膜6を形成して図3に示す放電ランプL3が得られた。
【0070】
上記のように外囲器を形成する前面レンズ72の外側表面に被膜6を形成した反射形高圧放電ランプL3においても、上記第1の実施の形態の高圧放電ランプと同様な作用効果を奏し、食品、衣料など赤色を中心とする商品を照明するのに適する高圧放電ランプを得ることができる。
【0071】
上述したように本発明の高圧放電ランプL1〜L3は、上記被膜6形成前、色温度3600〜4200K、色偏差duv−0.002〜+0.004、平均演色評価数Raが85以上、赤色演色評価数R9が60〜75の範囲に諸発光特性を有する発光管4を用いることにより、可視選択吸収膜6形成後には色温度3200〜4200K、色偏差duv0〜−0.005、平均演色評価数Raおよび赤色演色評価数R9が90以上の範囲に諸発光特性を呈させることができる。
【0072】
なお、本発明の高圧放電ランプL1〜L3は、被膜6の形成作業も焼成温度が従来より低いなど生産性も向上することができる。
【0073】
図4は本発明の上記実施の形態の高圧放電ランプL1またはL2を用いた屋内照明用のスポットライトからなる照明装置(器具)を示す要部断面正面図である。
【0074】
この照明装置(器具)9は、天井面などに取り付けられた取付台91、支柱92、少なくとも一面に光放射する開口部93を有する箱状の器具本体94、器具本体94内に設けられたソケット95および反射鏡96、上記開口部93を覆い設けられたガラスや合成樹脂などからなる透光性前面カバー97を主な構成要素として構成されている。
【0075】
なお、器具本体94は、取付台91に対し支柱92を介し水平面内および鉛直面内の回動が可能になっている。また、点灯回路装置(図示しない)は、器具本体94内や取付台91内に配設されていても、天井裏などに別置配設されていてもよい。
【0076】
この照明装置(器具)9において、ソケット95に装着した可視選択吸収膜6が形成された高圧放電ランプL1を点灯回路装置(図示しない)を介し通電点灯すると、直射光および反射鏡96からの反射光が光透過する開口部93に設けられた透光性前面カバー97を介し衣類などの商品に向け光照射される。このとき、照射光は例えば表1に示した発光特性を呈して、商品の赤色などの再現性を高めた見え方が良好な照明を行うことができる。
【0077】
また、この種照明装置(器具)9において、上記透光性前面カバー97の内外面いずれか一方の表面に上述したと同様の材料や方法で可視選択吸収膜6を形成しておき、ソケット95に表1中に記載した可視選択吸収膜6を形成していない高圧放電ランプLを装着してランプLを点灯させても、光放射する開口部93からは被膜6を介し衣料などの商品に向け光照射し商品の赤色などの再現性を高めた見え方が良好な照明を行うことができる。
【0078】
この透光性前面カバー97の表面に可視選択吸収膜6を形成する場合においても、被膜6形成材料は酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子およびケイ素系化合物を主体としたものあるいはこれに酸化鉄、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化イットリウムのうちから選ばれた少なくとも一種の酸化物微粒子を添加して形成してもよく、添加によって色温度、膜厚や透過率などの調整がはかれるとともに被膜強度の向上ができる。
【0079】
上記のように照明装置(器具)9側の透光性前面カバー96の表面に被膜6を形成した場合においても、上記第1〜第3の実施の形態の高圧放電ランプと同様な作用効果を奏し、食品、衣料など赤色を中心とする商品を照明するのに適する照明装置(器具)9を得ることができる。
【0080】
なお、本発明は上記実施の形態に限るものではない。たとえば、上記実施の形態では高圧放電ランプとしてメタルハライドランプで説明したが、メタルハライドランプに限らず、高圧ナトリウムランプや水銀ランプなどのランプでもよく、要するに可視選択吸収膜が形成していない状態で所定の発光特性を有するランプに適用して上記作用効果を奏する。
【0081】
発光管を構成する気密容器は、透光性により形成される場合、例えばサファイヤなどの単結晶の金属酸化物、多結晶の金属酸化物、例えば半透明の気密性アルミニウム酸化物、イットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)、イットリウム酸化物(YOX)、多結晶非酸化物、例えばアルミニウム窒化物(AlN)などを用いることができ、セラミックス材料の他、石英ガラスやホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラスなどを用いることもでき、その形状はG形、T形などあるいはこれらの複合形状で形成されているものを用いることができる。
【0082】
外囲器を形成する外管や内管は、石英ガラスまたはホウケイ酸ガラスやアルミノシリケートガラスなどの硬質ガラスあるいはソーダライムガラスなどの軟質ガラスからなり、その形状は、A形、G形、R形、T形、PS形やBT形などあるいはこれらの複合形状で形成されているものを用いることができる。また、外囲器は二重管や三重管など多重管に適用でき、これら外囲器は気密性であっても非気密性であってもよく発光管容器の飛散を防止する中管(シュラウド)が設けられたものであってもよい。
