説明

高度水素添加レシチン

【課題】長期保存可能なレシチンを提供すること
【解決手段】水素雰囲気中、水素化触媒の存在下、非極性溶媒と極性溶媒との混合溶媒を含有する反応液中で、天然のレシチンを水素化することにより、ヨウ素価が0.3以下の水素添加レシチンが提供される。好ましくは、長時間の反応時間を採用し、かつ水素添加レシチンをアセトンで析出させる。本発明によれば、ヨウ素価が極めて低く、長期保存可能で、極めて安定な、化粧料配合材料やその他の添加物として有用な水素添加レシチンおよびその製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の属する技術分野)
本発明は、高度に水素添加されたレシチンおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来の技術)
レシチンは、その優れた物性の故に、食品、化粧料、医薬等多岐にわたる分野で広く利用されている。レシチン、特に卵黄レシチンは、特にその優れた乳化力、伸展性および肌触りの良さから貴重な化粧料配合材料となっているが、長期保存に際して、着色するとか異臭を放つようになるなどの欠点を有する。この保存安定性の欠点は、リン脂質を構成する脂肪酸に不飽和脂肪酸が存在し、その不飽和二重結合が保存中に酸化されやすいことに起因する。
【0003】
この欠点を解消する方法として、水素および水素化触媒の存在下でレシチン中の不飽和二重結合を接触水素添加して水素添加レシチンとする方法が知られており、すでに実用化されている。
【0004】
この際、不飽和二重結合の存在の指標となるヨウ素価がどこまで下がるかで水素添加の程度を知ることができる。ヨウ素価は水素添加レシチンの長期保存時の安定性と密接に関係しており、ヨウ素価が限りなく0に近い水素添加レシチンは、化粧料配合材料としてきわめて付加価値が高くなる。
【0005】
通常のレシチンは、60〜90のヨウ素価を有する。従来の水素化方法により、レシチンを水素化すると、ヨウ素価1以上の水素添加レシチンは比較的容易に得られる。しかし、従来の方法では、ヨウ素価が1未満、特に0.3未満、さらには0近くになるまで高度に水素添加することは容易ではない。
【0006】
例えば、卵黄レシチンの水素添加の従来技術においては、レシチン中に存在する各種のリン脂質をそれぞれ単離して、たとえば最も多量に存在するホスファチジルコリン(以下、「PC」とも記す。)を95%あるいはそれ以上に精製した後、接触水素添加反応に付して、ヨウ素価1未満にまで水素添加した例が知られている。
【0007】
しかしながら、卵黄レシチン中に存在する各種のリン脂質を分離せずに、すなわち、天然のリン脂質組成比を保ったレシチンを接触水素添加反応に付した場合、反応条件にもよるが、ヨウ素価は、通常の条件では2〜3までにしか下げられず、従来もっとも良い場合でも約1までしか下げられなかった。
【0008】
同様に、大豆レシチンの場合も、ヨウ素価を1〜0.5にしたものは存在するが、それ以下にすることは困難であった。
【0009】
このため、従来においては、ヨウ素価が1未満のレシチンまたはヨウ素価が0.5未満のレシチンは、入手困難であった。
【0010】
特に、ヨウ素価を0.3以下にまで高度水素添加できる技術はいまだ報告がなく、そしてそのように高度に水素添加されたレシチンの存在は知られていなかった。さらに、卵黄レシチンの場合、天然のレシチンの各種リン脂質の組成を保ったままヨウ素価を0.3以下にまで高度水素添加できる技術はいまだ報告がなく、そしてそのように高度に水素添加された卵黄レシチンの存在は知られていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明は、長期保存可能なレシチン、およびその製造方法を提供することを目的とする。具体的には、ヨウ素価が0.3以下であり、好ましくは0.1以下である水素添加レシチンを提供することを目的とする。さらにその様なレシチンを用いた配合剤を提供すること、およびそのような配合剤を用いた化粧品、医薬品、機能性食品などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、レシチンを接触水素添加してヨウ素価0.3以下、好ましくは0.1以下の水素添加レシチンを製造するべく鋭意検討を重ねた結果、以下の本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の水素添加レシチンは、ヨウ素価が0.3以下である水素添加レシチンである。
【0014】
好ましい実施態様では、ヨウ素価が0.1以下である。
【0015】
また、本発明によれば、ヨウ素価が0.3以下であり、かつ、天然レシチン中のリン脂質の組成が維持されている、天然の卵黄由来の水素添加卵黄レシチンが提供される。
【0016】
好ましい実施態様では、上記水素添加卵黄レシチンのヨウ素価は0.1以下である。
【0017】
本発明の化粧料用組成物は、ヨウ素価が0.3以下である、水素添加レシチンを含む。
【0018】
1つの実施態様では、上記水素添加レシチンが、天然物由来の水素添加レシチンである。
【0019】
1つの実施態様では、前記水素添加レシチンが水素添加卵黄レシチンである。
【0020】
1つの実施態様では、前記水素添加レシチンが水素添加大豆レシチンである。
【0021】
