説明

高圧放電ランプ及びその製造方法

【課題】複雑な製造装置及び煩雑な作業性を要することなく放電空間への封入ガスの導入が容易であると共に封入したガスの完全気密性を確保することが可能な高圧放電ランプ及びその製造方法を実現することにある。
【解決手段】筒状の放電管2の両端部2a、2bに封着用接着剤のコンパウンド5を介して気密に封着された金属パイプ3、4の小径部3b、4b内に、先端電極部6a、7aと該先端電極部6a、7aから延びて所定の位置に螺旋状のコイル8、9が装着された電極軸6b、7bを有する電極6、7が該小径部3b、4bに沿って挿入されてコイル8、9の溶融部8a、9aによって気密に支持固定されていると共に、コイル8、9のコイル部8b、9bの外周が小径部3b、4bの内周面に当接することにより、電極6、7の放電管2の中心軸X方向(長手方向)に垂直な方向の位置決めが行われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧放電ランプ及びその製造方法に関するものであり、詳しくは、電極軸の先端部に形成された先端電極部が発光部の放電室内に配置されて該電極軸が気密に封止された高圧放電ランプ及びその気密封止の工程を有する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の高圧放電ランプ80の例として、図10に示す構成のものが開示されている。それは、略パイプ状の透光性セラミックスにより放電管81が形成され、放電管81の両端部に封着用接着剤のコンパウンド82を介して金属パイプ83が気密に封着されている。そして、電極軸84と電極軸84の先端に形成された先端電極部85からなる電極86が金属パイプ83内に挿入されて金属パイプ83の端部が絞り込まれ、絞り込まれた狭径部87と電極軸84が溶融されて完全封止されたものである。
【0003】
このとき、放電管81、金属パイプ83及び電極86で形成された発光部88内にはハロゲン化金属や封入ガスが封入されており、封入ガスの発光部88への導入に際しては、金属パイプ83に狭径部87を形成した後に狭径部87と電極軸84との隙間を通して封入ガスを発光部88内に導入し、その後、狭径部87と電極軸84とをレーザ等の溶融手段で気密封止することにより発光部88を完全気密状態とするものである(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−220350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記高圧放電ランプ80は、狭径部87と電極軸84との溶着封止前に狭径部87と電極軸84との隙間に偏りがあると互いの溶着部全面に亘って均一な溶着状態を確保するのが難しく、発光部88の気密性が不確実なものとなって信頼性を損なう可能性がある。
【0006】
また、狭径部87と電極軸84との隙間が大きくなると狭径部87と電極軸84との溶融による封止自体が困難となり、発光部88を完全な気密状態にすることができなくなる可能性がある。
【0007】
そこで、電極軸84の外径を大きくすることにより狭径部87と電極軸84との隙間を狭めて溶着封止性を高めることが考えられるが、溶着封止性は改善される半面、封入ガスの通路が狭まることにより発光部88内への封入ガスの導入に要する時間が長くなり、生産性を低下させることになる。
【0008】
また、電極86を金属パイプ83内に挿入する前に発光部88内に封入ガスを導入し、その後、電極86を金属パイプ83内に挿入して金属パイプ83の端部を絞り込み、絞り込まれた狭径部87と電極軸84を溶融して完全気密封止する方法も可能である。但し、この場合は、電極86の金属パイプ83内への導入作業を高圧の雰囲気中で行わなければならず、複雑な製造装置及び煩雑な作業性を必要とすることになり、製造コストを上昇させることになる。
