説明

高圧水噴射表面切削装置と切削方法

回転しながらX−Y方向に移転可能とされている高圧水噴射ノズルヘッドを備え、無機質粒子と樹脂の複合体成形品の表面の樹脂マトリックス部を高圧水噴射によって切削する装置であって、前記ノズルヘッドには、複数の高圧水噴射ノズル(3A、3B)が配置され、かつ、少くとも1以上のノズルの高圧水の噴射中心が前記複合体成形品の基層面に対しての垂直位置から斜め角度(θ)をもって配置されている高圧水噴射表面切削装置とし、凹凸表面形状やレリーフ模様の斜面部についても樹脂マトリックス表層を効果的に切削除去することを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
この出願の発明は、高圧水噴射表面切削装置と切削方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、内外装壁材等の建材や、舗道、モニュメント用の人造石等としての複合体成形品の凹凸表面形状あるいはレリーフ模様の表面仕上げに有用な、高圧水噴射による新しい表面切削装置と、これを用いた表面切削方法に関するものである。
【背景技術】
従来より、樹脂成分と天然石もしくはその粉砕品、あるいは合成無機物等の無機質粒子との混合物より成形された大理石調の、あるいは天然石と類似の人造石等の複合成形品が知られている。これらの複合体成形品については、その素材の配合や色調、そしてその用途についても様々なものが提案されている。
通常、これらの複合体成形品については、前記の樹脂混合物を成形型内に注入して硬化させ、次いで脱型して製品とされている。そして、この成形に際しては、天然石材としての質感、あるいは表面の立体感や明暗のある深み感を実現するために、表面に凹凸形状やレリーフ模様を付与することも行われている。
また、従来より行われているこのような人造石等の複合体の成形においては、たとえば図1に例示したように、複合体成形品(1)の表面には薄膜の樹脂マトリックス表層(2)が存在することから、この樹脂マトリックス表層(2)を高圧水の噴射やあるいは薬品による溶解処理等によって除去するようにしている。この樹脂マトリックス表層(2)は、成形型を用いての注型成形にともなって生成されるものであるが、このものが残されたままであると、複合体成形品(1)の表面はどうしても樹脂(プラスチック)の質感を与えてしまうことになる。そこで、通常は、この樹脂マトリックス表層(2)を脱去して、人造石等の複合体成形品(1)に含有されている天然石粉や鉱物粒を表面に露出させるようにしている。
樹脂マトリックス表層(2)の除去手段としては、薬剤による溶解処理は、廃液等の観点で環境への負荷が大きく好ましくないことから、このような環境負荷があまり大きくなく、しかも樹脂マトリックス表層(2)の除去効果も良好な高圧水(ウォータージェット)噴射によって樹脂マトリックス表層(2)を切削除去することが実際的な手段として考慮されている。
しかしながら、この高圧水噴射は、樹脂マトリックス表層(2)の切削手段として基本的に有効であるものの、より高品質で、高級感のある複合体成形品(1)の表面仕上げ処理のためには改善すべき課題が残されていた。それと言うのも、たとえば図1に例示したような、凹凸表面形状やレリーフ表面模様を有する複合体成形品(1)の場合には、その頂部(11)や平面部(12)の表面切削は良好に行われるものの、斜面部(13)の表面切削は、従来ではどうしても不充分であって、斜面部(13)には樹脂マトリックス表層(2)が残ってしまい、立体的な明暗があって、天然石の質感を与え、意匠性、美観性に優れた高品質の複合体成形品とすることが難しいという問題があった。
そこで、この出願の発明は、以上のような高圧水噴射による従来の表面切削手段の問題点を解消し、凹凸表面形状やレリーフ模様の斜面部についても樹脂マトリックス表層を効果的に切削除去することのできる新しい技術的方策を提供することを課題としている。
【発明の開示】
この出願の発明は、上記の課題を解決すものとして第1には、回転しながらX−Y方向に移転可能とされている高圧水噴射ノズルヘッドを備え、無機質粒子と樹脂の複合体成形品の表面の樹脂マトリックス部を高圧水噴射によって切削する装置であって、前記ノズルヘッドには、複数の高圧水噴射ノズルが配置され、かつ、少くとも1以上のノズルの高圧水の噴射中心が前記複合体成形品の基層面に対しての垂直位置から斜め角度をもって配置されていることを特徴とする高圧水噴射表面切削装置を提供する。
