説明

高圧放電ランプおよび照明装置

【課題】
Dy、HoおよびTmの希土類金属のハロゲン化物を用いないで、高発光効率と光束維持率に優れた高圧放電ランプおよびこれを備えた照明装置を提供する。
【解決手段】
高圧放電ランプは、透光性セラミックス気密容器1と、一対の電極2と、水銀、希ガスおよび金属ハロゲン化物により構成され、金属ハロゲン化物は、ハロゲン化ナトリウム(NaX)、ハロゲン化タリウム(TlX)ハロゲン化セリウム(CeX3)およびハロゲン化カルシウム(CaX2)を含み、かつハロゲン化ジスプロシウム(DyX3)、ハロゲン化ホルミウム(HoX3)およびハロゲン化ツリウム(TmX3)を含まないとともに、金属ハロゲン化物の総封入量に対してセリウム(Ce)が1~3mol%で、ナトリウム(Na)とタリウム(Tl)の比Na/Tlのmol比が2~5、Ca/(Na+Tl)のmol比が0.2~1.4である放電媒体とを具備し、相関色温度が3500〜4500Kである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透光性セラミックス気密容器を備えた高圧放電ランプおよびこれを備えた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
透光性アルミナセラミックスからなるセラミックス製発光管を用いたメタルハライドランプは、従来の石英ガラスからなる発光管に比べ耐熱性および耐食性に優れていて、より高温で動作させることが可能であることから、高効率、高演色および長寿命という特長を有しているため、急速に普及しつつある。
【0003】
また、省エネの観点から、メタルハライドランプのより一層の高効率化、さらなる長寿命化が期待されている。
【0004】
ハロゲン化ナトリウムおよびハロゲン化セリウムを用いたランプにおいて、さらにハロゲン化カルシウムを封入したメタルハライドランプが知られている(特許文献1参照。)。この従来技術では、NaI/CeIのmol組成比を8〜95にするとともに、CaI/CeIのmol組成比を5〜60にすることで高発光効率および高演色が得られるとしている。また、実施例ではTmハロゲン化物およびTlハロゲン化物も封入している。
これに対して、Dy、HoおよびTmのハロゲン化物を用いないで、発光管の内径dと電極間距離Lとの比L/dを大きくして発光効率を高めるとともに発光管のクラック発生を抑制しようとしたメタルハライドランプが知られている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−134704号公報
【特許文献2】特許第4062234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1に記載の例のようにDy、Tm、Hoなどの希土類金属を封入すると、透光性セラミックス気密容器を構成する材料との反応性が非常に高く、発光効率を高めるために発光管の動作温度を上昇させると、さらにその反応が加速されてしまい、光束維持率の異常な低下や早期に発光管のリークを引き起こす要因となるという問題がある。また、Dy、Ho、Tmなどの希土類金属を封入しないと、所定のランプ光色を確保することが困難となり、封入金属元素種の選定とその量の最適化を図るのが難しい。
【0007】
一方、特許文献2に記載のようにDy、HoおよびTmの希土類金属を用いないで、発光管の内径dと電極の先端間距離Lとの関係L/dを大きくして発光効率を高めようとすると、鉛直方向から傾けた姿勢でランプを点灯させたときに発生するアークの曲がりによって、アークと管壁との距離が接近し、管壁の許容耐熱温度を超えて発光管リークに至る現象が発生する。なお、この現象は、ランプ電圧が110V以上のランプに対して特に影響が大きい。
【0008】
また、ランプ効率を高めるために、例えば上記のように希土類金属のハロゲン化物を利用する場合、その封入比を高くして蒸気圧を高め、その発光を利用しようとすると、再点弧電圧も高くなり、その分だけ立消え電圧も高くなるため寿命中に立ち消えしやすくランプ寿命が短くなってしまう。
【0009】