【0009】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて創案なされたもので、その目的とするところは、複雑な製造装置及び煩雑な作業性を要することなく発光部への封入ガスの導入が容易であると共に封入したガスの完全気密性を確保することが可能な高圧放電ランプ及びその製造方法を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載された発明は、両端開口を有する筒状の放電管と、前記放電管の両端部に一端部を気密に封着された一対の金属パイプと、前記一対の金属パイプの他端部に気密に挿通された一対の電極と、を備え、前記放電管、前記一対の金属パイプ及び前記一対の電極で形成された放電空間内に封入ガスを封入してなる高圧放電ランプであって、前記金属パイプと該金属パイプに挿通された前記電極との間の気密は、前記電極に装着された螺旋状のコイルの一部が溶融された溶融部を介して行われ、溶融されないで残った螺旋状のコイル部は少なくともその一部の外周が前記金属パイプの内周面、及び/又は、前記放電管の内周面に当接していることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の請求項2に記載された発明は、両端開口を有する筒状の放電管と、前記放電管の両端部に一端部を気密に封着された一対の金属パイプと、前記一対の金属パイプの他端部に気密に挿通された一対の電極と、を備え、前記放電管、前記一対の金属パイプ及び前記一対の電極で形成された放電空間内に封入ガスを封入してなる高圧放電ランプであって、前記金属パイプと該金属パイプに挿通された前記電極との間の気密は、前記電極の前記放電空間内側から外側に向って延びる凹状の溝が形成された領域の一部が溶融された溶融部を介して行われ、溶融されないで残った前記電極の少なくともその一部の外周が前記金属パイプの内周面、及び/又は、前記放電管の内周面に当接していることを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明の請求項3に記載された発明は、請求項2において、前記溝は螺旋状に形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明の請求項4に記載された発明は、請求項1から請求項3のいずれかにおいて、前記一対の金属パイプの夫々は、前記他端部が前記一端部よりも内径及び外径が小さいことを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明の請求項5に記載された発明は、両端開口を有する筒状の放電管と、前記放電管の両端部に一端部を気密に封着された一対の金属パイプと、前記一対の金属パイプの他端部に気密に挿通された一対の電極と、を備え、前記放電管、前記一対の金属パイプ及び前記一対の電極で形成された放電空間内に封入ガスを封入してなる高圧放電ランプの製造方法であって、両端開口を有する筒状の放電管の両端部に金属パイプの一端部を気密に封着する工程と、所定の位置に螺旋状のコイルが装着された電極を一方の前記金属パイプ内に挿入して前記コイルが前記金属パイプの他端部の位置に位置するように配置した状態で、前記コイルの一部を加熱溶融することにより前記金属パイプに前記電極を気密に挿通する工程と、所定の位置に螺旋状のコイルが装着された電極を他方の前記金属パイプ内に挿入して前記コイルが前記金属パイプの他端部の位置に位置するように配置した状態で、前記電極と前記金属パイプの他端部との間に形成された前記コイルの螺旋状の隙間を通して前記放電管内に封入ガスを導入し、その後、前記コイルの一部を加熱溶融することにより前記金属パイプに前記電極を気密に挿通する工程と、を備えていることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明の請求項6に記載された発明は、両端開口を有する筒状の放電管と、前記放電管の両端部に一端部を気密に封着された一対の金属パイプと、前記一対の金属パイプの他端部に気密に挿通された一対の電極と、を備え、前記放電管、前記一対の金属パイプ及び前記一対の電極で形成された放電空間内に封入ガスを封入してなる高圧放電ランプの製造方法であって、両端開口を有する筒状の放電管の両端部に金属パイプの一端部を気密に封着する工程と、所定の位置に凹状の溝が形成された電極を一方の前記金属パイプ内に挿入して前記溝が形成された領域が前記金属パイプの他端部の位置に位置するように配置した状態で、前記電極の前記溝が形成された領域の一部を加熱溶融することにより前記金属パイプに前記電極を気密に挿通する工程と、所定の位置に凹状の溝が形成された電極を他方の前記金属パイプ内に挿入して前記溝が形成された領域が前記金属パイプの他端部の位置に位置するように配置した状態で、前記電極の前記放電空間内側から外側に向って延びる前記溝を通して前記放電管内に封入ガスを導入し、その後、前記電極の前記溝が形成された領域の一部を加熱溶融することにより前記金属パイプに前記電極を気密に挿通する工程と、を備えていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の高圧放電ランプはその製造方法において、所定の位置に螺旋状のコイルが装着された電極を、筒状の放電管の両端部に一端部を気密に封着された金属パイプの他端部に挿入し、電極と金属パイプの他端部との間に形成されたコイルの螺旋状の隙間を通して放電管内に封入ガスを導入し、その後、コイルの一部を加熱溶融することにより金属パイプに電極を気密に挿通するようにした。
【0017】
その結果、封入ガスの導入が気体流路断面の形状寸法が均一な、コイルの螺旋状の隙間を通して行われるため、円滑な気体の流れを形成することができる。
【0018】
また、金属パイプ内への電極の挿入を高圧雰囲気中で行う必要がないため、複雑な製造装置及び煩雑な作業性を必要とすることがない。そのため、安価な生産設備を用いて良好な生産効率によって廉価な製造コストを実現することができる。
【0019】
更に、製造工程中及び製造工程を経て作製された製品において、加熱溶融されないで残った螺旋状のコイル部の少なくとも一部の外周が金属パイプの内周面、及び/又は、放電管の内周面に当接した状態を維持するものである。
【0020】
その結果、電極の位置決め精度の高い高圧放電ランプを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係わる高圧放電ランプの側面図である。
【図2】同じく、本発明の実施形態に係わる高圧放電ランプの断面図である。
【図3】図2の部分拡大図である。
【図4−1】本発明の実施形態に係わる高圧放電ランプの製造工程図である。
【図4−2】本発明の実施形態に係わる高圧放電ランプの製造工程図である。
【図5】図4の製造工程図における詳細説明図である。
【図6】他の構成からなる電極の説明図である。
【図7】図6の電極を用いた製造工程における詳細説明図である。
【図8】同様に、図6の電極を用いた製造工程における詳細説明図である。
【図9】同様に、図6の電極を用いた製造工程における詳細説明図である。
【図10】従来例の高圧放電ランプの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図9を参照しながら、詳細に説明する(同一部分については同じ符号を付す)。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係わる高圧放電ランプ1の側面図、図2は同じく高圧放電ランプ1の断面図である。
【0024】
高圧放電ランプ(以下、放電ランプと略称する)1は、透光性セラミックスからなる筒状の放電管2の両端部2a、2bの夫々に、例えば、タンタル、タングステン、モリブデン等の高融点金属で形成された金属パイプ3、4の一端部が挿入され、該挿入部(挿入封着部)3a、4aにおいて金属パイプ3、4と放電管2とがフリット又はサーメット或いはセラミックスからなるコンパウンド5を介して気密に封着されている。
【0025】
各金属パイプ3、4の他端部は、挿入部3a、4aの径(内径及び外径)よりも小さい径(内径及び外径)の小径部3b、4bが形成されており、小径部3b、4bの内側には該小径部3b、4bに沿う電極6、7が気密に支持固定されている。
【0026】