そして、第2には、ノズルの斜め角度は、45°以内の範囲内であることを特徴とする高圧水噴射表面切削装置を、第3には、斜め角度をもって配置されたノズルは、ノズルヘッドの接線に対して回転中心から外向きまたは回転中心に向かう内向きの直交位置にあることを特徴とする高圧水噴射表面切削装置を、第4には、少くとも1以上のノズルは、その噴射中心が基層面に対して斜め角度0°の垂直位置にあるように配置されていることを特徴とする高圧水噴射表面切削装置を提供する。
また、この出願の発明は、以上の装置について、第5には、複数の高圧水噴射ノズルは、ノズルヘッドの回転中心からの距離の異なる少くとも2以上の円周位置に配置されていることを特徴とする高圧水噴射表面切削装置を、第6には、同一の円周位置に配置されている複数のノズルは、ノズルヘッドの回転中心に対して対称位置に配置されていることを特徴とする高圧水噴射表面切削装置を、第7には、同一の円周位置に配置されている複数のノズルは、同一の斜め角度をもって、または同一に垂直に、かつ、接線に対して同一の配置角度を有することを特徴とする高圧水噴射表面切削装置を、第8には、複数の円周位置の各々に配置されているノズルは、円周位置の各々で、斜め角度の大きさが異なることを特徴とする高圧水噴射表面切削装置を提供する。
さらに、この出願の発明は、第9には、以上いずれかの装置による表面切削の方法であって、ノズルからの噴出水が当る前記の成形品の基層面に対する噴出中心の軌跡間の面積が均一になるようにノズルヘッドをX−Y方向に移動させて表面の樹脂マトリックス部を切削することを特徴とする無機質粒子と樹脂の複合体成形品の表面切削方法を提供し、第10には、10μm〜10mmの範囲の厚みの樹脂マトリックス部を切削除去することを特徴とする切削方法を、第11には、基層面からの高さが1〜100mmの範囲の凹凸面を有する成形品の表面を切削する切削方法を提供する。
以上のとおりのこの出願の発明は、発明者らによる詳細から具体的な検討の結果として得られた次のような新しい知見に基づいて完成されている。
すなわち、発明者らの検討によれば、従来の高圧水噴射による樹脂マトリックス表層(2)の切削では、回転円板部に配設する噴射ノズルの数を増やすことや、その回転数(周速)を増加させることで、複合体成形品(1)の表面への高圧水の衝突エネルギーを前記の頂部(11)と平面部(12)、そして斜面部(13)に均一に分散させるようにしてきたが、斜面部(13)の樹脂マトリックス表層(2)の切削除去には限界があった。このことは噴射水の圧力を大きくしても同様であり、かえって過度に圧力を大きくすると、頂部(11)や平面部(12)には損傷が生じることが懸念されていた。しかしながら、従来の垂直配置されている噴射ノズルに代えて、高圧水噴射ノズルの中心が、図1のように基層部(1A)と加飾部(1B)とにより構成される複合体成形品(1)の基層面、すなわち図1の平面部(12)に対して垂直位置から斜め角度をもって配置されている場合、すなわち、斜面部(13)に対してほぼ垂直に高圧水が衝突するように配置している場合には、斜面部(13)の樹脂マトリックス表層(2)を良好に切削することができる。また、基層面、すなわち平面図(12)に対して垂直方向で高圧水を噴射するノズルが併設されている場合には、頂部(11)、そして平面部(12)の樹脂マトリックス表層(2)も良好に切削できることが見出された。このようなことは従来の知識、経験からは全く予期できないことであった。
この知見に基づいて、さらには、この知見を深め、最適な形態を検討することによってこの出願の発明は完成されている。
【図面の簡単な説明】
図1は、複合体成形品について、その一例の断面図とその一部拡大図である。
図2は、ノズルヘッドを例示した底面図である。
図3は、図2におけるA−A矢視断面図である。
図4は、ノズルヘッドの回転移動にともなう軌跡を例示した図である。
なお図中の符号は次のものを示す。
1 複合体成形品
11 頂部
12 平面部
13 斜面部
1A 基層部
1B 加飾部
2 樹脂マトリックス表層