【0083】
また、高圧放電ランプは、発光管に少なくとも一対の放電電極が封装され、また、外囲器内に配設される始動回路部は、UVエンハンサなどの紫外線発生源に限らず点灯管などが用いられるものであってもよい。
【0084】
また、可視選択吸収膜の形成部は、外管、内管や前面レンズなどの外囲器あるいは照明装置(器具)の前面カバーなどの部材の内外面の少なくとも一方でよく、ランプ定格、被膜の耐熱温度、形成作業性などを考慮して決めればよい。
【0085】
また、可視選択吸収膜の形成材料は、酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子およびケイ素系化合物を主体材料としたものであるが、これらに僅少の他の材料が添加されるのは差し支えない。
【0086】
また、可視選択吸収膜の膜厚は1〜10μmの範囲であれば、上記発光特性の範囲を満足でき、1μm未満の場合は、吸収がある無機化合物の濃度を高くする必要があり透過率低下など光学特性に影響を及ぼす易く、また、10μmを超えると材料使用量の増加や被膜強度の低下が起り易く、かつ、透過率の変動も大きくなる。
【0087】
なお、所定範囲の諸発光特性を得るには被膜の膜厚などを調整することにより行うことができ、この調整はコーティング液濃度、コーティング液からの外管などの引き上げ速度やコーティング液への浸漬回数を変えることにより所望の膜厚が得られる。また、被膜の形成はコーティング液への浸漬に限らず、吹き付けや蒸着などの手段であってもよい。
【0088】
さらに、照明装置(器具)は上記実施の形態に示すものに限らず、器具本体内に点灯回路装置を備えていても、本体外に点灯回路装置を設け高圧放電ランプと接続されるものであってもよく、さらにまた、放電ランプによっては器具本体内に反射板や光放射側にレンズや透光性の前面カバー部材が設けられていなくてもよい。
【0089】
この照明装置は、食品や衣類などを扱う店舗あるいは飲食店などにおける照明用として好ましい。
【符号の説明】
【0090】
L1〜L3:高圧放電ランプ(メタルハライドランプ)
1:外管(外囲器)
2:内管
21:気密容器
4:発光管
6: 可視選択吸収膜
9:照明装置(器具)
94:器具本体
96:透光性前面カバー部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気密容器内に発光物質および希ガスからなる放電媒体を封装した発光管と;
この発光管を包囲する外囲器と;
この外囲器の表面に酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子およびケイ素系化合物を主体材料として混合形成された可視光選択吸収膜と;を具備し、
色温度3600〜4200K、色偏差duv0〜−0.005、平均演色評価数Raおよび赤色演色評価数R9が90以上で点灯することを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
上記可視光選択吸収膜は、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化イットリウムの少なくとも一種を含み形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
気密容器内に発光物質および希ガスからなる放電媒体を封装した発光管と;
この発光管を包囲する外囲器と;
この外囲器の表面に酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子および酸化ケイ素化合物を主体材料とし、これらに酸化鉄を添加混合して形成された可視光選択吸収膜と;
を具備し、色温度3200〜3600K、色偏差duv0〜−0.005、平均演色評価数Raおよび赤色演色評価数R9が90以上で点灯することを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項4】
器具本体と;
この器具本体内に配設したソケットに装着されたた高圧放電ランプと;
この器具本体の開口部を閉塞するよう設けられた透光性前面カバー部材と;
この透光性前面カバー部材の表面に酸化コバルトアルミニウム微粒子、金微粒子およびケイ素系化合物を主体材料として混合形成された可視光選択吸収膜と;を具備し、
色温度3600〜4200K、色偏差duv0〜−0.005、平均演色評価数Raおよび赤色演色評価数R9が90以上で光照射することを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−272435(P2010−272435A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124912(P2009−124912)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】