説明

高圧水素製造装置

【課題】簡単且つ経済的な構成で、導電経路となる部分に酸化被膜が形成されることを阻止し、接触抵抗の増大を確実に抑制することができ、良好な電解性能を保持することを可能にする。
【解決手段】高圧水素製造装置10を構成する単位セル12は、電解質膜・電極構造体32と、この電解質膜・電極構造体32を挟持するアノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36とを備える。電解質膜・電極構造体32は、固体高分子電解質膜38と、前記固体高分子電解質膜38の両面に設けられるアノード側給電体40及びカソード側給電体42とを備える。プレート部材44とカソード側セパレータ36との間に皿ばね46が配設されるとともに、前記皿ばね46には、導電経路を形成する部分に導電性コーティング層48a、48bが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水を電気分解してアノード側に酸素を発生させるとともに、カソード側に前記酸素よりも高圧な水素を発生させる高圧水素製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、燃料電池を発電させるための燃料ガスとして、水素ガスが使用されている。一般的に、水素ガスを製造する水素製造装置として、水電解装置が採用されている。この水電解装置は、水を電気分解して水素(及び酸素)を発生させるため、固体高分子電解質膜を用いている。固体高分子電解質膜の両面には、電極触媒層が設けられて電解質膜・電極構造体が構成されるとともに、前記電解質膜・電極構造体の両側には、それぞれ給電体を配設してユニットが構成されている。
【0003】
そこで、複数のユニットが積層された状態で、積層方向両端に電圧が付与されるとともに、アノード側給電体に水が供給される。このため、電解質膜・電極構造体のアノード側では、水が分解されて水素イオン(プロトン)が生成され、この水素イオンが固体高分子電解質膜を透過してカソード側に移動し、カソード側給電体で電子と結合して水素が製造される。一方、アノード側では、水素と共に生成された酸素が、余剰の水を伴ってユニットから排出される。
【0004】
この種の水電解装置では、カソード側に、アノード側に生成される酸素よりも高圧(例えば、数十MPa)な水素が生成される高圧水電解装置(高圧水素製造装置)を採用する場合がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−70322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記の高圧水素製造装置では、カソード側給電体を固体高分子電解質膜に付勢するために皿ばねが使用されるとともに、前記皿ばね自体が導電経路を形成する場合がある。その際、皿ばねは、カソード側セパレータとの接触面積及び皿ばねホルダとの接触面積が相当に小さい。このため、接触部位に酸化被膜が形成されると、接触抵抗が著しく大きくなり、安定した導電経路が得られないという問題がある。
【0007】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、簡単且つ経済的な構成で、導電経路となる部分に酸化被膜が形成されることを阻止し、接触抵抗の増大を確実に抑制することができ、良好な電解性能を保持することが可能な高圧水素製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の両側に設けられる電解用のアノード側給電体及びカソード側給電体と、前記アノード側給電体に対向して配置され、水が供給されるとともに、前記水を電気分解して酸素が発生されるアノード側セパレータと、前記カソード側給電体に対向して配置され、前記水を電気分解して前記酸素よりも高圧な水素が発生されるカソード側セパレータと、前記カソード側給電体に積層方向に荷重を付与する弾性部材とを備える高圧水素製造装置に関するものである。
【0009】
この高圧水素製造装置では、弾性部材は、導電経路を形成する部分に導電性コーティング層が設けられている。
【0010】
また、この高圧水素製造装置では、弾性部材は、カソード側給電体に積層されるプレート部材とカソード側セパレータとの間に配置されるとともに、前記弾性部材は、導電経路である前記プレート部材との接触部及び前記カソード側セパレータとの接触部に、導電性コーティング層が設けられることが好ましい。
【0011】
さらに、この高圧水素製造装置では、弾性部材は、導電性コーティング層以外の部分に非導電性コーティング層が設けられることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、弾性部材は、導電経路を形成する部分に導電性コーティング層が設けられるため、前記導電経路となる部分に酸化被膜が形成されることを阻止することができる。これにより、簡単且つ経済的な構成で、接触抵抗の増大を確実に抑制することが可能になり、良好な電解性能を保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る高圧水素製造装置の斜視説明図である。
【図2】前記高圧水電解装置の一部断面側面図である。
【図3】前記高圧水電解装置を構成する単位セルの断面図である。
【図4】前記単位セルを構成する皿ばねの説明図である。
【図5】前記皿ばねの接触面積と接触抵抗との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1及び図2に示すように、本発明の実施形態に係る高圧水素製造装置10は、複数の単位セル12が鉛直方向(矢印A方向)又は水平方向(矢印B方向)に積層された積層体14を備える。