本発明は、Dy、HoおよびTmの希土類金属のハロゲン化物を用いないで、高発光効率と光束維持率に優れた高圧放電ランプおよびこれを備えた照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の高圧放電ランプは、透光性セラミックスからなり内部に放電空間を有する透光性セラミックス気密容器と;透光性セラミックス気密容器内に放電空間を挟んで離間対向して配設された一対の電極と;水銀、希ガスおよび金属ハロゲン化物により構成されて透光性セラミックス気密容器の内部に封入され、金属ハロゲン化物は、ハロゲン化ナトリウム(NaX)、ハロゲン化タリウム(TlX)ハロゲン化セリウム(CeX)およびハロゲン化カルシウム(CaX)を含み、かつハロゲン化ジスプロシウム(DyX)、ハロゲン化ホルミウム(HoX)およびハロゲン化ツリウム(TmX)を含まないとともに、金属ハロゲン化物の総封入量に対して金属元素セリウム(Ce)が1〜3mol%で、金属元素のナトリウム(Na)とタリウム(Tl)の比Na/Tlのmol比が2〜5、金属元素のCa/(Na+Tl)のmol比が0.2〜1.4である放電媒体と;を具備し、相関色温度が3500〜4500Kであることを特徴としている。
【0011】
本発明において、金属ハロゲン化物は、ハロゲン化ナトリウム(NaX)、ハロゲン化タリウム(TlX)ハロゲン化セリウム(CeX)およびハロゲン化カルシウム(CaX)が主成分である。なお、主成分とは、金属ハロゲン化物の総封入量に対して90mol%以上、好適には95mol%以上を占めていることを意味する。
【0012】
金属ハロゲン化物の総封入量に対してCeを1〜3mol%としたことにより、所期の高発光効率および高光束維持率を確保することができる。しかし、Ceが1mol%未満であると、所期の発光効率が得られない。また、Ceが3mol%を超えると、Ceと透光性セラミックス気密容器、特にアルミナとの反応の影響が大きくなって光束維持率が悪化したり、チョークコイル形安定器で点灯する場合には、再点弧電圧の上昇によって立ち消えしやすくなったりして、寿命特性が悪化してしまう。なお、好適には1.3〜2.2mol%の範囲である。この範囲であれば、より高い発光効率および光束維持率が得られる。
【0013】
また、比Na/Tlのmol比を2〜5としたことにより、色度差を0.015以内に小さくすることができる。しかし、上記mol比が2未満になると、色度差が0.015を上回り、光色が強い緑色となってしまう。また、上記mol比が5を超えると、色度差が0に近付き、白色へ移行するが発光効率の低下を招く。
【0014】
さらに、比Ca/(Na+Tl)のmol比を0.2〜1.4としたことにより、光色を一般的な相関色温度である3500〜4500Kを得ることができる。しかし、上記mol比が0.2未満になると、相関色温度が本発明の上限である4500Kを超越してしまう。また、上記mol比が1.4を超えると、本発明の下限である3500Kを下回る。
【0015】
さらにまた、本発明の実施に際して以下の態様を所望により適宜採用することができる。
【0016】
1.金属ハロゲン化物のハロゲンとして臭素(Br)を用いる。この場合、Brを5〜60mol%封入することによって、寿命を悪化させることなく光束維持率を格段に向上させることができる。しかし、Brが5mol%未満であると、上記効果が殆ど得られない。また、60mol%を超えると、ハロゲンサイクルが過度に生じて電極の消耗が大きくなり、早期の寿命を招く虞がある。なお、好適には20〜45mol%である。
【0017】
2.透光性セラミックス気密容器の最大内径をdとし、電極間距離をLとしたとき、比L/dが0.8〜1.8であり、管壁負荷が16〜23W/cmである。比L/dが0.8未満であると、管壁の温度が過度に低下するため、所期の発光効率を得るのが困難になる。また、比L/dが1.8を超えると、電極間距離が大きくなり、前述のような使用態様において寿命早期に発光管リークを招く虞がある。
【0018】
また、管壁負荷が16W/cm未満になると、ハロゲンサイクルの低下による黒化の影響により光束維持率の低下が著しくなる。管壁負荷が23W/cmを超えると、過度なCeの発光により再点弧電圧の著しい上昇を伴う。なお、好適な管壁負荷は18〜21W/cmの範囲である。
【0019】
3.Inハロゲン化物を追加封入する。これによりランプ寿命を短くすることなく平均演色評価数を向上させることができる。
【0020】
4.発光管を収納した外管を具備し、外管内には周囲温度300Kのとき50kPa以上の不活性ガスを封入する。なお、上記封入圧の不活性ガスは、高圧放電ランプの点灯中に約1気圧以上の圧力を呈する。また、不活性ガスは、窒素ガスおよび希ガスのいずれであってもよい。
