説明

高圧試験方法および装置

【課題】岩石などの固体と深地層と同等な環境に保って実験できる高圧試験方法および装置を提供する。
【解決手段】可塑性の栓15を有する試料容器10内に、気体、液体、または固体の試料12,13、14またはそれらの混合物を入れ、その試料容器10の可塑性の栓15に、気体または液体の入った注射器17の注射針17aを貫通させておき、その状態で、試料容器10を、水が満たされた耐圧容器20内に収納し、耐圧容器内20の水を加圧することによって注射器17内の気体または液体を試料容器10に押し出して、試料容器10内を、深地層を模した条件で実験を行うものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深地層で起きる様々な現象を解明し、深地層の開発やその安全評価に寄与する科学・技術、とくに化学・生物学の分野に利用するための高圧試験方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地下圏、深海など高圧がかかる場を再現する実験手法は古くから開発されてきた。
【0003】
非特許文献1では、ゴム栓をした瓶の形の試料容器を耐圧容器内に収納し、耐圧容器に満たした水を加圧することによって、ゴム栓を押し込み、試料容器内の圧力を高める方法が記載されている。また、非特許文献1では、注射器に試料を入れ、ゴム栓をしたのち耐圧容器内に収納し、耐圧容器に満たした水を加圧することによって、注射器のシリンジを押し込んで圧力を高める方法も記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−258545号公報
【非特許文献1】門田元・多賀信夫「海洋微生物研究法」(1985年5月10日)学会出版センター、p150−156
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、これらの方法は、おもに深海の研究で用いられたもので、土壌、岩石などの固体と深地層では地表よりはるかに溶解しやすいガスを同時に試料容器に入れて試験することは難しく、現場の状態を再現することはできなかった。
【0006】
高圧食品処理の分野では、プラスチックバッグに試料を入れてシールし、これを耐圧容器内に収納し、耐圧容器に満たした水を加圧することによって、バッグの容積を小さくして内部の圧力を高める方法が記載されている。しかし、この方法ではバッグにガスを入れることが困難でやはり目的を達することができない。
【0007】
ガス分析の分野では、現場で採取したガスを実験室に持ち帰って分析するための袋(商品名:テドラーバック(登録商標))が広く用いられている。この袋に試料を入れて高圧下に置けば目的を達せられることも考えられる。確かにテドラーバッグにガスを注入する口から液体試料や気体試料は入れられそうである。しかし、その口は市販品では外径8mm以下であり固体試料は入れるのは容易でない。
【0008】
特許文献1は、高圧条件下の微生物培養系に注射器により培地を供給するものであるが、これも固体試料やガスを扱うことはできない。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、試料容器内に岩石などの固体を収容しても、深地層と同等な環境、すなわち圧力や気体の溶解条件を保って実験できる高圧試験方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、可塑性の栓を有する試料容器内に、気体、液体、または固体の試料またはそれらの混合物を入れ、その試料容器の可塑性の栓に、気体または液体を収容した注入手段の注入針を貫通させておき、その状態で、試料容器を、水が満たされた耐圧容器内に収納し、耐圧容器内の水を加圧することによって注入手段内の気体または液体を試料容器に押し出して、試料容器内を、深地層を模した条件で実験を行うことを特徴とする高圧試験方法である。
【0011】
請求項2の発明は、可塑性の栓を有する可撓性の試料容器内に、気体、液体、または固体の試料またはそれらの混合物を入れ、その試料容器の可塑性の栓に、気体または液体を収容した注入手段の注入針を貫通させると共に注入手段内の気体または液体を試料容器に押し出し、その後、注入針を抜き取ると共に、その試料容器を、水が満たされた耐圧容器内に収納し、耐圧容器内の水を加圧することによって、可撓性の試料容器内を、深地層を模した条件で実験を行うことを特徴とする高圧試験方法である。
【0012】