3,3A,3B 高圧水噴射ノズル
3AC,3BC 高圧水の噴射中心
4 回転円板部
【発明を実施するための最良の形態】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
この出願の発明の高圧水噴射表面切削装置では、前記のとおり、少くとも1以上のノズルの高圧水噴射中心が垂直位置から斜め角度をもって配置されていることを特徴としているが、この特徴は、たとえば図2および図3の例として示すことができる。
図2は、複数の高圧水噴射ノズル(3)が回転円板部(4)に配置されている状態を例示した底面図であり、図3は、この図2におけるA−A矢視断面図である。
たとえば、この例のように、この出願の発明の高圧水噴射表面切削装置においては、ノズルヘッドの回転円板部(4)には複数の高圧水噴射ノズル(3)が配置されており、少くとも1以上のノズル(3)、たとえば図3における高圧水噴射ノズル(3A)(3B)の高圧水の噴射中心(3AC)(3BC)は、前記の複合体成形品の基層面に対しての垂直位置から斜め角度(θ)(θ)をもって配置されている。
より具体的には、高圧水噴射ノズル(3A)は、回転円板部(4)の回転中心から外側に放射される状態で斜め角度(θ)をもって配置されており、一方、高圧水噴射ノズル(3B)は、回転中心に向かう状態で斜め角度(θ)をもって配置されている。これらの斜め角度(θ)(θ)については、この出願の発明の装置では45°以内の範囲内にあることが望ましい。
そして、この出願の発明の装置では、斜め角度をもって配置されたノズルは、その平面配置として、たとえば図2に示したように、ノズルヘッドの回転円板部(4)の接線(H)に対して、360°の範囲の任意の角度をもつものでよく、たとえば、角度0°の接線方向を向いていてもよい。図2および図3の具体例では、一つの好ましい形態として、この角度が+90°として、接線(H)に対して回転中心から外向き放射状に直交位置にあるノズル(3A)と、−90°として、接線(H)に対して回転中心に向う直交位置にある例を示している。
また、実際的には、この出願の発明では、複数配置された高圧水噴射ノズル(3)は、図2に例示したように、ノズルヘッドの回転円板部(4)の回転中心からの距離の異なる2以上の円周上の位置に配置されることや、円周位置の各々で、ノズルの斜め角度が異なること、同一の円周位置に配置されるノズルは、回転円板部(4)の回転中心に対して対称位置に配置されていること、そして同一の斜め角度と接線(H)の対して同一の平面配置で配置されていることが好ましい形態として考慮される。
たとえば、図2および図3に対応するノズルヘッドとして、回転円板部(4)の外径220mm、図2の内側の円周の回転中心からの距離175mm、外側の距離200mm、ノズル噴射口径0.2mm、斜め角度θ、θが20°の装置が提供される。また、対称位置にある2個のノズルが、回転中心からの円周位置として、160mm、165mm、175mm、185mm、190mm、200mmの6段階に区分された装置も具体的に提供される。
そして、この出願の発明では、たとえば以上のようなノズルヘッドを備えた切削装置を用いて、無機質粒子と樹脂との複合成形表面を切削するに際しては、ノズルヘッドを回転させて、これをX−Y方向に移動させて切削を行うことになる。この場合、たとえば図4に例示したように、ノズル(A)(B)(C)(D)のY方向への回転移動にともなうその軌跡の最大幅Amax等は、ノズルの配置位置によって決まることから、複数のノズルの各々を、できるだけ、ノズルヘッドの回転中心からの距離の異なる位置に配置することで、軌跡間の面積が小さく、均一になるようにすることが好ましい。そして、X方向への移動ピッチをより小さくすることで、軌跡間の面積はさらに小さく、均一化されることになる。
なお、ノズルヘッドの移動については連続的移動であってもよいし、ステップで移動してもよい。
たとえば、前期の6段階に円周位置が区分されたノズルヘッドを用いる場合について例示すると、
複合体成形品表面からのノズル高さ:35mm
噴 射 水 圧 :1500kgf/cm
Y方向送り速度 :15,000mm/min
X方向送り速度 :60mm/min
ノズルヘッド回転数:750r.p.m