電極6、7は、金属パイプ3、4と同様に、例えば、タンタル、タングステン、モリブデン等の高融点金属で形成され、先端部に放電電極となる先端電極部6a、7aが位置すると共に該先端電極部6a、7aから直線状に延びる電極軸6b、7bを有している。
【0027】
電極6、7の夫々と各金属パイプ3、4の小径部3b、4bの夫々との気密支持固定は、図3(図2の部分拡大図)に示すように、電極6、7の夫々の電極軸6b、7bに所定の巻線ピッチ及び巻線数で装着された所定の径のコイル8、9の一部が加熱溶融された溶融部8a、9aを介して行われている。
【0028】
また、コイル8、9の加熱溶融された溶融部8a、9a以外の螺旋状のコイル部8b、9bは、その外周が小径部3b、4bの内周面3c、4cに当接した状態となっている。これにより、小径部3b、4bに対する電極軸6b、7bの位置決めを高精度に行っている。つまり、放電管2に対する電極6、7の先端電極部6a、7aの位置決めが高精度に行われていることを意味するものである。
【0029】
この場合、小径部3b、4bに対する電極軸6b、7bの位置決めは、コイル8、9の溶融部8a、9aを介しても行われているが、更に、電極6、7の先端電極部6a、7a(図示せず)側に位置するコイル部8b、9bで位置決めを行うことにより、先端電極部6a、7aの位置決めを更に高精度に行うことができる。その結果、放電発光の発光光による配光特性の再現性が良好な放電ランプを実現することができる。
【0030】
また、同時に、溶融部8a、9aよりも電極6、7の先端電極部6a、7a側に位置するコイル部8b、9bで位置決めを行うことにより、位置決めの位置から先端電極部6a、7aの位置までの距離が短縮される。その結果、外部からの機械的振動による先端電極部6a、7aへの影響が低減され、厳しい機械的振動の環境下にあっても安定した放電発光を得ることができる。
【0031】
なお、コイル8、9の材質は電極6、7の電極軸6b、7b及び金属パイプ3、4の材質と同一であることが好ましいが、必ずしもこれに限られるものではない。
【0032】
このように、図1及び図2に戻って、放電管2、コンパウンド5、金属パイプ3、4、コイル8、9及び電極6、7で完全気密の放電空間10が形成されている。また、放電空間10内には、例えば、キセノンを主成分とするガスなどの封入ガス11が封入されていると共に両端部には電極6、7の先端電極部6a、7aが位置しており、先端電極部6a、7aから延びる電極軸6b、7bが放電管2の中心軸線X上を放電空間10内から外部に気密に導出されている。
【0033】
次に、上述の本実施形態に係わる放電ランプ1の製造工程について図4及び図5を参照して詳細に説明する。
【0034】
まず、図4(a)の材料準備工程において、透光性セラミックスからなり内径が全長に亘り同一径とされる筒状の放電管2と、例えば、タンタル、タングステン、モリブデン等の高融点金属からなり両端を開口とし、一端開口部を、その外径を放電管2の内径に適宜の間隙を有して挿入可能とされる径とした挿入部(挿入封着部)3a、4aとし、他端開口部を、その外径を一端開口部の外径よりも小径とすると共に内径を後述する電極6、7の電極軸6b、7bに装着されたコイル8、9の外周が適宜の間隙を有して挿入可能とされる径とした小径部3b、4bとする一対の金属パイプ3、4を準備する。
【0035】
次に、図4(b)の放電管と金属パイプとの気密封着工程において、放電管2の両端部2a、2bの内周面、及び/又は、金属パイプ3、4の挿入封着部3a、4aの外周面に封着用接着剤となるコンパウンド5を塗布し、放電管2の両端部2a、2bに各金属パイプ3、4の挿入封着部3a、4aを挿入する。その後、コンパウンド5を加熱溶融して放電管2の両端部2a、2bと金属パイプ3、4の挿入部3a、4aとを気密に封着する。
【0036】