【0021】
5、ランプ電圧が110V以上であるとともに始動手段を内蔵している。本発明によれば、水銀灯用安定器で点灯する高圧放電ランプを得るのに好適である。
【0022】
次に、本発明の照明装置は、照明装置本体と;照明装置本体に配設された請求項1ないし3のいずれか一記載の高圧放電ランプと;高圧放電ランプを点灯する点灯装置と;を具備していることを特徴としている。
【0023】
本発明において、照明装置は、高圧放電ランプを光源とするあらゆる装置を含む概念であり、照明器具に限定されるものではない。また、照明装置本体は、照明装置から高圧放電ランプおよび点灯装置を除外した残余の部分である。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、ハロゲン化ナトリウム(NaX)、ハロゲン化タリウム(TlX)ハロゲン化セリウム(CeX)およびハロゲン化カルシウム(CaX)を含み、金属元素セリウム(Ce)が1〜3mol%で、金属元素ナトリウム(Na)と金属元素タリウム(Tl)の比Na/Tlのmol比が2〜5、いずれの金属元素のカルシウム(Ca)とナトリウムおよびタリウムの和(Na+Tl)との比Ca/(Na+Tl)のmol比が0.2〜1.4であることにより、ハロゲン化ジスプロシウム(DyX)、ハロゲン化ホルミウム(HoX)およびハロゲン化ツリウム(TmX)を用いることなしに相関色温度3500〜4500Kの光色を高い発光効率で、しかも優れた光束維持率で実現する高圧放電ランプおよびこれを備えた照明装置を提供できる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の高圧放電ランプを実施するための一形態における正面図である。
【図2】同じく発光管の拡大断面図である。
【図3】比Ca/(Na+Tl)のmol比と相関色温度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0027】
最初に、図1および図2を参照して、本発明の一形態における高圧放電ランプの構造を説明する。本発明において、高圧放電ランプは、発光管IT、外管OTおよび始動手段STを具備していて、一例として定格消費電力360Wである。
【0028】
発光管ITは、透光性セラミックス気密容器1、一対の電極2、2、一対の電流導入導体3、3、一対のシール部4、4および放電媒体を備えている。
【0029】
透光性セラミックス気密容器1は、透光性多結晶アルミナセラミックスからなり、好適には包囲部1aおよび包囲部1aの両端に連通して配設された一対の小径筒部1b、1bを備えている。そして、小径筒部1bおよび包囲部1aは、鋳込み成形により一体に成形されている。
【0030】
透光性セラミックスとしては、単結晶の金属酸化物、例えばサファイヤと、多結晶の金属酸化物、例えば半透明の気密性アルミニウム酸化物、イットリウム−アルミニウム−ガーネット(YAG)、イットリウム酸化物(YOX)と、多結晶非酸化物、例えばアルミニウム窒化物(AlN)のような光透過性および耐熱性を備えた材料を用いることができる。しかし、多結晶のアルミニウム酸化物すなわち多結晶アルミナセラミックスは、工業的規模で生産できるとともに、比較的合理的な価格で得られるので、最適である。なお、透光性とは、放電によって発生した可視光を透過して外部に導出できる程度に光透過性であることをいい、透明であるのが好ましいが、要すれば光拡散性であってもよい。そして、少なくとも主要部である包囲部1aの大部分が透光性を備えていればよく、要すれば小径筒部1bは遮光性であってもよい。
【0031】
包囲部1aは、本形態において、外形が連続的な曲面を有する繭玉状に膨出していて、その内部にほぼ同様形状の連続的な曲面を有する放電空間1cが形成されている。また、包囲部1aは、その内部に形成される放電空間1cの主要部の形状を、上記形状だけでなく、所望により楕円球状や球状の中空にすることができる。なお、上記主要部は、小径筒部1bと接している側の端部近傍を除いた残余の大部分であって、放電による発光が主として透過する部分をいう。
【0032】
一対の小径筒部1b、1bは、包囲部1aの管軸方向の両端から管軸方向に沿って外方へ一体に延在している。なお、一体成形により透光性セラミックス気密容器1が一体化されていると、透光性セラミックス気密容器1の温度分布が相対的に均一になりやすくなるとともに、光学的均質性を得やすくなる。
