説明

高度に濃縮された、凍結乾燥された、および液体の、因子IX処方

【課題】新規組成物ならびに保存および投与に適した、高度に濃縮された、液体の、および凍結乾燥された、因子IX調合物の提供。
【解決手段】因子IXおよびアルギニンを含む組成物、より詳細には、約0.1mg/mlないし160mg/mlの因子IX、グリシン、界面活性剤、ならびに緩衝化剤および凍結保護剤からなる群より選択されるメンバーを含む組成物によって、濃縮プロセスおよび凍結乾燥プロセスの間の因子IX蛋白の安定性が向上し、活性レベルを維持でき、ならびに2ないし8℃で1年以上の長期保存中において安定な処方。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
一般的には、本発明は、因子IXを含有する新規処方に関し、該処方としては、高度に濃縮された、凍結乾燥された、および液体の、因子IX含有処方が挙げられ、それらは、例えば静脈、皮下および皮内のごとき経路を包含する種々の経路による投与に適する。
【背景技術】
【0002】
血漿糖蛋白である因子IXを包含する血液凝固プロセスに関与する種々の因子が同定されている。因子IX欠乏は血友病の1のタイプ(B型)を特徴づける。伝統的には、この疾患の治療はヒト・血漿由来の因子IXの蛋白濃縮物の静脈輸液を用いる。血液濃縮物の輸液は、ウイルス性肝炎およびHIVのごとき種々の感染源、または血栓閉塞因子の伝達の危険性を包含している。組み換えDNA法により因子IXを製造する別の方法が特許文献1に記載されている。ヒト因子IXをコードしているcDNAが単離され、特徴づけられ、発現ベクター中にクローン化されている。例えば、非特許文献1〜3参照。よって、組み換えDNA法の進歩により、因子IX蛋白を製造することが可能となった。
【0003】
保存および送達の両方に適したバルクおよび最終の両形態の因子IXを得ることが望ましい。典型的には、蛋白精製プロセスは蛋白の濃縮を引き起こす。バルク蛋白としても知られるこの濃縮された蛋白は処方緩衝化剤中にあってもよい。次いで、典型的には約2ないし少なくとも20mg/mlの濃度のバルク蛋白を充填/仕上げ設備へと凍結輸送することができ、そこで適当な投与濃度に希釈され、投与用バイアルまたは投与に適したデバイス、例えばプレフィル可能(pre-fillable)シリンジに入れられる。理想的には、薬剤製品を液体状態のままとし、保存し、次いで、液体として投与する。別法として、薬剤製品を凍結乾燥、すなわちフリーズドライする。理想的には、凍結乾燥薬剤製品は十分な安定性を有し、長期保存、すなわち6カ月以上保存される。後に、患者への使用直前に適当な投与希釈剤を添加することにより凍結乾燥薬剤製品を復元する。
【0004】
最終薬剤製品を液体のままとするか、あるいはフリーズドライするかの決定は、通常には、これらの形態となった蛋白薬剤の安定性による。蛋白安定性は、特に、イオン強度、pH、温度、凍結/融解サイクルの繰り返し、および剪断力への曝露のごとき因子により影響されうる。変性および凝集(可溶性および不溶性凝集物双方の生成)を包含する物理的不安定性ならびに化学的不安定性、例えば、加水分解、脱アミノ化および酸化の結果(少しの例を挙げたにすぎない)として活性蛋白は消失しうる。蛋白薬剤の安定性の一般的総説としては、例えば、非特許文献4参照。
【0005】
蛋白不安定性の生じうる発生は広く認識されているが、特定の蛋白の特定の不安定性の問題を予想することは不可能である。これらの不安定性のいずれもが、より低い活性、増大した毒性および/または増大した免疫原性を有する蛋白、蛋白副産物、または誘導体の生成を引き起こす可能性がある。実際、蛋白沈殿は、血栓症、剤型および用量の不均一性、ならびに注射器の詰まりを引き起こす。さらに、因子IXに特異的な数種の翻訳後修飾(例えば、N−末端のあるグルタミン酸残基のガンマカルボキシル化および糖鎖付加)があり、それらは生物学的活性の維持において重要である可能性があり、貯蔵による変化に影響されうる。よって、いずれの蛋白の医薬処方の安全性および有効性も、その安定性に直接関係している。液体剤形における安定性の維持は、分子運動の可能性が著しく増大しているため、一般的には、凍結乾燥剤形とは異なり、それゆえ、分子相互作用の可能性が増大している。高い蛋白濃度においては凝集体を形成する傾向があるので、高度に濃縮された形態における安定性の維持もまた異なるものである。
【0006】
液体処方を開発する場合、多くの要因を考慮する。短期間、すなわち6カ月未満では、一般的には液体の安定性は大きな構造変化、例えば変性および凝集を回避することにかかっている。これらの方法は蛋白に関する多くの文献に記載されており、安定化剤の多くの例がある(非特許文献5〜9参照)。1の蛋白を実際に安定化するのに効果的な作用剤は別の蛋白を脱安定化するように作用することがよく知られている。大きな構造変化に対して蛋白が安定化された場合、長期安定性(例えば、6カ月以上)のある液体処方の開発は、当該蛋白に特異的なタイプの分解からさらに安定化することにかかっている。より特別なタイプの分解としては、例えば、ジスルフィド結合乱雑化、オリゴ糖および/または特定残基の酸化、脱アミド化、環化等が挙げられる。個々の分解種を特定することは常に可能であるとは限らないが、微妙な変化をモニターして目的蛋白を特異的に安定化する賦形剤の能力をモニターするためのアッセイが開発されている。
【0007】
安定性の考慮のほかに、一般的には、種々の世界的な医薬の規制機関の是認を得ているかまたは得るであろう賦形剤を選択する。処方がほぼ等張であり、処方のpHが注射/輸液時に生理学的に適当な範囲であることが非常に望ましく、さもなくば、患者に痛みおよび不快感を与えるかもしれない。使用バッファーの選択および量は所望pH範囲とするのに重要である。等張性を調節するために使用する作用剤の選択および量は、投与の簡便性を確立するのに重要である。
【0008】
伝統的には、因子IXのごとき大型の不安定な蛋白は、予防的にまたは出血に対応して静脈から投与される。静脈から投与されると、蛋白は血流中で直接利用可能である。不幸なことに、特に高齢者においては閉塞および/またはフィブリン形成をはじめとする繰り返し注射に関連する副作用が存在しうる。そのうえ、患者の静脈が特に細い場合、例えば小児においては必要な治療用量を達成することが困難でありうる。
【0009】
現在、キャリヤ蛋白不含で血漿由来である2種の市販の因子IX処方がある。アルファ・セラピューティク・コーポレイション(Alpha Therapeutic corporation)は凍結乾燥したAlphaNine(登録商標)SDを提供しており、ヘパリン、デキストロース、ポリソルベート80、およびトリ(n−ブチル)ホスフェートを含む。この調合物は2ないし8℃の温度に保存される。上記のごとく、ヘパリンは抗−凝血剤であるのでヘパリンが避けられ、トリ(n−ブチル)ホスフェートは粘膜を刺激するので、この処方は理想的とはいえない。アーマー・ファーマシューティカル・カンパニー(Armour Pharmaceutical Company)の凍結乾燥されたMononin(登録商標)はヒスチジン、塩化ナトリウムおよびマンニトールを含み、同様に2ないし8℃に保存される。包装に添付された説明書には該処方を室温で1カ月以上保存しないよう書かれている。液体の因子IX製品ならびに高度に濃縮された因子IX製品は現在市販されていない。SchwinnのPCT/EP90/02238には、因子IX、0.9Mサッカロース、0.5Mリジン、および0.003M塩化カルシウムが開示されているが、4〜8℃においてわずか数週間しか安定でなく、それゆえ、市販のための製造には不適である。不幸なことに、この処方は高張であり、pHは快適な投与の範囲外であり、それゆえ、注射に不適である。
【0010】
皮下、筋肉内または皮内投与のごとき投与形態が患者にとり簡便である。因子IXの皮下投与は非特許文献10および特許文献2に記載されている。Berrettiniの文献においては免疫製品が用いられた。すなわち、ImmunineTM、因子IX、ヘパリン、クエン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、および118U/mgの濃度のアンチスロンビンIIIが用いられた。その製品は循環系中に輸送されにくく、輸送されてもゆっくりであると報告され、その著者は、皮下注射は血友病Bの患者の出血の治療または予防には信頼性がなく、より濃縮された形態でさえも臨床的効能に関して許容できないものであると結論した。Brownlee(上記文献)には、10〜500U/mlの濃度のMononineTM因子IX処方が開示されている。低い循環レベルしか得られず、その9頁には、4時間後には因子IX注射部位の両側の皮膚に大きなクロットが形成され、重症の傷が生じたと記載されている。そのようなことは、不純な製品を用いた場合に観察される。
【0011】
血友病Bのイヌ(非特許文献11)および1人の血友病B患者(非特許文献12)において、血漿由来の因子IX(pFIX)が皮下投与された(イヌにおいては15〜47U/kgの用量、患者においては30U/kgの用量)。これにより、イヌにおける血漿因子IXは用量依存的であり、0.8ないし7.6%の範囲であり、筋肉内投与が高レベルとなった。血友病患者においては、血漿因子IX活性は6時間以内に1%に達しただけであり、この活性レベルは36時間持続した。低濃度の血漿由来の因子IXは複数部位(10箇所)に大体積注射を必要とした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,770,999号
【特許文献2】WO93/07860
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Choo et al., Nature, 299:178-180 (1982)
【非特許文献2】Fair et al., Blood 64:194-204 (1984)
【非特許文献3】Kurachi et al., Proc. Natl. Acad. Sci, USA, 79:6461-6464 (1982)
【非特許文献4】Manning, et al., Pharmaceutical Research, 6:903-918 (1989)
【非特許文献5】"Strategies to Suppress Aggregation of Recombinant Keratinocyte Growth Factor during Liquid Formulation Development", B. L. Chen et al., J. Pharm. Sci. 83(12):1657-1661 (1994)
【非特許文献6】"Formulation Design of Acidic Fibroblast Growth Factor", P. K. Tsai et al., Pharm. Res. 10(5):649-659 (1993)
【非特許文献7】"The Stabilization of Beta-Lactoglobulin by Glycne and NaCl", Tsutomu Arakawa, Biopolymers 28:1397-1401 (1989)
【非特許文献8】"Structural stability of lipase from wheat germ", A. N. Rajashwara and V. Prakash, Internat. J. of Peptide & Prot. Res. 44:435-440 (1994)
【非特許文献9】"Thermal Stability of Human Immunoglobulins with Sorbitol", M. Ganzalez et al., Vox Sang 68:1-4 (1995)
【非特許文献10】Berrettini, Am. J. Haematol. 47:61(1994)
【非特許文献11】Brinkhous, et al., FASEB 7:117 (1993)
【非特許文献12】Liles, et al., Thromb. Haemost. 73:1986a (1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