次に、図4(c)の一対の電極のうち一方の電極準備工程において、放電電極となる先端電極部6aと該先端電極部6aから直線状に延びる電極軸6bからなる電極6を形成し、電極軸6bの所定の位置に、所定の線径、所定の巻線ピッチ及び所定の巻線数のコイル8を装着する。この場合、電極軸6bに対するコイル8の固定方法は、コイル8の内径を電極軸6bの外径とほぼ同一とし、コイル8を電極軸6bに挿入した後に抵抗溶接等の溶接手段によって固定する方法、或いはコイル8の内径を電極軸6bの外径よりも小さいものとし、コイル8の内径を拡げた状態にして電極軸6bに挿入することによりスプリングバックの応力によって固定する方法などが可能である。
【0037】
次に、図4(d)の電極挿入工程において、一対の金属パイプ3、4のうちの一方の金属パイプ3の小径部3b内に該小径部3bに沿って電極6を挿入し、電極軸6bに装着されたコイル8を金属パイプ3の小径部3bの位置に位置させて電極6の、放電管2の中心軸X方向(長手方向)に対する位置決めを行う。一方、電極6の、放電管2の中心軸X方向(長手方向)に垂直な方向の位置決めは、金属パイプ3の小径部3bの内周面にコイル8の外周が当接することにより行われる。そして、このように位置決めされた電極6は、図示してはいないが、電極軸6bの先端部(製造工程上では上端部)をクランプすることにより保持されている(電極6の中心軸X方向(長手方向)に対する位置決め)。
【0038】
次に、図4(e)の小径部の気密封止工程において、金属パイプ3の小径部3bに向けて周囲から、例えばレーザ光を照射して小径部3b、コイル8及び電極軸6bを溶融させ、一体化して気密封止する。この場合、コイル8は全長に亘って溶融されるのではなくその一部が溶融され、溶融された部分の溶融部8aと溶融されることなく残った螺旋状の部分のコイル部8bとの2つの状態に分かれる。このとき、溶融部8aは金属パイプ3の小径部3bと電極6の電極軸6bとによる気密封止に寄与し、コイル部8bはその外周が金属パイプ3の小径部3bの内周面に当接することにより、電極6の、放電管2の中心軸X方向(長手方向)に垂直な方向の位置決めに寄与するものである。
【0039】
次に、図4(f)の一対の電極のうち他方の電極準備工程において、放電電極となる先端電極部7aと該先端電極部7aから直線状に延びる電極軸7bからなる電極7を形成し、電極軸7bの所定の位置に、所定の線径、所定の巻線ピッチ及び所定の巻線数のコイル9を装着する。この場合、電極軸7bに対するコイル9の固定方法は、コイル9の内径を電極軸7bの外径とほぼ同一とし、コイル9を電極軸7bに挿入した後に抵抗溶接等の溶接手段によって固定する方法、或いはコイル9の内径を電極軸7bの外径よりも小さいものとし、コイル9の内径を拡げた状態にして電極軸7bに挿入することによりスプリングバックの応力によって固定する方法などが可能である。
【0040】
次に、図4(g)の電極挿入工程において、一対の金属パイプ3、4のうちの他方の金属パイプ4の小径部4b内に該小径部4bに沿って電極7を挿入し、電極軸7bに装着されたコイル9を金属パイプ4の小径部4bの位置に位置させて電極7の、放電管2の中心軸X方向(長手方向)に対する位置決めを行う。一方、電極7の、放電管2の中心軸X方向(長手方向)に垂直な方向の位置決めは、金属パイプ4の小径部4bの内周面にコイル9の外周が当接することにより行われる。そして、このように位置決めされた電極7は、図示してはいないが、電極軸7bの先端部(製造工程上では上端部)をクランプすることにより保持されている(電極7の中心軸X方向(長手方向)に対する位置決め)。
【0041】
次に、図4(h)の封入ガス導入工程において、金属パイプ4側から放電空間10に対する排気、希ガスの置換及び例えば、キセノンを主成分とするガス(封入ガス11)の導入を行う。この場合、放電空間10に対するガスの排気、置換及び導入は、電極7の電極軸7bと金属パイプ4の小径部4bとの間に形成された、コイル9の螺旋状の隙間9cを通して行われる(図5参照)。
【0042】