【0033】
また、小径筒部1bは、後述する電極2および電流導入導体3を内部に挿通して支持するとともに、透光性セラミックス気密容器1を封止するのに寄与させることができる。この場合、小径筒部1b内の電極2の周囲にキャピラリーと称するわずかな隙間を形成すると、点灯中その内部に液相の放電媒体が滞留して放電空間1c側の内面が最冷部となり、高圧放電ランプの最冷部を管理しやすくなる。なお、小径筒部1bの断面は、好ましくはほぼ円形である。
【0034】
さらに、透光性セラミックス気密容器1の点灯中における包囲部1aの外表面の温度が850〜1200℃、小径筒部1bの外表面の温度が600〜950℃になるように設計することができる。
【0035】
一対の電極2、2は、透光性セラミックス気密容器1内において、それらの先端が放電空間1cを挟んで離間して対向するように配設されている。なお、上記先端の間が電極間距離になる。
【0036】
また、電極2は、純タングステン(W)、ドープドタングステン、モリブデン(Mo)、サーメットなどの導電性にして、かつ耐火性の導電性物質を単体で、または適宜組み合わせて用いて形成することができる。
【0037】
さらに、電極2は、好ましくは細長い電極軸部2a、電極主部2bおよび電極マウントサブコイル2cからなる。
【0038】
電極軸部2aは、主として小径筒部1b内を延在して、その基端が後述する電流導入導体3の先端に接続する。
【0039】
電極主部2bは、電極軸部2aの先端部に位置し、主として陰極および/または陽極として作用する部分であり、表面の一部に放電アークの起点が形成される。なお、電極主部2bは、その表面積を大きくして放熱を良好にするために、必要に応じてタングステンの電極コイル2b1を巻装することができる。
【0040】
電極マウントサブコイル2cは、主として小径筒部1b内に位置する電極軸部2aの周囲に巻装されている。なお、好ましい構成として、電極2は、その電極軸部2aに巻装された電極マウントサブコイル2cと小径筒部1bの内面との間にキャピラリーとも称されるわずかな隙間を形成しながら小径筒部1b内に挿通されているとともに、先端が包囲部1aに臨んでいる。
【0041】
一対の電流導入導体3、3は、それぞれ封着性部分3aおよび耐ハロゲン性部分3bからなる。そして、先端部で電極2の基端を機械的に支持するとともに電気的に接続して電極2への給電路となる。
【0042】
封着性部分3aは、透光性セラミックス気密容器1との封着性の良好な導電部材、例えば多結晶アルミナセラミックスに対してはニオブの棒状体が好適であり、先端が小径筒部1bの内部に挿入され、基端が小径筒部1bから外部へ突出している。
【0043】
耐ハロゲン性部分3bは、ハロゲンおよびハロゲン化物に対する耐性に優れる導電性部材、例えばモリブデンの棒状体からなる。また、耐ハロゲン性部分3bは、電極2と封着性部分3aとの間に介在して、電極2と封着性部分3aとの間の熱膨張係数の違いを緩和するとともに、高温となる電極2からシール部4への熱伝動を緩和する。さらに、耐ハロゲン性部分3bは、キャピラリー内に進入した液相の金属ハロゲン化物が接触するために耐ハロゲン性材料からなる。耐ハロゲン性材料は、モリブデン(Mo)およびタングステン(W)から選択した金属、これら金属とセラミックスとの混合導電材料であるサーメットまたは上記金属とサーメットとの複合体などにより構成することができる。
【0044】
一対のシール部4、4は、透光性セラミックス気密容器1の封止予定部、例えば小径筒部1bと電流導入導体3の封着性部分3aとの間で透光性セラミックス気密容器1を封止するための手段である。シール部4は、フリットガラスと称されるセラミックス封止用コンパウンドを加熱溶融させて透光性セラミックス気密容器1の好適には小径筒部1bと電流導入導体3の封着性部分3aとの間の隙間に進入させてから固化させることで、これらを封着する構成が一般に多用されている。
【0045】
しかしながら、本発明においては上記手段とは異なる既知の各種シール手段を適宜採用することができる。
【0046】
放電媒体は、水銀、希ガスおよび金属ハロゲン化物により構成され、透光性セラミックス気密容器1の内部に封入されている。
【0047】