本発明の方法は、水素添加レシチンの製造方法であって、水素雰囲気中、水素化触媒の存在下、脂肪族飽和炭化水素と脂肪族アルコールと水との混合溶媒を含有する反応液中で、天然レシチンを水素化して、ヨウ素価を0.3以下とする工程を包含する。好ましくは、有機酸を0.01〜5重量%含有する反応液中で反応が行われる。
【0022】
1つの実施態様では、前記脂肪族飽和炭化水素がn−ヘキサンであり、前記脂肪族アルコールがエタノ−ルである。
【0023】
好ましい実施態様では、前記混合溶媒の混合比率が、
脂肪族飽和炭化水素:脂肪族アルコール:水の体積比として
100:(20〜300):(10〜300)
である。
【0024】
本発明の製造方法の1つの実施態様では、さらに、水素化されたレシチンをアセトンから析出させる工程を包含する。
【0025】
別の局面において、本発明の水素添加レシチンを含む溶液、エマルジョンまたは可溶化液が提供される。
【0026】
別の局面において、本発明の水素添加レシチンを含むリポソームが提供される。
【0027】
別の局面において、本発明の水素添加レシチンで表面処理された顔料が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ヨウ素価が極めて低く、長期保存可能で、極めて安定な、化粧料配合材料やその他の添加物として有用な水素添加レシチンおよびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(水素添加レシチン)
レシチンとは、各種リン脂質の総称であり、天然レシチンにおいてはホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、リゾホスファチジルコリン(LPC)、リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)、スフィンゴミエリン(SM)、ホスファチジン酸等が所定の比率で存在する。
【0030】
レシチンは、植物性レシチンおよび動物性レシチンの両方を含む。
【0031】
植物性レシチンとしては、例えば、大豆レシチン、なたねレシチン、ひまわりレシチン、サフラワーレシチン、綿実レシチン、とうもろこしレシチン、アマニレシチン、ゴマレシチン、オリーブレシチン、米レシチン、キリレシチン、グレープレシチン、アボガドレシチン、ヤシレシチン、およびパームレシチンなどが挙げられる。これらは、それぞれ、その植物種子から得られる。大豆レシチンが好ましい。
【0032】
植物性レシチンは、通常、植物種子から油脂を抽出、精製する際にガム質として分離される。
【0033】
大豆レシチンは、大豆から得られるレシチンであって、上記リン脂質の混合物であり、環境要因などにより若干の変動はあるが、一般的には、ホスファチジルコリン(PC)が24〜32%、ホスファチジルエタノールアミン(PE)が20〜28%、ホスファチジルイノシトール(PI)が12〜20%、ホスファチジン酸(PA)が3〜15%存在する。
【0034】
大豆レシチンは、公知の任意のものが使用可能である。大豆レシチンは、天然組成のまま用いてもよい。しかし、必要に応じて、ホスファチジルコリン(PC)含量を高める処理を施したものを用いてもよい。
【0035】
動物性レシチンとしては、例えば、卵黄レシチンおよび魚介類から抽出されたレシチンなどが挙げられる。卵黄レシチン以外のレシチンも使用可能であるが、卵黄レシチンが好ましい。
【0036】
「卵黄レシチン」は卵黄由来のレシチンであって、上記リン脂質の混合物であり、鶏の餌やその他の環境要因で若干の変動はあるが、一般的には、ホスファチジルコリン(PC)が75〜85%、ホスファチジルエタノールアミン(PE)が10〜20%、そして、リゾホスファチジルコリン(LPC)、リゾホスファチジルエタノールアミン(LPE)、およびスフィンゴミエリン(SM)がそれぞれ数%存在する。
【0037】
天然卵黄レシチンは、公知の任意のものが使用可能である。例えば、天然の卵黄から分離、精製することができる。
【0038】
天然卵黄レシチンとは、天然の卵黄から抽出されたレシチンであって、水素添加をされておらず、不飽和二重結合の包有量を変動させ得るその他の人為的操作のいずれをも受けていないレシチンをいう。
【0039】
卵黄レシチンにおいて、「リン脂質の組成が維持されている」とは、不飽和二重結合が水素添加されたこと以外は、リン脂質の組成が実質的に変化していないこと、特に、各成分についての組成比率の変動の最大値が好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下であることをいう。
【0040】
ヨウ素価とは、レシチンにハロゲンを作用させた場合に吸収されるハロゲンの量をヨウ素に換算し、試料100gに対するg数で表した値をいう。ヨウ素価の具体的な測定方法は、従来公知の方法が利用可能である。ただし、ヨウ素価1以下のレシチンの場合、レシチンにより形成されるリポソーム中にヨウ素が取り込まれて反応性が低下し、ヨウ素−デンプン反応が阻害されて、ヨウ素価の測定精度が低下する。従って、このような場合には、前もってレシチンを加水分解して、レシチンのリポソーム形成能を失わせてからヨウ素価を測定することにより、良好な精度でヨウ素価が測定される。従って、本発明における「ヨウ素価」は、レシチンを加水分解した後に測定される値をいう。
【0041】
水添されていない、天然レシチンの場合、そのヨウ素価は、通常60〜90である。従来得られていた、水添レシチンのヨウ素価は、通常2〜10である。これに対し、本発明の高度水素添加レシチンは、0.3以下、好ましくは0.1以下のヨウ素価を有し、そのことにより、長期保存安定性が顕著に改良され、特に化粧料配合材料としての有用性が著しく高められる。
【0042】
(水素添加レシチンの製法)
次に、本発明の水素添加レシチンの製造方法について説明する。
【0043】
本発明の水素添加レシチンは、天然レシチンを水素雰囲気中、水素化触媒の存在下で水素化することにより製造され得る。
【0044】
水素雰囲気は、通常、高純度の水素ガスにより形成されるが、接触水素添加反応を阻害しない限り、任意の他の気体を共存させ得る。
【0045】
反応液に弱酸性物質として添加される有機酸は、好ましくは有機カルボン酸、より好ましくは有機多価カルボン酸であり、例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などが好適に使用され得る。
【0046】
弱酸性物質をわずかに加えて、反応液をやや酸性側に傾けることにより、触媒の失活が抑えられ、結果として低いヨウ素価が達成されると考えられる。
【0047】
本発明の水素添加反応に用いられる触媒としては、不飽和油脂の水素化のために従来使用されている任意の水素化触媒が使用可能である。具体的には、パラジウム含有触媒、白金含有触媒、例えば、パラジウム−活性炭触媒、白金−活性炭触媒などが使用可能である。最も好ましくは、白金/活性炭触媒である。
【0048】
触媒の量は、多い方が有利であるが、経済性との兼ね合いで決定する必要があり、通常、レシチン100重量部あたり、活性金属の重量として、0.1〜20重量部が好ましく、0.2〜15重量部がより好ましく、さらに好ましくは、0.2〜5重量部である。触媒の量が多すぎる場合には、反応後の触媒の除去が困難になり易い。しかし、効率良く反応を進めるためには、触媒の量が多いことが好ましい。例えば、特に効率良く反応を進めたい場合には、レシチン100重量部あたり、活性金属の重量として、0.5〜5重量部が好ましく、特に好ましくは0.8〜2.5重量部である。
【0049】
通常、接触水素添加反応においては、触媒の種類および量の他に、反応溶媒の種類、反応液の濃度および温度、反応時間、撹拌効率、ならびに水素圧等が、水素添加の効率に影響する。
【0050】
特に、本発明の製造方法においては、反応溶媒、反応温度、反応液の濃度、反応時間、および後処理法が特に影響を及ぼし得る。
【0051】
本発明の方法においては、反応溶媒の選択が特に大切である。従来、レシチンの水添反応は、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどの脂肪族飽和炭化水素溶剤中で行われる。またこれらの脂肪族飽和炭化水素に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの脂肪族アルコールを併用する場合もある。しかし、これらの溶媒中では、通常、ヨウ素価が1〜3程度の水添レシチンしか得られない。
【0052】
本発明の方法によれば、脂肪族飽和炭化水素、脂肪族アルコール、および水を含む混合溶媒中で反応を行うことにより、極めてヨウ素価の低い水素添加レシチンが得られる。
【0053】
脂肪族飽和炭化水素、脂肪族アルコール、および水の3種類の溶媒を混合した場合、通常、均一で安定な溶媒系は形成されない。従って、通常、脂肪族飽和炭化水素、脂肪族アルコール、および水の3種類の溶媒を混合した混合溶媒は、化学反応系の溶媒としては使用されない。しかし、意外な事実であるが、本発明によれば、これらの3種類の溶媒を含む混合溶媒系からなる、水素添加反応を行うのに充分な程度に均一かつ安定な反応系が得られること、すなわち、上記3種類の溶媒を含む混合溶媒系中において、レシチンの水素添加反応を行い得ることが判明した。本発明の方法では、レシチンが上記3種類の溶媒を含む系に添加される。このため、レシチンが界面活性剤的に作用すると考えられ、この作用により、レシチン、脂肪族飽和炭化水素、脂肪族アルコール、および水の全体として、水素添加反応を行うのに充分な程度に均一かつ安定な反応系が得られると考えられる。
【0054】
上記3種類の溶媒の混合比率としては、脂肪族飽和炭化水素対脂肪族アルコール対水の比率が、体積比で、100対(10〜600)対(5〜600)の比率であることが好ましい。100対(20〜300)対(10〜300)の比率であることがより好ましい。100対(50〜200)対(50〜200)の比率であることがさらに好ましい。
【0055】
ここで、上記脂肪族炭化水素としては、任意の脂肪族炭化水素溶媒が使用可能である。代表的には、ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタンなどが挙げられる。好ましくは、n−ヘキサンである。脂肪族炭化水素は、単一の脂肪族炭化水素であっても良いし、複数の脂肪族炭化水素の混合物を用いても良い。
【0056】
上記脂肪族アルコールとしては、任意の脂肪族アルコール溶媒が使用可能である。代表的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられる。脂肪族アルコールは、単一の脂肪族アルコールであっても良いし、複数の脂肪族アルコールの混合物を用いても良い。
【0057】
反応温度については、通常の油脂の接触水素化反応では加熱したほうが有利と言われている。しかし、レシチンの水素化反応では、むしろ逆に、温度が高いと、触媒が早く失活して低いヨウ素価の達成を妨げる要因になる場合があることが見いだされた。また、反応温度が高すぎる場合には、未水添のレシチンが変性しやすい。
【0058】
従って、本発明の方法における反応温度は、0〜80℃が好ましく、10〜40℃がより好ましく、さらに好ましくは、20〜40℃である。
【0059】
反応液の濃度は、水素添加の効率に比較的影響が大きい。濃度が高い場合は、低いヨウ素価が得られにくい。一方、濃度が低い場合には、製造コストが上昇する。したがって、得るべきヨウ素価と、経済性との兼ね合いで適切な濃度を選択する必要がある。従って、反応液中の卵黄レシチンの濃度は溶媒の容積を基準として、0.01〜2g/mlが好ましく、0.02〜0.5g/mlがより好ましく、さらに好ましくは、0.05〜0.2g/mlである。
【0060】
反応時間は、触媒濃度に依存するが、通常の不飽和化合物の水素添加に比べより長くすることが好ましい。反応時間は、4〜100時間が好ましく、6〜72時間がより好ましい。さらに好ましくは、30〜72時間であり、特に好ましくは、48〜72時間である。
【0061】
なお、水素圧は、最終ヨウ素価に余り大きな影響を与えない。従って、任意の水素圧が使用可能である。通常の油脂の接触水素化反応において適切と言われている高圧の条件が必ずしも有利ではない。従って、操作性および経済性を考慮すれば、水素圧は、1〜50気圧が好ましく、1〜20気圧がより好ましい。
【0062】
一つの実施態様では、本発明の水素添加レシチンは、天然レシチンを水素雰囲気中、有機酸を、反応液の全重量を基準として、0.01〜5重量%、好ましくは0.02〜3重量%、より好ましくは0.05〜2重量%含有する反応液中で、水素化触媒の存在下で水素化することにより製造され得る。
【0063】
一つの実施態様では、水素添加反応後、レシチンを常温で実質的に溶解しない性質を有する有機溶媒、好ましくはアセトンから析出させる方法で精製する。このことにより、水添後のレシチンにわずかに残る色や臭いを除くとともに、ヨウ素価をさらに低く抑えることができる。
【0064】
以上の製造方法により、ヨウ素価0.3以下まで水素添加した高度水素添加レシチンを製造することができる。特に、卵黄レシチンの場合であれば、天然卵黄レシチン中の各種リン脂質の組成が維持されている状態で、ヨウ素価0.3以下まで水素添加した高度水素添加レシチンを製造することができる。さらに上記の条件を適宜調整して適正化することにより、ヨウ素価0.1以下、より好ましくは0.05以下まで水素添加した高度水素添加レシチンを製造することができる。
【0065】
(化粧料用組成物)
本発明の化粧料用組成物は、本発明の水素添加レシチンを含む。
【0066】
化粧料とは、従来公知の任意の化粧料をいい、化粧品を含む。
【0067】
ここで、化粧料に特に制限はないが、好ましくは、化粧水、乳液、クリーム等のスキンケア化粧料、ファンデーション、アイシャドウ、口紅、頭髪化粧料、エモリエントクリーム、エモリエントローション、ファンデーション、クリームリンス、コールドクリーム、バニッシングクリーム、ローション、パック剤、シャンプー、リンス、ヘアクリーム、ヘアローション、ヘアートリートメント、頬紅、パウンドケーキ、などが挙げられる。
【0068】
本発明の水素添加レシチンは、化粧料用組成物中に、保湿剤、乳化剤、マイクロエマルジョン剤、可溶化剤、リポソーム形成材料または顔料の表面処理剤などとして使用され得る。
【0069】
保湿剤、乳化剤、マイクロエマルジョン剤または、可溶化剤として水素添加レシチンが添加される場合、化粧料用組成物は、通常、油性物質および必要に応じて水を含有する。この化粧料用組成物は通常、粘稠ないしゲル状、水中油型乳化状または可溶化状の形態とされる。
【0070】
化粧料用組成物中の水素添加レシチンの含有量は、好ましくは、製品全体に対して、0.001〜10重量%であり、より好ましくは、0.01〜5重量%である。
【0071】
例えば、水素添加レシチンに攪拌下で油性物質、さらに所望により界面活性剤、顔料、色素、香料、酸化防止剤などを配合することにより、粘稠状ないしはゲル状の化粧料を得ることができ、例えば、アイジェルまたはクレンジングジェルなどの化粧料として使用できる。レシチンに対する油性物質の配合量は重量基準で10倍以下が好ましい。油性物質が多すぎる場合、油性物質が組成物から分離しやすくなる。
【0072】
ここで、化粧料に使用される油性物質は特に限定されず、例えば、炭化水素類(例えば、スクワラン、流動パラフィン、ワセリン、固形パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシンなど)、エステル類(例えば、IPM、グリセリントリエステル、ペンタエリスリトールテトラエステル、コレステリルエステルなど)、油脂類(例えば、オリーブ油、アーモンド油、カカオ油、マカデミアナッツ油、アボガド油、硬化パーム油、ヒマシ油、ヒマワリ油、月見草油、合成トリグリセライドなど)、ワックス類(例えば、ミツロウ、ラノリン、カルナバロウ、キャンデリラロウ、ホホバ油など)、高級脂肪酸(例えば、ステアリン酸、オレイン酸、イソステアリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸など)、高級アルコール(セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ヘキサデシルアルコール、オクチルドデシルアルコール、コレステロールなど)、シリコーン系物質(例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、シクロメチコンなど)、ステロール類、樹脂類などが挙げられる。
【0073】
具体的には、例えば、以下の油性物質が挙げられる:流動パラフィン、イソパラフィン、ワセリン、スクワラン、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、イソオクチル酸セチル(2−エチルヘキサン酸セチル)、トリイソオクチル酸グリセリル(トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリル)、トリカプリル酸グリセリル、ジイソオクチル酸ネオペンチルグリコールエステル(ジ−2−エチルヘキサン酸ネオペンチルグリコールエステル)、リンゴ酸ジイソステアリル、イソノナン酸イソノニル(3,5,5−トリメチルヘキサン酸3,5,5−トリメチルヘキシルアルコールエステル)、12−ヒドロキシステアリン酸コレステリル、モノないしヘキサイソステアリン酸ジペンタエリスリトールエステル、o−、m−またはp−メトキシケイ皮酸イソオクチル、ユーカリ油、大豆油、綿実油、ゴマ油、米胚芽油、米ヌカ油、サフラワー油、ヒマワリ油、パーム油、オリーブ油、ホホバ油、マカデミアンナッツ油、アボガド油、ヒマシ油、月見草油、タートル油、ミンク油、オレンジラフィー油、ラノリン、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、セタノール、ラノリンアルコール、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、セレシンワックス、ミツロウ、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、セラックロウ、大豆硬化油、菜種硬化油、トリステアリン酸グリセリル、ロジン、コレステロール、フィトステロール、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、動植物起源の精油成分など。
【0074】
これらの油性物質は単独で用いてもよく、または混合して用いてもよい。
【0075】
別の例として、水素添加レシチンに攪拌下で油性物質および水、ならびに必要に応じて界面活性剤、顔料、色素、香料、酸化防止剤、防腐剤、保湿剤、または分散剤などを配合することにより、水中油型乳化状の化粧料を得ることができ、例えばクリーム、乳液、乳化化粧水などの化粧料として使用できる。ここで水の配合量は、水素添加レシチンに対して重量基準で0.1倍〜100倍であることが好ましく、より好ましくは0.2倍〜20倍である。
【0076】
さらに別の例として、上記水中油型乳化状の化粧料に、攪拌下で水、および必要に応じて界面活性剤、色素、香料、酸化防止剤、防腐剤、保湿剤、または分散剤などをさらに添加すると、粘度が低下し、例えば50重量%以上の水分を含有する可溶化状の水性化粧料を調製することができる。このような水性化粧料は、例えば化粧水、美容液などとして使用できる。ここで水の配合量は、水素添加レシチンに対して重量基準で1倍〜1000倍であることが好ましく、より好ましくは10倍〜100倍である。
【0077】
このように、水素添加レシチンを保湿剤、乳化剤、マイクロエマルジョン剤、または可溶化剤として配合したクリーム、乳液、化粧水、美容液、クレンジングジェルなどの化粧料、モイスチャージェル、パック剤などのスキンケア化粧料、乳化型ファンデーション、乳化アイシャドー、ネイルトリートメントなどのメイクアップ化粧料などが調製され得る。
【0078】
保湿剤とは、皮膚を保湿する化粧料をいう。
【0079】
水素添加レシチンが保湿剤として使用される場合、化粧料用組成物は、保湿剤として従来公知の成分を従来公知の配合量で含むことができる。この場合、水素添加レシチンを好ましくは、0.01〜20重量%、より好ましくは、0.1〜10重量%含有させる。
【0080】
化粧料用組成物における乳化剤とは、化粧料用組成物中の成分を乳化させる作用を有する成分をいう。成分が乳化された化粧料用組成物は、水中油型エマルジョンであってもよく、または油中水型エマルジョンであってもよい。
【0081】
水素添加レシチンが水中油型のエマルジョンを形成するために使用される場合には、脂肪または脂溶性薬剤が、水素添加レシチンの作用により水中に保持される。水中油型の乳化剤として使用される場合、例えば、その成分として、従来公知の任意の水中油型化粧用の成分が従来公知の配合量で用いられる。この場合、水素添加レシチンを好ましくは、0.01〜20重量%、より好ましくは、0.1〜10重量%含有させる。
【0082】
水素添加レシチンが油中水型のエマルジョンを形成するために使用される場合には、レシチン以外の保湿剤およびレシチン以外の湿潤剤などの親水性成分が、水素添加レシチンの作用により油中に保持される。油中水型の乳化剤として使用される場合、例えば、その成分として、従来公知の任意の油中水型化粧用の成分が従来公知の配合量で用いられる。この場合、水素添加レシチンを好ましくは、0.1〜20重量%、より好ましくは、0.2〜10重量%含有させる。
【0083】
ここで油中水型エマルジョンに用いられ得る保湿剤としては、例えば、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ソルビトールなどの多価アルコール、NMF(天然保湿因子)の主成分であるピロリドンカルボン酸塩および乳酸塩、ヒアルロン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0084】
ここで油中水型エマルジョンに用いられ得る湿潤剤としては、従来公知の油中水型エマルジョン用湿潤剤が使用可能である。
【0085】
マイクロエマルジョン剤とは、化粧料をマイクロエマルジョン化する乳化剤をいう。ここで、マイクロエマルジョンとは、油−水−両親媒性物質からなる透明または半透明な一液相で、熱力学的に安定で、膨潤した大きなミセルが分散した系をいう。
【0086】
このように、水素添加レシチンは、主に化粧料用組成物の乳化剤として好ましく使用され得る。しかし、化粧料用組成物以外の組成物の乳化剤としても使用され得る。
【0087】
水素添加レシチンが化粧料用組成物のマイクロエマルジョン剤として使用される場合、化粧料用組成物は、例えば、マイクロエマルジョン化された化粧料に通常使用される公知の任意の成分が公知の配合量で使用可能である。
【0088】
また、可溶化剤とは、化粧料などを可溶化する界面活性剤をいう。
【0089】
(その他の添加剤)
本発明の化粧料用組成物には、必要に応じて、ステロールを添加してもよい。ステロールを添加すれば、組成物の水蒸気透過性を抑制することができる。
【0090】
ステロールは、動物由来のものであってもよく、植物由来のものであってもよい。
【0091】
動物由来のステロールとしては、代表的には、コレステロールが挙げられる。
【0092】
植物由来のステロールとしては、例えば、シトステロール、カンペステロール、スチグマステロールおよびブラシカステロールなどが挙げられ、これらは、フィトステロール(植物ステロール)と総称される。
【0093】
コレステロールを添加する場合、その添加量は、好ましくは、水素添加レシチン対コレステロールの比として1:1〜20:1であり、より好ましくは2:1〜10:1である。
【0094】
フィトステロールを添加する場合、その添加量は、好ましくは、水素添加レシチン対フィトステロールの比として1:1〜20:1であり、より好ましくは2:1〜10:1である。
【0095】
本発明の化粧料用組成物には、必要に応じて、紫外線吸収剤を配合してもよい。
【0096】
用いられる紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、サリチル酸系、PABA系、ジベンゾイルメタン系、シンナメート系等の1種または2種以上が挙げられる。紫外線吸収剤の配合量は化粧料全量中の0.1〜30%が望ましい。
【0097】
さらに、本発明の化粧料には、通常化粧料に用いられる成分、例えば、無機顔料、有機顔料、無機粉体、有機粉体、炭化水素類、シリコーン類、エステル類、トリグリセリド類、ラノリン類、ワックス類、ロウ類、動植物油、アルコール類、多価アルコール類、糖類、ビタミン類、アミノ酸類、酸化防止剤、増粘剤、pH調整剤、水、界面活性剤(例えば、非イオン性界面活性剤)、油剤、ゲル化剤、高分子、美容成分、保湿剤、色素、酸化防止剤、防腐剤、例えば、香料、色素、防腐剤、抗酸化剤、抗炎症剤、紫外線反射剤、薬効成分(例えば、ヒアルロン酸、アラントイン、ビタミン類、アミノ酸、および胎盤エキス)、および香料などを本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
【0098】
これらの添加剤は、製造に際し、好ましくは、水溶性の成分は水相成分として、脂溶性のものは、油相成分として添加される。
【0099】
本発明の水素添加レシチンを用いた溶液、エマルジョン、マイクロエマルジョン、可溶化液、およびリポソームなどは、化粧料に有効なほか、医薬品、機能性食品にも利用できる。
【0100】
化粧料用途の具体例を説明すると、例えば、パックの配合であれば、
ポリビニルアルコール: 10〜20%
エチルアルコール: 8〜15%
ポリオキシエチレンセチルエーテル20E.O.:0.5〜2%
水素添加卵黄レシチン: 0.2〜1%
香料: 適量
精製水: 100%の残り
の配合が可能である。
【0101】
より具体的には例えば、
ポリビニルアルコール: 15%
エチルアルコール: 10%
ポリオキシエチレンセチルエーテル20E.O.: 1%
水素添加卵黄レシチン: 0.5%
香料: 適量
精製水: 100%の残り
との配合が可能である。
【0102】
また例えば、親水軟膏(中性クリーム)の場合であれば、
白色ワセリン: 20〜30%
ステアリルアルコール: 15〜25%
スクアレン: 1〜5%
コレステロール: 0.1〜0.5%
プロピレングリコール: 5〜15%
ラウリル硫酸ナトリウム:1〜2%
水素添加レシチン: 0.2〜3%
防腐剤: 0.02〜0.1%
精製水: 100%の残り
との配合が可能である。
【0103】
より具体的には例えば、
白色ワセリン: 25%
ステアリルアルコール: 18%
スクアレン: 3%
コレステロール: 0.3%
プロピレングリコール: 10%
ラウリル硫酸ナトリウム: 1.5%
水素添加レシチン: 2%
防腐剤: 0.04%
精製水: 100%の残り
との配合が可能である。
【0104】
また例えば、弱油性クリームの配合であれば、
ステアリン酸: 10〜20%
2−オクチルドデカノール:2〜5%
水素添加卵黄レシチン: 0.5〜2%
セタノール: 0.2〜1%
水酸化カリウム: 0.2〜1%
水酸化ナトリウム: 0.1〜0.5%