最後に、図4(i)の完全封止工程において、金属パイプ4の小径部4bに向けて周囲から、例えばレーザ光を照射して小径部4b、コイル9及び電極軸7bを溶融させ、一体化して気密封止する。この場合、コイル9は全長に亘って溶融されるのではなくその一部が溶融され、溶融された部分の溶融部9aと溶融されることなく残った螺旋状の部分のコイル部9bとの2つの状態に分かれる。このとき、溶融部9aは金属パイプ4の小径部4bと電極7の電極軸7bとによる気密封止に寄与し、コイル部9bはその外周が金属パイプ4の小径部4bの内周面に当接することにより、電極7の、放電管2の中心軸X方向(長手方向)に垂直な方向の位置決めに寄与するものである。これにより、高圧放電ランプ1が完成する。
【0043】
なお、特にメタルハライドランプを製造する場合には、図4(f)の工程(電極7挿入前)で、液体又は固体(ペレット等)のハロゲン化金属等を内部に導入する工程が追加される。
【0044】
ところで、上記高圧放電ランプ1の製造工程において、特に、電極6、7の放電管2に対する放電管2の中心軸X方向(長手方向)に垂直な方向の位置決めを、放電管2の両端部2a、2bに気密に装着された金属パイプ3、4の夫々の小径部3b、4bの内周面に電極6、7の夫々の電極軸6b、7bに装着されたコイル8、9の外周を当接させることにより行うようにした。
【0045】
これにより、電極軸6b、7bにコイル8、9が装着された電極6、7を金属パイプ3、4の小径部3b、4b内に挿入することにより、自動的にコイル8、9を介して小径部3b、4bの中心に電極軸6b、7bが精度良く位置することになる。その結果、放電発光の発光光による配光特性の再現性が良好な放電ランプを容易に作製することができる。
【0046】
同時に、金属パイプ3、4の小径部3b、4bの内周面と電極6、7の電極軸6b、7bの外周面との間隔をコイル8、9を介して周方向全体に亘って均一にした状態で、小径部3b、4bと電極軸6b、7bとの溶着による気密封止をコイル8、9の溶融部8a、9aを介して行うようにした。その結果、小径部3b、4bと電極軸6b、7bとの溶着が周方向全体に亘って均一な状態に形成され、放電空間10の気密性が確実に保たれた信頼性の高い放電ランプを作製することができる。
【0047】
また、放電管2に対する電極6、7の位置決めをした状態において、電極7の電極軸7bと金属パイプ4の小径部4bとの間に形成された、コイル9の螺旋状の隙間9cを通して、排気、希ガスの置換及び例えば、キセノンを主成分とするガス(封入ガス11)の導入を行うようにした。
【0048】
その結果、排気、希ガスの置換及び例えば、キセノンを主成分とするガス(封入ガス11)の導入が、気体流路断面の形状寸法が均一な、コイル9の螺旋状の隙間9cを通して行われ、円滑な気体の流れを形成することができる。
【0049】
また、金属パイプ3、4の小径部3b、4b内への電極6、7の挿入を高圧雰囲気中で行う必要がないため、複雑な製造装置及び煩雑な作業性を必要とすることがない。そのため、安価な生産設備を用いて良好な生産効率によって廉価な製造コストを実現することができる。
【0050】
ところで、電極軸6b、7bの夫々にコイル8、9が装着されてなる電極6、7の代わりに、図6の構造の電極20、21を用いることも可能である。
【0051】
それは、先端電極部20a、20bは上述の電極6、7の先端電極部6a、7aと同様であるが、電極軸6b、7bにコイル8、9を装着する代わりに、電極軸20b、21bを加工することにより該電極軸20b、21bの所定の位置に所定の幅及び深さの溝22、23が所定の螺旋ピッチ及び螺旋回数で螺旋状に形成されたものである。
【0052】
このような構造の電極20、21は、製造工程の電極挿入工程において図7に示すように、放電管2の両端に気密に装着された金属パイプ3、4の夫々の小径部3b、4b内に該小径部3b、4bに沿って挿入し、電極軸20b、21bに形成された螺旋状の溝22、23を小径部3b、4bの位置に位置させる。
【0053】
すると、電極20、21の放電管2に対する放電管2の中心軸X方向(長手方向)及び中心軸X方向(長手方向)に垂直な方向の位置決めが行われる。
【0054】
そこで、この状態において製造工程の封入ガス導入工程にあるように、例えば金属パイプ4側から放電空間10に対する排気、希ガスの置換及び例えば、キセノンを主成分とするガス(封入ガス11)の導入を行う。この場合、図8に示すように、ガスの排気、置換及び導入は、電極21の電極軸21bと金属パイプ4の小径部4bとの間に形成された、螺旋状の溝23を通して行われる。
