説明

高屈折率エラストマー含有樹脂組成物

【課題】硬度、透明性、耐熱性、衝撃特性のバランスに優れる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル由来の単位と共役ジエン由来の単位を含有し、−21℃以下のガラス転移温度を有するエラストマーAを含む分散相と、屈折率が1.521以上1.582以下である透明樹脂Bである連続層を含む樹脂組成物。エラストマーAを含む分散相については、その平均粒子径が150〜750nmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率エラストマー含有樹脂組成物、及びその成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリカーボネート樹脂、非晶質ポリアミド樹脂、非晶質ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、スチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂は透明性に優れ、さまざまな用途で使用されている。これらの中でポリカーボネート樹脂は耐熱性に優れ、靭性が高く衝撃特性に優れるという特徴を有するが、逆に硬度が低く傷つきやすいといった弱点を有する。一方でメタクリル樹脂、スチレン系樹脂などは、硬度が高く、耐傷付き性に優れるが、耐熱性が必ずしも十分でなく、衝撃特性は劣り、脆く壊れやすい特徴がある。硬度と衝撃特性を両立するためにこれらの樹脂のポリマーアロイを用いる欲求があるが、ポリカーボネート樹脂と通常のメタクリル樹脂やスチレン系樹脂は相溶性に乏しいため、互いに相分離し、透明性を失ったり、衝撃特性などの機械的特性が顕著に劣化する問題があった。
【0003】
透明性を保ちながら機械的特性と硬度のバランスを良好にするために、メタクリル樹脂の組成を調整することで、ポリカーボネート樹脂とメタクリル樹脂の相溶性を高めて相分離を抑制する試みが古くからなされている。すなわち、ポリカーボネート樹脂と、メチルメタクリレートおよび炭素環状基を有する(メタ)アクリレートからなるメタクリル樹脂とからなる均質なポリマーアロイの提案がなされている(特許文献1、非特許文献1)。しかしながらこのポリマーアロイでは、特定の混合条件下では透明なポリマーアロイを得ることができるが、衝撃特性に関しては炭素環状基を有する(メタ)アクリレートに起因して予想外に低く、衝撃特性の改良が望まれた。このポリマーアロイの衝撃特性を改良するために、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)やメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)などの、ブタジエンゴムやスチレン−ブタジエンゴム(SBR)をベースとしたエラストマー成分を、さらにブレンドする方法が例示されている(特許文献2〜4)。しかしながらこれらのエラストマーの屈折率はマトリクス樹脂であるポリカーボネート樹脂と、メチルメタクリレートおよび炭素環状基を有する(メタ)アクリレートからなるメタクリル樹脂とからなる均質なポリマーアロイに比べて屈折率が低く、透明性が損なわれる問題があった。
【0004】
高屈折率を有しながらTgも低い重合体を与える単量体として、(チオ芳香族)アルキルアクリレートを用いる方法が提案されている(特許文献5)。ポリカーボネート樹脂に配合して、耐衝撃性および環境応力亀裂抵抗を増加させながら、良好な透明性・低いヘイズ値(曇り度)及び黄色度を示すと記されている。その実施例においては、3−(チオフェニル)プロピルアクリレートを用いた耐衝撃性改良剤を5%配合したポリカーボネート樹脂の物性が示されているが、70ミル(約1.8mm)の成形体において透過率は79.3%、ヘイズ値は23.9%、黄色度指数(YI)は12.6であり、光が透過する程度にはあるものの、成形体を通して背後の景色を認識できるような高度な透明性を有するものとはまだ言いがたく、また黄色度指数にも改良の余地があり、更なる改良が望まれていた。また、この耐衝撃性改良剤のエラストマーのTgは−14℃であり、−20℃以下となるような極低温環境では耐衝撃性改良効果が失われる問題があった。特許文献5には(チオ芳香族)アルキルアクリレートを共役ジエンとともに重合することができる旨記載されてはいるが、具体的な例は示されておらず、どの程度の透明性・ヘイズ値を達成しながら耐衝撃性を両立できるかは想像に難く、また適合するマトリクス樹脂についても詳細が不明のままであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−001749号公報
【特許文献2】韓国特許出願公開2008−003936号公報
【特許文献3】韓国特許出願公開2010−066066号公報
【特許文献4】特開平4−227747号公報
【特許文献5】特開平6−184235号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】M.Nishimotoら、Polymer,1991, Volume 32,Number 7,p.1274−1283
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、硬度、透明性、耐熱性、衝撃特性のバランスに優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル由来の単位と共役ジエン由来の単位を含有し、−20℃以下のガラス転移温度を有するエラストマーAを含む分散相と、屈折率が1.521以上1.582以下である透明樹脂Bである連続層を含む樹脂組成物により、上記の課題を達成できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の通りである。
1)芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル由来の単位と共役ジエン由来の単位を含有し、−21℃以下のガラス転移温度を有するエラストマーAを含む分散相と、
屈折率が1.521以上1.582以下である透明樹脂Bである連続相
を含む樹脂組成物。
2)エラストマーAを含む分散相の平均粒子径が150〜750nmである、上記1)記載の樹脂組成物。
3)芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル由来の単位と共役ジエン由来の単位を含有し、−21℃以下のガラス転移温度を有するエラストマーAの存在下に、
メチルメタクリレート20〜100重量%、アルキルアクリレート0〜20重量%、芳香族アルケニル80〜0重量%、芳香族(メタ)アクリル酸エステル80〜0重量%、芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル0〜50重量%、およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜40重量%を重合して得られる粒子状の多段重合体と
屈折率が1.521以上1.582以下である透明樹脂Bとを混合して得られ、
前記エラストマーAを含む多段重合体が分散相をなし、
前記透明樹脂Bが連続相をなす、
上記1)記載の樹脂組成物。
4)芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルが、フェニルチオエチルアクリレートである、上記1)記載の樹脂組成物。
5)透明樹脂Bがメチルメタクリレート由来の単位を含有する熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする、上記1)記載の樹脂組成物。
6)透明樹脂Bが
メチルメタクリレート由来の単位と、芳香族基含有単量体由来の単位とを含有する熱可塑性樹脂
を含むことを特徴とする、上記5)記載の透明樹脂組成物。
7)透明樹脂Bが、芳香族ポリカーボネート系樹脂を含むことを特徴とする、上記1)記載の樹脂組成物。
8)透明樹脂Bが、
芳香族ポリカーボネート系樹脂、
およびメチルメタクリレート由来の単位と炭素環状基を有する(メタ)アクリレート由来の単位を含有する樹脂、
の混合樹脂であることを特徴とする、上記1)記載の樹脂組成物。
9)上記1)記載の樹脂組成物から得られる成型体であって、ASTM D1003によるヘイズ値が10%以下である、成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、硬度、透明性、耐熱性、衝撃特性のバランスに優れる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル由来の単位と共役ジエン由来の単位を含有し、−21℃以下のガラス転移温度を有するエラストマーAを含む分散相と、屈折率が1.521以上1.582以下である透明樹脂Bである連続相を含む樹脂組成物である。
【0011】