水銀は、緩衝体としてランプ電圧形成に主として寄与する。しかし、周知のように水銀蒸気による特性スペクトルの一部は、発光にも寄与する。なお、透光性セラミックス気密容器の包囲部における単位容積当たりの水銀封入量を3〜30mg/ccに設定するのが好適である。
【0048】
始動ガスは、少なくとも高圧放電ランプを始動させるときに放電を開始させるのに寄与する。しかし、本発明においては具体的なガスの種類は限定されない。一般照明用の高圧放電ランプの場合、好適にはアルゴン(Ar)単体またはネオン(Ne)およびアルゴン(Ar)の混合ガスを用いることができる。始動ガスの封入圧は、一般的には8〜80kPaである。8kPa未満では、パッシェン曲線から理解できるように始動が困難になる。また、80kPaを超えると始動電圧が高くなり、口金の耐圧を超えてしまう。好適にはネオン(Ne)およびアルゴン(Ar)の混合ガスである。
【0049】
金属ハロゲン化物は、本発明の特徴部分であり、ハロゲン化ナトリウム(NaX)、ハロゲン化タリウム(TlX)、ハロゲン化セリウム(CeX)およびハロゲン化カルシウム(CaX)を含み、下記数式1ないし数式3をともに満足するように設定されている。なお、金属ハロゲン化物を構成するハロゲンとしては、ヨウ素または/および臭素が用いられる。なお、符号Hは封入される全ての金属ハロゲン化物である。
【0050】
1≦Ce/H≦3(mol%) …数式1
2≦Na/Tl≦5(mol比) …数式2
0.2≦Ca/(Na+Tl)≦1.4(mol比) …数式3
外管OTは、少なくとも発光管ITおよび後述する始動手段STを内部に収納している。そして、発光管ITを機械的に保護し、発光管ITの作動温度を所望の範囲に維持し、あるいは発光管ITからの放射のうち所定のものを遮断するなどの機能を外管OTに対して選択的または包括的に付与させることができる。
【0051】
外管OTと発光管ITとは、一般的には両者の軸が一致するように配置される。外管OTは、所望の機能を発揮するために、その内部に、真空ないし低圧の大気または不活性ガス、例えば希ガスや窒素を封入することができる。外管OT内の雰囲気を133Pa以下に減圧された窒素などの不活性ガスまたは空気に設定するのが発光管ITの温度およびその分布を均一化するのに効果的である。なお、外管OTは、適当な透光性、気密性、耐熱性および加工性を備えている材料、例えば硬質ガラスを用いて構成することができる。また、外管OTは、既知の各種形状を適宜選択的に採用することができる。
【0052】
また、外管OTは、片封止および両端封止のいずれの構造をも所望に応じて選択的に採用することができる。なお、片封止は、外管の一端にのみピンチシール部が形成されていて、他端が封止部を形成しないで閉塞されている構造をいう。両端封止は、外管の両端にピンチシール部が形成されている構造をいう。なお、外管OTが片封止構造であると、汎用ランプソケットを用いる一般照明用として都合がよい。
【0053】
本形態において、外管OTは、硬質ガラスからなるBT形バルブ状をなしていて、そのネック部にフレアステム11を封着して備えている。フレアステム11は、一対の導入線11a、11bを気密に導入している。そして、外管OTは、その内部の所定位置に発光管ITを後述する支持構体SFにより支持して収納しているとともに、発光管ITを後述するシュラウドSHにより保護している。
【0054】
支持構体SFは、金属棒状体を異形U字状に湾曲して形成されていて、その下部がフレアステム11に封着されている導入線11bに溶接され、上部にスプリング材からなるトップホルダー12が溶接されている。トップホルダー12は、外管OTの頭部内面に係止され得るようになっていて、支持構体SFの上部を外管OTに対して係止する。発光管ITは、図1においてその上部の電流導入導体3が、支持構体SFの上部側を橋絡する帯状導体13に溶接などによって電気的および機械的に接続されている。また、発光管ITの図1において下部の電流導入導体3がストランドワイヤ14および接続導体15を直列的に介して導入線11aに溶接されている。
【0055】
以上により、発光管ITは、導入線11aおよび11bの間に接続されている。
【0056】
シュラウドSHは、透光性筒体16および補強紐体17により構成されている。透光性筒体16は、例えば石英ガラスなどの耐熱性透光性部材からなり、円筒状をなしていて、発光管ITを側方からほぼ同心状に包囲するように配設されている。なお、シュラウドSHは、図において上下両端が開放され、かつその内面と発光管ITとの間には適当な空間が形成されている。補強紐体17は、例えばアルミナなどを主成分とする耐熱無機系繊維糸やステンレス鋼線からなり、透光性筒体16の外周に巻装されて、透光性筒体16をその外側から締め付けて補強している。