適当な皮下投与処方を処方することに関連する1の大きな問題は、蛋白を凝集させることなく、そして処方中に不純物を濃縮することなく、十分高い蛋白濃度を達成することである。凝集物形成および不純物はともに免疫原性を増大させる。現在利用可能な製品を用いて適当用量の因子IXを皮下投与するには、複数注射部位の利用を必要とする。このことは、患者を大いに不愉快にし、患者にとり不便である。因子IXを皮下投与で実際に送達するには、因子IXを少なくとも1000U/mlまたはそれ以上にまで濃縮し、それを安定な非凝集剤形として提供することが必要である。かかる濃縮形態は現在利用できない。
【0015】
理想的には、処方は、1年以上の因子IXの安定性および広範な蛋白濃度(例えば、0.1mg/mlないし160mg/ml以上、すなわち、20Umlないし56000U/ml以上)における適合性を与えるべきである。このことにより投与方法に多様性が生じ、例えば高い蛋白濃度を必要としうる皮下、皮内、または筋肉内投与、あるいは低い蛋白濃度を用いることのある静脈内投与が可能となる。一般的には、より高濃度の形態は小体積投与を可能にし、患者の観点から非常に望ましい。投与および使用に関して、液体処方はと輸血乾燥処方と比べて多くの利点を有する。したがって、濃縮プロセスおよび凍結乾燥プロセスの間の因子IX蛋白の安定性を向上させ、活性レベルを維持する方法、ならびに2ないし8℃で1年以上の長期保存中において安定な処方を提供する方法に対する必要性が当該分野において存在する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の1の態様は、新規組成物、ならびにバルク蛋白として有用あるいは投与に有用な、高度に濃縮された、凍結乾燥された、および液体の、因子IX調合物の提供方法を提供する。これらの組成物は、凍結されているかまたは液体であり、少なくとも6カ月、好ましくは36ないし60カ月安定である。そして、−100℃ないし40℃、−80℃ないし0℃、および−20℃ないし10℃の範囲で保存可能である。本発明組成物は因子IX、浸透圧調節剤、凍結保護剤、よび所望により緩衝化剤および/またはさらに因子IXを安定化する他の賦形剤を含む。因子IXの濃度は約0.1ないし約160mg/ml(約20ないし少なくとも56000U/mlと等価)であり、1ないし160mg/ml(250ないし56000U/ml)および0.1ないし10mg/ml(25ないし2500U/ml)が好ましく、最も好ましい範囲は投与経路による。浸透圧調節剤は、塩類、糖類、ポリオール類、およびアミノ酸類を包含するが、これらに限らない。適当なアミノ酸は、約10ないし500mMの濃度のアルギニン、グリシンおよびヒスチジンを包含し、約10ないし300mMおよび約10ないし200mMの濃度のものが好ましい。適当な凍結保護剤は、ポリオール類、例えばマンニトールおよびスクロースを包含し、約1ないし400mMの濃度範囲であり、約5ないし200mMおよび20ないし100mMが好ましい。組成物は、ポリソルベート(例えばツイン)またはポリエチレングリコール(PEG)のごとき界面活性剤またはデタージェントを含有していてもよく、それらは凍結中の凍結保護剤としても役立ちうる。界面活性剤は約0.005ないし1%の範囲であり、約0.005ないし0.1%および約0.005ないし0.02%が好ましい。組成物は、生理学的に適当なpH、例えば約5.8ないし8.0の範囲、好ましくは約6.2ないし7.2および6.5ないし7.0の範囲を維持するために適当な緩衝化剤を含有していてもよい。好ましくは、緩衝化剤は、ヒスチジン、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、マレイン酸酢酸アンモニウム、トリス、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、およびジエタノールアミンを包含するが、クエン酸ナトリウム/カリウムが好ましく、好ましいpHは約6.5ないし7.5であり、濃度範囲は約1〜100mMであり、5ないし50mMおよび10ないし25mMが好ましい。少量のEDTAのごときキレート剤を含めてもよく、その濃度は0.05ないし50mM、または0.05ないし10mM、または0.1ないし5mMであり、約1ないし5mMが好ましい。
【0017】
本発明のもう1つの態様は、最終剤形における投与、例えば静脈内、皮下、皮内、または筋肉内経路の投与に適した因子IX処方を提供する。典型的には、大量のバルク薬剤を凍結し、必要ならば、バルク薬剤を小型バイアル中に入れる製造所に輸送することができる。所望ならば、最終剤形を、希釈されpHを調節された形態とすることができる。典型的には、バルク薬剤は、最終薬剤よりも高濃度の蛋白を含み、等張である必要はない。最終薬剤は、上記のごとく因子IX、浸透圧調節剤、凍結保護剤および所望により緩衝化剤および/または因子IXをさらに安定化する他の賦形剤を含む。最終薬剤処方は少なくとも6カ月、好ましくは36ないし60カ月安定で、−100℃ないし40℃、−20℃ないし37℃、および2℃ないし8℃の範囲の温度で保存可能である。賦形剤の濃度は約250ないし420ミリオスモラルの複合浸透圧を生じる。好ましい処方は、約0.1ないし160mg/ml以上(20U/mlないし56000U/ml以上)の濃度の因子IX、緩衝化剤としてクエン酸ナトリウム、凍結保護剤および浸透圧調節剤としてマンニトール、スクロース、およびグリシンのいくぶんかの混合物、およびEDTA(約1ないし5mM)のごときキレート剤および/または少量のポリソルベート(0.005%ないし0.02%)を含む。他の好ましい処方は、因子IX(0.1ないし160mg/ml以上)、グリシン、界面活性剤および/またはバッファー(例えば、ヒスチジン)および/または凍結保護剤(例えば、ポリソルベート)を含む。
【0018】
静脈内および皮下経路の両方(例えば、静脈内投与、次いで、皮下投与)を用いる、高度に濃縮された因子IXの投与方法も本発明により提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、因子IXを含有する新規処方に関し、該処方としては、高度に濃縮された、凍結乾燥された、および液体の、因子IX含有処方が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書で用いる「因子IX」は、血漿由来のものおよび組み換えもしくは合成的に製造されたものの両方を包含する。因子IX濃度は、便利には、mg/mlまたはU/mlで表し、通常には、1mgは >150U±100Uまたはそれより大である。活性1ユニットは、正常ヒト血漿1ミリリットル中の因子IXクロッティング活性量と定義される。比活性は蛋白濃度に対するクロッティング活性濃度の割合であり、U/mg蛋白で表される。一般的には、血友病患者は、正常ヒト血漿において見いだされる活性の <1ないし25%の因子IXクロッティング活性を有する。
【0021】
本明細書で用いる「特定された量」は、±約10%、例えば、約50mMは50mM±5mMを包含し、例えば、4%は4%±0.4%を包含する等である。
【0022】
本明細書の用語「浸透圧調節剤」は、溶液の浸透圧に影響する作用剤を包含する。浸透圧調節剤の例は、アルギニン、ヒスチジン、およびグリシンのごときアミノ酸類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、およびクエン酸ナトリウムのごとき塩類、およびスクロース、グルコース、およびマンニトールのごとき糖類などを包含するが、これらに限らない。
【0023】
用語「凍結保護剤」は、一般的には、凍結乾燥によるストレスに対する安定性を蛋白に付与する作用剤を包含するが、凍結保護剤は一般的な安定性も付与することもあり、例えば、保存中において凍結乾燥によらないストレスからバルク薬剤を保護することもある。典型的な凍結保護剤は、ポリオ−ル類、およびマンニトールおよびスクロースのごとき糖類、ならびにポリソルベート、またはポリエチレングリコールのごとき界面活性剤等を包含する。凍結保護剤の好ましい濃度は約0.2ないし4%(重量/体積)の範囲であるが、比較的高濃度、例えば5%以上も適当である。使用レベルは臨床的慣例によって制限される。バルク薬剤の上限濃度は最終投与濃度よりも高くてもよく、例えば、5%以上であってもよい。「界面活性剤」は、一般的には、気/液界面により誘導されるストレスおよび液/表面により誘導されるストレス(例えば、蛋白凝集物を生じる)から蛋白を保護する作用剤を包含し、例えば約0.005ないし1%(体積/体積)のポリソルベート−80(ツイン)、または例えばPEG8000のごときポリエチレングリコール(PEG)のごときデタージェントを包含しうる。蛋白安定性を維持するためには比較的高濃度、例えば0.5%までが適当である。しかしながら、実際の使用レベルは臨床的慣例により制限される。
【0024】
用語「緩衝化剤」は、凍結乾燥前に溶液のpHを許容範囲に維持する薬剤を包含し、ヒスチジン、リン酸塩(ナトリウムまたはカリウム塩)、トリス(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、ジエタノールアミン等を包含しうる。一般的には、濃度上限は、容易に当業者に理解されるように、「バルク」蛋白については「投与」蛋白形態よりも高い。例えば、緩衝剤濃度は、数ミリモラーないしその溶解度の上限までであってよく、例えば、ヒスチジンは200mM程度であってよく、当業者は、適切な生理学的適当濃度の達成/維持を考慮するであろう。パーセンテージは、固体をいう場合には重量/重量であり、混合されて溶液となっている液体をいう場合には重量/体積である。例えば、スクロースについては乾燥重量スクロース/溶液体積であり、ツインについては100%ストックの体積/溶液の体積である。用語「等張」、300±50mOsMは、凍結乾燥前の蛋白溶液の浸透圧の測定値を意味する。生理学的浸透圧の維持は、前希釈を行わない注射可能な投与処方について重要である。しかしながら、バルク処方については、使用前に溶液が等張にされる限り、より高濃度が有効に用いられうる。用語「賦形剤」は、良好な凍結乾燥ケーク特性を与える医薬上許容される薬剤(増量剤)、ならびに蛋白の乾燥保護および凍結保護を行い、pHの維持を行い、生物学的活性(蛋白安定性)の実質的保持を維持しておくために貯蔵中に蛋白の正しいコンホーメーションを提供する薬剤を包含する。
【0025】
下記実施例は本発明の実施を説明する。これらの実施例は説明のためだけのものであり、権利請求された本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施例1はクロッティング活性に対するカルシウム添加およびpHの影響を説明する。実施例2は高分子量凝集物(HMW)の形成に対する個々の緩衝化剤の影響を説明する。実施例3は高濃度の因子IXに関する本発明の使用を説明する。実施例4は因子IXの安定化における賦形剤相互作用の複雑性を説明する。実施例5は凍結/融解安定性に関連して、種々の処方中の因子IXについて説明する。実施例6は長期間保存の影響を説明し、実施例7および8は高度に濃縮された形態およびそれらの使用を説明する。
【実施例1】
【0026】
実施例1−カルシウムイオンの影響
組み換え因子IXの製造はUSPN4770999(Kaufmanら)に記載されている。1の適当な精製方法はHrinda, et al., Preclinical Studies of a Monoclonal Antibody-Purified Factor IX, MononineTM Seminars in Hematology, 28(3):6 (July 1991)に記載されている。他の製造方法は、Tharakan, et al., "Physical and biochemical properties of five commercial resins for immunoaffinity purification of factor IX." Journal of Chromatography 595:103-111 (1992);およびLiebman, et al., "Immunoaffinity purification of factor IX (Christmas factor) by using conformation-specific antibodies directed against the factor IX-metal complex." Proc. Nat. Acad. Sci., USA 82:3879-3883により記載されたコンホーメーション特異的モノクローナル抗体の使用、ならびに例えばHashimoto, et al., "A Method for Systematic Purification from Bovine Plasma of Six Vitamin K-Dependent Coagulation Factors: Prothrombin, Factor X, Factor IX, Protein C, and Protein Z."J. Biochem. 97:1347-1355 (1985)およびBajaj, P. et al. Prep. Biochem. 11:397 (1981) "Large-scale preparation and biochemical characterization of a new high purity factor IX concentrate prepared by metal chelate affinity chromatography", P.A. Feldman et a., Blood Coagulation and Fibrinolysis 5:939-948 (1994)により記載された慣用的なクロマトグラフィー法を包含する。さらにもう1つの精製方法は1995年6月7日出願のUSSN08/472823に記載されており、参照により本明細書に記載されているものとみなす。
【0027】
十分に特徴づけられた因子IXの特性はCa2+イオン結合能である。構造の研究は、Ca2+結合はより安定な構造を付与し、分子が動く可能性を減少させることを示している("Structure of the Metal-free γ-Carboxyglutamic Acid-rich Membrane Binding Region of Factor IX by two-dimensional NMR Spectroscopy", S. J. Freedman, B. C. Furie, B. Furie, and J. D. Baleja, J. Biol. Chem. 270(14):7980-7987 (1995); "Structure of the Calcium Ion-Bound γ-Carboxyglutamic Acid-rich Domain of Factor IX," S. J. Freedman B. C. Furie, B. Furie, and J. D. Baleja, Biochemistry 34:12126-12137 (1994); "The Structure of a Ca2+-Binding Epidermal Growth Factor-like Domain: Its Role in Protein-Protein Interactions", S. Rao, P. Handford, M. Mayhew, V. Knott, G. Brownlee, and D. Stuart, Cell 82:131-141 (1995); "Structure of Ca2+ Prothrombin Fragment 1 Including the Conformation of the Gla Domain", M. Soriano-Garcia, C. H. Park, A. Tulinsky, K. G. Ravichandran, and E. Skrzypczak-Jankun, Biochem. 28:6805-6810 (1989))。おそらく、より低い可動性はより低い分子相互作用性と符号しており、それゆえ、分解プロセスの可能性が減少するのであろう。驚くべきことに、このことは真相ではないことが明かとなる。
【0028】
下表1に示す処方に試料を調製する。組み換え因子IX濃度〜0.5mg/ml(100U/ml)、浸透圧300±50ミリオスモラル。すべての試料は組み換え形態の因子IXを含有する。安定化剤としてのCa2+利用可能性を調べるために、1セットの試料を表1に示す処方として調製した。試料Aの処方は市販血漿由来の凍結乾燥因子IX(MononineTM)に用いる処方である。すべての試料は組み換え形態の因子IXを含有する。
【0029】
表1
試料処方
試料 pH バッファー(10mM) 塩(浸透圧調節剤) 他の賦形剤
A 7.0 ヒスチジン 0.066M NaCl(0.385%) 165mMマンニトール
B 7.0 ヒスチジン 260mMグリシン 29mM スクロース
C 7.0 ヒスチジン 250mMグリシン, 29mMスクロース
5mM Ca2+
D 7.5 トリス 260mMグリシン 29mMスクロース
E 7.5 トリス 250mMグリシン, 29mMスクロース
5mM Ca2+
F 7.5 ジエタノールアミン 260mMグリシン 29mMスクロース
G 7.5 ジエタノールアミン 250mMグリシン, 29mMスクロース
5mM Ca2+
【0030】
各処方中の因子IXの試料を4℃で2.5カ月保存した。蛋白濃度およびクロッティング活性について試料をアッセイした。Pittman, D., et al., Blood 79:389-397 (1992)の方法に従って因子IX欠損血液を用いて因子IX活性を決定する。蛋白濃度に対するクロッティング活性、すなわち比活性をユニット/mg蛋白で表し、表2に示す。許容できる比活性は、一般的には、初発比活性よりも20%高くならないものとする。なぜなら、通常、高い比活性は活性化様のイベントを示し、それは血栓連座を有する可能性がある。
【0031】
表2
因子IX比活性
試料 開始時 2.5カ月
A 219.9 161.3
B 191.8 153.2