透明樹脂Bに耐衝撃性を改良するに十分な配合量のエラストマー成分を用いると、具体的には例えば該樹脂100重量部に対して5重量部のエラストマーを配合すると、従来の技術では、十分な衝撃強度を発現しながら、特に0℃以下の測定温度での低温耐衝撃強度を発現しながら、2mm厚みでJIS K7105によるヘイズ値が10%以下の透明性を確保することはまず不可能だったが、本発明にかかるエラストマーAを屈折率1.521以上1.582以下である透明樹脂Bとともに用いた場合には、ヘイズ値が10%以下、好ましくは7%以下、より好ましくは4%以下となり、透明性と耐衝撃性が高度に両立した成型体を得ることができ、好ましい。本発明における屈折率は、株式会社アタゴ製アッベ屈折率計2Tなどを用いて測定することができる。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、エラストマーAおよび透明樹脂Bの総計を100重量%として、上述の本発明にかかるエラストマーAを1〜45重量%、対応して透明樹脂Bを99〜55重量%含む樹脂組成物である。エラストマーAの下限は、好ましくは2.6、より好ましくは3.6重量%、さらには4.6重量%であり、上限は39.5重量%、より好ましくは29.5重量%、さらには14.5重量%とすることができる。対応して、透明樹脂Bの下限は、好ましくは60.5重量%、より好ましくは70.5重量%、さらには85.5重量%であり、上限は、好ましくは97.4重量%、より好ましくは96.4重量%、さらには95.4重量%である。エラストマーAが多すぎる場合、耐熱性が損なわれ、少なすぎる場合、耐衝撃性が不十分となる場合がある。
【0013】
本発明に係る前記樹脂Bの屈折率とエラストマーAの屈折率の差は、透明性のために0.010以下であることが好ましく、より好ましくは0.004以下である。このように屈折率差を設定することにより、本発明の樹脂組成物からなる成形体において、透明性を高度に維持でき、また透明性に関係ない場合であっても着色した際の発色性に優れたものにできる。
【0014】
(エラストマーA)
本発明にかかるエラストマーAは、エラストマー成分として樹脂組成物の改質に寄与する材料であって、芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル由来の単位と共役ジエン由来の単位を含有し、−21℃以下のガラス転移温度(Tg)を有する、ゴム弾性を示す重合体である。芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル、共役ジエンの具体例については後述する。
【0015】
エラストマーAに占める芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル由来の単位の割合は、最終的に得られる成型体の透明性と耐衝撃性のバランスがとりやすいという理由で、11重量%以上、84.5重量%以下であることが好ましい。好ましくは21重量%以上、より好ましくは31重量%以上、さらには51重量%以上であり、好ましくは79.5重量%以下、より好ましくは69.5重量%以下である。対応して、エラストマーAに占める共役ジエン由来の単位の割合は、同様の理由で、89重量%以下、15.5重量%以上であることが好ましい。好ましくは79重量%以下、より好ましくは69重量%以下、さらには49重量%以下であり、好ましくは20.5重量%以下、より好ましくは30.5重量%以下である。
【0016】
エラストマーAには、熱安定性や屈折率、耐侯性、耐油性などの調整のために、後述する共重合可能な単官能性単量体を、エラストマーAに占める割合として、49重量%以下、好ましくは29重量%以下、より好ましくは9重量%以下、さらには0重量%含むことができる。またエラストマーAの弾性率やゲル分量を調整して適切に耐衝撃性を発現させるために、エラストマーAには後述する多官能性単量体を、エラストマーAに占める割合として、下限は0重量%以上、好ましくは0.21重量%以上、より好ましくは0.46重量%以上、上限は好ましくは9重量%以下、より好ましくは4.9重量%以下、さらには1.9重量%以下、含むことができる。
【0017】
良好な耐衝撃性を発現するために、本発明に用いるエラストマーAは、そのガラス転移温度(Tg)が−21℃以下であり、より好ましくは−31℃以下、さらには−41℃以下が好ましく、最も好ましくは−51℃以下である。ガラス転移温度(Tg)は示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/minの昇温速度で実測してよい。
【0018】
本発明に用いるエラストマーAは、後述する透明樹脂B中で分散層を形成する。良好な耐衝撃性と透明性を両立するために、本発明に用いるエラストマーAの平均粒子径は、下限は150nm以上、好ましくは185nm以上、さらには205nm以上、さらには255nm以上、上限は750nm以下、好ましくは595nm以下、より好ましくは495nm以下、さらには395nm以下、さらには295nm以下である。150nmを下回ると耐衝撃性が発現しにくくなり、750nmを上回ると透明性が損なわれる場合がある。ここで言う平均粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)における7.5μm四方の視野中で観測される、透明樹脂B中での個々のエラストマーAの分散相の分散粒子径を体積平均して得られる値である。なお、エラストマーAが後述する乳化重合やミニエマルジョン重合などの方法により製造され、かつ透明樹脂Bと混合される前の段階でその体積平均粒子径を分析することができる場合には、エマルジョン状態で準弾性光散乱法を用いて分析的に得た体積平均粒子径をもって代用することができる。
【0019】
本発明に用いるエラストマーAは、エラストマー成分として樹脂組成物の改質に用いられる成分で、透明樹脂Bとの親和性を持たない場合がある。そのため、後述する透明樹脂B成分(以下、マトリクス樹脂と称することもある。)への分散性を高める観点から、エラストマーAの存在下に重合され、主に分散性を高める作用を有する重合体Cと、を含む多段重合体として用いることが好ましい。
【0020】
本発明に用いるエラストマーAをマトリクス樹脂に添加した組成物の成形加工時に熱安定性を確保して良好な物性を有する成形体、特に黄色度に優れた成型体とする観点から、エラストマーA中の、好ましくは前記多段重合体中の、低分子過酸化物含有量は、好ましくは500ppm以下、より好ましくは195ppm以下、さらには45ppm以下、特には実質的に0ppmであることが好ましい。ここで、実質的に0ppmとは、ガスクロマトグラフなどの測定機器で検出できないレベルを指す。ここで言う低分子とは、分子量500以下の分子を意味する。
【0021】
本発明に用いるエラストマーAは、透明樹脂B中で、成形加工条件から大きな影響を受けずに分散粒子径を安定発現させ、透明性・耐衝撃性などの物性発現を安定化するために、メチルエチルケトンに不溶な成分を含むことが好ましい。エラストマーAに占めるメチルエチルケトン不溶成分の割合は、好ましくは71重量%以上、より好ましくは86重量%以上、さらには96重量%以上であり、かつ、上限は100重量%である。本発明におけるメチルエチルケトン不溶成分とは、例えばエラストマーA2gをメチルエチルケトン100gに室温で12時間浸漬した際に、メチルエチルケトンに溶けない成分をいう。
【0022】
(芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル)
本発明に係る芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの芳香族チオアルキル基としては、置換または未置換のフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基などの芳香族基と、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレンなどのアルキレン基がチオエーテル結合を介して結合されたものを挙げることができる。
【0023】
本発明に係る芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルとしては、不要な架橋構造を形成しないで、低いTgを付与する観点から、ラジカル重合性基を1つのみ有するものが好ましく、最も好ましいのは、フェニルチオエチルアクリレートである。フェニルチオエチルアクリレートは、例えば、大阪有機化学工業株式会社の製品名「PhSEA」、BIMAX CHEMICALS社の製品名「BX−PTEA」として、市場より容易に入手することができる。
【0024】
前記芳香族基が置換基を有する場合には、置換基としてアルキル基、ハロゲン、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基、シアノ基などを用いることができるが、ハロゲンを含まないことが廃棄時の問題が少なくて済み、好ましい。樹脂Bに配合して得た成形体の透明性が維持しやすく、着色した場合にも発色性にも優れる、との理由から、置換基を有さない芳香族基を用いることが好ましい。同じく透明性の理由から、前記アルキレン基としては、メチレン基またはエチレン基が好ましい。本発明でいう(メタ)アクリル酸とは、メタクリル酸および/またはアクリル酸を総じて指す。本発明に用いるエラストマーAに使用できる芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルのうち、樹脂Bに配合して得た成形体の耐衝撃性を良好に発現するために、モノ(メタ)アクリル酸エステルが好ましく用いられる。同じく耐衝撃性の理由から、アクリル酸エステルがより好ましく用いられる。
【0025】
