説明

高圧洗浄液噴射式洗浄装置

【課題】 構造を簡略化でき、小型・軽量化を図れ、低コスト化を達成でき、また洗浄時の装置の振動を抑制し、均一で効率的な洗浄を可能にする高圧洗浄液噴射式洗浄装置を提供する。
【解決手段】 高圧洗浄液を洗浄対象物xに対し一本の直線状に噴射させて洗浄する多数の噴射ノズル3を備えた高圧洗浄液噴射式洗浄装置1で、多数の噴射ノズル3をノズルホルダー2の下面の長手方向に沿って一定の間隔をあけて配列するとともに、ノズルホルダー2をその両側で支柱13の支持部材14の先端部に対し振り子部材15によりノズルホルダー2の長手方向に揺動可能に支持し、洗浄対象物xをノズルホルダー2の長手方向に直交する方向に搬送しながらノズルホルダー2を長手方向に振り子運動させると同時に、各噴射ノズル3から高圧洗浄液を洗浄対象物xに対し噴射させて洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、液晶パネル、プラズマパネル、太陽電池パネル、有機EL(エレクトリックルミナンス)パネルなどのFPD(フラットパネルディスプレイ)や大型板状ガラスや半導体ウエハーなどの平坦な板状物を高圧洗浄液を噴射して洗浄する高圧洗浄液噴射洗浄装置(ウォータジェット洗浄機ともいう)に関する。詳しくは、たとえば、液晶ディスプレイや半導体ウエハーなどの製造工程で、ガラス基板表面の微小な粒子や有機物や金属不純物といった歩留り低下の原因となる汚濁物質を高圧洗浄液(高圧水を含む)を噴射して除去するのに使用でき、構造が簡単で低コスト化が可能な高圧洗浄液噴射洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の高圧洗浄液噴射洗浄装置として、複数の高圧液噴射ノズルを並べて装着したノズルホルダーをその支軸回りに旋回(円運動)させながら若しくは円錐状に揺動させながら、洗浄装置から噴射する高圧洗浄液を洗浄対象物に対し垂直に当てながら直交方向に移動させることで、噴射ノズルから噴射する高圧洗浄液にて洗浄対象物の一面を緻密に洗浄する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置は1本の直線状に高圧洗浄液が噴射する収束型ノズルを備えている。
【0003】
従来の一般的な洗浄装置で使用されているノズルは、噴射される洗浄液が円錐状に広がるコーン型、若しくは扇状に広がるファン型が多い。これらのノズルであれば、洗浄液の噴流が拡散し、その拡散する幅が広いために、上記特許文献1の洗浄装置のように円運動させたり、揺動させたりする必要がない。
【0004】
一方、特許文献1の洗浄装置では、洗浄液が拡散しない1本の直線状になって噴射される収束型噴射ノズルを使用しているため、噴射される洗浄液のエネルギー密度がコーン型やファン型に比べて数十倍と非常に高い。したがって、洗浄面での剥離・洗浄効果は非常に優れている。しかし、洗浄対象物に対し洗浄液が当たる領域(面積)が極めて狭く、局所部分しか洗浄できない。いいかえれば、洗浄液が当たっていない箇所が広く、それらの箇所は洗浄されない。
【0005】
これを解決するために、本願の発明者らは、洗浄対象物を一定速度で移動させながら多数の高圧液噴射ノズルから洗浄液を前記洗浄対象物に対し一直線状に噴射させて洗浄する高圧液噴射洗浄システムで、各高圧液噴射ノズルを洗浄対象物に向けかつ相互に間隔をあけて共通のノズルホルダーに配列し、前記各高圧液噴射ノズルの向きを揃え、前記各高圧液噴射ノズルを前記ノズルホルダーを介して一体的に水平面内で旋回円運動させながら各高圧液噴射ノズルから洗浄対象物に対し高圧液を噴射させるようにした洗浄方法と同洗浄装置を開発し、特許出願(2007−281322)している。
【0006】
この種の洗浄装置に関する他の先行技術に、洗浄対象物の表面内の他の領域より付着物が多い特定領域を検出する検出手段と、前記洗浄対象物をその搬送方向に沿って傾斜させた状態で保持する保持手段と、前記洗浄対象物を前記保持手段により保持されたままで前記搬送方向に沿って搬送する搬送手段と、前記洗浄対象物の表面に洗浄液を吐出する吐出手段と、前記表面の面内方向であり、かつ前記搬送方向に直交する方向である前記洗浄対象物の幅方向に沿って前記吐出手段を移動させる移動手段とを備え、前記特定領域に選択的に前記吐出手段から前記洗浄液を吐出する洗浄装置が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許2705719号公報
