説明

高屈折率光学層を製造するための蒸着材料

【課題】耐久性があり、湿度、酸およびアルカリに非感受性で、低放射性で、透明であり、広範囲のスペクトルに非吸収性であり、その元の組成を溶融と蒸発の間に変化させず、かつ、同じ特性を有する高屈折率の層の製造に適した、少なくとも2.0の高屈折率を有する層を製造するための蒸着材料を提供する。
【解決手段】酸化チタンと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムとを含む、高屈折率の光学層を製造するための蒸着材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムと混合した酸化チタンを含む高屈折率光学層の製造用蒸着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
光学部品には、通常、表面の保護のため、または或る光学特性を達成するために施用された薄いコーティングが設けられる。
【0003】
この種の光学部品は、例えば、光学レンズ、眼鏡レンズ、カメラ、双眼鏡または他の光学装置用のレンズ、ビーム分割器、プリズム、ミラー、窓ガラス等である。コーティングは、第1に機械的、化学的、または環境の影響による損傷を低減または防止するためだけでなく、第2に、しばしば特に眼鏡レンズまたはカメラレンズの場合、反射の低減を達成するために、前記表面を硬化および/または化学抵抗性の増加によって対処する働きをする。適切なコーティング材料、異なる層厚さ、および、適切に、異なる屈折率の異なる材料を含む単層または多層構造を選択することによって、可視光線スペクトル全体にわたって1%未満の反射低減を達成することが可能である。適切な層厚さの様々な材料の適切な組み合わせによって、干渉ミラー、ビーム分割器、熱フィルター、またはコールドミラーも製造することができる。
【0004】
上記のコーティング層を製造するために、例えば、SiO2、TiO2、ZrO2、MgO、Al23などの、特に様々な酸化物材料だけでなく、MgF2などのフッ化物、およびこれらの物質の混合物が知られている。
【0005】
本明細書において、コーティング材料は目標とする光学特性に応じて、また材料の処理特性に応じて選択される。
【0006】
通常、光学基板のコーティングは高真空蒸着工程を用いて行われる。ここでは、最初に基板と蒸着物質を含むフラスコを適切な高真空蒸着装置の中に置き、続いて装置を真空にし、蒸着物質を加熱および/または電子ビーム衝撃によって蒸発させ、蒸着材料は基板表面上に薄い層の形で堆積する。対応する装置および工程は従来の先行技術である。
【0007】
高屈折率、すなわち2以上の屈折率を有する層の製造に適した出発材料の選択は比較的制限される。ここで、適切なものは、本質的にチタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタルの酸化物およびそれらの酸化物の混合物である。最もしばしば使用されるのは酸化チタンである。それから製造される層は約380nm〜5μmの可視および近赤外スペクトル範囲に透明であり、出発材料のように、大きな吸収があってはならない。酸化チタンで達成することのできる波長約500nmでの屈折率は約2.4である。しかし、UV照射で吸収が観察される。
【0008】
特に純粋な酸化チタン(IV)の場合、蒸発中に酸素の損失が起こる危険性もあり、当量不足の酸化チタン層が堆積し、したがって、可視領域で吸収する層が生成する。これは、例えば、酸素残留圧力の確保、または替りに或る物質、例えば特許文献1による、希土類群からの元素または酸化物などの添加など、蒸発中の適切な処置によって回避することができる。ここでは、特に、酸化チタンとプラセオジムおよび/または酸化プラセオジムとの混合物、あるいは酸化チタンとセリウムおよび/または酸化セリウムとの混合物について記述された。
【0009】
しかし、これらの既知の混合物の相対的な吸収のなさは可視スペクトル領域に限られる。対照的に、特許文献1には紫外または近赤外スペクトル領域についての記述がない。
【0010】
さらに純粋な酸化物の欠点はそれらが一般に高い融点と沸点を有し、さらにそれらが互いに近いことである。しかし、処理上の理由から、蒸着材料は多量の蒸発を開始する前に完全に溶融することが推奨される。このようにすることによってのみ、均質な厚さの均質な層の形成に必要な、均質で十分な蒸発速度を達成することが可能である。しかし、通常の作業条件下で、溶融に関する困難性が、特にジルコニウムおよびハフニウムの酸化物の場合、また、チタン/ジルコニウムの混合酸化物の場合にも発生する。得られる層はしばしば光学的に不均質であり、通常の多層用途の場合、屈折率の再現性を得ることが困難になる。
【0011】
この理由によって、金属酸化物の融点を下げるため、なかでも特定の屈折率を変化させるために使用される材料が純粋な金属酸化物に加えられる。しかし、これらの材料は形成された層に可視領域内での大きな吸収が起きないように選択しなければならない。
【0012】
しかし、上述の金属酸化物の混合物は、融点降下添加剤と調和せずに蒸発する、すなわち、それらが蒸着工程の過程でその組成を変化させ、堆積層の組成もそれに応じて変化するという欠点を有することが判った。
【0013】
この問題を解決するために、例えばLa2Ti27などの混合酸化物が提案された。しかし、これらは蒸発中に、酸化チタン(IV)と同じように酸素を放出し、堆積層は当量不足の組成になり、したがって吸収現象を起す。
【0014】
高屈折率層の製造に適した、既に上に述べた金属酸化物に加えて、他の刊行物も希土金属の酸化物について既に述べている。
【0015】
すなわち、例えば、酸化プラセオジムと二酸化チタンの混合物が知られている。これらは400nm未満のスペクトル領域に強い吸収を有し、プラセオジムイオンの吸収のため可視スペクトル領域に弱い吸収を有する。
【0016】
また、酸化ランタンと酸化チタンの混合物も、例えば、特許文献2および特許文献3に既に幾度となく提案された。しかし、酸化ランタンを含有することによって、それで製造した層は湿度への感受性が高くなる。さらに、ランタンの天然放射性同位元素はその放射線のため感受性の高い光学部品に損傷を与えることがある。
【0017】
特許文献4は、光学増幅器の反射防止コーティングとして働く、酸化アルミニウム層と交互する酸化ガドリニウム層の使用について記述している。この材料の研究は、施用方法に応じて1.75または1.80の屈折率を有する均質な層が酸化ガドリニウムの蒸着によって得られることを示した(K.Truszkowska、C.Wesolowska、「Optical properties of evaporated gadolinium oxide films in the region 0.2−5μm」、Thin Solid Film(1976)、34(2)、391−4)。製造された層は、したがって目標の屈折率2以上から、はるかに離れている。
【0018】
特許文献5は、光学レンズの反射防止コーティングの製造に、二酸化チタンと酸化イッテルビウムの交互層、または酸化アルミニウムと酸化イッテルビウム層の順序を用いることを開示している。酸化イッテルビウムは、施用した層の厚さに応じて、および施用方法に応じて1.75〜1.9の屈折率を達成できることが知られている。これらの屈折率は同様に高屈折率範囲にはない。
【0019】
また、酸化チタンと酸化ジスプロシウムおよび/または酸化イッテルビウムとの混合物が知られているが、これらは、特許文献6によれば、ゾル/ゲル工程において半導体金属酸化層を製造するために光電池に適用される。製造された層の達成可能な屈折率についての情報は与えられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】独国特許出願公開第1228489号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第4208811号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第10065647明細書
【特許文献4】米国特許第4794607号明細書
【特許文献5】独国特許出願公開第3335557号明細書
【特許文献6】国際公開第95/05670号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、本発明の目的は、耐久性があり、湿度、酸およびアルカリに非感受性で、低放射性で、透明であり、広範囲のスペクトルに非吸収性であり、その元の組成を溶融と蒸発の間に変化させず、かつ、同じ特性を有する高屈折率の層の製造に適した、少なくとも2.0の高屈折率を有する層を製造するための蒸着材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
この目的は、酸化チタンと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムを含む高屈折率光学層を製造するための蒸着材料による本発明によって達成される。
【0023】
本発明の目的は、高屈折率光学層を製造するための蒸着材料の調製工程によってさらに達成され、酸化チタンは酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムと混合され、混合物は圧縮または懸濁され、成形され、続いて焼結される。
【0024】
さらに本発明は、高屈折率光学層を製造するために、酸化チタンと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムを含む蒸着材料の使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明による一実施形態において、蒸着材料は二酸化チタンと酸化ガドリニウム(Gd23)および/または酸化ジスプロシウム(Dy23)とを含む。これらの材料は4:1〜1:4のモル比で存在することができ、各場合において最後の数は酸化ガドリニウムまたは酸化ジスプロシウムのモル比に関係し、あるいは酸化ガドリニウムと酸化ジスプロシウムのモル比の総計に関係する。
【0026】
材料は2.6:1〜1:1.3のモル比で存在することが好ましく、再び、最後の数は酸化ガドリニウムまたは酸化ジスプロシウムのモル比、あるいは酸化ガドリニウムと酸化ジスプロシウムのモル比の総計に関係する。
【0027】
酸化ガドリニウムと酸化ジスプロシウムとの混合物が使用されるならば、個々の物質のそれぞれ互いに対する比は本質的に重要ではない。それは広範囲の比、具体的に言うと99:1〜1:99の比に設定することができる。
【0028】
個々の成分のコーティングで達成することのできる屈折率を考慮すれば、これらは、二酸化チタンのコーティングの場合に約2.3〜2.4であり、純粋な酸化ガドリニウム層および純粋な酸化ジスプロシウム層では約1.75〜1.9の屈折率を得ることができる。
【0029】
一般に、成分のモル比に応じて2つの個々の値の間にある屈折率を有する層は、2種の成分の混合物で達成することができる。したがって、幾分低い屈折率を有する成分が比較的高いモル比であれば、混合物の屈折率は、比較的高い屈折率の成分の屈折率より、低い屈折率の成分の屈折率に近くなる。
【0030】
したがって、二酸化チタンと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムを好ましくは上述のモル比で含む混合物は、驚くべきことに、予測される混合値よりも有意に高い屈折率、特に純粋な二酸化チタンの屈折率に近い屈折率を有する層の製造を可能にすることが見出された。具体的には、2.0を有意に超える、すなわち約2.20〜約2.30の範囲の屈折率を有する層をこれらの混合物で製造することができる。具体的には、各場合に望まれる規定した屈折率は、酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムのモル比によってこの範囲内に設定することができる。これらの成分の1種または両方が比較的高い比率であれば、得られる屈折率はわずかに低くなる。
【0031】
酸化ガドリニウムおよび酸化ジスプロシウムの両方が混合物に用いられるならば、これらの2種の物質のそれぞれのモル比は、対照的に二酸化チタンを含有する混合物全体で得ることのできる屈折率に有意な影響を与えない。特に混合物のモル比の総計が上述の限度内であるならば、このことが当てはまる。
【0032】
さらに、本発明による蒸着材料は実質上調和して蒸発する、すなわち、その組成が蒸着工程の過程を通じて有意に変化しないことが有利なことに見出された。このようにして、n≧2.0、特にn≧2.20の安定な高屈折率の均質な層を製造することができる。
【0033】
さらに、得られる光学層は広いスペクトル範囲、すなわち、約380nm〜5μmで透明性が高い。特に、可視および近赤外スペクトル領域において完全な透明性を得ることができる。
【0034】
高屈折率の層を製造するための従来技術で既知の蒸着材料と比べて、本発明による蒸着材料から製造される層は改善された耐久性を有する。これは、本発明による蒸着材料が湿気を吸収する傾向がないので、高温多湿の環境中で特に明らかである。この特性は、混合物を取り扱い、さらに処理する特殊な手段が不要なので、蒸着材料の調製という早い段階で既に非常に有利であることが判明している。しかし、適切な基板上に堆積した後に形成された高屈折率層も、高温多湿の環境中で特に安定である。酸およびアルカリに対する改善された耐久性を同様に観察することができる。
【0035】
本発明の蒸着材料のさらなる利点は、使用される物質が放射線同位元素を持たないことにある。したがって、蒸着材料自体、またはそれから製造された層のいずれも放射能を放出せず、安全対策が不要であり、これに関して層に接触する光学部品または検出器に対する損傷を予期する必要のないことを意味する。
【0036】
本発明のさらに他の実施形態において、高屈折率光学層を製造するための蒸着材料は二酸化チタン、チタン、ならびに酸化ガドリニウム(Gd23)および/または酸化ジスプロシウム(Dy23)を含む。
【0037】
金属チタンの添加のために、この場合、酸素に関して混合物の不足当量比(substoichiometric ratio)が設定される。混合物の溶融および蒸発の間の酸素の放出がそれによって回避される。また、さもなければ通常溶融および蒸発の間に発生しがちな噴出(spitting)を防止することができるので、これは蒸着材料の取り扱いも改善する。このようにして、混合物は、後続の処理を通して変化しない特に安定な組成を達成する。
【0038】
ここでも、酸化チタン対酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムのモル比は、4:1〜1:4とすることができるが、好ましくは2.6:1〜1:1.3であり、各場合において最後の数が酸化ガドリニウムまたは酸化ジスプロシウムのモル比、あるいは酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムのモル比の総計に関係している。
【0039】
酸化ガドリニウムと酸化ジスプロシウムの混合物が使用される場合、個々の物質の互いに対する比率は、2種の物質のモル比内で99:1〜1:99の比に変化することができる。
【0040】
二酸化チタン、チタンおよび酸化ジスプロシウムの混合物は特に有利であることが判明した。
【0041】
重量部に関しては、以下の比が有利に設定される。すなわち、混合物の総重量基準で、50〜92重量部の酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウム、7〜42重量部の二酸化チタン、0〜8重量部のチタンである。
【0042】
混合物の総重量基準で、67〜76重量部の酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウム、15〜27重量部の二酸化チタン、2〜5重量部のチタンを用いることが好ましい。
【0043】
材料から得られる光学層の達成可能な屈折率に関して、金属チタンの添加は不利な影響を与えない。ここでも、2.0を超える屈折率、特に2.20〜2.30を得ることができる。
【0044】
チタンを添加しない本発明による蒸着材料について上で既に述べた全ての利点は、二酸化チタンと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムと、さらに金属チタンを含む混合物にも当てはまる。
【0045】
これは、混合物を良好に処理することができ、広いスペクトル範囲で非吸収性かつ透明であり、さらに高温多湿環境中で安定であり放射線を放出しない、安定な高屈折率を有する均質な層が、それにより得られることを意味する。
【0046】
本発明による蒸着材料は、酸化チタンを酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムとを混合し、混合物を圧縮または懸濁させ、成形し、続いて焼結する工程によって調製される。酸化チタンと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムとは、4:1〜1:4のモル比、特に2.6:1〜1:1.3のモル比で互いに緊密に混合することが有利であり、各場合において最後の数が酸化ガドリニウムまたは酸化ジスプロシウムのモル比、あるいは酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムのモル比の総計に関係している。
【0047】
混合物は、それ自体既知の適切な圧縮手段によって圧縮され、成形される。しかし、成分を適切なキャリア媒体中に混合した懸濁物に調製することも可能であり、これを成形し続いて乾燥する。適切なキャリア媒体は、例えば水であり、必要であればポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリエチレングリコールなどの結合剤、所望ならば、例えば湿潤材、消泡剤などの補助剤を水に加える。懸濁作業の後、成形が行われる。これには、押し出し成形、射出成形、噴霧乾燥などの様々な既知の技術を用いることができる。得られた成型体を乾燥し、例えば燃焼などによって結合剤を取り除く。これは混合物のより良好な取り扱いと計量のために行われる。したがって、混合物を変換する形状は制限されない。適切な形状は、簡単な取り扱いと良好な計量を容易にする全てのものであり、特に、本発明による蒸着材料での基板の連続コーティング、およびこの目的のために必要な補充工程において特別の役割を果たす。したがって、好ましい形状は様々なタブレット形状、ペレット、ディスク、円錐台、顆粒もしくは粒、棒、またはさらにビーズである。
【0048】
成形された混合物は続いて焼結される。ここで、焼結工程は様々な条件下で行うことができる。例えば、焼結は1200〜1600℃の温度の空気中、1200〜1600℃の温度の例えばアルゴンなどの不活性ガス中、または1300〜1700℃の温度の減圧下、1Pa未満の残留圧力で行うことができる。ここで、焼結工程が必ずしも通常一般的な減圧下で行う必要のないことは有利である。これは両方とも装置の複雑化を低減し、時間を節約する。
【0049】
成形され焼結された生成物は、貯蔵、輸送、蒸発装置への導入の間その形状を保ち、後続の溶融および蒸着の全工程を通してその組成は安定である。
【0050】
しかし、二酸化チタンが、チタン、酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムと混合され、圧縮、または懸濁され、成形され、続いて焼結されるならば特に安定な蒸着材料が得られる。
【0051】
モル混合比、成形の種類および焼結条件に関して、本発明による蒸着材料に関する上述の詳細は、金属チタンの添加以外には変更はない。
【0052】
混合の間、混合物の総重量基準で、50〜92重量部の酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウム、7〜42重量部の酸化チタン、0〜8重量部のチタンの重量比を設定することが好ましい。混合物の総重量基準で、67〜76重量部の酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウム、15〜27重量部の酸化チタン、2〜5重量部のチタンを含む混合物を調製することが特に好ましい。
【0053】
上述の混合比を保つ、酸化ジスプロシウム、二酸化チタン、チタンの混合物は特に有利であることが判明した。
【0054】
焼結および冷却の後、本発明による蒸着材料は、n≧2.0、特にn≧2.20の屈折率を有する高屈折率光学層の製造に使用する準備が完了する。
【0055】
本発明による蒸着材料は、様々なガラスやプラスチックなどの既知の適切な材料からなることのできる、全ての適切な基板、特に窓ガラス(panes)、プリズム、シートと、光学レンズ、眼鏡レンズ、カメラレンズなどの成形した基板などとをコーティングするのに使用することができる。したがって本発明による蒸着材料の使用は、コーティングすべき基板の性質、サイズ、形状、材料および表面の品質に関して、基板が真空装置に導入することができ、一般の温度と圧力条件下で安定に維持されるかぎり何ら制約を受けない。しかし、施用された層の密度を高めるためには、蒸着材料が予備加熱された基板に衝撃(hits)するように、コーティング作業の前および作業中に基板を加熱するのが有利であることが判明した。使用される基板の性質に応じて、それらは300℃までの温度に加熱される。しかしこの処置は本質的に既知である。
【0056】
使用される蒸着工程は通常高真空蒸着工程であり、蒸発坩堝またはボートとしても知られる適切なフラスコ中に蒸着材料が、コーティングされる基板と一緒に真空装置の中に導入される。
【0057】
装置は続いて脱気され、蒸着材料は加熱および/または電子ビーム衝撃によって蒸発させられる。蒸着材料は基板の上に薄い層として堆積する。
【0058】
蒸発の間、層を確実に完全に酸化させるため、酸素を加えることが有利である。施用された層の接着、特に未加熱の基板への接着を向上させるため、コーティングの間基板にイオンを衝撃させることができる(イオンアシスト蒸着、プラズマアシスト蒸着)。
【0059】
一般に、交互に高い屈折率と低い屈折率(n≦1.80)を有する複数の層を、交互に互いの上に堆積することが有利である。このようにして多層構成が形成され、それでコーティングした、特に反射を顕著に低下させた基板を提供することができる。しかし、光学基板上のこの種類の多層構成は本質的にかなり長い間知られており、広く使用されている。
【0060】
本発明による蒸着材料は、適切な基板上に付着力のある高屈折率の光学層を製造するのに使用することができ、これは、広いスペクトル範囲で非吸収性であり、透明で均質であり、高い屈折率、特にn≧2.20の屈折率を有し、高温多湿環境中および酸とアルカリに安定であり、放射線を放出しない。
【実施例】
【0061】
本発明を以下にいくつかの実施例によって説明するが、それに制限されるものではない。
【0062】
<実施例1>
Dy23とTiO2の混合物
68.3重量%のDy23と31.7重量%の二酸化チタンを互いに緊密に混合し、続いてタブレットに成形する。これらは空気中で約1500℃で4時間焼成する。続いてタブレットを電子ビーム蒸発器を備える、例えばLeybold A700Q型蒸着ユニットの中へ導入し、約2000℃の温度および酸素圧力2×10-2Paで蒸発させる。装置の中へ基板として配置し蒸着の前に約300℃に加熱した石英ガラスの上に薄い層が堆積する。この層の厚さは約340nmに設定される。冷却し蒸発装置から取り出した後、分光光度計を用いてコーティングされたガラスの透過と反射スペクトルを測定する。層の屈折率をスペクトルから求める。波長500nmで2.28の屈折率を有する均質な層が得られる。層は400nm〜約5μmのスペクトル範囲で透明であり、この範囲で吸収がない。層は例えば相対湿度80%、および50℃の高温多湿環境中で耐久性があり、良好な硬度と接着強度を有する。コーティングされた基板を脱イオン水で10分間煮沸し、4.5重量%の脱イオン水塩水中で室温で6時間、および0.01モルの塩酸溶液中で室温で6時間貯蔵する。それぞれの試験の後、いずれのサンプルガラスも施用された層の脱離は観察されない。点および/または曇りは認められない。
【0063】
<実施例2>
Dy23、TiO2およびTiの混合物
71.03重量%のDy23と、26.20重量%の二酸化チタンと、2.77重量%のチタンとの均質な混合物からタブレットを製造し、続いて1×10-1Paの減圧下で約1600℃で10時間焼成する。続いてタブレットを電子ビーム蒸発器を備えるLeybold A700Q型蒸着ユニットの中へ導入し、約2000℃の温度および酸素圧力2×10-2Paで蒸発させる。装置の中へ基板として配置し蒸着の前に約300℃に加熱した石英ガラスの上に薄い層が堆積する。この層の厚さは約340nmに設定される。冷却し蒸発装置から取り出した後、分光光度計を用いてコーティングされたガラスの透過と反射スペクトルを測定する。層の屈折率をスペクトルから求める。波長500nmで2.25の屈折率を有する均質な層が得られる。層は400nm〜約5μmのスペクトル範囲で透明であり、この範囲で吸収がない。層は高温多湿環境中で耐久性があり、良好な硬度と接着強度を有する。
【0064】
<実施例3>
Dy23、Gd23およびTiO2の混合物
25モル%のDy23と、25モル%のGd23と、50モル%の二酸化チタンを互いに緊密に混合し、続いてタブレットに成形する。これらを空気中で約1500℃で6時間焼成する。続いてタブレットを電子ビーム蒸発器を備えるLeybold L560型蒸着ユニットの中へ導入し、約2000℃の温度および酸素圧力2×10-2Paで蒸発させる。装置の中へ基板として配置し蒸着の前に約300℃に加熱した石英ガラスの上に薄い層が堆積する。この層の厚さは約240nmに設定される。冷却し蒸発装置から取り出した後、分光光度計を用いてコーティングされたガラスの透過と反射スペクトルを測定する。層の屈折率をスペクトルから求める。波長500nmで2.2の屈折率を有する均質な層が得られる。層は400nm〜約5μmのスペクトル範囲で透明であり、この範囲で吸収がない。層は高温多湿環境中で耐久性があり、良好な硬度と接着強度を有する。
【0065】
<実施例4>
Gd23、TiO2およびTiの混合物
83.45重量%のGd23と、13.79重量%の二酸化チタンと、2.76重量%のチタンとの均質な混合物からタブレットを製造し、続いて1×10-1Paの減圧下で約1600℃で10時間焼成する。続いてタブレットを電子ビーム蒸発器を備えるLeybold L560型蒸着ユニットの中へ導入し、約1800℃の温度および酸素圧力2×10-2Paで蒸発させる。装置の中へ基板として配置し蒸着の前に約300℃に加熱した石英ガラスの上に薄い層が堆積する。この層の厚さは約220nmに設定される。冷却し蒸発装置から取り出した後、分光光度計を用いてコーティングされたガラスの透過と反射スペクトルを測定する。層の屈折率をスペクトルから求める。波長500nmで2.2の屈折率を有する均質な層が得られる。層は400nm〜約5μmのスペクトル範囲で透明であり、この範囲で吸収がない。層は高温多湿環境中で耐久性があり、良好な硬度と接着強度を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムとを含む、高屈折率の光学層を製造するための蒸着材料。
【請求項2】
二酸化チタンと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムとを含む、請求項1に記載の蒸着材料。
【請求項3】
酸化チタンと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムとを4:1〜1:4のモル比で含み、各場合における最後の数が、酸化ガドリニウムまたは酸化ジスプロシウムのモル比、あるいは酸化ガドリニウムと酸化ジスプロシウムのモル比の総計に関係している請求項1または2に記載の蒸着材料。
【請求項4】
酸化チタンと酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムとを2.6:1〜1:1.3のモル比で含み、各場合における最後の数が、酸化ガドリニウムまたは酸化ジスプロシウムのモル比、あるいは酸化ガドリニウムと酸化ジスプロシウムのモル比の総計に関係している請求項3に記載の蒸着材料。
【請求項5】
酸化ガドリニウムおよび酸化ジスプロシウムの混合物を1:99〜99:1の比で含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の蒸着材料。
【請求項6】
二酸化チタンと、チタンと、酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムとを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の蒸着材料。
【請求項7】
酸化ガドリニウムおよび酸化ジスプロシウムを1:99〜99:1の比で含む、請求項6に記載の蒸着材料。
【請求項8】
混合物の総重量基準で、50〜92重量部の酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムと、7〜42重量部の二酸化チタンと、0〜8重量部のチタンとを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の蒸着材料。
【請求項9】
混合物の総重量基準で、50〜92重量部の酸化ジスプロシウムと、7〜42重量部の二酸化チタンと、0〜8重量部のチタンとを含む、請求項8に記載の蒸着材料。
【請求項10】
混合物の総重量基準で、67〜76重量部の酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムと、15〜27重量部の二酸化チタンと、2〜5重量部のチタンとを含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の蒸着材料。
【請求項11】
混合物の総重量基準で、67〜76重量部の酸化ジスプロシウムと、15〜27重量部の二酸化チタンと、2〜5重量部のチタンとを含む、請求項10に記載の蒸着材料。
【請求項12】
酸化チタンが酸化ガドリニウムおよび/または酸化ジスプロシウムと混合され、前記混合物が圧縮または懸濁され、成形され、続いて焼結される、請求項1から11のいずれか一項に記載の蒸着材料を調製する方法。
【請求項13】
前記混合物にチタンが追加で加えられる請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記焼結が空気を流入させて実施される請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記焼結が減圧下で実施される請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
前記焼結が不活性ガス中で実施される請求項12または13に記載の方法。
【請求項17】
前記混合物がタブレット、窓ガラス(panes)、ペレット、円錐台、粒、顆粒、棒、またはビーズに成形される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項18】
高屈折率光学層を製造するための請求項1から11のいずれか一項に記載の蒸着材料の使用。
【請求項19】
請求項1から11のいずれか一項に記載の蒸着材料を含む、n≧2.0の屈折率を有する高屈折率光学層。
【請求項20】
請求項1から11のいずれか一項に記載の蒸着材料を含む、n≧2.0の屈折率を有する高屈折率光学層を少なくとも1層含む多層光学系。

【公開番号】特開2011−84819(P2011−84819A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−10450(P2011−10450)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【分割の表示】特願2006−501587(P2006−501587)の分割
【原出願日】平成16年1月23日(2004.1.23)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】