【0055】
また、小径部の気密封止工程及び完全封止工程においては、図9のように、金属パイプ3、4の小径部3b、4bに向けて周囲から、例えばレーザ光を照射して小径部3b、4b、及び電極軸20b、21bの溝形成部22a、23aを溶融させ、一体化して気密封止する。この場合、溝形成部22a、23aは全長に亘って溶融されるのではなくその一部が溶融され、溶融された部分の溶融部22b、23bと溶融されることなく残った螺旋状の溝22、23の部分の溝部22c、23cとの2つの状態に分かれる。このとき、溶融部22b、23bは金属パイプ3、4の小径部3b、4bと電極20、21の電極軸20b、21bとによる気密封止に寄与し、溝部22c、23cは溝22、23以外の外周が金属パイプ3、4の小径部3b、4bの内周面に当接することにより、電極20、21の、放電管2の中心軸X方向(長手方向)に垂直な方向の位置決めに寄与するものである。
【0056】
このように、電極軸20b、21bの夫々に螺旋状の溝22、23が形成されてなる電極20、21は、電極軸6b、7bの夫々にコイル8、9が装着されてなる電極6、7と製造工程及び製品において同等の機能、作用及び効果を発揮するものである。
【0057】
なお、電極20、21の電極軸20b、21bに形成される溝22、23は必ずしも螺旋状である必要はなく、放電空間内への封入ガス導入工程において、放電空間内と放電空間外とを繋ぐことにより該溝22、23を通して放電空間外から放電空間内への封入ガスの導入が可能であれば良い。
【0058】
また、電極軸6b、7bの夫々にコイル8、9が装着されてなる電極6、7、及び電極軸20b、21bの夫々に溝22、23が形成されてなる電極20、21の、放電管2の中心軸X方向(長手方向)に垂直な方向の位置決めは、金属パイプ3、4の夫々の内周面3c、4cにコイル8、9のコイル部8b、9bの外周、又は電極軸20b、21bの溝部22c、23cの溝22、23以外の外周が当接することにより行われるものであるが、コイル部8b、9bの延長又は溝部22c、23cの延長、放電管2の形状の変更などの手段により放電管2の内周面に当接させて位置決めを行うことも可能である。
【0059】
この場合、位置決めの位置から先端電極部6a、7a又は先端電極部20a、21aの位置までの距離が更に短縮され、外部からの機械的振動による先端電極部6a、7a又は先端電極部20a、21aへの影響が更に低減されて厳しい機械的振動の環境下にあっても極めて安定した放電発光を得ることができる。
【符号の説明】
【0060】
1… 高圧放電ランプ
2… 放電管
2a… 端部
2b… 端部
3… 金属パイプ
3a… 挿入部(挿入封着部)
3b… 小径部
3c… 内周面
4… 金属パイプ
4a… 挿入部(挿入封着部)
4b… 小径部
4c… 内周面
5… コンパウンド
6… 電極
6a… 先端電極部
6b… 電極軸
7… 電極
7a… 先端電極部
7b… 電極軸
8… コイル
8a… 溶融部
8b… コイル部
9… コイル
9a… 溶融部
9b… コイル部
9c… 隙間
10… 放電空間
11… 封入ガス
20… 電極
20a… 先端電極部
20b… 電極軸
21… 電極
21a… 先端電極部
21b… 電極軸
22… 溝
22a… 溝形成部
22b… 溶融部
22c… 溝部
23… 溝
23a… 溝形成部
23b… 溶融部
23c… 溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端開口を有する筒状の放電管と、
前記放電管の両端部に一端部を気密に封着された一対の金属パイプと、
前記一対の金属パイプの他端部に気密に挿通された一対の電極と、を備え、
前記放電管、前記一対の金属パイプ及び前記一対の電極で形成された放電空間内に封入ガスを封入してなる高圧放電ランプであって、