(共役ジエン)
本発明にかかる共役ジエンとは、当業者において知られている通り、2以上の炭素−炭素二重結合が分子内で隣接して存在する化合物であり、具体的にはブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどが挙げられる。
【0026】
(共重合可能な単官能性単量体)
本発明にかかる共重合可能な単官能性単量体とは、反応性二重結合を1つ有する単量体である。本発明において、反応性二重結合以外の反応性基と反応性二重結合1つとをともに含有する単量体は、単官能性単量体として取り扱う。
【0027】
前記単官能性単量体としては、シアン化ビニル類、シアノ(メタ)アクリレート、芳香族ビニル系単量体類、(置換または未置換)アルキル(メタ)アクリレート類、芳香族(メタ)アクリレート類、(チオ)エーテル基含有ビニル類、ハロゲン化ビニル類、アルケン類、(メタ)アクリルアミド類、などが挙げられる。なお本発明において(メタ)アクリレートとはメタクリレートとアクリレートを総じて指し、(メタ)アクリルは同様にメタクリルとアクリルを総じて指す。前記シアン化ビニル類としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等;シアノ(メタ)アクリレート類としてはシアノアクリレート、シアノメタクリレート等;芳香族ビニル系単量体類としては、スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、1,1'−ジフェニルエチレン、アセナフチレン等;(置換または未置換)アルキル(メタ)アクリレート類としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、メトキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、シクロドデシルメタクリレート、ミリスチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ベヘニルメタクリレート、アダマンチルメタクリレート等;芳香族(メタ)アクリレートとしては、フェニルアクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、o−フェニルフェニルオキシエチルアクリレート等;(チオ)エーテル基含有ビニル類としては、ビニルフェニルスルフィド等;ハロゲン化ビニル類としては塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、クロロプレン等;アルケン類としてはエチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等;(メタ)アクリルアミド類としてはアクリルアミド、メタクリルアミド、ドデシルメタクリルアミド、シクロドデシルメタクリルアミド、アダマンチルメタクリルアミド等が挙げられる。
【0028】
前記反応性二重結合以外の反応性基と反応性二重結合1つとをともに含有する単量体としては、水酸基、チオール基、アミノ基、エポキシ基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、シアネート基、イソシアネート基、加水分解性シリル基などの基を有するビニル系単量体などがあり、中でもエポキシ基、加水分解性シリル基、チオール基など熱や水・酸化性物質の存在により反応可能な反応基を有するビニル系単量体が好ましく、特にエポキシ基含有ビニル系単量体が簡便性から好ましく用いられる。これら反応性二重結合以外の反応性基は本発明の重合体中に組み込まれることにより、加工時にマトリクス樹脂や他の配合成分との反応により当該重合体のマトリクス樹脂への分散を促進するなどで、外観や機械的特性などの物性改善に寄与する。またエポキシ基含有ビニル単量体を用いた場合には、それ自体が自己架橋して弾性重合体を与える場合がある。かかる単量体としては、例えばヒドロキシエチルメタアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートなどの水酸基含有ビニル系単量体;グリシジルメタクリレート、(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルメタクリレートなどのエポキシ基含有ビニル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸などのビニルカルボン酸;2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸などのスルホン酸基含有ビニル系単量体;3−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、3−アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルフェニルジメトキシメチルシランなどの加水分解性シリル基含有ビニル系単量体などを挙げることが出来る。
【0029】
(多官能性単量体)
本発明にかかる多官能性単量体とは、2以上の反応性二重結合を分子内に有する多官能性単量体である。かかる多官能性単量体としては、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、フルオレンビス(4−(メタ)アクリロイルオキシフェニル)などの(メタ)アクリレート系の多官能性単量体;ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルアントラセンなどの芳香族ビニル系の多官能性単量体;トリアリルベンゼントリカルボキシレート、ジアリルフタレートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類;トリアリルアミンなどの三級アミン類;ジアリルイソシアヌレート、ジアリル−n−プロピルイソシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメタリルイソシアヌレート、トリス((メタ)アクリロキシエチル)イソシアヌレートなどのイソシアヌル酸誘導体;トリアリルシアヌレートに代表されるシアヌル酸誘導体;トリ(メタ)アクリロイルヘキサハイドロトリアジン;2,2'−ジビニルビフェニル、2,4'−ジビニルビフェニル、3,3'−ジビニルビフェニル、4,4'−ジビニルビフェニル、2,4'−ジ(2−プロペニル)ビフェニル、4,4'−ジ(2−プロペニル)ビフェニル、2,2'−ジビニル−4−エチル−4'−プロピルビフェニル、3,5,4'−トリビニルビフェニルなどのビフェニル誘導体などがあげられる。ゲル分を生成することが好ましい場合には、アリル(メタ)アクリレートを用いると効率よく達成できる場合がある。イソシアヌル酸誘導体、シアヌル酸誘導体、ビフェニル誘導体は重合体の熱安定性を高める上で好ましく、特にトリアリルイソシアヌレート、2,2'−ジビニルビフェニル、2,4'−ジビニルビフェニル、3,3'−ジビニルビフェニル、4,4'−ジビニルビフェニルが最も好ましく用いられうる。
【0030】
(重合体C)
本発明にかかる重合体Cは、エラストマーAの透明樹脂B中での分散状態を良好にして物性を安定に発現するために好ましく用いる成分であり、好ましくはエラストマーAの存在下に重合して形成される重合体である。重合体Cに用いることができる単量体は、前述の、エラストマーAと共重合可能な単官能性単量体で示したのと同様の単量体である。本発明のエラストマーAと透明樹脂Bを含む樹脂組成物の成形加工時の溶融粘度を調整する目的で(すなわち成型機への負荷を抑制する目的で)、重合体C中には、前述の多官能性単量体を5重量%以下、好ましくは1重量%以下用いることができるが、0重量%とすることが好ましい。
【0031】
重合体Cのガラス転移温度(Tg)は、エラストマーAと重合体Cからなる多段重合体の取扱性を良好とするために、11℃以上が好ましく、より好ましくは51℃以上、さらには71℃以上であることが好ましい。
【0032】
かかるガラス転移温度(Tg)の重合体Cとし、かつ透明樹脂Bとの相溶性を確保するために、重合体Cは、メチルメタクリレート20〜100重量%、アルキルアクリレート0〜20重量%、芳香族アルケニル80〜0重量%、芳香族(メタ)アクリル酸エステル80〜0重量%、芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル0〜50重量%、およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜40重量%を重合して得られるものであることが好ましい。アルキルアクリレートの上限は好ましくは9重量%、さらには4重量%である。芳香族アルケニルの上限は好ましくは70重量%、さらには50重量%である。芳香族(メタ)アクリル酸エステルの上限は好ましくは70重量%であり、より好ましくは50重量%であり、さらには30重量%であり、0重量%としてよい。芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルの上限は、好ましくは39重量%であり、さらには29重量%であり、0重量%とすることができる。メチルメタクリレートは単独で使用することが出来るが、メタクリレート以外の単量体、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートなどのアルキルアクリレートなどと共重合することが、熱安定性の観点から好ましい。重合体Cを得るに際して使用する単量体の組み合わせの好ましい例として、メチルメタクリレート/エチルメタクリレート、メチルメタクリレート/スチレン、メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート、より好ましい例としてメチルメタクリレート/フェニルチオエチルアクリレート、メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート/フェニルアクリレート、メチルメタクリレート/フェニルチオエチルアクリレート/スチレン、メチルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート/スチレン、メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート/メチルアクリレート、メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート/フェニルチオエチルアクリレート、メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート/フェノキシエチルアクリレート、メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート/フェニルアクリレートなどを挙げることができる。
【0033】
(多段重合体)
エラストマーAに多段構造やグラフト構造を持たせることは、エラストマーAを樹脂と配合して成型体とした際に透明性と耐衝撃性のバランスを良好に発現する目的で好ましく用いられる。かかる多段重合体は、好ましくはミニエマルジョン重合、マイクロサスペンジョン重合、より好ましくは乳化重合により、所望の単量体組成からなる第一成分を反応系に添加して重合し、第一成分からなる好ましくは粒子を得、次に同種または別組成の第二成分を反応系に添加して重合し、第二成分からなる重合体を第一成分からなる重合体の存在下に生成させることにより、さらに必要に応じて第三成分以降を繰り返し重合することにより、得ることができる。
【0034】
このようにして本発明のエラストマーAを、重合体Cとともに多段重合体とすることが好ましく、また、弾性寄与成分であるエラストマーAに分散寄与成分である重合体Cがしっかり結合されてなるようにグラフト重合体とすることが好ましく、より好ましくはコア/シェル型のグラフト共重合体とすることである。
【0035】
本発明のエラストマーAを好ましくはコア/シェル型のグラフト共重合体とした場合には、本発明に係るエラストマーAはコア/シェル型のグラフト重合体のコア層となり、本発明に係る重合体Cはシェル層となり、分散寄与成分である重合体Cが最も外側に分布するシェル層となる。
【0036】
前記多段重合体は、耐衝撃性の発現と、透明性の維持の観点から、それ自体粒子状の形態を有することが好ましい。
【0037】
前記多段重合体中におけるエラストマーAの割合は、透明樹脂Bと混合して最終的に得られる成形体の透明性を維持し、かつ耐衝撃性を良好とするために、エラストマーAと重合体Cの総重量を100重量%としたとき、30重量%以上であることが好ましく、より好ましくは51重量%以上、さらには71重量%以上、さらには76重量%以上であり、かつ、95重量%以下であることが好ましく、より好ましくは89重量%以下である。対応して、前記多段重合体中の重合体Cの割合は、5重量%以上であることが好ましく、より好ましくは11重量%以上であり、かつ、70重量%以下であることが好ましく、より好ましくは49重量%以下、さらには29重量%以下、さらには24重量%以下である。
【0038】
前記多段重合体において、透明樹脂B中で、成形加工条件から大きな影響を受けずに分散粒子径を安定発現させ、透明性・耐衝撃性などの物性発現を安定化するために、メチルエチルケトン不溶成分を含むことが好ましく、その下限は51重量%であることが好ましく、より好ましくは71重量%以上、さらに好ましくは81重量%以上、さらには86重量%以上であり、上限は100重量%が好ましく、より好ましくは99重量%以下であり、さらには94重量%以下である。
【0039】
(粒子)
前記多段重合体の粒子を得るには、好ましくは乳化重合などの分散重合法で、必要に応じてポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ(スチレン−アルキルアクリレート)共重合体などのコアを形成し、これらコアは前述の多官能性単量体を併用して架橋していても架橋していなくてもよく、その存在下に、芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル、好ましくはフェニルチオエチルアクリレートと、共役ジエンを、必要に応じてブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−オクチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、メトキシエチルアクリレートなどのアルキルアクリレート、さらに必要に応じて前述の多官能性単量体とともに重合することで、エラストマーAを形成させ、さらに必要に応じて、エラストマーAの存在下に、重合体Cを形成する単量体を重合する方法などを採用することができる。
【0040】
(重合方法)
本発明にかかるエラストマーAを得るに際しては、公知の重合方法を用いることができる。すなわち、カチオン重合法、アニオン重合法、ラジカル重合法、配位重合などを用いることができる。RAFT重合、ATRP法、GTRP法などのリビングラジカル重合法なども用いることができる。工業的には、ラジカル重合法が簡便で好ましく用いられる。
【0041】
また、本発明のエラストマーAはバルク重合法で得ることができるが、気相重合、溶液重合、分散重合などの方法で得ることもできる。分散重合とは、懸濁重合、乳化重合、ミニエマルジョン重合、マイクロサスペンジョン重合、沈殿重合、乳化懸濁重合、懸濁シード重合などを含む概念である。このうち、多層構造・グラフト構造などを持たせることができることと有機溶剤を用いず環境上低負荷であるとの観点から、乳化重合、ミニエマルジョン重合、マイクロサスペンジョン重合が好ましく用いられ、特に好ましくは乳化重合が用いられる。
【0042】
エラストマーAを溶液重合する際に用いる反応溶媒、分散重合する際に用いる乳化剤、分散剤、バッファー、共溶媒などの副原料、反応条件、溶液または分散液からのエラストマーAの回収方法としては、既知の方法を適用できる。
【0043】
カチオン重合法で用いる重合開始剤としては芳香族スルホニウム塩や、ヨウ化水素などの酸を用いることができる。アニオン重合法で用いる重合開始剤としてはブチルリチウムなどのアルキルリチウムなどを上げることができる。ラジカル重合法で用いる重合開始剤としてはアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリルなどのアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチル−パーオキシ−イソプロピルカーボネート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、過酸化水素、過硫酸カリウムなどの過酸化物などを使用することができる。特にt−ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素、過硫酸カリウムに代表される水溶性の高い過酸化物を選択すると、エラストマーA中の低分子量過酸化物含有量を低減でき、最終的に得られる成型体の黄色度が良好となることから、好ましい。ここで水溶性が高いとは、23℃での純水への溶解度が0.2重量%以上であることを意味し、好ましくは1重量%以上、さらには1.6重量%、さらには2重量%以上の溶解度を持つ過酸化物が好ましい。過酸化物は、熱分解によりラジカル生成させるだけでなく、鉄イオン錯体などの金属イオン成分と必要に応じてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどのキレート剤、ショ糖、ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムなどの還元剤を併用して、いわゆるレドックス開始剤として使用することができる。乳化重合を適用する場合にはラジカル重合法が好ましく用いられる。
【0044】
本発明のエラストマーAを得るに際しては、2−エチルヘキシルチオグリコレート、t−ドデシルメルカプタン、n−デシルメルカプタン、ターピノーレンなどの連鎖移動剤を使用することができる。特に、メタクリル酸エステルとともに用いた場合には、エラストマーAの熱安定性を高めることができる場合があり、好ましい。
【0045】
本発明にかかる重合体Cを得るに際して、また、エラストマーAの存在下に重合体Cを得るに際しても同様である。
【0046】
なお、エラストマーAを乳化重合法でラジカル重合法にて得た場合には、重合体Cも乳化重合法におるラジカル重合法を適用することが好ましい。しかしながら、エラストマーAを乳化重合法で得た後、重合体Cを形成するための単量体中に、必要に応じてエタノールやメチルイソブチルケトンなどを併用してエラストマーAを抽出した後に、バルク重合法、あるいは溶液重合法などを適用することもできる。
【0047】
(透明樹脂B)
本発明に用いる透明樹脂Bは、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、及びエラストマー樹脂から選択される少なくとも1つである。
【0048】
前記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルカーボネート樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリケトン樹脂、ジエン化合物、マレイミド化合物、芳香族アルケニル化合物、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルおよびシアン化ビニル化合物からなる群より選ばれる1種以上のビニル単量体を重合若しくは共重合させて得られるビニル系重合体若しくは共重合体樹脂、またはそのアミン変性樹脂もしくは脱アルコール化(酸無水物化)樹脂、塩化ビニル系樹脂などがあげられる。これらは単独で、あるいは2種以上をブレンドして用いることができる。本発明で使用できるポリカーボネート樹脂の量は、透明樹脂Bの全量の0重量%以上100重量%以下であるが、好ましくは透明樹脂Bの全量の4重量%以上、より好ましくは14重量%以上、さらには26重量%以上であり、かつ、好ましくは透明樹脂Bの全量の74重量%以下、より好ましくは64重量%以下、より好ましくは54重量%以下、さらに好ましくは49重量%以下である。
【0049】
前記熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、尿素樹脂、透明ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルエステル樹脂、マレイン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、オキセタン樹脂等が挙げられる。
【0050】
前記エラストマー樹脂としては、ブチルアクリレートゴムなどのアクリルゴム、ブタジエン−アクリロニトリル系共重合体などのニトリルゴム、イソブチレンゴム、メチルメタクリレート−ブチルアクリレートブロック共重合体、スチレン−イソブチレンブロック共重合体、ポリウレタン、シリコーンゴムなどが挙げられる。
【0051】
機械的強度に優れる成形体が低コストかつ大量に製造できるので、透明樹脂Bを熱可塑性樹脂とすることが好ましい。前記透明樹脂Bは本発明の樹脂組成物中で連続相をなし、本発明にかかるエラストマーAをその内部に分散相として含む。
【0052】
本発明に用いる透明樹脂Bの屈折率は、高度な透明性を維持するために、1.521以上1.582以下である。下限は好ましくは1.531であり、より好ましくは1.541であり、上限は好ましくは1.579以下であり、より好ましくは1.572以下であり、さらには1.569以下であり、さらには1.562以下である。ここでの屈折率は、透明樹脂Bが2種以上の前記樹脂のブレンド物である場合、ブレンド物としての屈折率を用いる。
【0053】
最終的に得られる成型体の透明性と、成形加工のしやすさの観点から、透明樹脂Bはメチルメタクリレート由来の単位を含有する熱可塑性樹脂であることが好ましい。ここで、屈折率を前述の範囲とし、かつエラストマーA存在下に重合した重合体Cとの親和性を確保して透明性・耐衝撃性を両立するために、透明樹脂Bは、メチルメタクリレート由来の単位と、芳香族基含有単量体由来の単位とを含有する共重合体からなる熱可塑性樹脂とすることがより好ましい。ここで好ましく用いられる芳香族基含有単量体は、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジルアクリレート、芳香族アルケニルであり、さらにフェニルメタクリレート、スチレンが好ましい。ここで、本発明の樹脂組成物の熱安定性を高めるために、好ましくは20重量%以下、より好ましくは9重量%以下、さらには7.5重量%以下、また、好ましくは2重量%以上、さらには3.5重量%以上の割合で、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートなどのアルキルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレートなどの芳香族基含有アクリレートを共重合することができる。
【0054】
最終的に得られる成型体の着色性と耐衝撃性のバランス、ならびに成形加工のしやすさの観点から、別の好ましい透明樹脂Bとして、芳香族ポリカーボネート系樹脂を用いることができる。芳香族ポリカーボネート系樹脂を用いた場合、透明性は損なわれるが、漆黒性など着色性が重要な用途において、耐衝撃性も同時に高レベルで発現させることができる。
【0055】
透明樹脂Bとして最も好ましく使用できるのは、透明性、耐熱性、耐衝撃性の観点から、芳香族ポリカーボネート系樹脂、およびメチルメタクリレート由来の単位と炭素環状基を有する(メタ)アクリレート由来の単位を含有する樹脂、の混合樹脂である。前記炭素環状基を有する(メタ)アクリレートとは、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、および/またはフェニル(メタ)アクリレートであることが好ましく、成形加工のしやすさの観点から最も好ましくはフェニルメタクリレートを用いることができる。メチルメタクリレート由来の単位と炭素環状基を有する(メタ)アクリレート由来の単位を含有する樹脂の最も好ましい組成は、メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート/アルキルアクリレートまたは芳香族基含有アクリレートの少なくとも三成分を含む共重合体である。ここでアルキルアクリレートにはメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートなど、芳香族基含有アクリレートにはフェノキシエチルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレートが使用でき、好ましくはメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートが使用でき、最も好ましくはメチルアクリレートである。前記共重合体中、透明性を維持しながら耐衝撃性・耐熱性・成形性を両立するために、フェニルメタクリレートは好ましくは16重量%以上、より好ましくは21重量%以上、さらには31重量%以上使用でき、かつ、好ましくは69重量%以下、より好ましくは59重量%以下、さらには47重量%以下、さらには37重量%以下である。また同じ理由で、メチルメタクリレートは好ましくは31重量%以上、より好ましくは41重量%以上、さらには53重量%以上、さらには63重量%以上であり、かつ、好ましくは84重量%以下、より好ましくは79重量%以下、さらには69重量%以下である。また熱安定性の観点から、アルキルアクリレートまたは芳香族基含有アクリレートは、好ましくは20重量%以下、より好ましくは9重量%以下、さらには7.5重量%以下、また、好ましくは2重量%以上、さらには3.5重量%以上の割合で、共重合することができる。芳香族ポリカーボネート系樹脂、およびメチルメタクリレート由来の単位と炭素環状基を有する(メタ)アクリレート由来の単位を含有する樹脂の割合は、これらの総量を基準として、芳香族ポリカーボネートが好ましくは4重量%以上、より好ましくは14重量%以上、さらに好ましくは26重量%以上であり、かつ、好ましくは74重量%以下、より好ましくは64重量%以下、より好ましくは54重量%以下、さらには49重量%以下である。対応して、メチルメタクリレート由来の単位と炭素環状基を有する(メタ)アクリレート由来の単位を含有する樹脂は、好ましくは26重量%以上、より好ましくは36重量%以上、より好ましくは46重量%以上、さらには51重量%以上であり、かつ、好ましくは96重量%以下、より好ましくは86重量%以下、さらに好ましくは74重量%以下である。芳香族ポリカーボネート系樹脂の割合が大きすぎると透明性・硬度を損ない、メチルメタクリレート由来の単位と炭素環状基を有する(メタ)アクリレート由来の単位を含有する樹脂の割合が大きすぎると耐衝撃性・耐熱性が不十分となる場合がある。
【0056】
前記共重合体の熱安定性をより高めるために、これらの成分の重合に際しては、2−エチルヘキシルチオグリコレート、t−ドデシルメルカプタン、n−デシルメルカプタン、ターピノーレンなどの連鎖移動剤を使用することが好ましい。
【0057】
前記共重合体は、バルク重合、溶液重合、懸濁重合などにより、当業者の知る方法で製造することができる。
【0058】
(その他添加剤)
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、通常使用される配合剤、すなわち、酸化防止剤、滴下(ドリップ)防止剤、難燃剤、耐衝撃性改良剤、可塑剤、滑剤、高分子量ポリメチルメタクリレート系樹脂などの溶融粘度(弾性)調整剤、紫外線吸収剤、顔料、ガラス繊維などの繊維強化剤、帯電防止剤、テルペン樹脂・アクリロニトリル−スチレン共重合体などの流動性改良剤、モノグリセリド・シリコーンオイル・ポリグリセリンなどの離型剤、相溶化剤、及び充填剤とマトリクス樹脂とのカップリング剤等などを適宜配合することができる。
【0059】
前記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤などを使用することができる。これらは単独で、または組み合わせて使用することができる。
【0060】
前記滴下防止剤、特に、UL−94試験などの燃焼試験時の滴下防止剤、としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系樹脂、またはポリテトラフルオロエチレンと(メタ)アクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニルなどを重合して得られる重合体などの他の重合体とを複合化させた粉体、ポリオルガノシロキサンまたはシリコーン樹脂、ポリアミドイミドなどを用いることが可能であり、その量はマトリクス樹脂100重量部あたり好ましくは2重量部以下、より好ましくは1重量部以下、さらには0.6重量部以下であり、好ましくは0.1重量部以上の範囲で用いると、滴下が問題となる場合に、その防止効果が得られて好ましい。
【0061】
前記難燃剤としては、赤リン、ビスフェノール−ビス(ジフェニルフォスフェート)やトリフェニルフォスフェートに代表されるリン酸エステル、縮合リン酸エステル、テトラブロモビスフェノール−A、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート、ヘキサブロモシクロデカン、フォスファゼン、メラミンシアヌレート、尿素樹脂などが挙げられる。樹脂Bが芳香族ポリカーボネート樹脂である場合には、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム、4−メチル−N−(4−メチルフェニル)スルフォニル−ベンゼンスルフォンアミドのカリウム塩、ジフェニルスルホン−3−3’−ジスルホン酸カリウム、パラトルエンスルホン酸ナトリウム、キシレンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの有機スルホン酸の金属塩を用いることができる。
【0062】
前記耐衝撃性改良剤としては、ブタジエン−メチルメタクリレート−スチレン共重合体(MBS)、アルキル(メタ)アクリレートゴムまたはポリオルガノシロキサンとアルキル(メタ)アクリレートゴムからなる複合ゴムにメチルメタクリレート、スチレン、アクリロニトリルなどをグラフト共重合したもの、ポリオルガノシロキサン存在下にビニル系単量体をグラフト共重合したもの等が挙げられる。等が挙げられる。
【0063】
前記充填剤としてはタルク・マイカ・炭酸カルシウム・シリカ・ポリオルガノシルセスキオキサン・酸化チタン・酸化亜鉛ナノ微粒子・ジルコニア・層状珪酸塩・金属微粒子・フラーレン・カーボンナノチューブ・マルチウォールカーボンナノチューブ・カーボンブラック・フライアッシュ・ウィスカなど、前記帯電防止剤としては、ポリアミド−ポリエーテルブロック体・アルキレングリコール・グリセリン・脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0064】
前記繊維強化剤としてはガラス繊維・植物繊維・炭素繊維などが挙げられる。
【0065】
前記相溶化剤としては、エポキシ基含有ポリオルガノシロキサンなどの官能基含有ポリオルガノシロキサン、(エポキシ変性)スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体などが挙げられる。
【0066】
前記充填剤とマトリクス樹脂とのカップリング剤としては、ポリオール、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などが挙げられる。
【0067】
前記マトリクス樹脂が熱可塑性樹脂あるいはエラストマーである場合には、フェノール樹脂などの前記熱硬化性樹脂を炭化促進剤として少量添加する事が出来る。
【0068】
最終的にヘイズ値が5%以下の透明な成型体を得る場合には、繊維強化剤、充填剤、滴下防止剤の使用は避けることが好ましい。
【0069】
(成形法)
本発明のエラストマーAと透明樹脂Bとの混合は、通常の公知の混練機械によって行なわれる。このような機械としては、ミキシングロール、カレンダーロール、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ニーダー、押出機、ブロー成形機、インフレーション成形機等を挙げることができる。
【0070】
本発明の樹脂組成物の成形法としては、本発明のエラストマーAと熱可塑性樹脂から得られる場合は通常の熱可塑性樹脂組成物の成形に用いられる成形法、すなわち、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法、回転成形法、射出プレス成形法などを適用することができる。また熱硬化性樹脂とから得られる場合には、型などに本発明の樹脂組成物を導入した後、加熱などにより硬化させる方法などを適用することができる。エラストマーとから得られる場合には、例えば、スラッシュ成形、射出成形や熱プレス成形といった成形方法で、成形目的に応じた形状に成形され、必要に応じて加硫されて成形品となる。
【0071】
(用途)
本発明の樹脂組成物から得られる成形品は、耐衝撃性に優れ、透明性が高く、あるいは着色性に優れたものとなるので、その用途としては、特に限定されないが、例えば、デスクトップ型コンピューター・ノート型コンピューター・液晶ディスプレイ・プラズマディスプレイ・フィールドエミッションディスプレイ・プロジェクター・プロジェクションテレビ・PDA・プリンター・コピー機・ファックス・(携帯型)オーディオ機器・(携帯型)ビデオ機器・(携帯)電話機・照明機器・ゲーム機・デジタルビデオカメラ・デジタルカメラ・ビデオレコーダー・ハードディスクビデオレコーダー・DVDレコーダー・湯沸かし器・炊飯器・電子レンジ・オーブンレンジ・時計・自動改札機・自動発券機・ヒートポンプ(エアコンなど)・コジェネレーターなどオフィス製品・家電製品・産業機器、ベンチ・遊具、自動車用などのバッテリー・キャパシタの部品、LED映像表示装置・電源ボックス内の表示素材・電話ジャック・端子台カバー・コイルボビン・変圧器などの電子・電機部品、封止剤などの電気・電子材料、接着剤、シール材、ガラスの振動防止材、ヒータファン・ハンドル・防振材・シフトレバーなどの自動車部材、ワイヤーシース・ドア・窓・パーティション・ファンなどの建築部材、道路・空港・駅・港などの標識、各種医療機器、各種介護用品、玩具、スポーツ用品、シールド・プロテクター・ゴーグル・ヘルメット・マスクなどの保護具、鉄道の窓・表示装置・照明・運転席パネルなどの車両部材、航空機の窓・操縦席パネルなどの航空機部材、船舶などの部材、家具など、耐衝撃性と着色性などが必要となる用途があげられる。さらには、前述のオフィス製品・家電製品・産業機器・医療機器・介護用品の窓部や表層部などの透明性が必要な部位、照明・電飾や表示装置の光透過性を有する部位、航空機・船舶・鉄道車両・自動車・建築物などの窓、パーティション・ドア・展示設備などの透明性が必要な建築部材、標識の表面層など、耐衝撃性と透明性が必要となる用途が挙げられる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を、実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下における測定および試験はつぎのようにして行った。
【0073】
(重合転化率)
まず、得られたラテックスの一部を採取・精秤し、それを熱風乾燥器中で130℃、1時間乾燥し、その乾燥後の重量を固形分量として精秤した。次に、乾燥前後の精秤結果の比率をラテックス中の固形成分比率として求めた。最後に、この固形成分比率を用いて、以下の数式1により重合転化率を算出した。なお、この数式3において、連鎖移動剤は仕込み単量体として取り扱った。
【0074】
重合転化率(%)
=〔(仕込み原料総重量×固形成分比率−水・単量体以外の原料総重量)
/仕込み単量体重量〕×100 (数式1)
【0075】
(体積平均粒子径)
エラストマー粒子、及びグラフト共重合体の体積平均粒子径はラテックスの状態で測定した。測定装置として、日機装株式会社製のMICROTRAC UPA150を用いて体積平均粒子径(μm)を測定した。
【0076】
(低分子過酸化物含有量)
高純度アセトン(関東化学製 5000倍濃縮)を用いて重合体試料の2重量%溶液を調整し、一晩抽出を行った後、ディスクフィルターでろ過し、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC/MS)測定により、合成に際して用いた過酸化物の残留量の定量分析を行った。GCにはAgilent Technologies製GC6890plus、MSにはAgilient Technologies製5973、カラムにはAgilient Technologies製DB−1701 0.25mmlDx30mを用いた。検出限界は50ppmである。
【0077】
(ガラス転移温度)
セイコーインスツルメンツ製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC−5200を用い、試料を一旦150℃まで昇温した後、10℃/分の速度で−80℃まで温度を下げる予備調整を経て5分間保持した後、10℃/分の昇温速度で150℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線からガラス転移開始点を読み取り、ガラス転移温度を求めた。
【0078】
(耐衝撃性)
ASTM D−256に準じて、アイゾット試験により評価した。
【0079】
(全光線透過率・ヘイズ値)
サンプルの全光線透過率、及びヘイズ値を、JIS K7105に準じて、日本電色工業株式会社製のヘイズメーターNDH2000により測定した。
【0080】
(黄色度)
JIS K7105に準じて、日本電色工業株式会社製の測色色差計ZE−2000により測定した。
【0081】
(屈折率)
JIS K7142に準じて、アタゴ社製アッベ屈折計2Tを用いて、ナトリウムD線波長における屈折率(nD)を測定した。
【0082】
(硬度)
JIS K5600に準じた。
【0083】
(荷重たわみ温度(HDT))
ASTM D648に準じて、株式会社東洋精機製作所製ヒートディストー所んテスターを用いて、測定した。
【0084】
(曲げ特性)
ASTM D143に準じて、インストロンジャパンカンパニイリミテッド社製万能試験機を用いて、測定した。
【0085】
(流動性)
JIS K7210およびISO 7391−1に準じて、300℃で1.2kg荷重にて、230℃で3.8kg荷重にて、220℃で10kg荷重にて、あるいは200℃5kg荷重にて、東洋精機製作所製メルトインデクサー P−101を用いて測定した。
【0086】
(製造例1) エラストマー粒子(R−1)の製造
撹拌機、圧力計、原料追加口、サンプリング口、減圧ライン、窒素ライン及び温度計を備えた耐圧反応器に、イオン交換水200重量部、リン酸水素二ナトリウム0.03重量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.0016重量部、硫酸鉄(II)0.0004重量部、水酸化ナトリウム0.0044重量部を仕込み、−0.07MPa以下となるよう反応器内を20分間減圧した後、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Y)0.05重量部、フェニルチオエチルアクリレート(PhSEA、大阪有機化学工業株式会社製)57.5重量部、ブタジエン(Bd)42.5重量部、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)0.005重量部を仕込み、50℃に昇温した。50℃到達後、パラメンタンハイドロパーオキサイド(PMH)0.028重量部、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物(SHMS)0.05重量部を加え、重合を開始させた。重合開始から1時間30分後にRD−510Yを0.15重量部、水酸化ナトリウム0.013重量部、3時間後にRD−510Yを0.3重量部、水酸化ナトリウム0.032重量部、6時間後おいび9時間後に同量のRD−510Yと水酸化ナトリウムを加えた。別途、重合開始から3時間後にPMH 0.014重量部、5時間後、7時間後、9時間後にPHM 0.01重量部ずつを加えた。10時間経過後に60℃に昇温し、15時間後にブタジエン(Bd)をストリッピングして重合を終了させた。固形分濃度32%、重合転化率95%であり、体積平均粒子径225nm、屈折率1.5579、ガラス転移温度(Tg)−45.9℃のエラストマー粒子(R−1)を含むラテックスを得た。
【0087】
(製造例2) エラストマー粒子(R−2)の製造
製造例1において、フェニルチオエチルアクリレート(PhSEA、大阪有機化学工業株式会社製)40重量部、ブタジエン(Bd)60重量部とし、ブタジエン(Bd)のストリッピングを18時間後に実施した以外は、製造例1同様にして、固形分濃度32%、重合転化率95%であり、体積平均粒子径230nm、屈折率1.5486、ガラス転移温度(Tg)−60.4℃のエラストマー粒子(R−2)を含むラテックスを得た。
【0088】
(製造例3) 多段重合体粒子(G−1)の製造
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、及び温度計を備えた7口フラスコに、イオン交換水350重量部、製造例1で得たエラストマー粒子(R−1)を含むラテックス83.5重量部(固形分相当)を仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。60℃到達の15分後に、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.0006重量部、硫酸鉄(II)0.0024重量部、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物(SHMS)0.2重量部を仕込んだ。続けて、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)0.5重量部、引き続いて、クメンハイドロパーオキサイド(CHP)0.005重量部を追加し、1時間攪拌を続けた。その後に、メチルメタクリレート(MMA)11.00重量部、フェニルチオエチルアクリレート(PhSEA)3.08重量部、スチレン(St)2.42重量部、2−エチルヘキシル チオグリコレート(2EHTG)0.01重量部、t−ブチルハイドロパーオキサイド(TBHP)0.08重量部からなる混合物を50分間にわたって連続的に追加した。30分経過の後、t−ブチルハイドロパーオキサイド(TBHP)0.1重量部を追加し、さらに10分後にヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物(SHMS)0.1重量部を添加した後、30分間の後重合を行った。固形分濃度22%、重合転化率99%であり、体積平均粒子径237nmである多段重合体粒子(G−1)のラテックスを得た。
【0089】
別途0.5%塩化マグネシウム水溶液2.5重量部(固形分)を25℃で攪拌し、得られた多段重合体粒子(G−1)を含むラテックスを注ぎ込んだ。攪拌下75℃に昇温した後、脱水、温水洗浄、乾燥を経て、多段重合体粒子(G−1)を含む粉体を得た。
【0090】
(製造例4) 多段重合体粒子(G−2)の製造
製造例3において、エラストマー粒子(R−1)に替えてエラストマー粒子(R−2)を用いた以外は、製造例3と同様にして、固形分濃度22%、重合転化率99%であり、体積平均粒子径が241nmの多段重合体粒子(G−2)のラテックスを得た。さらに製造例3と同様にして、多段重合体粒子(G−2)を含む粉体を得た。
【0091】
(製造例5) 多段重合体粒子(G−3)の製造
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、及び温度計を備えた7口フラスコに、イオン交換水350重量部、製造例1で得たエラストマー粒子(R−1)を含むラテックス83.5重量部(固形分相当)を仕込み、窒素気流下で60℃に昇温した。60℃到達の15分後に、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.0006重量部、硫酸鉄(II)0.0024重量部、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物(SHMS)0.3重量部を仕込んだ。続けて、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)0.5重量部、引き続いて、クメンハイドロパーオキサイド(CHP)0.005重量部を追加し、1時間攪拌を続けた。その後に、メチルメタクリレート(MMA)4.95重量部とスチレン(St)11.55重量部、t−ブチルハイドロパーオキサイド(TBHP)0.15重量部からなる混合物を50分間にわたって連続的に追加した。30分経過の後、t−ブチルハイドロパーオキサイド(TBHP)0.1重量部を追加し、さらに10分後にヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物(SHMS)0.1重量部を添加した後、30分間の後重合を行った。固形分濃度22%、重合転化率99%であり、体積平均粒子径240nmである多段重合体粒子(G−3)のラテックスを得た。
【0092】
別途0.8%塩化カルシウム水溶液4重量部(固形分)を25℃で攪拌し、得られた多段重合体粒子(G−3)を含むラテックスを注ぎ込んだ。攪拌下75℃に昇温した後、脱水、温水洗浄、乾燥を経て、多段重合体粒子(G−3)を含む粉体を得た。
【0093】
(製造例6) メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート共重合体(PMMA/PhMA−1)樹脂の製造
撹拌機、還流冷却器、窒素吹込口、単量体追加口、及び温度計を備えた7口フラスコに、イオン交換水250重量部、リン酸水素二ナトリウム0.5重量部を仕込み、つづいて、メチルメタクリレート(MMA)59重量部、フェニルメタクリレート(PhMA)37重両部、メチルアクリレート(MA)4重量部、ラウロイルパーオキサイド(LPO)1重量部、2−エチルヘキシル チオグリコレート(2EHTG)0.65重量部の混合物を仕込んだ。攪拌下60℃に昇温し、昇温完了から1時間経過時点でポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体(株式会社ADEKA製、商品名:プルロニックF68)0.09重量部を追加し、2時間攪拌した後に、85℃に昇温し、さらに3時間攪拌を行って、メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート共重合体(PMMA/PhMA−1)を含む懸濁重合スラリー得た。脱水、洗浄、乾燥を経て、メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート共重合体(PMMA/PhMA−1)樹脂のビーズを得た。
【0094】
(製造例7) メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート共重合体(PMMA/PhMA−2)樹脂の製造
製造例6において、メチルメタクリレート(MMA)59重量部、フェニルメタクリレート(PhMA)37重両部、メチルアクリレート(MA)4重量部に替えて、メチルメタクリレート(MMA)48重量部、フェニルメタクリレート(PhMA)48重両部、メチルアクリレート(MA)4重量部とした以外は、製造例6と同様にして、メチルメタクリレート/フェニルメタクリレート共重合体(PMMA/PhMA−2)樹脂のビーズを得た。
【0095】
(製造例8) メチルメタクリレート重合体(PMMA)樹脂の製造
製造例6において、メチルメタクリレート(MMA)59重量部、フェニルメタクリレート(PhMA)37重両部、メチルアクリレート(MA)4重量部に替えて、メチルメタクリレート(MMA)96重量部、メチルアクリレート(MA)4重量部とした以外は、製造例6と同様にして、メチルメタクリレート重合体(PMMA)樹脂のビーズを得た。
【0096】
(実施例1〜3、比較例1〜6)ポリカーボネート/アクリル系樹脂組成物の製造
表1に示すように、製造例3、4で得た多段重合体粒子(G−1、2)あるいは後述のMBS樹脂を、後述のリン系酸化防止剤とともに、ポリカーボネート(PC)樹脂(屈折率:1.5862、帝人化成株式会社製、商品名:パンライトL−1225L)、製造例6〜7で得たメチルメタクリレート/フェニルメタクリレート共重合体(PMMA/PhMA−1の屈折率:1.5183、PMMA/PhMA−2の屈折率:1.5266)樹脂および製造例8で得たメチルメタクリレート重合体(PMMA)樹脂(屈折率:1.4940)に対して配合した。得られた配合物を、二軸押出機(株式会社日本製鋼所製 TEX44SS)を用いて、表1に示した温度で溶融混練し、ペレットを作製した。当該ペレットを用いて流動性を測定した結果を表1に示す。
【0097】
得られたペレットを用い、FANUC製の100B射出成形機を用いて、表1に示した温度で1/8インチ・1/4インチのテストピースと75mm x 50mm x 厚さ2mmのプレートを作成した。1/8インチテストピースを用いて耐衝撃性を、1/4インチテストピースを用いて荷重たわみ温度・曲げ特性を評価し、プレートを用いて光学特性(全光線透過率・ヘイズ値・黄色度)・鉛筆硬度を測定した。結果を表1に示した。
【0098】
【表1】

表中、リン系酸化防止剤はトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト(株式会社ADEKA製,商品名:アデカスタブ2112)、MBS樹脂はメチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン系共重合体樹脂(屈折率1.5550、ブタジエン−スチレンからなるコア含有量は81重量%であり、そのガラス転移温度は−4℃であり、スチレン−メチルメタクリレート−4−ヒドロキシブチルアクリレート共重合体からなるシェル含有量が19重量%である)である。
【0099】
表1の実施例1〜3に見るように、本発明の樹脂組成物は、本発明にかかる多段重合体粒子を含まない、対応する透明樹脂組成を有する比較例1〜3と比較して、耐衝撃性に優れる事がわかる。また実施例3に見るように、本発明にかかる多段重合体粒子に替えて公知のMBS樹脂〔エラストマー中に芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル由来の単位を含まない〕を用いた比較例4と比較して、透明性、耐衝撃性に優れる事が分かる。実施例1〜3に見るように、透明樹脂としてメチルメタクリレート(PMMA)樹脂のみを用い、本発明にかかる多段重合体粒子を用いない比較例5に比べ、耐熱性(荷重たわみ温度)、耐衝撃性に優れることがわかる。また実施例1〜3に見るように、透明樹脂としてポリカーボネート(PC)樹脂のみを用い、本発明にかかる多段重合体粒子を用いない比較例6に比べ、硬度に優れる事が分かる。
【0100】
(実施例4、比較例7〜8)ポリメチルメタクリレート/スチレン(MS)系樹脂組成物の製造
表2に示すように、製造例5で得た多段重合体粒子(G−3)あるいは比較例4と同様のMBS樹脂を、前述のリン系酸化防止剤とともに、市販のメチルメタクリレート/スチレン(MS)樹脂(新日鐵化学株式会社製、商品名:エスチレンMS−300、MMA含有率約30%、St含有率約70%、屈折率1.563)に対して配合した。得られた配合物を、単軸押出機(田端機械工業株式会社製 HV−40−28)を用いて、210℃で溶融混練し、ペレットを作製した。当該ペレットを用いて流動性を測定した結果を表2に示す。
【0101】
得られたペレットを用い、FANUC製の100B射出成形機を用いて、230℃で1/8インチのテストピースと75mm x 50mm x 厚さ2mmのプレートを作成した。1/8インチテストピースを用いて耐衝撃性を、プレートを用いて光学特性(全光線透過率・ヘイズ値・黄色度)を測定した。結果を表2に示した。
【0102】
【表2】

表2の実施例に見るように、本発明の樹脂組成物は、本発明にかかる多段重合体粒子を含まない比較例7、あるいは本発明にかかる多段重合体粒子に替えて公知のMBS樹脂を用いた比較例8に比べて、透明性を維持しながら、耐衝撃性が改良されていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル由来の単位と共役ジエン由来の単位を含有し、−21℃以下のガラス転移温度を有するエラストマーAを含む分散相と、
屈折率が1.521以上1.582以下である透明樹脂Bである連続相
を含む樹脂組成物。
【請求項2】
エラストマーAを含む分散相の平均粒子径が150〜750nmである、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル由来の単位と共役ジエン由来の単位を含有し、−21℃以下のガラス転移温度を有するエラストマーAの存在下に、
メチルメタクリレート20〜100重量%、アルキルアクリレート0〜20重量%、芳香族アルケニル80〜0重量%、芳香族(メタ)アクリル酸エステル80〜0重量%、芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステル0〜50重量%、およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜40重量%を重合して得られる粒子状の多段重合体と
屈折率が1.521以上1.582以下である透明樹脂Bとを混合して得られ、
前記エラストマーAを含む多段重合体が分散相をなし、
前記透明樹脂Bが連続相をなす、
請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
芳香族チオアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸エステルが、フェニルチオエチルアクリレートである、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項5】
透明樹脂Bがメチルメタクリレート由来の単位を含有する熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項6】
透明樹脂Bが
メチルメタクリレート由来の単位と、芳香族基含有単量体由来の単位とを含有する熱可塑性樹脂
を含むことを特徴とする、請求項5記載の透明樹脂組成物。
【請求項7】
透明樹脂Bが、芳香族ポリカーボネート系樹脂を含むことを特徴とする、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項8】
透明樹脂Bが、
芳香族ポリカーボネート系樹脂、
およびメチルメタクリレート由来の単位と炭素環状基を有する(メタ)アクリレート由来の単位を含有する樹脂、
の混合樹脂であることを特徴とする、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1記載の樹脂組成物から得られる成型体であって、ASTM D1003によるヘイズ値が10%以下である、成形体。


【公開番号】特開2013−43981(P2013−43981A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184936(P2011−184936)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】