【0015】
積層体14の積層方向一端(上端)には、ターミナルプレート16a、絶縁プレート18a及びエンドプレート20aが上方に向かって、順次、配設される。積層体14の積層方向他端(下端)には、同様にターミナルプレート16b、絶縁プレート18b及びエンドプレート20bが下方に向かって、順次、配設される。
【0016】
高圧水素製造装置10は、例えば、矢印A方向に延在する4本のタイロッド22を介して円盤形状のエンドプレート20a、20b間を一体的に締め付け保持する。なお、高圧水素製造装置10は、エンドプレート20a、20bを端板として含む箱状ケーシング(図示せず)により一体的に保持される構成を採用してもよい。また、高圧水素製造装置10は、全体として略円柱体形状を有しているが、立方体形状等の種々の形状に設定可能である。
【0017】
図1に示すように、ターミナルプレート16a、16bの側部には、端子部24a、24bが外方に突出して設けられる。端子部24a、24bは、配線26a、26bを介して電源28に電気的に接続される。
【0018】
図3に示すように、単位セル12は、略円盤状の電解質膜・電極構造体32と、この電解質膜・電極構造体32を挟持するアノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36とを備える。アノード側セパレータ34及びカソード側セパレータ36は、略円盤状を有するとともに、例えば、カーボン部材等で構成され、又は、鋼板、ステンレス鋼板、チタン板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板をプレス成形して、あるいは切削加工した後に防食用の表面処理を施して構成される。
【0019】
電解質膜・電極構造体32は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜38と、前記固体高分子電解質膜38の両面に設けられる円形状のアノード側給電体40及びカソード側給電体42とを備える。固体高分子電解質膜38の外形寸法は、アノード側給電体40及びカソード側給電体42の外径寸法よりも大径に設定される。
【0020】
固体高分子電解質膜38の両面には、アノード電極触媒層40a及びカソード電極触媒層42aが形成される。アノード電極触媒層40aは、例えば、Ru(ルテニウム)系触媒を使用する一方、カソード電極触媒層42aは、例えば、白金触媒を使用する。
【0021】
アノード側給電体40及びカソード側給電体42は、例えば、球状アトマイズチタン粉末の焼結体(多孔質導電体)により構成される。アノード側給電体40及びカソード側給電体42は、研削加工後にエッチング処理される平滑表面部を設けるとともに、空隙率が10%〜50%、より好ましくは、20%〜40%の範囲内に設定される。
【0022】
カソード側給電体42には、プレート部材44が積層されるとともに、前記プレート部材44とカソード側セパレータ36との間には、弾性部材、例えば、4枚の皿ばね46が配設される。プレート部材44は、例えば、チタン製のパンチングプレートにより構成され、複数の孔部44aが形成される。皿ばね46は、皿ばねホルダであるプレート部材44を介してカソード側給電体42に荷重を付与する。なお、皿ばね46に代えて、例えば、コイルスプリング等を使用してもよい。
【0023】
皿ばね46は、プレート部材44よりも硬い材質で構成される。皿ばね46は、図4に示すように、導線経路を形成する部分、具体的には、プレート部材44との接触部及びカソード側セパレータ36との接触部に、導電性コーティング層48a、48bが設けられる。導電性コーティング層48a、48bは、皿ばね46よりも軟質で且つ酸化被膜が形成されない導電材料、例えば、プラチナ(Pt)、金(Au)、銀(Ag)等の貴金属が用いられる。
【0024】
導電性コーティング層48a、48bのコーティング厚さは、相手材であるプレート部材44及びカソード側セパレータ36の表面粗さにより設定され、最大高さ粗さを埋める厚さに設定される。
【0025】
皿ばね46は、図5に示すように、プレート部材44との接触部及びカソード側セパレータ36との接触部の接触面積Sが増加するのに伴って接触抵抗が低下する。このため、接触面積がS1以上になるように、各接触部の長さh(図4参照)が設定されるとともに、導電性コーティング層48a、48bは、前記長さhを覆う範囲に設けられる。
【0026】
皿ばね46には、導電性コーティング層48a、48b以外の部分に非導電性コーティング層49が設けられる。非導電性コーティング層49は、高圧水素雰囲気による金属腐食を防止するために設けられ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂が用いられる。
【0027】
図1及び図3に示すように、単位セル12の外周部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、第1の流体である水(純水)を供給するための水供給連通孔50aと、反応により生成された酸素及び未使用の水を排出するための排出連通孔50bと、反応により生成された高圧水素を流すための水素連通孔50cとが設けられる。
【0028】
図3に示すように、アノード側セパレータ34には、水供給連通孔50aに連通する供給通路52aと、排出連通孔50bに連通する排出通路52bとが設けられる。アノード側セパレータ34の電解質膜・電極構造体32に向かう面34aには、供給通路52a及び排出通路52bに連通する第1流路54が設けられる。カソード側セパレータ36には、水素連通孔50cに連通する排出通路56が設けられる。排出通路56には、第2流路58が連通する。