プロピレングリコール: 4〜15%
香料: 適量
防腐剤: 適量
精製水: 100%の残り
の配合が可能である。
【0105】
より具体的には例えば、
ステアリン酸: 15%
2−オクチルドデカノール:3.2%
水素添加卵黄レシチン: 1%
セタノール: 0.5%
水酸化カリウム: 0.5%
水酸化ナトリウム: 0.2%
プロピレングリコール: 8%
香料: 適量
防腐剤: 適量
精製水: 100%の残り
との配合が可能である。
【0106】
また例えば、乳液の配合であれば、
ステアリン酸: 1〜5%
ラノリン: 1〜5%
2−オクチルドデカノール: 10〜15%
モノステアリン酸ソルビタン: 0.2〜1%
モノステアリン酸ポリオキシエチレン
ソルビタン20E.O.: 1〜4%
水素添加卵黄レシチン: 0.05〜0.5%
トリエタノールアミン: 0.5〜2%
カルボキシビニルポリマー: 0.1〜0.5%
プロピレングリコール: 2〜10%
香料: 適量
防腐剤: 適量
抗酸化剤: 適量
精製水: 100%の残り
の配合が可能である。
【0107】
より具体的には例えば、
ステアリン酸: 2%
ラノリン: 2%
2−オクチルドデカノール: 13%
モノステアリン酸ソルビタン: 0.5%
モノステアリン酸ポリオキシエチレン
ソルビタン20E.O.: 2%
水素添加卵黄レシチン: 0.1%
トリエタノールアミン: 1%
カルボキシビニルポリマー: 0.2%
プロピレングリコール: 4%
香料: 適量
防腐剤: 適量
抗酸化剤: 適量
精製水: 100%の残り
の配合が可能である。
【0108】
(エマルジョン)
本発明の水素添加レシチンは、非水溶性または難水溶性物質を水中で安定化させて各種エマルジョンを形成するために使用され得る。このようなエマルジョンは、本明細書中で説明する各種化粧料用途などに広く利用され得る。
【0109】
(可溶化液)
本明細書中で可溶化液とは、水素添加レシチンにより、非水溶性または難水溶性物質を水中に溶解させて透明な溶液状態になったものをいう。このような可溶化液は、本明細書中で説明する各種化粧料用途などに広く利用され得る。
【0110】
(リポソーム)
本発明のリポソームは、上述した本発明の水素添加レシチンを膜の構成成分として含む、脂質二分子膜からなる閉鎖小胞である。
【0111】
本発明のリポソームには、皮膚に対して親和性の低い水溶性の有効成分を封入することができる。このことにより、皮膚に対して親和性の低い水溶性の有効成分を容易に皮膚に浸透させることができる。また、有効成分の放出をコントロールすることができ、効果を長時間持続させることができる。
【0112】
上記の皮膚に対して親和性の低い水溶性の有効成分の具体例としては、例えば、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸などの水溶性高分子、および植物抽出物由来の保湿剤、美白剤、細胞賦活成分などが挙げられる。
【0113】
またリポソームには、脂溶性または難溶性薬剤を封入してもよい。
【0114】
またリポソームには、糖または荷電物質を封入してもよい。
【0115】
リポソームは、従来公知の方法により作製される。例えば、水素添加レシチンの懸濁液を激しく攪拌して分散した後、超音波処理することにより作製され得る。
【0116】
本発明のリポソームは、構成二分子膜中または膜表面上に脂溶性または難溶性薬剤を保持することができる。本発明のリポソームはまた、皮膚に対する吸収性および親和性が小さい水溶性の有効成分または保湿剤などを内包させることもできる。
【0117】
本発明のリポソームの膜の構成成分としては、本発明の水素添加レシチンに加えて、コレステロールを添加しても良い。
【0118】
本発明のリポソームは、主に経時安定性に優れた化粧料用組成物に好ましく使用され得る。しかし、化粧料用組成物以外の組成物においても使用され得る。例えば、機能薬剤や機能性食材をリポソーム化し、医薬、機能性食品として利用することもできる。
【0119】
(顔料)
本発明の顔料は、上述した本発明の水素添加レシチンにより表面処理される。
【0120】
本明細書中で顔料とは、広義の顔料を意味し、着色顔料のみならず、着色力のない、いわゆる体質顔料および、真珠光沢顔料などの特殊な顔料をも含む。
【0121】
顔料の具体例としては例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、弁柄、黄色酸化鉄、黒色酸化鉄、群青、紺青、酸化クロム、水酸化クロム、マンゴバイオレットなどの無機着色顔料、雲母チタン、オキシ塩化ビスマス等の真珠光沢顔料、タルク、カオリン、雲母類(白雲母、絹雲母など)、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、クレー、硫酸バリウム、炭酸バリウム、珪ソウ土などの無機体質顔料、その他の各種金属粉体、磁性酸化鉄、セラミック粉体などが挙げられる。また、有機粉体、例えばプラスチック粉体、タール色素などの有機顔料も使用できる。更に、無機顔料と有機顔料とを組合せて使用してもよい
顔料の表面処理は、従来公知の方法により行うことができる。
【0122】
例えば、顔料を水またはアルコールなどの分散媒中に分散した後、水素添加レシチンを添加し、必要に応じて加熱する。
【0123】
