説明

高圧放電ランプ

【課題】発光管の発光部内に対向配置された一対の電極の電極軸が、封止部内に埋設された保持用筒体の貫通孔内に挿通され、その後端部で金属箔に接合されてなる高圧放電ランプにおいて、前記発光部の内周面部と前記保持用筒体の外周面部との接合部位にくさび状の空隙ができることのないような構造を提供することにある。
【解決手段】前記発光管を溶融石英ガラスから構成し、前記保持用筒体を合成石英ガラスから構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高圧放電ランプに関するものであり、特に、プロジェクター装置用光源、露光装置用光源に利用される高圧放電ランプに係るものである。
【背景技術】
【0002】
この種の高圧放電ランプにおけるシール構造としては、電極軸の根元が封止部に埋設された金属箔と接合する、いわゆる箔シール構造が採用される。また、かかる箔シール構造においては、電極軸を保持するための保持用筒体を採用することが行われている。特開2009−146590号公報にその構造が示されている。
図3に該従来技術が示されている。
図3において、高圧放電ランプAは、石英ガラスからなる発光部2とその両端の封止部3、3からなる発光管1を備え、発光部2内には一対の電極4、4が対向配置されている。
封止部3の発光部2側の端部には石英ガラスからなる保持用筒体6が埋設・溶着されていて、前記電極4の電極軸5は該保持用筒体6の貫通孔7を貫通して後方に延び、その後方端部で封止部3内に埋設された金属箔8に接合されている。
なお、上記文献では、この保持用筒体6の貫通孔7の断面形状を、平坦面または内方に凸となるよう形成して3箇所以上で電極軸5を保持することにより、保持用筒体6と、電極軸5との過度の固着を防止し、電極曲がりの発生を防止できることが記載されている。
【0003】
しかして、上記従来技術のように、封止部内に電極軸を支持するための保持用筒体を用いたことにより新たな問題が発生している。
上述のように、石英ガラスよりなる保持用筒体6は、同じく石英ガラスよりなる発光管1の封止部3と溶着される。封止作業時に封止部3の外周から、例えばバーナーなどにより加熱して溶着するものであるが、封止部3の内部と外部を同じ温度にすることはできず、その内周部においては、外周部よりも温度が上昇せずに十分な溶融状態とすることが難しい。
更には、この封止部3内にある保持用筒体6の加熱も、封止部外部からの加熱では更に困難であり、一層の温度差が生じる。
【0004】
加えて、発光部2と封止部3の境目近傍は、発光部2を構成する石英ガラスがここから球状に広がっていて加熱しにくいことと、十分に加熱しようとして加熱時間を延長しようとすると、電極軸5と保持用筒体6の過度の密着を招いてしまい、これが電極曲がりの原因となる。そのため、加熱時間にも制限があり、この部分での溶着が特に困難である。
これらの理由により、封止部3と発光部2の境目近傍に配置される保持用筒体6の発光部2側の端部の外周を十分に加熱して軟化溶融させることができず、封止部3と完全に溶着させることは困難であった。
【0005】
図4は、こうして溶着された保持用筒体6の発光部2側の端部近傍の拡大断面図を示す。
上記のように封止部3内に保持用筒体6が溶着されるが、発光空間Sを覆う発光部2の内周面と、電極4の電極軸5を保持する保持用筒体6との間には、くさび状の空隙10が形成されてしまうことが避けられなかった。なお、図においては、該空隙10は説明のために誇張して表現されている。
上記において、保持用筒体6の外周面部は、十分に加熱されれば、軟化して封止部3の内周面部に溶着する。しかしながら、特に、保持用筒体6の発光部2側の端部近傍では、前述のように加熱が困難であるために、その外周面部は十分には軟化せず、封止部3と保持用筒体6の両者が十分に溶融軟化して互いに溶着する状態には至らず、発光部2の内周面との間にくさび状の空隙10が残存してしまうものである。
このくさび状空隙10が存在すると、ランプ点灯時にはこの空隙10に高圧がかかって該空隙10からクラックが入りやすく、当該部位を起点として発光管自体が破裂する原因となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−146590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、電極軸が封止部内に埋設された保持用筒体に挿通されてなる高圧放電ランプにおいて、該保持用筒体と発光部内周面の間にくさび状の隙間を生じることなく両者を溶着できるようにして、当該部位を起点とする破損を防止した高圧放電ランプを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明に係る高圧放電ランプは、発光管が溶融石英ガラスよりなり、該発光管の封止部内に埋設される保持用筒体が合成石英ガラスよりなることを特徴とするものである。
更には、金属箔が幅広部とこれから突出する小幅部よりなり、電極軸は該小幅部で接合され、その接合部が前記保持用筒体の貫通孔内に位置するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、保持用筒体を、発光管を構成する溶融石英ガラスよりも軟化点の低い合成石英ガラスによって構成したことにより、封止作業時に封止部外部から加熱した際に、該保持用筒体が封止部よりも低い温度にしかならなくても十分に軟化溶融し、軟化溶融している封止部と溶着して互いに良くなじみ、保持用筒体端部と発光部内周面とは滑らかな曲面で接合され、その間にくさび状の空隙が生じるようなことがない。