【0057】
また、シュラウドSHは、支持構体SFに配設された一対のシュラウドホルダー18、18に上下両端を挟持されて支持構体SFに保持されている。すなわち、シュラウドホルダー18は、円盤状をなす嵌合部がシュラウドSHの透光性筒体16の端部に嵌合し、嵌合部と一体の取付脚部が支持構体SFに溶接されることにより、所定の位置に支持される。なお、発光管ITの透光性の小径筒部1bは、シュラウドホルダー18を緩く貫通してシュラウドSHから外部に突出している。
【0058】
始動手段STは、メタルハライドランプの始動を補助する手段であり、本形態においては例えば始動用のグロースタータ(点灯管)19、バイメタルを用いた熱応動スイッチ20および限流抵抗器21の直列回路からなり、この直列回路は一端が支持構体SFに接続し、他端が接続導体15に接続している。したがって、始動手段STは、導入線11aおよび11bに発光管ITと一緒に並列接続している。
【0059】
グロースタータ(点灯管)19は、グロー放電により内部に配設された一対の電極のバイメタルが熱変形して接触し、グロー放電の停止による冷却で開離して安定器に流れていた電流が遮断したときに、安定器に高電圧始動パルス電圧が発生して、発光管ITに印加することで高圧放電ランプを始動させる。また、この始動に先立ち、グロー放電発生時に外部に紫外線を放射して高圧放電ランプ内に初期電子を励起するように構成されている。なお、安定器は、(一般形・低始動形)水銀灯用安定器が用いられる。
【0060】
上記の動作を行うために、グロースタータ19は、例えば紫外線透過性の石英ガラスからなるバルブの一端部にリード線を気密に封着した封止部が形成され、バルブ内にはリード線に接続したバイメタルからなる放電電極が所定の間隔を隔て対峙しているとともに、アルゴン(Ar)が所定圧力で封入されている。
【0061】
熱応動スイッチ20は、高圧放電ランプの始動後の温度上昇に応動して変位し、始動手段STを開放してその動作を点灯中停止状態に維持させる。
【0062】
限流抵抗器21は、グロー電流を所定値に限流する手段であり、例えば300Ωである。
【0063】
口金Bは、E39形口金であり、外管OTのネック部に固着され、外管OTから外部へ露出した図示しない一対の導入線の一方がシェル部に、他方がセンターコンタクトに、それぞれ接続している。
【0064】
なお、図1において、符号Gはパーフォーマンスゲッタであり、外管OT内を清浄化するもので、支持構体SF溶接されている。
【実施例1】
【0065】
図1に示す構造である。
【0066】
透光性セラミックス気密容器:包囲部内径19mm、包囲部長さ約25mm
(透光性高純度アルミナ)
電極間距離Le:21mm
放電媒体 :NaI-TlI-CeI3-CaI(mol組成比45-12-7-36)=10mg、
水銀=80mg、Ar=13.3kPa
外管内雰囲気 :53kPa(300K)
安定器 :水銀灯用安定器
定格ランプ電力:360W
管壁負荷 :18W/cm2
ランプ効率 :121 lm/W(100hr後)
相関色温度 :4000K(100hr後)

実施例1の光束維持率の変化を、比較例のそれと対比して表1に示す。なお、比較例は、末行に示し、放電媒体にハロゲン化ツリウムを追加して封入した以外は実施例1のランプ仕様と同じである。
【0067】
【表1】

表1から理解できるように、本発明は、TmXを含んでいないことにより、点灯3000時間までの光束維持率が比較例に比較して優れている。なお、TmXの封入量を減じた場合、ハロゲン化ジスプロシウムおよびハロゲン化ホルミウムをそれぞれ封入した場合も表1と同様な傾向を示した。
【0068】
次に、実施例1の高圧放電ランプにおいて、以下のように放電媒体のセリウム封入比率を振った試作ランプを各5本試作し、水銀灯用安定器を用いて点灯して100時間点灯後のランプ効率および4000時間点灯後の光束維持率を測定した結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

表2から理解できるように、Ce量が多くなると、ランプ効率(発光効率)が高まる一方、光束維持率が低下することが分かる。しかし、Ceが1.0〜3.0の範囲内であれば、ランプ効率115lm/W以上で、かつ光束維持率80(%)以上が得られる。なお、この傾向は、実施例と異なる定格消費電力の高圧放電ランプにおいても同様であった。
【0070】
次に、比Ca/(Na+Tl)と相関色温度の関係について図3を参照して説明する。なお、図3は、Ce封入比率の下限値1mol%および上限値3mol%をパラメータとして比Ca/(Na+Tl)を振った高圧放電ランプの相関色温度を測定して得たデータに基づいて作成したものである。
【0071】
図3から理解できるように、比Ca/(Na+Tl)が大きくなるにしたがって相関色温度がほぼ直線的に高くなる。そして、Ceが1.0〜3.0の範囲内であれば、比Ca/(Na+Tl)を0.2〜1.4の範囲内とすれば、3500〜4500Kの光色を得ることができる。
【実施例2】
【0072】
実施例1と同じランプ仕様において、放電媒体の金属ハロゲン化物のハロゲンの一部を臭素に変更した。

【0073】
実施例2において、ハロゲン元素総封入量に対して臭素(Br)を3〜80mol%となるように振って封入した試作ランプを各5本試作し、水銀灯用安定器を用いて点灯して光束維持率を測定した結果を表3に示す。なお、表中、Brが0mol%は臭素を封入していない比較例である。
【0074】
【表3】

表3から理解できるように、ハロゲン元素総封入量に対して臭素(Br)が5〜60mol%であれば、点灯3000時間までの光束維持率が相対的に優れている。なお、ランプ効率および相関色温度は臭素を封入しない場合と同様であった。
【符号の説明】
【0075】
1…透光性セラミックス気密容器、1a…包囲部、1b…小径筒部、2…電極、3…電流導入導体、11…ステム、19…グロースタータ(点灯管)、20…熱応動スイッチ、21…限流抵抗器、B…口金、G…パーフォーマンスゲッタ、IT…発光管、OT…外管、SF…支持構体、SH…シュラウド、ST…始動手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性セラミックスからなり内部に放電空間を有する透光性セラミックス気密容器と;
透光性セラミックス気密容器内に放電空間を挟んで離間対向して配設された一対の電極と;
水銀、希ガスおよび金属ハロゲン化物により構成されていて透光性セラミックス気密容器の内部に封入され、金属ハロゲン化物は、ハロゲン化ナトリウム(NaX)、ハロゲン化タリウム(TlX)ハロゲン化セリウム(CeX)およびハロゲン化カルシウム(CaX)を含み、かつハロゲン化ジスプロシウム(DyX)、ハロゲン化ホルミウム(HoX)およびハロゲン化ツリウム(TmX)を含まないとともに、金属ハロゲン化物の総封入量に対して金属元素セリウム(Ce)が1〜3mol%で、金属元素ナトリウム(Na)と金属元素タリウム(Tl)の比Na/Tlのmol比が2〜5、金属元素のカルシウム(Ca)とナトリウムおよびタリウムの和(Na+Tl)との比Ca/(Na+Tl)のmol比が0.2〜1.4である放電媒体と;
を具備し、相関色温度が3500〜4500Kであることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
放電媒体は、ハロゲンの総封入量に対して臭素(Br)を5〜60mol%含むことを特徴とする請求項1記載の高圧放電ランプ。
【請求項3】
透光性セラミックス気密容器の最大内径をdとし、電極間距離をLとしたとき、比L/dが0.8〜1.8であり、管壁負荷が16〜23W/cmであることを特徴とする請求項1または2記載の高圧放電ランプ。
【請求項4】
照明装置本体と;
照明装置本体に配設された請求項1ないし3のいずれか一記載の高圧放電ランプと;
高圧放電ランプを点灯する点灯装置と;
を具備していることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−216248(P2011−216248A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−81547(P2010−81547)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(301010951)オスラム・メルコ・東芝ライティング株式会社 (37)
【Fターム(参考)】