請求項3の発明は、容積可変の密閉された袋からなると共に、その袋の表面に径10mm以上のパッキンからなる栓が設けられた試料容器の栓を外して袋の中に液体または固体の試料またはそれらの混合物を入れた後、その試料容器に栓を取り付け、次いで栓を通して気体試料を試料用器内に入れ、その試料容器を、水が満たされた耐圧容器内に収納し、耐圧容器内の水を加圧することによって、可撓性の試料容器内を、深地層を模した条件で実験を行うことを特徴とする高圧試験方法である。
【0013】
請求項4の発明は、一部が開口しているが、開口部をシールにより密閉できる袋からなると共に、その袋の表面にパッキンからなる栓が設けられた試料容器の開口部から袋の中に液体または固体の試料またはそれらの混合物を入れた後開口部をシールして袋内を密閉し、次いで栓を通して気体試料を試料用器内に入れ、その試料容器を、水が満たされた耐圧容器内に収納し、耐圧容器内の水を加圧することによって、可撓性の試料容器内を、深地層を模した条件で実験を行うことを特徴とする高圧試験方法である。
【0014】
請求項5の発明は、上記試料容器内で微生物の培養を行う請求項1から4のいずれかに記載の高圧試験方法である。
【0015】
請求項6の発明は、気体、液体、または固体の試料またはそれらの混合物が入れられ、可塑性の栓を有する試料容器と、その試料容器の可塑性の栓を貫通する注入針を有し、気体または液体が収容された注入手段と、その注入手段ごと試料容器を収容する耐圧容器と、耐圧容器内に水を加圧して供給する加圧手段とを備えたことを特徴とする高圧試験装置である。
【0016】
請求項7の発明は、気体、液体、または固体の試料またはそれらの混合物が入れられ、可塑性の栓を有する可撓性の試料容器と、試料容器を収納する耐圧容器と、耐圧容器内に水を加圧して供給する加圧手段とを備えたことを特徴とする高圧試験装置である。
【0017】
請求項8の発明は、試料容器は、容積可変の密閉された袋からなると共に、その袋の表面に径10mm以上のパッキンからなる栓が設けられて構成される請求項7記載の高圧試験装置である。
【0018】
請求項9の発明は、試料容器は、一部が開口しているが、開口部をシールにより密閉できる袋からなると共に、その袋の表面にパッキンからなる栓が設けられて構成される請求項7記載の高圧試験装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来の技術では不可能であった土壌、岩石などの固体と深地層での溶解量と同等に溶解したガスの存在下で、様々な実験を行うことができるという優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の好適な一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0021】
図1に試料容器10としてバイアル瓶11を用いた実施の形態を示す。
【0022】
まず、図1(b)の試料の準備で説明するように、バイアル瓶11(容量1.5〜120ml)には実験に用いる固体試料12、液体試料13、および気体試料14を入れ、ブチルゴムなどの可撓性の栓15をして、アルミシール16で固定する。
【0023】
一方、図1(a)に示すように、ガスボンベ(炭酸ガス、酸素、メタン、窒素、空気などのボンベ)に接続したガス配管19に、注入手段の注入針を接続、例えばガス配管19に注射針17aを挿し込み、注入手段としての注射器17のシリンダ17c内に、ガスボンベなどから圧力調整用ガス18を取り込む。
【0024】
次に、図1(c)に示すように、バイアル瓶11の栓15に注射器17の注射針17aを貫通させておく。
【0025】
次に、図1(d)に示すように、バイアル瓶11と注射器17のセットを耐圧容器20に入れ、耐圧容器20内は水wで満たす。
【0026】
次いで、図1(e)に示すように、耐圧容器20のバルブ20aから加圧手段(図示せず)にて加圧水21を送り込み、深地層と同じ圧力となるように耐圧容器20内の水圧を高める。それにより、注射器17のピストン17bがバイアル瓶11方向に押し込まれる。これにより、シリンダ17c内の圧力調整用ガス18がバイアル瓶11内に注入され、一部はガスのまま、他は液体試料13に溶解する。これによりバイアル瓶11内は、深地層を模した条件とすることができ、この条件下で、微生物の培養試験などが行える。この場合、固体試料12は、岩石や微生物の培地であったり、微生物による分解対象物など、種々のものを選ぶことができる。また図では、耐圧容器20にバイアル瓶11と注射器17を1セット設ける例を示しているが、複数セット設けて同時に実験するようにしてもよい。
【0027】
また、耐圧容器20内の水wは、深地層と同じ温度条件となるように温度調整器を耐圧容器20に組み込み、温度調節するようにしてもよい。
【0028】
実験が終了したら耐圧容器20内の圧力を大気圧に戻し、図1(f)に示すようにバイアル瓶11と注射器17のセットを出すと、ピストン17bは元に戻ろうとする。
【0029】
この注射器17内のガス18等も分析試料となるが、図1(g)に示すように試料容器からアルミシール16と栓15を外して、あるいは、栓15を注射器17で貫通させて、分析試料を採取することができる。
【0030】
このように本発明は、バイアル瓶11からなる試料容器10と注射器17を組み合わせ、バイアル瓶11の試料容器10には固体試料12を入れ、耐圧容器20内を加圧したときに注射器17のピストン17bの移動で、試料容器10内にガス等を注入することで、深地層を模した条件で実験が行える。
【0031】
なお、試料容器10としては、注射針17aが貫通できるブチルゴムなど可塑性の栓を有する密閉容器であれば何でもよい。固体試料12、液体試料13、および気体試料14はすべてを入れなければならないわけではなく、その1つまたは二つでもよい。
【0032】
また圧力調整用ガス18の代わりに圧力調整用液体を、注射器17に取って、用いてもよい。バイアル瓶11に挿入した注射針17aの先端は、気体部分に位置してもよいし、液体部分に位置してもよいし、固体部分に位置してもよい。圧力調整用ガス18は気体試料14と同じものでもよいし、圧力調整用液体は液体試料13とおなじものでもよい。
【0033】
試料容器10は、固体、液体、気体試料を入れることができ、注射器17で圧力調整用ガス18を入れられる機能を有するものであれば、バイアル瓶11でなくても構わない。
【0034】
例えば、図2(a)には試料容器10として、ねじ口試験管31を用いる例を示した。アルミシールの代わりにネジ口キャップ32の内ネジ33でねじ口試験管31の外ねじ部34に締めこんで、ブチルゴム製の栓35を押さえるようにしてもよい。
【0035】
図3(a)にはパッキン付きのガラス管36を用いる例を示した。試料容器10としてはガラス管36を用い、ブチルゴムの代わりにパッキンからなる栓38をはめ込んだ簡単なものである。
【0036】
図2(a)、図3(a)とも、ブチルゴム製の栓35またはパッキンからなる栓38へ注射器17の注射針17aを貫通させ、図2(a)、図3(a)の状態で、図1で説明したように水wの満たされた耐圧容器20に収納し、加圧手段から加圧水21を送り込んで、耐圧容器20内を所定圧に加圧し、同時に注射器17からガス等の注入を行って、図1と同様の実験を行う。
【0037】
図4は、耐圧容器20内に注射器17を持ち込まなくてもすむよう工夫した実施の形態を示したものである。
【0038】
すなわち、図4(a)に示すように、試料容器10を容積可変の袋状、ここではプラスチックバッグ41とし、その表面の一部に口金43を設けて、パッキンからなる栓45を取り付ける。
【0039】
プラスチックバッグ41の一端は開口部41aであり、図4(b)に示すように開口部41aが上になるようにし、ここから固体試料12、液体試料13を入れる。
【0040】
次いで、図4(c)に示すように、気相が残らないように開口部41bを熱などでシール41cした後、図4(d)に示すように気体試料48を入れた注射器17の注射針17aでパッキン栓45を貫通させ、図4(e)に示すように、気体試料48を入れる。次に図4(f)に示すように注射針17aを抜いたあと、プラスチックバッグ41を図4(g)に示すように、耐圧容器20に入れ、以下図1と同様に加圧する。
【0041】
加圧により、プラスチックバック41は、注入された気体試料48が耐圧容器20内の圧力と同じになるようにプラスチックバック41が収縮されて、気体試料48が液体試料13内に溶解する。
【0042】
この実施の形態においては、図1と違って、注射器17を耐圧容器20内に収容する必要がなく、プラスチックバック41の収縮で気体試料48を耐圧容器20内の圧力と同じにして、高圧下での微生物の培養実験を行うことができる。
【0043】
図5は、図4の開口部をなくした代わりに、試料容器10として密閉されたプラスチックバック51を用いた実施の形態を示したものである。
【0044】
このプラスチックバック51には、内径10mm以上の口金53を設けておき、その口金53にパッキンからなる栓55(10mm以上)を取り付けて封入できるようにしておく。
この口金53は、固体試料12をプラスチックバック51内に入れられる内径にし、図5(a)に示すように固体試料12を入れ、液体試料13を入れた後、栓55で口金53を閉じ、その状態で、図5(b)に示すように栓55に注射器17の注射針17aを貫通させ、図5(c)に示すように、注射器17から気体試料48を入れた後、注射器17を抜き取って、図5(d)の状態とし、そのプラスチックバック51からなる試料容器10を耐圧容器20内に収容して、図4と同様に試験を行うものである。
【0045】
このように、試料容器10を容積可変の袋状とし、その表面の一部にパッキン等の栓を設け、図4で説明したように、袋の一部を開口部として固体試料12を入れたのちシール41cするか、あるいは口金53を閉めるパッキンからなる栓55の径を大きくして一時的にそれを外して固体試料12を入れ、その後、栓55経由で注射器17などでガスを入れたのちこれを取り外し、試料容器10を耐圧容器20に入れて実験を行うことで、より大容量の系での実験を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施の形態を示す図である。
【図2】図1における試料容器の変形例を示す図である。
【図3】図1における試料容器の変形例を示す図である。
【図4】本発明の他の実施の形態を示す図である。
【図5】本発明のさらに他の実施の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
10 試料容器
11 バイアル瓶
12 固体試料
13 液体試料
14 気体試料
15 栓
17 注射器
17a 注射針
20 耐圧容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可塑性の栓を有する試料容器内に、気体、液体、または固体の試料またはそれらの混合物を入れ、その試料容器の可塑性の栓に、気体または液体を収容した注入手段の注入針を貫通させておき、その状態で、試料容器を、水が満たされた耐圧容器内に収納し、耐圧容器内の水を加圧することによって注入手段内の気体または液体を試料容器に押し出して、試料容器内を、深地層を模した条件で実験を行うことを特徴とする高圧試験方法。
【請求項2】
可塑性の栓を有する可撓性の試料容器内に、気体、液体、または固体の試料またはそれらの混合物を入れ、その試料容器の可塑性の栓に、気体または液体を収容した注入手段の注入針を貫通させると共に注入手段内の気体または液体を試料容器に押し出し、その後、注入針を抜き取ると共に、その試料容器を、水が満たされた耐圧容器内に収納し、耐圧容器内の水を加圧することによって、可撓性の試料容器内を、深地層を模した条件で実験を行うことを特徴とする高圧試験方法。
【請求項3】
容積可変の密閉された袋からなると共に、その袋の表面に径10mm以上のパッキンからなる栓が設けられた試料容器の栓を外して袋の中に液体または固体の試料またはそれらの混合物を入れた後、その試料容器に栓を取り付け、次いで栓を通して気体試料を試料用器内に入れ、その試料容器を、水が満たされた耐圧容器内に収納し、耐圧容器内の水を加圧することによって、可撓性の試料容器内を、深地層を模した条件で実験を行うことを特徴とする高圧試験方法。
【請求項4】
一部が開口しているが、開口部をシールにより密閉できる袋からなると共に、その袋の表面にパッキンからなる栓が設けられた試料容器の開口部から袋の中に液体または固体の試料またはそれらの混合物を入れた後開口部をシールして袋内を密閉し、次いで栓を通して気体試料を試料用器内に入れ、その試料容器を、水が満たされた耐圧容器内に収納し、耐圧容器内の水を加圧することによって、可撓性の試料容器内を、深地層を模した条件で実験を行うことを特徴とする高圧試験方法。
【請求項5】
上記試料容器内で微生物の培養を行う請求項1から4のいずれかに記載の高圧試験方法。
【請求項6】
気体、液体、または固体の試料またはそれらの混合物が入れられ、可塑性の栓を有する試料容器と、その試料容器の可塑性の栓を貫通する注入針を有し、気体または液体が収容された注入手段と、その注入手段ごと試料容器を収容する耐圧容器と、耐圧容器内に水を加圧して供給する加圧手段とを備えたことを特徴とする高圧試験装置。
【請求項7】
気体、液体、または固体の試料またはそれらの混合物が入れられ、可塑性の栓を有する可撓性の試料容器と、試料容器を収納する耐圧容器と、耐圧容器内に水を加圧して供給する加圧手段とを備えたことを特徴とする高圧試験装置。
【請求項8】
試料容器は、容積可変の密閉された袋からなると共に、その袋の表面に径10mm以上のパッキンからなる栓が設けられて構成される請求項7記載の高圧試験装置。
【請求項9】
試料容器は、一部が開口しているが、開口部をシールにより密閉できる袋からなると共に、その袋の表面にパッキンからなる栓が設けられて構成される請求項7記載の高圧試験装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−178055(P2009−178055A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17632(P2008−17632)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】