【特許文献2】特開2006−10947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
・上記したように、ホルダーをその支軸回りで旋回円運動させる際の回転速度を上げれば上げるほど、洗浄密度が高まるが、一方でホルダーまたはホルダーを含む装置全体の振動が増大する。すなわち、この振動加速度は回転速度の2乗で増大するから、特許文献1に記載のような手持ち式洗浄装置にあっては、作業者が手で持った状態で洗浄作業を継続するのが困難になる。また、ホルダーに装着されるノズルの数を2倍〜3倍に増やすと、ホルダーの全長が延びるだけでなく、ホルダーの外径が大幅に大きくなるから、手持ち式洗浄装置としては不的確である。
【0009】
・特許文献2に記載の装置は、洗浄対象物上の付着物が多い特定流域を集中的に洗浄する装置であり、洗浄対象物の全体を均一に洗浄する装置ではない。
【0010】
・先願にかかる上記特許出願の洗浄装置70は、図9に示すように多数の高圧水噴射ノズル72が配列されたノズルホルダー71を、両側の駆動軸74を偏心回転させて水平面内で旋回円運動しながら洗浄する構造からなる。このため、図9においてY方向への加振時に二等辺三角形状の曲げモーメントがノズルホルダー71に作用する。したがって、ノズルホルダー71にはその曲げモーメントに打ち勝つだけの断面強度を持たせる必要があり、ノズルホルダー71の剛性を上げるために大型化し、重量が増大する。それに伴って、両側の偏心回転駆動部73および駆動モータも増強しなければならず、コストアップの要因になるほか、外部振動の増大につながる。また、密閉した洗浄室76を確保するためには、旋回円運動するノズルホルダー71から両側方に延びる支持部75と洗浄室76の両側壁77とに所定の隙間(図9のG方向矢視部)を設けた上で、洗浄対象物(図示せず)の搬送方向前後部の隙間をシールしなければならない。このため、シール装置が複雑になる。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、上記の先願に係る洗浄装置に比べて構造を簡略化でき、小型・軽量化を図れ、低コスト化を達成でき、また洗浄時の装置の振動を抑制し、均一で効率的な洗浄を可能にする高圧洗浄液噴射式洗浄装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために本発明の高圧洗浄液噴射式洗浄装置は、高圧洗浄液を洗浄対象物に対し一本の直線状に噴射させて洗浄する多数の噴射ノズルを備えた高圧洗浄液噴射式洗浄装置であって、多数の前記高圧洗浄液噴射ノズルをノズルホルダーの長手方向に沿って一定の間隔をあけて配列するとともに、前記ノズルホルダーをその両側で振り子部材により前記ノズルホルダーの長手方向に揺動可能に支持し、前記洗浄対象物を前記ノズルホルダーの長手方向に直交する方向に搬送しながら前記ノズルホルダーを長手方向に振り子運動させると同時に、各噴射ノズルから高圧洗浄液を前記洗浄対象物に対し噴射させて洗浄することを特徴とする。
【0013】
上記の構成を有する請求項1に係る高圧洗浄液噴射式洗浄装置によれば、多数の高圧洗浄液噴射ノズルがノズルホルダーとともにノズルホルダーの長手方向(左右方向)に所定回転角度内で振り子運動(揺動)すると同時に、多数の噴射ノズルから高圧洗浄液が一直線状に噴射されるから、高い洗浄強度が得られる。また、ノズルホルダーの長手方向に所定の回転角度で振り子運動し、洗浄対象物の幅方向にわたってほぼ隙間なく高圧洗浄液を均一に噴射させられ、洗浄ムラが生じにくい。さらに、洗浄の高速化を図るために洗浄対象物の移動速度を速めたり、往復回転時間を短縮したり、往復する回転角度を狭めたりしても、ノズルホルダーあるいはノズルホルダーを含む装置全体の振動加速度が増大することがなく、振動が抑制される。
