説明

高屈折率材料を合成するための硫黄修飾シラン

ポリチオールとアルケニルシランとの反応によって形成されるポリスルフィドポリシランを有する組成物。反応剤は、UV照射又は熱、好ましくはUV照射によって曝露されるチオール―エン付加方法で合される。ポリスルフィドポリシランはさらに加水分解され、他の加水分解化合物に合されてもよい。被覆層として、ポリスルフィドポリシランは加水分解され、任意にナノ粒子と合されてもよい。バルク材料として、ポリスルフィドポリシランは加水分解され、濃縮され、加熱されて、レンズを形成するのに用いることができる高屈折率材料を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、高屈折率材料及びそれらを合成する方法、並びに、該材料を、光学バルク材料又は高屈折率の被覆層、好ましくは硬質被覆層として用いる用途に関する。
【背景技術】
【0002】
眼用レンズにとって、プラスチック材料は、より安全で、より薄い軽量代替物である。このような眼用プラスチックレンズは、多くの場合、耐引っ掻き性能を提供するため、又は、色彩若しくは反射防止表面などの機能性光学的特徴を付与するための表面被覆層を有する。
【0003】
シランベースの基質は、被覆層とバルク材料の両方に用いることができる。これらのシランは、適度に良好な機械的特性を有するが、1.42から1.55の間の相対的低屈折率(RI)の値になる。より薄く、より軽いレンズに対する需要が高まるため、より高い屈折率とより良好な機械的特性とを有する材料に対する要求がより大きくなる。眼鏡レンズ業界は、高屈折率レンズ(屈折率、約1.6−1.7)を生産することに照準を合わせており、それに対応して、高屈折率(1.63−1.68)の被覆層を求めている。現在のところ、入手可能な有機被覆層の屈折率は約1.5であり、それらは高屈折率レンズ用には不適のものである。それだけに、高屈折率を有する光学等級の高い被覆層に対する緊急的要求がある。
【0004】
プラスチックレンズは、通常、1.67、1.74又は1.80と同等の高屈折率を有する。これまでの被覆層は、通常、約1.50の低屈折率を有する。レンズ基材の屈折率と被覆層の屈折率との間の大きな較差は、目障りな干渉縞の原因になる。それだけに、高屈折率の被覆層、及びそれに対応して改良された機械的特性を備えた複合被覆層を有することが望ましい。
【0005】
複合被覆層の公知の一つは、特許文献1に開示されている。エポキシシランが加水分解され、コロイド状シリカ及びアルミニウムキレートのようなアルミニウム化合物と結合される。組成物は、耐摩耗性被覆層としての用途を有し、無反射被覆層と一緒に用いられる場合に有用である。別の公知技術例は、特許文献2に記載されている。
【0006】
公知技術のバルク材料の例は有機重合体の類である。チオール及びチオエーテルを基礎とする有機重合体は、(1.70に達する)高屈折率を提供するが、これらは純然たる有機物であって有機物と無機物の複合物ではない。機械的特性を、無機ナノ粒子を添加することによって改良することができるが、得られた材料は、通常は、ナノ粒子の凝集により濁りを帯びる。
【0007】
交雑材料、例えば透明交雑バルク材料は、無機ネットワークをもたらすシランから製造されることが知られている。その場合には屈折率が低い。屈折率は、金属アルコキシドを添加することにより、わずかに高めることができる。しかしながら、この場合には、動態の差が非常に大きいため、金属アルコキシドの沈着を引き起こし、金属アルコキシドの含有量割合を限定することになるか、又は濁りを帯びた材料をもたらすことになる。有機ケイ素単量体を加水分解することによって得られる公知のバルク材料が、特許文献3に開示されている。単量体は、加水分解前に、エポキシシラン又はホトクロミック化合物と組み合わせることができる。もうひとつの公知技術の例は、特許文献4に記載されており、ゾル‐ゲル法を論じている。
【0008】
公知技術のシラン被覆層の例は、グリシドオキシプロピルトリメトキシシランであり、商品名Glymoで表示される。Glymoは、眼科業界においては、耐摩耗被覆層として現在用いられている前駆体である。高架橋率が達成されるが、屈折率は1.51に限定される。より高い屈折率被覆層が、TiO2又はZrO2などの高屈折率のナノ粒子を加えることによって得られる。このような被覆層はGlymoの低RIによる屈折率に限定される。高RIナノ粒子の含有量を増加させた場合には、被覆層は傷つきやすくなり、機械的性能が劣化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0123771号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/165698号明細書
【特許文献3】米国特許第6,624,237号明細書
【特許文献4】国際公開第94/25406号
【特許文献5】米国特許第6,624,237号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、新規な材料、及び、それらを高屈折率のバルク材料として並びに被覆層として使用する用途を提供することが本発明の目的である。
本発明の方法の実施形態として、
(i)ポリチオール(I)とアルケニルシラン(II)とを混合し、溶液を得るか又は調製するステップ、及び
(ii)溶液を、UV照射又は熱に、好ましくはUV照射に曝露し、チオール―エン付加を行い、それによりポリスルフィドポリシラン(III)を製造するステップ
が提案される。
【0011】
混合ステップ(i)は、例えば、触媒、光開始剤、溶媒又はそれらの組合せとなる、さらなる化合物の付加を、混合前、混合中又は混合後に含むことができる。光開始剤は、溶液をUV照射に曝露する次のステップ(ii)を実行するのに特に有用である。触媒は、溶液を熱に曝露する次のステップ(ii)を行うために特に有用である。
【0012】
ポリチオール(I)は、式
(HS)−R−(SH)n
[式中、
nは1から5からなる整数、及び
Rは、
アリーレン、
ヘテロアリーレン、
及び、直鎖若しくは分岐鎖(C2−C30)アルキレン(ここでは、1から10の炭素原子は、(CO)、(SO2)、R4が水素原子又は直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルキルを表すNR4、O、S、又はPから選択される基によって置換されてよく、及び/又は、アルキレン基の各々は、ヒドロキシル、カルボニル、アリール、及びヘテロアリール、これらの2つの最後の基が末端位置又はアルキレン鎖内の前記アルキレン鎖上で置換されてもよいものから選択される基によって任意に置換されてよいもの、から選択される基である)]
を有する。
【0013】
アルケニルシラン(II)は、式
(R1m(3-m)Si−R2−R3
[式中、
1は、R6が水素原子又は直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルキルを表すNR6、O、S、又はPから選択される1から5のヘテロ原子を任意に含むことができ、及び/又は、アルキル基の各々は、ヒドロキシル、カルボニル、及び(C1−C6)アルコキシから選択される基によって任意に置換されてもよい、直鎖若しくは分岐鎖(C1−C10)アルキル基、
Xは、ハロゲン原子、及び、−OR5(ここで、R5は、(C3−C10)シクロアルキル、(C3−C10)ヘテロシクロアルキル、及び、R7が水素原子又は直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルキルを表すNR7、O、Sからなる群より選択される1から3のヘテロ原子を含むことができる直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルキル、及び/又は、アルキル基の各々は、直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルコキシ、カルボキシ、及びヒドロキシで置換されてもよいものから選択された基を表す)、から選択された基、
mは0から2を含む整数、
2は、不存在か又は、直鎖若しくは分岐鎖(C2−C10)アルキレン(ここでは、1から4の炭素原子は、(CO)、R8が水素原子又は直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルキルを表すNR8、O、又はSから選択される基で置換されてもよく、及び/又は、アルキレン基の各々は、直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルコキシ、カルボキシ、及びヒドロキシから選択される基によって任意に置換されてよい)から選択された基で表されるもの、
3は、各々が直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルキル、直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルコキシ、直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)チオアルコキシ、カルボキシ、チオ、及びヒドロキシルから選択される基によって任意に置換されてもよい基である、直鎖若しくは分岐鎖(C2−C10)アルケニル、(C4−C10)シクロアルケニル、及び(C4−C10)ヘテロシクロアルケニルから選択された基で表されるもの]
を有する。
【0014】
本願において、適用する定義は以下の通りである。
アリールは、通常、4から14の炭素原子を含む、ヒドロキシ、直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルキル、直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルコキシ、及びカルボキシから選択される基で任意に置換される、単環式若しくは多環式の芳香族基を意味する。この意味と合致する以下のアリール基、例えばフェニル、ナフチル、アセナフテニル、ビフェニレニル、アントラシル、が挙げられる。本発明によると、好ましいアリール基は、フェニル基を表す。
【0015】
アリーレンは、通常4から14の炭素原子及び不飽和二重結合を含む単環式若しくは多環式の芳香族基を意味する。
【0016】
ヘテロアリールは、前記で定義されたアリール基であって、単環式若しくは多環式の少なくとも1つの炭素原子、及び、好ましくは1から4の炭素原子がO、N、及びSから選択されるヘテロ原子によって置換されるものを意味する。この意味と合致する以下のヘテロアリール、例えばピリミジル、フリル、チエニル、チアジアゾリル、オキサジアゾリル、が挙げられる。
【0017】
ハロゲン原子は、Cl、Br、F及びIから選択される原子を意味する。
【0018】
ヘテロアリーレンは、前記で定義されたアリール基であって、少なくとも1つの炭素原子、及び好ましくは1から4の炭素原子がO、N、及びSから選択されるヘテロ原子によって置換されものを意味する。
【0019】
アルキレンは、不飽和二重結合を含むアルキル基を意味する。
【0020】
アルケニルは、不飽和三重結合を含むアルキル基を意味する。
【0021】
式(I)及び(II)の化合物の定義において、基が「置換されてよい」というときには、好ましい実施形態において、そのような基が1から4の置換基を含むものと理解することができる。
【0022】
合成ポリスルフィドポリシラン(III)は、チオール―エン付加によって得られ、一般的に、1.47から1.55の範囲の屈折率を有する。
【0023】
本発明の製品の実施形態として、高屈折率材料の合成用ポリスルフィドポリシランを提示し、当該ポリスルフィドポリシランはポリチオール(I)及びアルケニルシラン(II)の反応生成物として合成されるものである。
【0024】
これら及び他の態様、本発明の特徴及び利点は、記載され、以下のより好ましい実施形態の詳細な説明から、明らかになる。
【0025】
新規化合物を概略すると、ポリチオール反応剤をアルケニルシラン反応剤と結合し高屈折率の前駆体材料を提供し、それをポリスルフィドポリシランという。ポリスルフィドポリシランはその調製方法を特徴とする。しかしながら、本発明には、別の調製方法によって調製される場合のポリスルフィドポリシランの発明もまた、含まれる。このように、ポリスルフィドポリシランは、本発明に係る方法によって得ることができ、また好ましくは前記方法によって得られる。
【0026】
前記ポリチオール(I)は、以下の、通常、市販で入手可能な化合物:1,2−エタンジチオール;1,3−プロパンジチオール;1,4−ブタンジチオール;1,2−ブタンジチオール;1,5−ペンタンジチオール;1,6−ヘキサンジチオール;1,8−オクタンジチオール;2,2´−オキシジエタンチオール;3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール;エチレングリコールビスチオール−グリコラート;dl−1,4−ジチオスレイトール;2,2´−チオジエタンチオール;ビス(2−メルカプトエチル)スルホン;2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール;5−({2−[(5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール−2−イル)チオ]エチル}チオ)−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール;ペンタエリスリトールテトラ(2−メルカプトアセタート);トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート);トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセタート);1,4−ベンゼンジチオール;1,3−ベンゼンジチオール;3,4−ジメルカプトトルエン;1,4−ベンゼンジメタンチオール;1,3−ベンゼンジメタンチオール;1,6−ジ(メタンチオール)−3,4−ジメチル−フェニル;[3−(メルカプトメチル)−2,4,6−トリメチルフェニル]メタンチオール;1,5−ジメルカプトナフタレン;3,3´−チオビス[2−[(2−メルカプトエチル)チオ]−1−プロパンチオール;5−[3−(5−メルカプト−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル)プロピル]−1,3,4−オキサジアゾール−2−チオール;2−メルカプトエチルスルフィド;1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリチオン;及び2,3−ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−1−プロパンチオール;好ましくはトリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセタート)含む群から選択されるもの,2−メルカプトエチルスルフィド,3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、エチレングリコールビスチオール−グリコラート、3,3´−チオビス[2−[(2−メルカプトエチル)チオ]−1−プロパンチオール及びトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)を含む群より選択されるもの、更により好ましくは3,3´−チオビス[2−[(2−メルカプトエチル)チオ]−1−プロパンジオール及びトリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセタート)を含む群から選択することができる。
【0027】
より一般的には、好ましいポリチオールは、例えば、約1.47又はそれ以上の、またより好ましくは1.55以上のRIをもたらす、高屈折率(RI)を有するポリスルフィドポリシランに形成することができるものである。このようなRI値を一般に産生する典型的ポリチオールは、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセタート),2−メルカプトエチルスルフィド,3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール,エチレングリコールビスチオール−グリコラート,3,3´−チオビス[2−[(2−メルカプトエチル)チオ]−1−プロパンチオール及びトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)である。
【0028】
以下により詳細に記載された実用試験において、3,3´−チオビス[2−[(2−メルカプトエチル)チオ]−1−プロパンチオール及びトリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセタート)が最も好ましいポリチオールとして浮上した。
【0029】
ポリチオール(I)は、好ましくは2から4のチオール基(包含するもの)を有する。
【0030】
ポリチオールにおいて、Rは、好ましくは1から20の炭素原子を含み、R基にヘテロ原子が存在する場合には、硫黄原子が好ましい。ポリチオールの第1実施形態において、Rは、好ましくは1から10の炭素原子、及び1から6の硫黄原子を含む。さらに、さらなる実施形態において、式(I)の化合物は、C原子に対するS原子(nS/nC)の高い割合、即ち、少なくとも4分の1(nS/nC=1/4)の割合を有する。これは、式(I)の好ましい化合物において、4炭素原子に対して少なくとも1硫黄原子が存在することを意味する。式(I)の化合物は、より好ましくは、少なくとも2分の1、さらにより好ましくは少なくとも10分の7の割合のC原子に対するS原子の割合(nS/nC)を有する。
【0031】
ある非限定的な実施形態においては、前記アルケニルシラン(II)は、ビニルフェニルメチルメトキシシラン、ビニルフェニルメチルクロロシラン、ビニルフェニルジエトキシシラン、ビニルフェニルジクロロシラン、10−ウンデセニルトリメトキシシラン、10−ウンデセニルトリクロロシラン、10−ウンデセニルジメチルクロロシラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、7−オクテニルトリクロロシラン、7−オクテニルジメチルクロロシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリクロロシラン、アリルフェニルジクロロシラン、アリルオキシウンデシルトリメトキシシラン、アリルメチルジクロロシラン、アリルジメチルクロロシラン、アリルジメトキシシラン、アリルジクロロシラン、アリル(クロロプロピル)ジクロロシラン、アリル(クロロメチル)ジメチルシラン、3−(n−アリルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、ブテニルトリエトキシシラン、ブテニルメチルジクロロシラン、5−ヘキセニルトリクロロシラン、5−ヘキセニルジメチルクロロシラン、ヘキセニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリス(メトキシプロポキシ)シラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ−t−ブトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルオクチルジクロロシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、S−シクロヘキセニルトリクロロシラン、[2−(3−シクロヘキセニル)エチル]トリエトキシシラン、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリラート、好ましくはビニルトリメトキシシランを含む群より選択される。
【0032】
好ましいアルケニルシランは、例えば、約1.47又はそれ以上の、またより好ましくは1.5以上のRIをもたらす、高屈折率(RI)を有するポリスルフィドポリシランを形成することができるものである。以下により詳細に記載された実用試験において、それは1.509のRIを有するポリスルフィドポリシランを供するため、ビニルトリメトキシシランが好ましいシランとして浮上した。
【0033】
アルケニルシランの好ましい形態は、mがゼロ、Xがアルコキシ基、及びR2が不存在か又は(C2−C3)アルキレンを表す場合である。
チオール―エン付加反応は反応剤の化学量論的量で実行することができる。非化学量論的量も採用することができる。一般に、過剰量のアルケニルシラン(II)が利用されチオール―エン付加の収率を最大化することができる。過剰のアルケニルシランがチオール―エン付加に用いられるとき、反応生成物は精製することができ、また前記反応混合物をそのまま加水分解に用いることができる。
加水分解ステップの追加は、本発明によると、1又はそれ以上のチオール―エン付加段階の反応からの分離段階か又はチオール―エン反応に加えて単一段階いわゆる「ワンポット反応」のいずれかにおいて実施することができる。本発明によると、加水分解は、加水分解生成物又は加水分解化合物の混合物を提供する。
【0034】
チオール―エン付加は、大気圧条件で実行することができる一方、不活性雰囲気が好ましい。チオール―エン付加は室温(通常20℃前後)で実行することができる。ある種の添加は発熱的であり、溶液を冷却することが好ましいことがある。
【0035】
当業者であれば、チオール―エン反応は種々の手法の1つによって開始することができることを知っている。反応を促進するために光開始剤を付加することができる。これまでの光開始剤の中で、以下のもの、すなわち、ベンゾフェノン、α−ヒドロキシアルキルフェニルケトンのようなアセトフェノン誘導体、ベンゾインアルキルエーテル、ベンジルケタール、モノアセチルホスフィンオキシド、ビスアセチルホスフィンオキシドを用いることができる。使用する際、光開始剤は、溶液の1重量%より少量、好ましくは0.05%より少量、さらにより好ましくは0.02%より少量である。光開始剤が反応速度を高めた場合、組成物の黄色化をも増大させるようになり、結局、ポリスルフィドポリシランの合成後の精製が必要となる。それ故、いかなる光開始剤も用いることなく、チオール―エン反応が実施されることが好ましい。
【0036】
いくつかの特別な場合に、溶液を任意用いることができる。そのような場合に、用いられる溶液は、一般に、チオール―エン付加とは相互作用しない。溶媒は、好ましくは、非プロトン性溶媒である。炭素二重結合のような不飽和を含む溶媒は、一般には、回避されるべきである。2つの反応剤(I)及び(II)が混和性でないとき、及び/又は、これらの2つの反応剤の1つが反応が起こる温度で固体であるときに、溶媒を用いることができる。任意に用いてもよい溶媒の例は、テトラヒドロフランである。
【0037】
したがって、本発明はまた、完全に又は部分的に、ポリスルフィドポリシラン(III)を加水分解する方法に関する。これは、ポリスルフィドポリシラン(III)と別の異なるポリスルフィドポリシラン(III)又は他のシラン、好ましくは、別の異なるポリスルフィドポリシラン(III)との混合物を、通常、酸性水溶液又は塩基性水溶液中で任意に加水分解することを含む。加水分解と縮合のステップを、より良好に制御し分離するために、加水分解にとっては酸性水溶液の使用が好ましい。この酸性溶液は、酸性水溶液(H2O中HCI)でもよい。論ぜられた様々な選択枝を有する加水分解から生じた生成物もまた、本発明の一部である。
【0038】
被覆層―ポリスルフィドポリシラン(III)は加水分解され、光学被覆層を形成することができる。加水分解前に、前記ポリスルフィドポリシラン(III)にGlymoのような別のポリスルフィドポリシラン又はシランを混合することができる。
【0039】
このように、本発明はまた、すでに記載したように、そこには、曝露するステップ(ii)に続いて、ポリスルフィドポリシラン(III)を、光学被覆層(IVa)を形成するための例えばHClの存在下の加水分解、好ましくは、酸性加水分解するステップ(iiia)をさらに含む方法に関する。
【0040】
このように、本発明はさらに、すでに記載したように、そこには、暴露するステップ(ii)に続いて、ポリスルフィドポリシラン(III)に、Glymo、別の異なるポリスルフィドポリシラン(III)、及び、それらの組合せからなる群から選択される別のシランを混合するステップと、混合物を、光学被覆層(IVb)形成するための加水分解(iiib)、好ましくは、酸性加水分解するステップと、をさらに含む方法に関する。
【0041】
したがって、加水分解前のGlymoなどのシランの任意添加、又は無機ナノ粒子の任意添加を伴う本発明の加水分解された生成物によって、高屈折率被覆層を形成することができる。
【0042】
加水分解及び被覆層製造は、当業者には周知の方法であり、例えば、米国特許第6,624,237号に記載されている。本発明による方法は、好ましくは光学被覆層(IVa)又は(IVb)の重量の20%から80%からなる、無機酸化物から製造されたナノ粒子を、光学被覆層(IVa)又は(IVb)に加えるステップをさらに含むことができる。このことは、一般に、1.59から1.67の範囲、又はそれ以上の屈折率を有する光学被覆層をもたらす。
【0043】
加水分解後には、例えば、コロイドが付加されてもよい。このコロイドはナノ粒子の源として用いられ、二酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化チタン、酸化ジルコニウム及びそのような無機酸化物の混合物から成る群から選択される無機酸化物を含むことができる。ナノ粒子を含む加水分解材料は、レンズなどの光学製品のための高屈折率硬質膜として用いることができる。
【0044】
前記ナノ粒子を構成する無機酸化物は、好ましくは、コロイド形態で加水分解生成物に付加される。無機酸化物は、基質中の安定分散状態及び/又は低い濁り水準を維持することが好ましく、それ故、このような粒子の平均サイズは、1から200ナノメートル、好ましくは、2から100ナノメートル、より好ましくは、5から50ナノメートルでよい。
【0045】
上記無機酸化物の例として、SiO2、AI23、SnO2、Sb25、Ta25、CeO2、La23、Fe23、ZnO、WO3、ZrO2、In23及びTiO2の単体又はそれらのうちの少なくとも2つの混合物によるものが含まれる。
【0046】
無機酸化物は、1.7から3.0の屈折率を有しており、より好ましくは、TiO2(屈折率:2.5−2.7)、SiO2(屈折率:1.5)、ZrO2(屈折率:2.2)、SnO2(屈折率:2.0)、Ce23(屈折率:2.2)、BaTiO3(屈折率:2.4)、AI23(屈折率:1.73)、及びY23(屈折率:1.92)からなる群から選択された2又はそれ以上の化合物を含む多成分酸化物でもよい。前記多成分酸化物は、それらの屈折率による適当な成分から構成されてもよく、より好ましくは、少なくとも、TiO2−ZrO2−SnO2、TiO2−ZrO2−SiO2及びTiO2−SnO2−SiO2の1つを用いることができる。本発明による好ましい多成分酸化物は、いずれもコアシェル構造を有するTiO2−ZrO2−SiO2複合体のOptolake 1120z(S−95−A8)(登録商標)及びOptolake 1130Z(S−7−A8)(登録商標)からなる群から選択される。
【0047】
本方法は、好ましくは、加水分解ステップ後に無機酸化物のナノ粒子形態でコロイドを付加することを含む。得られた加水分解された被覆層は、本発明により製造される1又はそれ以上のポリスルフィドポリシランを含むことができ、Glymo又は他のシランを含むことができ、及びコロイドを含むことができる。触媒又は溶媒を任意に被覆層に付加することができる。本用途は、浸漬被覆層、スピン被覆層、流し込み、吹き付け被覆層、噴霧被覆層及び他のレンズ被覆層技術を含む。浸漬被覆層及びスピン被覆層は、産業的に費用効果がよく好ましい技術である。レンズの前駆体(又はレンズ基板材料)に被覆層が施された後に硬化及び架橋し、固体の硬質膜を形成する。
【0048】
被覆層は、幅広い種類のレンズ基板材料(又は基材)に施される。基材は、ミネラルガラス、及び有機ガラス例えば、ポリカーボナート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエチレンテレフタラート及びポリカーボナートの共重合体、ポリオレフィン、ジエチレングリコールビス(アリルカーボナート)の単独重合体及び共重合体、メタクリル酸単量体の単独重合体及び共重合体、チオメタクリル酸単量体の単独重合体及び共重合体、ウレタンの単独重合体及び共重合体、チオウレタンの単独重合体及び共重合体、エポキシ単独重合体及び共重合体、並びにエピスルファー単独重合体及び共重合体から製造されるもの、から選ぶことができる。
【0049】
基材は、好ましくは、有機材料であり、より好ましくは有機レンズである。本発明の好ましい実施形態によると、基材は、眼科用レンズ、接眼バイザー、及び視覚光学システムから選択される光学ガラス又は光学レンズである。好ましい実施形態において、基材は、無限焦点、単焦点、二重焦点、三重焦点又は累進焦点レンズになる眼科用レンズである。眼科用レンズの各々は、透明で、耐日射性で、光互変異性でもよい。このような場合に、耐摩耗被覆層で塗布された基材は、反射防止被覆層及び最表膜などの被覆層を強化する古典的属性の保護皮膜をすることができる。反射防止被覆層及びそれらの製法は、当分野において周知である。完成光学製品において光学基材の最外層を構成する最表膜、典型的には疎水性最表膜は、完成光学製品の汚傷耐性を改善することを意図するものである。
【0050】
本発明による好ましい基材は、1.50を下回らない屈折率を有する透明基材であり、例えば、1.50の屈折率を有するポリカーボナート製のものを含む。さらには、多くの特許公報及び公開出願において、ガラスに代わる、ポリウレタン樹脂、メタクリル酸重合体、アクリル酸重合体及びそれらの組合せから製造されるレンズを含むプラスチックレンズ用に、数多くの樹脂が提案されている。例えば、ウレタン樹脂製レンズは、熱硬化性モノマーMR−6、MR−7及びMR−8(三井東圧株式会社から市販で入手可能)によって得られるものである。メタクリル酸重合体製レンズは、TS−26モノマー(株式会社トクヤマから市販で入手可能)のラジカル重合によって得られるものである。同様に、ウレタン反応及びビニル重合体を用いて得られるレンズは、ML−3単量体(三菱瓦斯化学株式会社から市販で入手可能)を重合することによって得られるものである。これらの樹脂の全ては、基材として用いることができる。
【0051】
被覆層はレンズの凸面又は凹面のいずれか又は両方に施すことができる。硬質膜は、好ましくは、約0.2ミクロン(μm)から約10ミクロン(μm)の乾燥最終厚みを有するべきである。レンズは、被覆層の施行前に下塗剤で処理されるか又は下塗剤に接触させるようにしてもよい。
【0052】
バルク材料―本発明はまた、上記したように、そこには、暴露するステップ(ii)に続いて、ポリスルフィドポリシラン(III)を加水分解するステップと、バルク材料(V)を形成するための加水分解材料を濃縮し加熱するステップと、をさらに含む方法に関する。
【0053】
より一般的に、本発明のポリスルフィドポリシラン(III)は、当業者には公知である方法において、本発明に含まれるバルク材料(すなわちレンズ基板材料又は基材)に変換される。
【0054】
好ましい実施形態においては、前記加水分解するステップ(iv)に続いて、方法は、金属キレート及びアミンを含む群から選択された触媒を付加するステップをさらに含む。
【0055】
バルク材料を形成するために、好ましくは、加水分解生成物は、例えば米国特許第6,624,237号に記載されているように、バルク材料(すなわちレンズ基板材材用の基材)として用いるのに適する高密度の透明材料をもたらすように注意深く制御された加熱するステップの間の気化と架橋とを含むゾル―ゲル方法による。一般に、当業者にとって、「濃縮」は「気化」と同様の意味を有する。ゾル―ゲル経路を用いてシランを基礎とする透明高密度ガラスを製造する典型的な方法は、以下のステップ、すなわち、
A)1又は複数のシリコンアルコキシドを含む溶液の完全な加水分解が、酸性水溶液を用いることによって、溶媒中又はアルコキシドの有機溶媒の混合物中で、実行されるステップと、
B)有機溶媒及び残留アルコールが除去され、そのことによって得られた溶液が、例えばケイ素原子の1−10モル/lの濃度を有する粘性ゾルを得るために、一次真空条件下で、蒸留によって濃縮されるステップと、
C)ゲル化、及び空気乾燥又は不活性雰囲気における乾燥が158°F(70℃)より低い温度で開始されるステップと、
D)ガラスが932°F(500℃)より低い温度で焼鈍されるようにするステップと
を含むことができる。
【0056】
バルク材料の製造は、当業者には周知であり、例えば特許文献5に記載されている。
【0057】
本明細書で用いる際には、用語ゾルは、水性又は有機性液体中で、微細に分配された固体無機酸化物の粒子のコロイド分散を意味し、含む。
【0058】
1つの実施形態において、ゾルは室温及び大気圧で2時間から数週間、好ましくは15時間かけてゆっくりと気化される。任意に、部分気化が減圧下で実施される。別の実施形態において、ゾル又はゲルは、104°Fから392°F(40℃から200℃)の間、好ましくは104°Fから266°F(70℃から130℃)の間の温度で、30分間から3週間、好ましくは4時間から72時間の間、加熱される。任意に、縮合触媒が、架橋工程を加速するために、加水分解された化合物に付加する。
【0059】
本発明によるバルク材料のRIは、一般に、少なくとも1.6の範囲、好ましくは1.63の範囲にある。このバルク材料は、一般に、高屈折率、優れた透過性及び低密度を特徴とする。
【0060】
本発明はまた、上で開示された方法によって得ることができる、好ましくは1.47から1.55の範囲にある屈折率を有するポリスルフィドポリシラン(III)を含む。
【0061】
本発明はまた、前記ポリスルフィドポリシラン(III)を加水分解することによって得られる光学被覆層(IVa,IVb)を含み、好ましくは、光学被覆層(IVa,IVb)は、好ましくは光学被覆層(IVa,IVb)の重量の20%及び80%の間の範囲にある、無機酸化物から製造されるナノ粒子を含む。
【0062】
本発明はまた、レンズ基板材料から製造された、又は、前記光学被覆層で塗布された光学製品、好ましくは光学レンズを含む。
本発明はまた、前記ポリスルフィドポリシラン(III)を加水分解し、濃縮し、さらに加熱することによって得られたバルク材料(V)を含む。
【0063】
本発明はまた、前記バルク材料(V)から製造された光学製品、好ましくは光学レンズを含む。
【実施例】
【0064】
本発明の方法は、ここで、以下の実施例を参照し、より詳細に論ぜられることになる。
【0065】
実施例1
3,3´−チオビス[2−[(2−メルカプトエチル)チオ]−1−プロパンチオール(MR10B)、及びビニルトリメトキシシラン(VTMOS)は初期混和を許容するテトラヒドロフラン(THF)溶媒と共に混合された。
【0066】
【化1】

3,3´−チオビス[2−[(2−メルカプトエチル)チオ]−l−プロパンチオール
【0067】
【化2】

ビニルトリメトキシシラン
【0068】
溶液は、バイアルに入れられ、UV照射に曝露された。これは、1つの化学量論的量の3,3´−チオビス[2−[(2−メルカプトエチル)チオ]−1− プロパンチオールすなわちMR10Bと、4つの化学量論的量のビニルトリメトキシシランすなわちVTMOSとを表す。いかなる触媒を付加することなく、UV下でチオール―エン付加が起こった。反応生成物は以下のようであった。
【0069】
【化3】

【0070】
重量で、13.23gのMR10B、12.45gのVTMOS、及び4.32gのTHFをガラスバイアル中で合わせておよそ30グラムの溶液を生成した。照射ステップは、4.95cm/sのコンベアベルトによるフュージョンUV源(H Bulb)下の5つの経路から構成された。得られたポリスルフィドポリシランは、1.546の屈折率を有していた。
【0071】
実施例2
重量で、35.65gのトリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセタート)及び44.47gのビニルトリメトキシシラン(VTMOS)がともに混合され、4.95cm/sのコンベアベルト上で、フュージョンUV源(H Bulb)下の5つの経路からなるUV照射に付された。UV照射量は強度3.401ワット/cm2で10.13J/cm2であった。溶媒は、VTMOSの混和に必要でなかったが、任意に用いることができた。得られた構造は、
【0072】
【化4】

であった。
【0073】
得られたポリスルフィドポリシランは、1.477の屈折率を有していた。
【0074】
実施例3
実施例2と同様の条件で、10gの2−メルカプトエチルスルフィドが19.22gのVTMOSと合わせて、以下の化合物を生成した。
【0075】
【化5】

化合物は、1.509の屈折率を有していた。
【0076】
実施例4
実施例2と同様の条件で、10gの3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオールが16.27gのVTMOSと合わせて、以下の化合物を生成した。
【0077】
【化6】

化合物は、1.460の屈折率を有していた。
【0078】
実施例5
実施例2と同様の条件で、2,30gのエチレングリコールビスチオールグリコラートが42.23gのVTMOSと合わせて、以下の化合物を生成した。
【0079】
【化7】

化合物は、1.475の屈折率を有していた。
【0080】
実施例6
実施例2と同様の条件で、35.65gのトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)が49.72gのVTMOSと合わせて、以下の化合物を生成した。
【0081】
【化8】

化合物は、1.480の屈折率を有していた。
【0082】
実施例7
実施例1で得られた生成物は、酸性水溶液(H2O中HCI 1N)で加水分解された。ゾル―ゲル方法が加熱ステップに続く制御された条件で生じ、透明材料をもたらした。2ステップの架橋段階は、室温での15時間、続く212°F(100℃)での3日間の第1ステップで構成された。得たられたバルク材料は、1.63の屈折率及び41のアッベ(Abbe)値を示した。これら2つの光学特性は、可視光の複数の波長で偏光解析及びブリュースター角定義(Metricon)によって測定された。この物質の密度は1.38である。従って、高屈折率バルク複合有機―無機材料は、様々なポリスルフィドポリシランを加水分解し、加熱し、そのことにより高架橋基質を生成することによって形成することができた。得られた基質は、光学的用途における使用、例えば、眼科使用のためのレンズに適していた。
実施例1から6において得られた様々なポリスルフィドポリシランが加水分解され、被覆剤を生成した。以下の実施例が、様々な種類のコロイドナノ粒子酸化物で調製された。
【0083】
被覆層実施例8
被覆層剤は、以下のように製造される。即ち、20.64グラムの前駆体2は41.21グラムのメタノールと混合され、混合物が透明になるまで撹拌された。4.6グラムのHCI/H2O(0.1N)は続いて1分かけて撹拌しながら加えられた。溶液が透明になったら、21.0グラムのメタノールが直ちに加えられた。続いて29.3グラムのコロイドOptolake 1130Z(S−7−A8)(登録商標)(触媒化成工業株式会社より)がゆっくり加えられ、続いて3.24グラムのメチルエチルケトンが加えられた。最後に0.01グラムの界面活性剤EFKA 3034が溶液に加えられた。
【0084】
被覆層実施例9‐13
製剤は実施例8と同様であるが、ポリスルフィドポリシラン及びコロイドが表1に従って変えられた。被覆層の各々は、加水分解前の重量で70%のポリスルフィドポリシラン、重量で30%のナノ粒子コロイド(触媒化成工業株式会社より)(コロイドの分散媒を除く)を基礎として製剤された。
被覆層溶液はさらに、スピン被覆層(500rpmで約5秒間、続いて750rpmで10秒間)によってMR−8(三井東圧化学株式会社より市販で入手可能)から製造されるレンズ上に溶着(deposited)された。一旦レンズ上に溶着されると、被覆層が212°F(100℃)で3時間かけて硬化された。
被覆層の各々は、コロイドなしで(同様の条件で硬化された)基質の屈折率(カラム5)と、ポリスルフィドシラン及びナノ粒子による被覆層の屈折率(カラム6)とによって、表1において報告されるように特徴付けられる。
いかなるポリスルフィドポリシラン及びコロイドの組み合わせも、一緒に用いることができ、表1は単に例示的な組み合わせの限られた数を提供するものと理解すべきである。
【0085】
【表1】

【0086】
被覆層実施例14、15
被覆層14及び15は、実施例8から13と同様の方法で製剤される。表2に報告されるように、実施例2のポリスルフィドポリシラン及び異なる供給業者からの様々なコロイドが用いられた。特定されない場合、供給業者は触媒化成工業株式会社である。
【0087】
被覆層8、9、14及び15は、バイエル摩耗試験によって特徴付けられた。ASTMバイエル耐摩耗測定は、ASTM F 735−81のような砂研摩器で振動試験前後で、塗布及び塗布されていないレンズの濁り割合を測定することによって決定された。研摩器は、Specially Ceramic Grainsによって供給された約500gの酸化アルミニウム(Al23)ZF 152412をともない、300回転で振動された濁りは、Pacific Scientificへ―ズ計モデルXL−211を用いて測定された。(最終―最初の)塗布されていないレンズの濁り割合は、より高い、高耐摩耗性を意味する、より高い比率を伴う被覆層性能の尺度である。
【0088】
【表2】

【0089】
様々な例は、加水分解されたポリスルフィドポリシラン材料が、コロイドとさらに合わされ、光学製品、例えば、眼科使用のためのレンズを被覆層にするのに適している高屈折率被覆層を形成できることを示したものである。本明細書で提供される被覆層は、より高い屈折率が望まれる場合に、Glymoの全部または一部に置換されているものである。
【0090】
一般に、より高い屈折率被覆層は、少なくとも以下の利点を提供する、すなわち、
高価な高屈折率コロイドの総使用量の低下、
1.5以上、好ましくは1.59以上、さらにより好ましくは1.67以上のるRIの提供、
同じ屈折率に対しての、より低い屈折率及びより安価なコロイドの使用、
所与の屈折率に必要なナノ粒子の少量化による濁りの低減、及び
基質と高屈折率ナノ粒子の間の屈折率の明暗を低下させることによる濁りの低減、
である。
【0091】
結論としては、チオール―エン付加反応に続いて組合される、記載され示された2つの種類の反応があり、得られたポリスルフィドポリシラン(III)は、高い透過性を有する複合の有機―無機材料と特徴付けられる。複合材料は、通常、例えば、良好な機械特性を備えた低濁りなどの優れた光学特性と一体のものである。
本発明の実例となる実施形態を記載したが、本発明はそれらの正確な実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲及び意図を逸脱することのない当業者による種々の他の変化及び改変に及ぶことを理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)
1)一般式、
(HS)−R−(SH)n(I)
[式中、
nは1から5からなる整数、及び
Rは、
アリーレン、
ヘテロアリーレン、
及び直鎖若しくは分岐鎖の(C2−C30)アルキレン(ここでは、1から10の炭素原子は、(CO)、(SO2)、R4が水素原子又は直鎖若しくは分岐鎖の(C1−C6)アルキルを表すNR4、O、S、又はPから選択される基によって置換されてよく、及び/又は、アルキレン基の各々は、ヒドロキシル、カルボニル、アリール、及びヘテロアリールから選択される基によって任意に置換されてよい)
から選択される基である]
で表されるポリチオール(I)、及び
2)一般式
(R1)m(3-m)Si−R2−R3
[式中、
1は、R6が水素原子又は直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルキルを表すNR6、O、S、又はPから選択される1から5のヘテロ原子を任意に含む、及び/又は、アルキル基の各々は、ヒドロキシル、カルボニル、及び(C1−C6)アルコキシから選択される基によって任意に置換されてよい、直鎖若しくは分岐鎖(C1−C10)アルキル基、
Xは、ハロゲン原子、及び、−OR5(ここでは、R5は、(C3−C10)シクロアルキル、(C3−C10)ヘテロシクロアルキル、及び、R7が水素原子又は直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルキルを表すNR7、O、Sからなる群から選択される1から3のヘテロ原子を含むことができる直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルキル、及び/又は、アルキル基の各々は、直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルコキシ、カルボキシ、及びヒドロキシで置換されてよいものから選択された基を表す)、から選択された基、
mは0から2を含む整数、
2は、不存在か又は、直鎖若しくは分岐鎖(C2−C10)アルキレン(ここでは、1から4の炭素原子は、(CO)、R8が水素原子又は直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルキルを表すNR8、O、又はSから選択される基で置換されてもよく、及び/又は、アルキレン基の各々は、直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルコキシ、カルボキシ、及びヒドロキシから選択される基によって任意に置換されてよいもの)から選択された基で表されるもの、
3は、各々が直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルキル、直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)アルコキシ、直鎖若しくは分岐鎖(C1−C6)チオアルコキシ、カルボキシ、チオ、及びヒドロキシルから選択される基によって任意に置換されてよい基である、直鎖若しくは分岐鎖(C2−C10)アルケニル、(C4−C10)シクロアルケニル、及び(C4−C10)ヘテロシクロアルケニルから選択された基で表されるもの]
で表されるアルケニルシラン(II)
を、混合して溶液を得るステップと、
(ii) UV照射又は熱、好ましくはUV照射に前記溶液を曝露し、チオール―エン付加を行い、それによりポリスルフィドポリシラン(III)を製造するステップと
からなる、
ポリスルフィドポリシラン(III)を合成するための方法。
【請求項2】
ポリチオール(I)が2から4のチオール基を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリチオール(I)において、Rが1から20の炭素原子を含み、R基にヘテロ原子が存在するときに、それが硫黄原子であることを特徴とする請求項1又は請求項2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
ポリチオール(I)において、C原子に対するS原子(nS/nC)の割合が、少なくとも4分の1、好ましくは少なくとも2分の1、より好ましくは少なくとも10分の7であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ポリチオール(I)が、
1,2−エタンジチオール;1,3−プロパンジチオール;1,4−ブタンジチオール;1,2−ブタンジチオール;1,5−ペンタンジチオール;1,6−ヘキサンジチオール;1,8−オクタンジチオール;2,2´−オキシジエタンチオール;3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール;エチレングリコールビスチオール−グリコラート;dl−1,4−ジチオスレイトール;2,2´−チオジエタンチオール;ビス(2−メルカプトエチル)スルホン;2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール;5−({2−[(5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール−2−イル)チオ]エチル}チオ)−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール;ペンタエリスリトールテトラ(2−メルカプトアセタート);トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート);トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセタート);1,4−ベンゼンジチオール;1,3−ベンゼンジチオール;3,4−ジメルカプトトルエン;1,4−ベンゼンジメタンチオール;1,3−ベンゼンジメタンチオール;1,6−ジ(メタンチオール)−3,4−ジメチル−フェニル;[3−(メルカプトメチル)−2,4,6−トリメチルフェニル]メタンチオール;1,5−ジメルカプトナフタレン;3,3´−チオビス[2−[(2−メルカプトエチル)チオ]−1−プロパンチオール;5−[3−(5−メルカプト−1,3,4−オキサジアゾール−2−イル)プロピル]−1,3,4−オキサジアゾール−2−チオール;2−メルカプトエチルスルフィド;1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリチオン、及び2,3−ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−1−プロパンチオール、好ましくは、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセタート)、2−メルカプトエチルスルフィド、3,6−ジオキサ−1,8−オクタンジチオール、エチレングリコールビスチオール−グリコラート、3,3´−チオビス[2−[(2−メルカプトエチル)チオ]−1−プロパンチオール及びトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)、更により好ましくは3,3´−チオビス[2−[(2−メルカプトエチル)チオ]−1−プロパンチオール及びトリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセタート)
を含む群より選択されることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかに記載の方法。
【請求項6】
アルケニルシラン(II)において、mがゼロ、Xがアルコキシ基、及びR2が不存在か又は、(C2−C3)アルキレン基を表すことを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかに記載の方法。
【請求項7】
アルケニルシラン(II)が、
ビニルフェニルメチルメトキシシラン、ビニルフェニルメチルクロロシラン、ビニルフェニルジエトキシシラン、ビニルフェニルジクロロシラン、10−ウンデセニルトリメトキシシラン、10−ウンデセニルトリクロロシラン、10−ウンデセニルジメチルクロロシラン、7−オクテニルトリメトキシシラン、7−オクテニルトリクロロシラン、7−オクテニルジメチルクロロシラン、アリルトリメトキシシラン、アリルトリエトキシシラン、アリルトリクロロシラン、リルフェニルジクロロシラン、アリルオキシウンデシルトリメトキシシラン、アリルメチルジクロロシラン、アリルジメチルクロロシラン、アリルジメトキシシラン、アリルジクロロシラン、アリル(クロロプロピル)ジクロロシラン、アリル(クロロメチル)ジメチルシラン、3−(n−アリルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、ブテニルトリエトキシシラン、ブテニルメチルジクロロシラン、5−ヘキセニルトリクロロシラン、5−ヘキセニルジメチルクロロシラン、ヘキセニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリス(メトキシプロポキシ)シラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ−t−ブトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルオクチルジクロロシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、S−シクロヘキセニルトリクロロシラン、[2−(3−シクロヘキセニル)エチル]トリエトキシシラン、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリラート、好ましくはビニルトリメトキシシラン
を含む群から選択されることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかに記載の方法。
【請求項8】
曝露するステップ(ii)に続いて、ポリスルフィドポリシラン(III)を、加水分解、好ましくは酸性加水分解するステップ(iiia)をさらに含む、光学被覆層(IVa)を形成するようにしたことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の方法。
【請求項9】
曝露するステップ(ii)に続いて、
ポリスルフィドポリシラン(III)に、Glymo、別の異なるポリスルフィドポリシラン(III)及びそれらの組合せからなる群から選択された別のシランを混合するステップと、
前記混合物を、加水分解(iiib)、好ましくは、酸性加水分解するステップと、
をさらに含む、
光学被覆層(IVb)形成するようにしたことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の方法。
【請求項10】
加水分解するステップ(iiia)又は(iiib)に続いて、無機酸化物から製造される、好ましくは光学被覆層(IVa)又は(IVb)の重量の20%から80%に含まれることになるナノ粒子を前記光学被覆層(IVa)又は(IVb)に付加えるステップをさらに含むことを特徴とする請求項8又は請求項9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
曝露するステップ(ii)に続いて、
ポリスルフィドポリシラン(III)を加水分解するステップ(iv)と、
前記加水分解された材料を濃縮し、さらに加熱するステップと
を含む、
バルク材料(V)を形成するようにしたことを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかに記載の方法。
【請求項12】
加水分解する前記ステップ(iv)に続いて、金属キレート及びアミンを含む群から選択された触媒を付加するステップをさらに含むことを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
好ましくは1.47から1.55の範囲にある屈折率を有する、請求項1から請求項12までのいずれかに記載の方法によって得ることができるポリスルフィドポリシラン(III)。
【請求項14】
好ましくは前記光学被覆層(IVa,IVb)がその重量の20%から80%の間の範囲にある無機酸化物から製造されるナノ粒子を含むことを特徴とする、請求項13に記載のポリスルフィドポリシラン(III)を加水分解することによって得られる光学被覆層(IVa,IVb)。
【請求項15】
請求項14に記載のポリスルフィドポリシラン(III)を加水分解し、濃縮し、さらに加熱することによって得られるバルク材料(V)。
【請求項16】
レンズ基板材料から製造され、請求項14に記載の光学被覆層によって塗布された、好ましくは光学レンズの光学製品。
【請求項17】
請求項15に記載のバルク材料(V)より製造された、好ましくは光学レンズの光学製品。

【公表番号】特表2011−522068(P2011−522068A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509030(P2011−509030)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【国際出願番号】PCT/IB2009/005574
【国際公開番号】WO2009/138853
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(591019759)エシロール アンテルナショナル コムパニー ジェネラル ドプテイク (27)
【Fターム(参考)】