【0029】
アノード側セパレータ34の電解質膜・電極構造体32に向かう面34aには、複数のシール部材62を配設するための複数のシール溝64が形成される一方、カソード側セパレータ36の前記電解質膜・電極構造体32に向かう面36aには、複数のシール部材66を配設するための複数のシール溝68が形成される。シール部材62、66は、例えば、Oリングである。
【0030】
図1及び図2に示すように、エンドプレート20aには、水供給連通孔50a、排出連通孔50b及び水素連通孔50cに連通する配管76a、76b及び76cが接続される。配管76cには、図示しないが、背圧弁(又は電磁弁)が設けられており、水素連通孔50cに生成される水素の圧力を高圧に維持することができる。エンドプレート20a、20b間には、図示しない押し付け力付与装置により押し付け力が付与され、この状態で、前記エンドプレート20a、20bがタイロッド22を介して締め付けられる。
【0031】
このように構成される高圧水素製造装置10の動作について、以下に説明する。
【0032】
図1に示すように、配管76aから高圧水素製造装置10の水供給連通孔50aに水が供給されるとともに、ターミナルプレート16a、16bの端子部24a、24bに電気的に接続されている電源28を介して電圧が付与される。このため、図3に示すように、各単位セル12では、水供給連通孔50aからアノード側セパレータ34の第1流路54に水が供給され、この水がアノード側給電体40内に沿って移動する。
【0033】
従って、水は、アノード電極触媒層40aで電気により分解され、水素イオン、電子及び酸素が生成される。この陽極反応により生成された水素イオンは、固体高分子電解質膜38を透過してカソード電極触媒層42a側に移動し、電子と結合して水素が得られる。
【0034】
このため、カソード側給電体42の内部、プレート部材44の孔部44a及び第2流路58に沿って、水素が流動する。この水素は、水供給連通孔50aよりも高圧に維持されており、水素連通孔50cを流れて高圧水素製造装置10の外部に取り出し可能となる。一方、第1流路54には、反応により生成した酸素と、使用済みの水とが流動しており、これらが排出連通孔50bに沿って高圧水素製造装置10の外部に排出される。
【0035】
この場合、本実施形態では、図3及び図4に示すように、プレート部材44とカソード側セパレータ36との間に皿ばね46が配設されるとともに、前記皿ばね46には、導電経路を形成する部分に導電性コーティング層48a、48bが設けられている。具体的には、プレート部材44との接触部及びカソード側セパレータ36との接触部に、導電性コーティング層48a、48bが設けられている。
【0036】
このため、導電経路となる部分に酸化被膜が形成されることを阻止することができる。従って、最小限の導電性コーティング層48a、48bを設けるだけでよく、簡単且つ経済的な構成で、接触抵抗の増大を確実に抑制することが可能になり、良好な電解性能を保持することができるという効果が得られる。
【0037】
しかも、皿ばね46には、導電性コーティング層48a、48b以外の部分に非導電性コーティング層49が設けられている。これにより、導線経路以外の部分には、経済的な材料を用いた非導電性コーティング層49が設けられるため、コストを削減するとともに、高圧水素雰囲気による金属腐食を有効に防止することが可能になる。
【符号の説明】
【0038】
10…高圧水素製造装置 12…単位セル
14…積層体 16a、16b…ターミナルプレート
18a、18a…絶縁プレート 20a、20b…エンドプレート
24a、24b…端子部 28…電源
32…電解質膜・電極構造体 34…アノード側セパレータ
36…カソード側セパレータ 38…固体高分子電解質膜
40…アノード側給電体 42…カソード側給電体
44…プレート部材 46…皿ばね
48a、48b…導電性コーティング層
49…非導電性コーティング層 50a…水供給連通孔
50b…排出連通孔 50c…水素連通孔
54、58…流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜と、
前記固体高分子電解質膜の両側に設けられる電解用のアノード側給電体及びカソード側給電体と、
前記アノード側給電体に対向して配置され、水が供給されるとともに、前記水を電気分解して酸素が発生されるアノード側セパレータと、
前記カソード側給電体に対向して配置され、前記水を電気分解して前記酸素よりも高圧な水素が発生されるカソード側セパレータと、
前記カソード側給電体に積層方向に荷重を付与する弾性部材と、
を備える高圧水素製造装置であって、
前記弾性部材は、導電経路を形成する部分に導電性コーティング層が設けられることを特徴とする高圧水素製造装置。
【請求項2】
請求項1記載の高圧水素製造装置において、前記弾性部材は、前記カソード側給電体に積層されるプレート部材と前記カソード側セパレータとの間に配置されるとともに、
前記弾性部材は、前記導電経路である前記プレート部材との接触部及び前記カソード側セパレータとの接触部に、前記導電性コーティング層が設けられることを特徴とする高圧水素製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の高圧水素製造装置において、前記弾性部材は、前記導電性コーティング層以外の部分に非導電性コーティング層が設けられることを特徴とする高圧水素製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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