【0014】
請求項2に記載のように、両側の前記各振り子部材の下端部を前記ノズルホルダーの両端部に回転可能に軸着するとともに、前記各振り子部材の両側上端部をそれぞれ、前記洗浄対象物の搬送路の上方でその搬送方向に平行な回転軸によりその軸回りに回転可能に支持し、それらの回転軸の少なくとも一方を駆動装置により所定角度ずつ往復回転する駆動軸に接続することができる。
【0015】
請求項3に記載のように、前記ノズルホルダーの下面に前記各噴射ノズルを長手方向に沿って等間隔に配列するとともに、前記ノズルホルダーの長手方向に沿って高圧洗浄液供給路を前記各噴射ノズルに連通させて設け、前記高圧洗浄液供給路の端部に可撓性の高圧洗浄液供給管の一端を接続することができる。
【0016】
このようにすれば、ノズルホルダーの両端部に振り子部材の下端部を回転可能に軸着してノズルホルダーを長手方向に揺動可能に支持し、クランク機構やモーターなどを介して振り子部材の上端部を支持する回転軸に往復回転力を与えてノズルホルダーを往復回転させることができる。また、ノズルホルダーは長手方向(左右方向)に揺動して振り子運動するが、揺動範囲(回転角度2θ)はたとえば30〜60°程度と小さいので、ノズルホルダーの揺動時に可撓性の高圧洗浄液供給管が屈曲変形してノズルホルダー端部の変位を吸収する。そして、高圧洗浄液供給管を通じて高圧洗浄液供給路内に供給される高圧の洗浄液は高圧洗浄液供給路内に臨む(連通する)各噴射ノズルからほぼ均等に洗浄液が高圧下で噴射される。
【0017】
請求項4に記載のように、前記ノズルホルダーをその長手方向に揺動可能に支持するとともに、その長手方向に直交する方向に往復移動可能に支持し、前記ノズルホルダーをその長手方向に所定回転角度内で往復揺動させると同時に、長手方向に直交する方向に所定距離内で往復移動させるようにすることができる。
【0018】
このようにすれば、多数の噴射ノズルから高圧下で洗浄液を噴射しながらノズルホルダーをその長手方向(左右方向)に揺動させると同時に、ノズルホルダーの長手方向に直交する方向(前後方向)にも往復移動させることができる。このため、ノズルホルダーの長手方向軸回り(前後方向)における方向転換点とホルダーの長手方向における方向転換点とで時間的なずれがあるので、高圧の洗浄液が洗浄対象物上の特定箇所に集中して噴射されることがない。また、ノズルホルダーを長手方向に揺動させながら長手方向に直交する方向にも一定のピッチでスムーズに往復移動させられるから、円形状だけでなく任意の楕円形状を描くように高圧洗浄液を洗浄対象物に噴射して洗浄でき、洗浄の均一性を確保する上で自由度が拡がる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る高圧洗浄液噴射式洗浄装置は上記の構成を有するから、下記のような優れた効果を奏する。すなわち、
多数の噴射ノズルがノズルホルダーと振り子部材を介して長手方向に所定の回転角度内で往復揺動する。この揺動時に多数の噴射ノズルから洗浄液が洗浄対象物に対して高圧下で噴射される。ノズルホルダーを長手方向にだけ往復揺動させる場合は、図1に示すように洗浄軌跡がジグザグ(蛇腹状)になるから、洗浄対象物の幅方向(搬送方向に直交する方向)にわたって一定幅の洗浄領域が形成される。したがって、洗浄対象物をその洗浄領域を横切るように一定速度で搬送することにより、洗浄対象物の全面に対して高圧下で洗浄液を均一にかつ洗浄密度を高く保って噴射させられるので、高い洗浄力が得られ、洗浄ムラが生じにくい。また、ノズルホルダーをその長手方向(左右方向)に揺動させて洗浄する構造からなるから、高速化を図っても振動加速度が増大せず振動が抑制され、洗浄密度の高い優れた洗浄効果が得られる。そして、何よりも本発明の洗浄装置は、先願の、ホルダーを水平面内で旋回させて洗浄する構造の洗浄装置に比べて、ホルダーの剛性を低減でき、軸受などの回転支持構造を軽量化でき、振動が低減されるとともに、製造コストを大幅に低減できる。
【0020】
また、本発明の洗浄装置はクリーン室と呼ばれる密閉された洗浄室内に設置する場合に、図9に示すような隙間(ノズルホルダー75と洗浄室側壁77との間隔)を設ける必要がないので、シール機構を簡素化できる。
【0021】
さらに、ノズルホルダーの長手方向の往復揺動運動に加えてノズルホルダーの長手方向に直交する方向への往復直線運動を同時に行わせることにより、洗浄対象物に対し洗浄液を真円形や楕円形状の軌跡を描くように噴射させて洗浄することができるから、先願の洗浄装置に比べて遜色のない洗浄性能が得られ、しかも、構造が簡単で大幅なコストダウンが図れる。また、ノズルホルダーの往復直線運動のタイミングやストローク距離を調整することにより、真円形の洗浄軌跡だけでなく、任意の楕円形状の洗浄軌跡も描けるので、洗浄の均一性を確保する上で自由度が大きくなる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の高圧洗浄液噴射式洗浄装置の第1実施例を示す平面図である。
【図2】図1に示す高圧洗浄液噴射式洗浄装置の正面図である。
【図3】ノズルホルダー2の実施例を示すもので、図3(a)は図3(b)のa−a断面図、図3(b)は図3(a)のb−b断面図である。
【図4】図4(a)は図1の洗浄装置のピストン・クランク機構を示す正面図、図4(b)は図4(a)のb−b断面図である。
【図5】図5(a)は洗浄液供給管9をホルダー2の一端に接続した状態の正面を示す説明図、図5(b)(c)は洗浄液供給管9の他の実施例を示すもので、図5(b)は高圧ホースからなる洗浄液供給管9’を接続した状態の正面を示す説明図、図5(c)は螺旋状に形成した金属製の洗浄液供給管9”を上向きに接続した状態の正面を示す説明図、図5(d)は螺旋状に形成した金属製の洗浄液供給管9”を横向きに接続した状態の正面を示す説明図である。
【図6】図4に示すピストン・クランク機構においてノズルホルダー2(噴射ノズル3)の揺動角度θを変更する方法を示す説明図である。
【図7】図1の実施例にかかる洗浄装置において、図7(a)はノズルホルダー2直下と洗浄対象物xまでの距離(スタンドオフ)の関係を表す説明図、図7(b)は最大揺動(θ)位置における噴射ノズル3から洗浄対象物xまでの距離(スタンドオフ)の関係を表す説明図である。
【図8】噴射ノズル3から洗浄対象物xまでの距離(スタンドオフ)と洗浄強度との関係を表すグラフで、洗浄液の噴射によるアルミ箔の貫通時間に相当する洗浄能力と距離との関係で表したものである。
【図9】多数の高圧水噴射ノズル72が配列されたノズルホルダー71を、両側の駆動軸74を偏心回転させて水平面内で旋回円運動しながら洗浄する構造の、先願にかかる洗浄装置70を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明に係る高圧洗浄液噴射式洗浄装置の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0024】
図1に示すように、本実施例の高圧洗浄液噴射式洗浄装置1は振り子方式(揺動方式とも称される)の洗浄装置で、多数の高圧洗浄液噴射ノズル3を下面に配列したノズルホルダー2を備えている。ノズルホルダー2は、上方より見て長方形状の角筒状体からなり、その下面の長手方向に等間隔に多数の高圧洗浄液噴射ノズル3を配列している。ノズルホルダー2の長さは洗浄対象物xの幅よりやや長く、また洗浄対象物xの幅を十分にカバーできるように噴射ノズル3がノズルホルダー2の下面に装着されている。
【0025】
本実施例の高圧洗浄液噴射式洗浄装置1は、図1に示すように長方形の薄板状の洗浄対象物xを洗浄する装置である。洗浄対象物xは図2に示すように洗浄室10内において、ローラコンベヤ11により前後方向に沿って搬送される。洗浄室10の両側方に一対の支持台12が洗浄室10を挟むように設置されている。支持台12上に支柱13が立設され、各支柱13の上端から洗浄室10に向けて支持部材14が直角に固定されている。支持部材14の先端部に振り子部材15の上端部が洗浄対象物xの搬送方向に平行な回転軸16により、回転軸16の軸回りに回転可能に軸着されている。そして、左右の振り子部材15の下端部間に跨ってノズルホルダー2の両端部が、第2回転軸17によりそれぞれ回転可能に支持されている。振り子部材15は、本実施例の場合、一対の板材15aからなり、図1に示すようにノズルホルダー2および支持部材14を両側から挟むように配置され、一連に貫通する回転軸16・17によりそれぞれ回転可能に軸着されている。
【0026】
この構成により、ノズルホルダー2が洗浄対象物xの幅方向に±角度θの範囲内で水平状態に保たれて往復回転する。本実施例では、左右の回転軸16・16の一方(図の右側)に角度θずつ往復回転する駆動軸20が一体回転可能に連結され、他方(図の左側)の回転軸16は振り子部材15を回転可能に支持する。また、駆動軸20および回転軸16を往復回転させる機構としてピストン・クランク機構を用いており、モータ22の駆動軸22aの一方向への回転により行われる。すなわち、ノズルホルダー2は、本例ではピストン・クランク機構により回転軸16の軸回りに所定の回転角度2θ内で往復回転する。
【0027】
本例では、図4(b)に示すように駆動軸22aにレバー21の一端がスリーブ状の回転伝達部27にて一体回転可能に取り付けられ、図4(a)に示すようにサーボモータ22で一方向(たとえば反時計方向)に回転するクランク23の一端と駆動軸22aと一体的に回転するレバー21の他端とが、コネクチングロッド24を介してクランクピン25とピストンピン26とによりそれぞれ回転可能に連結されている。クランク23の他端側(クランクピン25の反対側)には、カウンタウエイト23aが一体に形成されている。この構成により、クランク23が一方向(たとえば時計方向)に回転することで、レバー21のピストンピン26部が左右方向にθ(たとえば30°)ずつ往復回転運動し、回転軸16をその中心位置Sを回転中心として往復回転させるから、ノズルホルダー2が長手方向(左右方向)に回転角θずつ往復回転し、ノズルホルダー2下面の各噴射ノズル3から高圧下で洗浄液が洗浄対象物xに向けてその幅方向に揺動しながら噴射される。
【0028】
上記実施例では、ノズルホルダー2つまり下面の噴射ノズル3が回転中心Sを中心に左右(洗浄対象物xの幅方向)に、たとえばθ1=30°ずつ往復回転する設計で、図6に示すようにクランク23の回転半径がr1で、レバー21の回転半径がR1である。このときの、レバー21の揺動ストロークはS1である。
【0029】
上記の各噴射ノズル3から噴射される洗浄液(洗浄水を含む)は、高圧下で1本の直線状になって噴射されるようになっている。各噴射ノズル3から噴射される洗浄液は1本の直線状で洗浄能力(洗浄力)が大きい。また、各噴射ノズル3から噴射される洗浄液は1本の直線状であるが、洗浄対象物xの幅方向にノズルホルダー2が揺動するとともに、洗浄対象物xをローラコンベヤ11などの搬送機構によって所定の速度で搬送するので、両者の速度を調整することにより、洗浄対象物xの全面をほぼ隙間なく洗浄することができる。
【0030】
図3は多数の噴射ノズル3を下面に配列したノズルホルダー2の実施例を示す図面で、本例のノズルホルダー2は、図3(a)・図3(b)に示すように、断面四角形状の長尺なノズルホルダー2の上部に高圧洗浄液供給路32が長手方向に沿って設けられている。また、多数の噴射ノズル3を一定ピッチで装着したノズル部4がノズルホルダー2の下部に設けられ、ノズル部4には各噴射ノズル3の下方に臨む下端を開放した開口4cが形成されている。さらに、ノズルホルダー2の下部の一端部には、高圧洗浄液供給路32に連通する接続孔4dが設けられ、この接続孔4dに高圧洗浄液供給路32の一端が接続されている。なお、本例の場合、可撓性を有する金属製やゴム製で外周面に金属ブレード(ワイヤー)を巻装して強化した高圧ホースなどの洗浄液供給管9(図5(a)参照)を高圧洗浄液供給路32の一端部に接続する。なお、図3(b)中の符号5は第2回転軸17の貫通孔である。
【0031】
金属製供給管9の他端は、高圧洗浄液ポンプ(図示せず)に接続され、この高圧洗浄液ポンプから金属製供給管9を介してノズルホルダー2の高圧水供給路32の一端に接続され、その高圧水供給路32から各噴射ノズル3へ高圧洗浄液が供給され、各噴射ノズル3から一直線状に高圧水が噴射される。なお、金属製の高圧洗浄液供給管9は可撓性を備えていれば螺旋状にしなくてもよく、たとえば直線状にして供給管9の全体が湾曲するようにしてもよい。また、図5(b)〜(d)は洗浄液供給管9の他の実施例を示すもので、図5(b)は高圧ホースからなる洗浄液供給管9’を示し、図5(c)は螺旋状に形成した金属製の洗浄液供給管9”を下方から上向きに接続した状態を示し、図5(d)は螺旋状に形成した金属製の洗浄液供給管9”を側方から横向きに接続した状態を示す。
【0032】
図7(a)(b)はノズルホルダー2の噴射ノズル3から洗浄対象物x上に噴射される洗浄液軌跡を表す説明図で、ノズルホルダー2の揺動方向が逆向きに変換される位置で、噴射ノズル3の揺動速度が0になる。したがって、その方向変換位置では洗浄対象物xに対する洗浄液の噴射時間が他の位置に比べて長くなる。通常、噴射時間が延びると洗浄能力が上がるので、洗浄ムラが生じやすくなる。しかし、本発明の洗浄装置ではその影響が緩和される。つまり、図7(a)に示すように、噴射ノズル3から直下の洗浄対象物xまでの距離をL、振り子部材15における上下の回転軸16・17間の距離もLとすると、図7(b)に示すように、噴射ノズル3から洗浄対象物x上の方向変換位置Bまでの距離LAはL+L(1−COSθ)である。L=100mm、θ=22.5°とすると、LA=L(2−COS22.5)=107.6mmとなり、方向変換位置では噴射ノズル3の下位置Aに比べて7.6mm遠くなる。この結果、洗浄能力が低下するから、洗浄時間が延びても洗浄能力の差異は以下のとおり、低減される。
【0033】
すなわち、図8は噴射ノズル3から洗浄対象物xまでの距離(スタンドオフ)と洗浄強度との関係を表すグラフで、洗浄液の噴射によるアルミ箔の貫通時間を距離との関係で表したものである。距離Lが100mmからLAの107.6mmに延びると、図8のグラフから洗浄能力が低下することがわかる。なお、噴射ノズル3から噴射される洗浄液は、いずれの位置(揺動角度)でも洗浄対象物xに垂直に当たるので、洗浄対象物xに対し作用する洗浄液の噴射力は変化しないので、上記したように距離Lが100mmから107.6mmに延びることによる低下だけである。
【0034】
このため、方向変換位置Bでは、スタンドオフによって洗浄能力が振り子の揺動中心位置Aに比べて小さくなるので、揺動速度が0になることに起因した洗浄能力の上昇は緩和されるもの、と推測される。
【0035】
上記実施例にかかる高圧洗浄液噴射式洗浄装置1によれば、図1に示すように洗浄対象物xの搬送方向(矢印)に対して直交し、各噴射ノズル3から1本の直線状に高圧下で洗浄液を噴射しながら洗浄対象物xの幅方向に揺動(往復回転)する。すなわち、本実施例にかかる高圧洗浄液噴射洗浄装置1によれば、ノズルホルダー2下面に等間隔に配列された各噴射ノズル3から噴射される洗浄液が洗浄対象物xの幅方向に揺動し、矢印方向に搬送される洗浄対象物xは、多数の噴射ノズル3から噴射される高圧洗浄液の軌跡が重なり合って構成される洗浄領域を横切るように移動することになるから、洗浄対象物x上の全面がほぼ隙間なく洗浄液にて洗浄されることになる。
【0036】
以上に、本発明にかかる高圧洗浄液噴射式洗浄装置について実施例を示したが、この実施例に限定されるものではなく、たとえば、下記のように実施することができる。
【実施例2】
【0037】
・上記実施例では、ノズルホルダー2の下面に噴射ノズル3を一定間隔で直線状に配列したが、千鳥状に等間隔に2列〜3列を配列することができる。
【0038】
・図示は省略するが、上記の振り子式洗浄装置1にノズルホルダー2の長手方向に対し直交する方向への往復直線運動を付加することにより、各噴射ノズル3からの洗浄液を円形や楕円形を描くように洗浄対象物xに対し噴射させることができる。たとえば、図2において、両側の支持台12上でノズルホルダー2を支柱13ごと洗浄対象物xの搬送方向に往復移動可能にリニアモータを介して配置する。そして、ピストン・クランク機構により、ノズルホルダー2を支柱13と一体的に水平に往復移動させる。以上の構成により、本例の洗浄装置では、多数の噴射ノズル3から高圧下で洗浄液を噴射しながらノズルホルダー2を長手方向(左右方向)に揺動させると同時に、ノズルホルダー2の長手方向に直交する方向(前後方向)にも往復移動させることができる。また、ノズルホルダー2の長手方向への揺動と前後方向への往復直線運動とを同期させることによって、洗浄液を真円形状ないし楕円形状の円を描くように噴射させられるので、洗浄対象物xに対しより隙間なく均一に洗浄液を噴射でき、洗浄密度の高い優れた洗浄効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、主に、FPD(フラットパネルディスプレイ)や大型板状ガラスや半導体ウエハーなどの平坦な板状物を高圧洗浄液を噴射して洗浄する高圧洗浄液噴射洗浄装置として利用される。
【符号の説明】
【0040】
1 高圧洗浄液噴射式洗浄装置
2 ノズルホルダー
3 噴射ノズル
4 ノズル部
4c開口
4d接続孔
9・9’・9”高圧洗浄液供給管
10 洗浄室
11 ローラコンベヤ
12 支持台
13 支柱
14 支持部材
15 振り子部材
16・17 回転軸
20 駆動軸
21 レバー
22 サーボモータ
22aモータ駆動軸
23 クランク
23aカウンタウエイト
24 コネクチングロッド
25 クランクピン
26 ピストンピン
27 スリーブ状回転伝達部
32 高圧洗浄液供給路
x 洗浄対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧洗浄液を洗浄対象物に対し一本の直線状に噴射させて洗浄する多数の噴射ノズルを備えた高圧洗浄液噴射式洗浄装置であって、
多数の前記高圧洗浄液噴射ノズルをノズルホルダーの長手方向に沿って一定の間隔をあけて配列するとともに、前記ノズルホルダーをその両側で振り子部材により前記ノズルホルダーの長手方向に揺動可能に支持し、
前記洗浄対象物を前記ノズルホルダーの長手方向に直交する方向に搬送しながら前記ノズルホルダーを長手方向に振り子運動させると同時に、各噴射ノズルから高圧洗浄液を前記洗浄対象物に対し噴射させて洗浄することを特徴とする高圧洗浄液噴射式洗浄装置。
【請求項2】
両側の前記各振り子部材の下端部を前記ノズルホルダーの両端部に回転可能に軸着するとともに、前記各振り子部材の両側上端部をそれぞれ、前記洗浄対象物の搬送路の上方でその搬送方向に平行な回転軸によりその軸回りに回転可能に支持し、
それらの回転軸の少なくとも一方を駆動装置により所定角度ずつ往復回転する駆動軸に接続したことを特徴とする請求項1に記載の高圧洗浄液噴射式洗浄装置。
【請求項3】
前記ノズルホルダーの下面に前記各噴射ノズルを長手方向に沿って等間隔に配列するとともに、前記ノズルホルダーの長手方向に沿って高圧洗浄液供給路を前記各噴射ノズルに連通させて設け、
前記高圧洗浄液供給路の端部に可撓性の高圧洗浄液供給管の一端を接続したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高圧洗浄液噴射式洗浄装置。
【請求項4】
前記ノズルホルダーをその長手方向に揺動可能に支持するとともに、その長手方向に直交する方向に往復移動可能に支持し、
前記ノズルホルダーをその長手方向に所定回転角度内で往復揺動させると同時に、長手方向に直交する方向に所定距離内で往復移動させるようにしたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の高圧洗浄液噴射式洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−179235(P2010−179235A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24541(P2009−24541)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(308007505)カワサキプラントシステムズ株式会社 (51)
【Fターム(参考)】