C 239.4 964.1
D 209.3 135.8
E 212.1 1956.9
F 190.1 123.5
G 217.3 2570.8
【0032】
カルシウム含有試料、すなわちC、EおよびGは2.5カ月保存後において高い比活性を有する。このことは、Ca2+の包摂によるものであり、因子IXは活性化様分子への変換を受けることが示される。活性化因子IXは、残基R145−A146およびR180−V181において開裂された後クロッティングを触媒しうる因子IXである。通常には、因子IXは無傷の蛋白として循環し、クロッティングカスケードの開始が存在しないならばその活性型に変換されない。活性化rhFIXを有するものに注射することは血栓連座を有する可能性がある。それゆえ、濃度5mMのCa2+の包摂は安定性を失わせるものであり、避けるべきである。
【実施例2】
【0033】
実施例2: HMW形成に対するバッファー選択の影響
表1に類似および表1のバッファー/賦形剤混合物中に処方した、カルシウム不含かつpH7.0の試料の平均比活性は4℃で8カ月保存した後において112.5±10.5U/mgであるが、pH7.5のものはわずか84.0±22.1U/mgであり、微妙なpHシフトが長期間の因子IX安定性の維持にとり重要であることが示される。
【0034】
表3にまとめたような1セットの等張実験処方中に因子IXを調製する。各緩衝化剤といくつかの異なる賦形剤との組み合わせのものもあり、5mM未満のEDTAを含むものもある。因子IX濃度は約1mg/ml(平均161U/ml)である。存在する高分子量物質(HMW)の量およびクロッティング活性について試料をアッセイする。有意な量(>3%)のHMWの形成は望ましくなく、製品の安全性および有効性に対して影響を与えうる因子IXの物理的分解を示すものである。皮下投与した場合、凝集蛋白はより免疫原性があるので、HMWは皮下投与には特に望ましくない。Morein, B. and K. Simons, Vaccine 3:83. Subumit vaccines against enveloped viruses: Virosomes, micells, and other protein complexes (1985);およびAntibiotics: A laboratory manual, (page 100), E. Harlow and D. Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988。
【0035】
表3
試料処方
緩衝化剤(10〜15mM) 賦形剤
リン酸塩 アルギニン−HCl、塩化ナトリウム
(リン酸ナトリウムまたはカリウム グリシン、スクロース、マンニトール
のいずれか,pH7.0) グルコース

クエン酸塩
(クエン酸ナトリウム, ソルビトール、グルコース、グリシン、
pH6.0〜6.5) スクロース、アルギニン−HCl

酢酸アンモニウム マンノース、マンニトール、
(pH6.5〜7.0) 塩化ナトリウム、アルギニン−HCl

マレイン酸 グリシン、マンノース
(pH6.5)
【0036】
表4はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC−HPLC)により測定した、HMW形成に対する異なる緩衝化剤の影響を示す。試料を30℃で6週間保存した。表4は、6週目の値から開始時の値を差し引いて得たHMW/全蛋白 x 100%として示す平均増加量を掲載する。
【0037】
表4
HMW形成の増加%
緩衝化剤 平均増加(全体に対する%)
リン酸塩 4.21
クエン酸塩 0.80
酢酸アンモニウム 3.42
マレイン酸 1.67
【0038】
平均すると、クエン酸塩により緩衝化された試料は、他の賦形剤を含有したにもかかわらず最少量のHMWを形成した。適当なハッファーは2%よりも増加させないものである。
【0039】
凝集物はモノマー蛋白よりも免疫原性であることが広く知られており、一般的には静脈内処方には許容されない。しかしながら、凝集物は皮下、皮内または筋肉内処方にはさらに望ましくない。なぜなら、これらの投与経路はより多くの免疫応答を生じさせる可能性があるからである。
【0040】
すべての処方を4℃で6カ月以上保存し、クロッティング活性についてアッセイする。種々の糖類を含有する試料についての残存活性の平均量は非常に様々であり、スクロース含有試料は平均して初発活性の71%を維持し、マンニトールは53%、グルコースは52%、そしてマンノースはわずか27%であった。驚くべきことに、他の賦形剤の添加にもかかわらず、因子IX活性の維持においてすべての糖類が等しく有効とはいえない。
【実施例3】
【0041】
実施例3: 高濃度における安定性
高濃度の因子IX含むもう1つの処方のセットを調製する。表5掲載の処方において試料を調製する(8mg/ml(2000U/ml))。すべては15mMのクエン酸ナトリウムを含有し、pH6.8に緩衝化される(界面活性剤不含)。BG4はわずかに高張であり、残りは等張である。
【0042】
表5
試料処方
BG1 2%スクロース、2%アルギニン−HCl、1mM EDTA
BG2 4%スクロース、1%グリシン、1mM EDTA
BG3 1.5%アルギニン−HCl、1%グリシン
BG4 5%アルギニン−HCl、1mM EDTA
BG5 4%スクロース、1%グリシン
【0043】
ガラス製バイアルおよびガラス製プレフィル可能シリンジの両方に試料を4℃で8、10および13カ月保存して気/液界面またはシリコン化栓/溶液界面の量が製品の安定性に影響するかどうかを調べる。3つの時点すべてにおいて、バイアルおよびシリンジ間ではいずれの安定性アッセイによっても有意な相違は見られない。いくつかの分析方法による結果を表6に示す。「活性の回収率」は、残存クロッティング活性量を「開始時」すなわち実験開始時に存在するクロッティング活性量に対するパーセンテージとして表したものである。「HMW」は上記定義に同じ。「SDS−PAGE」はポリアクリルアミドゲル電気泳動であり、ゲルをスキャンし、バンドを定量する。逆相HPLCを用いて製品の均一性を評価し、ピーク比の変化は製品の変化、例えば、オリゴ糖の酸化を示しうる。
【0044】
【表1】

このような高濃度(8mg/ml;2000U/ml)の因子IXの場合でさえ、これらの処方は有効である。13カ月におけるある種の試料について観察された活性の上昇は、対照と比較すると、アッセイのばらつきの範囲内である。
【実施例4】
【0045】
実施例4: 賦形剤相互作用
表7に示す因子IX処方のもう1つのセット(すべてがクエン酸塩を含有)を調製する。すべての処方は等張であり、濃度1ないし2mg/ml(平均208ないし481U/ml)の因子IXを含有し、10mMないし15mMのクエン酸ナトリウムをpH調節剤として使用し、pHを6.8に調節する。
【0046】
表7
試料処方
主賦形剤 組み合わせて使用された物質
(濃度範囲,重量/体積%)
マンニトール アルギニン−HCl、EDTA、グリシン、
(55〜275mM,1〜5%) ツイン80、スクロース、
NaCl、KCl

アルギニン−HCl マンニトール、EDTA、スクロース、
(47〜237mM,1〜5%) グリシン、ツイン−80、
グルコース

グリシン マンニトール、アルギニン−HCl、
(66〜306mM, グルコース、ツイン80、EDTA
0.5〜2.3%)

スクロース マンニトール、アルギニン−HCl、
(29〜234mM,1〜8%) グリシン、NaCl、EDTA、
ツイン−80

グルコース アルギニン−HCl、グリシン、NaCl、
(55〜278mM,1〜5%) KCl、EDTA

NaCl スクロース、グルコース、マンニトール、
(100mM,0.58%) EDTA

KCl グルコース、マンニトール
(100mM,0.75%)
【0047】
試料を4℃で保存し、いくつかの時点でアッセイする。4℃で8カ月保存後、9種の試料は出発材料の〜100%のクロッティング活性を維持している。これ9種の処方を表8に示す(すべては15mMのクエン酸ナトリウムを含有し、
pH6.8、かつ等張である)。
【0048】
表8
1 4%スクロース、1.4%グリシン、0.005%ツイン−80
2 1%マンニトール、2%アルギニン−HCl、0.5%グリシン
3 2.2%アルギニン−HCl、0.75%グリシン
4 3%マンニトール、1%グリシン
5 3%マンニトール、1%グリシン、1mM EDTA
6 3%マンニトール、1.5%アルギニン、0.005%ツイン80
7 3.3%アルギニン−HCl
8 2%マンニトール、2%スクロース、1.4%アルギニン
9 4%スクロース、1.4%グリシン、1mM EDTA
【0049】
類似の賦形剤を類似の割合で含有するいくつかの処方は、それにもかかわらず、驚くべきことに、ほとんど同様にクロッティング活性を維持しない。例えば、2.3%グリシンのみはわずか86%86%のクロッティング活性を示し、4%スクロース、2%アルギニン(ツイン含有および不含、ならびにEDTA含有および不含の両方)は87〜89%のクロッティング活性を示した。
【0050】
他の安定性を示すアッセイの結果を表8の9種の処方について示す。比活性をU/mgで示し、許容範囲は200ないし350U/mgである。SEC−HMWはサイズ排除クロマトグラフィーにより決定された高分子量凝集物の測定値であり、皮下、皮内、または筋肉内処方には1%未満が好ましい。「C末端クリップ」は逆相クロマトグラフィーにより測定された分解種の測定値であり、1%未満が好ましい。
【0051】
【表2】

【0052】
表8および9に示す好ましい処方によれば、2種のより好ましい処方は以下のものを包含する:(両方とも、15mMクエン酸塩でpH6.8に緩衝化され、等張である) 3%マンニトール、1.5%アルギニン−HCl、および3.3%アルギニン−HCl。
【実施例5】
【0053】
実施例5: 凍結/融解サイクルの影響
理想的には、最終剤形に用いるのと類似の処方をバルク蛋白に使用する。このことは、長期間の保存によるストレスに対して因子IXを安定化するのと同じ処方が、バルク蛋白が通常遭遇するストレスに対して因子IXを安定化するのに適していることを必要とする。
【0054】
下表10に示す処方中に試料を調製する。蛋白濃度は〜2mg/ml(500U/ml)であり、浸透圧は300±50ミリオスモラルである。すべては10mMのクエン酸ナトリウムを含有し、pH6.8であり、すべては0.005%ツイン80(ポリソルベート)含有および不含として調製される。
【0055】
表10
試料処方
A 2.5%アルギニン−HCl、2.2%スクロース
B 1.8%グリシン、2%スクロース
C 1.8%アルギニン−HCl、2.4%マンニトール
D 2.2%グリシン、0.2%マンニトール
E 2.7%アルギニン−HCl、0.8%マンニトール
F 2%アルギニン−HCl、2%スクロース、0.9%マンニトール
G 1.8%アルギニン−HCl、2%マンニトール、0.8%スクロース
【0056】
各処方中の因子IXの試料を5回の凍結−融解サイクルに供して、蛋白凝集物の形成を引き起こす凍結により誘導される変性に対する感受性を調べた。一連の凍結−融解サイクルは、凍結および長期間の保存の間に観察されうる凝集物形成増加に対する蛋白の感受性の有用な指標である。存在するHMW量について試料をアッセイする。ツイン−80(0.005%)含有および不含試料は最小限の凝集(0.15%未満のHMW増加)を示す。
【0057】
本明細書のすべてのデータによれば、下記の2種の処方(成分の範囲として示す)もまた好ましい。
【0058】
処方1:
クエン酸ナトリウム 0.0075M〜0.04M 0.19%〜1% w/v
アルギニン(−HCl) 0.13M〜0.16M 2.8%〜3.3% w/v
スクロース 0〜0.06M 0〜2% w/v
ポリソルベート−80 0〜0.0000382M 0〜0.005% w/v
因子IX 600〜56000ユニット/ml 0.1〜160mg/ml
【0059】
処方2:
クエン酸ナトリウム 0.0075M〜0.04M 0.19%〜1% w/v
アルギニン(−HCl) 0.06M〜0.07M 1.3%〜1.5%
スクロース 0〜0.02M 0〜0.7%
マンニトール 0.165M 3%
ポリソルベート−80 0〜0.0000382M 0〜0.005% w/v
因子IX 600〜56000ユニット/ml 0.1〜160mg/ml
【実施例6】
【0060】
実施例6: 4℃での長期保存の影響
15mMクエン酸ナトリウム(0.38%)、0.16Mアルギニン(3.3%),pH6.8中に因子IXを2mg/ml(500U/ml)として処方し、4℃で1年間保存する。活性の回収率は95%であり、%HMWは0.32%である。15mMクエン酸ナトリウム、3%マンニトール、1.5%アルギニン,pH6.8中に因子IXを2mg/mlとして処方し、4℃で1年間保存する。活性の回収率は76%であり、%HMWは0.36%である。活性の損失は脱アミド化によるものである。
【0061】
15mMクエン酸ナトリウム、1%=29mMスクロース、3%=0.14MアルギニンHCl中に因子IXを2mg/mlとして処方し、4℃で1年間保存する。活性の回収率は86%であり、%HMWは0.27である。
【実施例7】
【0062】
実施例7: 高蛋白濃度および凍結−融解の影響
10mMヒスチジン、260mMグリシン、1%スクロース、0.005%ツイン−80,pH7.0中に因子IXを4000U/ml、8000U/ml、16000U/mlおよび30000U/ml以上(すなわち、16ないし120mg/ml以上)として処方する。因子IXをCentricon-10中で遠心濃縮し、次いで、YM-10膜を用いるAmiconスターセル(stir cell)中でスターセル濃縮する。蛋白の濃縮に用いる他の方法、特に、分子量に基づいて蛋白種を保持および排除する膜を用いる方法、例えば十字流濾過を用いることができる。さらに、検出可能な凝集蛋白(SEC−HPLCにより決定されるHMW)は、これらの異常に高い蛋白濃度においてさえ生成しない。
【0063】
次いで、試料について凍結融解を繰り返すと、驚くべきことに、HMWの許容レベル(≦1%)がやはり維持される。MononineTMおよびAiphanineTMのごとき市販血漿由来の因子IX製品(上記4頁1〜11行目)は、たとえ因子IX濃度が非常に低いとしても、しばしば10%またはそれ以上のHMWを含有していることに鑑みると、このことは驚くべきことである。かかる高%HMWは潜在的な免疫原性のため、皮下、皮内または筋肉内投与には不適である。
【0064】
さらにそのうえ、因子IXをMononineTMと同じ処方に処方し、凍結および融解の繰り返しサイクルに供する場合、有意量(〜15%)のHMWが生じる。実施例5に示すデータを考慮すると、このデータは、因子IXの安定性に対する処方の驚くべきかつ予期しなかった効果を示すものである。
【実施例8】
【0065】
実施例8: 高度に濃縮された因子IX
高度に濃縮された因子IXは、皮下、皮内または筋肉内投与した場合に効果的である。高度に濃縮(すなわち、4000U/mlないし56000U/ml以上)された因子IXの処方を用いると、以下に説明するように単一部位での小体積の皮下注射が可能である。
【0066】
260mMグリシン、10mMヒスチジン、29mM(1%)スクロース、および0.005%ポリソルベート中4000IU/mlの濃度の因子IXを用いて3つの実験群を評価した。群Iにおいて、イヌに200U/kg(0.05ml/kg)の因子IXを静脈投与した。群IIにおいて、イヌに200U/kg(0.05ml/kg)の因子IXを皮下投与した。群IIIにおいて、イヌに、最初に50U/kg(0.0125ml/kg)を静脈投与し、24時間後200U/kg(0.05ml/kg)の因子IXを皮下投与した。静脈投与された因子IXは、注射5分以内に240%の因子IX活性を生じ、5日目に6.4%にまで低下した(ここに、100%=プールされたヒト血漿標準)。皮下投与された因子IX活性は5分で0.9%、3時間で10%、5日で5.8%であった。静脈投与、次いで、24時間後に皮下投与を組わせると、皮下投与3時間後に25%の血漿因子IX活性、皮下投与5日後に9.1%の因子IX活性を生じた。皮下投与物の生体利用率は43%と算出された。皮下投与された因子IXは、投与3時間後以内に治療レベルの因子IX活性を生じる。静脈および皮下投与の組み合わせは、即時的な凝固薬保護を生じ、皮下投与の有効性を改善する。また、高度に濃縮された形態の因子IXを、上記実施例1〜5に記載した処方に処方して、効果的に投与に使用することもできる。
【0067】
本発明を特定の方法、処方、および組成物に関して説明したが、当業者は本発明を考慮して変更および修飾を行うであろうことが理解される。
【0068】
上の説明的な実施例において説明した本発明における多くの修飾および変更は当業者により行われると考えられ、その結果、添付した請求の範囲にあるような限定のみが本発明に課せられるべきである。したがって、添付した請求の範囲は、権利請求されている本発明の範囲中にあるかかる均等な変更のすべてを包含するものと解される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、医薬品の分野等において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
因子IXおよびアルギニンを含む組成物。
【請求項2】
約0.1mg/mlないし160mg/mlの因子IX、グリシン、界面活性剤、ならびに緩衝化剤および凍結保護剤からなる群より選択されるメンバーを含む組成物。

【公開番号】特開2010−189433(P2010−189433A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106673(P2010−106673)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【分割の表示】特願2006−141684(P2006−141684)の分割
【原出願日】平成9年1月9日(1997.1.9)
【出願人】(501418214)ジェネティクス インスティテュート,エルエルシー (35)
【Fターム(参考)】