そのため、当該部位を起点とする亀裂が発生するようなことがなく、発光管の破裂を防止できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る高圧放電ランプの部分断面図。
【図2】他の実施例の部分断面図。
【図3】従来例の全体断面図。
【図4】図3の従来例の部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1の部分断面図において、発光部2と封止部3とからなる発光管1は溶融石英ガラスからなり、前記発光部2の放電空間S内には電極4が対向配置されている。
封止管3内には、合成石英ガラスからなる保持用筒体6が埋設されており、前記電極4の電極軸5が該保持用筒体6の貫通孔6a内に挿通されている。そして、該電極軸6の後端は、図1には図示されないが、図3と同様に金属箔と接合されている。
【0012】
封止作業時に封止部3の外周からバーナー等により加熱することにより、封止部3と保持用筒体6とが溶着するが、該保持用筒体6は、発光管1を構成する溶融石英ガラスよりも軟化点が低い合成石英ガラスからなるので、封止部3よりも低い温度でも軟化溶融して、封止部3との十分な溶着が達成される。
そのため、発光部2の内周面部と保持用筒体6の外周面部の接合部11が滑らかな曲面を形成するように接合される。
【0013】
保持用筒体6を構成する合成石英ガラスの軟化点は約1600℃であり、一方、発光管1を構成する溶融石英ガラスの軟化点は、例えば、バーナー溶融石英ガラスの場合は約1660℃であり、電気溶融石英ガラスの場合は約1710℃である。
このように、合成石英ガラスの軟化点は溶融石英ガラスの軟化点より60〜100℃程度低い。これにより、封止作業における発光管1外部からの加熱時に、封止部3よりも温度上昇が低い保持用筒体6も十分に軟化溶融して、封止部3との溶着が十分に達成できる。
【0014】
図2に示す他の実施例においては、封止部3内に埋設される金属箔8は、幅広部8aと、これより突出する小幅部8bとからなる。電極4の電極軸5は保持用筒体6の貫通孔6a内に挿通され、前記金属箔8の小幅部8bと溶接等により接合されている。その接合部15は該保持用筒体6の貫通孔6a内に位置している。
そして、この保持用筒体6内では、金属箔8の小幅部8bが挿入されている部分は、これらと密着するように保持用筒体6が加熱されて封止される。
【0015】
しかして、保持用筒体6内で金属箔8と密着するガラスが合成石英ガラスであるので、含有される不純物が少なく、アルカリ金属イオンの含有量も少ない。
ガラス中にこのアルカリ金属イオンが多く含まれていると、ガラスと金属(金属箔)の酸素を介した結合を切断してしまい、金属箔8とガラス(封止部3)の密着が解かれて、箔浮きが発生しやすくなる。この箔浮きが起ると、その部位を起点としてクラックが発生し易くなる。
しかしながら、本実施例では、上記のように、金属箔8と密着する保持用筒体6にアルカリ金属イオンを殆ど含まない合成石英ガラスを使用しているので、このような箔浮き現象が起こることがないという効果がある。
【0016】
また、該構成とすることにより、電極軸5と金属箔8の小幅部8aとの接合部15が保持用筒体6で包囲されて保持されることになるので、作業工程中に該接合部15に無理な力がかかることがなく、両者が剥離してしまうことがない。
【0017】
以上のように、本発明の高圧放電ランプでは、発光部と封止部よりなる発光管を溶融石英ガラスから構成し、封止部内に埋設した保持用筒体を合成石英ガラスから構成したことにより、封止作業時に保持用筒体の温度が封止部よりも低い状態でも、十分に軟化溶融して発光管(封止部)との溶着が十分になされて、保持用筒体の外周面と発光部の内周面との間の接合が滑らかな曲面でなされる。それにより、かかる接合部位でのクラックの発生が未然に防止できるものである。
【符号の説明】
【0018】
A 高圧放電ランプ
1 発光管
2 発光部
3 封止部
4 電極
5 電極軸
6 保持用筒体
6a 貫通孔
8 金属箔
8a 幅広部
8b 小幅部
11 接合部




【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管の発光部内に対向配置された一対の電極の電極軸が、封止部内に埋設された保持用筒体の貫通孔内に挿通され、その後端部で封止部内の金属箔に接合されてなる高圧放電ランプにおいて、
前記発光管が溶融石英ガラスからなり、前記保持用筒体が合成石英ガラスからなることを特徴とする高圧放電ランプ。
【請求項2】
前記金属箔が幅広部とこれから突出する小幅部とからなり、前記電極軸は該金属箔の小幅部で接合され、その接合部が前記保持用筒体の貫通孔内に位置するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の高圧放電ランプ。




【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate