説明

高圧FRP管のネジ構造

【課題】
従来のFRP管ネジ継ぎ手は、管・ソケットに直接ネジ部を型による樹脂の注入硬化で製作、ソケットや管本体との境界面に作用するせん断応力の緩和が出来ず、ネジ部に亀裂が発生していた。また、防水面を必要とする管端面やソケット内面には耐食層の防水面がなかったため、約30メガパスカル以上の高圧ネジ継ぎ手が製作出来なかった。
【解決手段】本発明は、ソケットや管本体とは別に本体より柔軟な耐食材による別成形部材でネジ部を作り、本体と接着剤による取り付けることにより、防水性能の確保とせん断応力の分散緩和を可能にする高圧ネジ継ぎ手を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油生産用の地中に押入するガラスファイバー強化プラスチック高圧管(以下、FRP高圧管と呼ぶ)などのネジ継ぎ手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
FRP高圧管の接続は、一般的にはAPI規準の8ラウンド(1インチに8山ネジ)を採用する。従来のネジは管と一体に作るか、管の表面にネジ型を設置して管との隙間にネジ材の樹脂を注入する方法で作られていた。この方法では、管の材料とネジの部材の空間が少なく、破壊は図1に示す(1)の漏水、ネジ部の亀裂部から管本体の浸透による漏水、(2)の管端面の防水層のない管本体からの浸透による漏水が発生する。図1の(3)に示す管本体の破断はネジ部とは無関係であり、ここでは詳細を割愛する。
【0003】
ここで、FRP材料の基本特徴は、繊維強化材料である。この繊維と樹脂の境界面は強い繊維と弱い樹脂の間係、すなわち剛性の大きい材料と小さい材料の境界面には、大きなせん断応力が作用する。この作用により、境界面はFRP材料の最も弱いところと定義される。一般にこの接着強度(せん断力含む)は約70キログラム/平方センチメートルから約150キログラム/平方センチメートルである。これは防水層に亀裂が生じると、内圧は最大70キログラム/平方センチメートルから150キログラム/平方センチメートル以上の防水性能が得られないことを示している。
【0004】
さらに、図2に示す継ぎ手部に作用する各部の荷重(内圧P1、作用圧P2)と、ネジ底と管・ソケット本体との境界面のせん断応力、管に作用する周方向応力(軸方向応力はせん断力に類似するため割愛)とが作用する。ネジ底ではせん断力は端部でピークとなり、管本体に近い部が最大となる。この場合、端部のネジ部底の応力緩和策が必要となる。一方、内圧による間接的に生じるソケットの作用圧力P2と発生する軸応力Fによるネジ面に作用する力は、ネジ表面の接触部のすべりを発生させて、せん断応力の緩和に効果を生じる。
【0005】
以上から、せん断応力の集中を緩和して、十分な耐食性能を有して防水層を形成し、ネジ部材に十分な伸度を与えることが問題解決となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、石油・ガス井戸用のFRP高圧管の配管に用いるネジ構造に関する材料と構造及び接合条件について、従来困難であった300メガパスカル以上の高圧管ネジが可能となる技術を提供するものである。
【0007】
近年、油田の深さが5000メートルにも及ぶようになり、必要な内圧が500キログラム/平方センチメートル(約50メガパスカル)の使用圧力が市場ニーズとなる。従来のネジ継ぎ手では、300キログラム/平方センチメートル(約30メガパスカル)が限界であり、より高圧化の継ぎ手が必要である。高圧化できない原因は、ネジ部の防水層に亀裂は生じることが基本原因である。この防水層の亀裂防止を図れば、管本体の強度(最大で1000キログラム/平方センチメートル)が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
図3に示す、別体成形ネジ部と呼ぶ、ネジ部を目的の機能材料で別につくり、管やソケット本体と接着接合する基本構造を採用する。
【0009】
ネジ部一体成形部材は、管本体の異方向性硬質素材より軟質な等方向性素材を用いて、ネジ底を少なくとも0.1ミリメートル以上の肉厚を有して応力緩和(クッション材)を図り、必要防水面を覆う許容伸びの必要十分な素材からなる一体の成形物としてネジ部を作る。
【0010】
ネジ部の接合面は管本体と十分接着できるように、成形品の表面をサンデングまたは成形品の成形時使用の離型剤除去プライマーなどで表面活性し、管接合面にウレタン系または不飽和ポリエステル系、エポキシ系の熱硬化型接着剤で接合する。
【発明の効果】
【0011】
図3に示す構造を採用することにより、図2に示す漏水原因の(1)であるせん断応力の緩和ができてネジ部の亀裂防止が図られ、(2)の端部の防水層が形成できると、ネジ部の山を形成する素材の許容せん断強度まで漏水が防止できる。
【0012】
ネジ山部の素材強度は、軟質樹脂であっても、200キログラム/平方センチメートルから500キログラム/平方センチメートル(20メガパスカルから50メガパスカル)あり、必要十分な内圧を生む。例えば、API管8ラウンドネジのネジ長さは、管厚に比例することから、2−7/8インチ管では約80ミリメートルのネジ長さが得られるため、内圧に換算して約1000キログラム/平方センチメートル(約100メガパスカル)を許容する。軸力に換算して約60トンとなる。
【0013】
すなわち、本発明を実施することにより、従来は許容できなかった目的の内圧500キログラム/平方センチメートル(約50メガパスカル)高圧管のネジ継ぎ手が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
継ぎ手ネジ形状は、APIなど標準で決められており、本発明効果を得る最良の形態はネジ部の形態である。これにはネジ部を構成する材料として最適なのは、伸びが15パーセントから20パーセント程度あるビニルエステル不飽和樹脂が最適である。さらに材料として接合面の許容せん断力向上を図るために、300グラム/平方メートルから450グラム/平方メートルのチョップドマットを1枚、ネジ底に積層することを推奨する。これにより、約20パーセント以上の許容せん断力向上が図れる。
【0015】
樹脂の硬化に関して残留歪の緩和策には、高温での接合が効果ある。常温硬化と80度硬化では約20パーセント以上の接着強度向上が認められる。ただし、80度で5時間のアフターキュアー条件も付加。
【0016】
管の本体部ネジ端部は、応力集中が生じるので、管本体の切り込みは極力少なくして、ネジ部材料の肉厚を最低2ミリメートル以上とすることで、その効果は管本体の軸強度と同等までネジ部の強度が得られる。
【実施例】
【0017】
耐圧500キログラム/平方センチメートル(約50メガパスカル)FRP高圧管を用いて、API規格、2−7/8 、8ラウンドネジの本発明ネジ部一体成形品を作り、接合する。使用樹脂は許容伸度18パーセントのビニルエステル樹脂、樹脂の熱変形80度、ネジ底厚さ0.5ミリメートル、硬化温度80度、3分成形、接着部はサンデイング後、同質樹脂による接着、約3分硬化。これらの条件による実施した結果、次の成果を得た。
● ネジ山部のネジ本体のせん断強度は、約65トン。
● 破断軸力は18トン以上(管本体が破断のため、ネジ部の破壊強度は不明)
● 内圧強度は540キログラム/平方センチメートル(約54メガパスカル)以上(管本体が破断のためネジ部の強度は不明)、試験温度は80度。
以上、本発明の実施を、目的500キログラム/平方センチメートル(約50メガパスカル)管ネジに適用した結果、管の持つ最大内圧に耐えることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のFRP高圧管ネジ継ぎ手の破壊説明図
【図2】本発明のネジ部に作用する内圧荷重と各部に作用する応力の説明図
【図3】本発明のネジ構造説明図
【符号の説明】
【0019】
(1)ネジ部を介した3種の漏水路
(2)管端面の切断面を介した漏水経路
(3)管の破断による漏水
(4)ソケット
(5)管
(6)接着面
(7)別体成型ネジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維強化プラスチック(FRPと呼ぶ)高圧管のネジ継ぎ手構造において、ソケットネジ部及び管ネジ部の少なくとも片方のネジ部に、ソケットまたは管本体を構成する材料の剛性より柔軟な材料(低い剛性)を用いて、ネジ底の肉厚が0.1ミリメートル以上で防水機能を有する一体のネジ部を成形し、本体と接合して一体を成す管ネジ部の構造。
【請求項2】
管に接合する一体のネジ部材において、管本体より柔軟な材料を用いて、ネジ底の肉厚が0.1ミリメートル以上を有し、管端面部を外面から覆い隠すようにした一体のネジ部材を接合して成るFRP管の外ネジ構造。
【請求項3】
管に接合する一体のネジ部材の管端部とは反対のネジ終端部において、ネジ強度劣化と接着強度維持のため、最低肉厚が0.5ミリメートル以上で最大肉厚がネジの高さの2倍以下の端部凸形を特徴とする一体ネジ部材を接合して成るFRP管ネジの構造。
【請求項4】
管の接合する一体ネジの成形材料において、ネジ底に強化繊維を含有し、管との接合接着強度を向上させ、管に接合したFRP管のネジ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−281520(P2009−281520A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135063(P2008−135063)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000102924)エヌビイエル株式会社 (22)
【Fターム(参考)】