の条件が採用される。これによって複合体成形品の表面のPMMA樹脂マトリックス表層(厚み200μm)を、表面凹凸形状の頂部、平面部、そして傾斜部の全てについて良好に切削することができた。一方、同一数のノズルを配置した従来のノズルヘッドの場合には、同じ時間内では、平面部について所定のマトリックス表層を切削できる設定にすると、傾斜部のマトリックス表層はほとんど切削されずに残ってしまい、傾斜部を所定の切削厚みになるように、噴射圧力を上げたり、ノズルと成形品との間の距離を短くする等設定すると、平面部が過切削になってしまった。
もちろんこの出願の発明は以上の例示に限られることはない。その細部の形態は様々であってよい。
【産業上の利用可能性】
以上詳しく説明したとおり、この出願の発明によって、高圧水噴射による従来の表面切削手段の問題点を解消し、凹凸表面形状やレリーフ模様の斜面部についても樹脂マトリックス表層を効果的に切削除去することが可能になる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転しながらX−Y方向に移転可能とされている高圧水噴射ノズルヘッドを備え、無機質粒子と樹脂の複合体成形品の表面の樹脂マトリックス部を高圧水噴射によって切削する装置であって、前記ノズルヘッドには、複数の高圧水噴射ノズルが配置され、かつ、少くとも1以上のノズルの高圧水の噴射中心が前記複合体成形品の基層面に対しての垂直位置から斜め角度をもって配置されていることを特徴とする高圧水噴射表面切削装置。
【請求項2】
ノズルの斜め角度は、45°以内の範囲内であることを特徴とする請求項1の高圧水噴射表面切削装置。
【請求項3】
斜め角度をもって配置されたノズルは、ノズルヘッドの接線に対して回転中心から外向きまたは回転中心に向かう内向きの直交位置にあることを特徴とする請求項1または2の高圧水噴射表面切削装置。
【請求項4】
少くとも1以上のノズルは、その噴射中心が基層面に対して斜め角度0°の垂直位置にあるように配置されてることを特徴とする請求1ないし3のいずれかの高圧水噴射表面切削装置。
【請求項5】
複数の高圧水噴射ノズルは、ノズルヘッドの回転中心からの距離の異なる少くとも2以上の円周位置に配置されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかの高圧水噴射表面切削装置。
【請求項6】
同一の円周位置に配置されている複数のノズルは、ノズルヘッドの回転中心に対して対称位置に配置されていることを特徴とする請求項5の高圧水噴射表面切削装置。
【請求項7】
同一の円周位置に配置されている複数のノズルは、同一の斜め角度をもって、または同一に垂直に、かつ、接線に対して同一の配置角度を有することを特徴とする請求項5または6の高圧水噴射表面切削装置。
【請求項8】
複数の円周位置の各々に配置されているノズルは、円周位置の各々で、斜め角度の大きさが異なることを特徴とする請求項5ないし7のいずれかの高圧水噴射表面切削装置。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかの装置による表面切削の方法であって、ノズルからの噴出水が当る前記の成形品の基層面に対する噴出中心の軌跡間の面積が均一になるようにノズルヘッドをX−Y方向に移動させて表面の樹脂マトリックス部を切削することを特徴とする無機質粒子と樹脂の複合体成形品の表面切削方法。
【請求項10】
10μm〜10mmの範囲の厚みの樹脂マトリックス部を切削除去することを特徴とする請求項9の切削方法。
【請求項11】
基層面からの高さが1〜100mmの範囲の凹凸面を有する成形品の表面を切削する請求項9または10の切削方法。

【国際公開番号】WO2005/007337
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511908(P2005−511908)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010447
【国際出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(503094542)株式会社アベイラス (5)
【Fターム(参考)】