前記金属パイプと該金属パイプに挿通された前記電極との間の気密は、前記電極に装着された螺旋状のコイルの一部が溶融された溶融部を介して行われ、溶融されないで残った螺旋状のコイル部は少なくともその一部の外周が前記金属パイプの内周面、及び/又は、前記放電管の内周面に当接していることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
両端開口を有する筒状の放電管と、
前記放電管の両端部に一端部を気密に封着された一対の金属パイプと、
前記一対の金属パイプの他端部に気密に挿通された一対の電極と、を備え、
前記放電管、前記一対の金属パイプ及び前記一対の電極で形成された放電空間内に封入ガスを封入してなる高圧放電ランプであって、
前記金属パイプと該金属パイプに挿通された前記電極との間の気密は、前記電極の前記放電空間内側から外側に向って延びる凹状の溝が形成された領域の一部が溶融された溶融部を介して行われ、溶融されないで残った前記電極の少なくともその一部の外周が前記金属パイプの内周面、及び/又は、前記放電管の内周面に当接していることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項3】
前記溝は螺旋状に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の高圧放電ランプ。
【請求項4】
前記一対の金属パイプの夫々は、前記他端部が前記一端部よりも内径及び外径が小さいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の高圧放電ランプ。
【請求項5】
両端開口を有する筒状の放電管と、
前記放電管の両端部に一端部を気密に封着された一対の金属パイプと、
前記一対の金属パイプの他端部に気密に挿通された一対の電極と、を備え、
前記放電管、前記一対の金属パイプ及び前記一対の電極で形成された放電空間内に封入ガスを封入してなる高圧放電ランプの製造方法であって、
両端開口を有する筒状の放電管の両端部に金属パイプの一端部を気密に封着する工程と、
所定の位置に螺旋状のコイルが装着された電極を一方の前記金属パイプ内に挿入して前記コイルが前記金属パイプの他端部の位置に位置するように配置した状態で、前記コイルの一部を加熱溶融することにより前記金属パイプに前記電極を気密に挿通する工程と、
所定の位置に螺旋状のコイルが装着された電極を他方の前記金属パイプ内に挿入して前記コイルが前記金属パイプの他端部の位置に位置するように配置した状態で、前記電極と前記金属パイプの他端部との間に形成された前記コイルの螺旋状の隙間を通して前記放電管内に封入ガスを導入し、その後、前記コイルの一部を加熱溶融することにより前記金属パイプに前記電極を気密に挿通する工程と、を備えていることを特徴とする高圧放電ランプの製造方法。
【請求項6】
両端開口を有する筒状の放電管と、
前記放電管の両端部に一端部を気密に封着された一対の金属パイプと、
前記一対の金属パイプの他端部に気密に挿通された一対の電極と、を備え、
前記放電管、前記一対の金属パイプ及び前記一対の電極で形成された放電空間内に封入ガスを封入してなる高圧放電ランプの製造方法であって、
両端開口を有する筒状の放電管の両端部に金属パイプの一端部を気密に封着する工程と、
所定の位置に凹状の溝が形成された電極を一方の前記金属パイプ内に挿入して前記溝が形成された領域が前記金属パイプの他端部の位置に位置するように配置した状態で、前記電極の前記溝が形成された領域の一部を加熱溶融することにより前記金属パイプに前記電極を気密に挿通する工程と、
所定の位置に凹状の溝が形成された電極を他方の前記金属パイプ内に挿入して前記溝が形成された領域が前記金属パイプの他端部の位置に位置するように配置した状態で、前記電極の前記放電空間内側から外側に向って延びる前記溝を通して前記放電管内に封入ガスを導入し、その後、前記電極の前記溝が形成された領域の一部を加熱溶融することにより前記金属パイプに前記電極を気密に挿通する工程と、を備えていることを特徴とする高圧放電ランプの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate