高屈折率材料の製造方法および当該材料と高分子材料との複合体
【課題】
安価で、100℃より低い温度で、屈折率が高く、かつ光の吸収の少ない酸化チタン薄膜を得る。
【解決手段】
本発明は、波長633nmの光における屈折率が1.90以上で、かつ波長350nmの光における消衰係数が0.05以下の酸化チタンを主成分とする高屈折率材料を製造する方法であって、少なくとも、チタニウムアルコキシド、有機溶媒、ヒドラジン誘導体塩および水を混和して反応させる反応工程と、上記反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、上記膜形成工程後に60℃以上100℃未満の温度にて加熱する加熱工程と、を含む高屈折率材料の製造方法である。
安価で、100℃より低い温度で、屈折率が高く、かつ光の吸収の少ない酸化チタン薄膜を得る。
【解決手段】
本発明は、波長633nmの光における屈折率が1.90以上で、かつ波長350nmの光における消衰係数が0.05以下の酸化チタンを主成分とする高屈折率材料を製造する方法であって、少なくとも、チタニウムアルコキシド、有機溶媒、ヒドラジン誘導体塩および水を混和して反応させる反応工程と、上記反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、上記膜形成工程後に60℃以上100℃未満の温度にて加熱する加熱工程と、を含む高屈折率材料の製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率材料の製造方法および当該材料と高分子材料との複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、無機酸化物の薄膜は、基材の表面コーティングにより得られ、基材に光学的、電気的、化学的、機械的な特性を付与できる。例えば、光学的機能性を付与する薄膜では、その特性や平滑性を得るためにスパッタリング、CVD、PVD等の気相法が用いられているが、これらの手法には高価な真空系の装置が必要であり、また装置の大きさに依存して作製される材料も制限される。
【0003】
気相法に代わる技術として、プロセスコストが低く、かつ高表面積化が可能な液相法も知られている。液相法には、スピンコート法、ディップコート法、スプレー法などがあり、これらに用いられる材料の作製法のひとつとしてゾルゲル法がある。ゾルゲル法で作製される酸化チタンゾルから得られる薄膜は、高屈折率材料として期待されており、その高い屈折率を利用したフォトニック結晶、反射防止膜、光学レンズ、光デバイス等の分野での応用が期待され、またその研究も盛んに行われている。
【0004】
酸化チタンゾルは、通常、チタニウムアルコキシドを原料として作製されるが、アルコキシ基の炭素鎖長が短いチタニウムアルコキシドは、非常に加水分解反応の速度が速く、少量の水の混入で、粒子を形成し、白濁沈殿を生じ、あるいは粒子形成が起こらない場合でもゲル化により固化してしまう。この解決法のひとつとして、溶液にキレート剤を添加し、チタニウムアルコキシドに配位させて反応を安定化させた材料による液相法用材料が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
一般に、光学用途の薄膜に限らず、膜中の有機物は、特性の低下を引き起こす恐れがあるため、極力含まない方が好ましい。有機物の含有量をできる限り少なくした上で、ポリエチレンテレフタレート基材上に緻密なチタニア薄膜を得る手法として、チタニウムアルコキシドの安定化のためにセロソルブ系溶剤を添加し、さらに、成膜後に加湿処理を行って緻密化を図る製法も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−258959号公報
【特許文献2】特開2003−05495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来技術には、次のような問題がある。キレート剤により安定化されたチタニウムアルコキシドを含む溶液から作製される薄膜は、含まれる配位剤の安定性が高く、その除去に際して450℃以上の高温による熱処理が必要である。有機物の除去に対して高温での加熱が必要になる材料は、特に樹脂基材用の薄膜材料としての適用は困難である。また、高温加熱を避け、紫外線照射による有機物除去も考えられるが、樹脂基材そのものの劣化の恐れがあるほか、紫外線照射に要する装置が高価であり、製造コストが高くなる。
【0008】
一方、ポリエチレンテレフタレート基材上に形成された酸化チタン薄膜は、加湿処理と60℃という低温加熱により、屈折率1.86という比較的高い特性を有しているが、安定化のために添加した溶剤が膜内に残留している可能性があり、また、その屈折率も十分に高いとは言えず、さらに高い屈折率が望まれている。
【0009】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであって、安価で、100℃より低い温度で、屈折率が高く、かつ光の吸収の少ない酸化チタン薄膜を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一形態に係る高屈折率材料の製造方法は、波長633nmの光における屈折率が1.90以上で、かつ波長350nmの光における消衰係数が0.05以下の酸化チタンを主成分とする高屈折率材料を製造する方法であって、少なくとも、チタニウムアルコキシド、有機溶媒、ヒドラジン誘導体塩および水を混和して反応させる反応工程と、反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、膜形成工程後に60℃以上100℃未満の温度にて加熱する加熱工程とを含む。
【0011】
また、本発明の別の形態に係る高屈折率材料の製造方法は、チタニウムアルコキシドをチタニウムテトライソプロポキシド若しくはチタニウムテトラ−n−ブトキシドとする。
【0012】
また、本発明の別の形態に係る高屈折率材料の製造方法は、有機溶媒を、炭素数3以下のアルコールとする。
【0013】
また、本発明の別の形態に係る高屈折率材料の製造方法は、加熱工程に先立ち、乾燥工程を有し、乾燥工程を、湿度10%R.H.以下で行う工程とする。
【0014】
また、本発明の一形態に係る高屈折率材料と高分子材料との複合体は、高分子材料の表面に、波長633nmの光における屈折率が1.90以上で、かつ波長350nmの光における消衰係数が0.05以下の酸化チタンを主成分とする高屈折率材料の膜を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安価で、100℃より低い温度で、屈折率が高く、かつ光の吸収の少ない酸化チタン薄膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、TTIP−EtOH系、TTB−EtOH系、TTB−IPA系の各薄膜形成用溶液の透過率を示すグラフである。
【図2】図2は、TTIP−EtOH系、TTB−EtOH系、TTB−IPA系の各薄膜形成用溶液の吸光度を示すグラフである。
【図3】図3は、シリコン基板上のTTIP−EtOH系薄膜の屈折率および消衰係数の薄膜形成時の加熱温度依存性を示すグラフである。
【図4】図4は、TTIP−EtOH系薄膜付きのアクリル樹脂基板の可視光の透過率を示すグラフである。
【図5】図5は、シリコン基板上のTTB−EtOH系薄膜の屈折率および消衰係数の薄膜形成時の加熱温度依存性を示すグラフである。
【図6】図6は、TTB−EtOH系薄膜付きのアクリル樹脂基板の可視光の透過率を示すグラフである。
【図7】図7は、湿度90%R.H.以上で作製したTTB−EtOH系薄膜の屈折率と消衰係数の乾燥時間依存性を示すグラフである。
【図8】図8は、湿度10%R.H.以下で作製したTTB−EtOH系薄膜の屈折率と消衰係数の乾燥時間依存性を示す。
【図9】図9は、シリコン基板上のTTB−IPA系薄膜の屈折率および消衰係数の薄膜形成時の加熱温度依存性を示すグラフである。
【図10】図10は、TTB−IPA系薄膜付きのアクリル樹脂基板の可視光の透過率を示すグラフである。
【図11】図11は、アクリル樹脂基板上にてスピンコーターの回転数3000rpmでスピンコートを行い、乾燥後、加熱温度60℃にて加熱して形成したTTB−IPA系薄膜の可視光波長域における屈折率および消衰係数の変化を示すグラフである。
【図12】図12は、加熱温度60℃にてシリコン基板上に形成したTTB−IPA系薄膜の表面粗さ測定結果を示す図である。
【図13】図13は、加熱温度60℃にてシリコン基板上に形成したTTB−IPA系薄膜の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の高屈折率材料と高分子材料との複合体および高屈折率材料の製造方法の実施の形態について説明する。
【0018】
1.高屈折率材料と高分子材料との複合体
(1)高屈折率材料
本実施の形態に係る高屈折率材料は、屈折率1.90以上で、かつ消衰係数0.05以下の酸化チタンを主材とする材料である。ここで、「屈折率」は、分光エリプソメーターを用いて波長633nmの光を測定対象の表面に所定の入射角にて入射させた際の屈折率をいう。波長633nmの光の光源には、好適にはXeランプ光源を用いる。「消衰係数」は、光が物質に深く進入して吸収される度合いを表す係数であって、次の式1,2の両式から求められる「k」に相当する。消衰係数は、分光エリプソメーターを用いて波長350nmの光を測定対象の表面に所定の入射角にて入射させることにより測定できる。
【0019】
I=I0・exp−αz・・・(式1)
α=4πk/λ・・・(式2)
I:光の強度、I0:初期の光の強度、α:吸収係数、z:進入深さ、λ:光の波長、k:消衰係数
【0020】
高屈折率材料は、酸化チタンを主材としていれば、その含有率を問わないが、好ましくは90重量%以上の酸化チタンを含む。
【0021】
(2)高分子材料
高分子材料とは、例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーを挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6等のポリアミド系樹脂;ポリオキシメチレン樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂といったスチレン系樹脂;メタクリル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;変性PPE樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;液晶ポリマーを例示することができる。
【0022】
また、熱可塑性エラストマーとしては、クロロプレンゴム、エチレン/プロピレンゴム(EPM)、エチレン/プロピレン/ジエンゴム(EPDM)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、塩素化ポリエチレン、アクリレートゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、シリコーンゴム、可塑化PVC、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルアミドを例示することができる。
【0023】
(3)高屈折率材料と高分子材料との複合形態
高屈折率材料と高分子材料との複合体は、両材料同士を接合したものである。好適な形態は、高屈折率材料の膜を、高分子材料の表面上に形成した形態である。しかし、当該複合体は、高屈折率材料のバルク体と高分子材料のバルク体を接合した形態であっても良い。
【0024】
2.高屈折率材料の製造方法
高屈折率材料の製造方法は、少なくとも、チタニウムアルコキシド、有機溶媒、ヒドラジン誘導体塩および水を混和して反応させる反応工程と、その反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、膜形成工程後に60℃以上100℃未満の温度にて加熱する加熱工程とを含む。
【0025】
反応工程は、さらに、チタニウムアルコキシドと有機溶媒とを混合する第一の混合工程と、ヒドラジン誘導体塩、水および有機溶媒とを混合する第二の混合工程と、第一の混合工程により作製した溶液1と第二の混合工程により作製した溶液2とを混合する第三の混合工程とに分けることができる。チタニウムアルコキシドとヒドラジン誘導体塩との反応は、第三の混合工程において生じる。かかる反応が完了すると、薄膜形成用の溶液の製造が完了する。また、膜形成工程と加熱工程との間に、乾燥工程を行うのが好ましい。膜形成後に高温域に晒すと膜にダメージが加わりやすく、それを避ける趣旨からである。
【0026】
次に、上述の各工程の詳細を説明する。
【0027】
(1)反応工程
(1.a)第一の混合工程
混合対象のチタニウムアルコキシドとしては、例えば、チタニウムテトラメトキシド、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトラ−n−プロポキシド、チタニウムテトラ−iso−プロポキシド、チタニウムテトラ−n−ブトキシド、チタニウムテトラ−sec−ブトキシド、チタニウムテトラ−tert−ブトキシド、チタニウムテトラフェノキシド等を挙げることができる。これらのチタニウムアルコキシドの内で、好適には、チタニウムテトラ−iso−プロポキシド、チタニウムテトラ−n−ブトキシドを用いることができる。また、これらチタニウムアルコキシドの内の1種のみ、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0028】
チタニウムテトラアルコキシドと混合する有機溶媒には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;エチルアセテート、エチルセロソルブアセテート、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールアセテートなどのアセテート類;トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの芳香族あるいは脂肪族炭化水素のほか、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。上記有機溶媒としては、上記の一種のみを、あるいは上記の2種以上を混合したものを用いても良い。この実施の形態では、膜中に残留しにくい炭素数3以下のエタノール、2−プロパノール、あるいはアセトンを用いるのがより好ましい。
【0029】
上記有機溶媒の量は、溶液1中におけるチタニウムアルコキシド(mol)/溶媒(L)が1〜2.5mol/Lとなるような量が好ましく、特に1.5〜2.0mol/Lとなるような量が好ましく、さらには1.7mol/Lになるような量が好ましい。チタニウムアルコキシドと有機溶媒との混合方法は、攪拌羽根を取り付けた攪拌機を用いて、容器に入れた溶媒とチタニウムアルコキシドとの混合溶液を掻き混ぜる方法、容器に入れた前述の混合溶液内に攪拌子を入れて当該容器をマグネチックスターラー上に載せて攪拌子を回転させる方法、前述の混合溶液を入れた容器を、水等を入れた超音波振動機内に漬けて振動攪拌させる方法などを採用することができる。ただし、チタニウムアルコキシドと有機溶媒との混合方法は、前述の例示に限定されず、公知のいかなる混合方法をも含む。混合時の温度は、有機溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。例えば、エタノールを溶媒として選択する場合には、10〜30℃の範囲、特にその範囲内でも25℃前後が好ましい。また、混合する時間は、15〜180分、特に30〜90分、さらには45〜75分が好ましい。
【0030】
(1.b)第二の混合工程
チタニウムアルコキシドの加水分解および重縮合反応に際し、反応促進剤である触媒材料には、酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなど弱酸と弱塩基からなる塩、ヒドラジン誘導体塩、アセトアミジン誘導体塩、ヒドロキシルアミン誘導体塩のうちいずれかを使用するのが好ましい。ヒドラジン誘導体塩としては、ヒドラジン一塩酸塩、ヒドラジン酢酸塩、ベンジルヒドラジン一塩酸塩などを使用でき、特に、ヒドラジン一塩酸塩が好ましい。ヒドラジン誘導体塩は、チタニウムアルコキシド1モルに対して、0.01〜0.1モル、特に0.02〜0.06モル、さらには0.03〜0.05モルの範囲とするのが好ましい。
【0031】
有機溶媒は、第一の混合工程にて用いられる有機溶媒と同様のものを使用することができる。ただし、この工程で用いられる有機溶媒は、第一の混合工程で用いられる有機溶媒と異なる種類の有機溶媒であっても良い。この工程で用いられる有機溶媒の容量は、第一の混合工程で用いられる有機溶媒の1.5〜3倍、好ましくは2倍の容量とするのが好ましい。ただし、溶液1中の有機溶媒と溶液2中の有機溶媒の総量が等しければ、溶液1および溶液2中の各有機溶媒の容量を上述の容量から変更しても良い。
【0032】
水は、不純物(水素イオン、水酸イオン以外のイオンなども不純物に含まれる)の少ないイオン交換水や蒸留水とするのが好ましい。水の量は、ヒドラジン誘導体塩1モルに対して10〜100モル、特に30〜80モル、さらには40〜60モルの範囲とするのが好ましい。
【0033】
ヒドラジン誘導体塩、水および有機溶媒は、一緒に混合することもできるが、好ましくは、ヒドラジン誘導体塩と水とを混合してから、有機溶媒を加えるのが好ましい。ヒドラジン誘導体塩を水に完全に溶解させるためである。ヒドラジン誘導体塩を水との混合には、攪拌、特に超音波攪拌という手法を用いるのが好ましい。超音波攪拌時のヒドラジン誘導体塩を水との混合溶液の好ましい温度は、10〜30℃である。混合時間は、好ましくは5〜20分、より好ましくは8〜15分である。また、ヒドラジン誘導体塩を水との混合溶液に有機溶媒を加えてさらに混合する際にも、攪拌、特に超音波攪拌という手法を用いるのが好ましい。この際のヒドラジン誘導体塩、水および有機溶媒の混合溶液の好ましい温度は、20〜50℃である。混合時間は、好ましくは5〜20分、より好ましくは8〜15分である。
【0034】
(1.c)第三の混合工程
第三の混合工程は、溶液1と溶液2とを混合して、チタニウムアルコキシドの加水分解および縮合重合を促進させ、ゾル溶液を得る工程である。混合時の温度は、粒子が生成しにくい温度を選択するのが好ましく、0〜20℃の範囲が好ましい。また、上記反応を促進するために、好適には、攪拌等を行う。攪拌時の混合溶液の温度は、10〜35℃、さらには、15〜30℃が好ましい。攪拌時間としては、混合する原料の種類によって異なるが、0.1〜48時間、さらには0.5〜36時間が好ましい。こうして、膜形成用のゾル溶液が完成する。
【0035】
(2)膜形成工程
膜形成用のゾル溶液(以後、「膜形成用溶液」という。)を塗布する基板は、高分子材料、例えば熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6等のポリアミド系樹脂;ポリオキシメチレン樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂といったスチレン系樹脂;メタクリル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;変性PPE樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;液晶ポリマーを例示することができる。膜形成工程は、膜形成用溶液を基板上に塗布する工程であり、公知のいずれのコート方法をも採用できる。例えば、スピンコート法、ブレードコート法、ロールコート法、ディッピング法、スプレー法などの塗工法の他、転写法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの各種印刷法も採用可能である。この実施の形態では、簡便かつ均一な膜厚の膜を形成できるスピンコート法を好適に使用することができる。
【0036】
膜形成工程にて、例えばスピンコート法を用いる場合、基板の回転数および回転時間を、所望の膜厚、膜形成用溶液の粘度、基板の種類に応じて、適宜、好ましい値に決めるのが好ましい。例えば、膜厚50〜200nmの範囲の膜を形成するためには、基板を1000〜10000rpm、好ましくは2000〜8000rpmで30〜120秒間回転するのが好ましい。
【0037】
(3)乾燥工程
乾燥工程は、次の加熱工程よりも低い温度で膜中の溶液の一部を揮発させる工程である。好適な乾燥温度は、10〜35℃であり、より好ましくは20〜30℃である。乾燥時間は、15分以上、好ましくは30分以上である。乾燥工程における湿度は、如何なる湿度でも採用可能であるが、30%R.H.以下、特に10%R.H.以下が好ましい。また、乾燥工程を行う雰囲気としては、空気中の放置、乾燥機器内等の公知の雰囲気を採用できる。
【0038】
(4)加熱工程
加熱方法は、基板に形成された膜の内部に含まれる溶液を除去する工程および膜の硬度を向上させる工程である。加熱する方法としては、ホットプレート、乾燥機などを使用するのが好ましい。加熱温度としては、60℃以上100℃未満の範囲が好ましく、特に、樹脂を基板にする場合には、60℃以上80℃以下の範囲がさらに好ましい。加熱時間は、吸着水および残存する有機物をできるだけ除去するのに十分な時間であれば特に限定されるものではないが、例示するならば、1時間程度が好ましい。また、加熱後に、基板を、氷で冷やす方法、冷却した別の基板上に接触させる方法、あるいは自然放冷しても良い。
【実施例】
【0039】
1.酸化チタン薄膜の製造方法
酸化チタン薄膜は、薄膜形成用の溶液の製造と、薄膜の形成という以下の2つのステップにより製造した。
【0040】
1.1 薄膜形成用の溶液の製造
薄膜形成用の溶液の原料となるチタニウムアルコキシドには、チタニウムテトライソプロポキシド(Titanium tetraisopropoxide: TTIP、関東化学株式会社製)またはチタニウムテトラ−n−ブトキシド(Titanium tetrabutoxide: TTB、関東化学株式会社製)を用いた。チタニウムアルコキシドと混合する有機溶媒には、エタノール(Ethanol: EtOH、和光純薬工業株式会社製)またはイソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol: IPA、和光純薬工業株式会社製)を用いた。また、ヒドラジン誘導体塩には、ヒドラジン一塩酸塩(Hydrazine monohydrochloride、東京化成工業株式会社製)を用いた。
【0041】
チタニウムアルコキシド12.5mmolと有機溶媒7.29mlをビーカーA内に入れて、25℃で1時間の攪拌を行い、溶液1を用意した。攪拌には、磁気攪拌機(型式: HP41507、VARIOMAG社製)を用いた。一方、ヒドラジン一塩酸塩0.5mmolと蒸留水25mmolを別のビーカーBに入れて、10〜30℃に保ちながら10分間の超音波攪拌を行い、その後、有機溶媒14.58mlを加えて、20〜50℃に保ちながら10分間の超音波攪拌を行い、溶液2を用意した。超音波攪拌には、超音波攪拌装置(型式: USK−1R、アズワン株式会社製)を用いた。次に、溶液1の入ったビーカーAに溶液2を入れて、0〜20℃に保ちながら、25℃にて、回転数550rpmにて1〜24時間の攪拌を行った。攪拌時間は、チタニウムアルコキシドと有機溶媒の組み合わせにより異なる時間とした。この一連の工程にて、薄膜形成用の溶液の製造を完了した。
【0042】
1.2 薄膜の形成
薄膜形成用の基板には、シリコン基板(SUMCO製、25mm×25mm×1mm)、アクリル樹脂基板(日東樹脂工業株式会社製、品番:S−0、50mm×50mm×1mm)およびポリカーボネート樹脂基板(サンプラテック社製、50mm×50mm×1.5mm)の3種類の基板を用いた。上記基板をスピンコーター(型式: 1H−D7、ミカサ株式会社製、)にセットし、当該基板上に、先に製造した薄膜形成用の溶液を供給した。溶液供給中のスピンコーターの回転数は、2500rpm以上とし、チタニウムアルコキシドと有機溶媒の組み合わせにより異なる回転数とした。供給時間は60秒間とした。スピンコート終了後、湿度10%R.H.以下にて1時間の乾燥を行い(特筆しない限り当該湿度条件で乾燥した)、その後、300℃以下の範囲の所定温度にて1時間の加熱を行った。この一連の工程にて、基板への酸化チタン薄膜の形成を完了した。
【0043】
2.評価方法
薄膜形成用の溶液の透過率および吸光度、酸化チタン薄膜および当該薄膜を形成した樹脂基板の各透過率は、紫外可視分光光度計(株式会社日立製作所製、型式: U−4100)を用いて測定した。
【0044】
酸化チタン薄膜の屈折率および消衰係数は、分光エリプソメーター(型式: UVISEL、堀場・ジョバンイボン社製)を用いて測定した。波長280nmから800nmの領域で屈折率および消衰係数を評価した。特に、波長633nmおよび波長550nmの2点の波長での屈折率を比較した。また、波長350nmの可視光での消衰係数を比較した。
【0045】
酸化チタン薄膜および加熱前の薄膜の結晶性あるいは結晶構造は、X線回折装置(株式会社リガク製、型式: RINT2500HF)を用いて測定した。
【0046】
酸化チタン薄膜の膜断面は、高分解能走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、型式: S−5000)を用いて観察した。また、酸化チタン薄膜の表面粗さは、走査型プローブ顕微鏡(セイコーインスツル株式会社製、型式: SPA400)を用いて測定した。加熱前の薄膜の微細構造は、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型式: JEM2010)を用いて観察した。
【0047】
また、酸化チタン薄膜の膜厚は、高分解能走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、型式: S−5000)で観察した断面から測定し、分光エリプソメーターで測定したスペクトルから算出された膜厚と一致することを確認した。
【0048】
3.各薄膜形成用溶液の製造および評価
チタニウムアルコキシドおよび有機溶媒にそれぞれTTIPおよびEtOHを用いた系(TTIP−EtOH系)と、チタニウムアルコキシドおよび有機溶媒にそれぞれTTBおよびEtOHを用いた系(TTB−EtOH系)と、チタニウムアルコキシドおよび有機溶媒にそれぞれTTBおよびIPAを用いた系(TTB−IPA系)の3種類の薄膜形成用溶液を製造した。
【0049】
TTIP−EtOH系の薄膜形成用溶液は、TTIPを3.553g、溶液1作製用のEtOHを5.75g、ヒドラジン一塩酸塩0.0343g、蒸留水0.45g、溶液2作製用のEtOHを11.5g用意し、前述の手順にて混合して製造した。溶液1と溶液2とを混合した後の攪拌時間(以後、反応時間とも称する)は1時間とした。
【0050】
また、TTB−EtOH系の薄膜形成用溶液は、TTBを4.254g、溶液1作製用のEtOHを5.75g、ヒドラジン一塩酸塩0.0343g、蒸留水0.45g、溶液2作製用のEtOHを11.5g用意し、前述の手順にて混合して製造した。溶液1と溶液2とを混合した後の攪拌時間(反応時間)は24時間とした。
【0051】
さらに、TTB−IPA系の薄膜形成用溶液は、TTBを4.254g、溶液1作製用のIPAを5.73g、ヒドラジン一塩酸塩0.0343g、蒸留水0.45g、溶液2作製用のIPAを11.46g用意し、前述の手順にて混合して製造した。溶液1と溶液2とを混合した後の攪拌時間(反応時間)は6時間とした。
【0052】
上記3種類の薄膜形成用溶液をそれぞれアクリルセル(セル長: 10mm)に入れて、波長200〜800nmの可視光の透過率および吸光度を測定した。
【0053】
図1および図2は、TTIP−EtOH系、TTB−EtOH系、TTB−IPA系の各薄膜形成用溶液の透過率および吸光度をそれぞれ示すグラフである。図1の横軸は波長、縦軸は透過率である。図2の横軸は波長、縦軸は吸光度である。
【0054】
図1および図2に示す結果から、製造した各溶液は、ともに、透明度が高く、溶液内における光の散乱がほとんどないものであった。
【0055】
4.酸化チタン薄膜の製造および評価
<実施例1>
TTIP−EtOH系薄膜
「3.各薄膜形成用溶液の製造および評価」にて用意したTTIP−EtOH系の薄膜形成用溶液を、スピンコーターの回転数を5000〜6000rpmの範囲として、各種基板上に供給した。スピンコート後に乾燥し、加熱温度を変化させて薄膜を形成し、得られた各薄膜(樹脂基板にあっては、薄膜付きの樹脂基板の透過率も測定)の評価を行った。
【0056】
表1および表2に、それぞれ、シリコン基板上に形成した薄膜および樹脂基板上に形成した薄膜の製造条件と薄膜評価結果を示す。また、図3にシリコン基板上の薄膜の屈折率および消衰係数の薄膜形成時の加熱温度依存性を、図4に薄膜付きのアクリル樹脂基板の可視光の透過率を、それぞれ示す。図3の横軸は加熱温度、縦軸の左側は屈折率、縦軸の右側は消衰係数である。図4の横軸は波長、縦軸は透過率である。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
表1および図3に示すように、薄膜形成時の加熱温度が高いほど、薄膜の屈折率および消衰係数が大きくなる傾向が認められた。ここで、着目すべきは、加熱温度60および80℃という100℃未満の温度にて1.97を超える高い屈折率で、かつ0.02を下回る低い消衰係数を有する薄膜が得られたことである。
【0060】
また、表2に示すように、アクリル樹脂基板あるいはポリカーボネート樹脂基板上にそれぞれ形成した薄膜は、加熱温度60℃と低くても、1.96を超える高い屈折率で、かつ0.022を下回る低い消衰係数を有していることがわかった。さらに、図4に示すように、薄膜付きの各樹脂基板の可視光透過率(波長400〜780nmにおける透過率)を、薄膜無しのアクリル樹脂基板(透過率:92.9%)のそれと比較した結果、薄膜を付けても透過率が大きく低下しない結果が得られた。したがって、TTIP−EtOH系薄膜は、低温にて樹脂基板に形成できる屈折率の高い薄膜であることに加え、透明性の高い薄膜であることがわかった。
【0061】
<実施例2>
TTB−EtOH系薄膜
「3.各薄膜形成用溶液の製造および評価」にて用意したTTB−EtOH系の薄膜形成用溶液を、スピンコーターの回転数を3500〜5500rpmの範囲として、各種基板上に供給した。スピンコート後に乾燥し、加熱温度を変化させて薄膜を形成し、得られた各薄膜(樹脂基板にあっては、薄膜付きの樹脂基板の透過率も測定)の評価を行った。
【0062】
表3および表4に、それぞれ、シリコン基板上に形成した薄膜および樹脂基板上に形成した薄膜の製造条件と薄膜評価結果を示す。また、図5にシリコン基板上の薄膜の屈折率および消衰係数の薄膜形成時の加熱温度依存性を、図6に薄膜付きのアクリル樹脂基板の可視光の透過率を、それぞれ示す。図5の横軸は加熱温度、縦軸の左側は屈折率、縦軸の右側は消衰係数である。図6の横軸は波長、縦軸は透過率である。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
表3および図5に示すように、薄膜形成時の加熱温度が高いほど、薄膜の屈折率および消衰係数が大きくなる傾向が認められた。加熱温度60および80℃では、1.95を超える高い屈折率で、かつ0.01を下回る極めて低い消衰係数を有する薄膜が得られることがわかった。
【0066】
また、表4に示すように、アクリル樹脂基板あるいはポリカーボネート樹脂基板上にそれぞれ形成した薄膜は、加熱温度60℃と低くても、1.95を超える高い屈折率で、かつ0.021を下回る低い消衰係数を有していることがわかった。さらに、図6に示すように、薄膜付きの各樹脂基板の可視光透過率を、薄膜無しのアクリル樹脂基板(透過率:92.9%)のそれと比較した結果、薄膜を付けても透過率が大きく低下しない結果が得られた。したがって、TTB−EtOH系薄膜は、前述のTTIP−EtOH系薄膜と同様、低温にて樹脂基板に形成できる屈折率の高い薄膜であることに加え、透明性の高い薄膜であることがわかった。
【0067】
<実施例3>
乾燥条件・乾燥時間の検討(TTB−EtOH系薄膜)
「3.各薄膜形成用溶液の製造および評価」にて用意したTTB−EtOH系の薄膜形成用溶液(ただし、反応時間は24時間ではなく、6時間とした)を、スピンコーターの回転数を3500rpmにセットして、シリコン基板上に供給した。スピンコート後に、湿度を90%R.H.以上および10%R.H.以下の2通りとし、それぞれの湿度において乾燥時間を0.5〜6時間の範囲内で変化させて乾燥を行い、加熱温度80℃にて加熱して各種薄膜を形成した。次に、得られた各薄膜(樹脂基板にあっては、薄膜付きの樹脂基板の透過率も測定)の評価を行った。
【0068】
表5および表6に、それぞれ、湿度を90%R.H.以上および10%R.H.以下で作製した薄膜の製造条件と薄膜評価結果を示す。また、図7および図8に、それぞれ、湿度を90%R.H.以上および10%R.H.以下で作製した薄膜の屈折率と消衰係数の乾燥時間依存性を示す。図7および図8の各横軸は乾燥時間、各縦軸の左側は屈折率、各縦軸の右側は消衰係数である。
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
表5、表6、図7および図8に示すように、薄膜形成時の乾燥時の湿度が低い方が、屈折率の高い薄膜が得られることがわかった。また、いずれの湿度においても、乾燥時間が短いほど屈折率の高い薄膜が得られる傾向があり、特に湿度が高い場合には、乾燥時間を短くする必要があることがわかった。一方、消衰係数については、多少の差があるものの、乾燥時の湿度や乾燥時間に大きく左右されないことがわかった。
【0072】
<実施例4>
TTB−IPA系薄膜
「3.各薄膜形成用溶液の製造および評価」にて用意したTTB−IPA系の薄膜形成用溶液を、スピンコーターの回転数を2500〜3500rpmの範囲として、各種基板上に供給した。スピンコート後に乾燥し、加熱温度を変化させて薄膜を形成し、得られた各薄膜(樹脂基板にあっては、薄膜付きの樹脂基板の透過率も測定)の評価を行った。
【0073】
表7および表8に、それぞれ、シリコン基板上に形成した薄膜および樹脂基板上に形成した薄膜の製造条件と薄膜評価結果を示す。また、図9にシリコン基板上の薄膜の屈折率および消衰係数の薄膜形成時の加熱温度依存性を、図10に薄膜付きのアクリル樹脂基板の可視光の透過率を、それぞれ示す。さらに、図11に、アクリル樹脂基板上にてスピンコーターの回転数3000rpmでスピンコートを行い、乾燥後、加熱温度60℃にて加熱して形成したTTB−IPA系薄膜の可視光波長域における屈折率および消衰係数の変化を示す。図9の横軸は加熱温度、縦軸の左側は屈折率、縦軸の右側は消衰係数である。図10の横軸は波長、縦軸は透過率である。図11の横軸は波長、縦軸の左側は屈折率、縦軸の右側は消衰係数である。
【0074】
【表7】
【0075】
【表8】
【0076】
表7および図9に示すように、薄膜形成時の加熱温度が高いほど、薄膜の屈折率および消衰係数が大きくなる傾向が認められた。加熱温度60および80℃では、2.00を超える高い屈折率で、かつ0.04を下回る低い消衰係数を有する薄膜が得られることがわかった。
【0077】
また、表8に示すように、アクリル樹脂基板あるいはポリカーボネート樹脂基板上にそれぞれ形成した薄膜は、加熱温度が80℃以下であっても、2.00を超える高い屈折率で、かつ0.035を下回る低い消衰係数を有していることがわかった。さらに、図10に示すように、薄膜付きの各樹脂基板の可視光透過率を、薄膜無しのアクリル樹脂基板(透過率:92.9%)のそれと比較した結果、薄膜を付けても透過率が大きく低下しない結果が得られた。また、図11に示すように、60℃という低温にてアクリル樹脂基板上に形成した薄膜は、可視光域にて2.0以上の屈折率とほぼゼロに近い消衰係数であった。このような結果から、TTB−IPA系薄膜は、前述のTTIP−EtOH系薄膜およびTTB−EtOH系薄膜と同様、低温にて樹脂基板に形成できる屈折率の高い薄膜であることに加え、透明性の高い薄膜であることがわかった。
【0078】
図12および図13に、加熱温度60℃にてシリコン基板上に形成したTTB−IPA系薄膜の表面粗さ測定結果および走査型電子顕微鏡写真を、それぞれ示す。
【0079】
加熱温度60℃にてシリコン基板上に形成したTTB−IPA系薄膜は、自乗平均面粗さ(RMS)が0.37nmであり、非常に平滑で、かつ緻密な薄膜であることがわかった。他の条件で作製したTTB−IPA系薄膜も、同様に平滑かつ緻密な薄膜であった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、例えば、フォトニック結晶、反射防止膜、光学レンズ、光デバイスに利用可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率材料の製造方法および当該材料と高分子材料との複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、無機酸化物の薄膜は、基材の表面コーティングにより得られ、基材に光学的、電気的、化学的、機械的な特性を付与できる。例えば、光学的機能性を付与する薄膜では、その特性や平滑性を得るためにスパッタリング、CVD、PVD等の気相法が用いられているが、これらの手法には高価な真空系の装置が必要であり、また装置の大きさに依存して作製される材料も制限される。
【0003】
気相法に代わる技術として、プロセスコストが低く、かつ高表面積化が可能な液相法も知られている。液相法には、スピンコート法、ディップコート法、スプレー法などがあり、これらに用いられる材料の作製法のひとつとしてゾルゲル法がある。ゾルゲル法で作製される酸化チタンゾルから得られる薄膜は、高屈折率材料として期待されており、その高い屈折率を利用したフォトニック結晶、反射防止膜、光学レンズ、光デバイス等の分野での応用が期待され、またその研究も盛んに行われている。
【0004】
酸化チタンゾルは、通常、チタニウムアルコキシドを原料として作製されるが、アルコキシ基の炭素鎖長が短いチタニウムアルコキシドは、非常に加水分解反応の速度が速く、少量の水の混入で、粒子を形成し、白濁沈殿を生じ、あるいは粒子形成が起こらない場合でもゲル化により固化してしまう。この解決法のひとつとして、溶液にキレート剤を添加し、チタニウムアルコキシドに配位させて反応を安定化させた材料による液相法用材料が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
一般に、光学用途の薄膜に限らず、膜中の有機物は、特性の低下を引き起こす恐れがあるため、極力含まない方が好ましい。有機物の含有量をできる限り少なくした上で、ポリエチレンテレフタレート基材上に緻密なチタニア薄膜を得る手法として、チタニウムアルコキシドの安定化のためにセロソルブ系溶剤を添加し、さらに、成膜後に加湿処理を行って緻密化を図る製法も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−258959号公報
【特許文献2】特開2003−05495号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来技術には、次のような問題がある。キレート剤により安定化されたチタニウムアルコキシドを含む溶液から作製される薄膜は、含まれる配位剤の安定性が高く、その除去に際して450℃以上の高温による熱処理が必要である。有機物の除去に対して高温での加熱が必要になる材料は、特に樹脂基材用の薄膜材料としての適用は困難である。また、高温加熱を避け、紫外線照射による有機物除去も考えられるが、樹脂基材そのものの劣化の恐れがあるほか、紫外線照射に要する装置が高価であり、製造コストが高くなる。
【0008】
一方、ポリエチレンテレフタレート基材上に形成された酸化チタン薄膜は、加湿処理と60℃という低温加熱により、屈折率1.86という比較的高い特性を有しているが、安定化のために添加した溶剤が膜内に残留している可能性があり、また、その屈折率も十分に高いとは言えず、さらに高い屈折率が望まれている。
【0009】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであって、安価で、100℃より低い温度で、屈折率が高く、かつ光の吸収の少ない酸化チタン薄膜を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一形態に係る高屈折率材料の製造方法は、波長633nmの光における屈折率が1.90以上で、かつ波長350nmの光における消衰係数が0.05以下の酸化チタンを主成分とする高屈折率材料を製造する方法であって、少なくとも、チタニウムアルコキシド、有機溶媒、ヒドラジン誘導体塩および水を混和して反応させる反応工程と、反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、膜形成工程後に60℃以上100℃未満の温度にて加熱する加熱工程とを含む。
【0011】
また、本発明の別の形態に係る高屈折率材料の製造方法は、チタニウムアルコキシドをチタニウムテトライソプロポキシド若しくはチタニウムテトラ−n−ブトキシドとする。
【0012】
また、本発明の別の形態に係る高屈折率材料の製造方法は、有機溶媒を、炭素数3以下のアルコールとする。
【0013】
また、本発明の別の形態に係る高屈折率材料の製造方法は、加熱工程に先立ち、乾燥工程を有し、乾燥工程を、湿度10%R.H.以下で行う工程とする。
【0014】
また、本発明の一形態に係る高屈折率材料と高分子材料との複合体は、高分子材料の表面に、波長633nmの光における屈折率が1.90以上で、かつ波長350nmの光における消衰係数が0.05以下の酸化チタンを主成分とする高屈折率材料の膜を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、安価で、100℃より低い温度で、屈折率が高く、かつ光の吸収の少ない酸化チタン薄膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、TTIP−EtOH系、TTB−EtOH系、TTB−IPA系の各薄膜形成用溶液の透過率を示すグラフである。
【図2】図2は、TTIP−EtOH系、TTB−EtOH系、TTB−IPA系の各薄膜形成用溶液の吸光度を示すグラフである。
【図3】図3は、シリコン基板上のTTIP−EtOH系薄膜の屈折率および消衰係数の薄膜形成時の加熱温度依存性を示すグラフである。
【図4】図4は、TTIP−EtOH系薄膜付きのアクリル樹脂基板の可視光の透過率を示すグラフである。
【図5】図5は、シリコン基板上のTTB−EtOH系薄膜の屈折率および消衰係数の薄膜形成時の加熱温度依存性を示すグラフである。
【図6】図6は、TTB−EtOH系薄膜付きのアクリル樹脂基板の可視光の透過率を示すグラフである。
【図7】図7は、湿度90%R.H.以上で作製したTTB−EtOH系薄膜の屈折率と消衰係数の乾燥時間依存性を示すグラフである。
【図8】図8は、湿度10%R.H.以下で作製したTTB−EtOH系薄膜の屈折率と消衰係数の乾燥時間依存性を示す。
【図9】図9は、シリコン基板上のTTB−IPA系薄膜の屈折率および消衰係数の薄膜形成時の加熱温度依存性を示すグラフである。
【図10】図10は、TTB−IPA系薄膜付きのアクリル樹脂基板の可視光の透過率を示すグラフである。
【図11】図11は、アクリル樹脂基板上にてスピンコーターの回転数3000rpmでスピンコートを行い、乾燥後、加熱温度60℃にて加熱して形成したTTB−IPA系薄膜の可視光波長域における屈折率および消衰係数の変化を示すグラフである。
【図12】図12は、加熱温度60℃にてシリコン基板上に形成したTTB−IPA系薄膜の表面粗さ測定結果を示す図である。
【図13】図13は、加熱温度60℃にてシリコン基板上に形成したTTB−IPA系薄膜の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の高屈折率材料と高分子材料との複合体および高屈折率材料の製造方法の実施の形態について説明する。
【0018】
1.高屈折率材料と高分子材料との複合体
(1)高屈折率材料
本実施の形態に係る高屈折率材料は、屈折率1.90以上で、かつ消衰係数0.05以下の酸化チタンを主材とする材料である。ここで、「屈折率」は、分光エリプソメーターを用いて波長633nmの光を測定対象の表面に所定の入射角にて入射させた際の屈折率をいう。波長633nmの光の光源には、好適にはXeランプ光源を用いる。「消衰係数」は、光が物質に深く進入して吸収される度合いを表す係数であって、次の式1,2の両式から求められる「k」に相当する。消衰係数は、分光エリプソメーターを用いて波長350nmの光を測定対象の表面に所定の入射角にて入射させることにより測定できる。
【0019】
I=I0・exp−αz・・・(式1)
α=4πk/λ・・・(式2)
I:光の強度、I0:初期の光の強度、α:吸収係数、z:進入深さ、λ:光の波長、k:消衰係数
【0020】
高屈折率材料は、酸化チタンを主材としていれば、その含有率を問わないが、好ましくは90重量%以上の酸化チタンを含む。
【0021】
(2)高分子材料
高分子材料とは、例えば、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーを挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6等のポリアミド系樹脂;ポリオキシメチレン樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂といったスチレン系樹脂;メタクリル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;変性PPE樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;液晶ポリマーを例示することができる。
【0022】
また、熱可塑性エラストマーとしては、クロロプレンゴム、エチレン/プロピレンゴム(EPM)、エチレン/プロピレン/ジエンゴム(EPDM)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、塩素化ポリエチレン、アクリレートゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、シリコーンゴム、可塑化PVC、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテルアミドを例示することができる。
【0023】
(3)高屈折率材料と高分子材料との複合形態
高屈折率材料と高分子材料との複合体は、両材料同士を接合したものである。好適な形態は、高屈折率材料の膜を、高分子材料の表面上に形成した形態である。しかし、当該複合体は、高屈折率材料のバルク体と高分子材料のバルク体を接合した形態であっても良い。
【0024】
2.高屈折率材料の製造方法
高屈折率材料の製造方法は、少なくとも、チタニウムアルコキシド、有機溶媒、ヒドラジン誘導体塩および水を混和して反応させる反応工程と、その反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、膜形成工程後に60℃以上100℃未満の温度にて加熱する加熱工程とを含む。
【0025】
反応工程は、さらに、チタニウムアルコキシドと有機溶媒とを混合する第一の混合工程と、ヒドラジン誘導体塩、水および有機溶媒とを混合する第二の混合工程と、第一の混合工程により作製した溶液1と第二の混合工程により作製した溶液2とを混合する第三の混合工程とに分けることができる。チタニウムアルコキシドとヒドラジン誘導体塩との反応は、第三の混合工程において生じる。かかる反応が完了すると、薄膜形成用の溶液の製造が完了する。また、膜形成工程と加熱工程との間に、乾燥工程を行うのが好ましい。膜形成後に高温域に晒すと膜にダメージが加わりやすく、それを避ける趣旨からである。
【0026】
次に、上述の各工程の詳細を説明する。
【0027】
(1)反応工程
(1.a)第一の混合工程
混合対象のチタニウムアルコキシドとしては、例えば、チタニウムテトラメトキシド、チタニウムテトラエトキシド、チタニウムテトラ−n−プロポキシド、チタニウムテトラ−iso−プロポキシド、チタニウムテトラ−n−ブトキシド、チタニウムテトラ−sec−ブトキシド、チタニウムテトラ−tert−ブトキシド、チタニウムテトラフェノキシド等を挙げることができる。これらのチタニウムアルコキシドの内で、好適には、チタニウムテトラ−iso−プロポキシド、チタニウムテトラ−n−ブトキシドを用いることができる。また、これらチタニウムアルコキシドの内の1種のみ、あるいは2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0028】
チタニウムテトラアルコキシドと混合する有機溶媒には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類;エチルアセテート、エチルセロソルブアセテート、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールアセテートなどのアセテート類;トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサンなどの芳香族あるいは脂肪族炭化水素のほか、γ−ブチロラクトン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどを用いることができる。上記有機溶媒としては、上記の一種のみを、あるいは上記の2種以上を混合したものを用いても良い。この実施の形態では、膜中に残留しにくい炭素数3以下のエタノール、2−プロパノール、あるいはアセトンを用いるのがより好ましい。
【0029】
上記有機溶媒の量は、溶液1中におけるチタニウムアルコキシド(mol)/溶媒(L)が1〜2.5mol/Lとなるような量が好ましく、特に1.5〜2.0mol/Lとなるような量が好ましく、さらには1.7mol/Lになるような量が好ましい。チタニウムアルコキシドと有機溶媒との混合方法は、攪拌羽根を取り付けた攪拌機を用いて、容器に入れた溶媒とチタニウムアルコキシドとの混合溶液を掻き混ぜる方法、容器に入れた前述の混合溶液内に攪拌子を入れて当該容器をマグネチックスターラー上に載せて攪拌子を回転させる方法、前述の混合溶液を入れた容器を、水等を入れた超音波振動機内に漬けて振動攪拌させる方法などを採用することができる。ただし、チタニウムアルコキシドと有機溶媒との混合方法は、前述の例示に限定されず、公知のいかなる混合方法をも含む。混合時の温度は、有機溶媒が揮発しにくい温度を選択するのが好ましい。例えば、エタノールを溶媒として選択する場合には、10〜30℃の範囲、特にその範囲内でも25℃前後が好ましい。また、混合する時間は、15〜180分、特に30〜90分、さらには45〜75分が好ましい。
【0030】
(1.b)第二の混合工程
チタニウムアルコキシドの加水分解および重縮合反応に際し、反応促進剤である触媒材料には、酢酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなど弱酸と弱塩基からなる塩、ヒドラジン誘導体塩、アセトアミジン誘導体塩、ヒドロキシルアミン誘導体塩のうちいずれかを使用するのが好ましい。ヒドラジン誘導体塩としては、ヒドラジン一塩酸塩、ヒドラジン酢酸塩、ベンジルヒドラジン一塩酸塩などを使用でき、特に、ヒドラジン一塩酸塩が好ましい。ヒドラジン誘導体塩は、チタニウムアルコキシド1モルに対して、0.01〜0.1モル、特に0.02〜0.06モル、さらには0.03〜0.05モルの範囲とするのが好ましい。
【0031】
有機溶媒は、第一の混合工程にて用いられる有機溶媒と同様のものを使用することができる。ただし、この工程で用いられる有機溶媒は、第一の混合工程で用いられる有機溶媒と異なる種類の有機溶媒であっても良い。この工程で用いられる有機溶媒の容量は、第一の混合工程で用いられる有機溶媒の1.5〜3倍、好ましくは2倍の容量とするのが好ましい。ただし、溶液1中の有機溶媒と溶液2中の有機溶媒の総量が等しければ、溶液1および溶液2中の各有機溶媒の容量を上述の容量から変更しても良い。
【0032】
水は、不純物(水素イオン、水酸イオン以外のイオンなども不純物に含まれる)の少ないイオン交換水や蒸留水とするのが好ましい。水の量は、ヒドラジン誘導体塩1モルに対して10〜100モル、特に30〜80モル、さらには40〜60モルの範囲とするのが好ましい。
【0033】
ヒドラジン誘導体塩、水および有機溶媒は、一緒に混合することもできるが、好ましくは、ヒドラジン誘導体塩と水とを混合してから、有機溶媒を加えるのが好ましい。ヒドラジン誘導体塩を水に完全に溶解させるためである。ヒドラジン誘導体塩を水との混合には、攪拌、特に超音波攪拌という手法を用いるのが好ましい。超音波攪拌時のヒドラジン誘導体塩を水との混合溶液の好ましい温度は、10〜30℃である。混合時間は、好ましくは5〜20分、より好ましくは8〜15分である。また、ヒドラジン誘導体塩を水との混合溶液に有機溶媒を加えてさらに混合する際にも、攪拌、特に超音波攪拌という手法を用いるのが好ましい。この際のヒドラジン誘導体塩、水および有機溶媒の混合溶液の好ましい温度は、20〜50℃である。混合時間は、好ましくは5〜20分、より好ましくは8〜15分である。
【0034】
(1.c)第三の混合工程
第三の混合工程は、溶液1と溶液2とを混合して、チタニウムアルコキシドの加水分解および縮合重合を促進させ、ゾル溶液を得る工程である。混合時の温度は、粒子が生成しにくい温度を選択するのが好ましく、0〜20℃の範囲が好ましい。また、上記反応を促進するために、好適には、攪拌等を行う。攪拌時の混合溶液の温度は、10〜35℃、さらには、15〜30℃が好ましい。攪拌時間としては、混合する原料の種類によって異なるが、0.1〜48時間、さらには0.5〜36時間が好ましい。こうして、膜形成用のゾル溶液が完成する。
【0035】
(2)膜形成工程
膜形成用のゾル溶液(以後、「膜形成用溶液」という。)を塗布する基板は、高分子材料、例えば熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6等のポリアミド系樹脂;ポリオキシメチレン樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンサルファイド樹脂;ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、AS樹脂といったスチレン系樹脂;メタクリル系樹脂;ポリカーボネート樹脂;変性PPE樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;ポリイミド系樹脂;ポリエーテルケトン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;液晶ポリマーを例示することができる。膜形成工程は、膜形成用溶液を基板上に塗布する工程であり、公知のいずれのコート方法をも採用できる。例えば、スピンコート法、ブレードコート法、ロールコート法、ディッピング法、スプレー法などの塗工法の他、転写法、スクリーン印刷法、インクジェット印刷法などの各種印刷法も採用可能である。この実施の形態では、簡便かつ均一な膜厚の膜を形成できるスピンコート法を好適に使用することができる。
【0036】
膜形成工程にて、例えばスピンコート法を用いる場合、基板の回転数および回転時間を、所望の膜厚、膜形成用溶液の粘度、基板の種類に応じて、適宜、好ましい値に決めるのが好ましい。例えば、膜厚50〜200nmの範囲の膜を形成するためには、基板を1000〜10000rpm、好ましくは2000〜8000rpmで30〜120秒間回転するのが好ましい。
【0037】
(3)乾燥工程
乾燥工程は、次の加熱工程よりも低い温度で膜中の溶液の一部を揮発させる工程である。好適な乾燥温度は、10〜35℃であり、より好ましくは20〜30℃である。乾燥時間は、15分以上、好ましくは30分以上である。乾燥工程における湿度は、如何なる湿度でも採用可能であるが、30%R.H.以下、特に10%R.H.以下が好ましい。また、乾燥工程を行う雰囲気としては、空気中の放置、乾燥機器内等の公知の雰囲気を採用できる。
【0038】
(4)加熱工程
加熱方法は、基板に形成された膜の内部に含まれる溶液を除去する工程および膜の硬度を向上させる工程である。加熱する方法としては、ホットプレート、乾燥機などを使用するのが好ましい。加熱温度としては、60℃以上100℃未満の範囲が好ましく、特に、樹脂を基板にする場合には、60℃以上80℃以下の範囲がさらに好ましい。加熱時間は、吸着水および残存する有機物をできるだけ除去するのに十分な時間であれば特に限定されるものではないが、例示するならば、1時間程度が好ましい。また、加熱後に、基板を、氷で冷やす方法、冷却した別の基板上に接触させる方法、あるいは自然放冷しても良い。
【実施例】
【0039】
1.酸化チタン薄膜の製造方法
酸化チタン薄膜は、薄膜形成用の溶液の製造と、薄膜の形成という以下の2つのステップにより製造した。
【0040】
1.1 薄膜形成用の溶液の製造
薄膜形成用の溶液の原料となるチタニウムアルコキシドには、チタニウムテトライソプロポキシド(Titanium tetraisopropoxide: TTIP、関東化学株式会社製)またはチタニウムテトラ−n−ブトキシド(Titanium tetrabutoxide: TTB、関東化学株式会社製)を用いた。チタニウムアルコキシドと混合する有機溶媒には、エタノール(Ethanol: EtOH、和光純薬工業株式会社製)またはイソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol: IPA、和光純薬工業株式会社製)を用いた。また、ヒドラジン誘導体塩には、ヒドラジン一塩酸塩(Hydrazine monohydrochloride、東京化成工業株式会社製)を用いた。
【0041】
チタニウムアルコキシド12.5mmolと有機溶媒7.29mlをビーカーA内に入れて、25℃で1時間の攪拌を行い、溶液1を用意した。攪拌には、磁気攪拌機(型式: HP41507、VARIOMAG社製)を用いた。一方、ヒドラジン一塩酸塩0.5mmolと蒸留水25mmolを別のビーカーBに入れて、10〜30℃に保ちながら10分間の超音波攪拌を行い、その後、有機溶媒14.58mlを加えて、20〜50℃に保ちながら10分間の超音波攪拌を行い、溶液2を用意した。超音波攪拌には、超音波攪拌装置(型式: USK−1R、アズワン株式会社製)を用いた。次に、溶液1の入ったビーカーAに溶液2を入れて、0〜20℃に保ちながら、25℃にて、回転数550rpmにて1〜24時間の攪拌を行った。攪拌時間は、チタニウムアルコキシドと有機溶媒の組み合わせにより異なる時間とした。この一連の工程にて、薄膜形成用の溶液の製造を完了した。
【0042】
1.2 薄膜の形成
薄膜形成用の基板には、シリコン基板(SUMCO製、25mm×25mm×1mm)、アクリル樹脂基板(日東樹脂工業株式会社製、品番:S−0、50mm×50mm×1mm)およびポリカーボネート樹脂基板(サンプラテック社製、50mm×50mm×1.5mm)の3種類の基板を用いた。上記基板をスピンコーター(型式: 1H−D7、ミカサ株式会社製、)にセットし、当該基板上に、先に製造した薄膜形成用の溶液を供給した。溶液供給中のスピンコーターの回転数は、2500rpm以上とし、チタニウムアルコキシドと有機溶媒の組み合わせにより異なる回転数とした。供給時間は60秒間とした。スピンコート終了後、湿度10%R.H.以下にて1時間の乾燥を行い(特筆しない限り当該湿度条件で乾燥した)、その後、300℃以下の範囲の所定温度にて1時間の加熱を行った。この一連の工程にて、基板への酸化チタン薄膜の形成を完了した。
【0043】
2.評価方法
薄膜形成用の溶液の透過率および吸光度、酸化チタン薄膜および当該薄膜を形成した樹脂基板の各透過率は、紫外可視分光光度計(株式会社日立製作所製、型式: U−4100)を用いて測定した。
【0044】
酸化チタン薄膜の屈折率および消衰係数は、分光エリプソメーター(型式: UVISEL、堀場・ジョバンイボン社製)を用いて測定した。波長280nmから800nmの領域で屈折率および消衰係数を評価した。特に、波長633nmおよび波長550nmの2点の波長での屈折率を比較した。また、波長350nmの可視光での消衰係数を比較した。
【0045】
酸化チタン薄膜および加熱前の薄膜の結晶性あるいは結晶構造は、X線回折装置(株式会社リガク製、型式: RINT2500HF)を用いて測定した。
【0046】
酸化チタン薄膜の膜断面は、高分解能走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、型式: S−5000)を用いて観察した。また、酸化チタン薄膜の表面粗さは、走査型プローブ顕微鏡(セイコーインスツル株式会社製、型式: SPA400)を用いて測定した。加熱前の薄膜の微細構造は、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型式: JEM2010)を用いて観察した。
【0047】
また、酸化チタン薄膜の膜厚は、高分解能走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製、型式: S−5000)で観察した断面から測定し、分光エリプソメーターで測定したスペクトルから算出された膜厚と一致することを確認した。
【0048】
3.各薄膜形成用溶液の製造および評価
チタニウムアルコキシドおよび有機溶媒にそれぞれTTIPおよびEtOHを用いた系(TTIP−EtOH系)と、チタニウムアルコキシドおよび有機溶媒にそれぞれTTBおよびEtOHを用いた系(TTB−EtOH系)と、チタニウムアルコキシドおよび有機溶媒にそれぞれTTBおよびIPAを用いた系(TTB−IPA系)の3種類の薄膜形成用溶液を製造した。
【0049】
TTIP−EtOH系の薄膜形成用溶液は、TTIPを3.553g、溶液1作製用のEtOHを5.75g、ヒドラジン一塩酸塩0.0343g、蒸留水0.45g、溶液2作製用のEtOHを11.5g用意し、前述の手順にて混合して製造した。溶液1と溶液2とを混合した後の攪拌時間(以後、反応時間とも称する)は1時間とした。
【0050】
また、TTB−EtOH系の薄膜形成用溶液は、TTBを4.254g、溶液1作製用のEtOHを5.75g、ヒドラジン一塩酸塩0.0343g、蒸留水0.45g、溶液2作製用のEtOHを11.5g用意し、前述の手順にて混合して製造した。溶液1と溶液2とを混合した後の攪拌時間(反応時間)は24時間とした。
【0051】
さらに、TTB−IPA系の薄膜形成用溶液は、TTBを4.254g、溶液1作製用のIPAを5.73g、ヒドラジン一塩酸塩0.0343g、蒸留水0.45g、溶液2作製用のIPAを11.46g用意し、前述の手順にて混合して製造した。溶液1と溶液2とを混合した後の攪拌時間(反応時間)は6時間とした。
【0052】
上記3種類の薄膜形成用溶液をそれぞれアクリルセル(セル長: 10mm)に入れて、波長200〜800nmの可視光の透過率および吸光度を測定した。
【0053】
図1および図2は、TTIP−EtOH系、TTB−EtOH系、TTB−IPA系の各薄膜形成用溶液の透過率および吸光度をそれぞれ示すグラフである。図1の横軸は波長、縦軸は透過率である。図2の横軸は波長、縦軸は吸光度である。
【0054】
図1および図2に示す結果から、製造した各溶液は、ともに、透明度が高く、溶液内における光の散乱がほとんどないものであった。
【0055】
4.酸化チタン薄膜の製造および評価
<実施例1>
TTIP−EtOH系薄膜
「3.各薄膜形成用溶液の製造および評価」にて用意したTTIP−EtOH系の薄膜形成用溶液を、スピンコーターの回転数を5000〜6000rpmの範囲として、各種基板上に供給した。スピンコート後に乾燥し、加熱温度を変化させて薄膜を形成し、得られた各薄膜(樹脂基板にあっては、薄膜付きの樹脂基板の透過率も測定)の評価を行った。
【0056】
表1および表2に、それぞれ、シリコン基板上に形成した薄膜および樹脂基板上に形成した薄膜の製造条件と薄膜評価結果を示す。また、図3にシリコン基板上の薄膜の屈折率および消衰係数の薄膜形成時の加熱温度依存性を、図4に薄膜付きのアクリル樹脂基板の可視光の透過率を、それぞれ示す。図3の横軸は加熱温度、縦軸の左側は屈折率、縦軸の右側は消衰係数である。図4の横軸は波長、縦軸は透過率である。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
表1および図3に示すように、薄膜形成時の加熱温度が高いほど、薄膜の屈折率および消衰係数が大きくなる傾向が認められた。ここで、着目すべきは、加熱温度60および80℃という100℃未満の温度にて1.97を超える高い屈折率で、かつ0.02を下回る低い消衰係数を有する薄膜が得られたことである。
【0060】
また、表2に示すように、アクリル樹脂基板あるいはポリカーボネート樹脂基板上にそれぞれ形成した薄膜は、加熱温度60℃と低くても、1.96を超える高い屈折率で、かつ0.022を下回る低い消衰係数を有していることがわかった。さらに、図4に示すように、薄膜付きの各樹脂基板の可視光透過率(波長400〜780nmにおける透過率)を、薄膜無しのアクリル樹脂基板(透過率:92.9%)のそれと比較した結果、薄膜を付けても透過率が大きく低下しない結果が得られた。したがって、TTIP−EtOH系薄膜は、低温にて樹脂基板に形成できる屈折率の高い薄膜であることに加え、透明性の高い薄膜であることがわかった。
【0061】
<実施例2>
TTB−EtOH系薄膜
「3.各薄膜形成用溶液の製造および評価」にて用意したTTB−EtOH系の薄膜形成用溶液を、スピンコーターの回転数を3500〜5500rpmの範囲として、各種基板上に供給した。スピンコート後に乾燥し、加熱温度を変化させて薄膜を形成し、得られた各薄膜(樹脂基板にあっては、薄膜付きの樹脂基板の透過率も測定)の評価を行った。
【0062】
表3および表4に、それぞれ、シリコン基板上に形成した薄膜および樹脂基板上に形成した薄膜の製造条件と薄膜評価結果を示す。また、図5にシリコン基板上の薄膜の屈折率および消衰係数の薄膜形成時の加熱温度依存性を、図6に薄膜付きのアクリル樹脂基板の可視光の透過率を、それぞれ示す。図5の横軸は加熱温度、縦軸の左側は屈折率、縦軸の右側は消衰係数である。図6の横軸は波長、縦軸は透過率である。
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
表3および図5に示すように、薄膜形成時の加熱温度が高いほど、薄膜の屈折率および消衰係数が大きくなる傾向が認められた。加熱温度60および80℃では、1.95を超える高い屈折率で、かつ0.01を下回る極めて低い消衰係数を有する薄膜が得られることがわかった。
【0066】
また、表4に示すように、アクリル樹脂基板あるいはポリカーボネート樹脂基板上にそれぞれ形成した薄膜は、加熱温度60℃と低くても、1.95を超える高い屈折率で、かつ0.021を下回る低い消衰係数を有していることがわかった。さらに、図6に示すように、薄膜付きの各樹脂基板の可視光透過率を、薄膜無しのアクリル樹脂基板(透過率:92.9%)のそれと比較した結果、薄膜を付けても透過率が大きく低下しない結果が得られた。したがって、TTB−EtOH系薄膜は、前述のTTIP−EtOH系薄膜と同様、低温にて樹脂基板に形成できる屈折率の高い薄膜であることに加え、透明性の高い薄膜であることがわかった。
【0067】
<実施例3>
乾燥条件・乾燥時間の検討(TTB−EtOH系薄膜)
「3.各薄膜形成用溶液の製造および評価」にて用意したTTB−EtOH系の薄膜形成用溶液(ただし、反応時間は24時間ではなく、6時間とした)を、スピンコーターの回転数を3500rpmにセットして、シリコン基板上に供給した。スピンコート後に、湿度を90%R.H.以上および10%R.H.以下の2通りとし、それぞれの湿度において乾燥時間を0.5〜6時間の範囲内で変化させて乾燥を行い、加熱温度80℃にて加熱して各種薄膜を形成した。次に、得られた各薄膜(樹脂基板にあっては、薄膜付きの樹脂基板の透過率も測定)の評価を行った。
【0068】
表5および表6に、それぞれ、湿度を90%R.H.以上および10%R.H.以下で作製した薄膜の製造条件と薄膜評価結果を示す。また、図7および図8に、それぞれ、湿度を90%R.H.以上および10%R.H.以下で作製した薄膜の屈折率と消衰係数の乾燥時間依存性を示す。図7および図8の各横軸は乾燥時間、各縦軸の左側は屈折率、各縦軸の右側は消衰係数である。
【0069】
【表5】
【0070】
【表6】
【0071】
表5、表6、図7および図8に示すように、薄膜形成時の乾燥時の湿度が低い方が、屈折率の高い薄膜が得られることがわかった。また、いずれの湿度においても、乾燥時間が短いほど屈折率の高い薄膜が得られる傾向があり、特に湿度が高い場合には、乾燥時間を短くする必要があることがわかった。一方、消衰係数については、多少の差があるものの、乾燥時の湿度や乾燥時間に大きく左右されないことがわかった。
【0072】
<実施例4>
TTB−IPA系薄膜
「3.各薄膜形成用溶液の製造および評価」にて用意したTTB−IPA系の薄膜形成用溶液を、スピンコーターの回転数を2500〜3500rpmの範囲として、各種基板上に供給した。スピンコート後に乾燥し、加熱温度を変化させて薄膜を形成し、得られた各薄膜(樹脂基板にあっては、薄膜付きの樹脂基板の透過率も測定)の評価を行った。
【0073】
表7および表8に、それぞれ、シリコン基板上に形成した薄膜および樹脂基板上に形成した薄膜の製造条件と薄膜評価結果を示す。また、図9にシリコン基板上の薄膜の屈折率および消衰係数の薄膜形成時の加熱温度依存性を、図10に薄膜付きのアクリル樹脂基板の可視光の透過率を、それぞれ示す。さらに、図11に、アクリル樹脂基板上にてスピンコーターの回転数3000rpmでスピンコートを行い、乾燥後、加熱温度60℃にて加熱して形成したTTB−IPA系薄膜の可視光波長域における屈折率および消衰係数の変化を示す。図9の横軸は加熱温度、縦軸の左側は屈折率、縦軸の右側は消衰係数である。図10の横軸は波長、縦軸は透過率である。図11の横軸は波長、縦軸の左側は屈折率、縦軸の右側は消衰係数である。
【0074】
【表7】
【0075】
【表8】
【0076】
表7および図9に示すように、薄膜形成時の加熱温度が高いほど、薄膜の屈折率および消衰係数が大きくなる傾向が認められた。加熱温度60および80℃では、2.00を超える高い屈折率で、かつ0.04を下回る低い消衰係数を有する薄膜が得られることがわかった。
【0077】
また、表8に示すように、アクリル樹脂基板あるいはポリカーボネート樹脂基板上にそれぞれ形成した薄膜は、加熱温度が80℃以下であっても、2.00を超える高い屈折率で、かつ0.035を下回る低い消衰係数を有していることがわかった。さらに、図10に示すように、薄膜付きの各樹脂基板の可視光透過率を、薄膜無しのアクリル樹脂基板(透過率:92.9%)のそれと比較した結果、薄膜を付けても透過率が大きく低下しない結果が得られた。また、図11に示すように、60℃という低温にてアクリル樹脂基板上に形成した薄膜は、可視光域にて2.0以上の屈折率とほぼゼロに近い消衰係数であった。このような結果から、TTB−IPA系薄膜は、前述のTTIP−EtOH系薄膜およびTTB−EtOH系薄膜と同様、低温にて樹脂基板に形成できる屈折率の高い薄膜であることに加え、透明性の高い薄膜であることがわかった。
【0078】
図12および図13に、加熱温度60℃にてシリコン基板上に形成したTTB−IPA系薄膜の表面粗さ測定結果および走査型電子顕微鏡写真を、それぞれ示す。
【0079】
加熱温度60℃にてシリコン基板上に形成したTTB−IPA系薄膜は、自乗平均面粗さ(RMS)が0.37nmであり、非常に平滑で、かつ緻密な薄膜であることがわかった。他の条件で作製したTTB−IPA系薄膜も、同様に平滑かつ緻密な薄膜であった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、例えば、フォトニック結晶、反射防止膜、光学レンズ、光デバイスに利用可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長633nmの光における屈折率が1.90以上で、かつ波長350nmの光における消衰係数が0.05以下の酸化チタンを主成分とする高屈折率材料を製造する方法であって、
少なくとも、チタニウムアルコキシド、有機溶媒、ヒドラジン誘導体塩および水を混和して反応させる反応工程と、
上記反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、
上記膜形成工程後に60℃以上100℃未満の温度にて加熱する加熱工程と、
を含むことを特徴とする高屈折率材料の製造方法。
【請求項2】
前記チタニウムアルコキシドは、チタニウムテトライソプロポキシド若しくはチタニウムテトラ−n−ブトキシドであることを特徴とする請求項1に記載の高屈折率材料の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、炭素数3以下のアルコールであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高屈折率材料の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程に先立ち、乾燥工程を有し、
当該乾燥工程は、湿度10%R.H.以下で行う工程であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高屈折率材料の製造方法。
【請求項5】
高分子材料の表面に、波長633nmの光における屈折率が1.90以上で、かつ波長350nmの光における消衰係数が0.05以下の酸化チタンを主成分とする高屈折率材料の膜を備えることを特徴とする、高屈折率材料と高分子材料との複合体。
【請求項1】
波長633nmの光における屈折率が1.90以上で、かつ波長350nmの光における消衰係数が0.05以下の酸化チタンを主成分とする高屈折率材料を製造する方法であって、
少なくとも、チタニウムアルコキシド、有機溶媒、ヒドラジン誘導体塩および水を混和して反応させる反応工程と、
上記反応工程によって得られる溶液を基板に供給して膜を形成する膜形成工程と、
上記膜形成工程後に60℃以上100℃未満の温度にて加熱する加熱工程と、
を含むことを特徴とする高屈折率材料の製造方法。
【請求項2】
前記チタニウムアルコキシドは、チタニウムテトライソプロポキシド若しくはチタニウムテトラ−n−ブトキシドであることを特徴とする請求項1に記載の高屈折率材料の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒は、炭素数3以下のアルコールであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の高屈折率材料の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程に先立ち、乾燥工程を有し、
当該乾燥工程は、湿度10%R.H.以下で行う工程であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の高屈折率材料の製造方法。
【請求項5】
高分子材料の表面に、波長633nmの光における屈折率が1.90以上で、かつ波長350nmの光における消衰係数が0.05以下の酸化チタンを主成分とする高屈折率材料の膜を備えることを特徴とする、高屈折率材料と高分子材料との複合体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−80007(P2011−80007A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235176(P2009−235176)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省、地域科学技術振興事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]