さらに顔料への水素添加レシチンの結合を強固にするためには、例えば、顔料分散液に水素添加レシチンを添加した後、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ジルコン、チタンなどの可溶性塩(例えば、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウムカリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、塩化チタンなど)の水溶液(例えば、1〜30%水溶液)を水素添加レシチンに対して例えば0.1〜2当量になるように滴下してもよい。これにより、水素添加レシチンは、非水溶性金属塩となり、強固に顔料表面に吸着する。また卵黄油などの中性脂肪油を同時に吸着させることも可能である。
【0124】
その後、遠心分離、または加熱もしくは減圧を用いた乾燥などにより分散媒を除去すれば、水素添加レシチンで表面処理された顔料が得られる。
【0125】
このように表面処理された顔料を用いた化粧料は、滑らかで伸びが良好であり、保湿効果があり、皮膚刺激性が少なく、撥水性の強い化粧料となる。
【0126】
本発明の顔料は、主に経時安定性に優れた化粧料用組成物に好ましく使用され得る。しかし、化粧料用組成物以外の組成物、例えば、電子材料用の組成物、または各種クロマトグラフィーの担体などにおいても使用され得る。
【0127】
以下に実施例および調製例を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0128】
以下の実施例および調製例において、ヨウ素価およびレシチン含量は、以下のようにして測定した。
【0129】
ヨウ素価測定法:
ヨウ素価は、化粧品原料基準一般試験法「45.ヨウ素価測定法」に準じて行った。
【0130】
上記のように、レシチンには、リポソーム形成能があり、ヨウ素がリポソーム中に取り込まれて反応性が低下し、ヨウ素−デンプン反応も阻害されるため、通常のヨウ素価測定法では1以下の低いヨウ素価の測定は極めて不正確となる。よって、本発明者らは、レシチンを加水分解してリポソーム形成能を失わせてからヨウ素価を測定する以下の変法を採用した。レシチン1gをとり、エタノール30mLおよび3N水酸化ナトリウム水溶液3mLを加えて、50℃の温水中で5分間撹拌する。室温にまで冷却した後、酢酸4mLおよびn−ヘキサン30mLを加える。一塩化ヨウ素試液25mlを加えて振り混ぜる。液が透明にならないときは、さらに四塩化炭素を追加した後、密せんをして遮光し、20〜30℃で30分間時々振り混ぜて放置する。次に、ヨウ化カリウム溶液(1→10)20mlおよび水100mlを加えて振り混ぜた後、遊離するヨウ素を0.01mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液滴定する。
レシチン組成測定法:
高速液体クロマトグラフィー、測定条件:
装置: HPLC 6A、10A(島津製作所)
カラム:Lichrosorb Si−60 (Merck)
Radial−Pak cartridge silica (Waters)
移動層:A、n−ヘキサン/2−プロパノール(3/4、v/v)
B、n−ヘキサン/2−プロパノール/水(3/4/0.75、v/v/v)
60%B(0−10分)、100%B(10−25分)、60%B(25−30分)
流量:1.5mL/分
検出器:蒸発光散乱検出器(ELSD)(Varex MK III、 ALTECH)、ドリフト管温度:100℃、ガス流量:1.75SLPM。
【0131】
(調製例1)
卵黄由来精製レシチン(組成、PC:79.8%;PE:13.5%;LPC:1.6%;SM:2.0%;LPE:0.8%)20gを、n−ヘキサン、エタノール、および水の10/2/4(v/v/v)混合溶媒200mLに溶解し、5%白金−活性炭触媒1gを加えた。この混合物を、1.5〜2.0気圧の水素雰囲気中、30〜35℃で52時間撹拌した。反応混合物からセライトを用いて触媒を濾過して除いた。
【0132】
濾液を約140mLまで減圧濃縮し、温アセトン140mLを加えて撹拌後、−10℃まで約5時間をかけて冷却し、析出した水素添加レシチンを濾取し、減圧下に乾燥した。収量は、18.0gであった。
【0133】
必要に応じてエタノールに加熱溶解した後、濃縮・乾燥して残留溶媒をエタノールに置換する。こうして得られた水素添加レシチンは、前記の方法でヨウ素価を精密に測定すると0.03であった。また、レシチン組成は、PC:79.0%;PE:12.8%;LPC:3.1%;SM:1.7%;LPE:1.8%であった。
【0134】
(調製例2)
卵黄由来精製レシチン(組成、PC:79.8%;PE:13.5%;LPC:1.6%;SM:2.0%;LPE:0.8%)20gを、n−ヘキサン、エタノール、および水の10/2/4(v/v/v)混合溶媒200mLに溶解し、クエン酸0.4gおよび5%パラジウム−活性炭触媒2gを加えた。この混合物を、1.5〜2.0気圧の水素雰囲気中、30〜35℃で60時間撹拌した。反応混合物に14%アンモニア水0.8mLを加えてクエン酸を中和しアンモニウム塩として析出させ、以下、調製例1と同様に処理してヨウ素価を測定した。その結果、ヨウ素価0.01、レシチン組成:PC:79.5%;PE:12.5%;LPC:3.2%;SM:1.5%;LPE:1.9%の水素添加卵黄レシチン17.8gを得た。
【0135】
(調製例3)
PC含有量60.5%の卵黄由来精製レシチンを原料として用い、反応時間を55時間としたこと以外は調製例1と同様にして、ヨウ素価0.18の水素添加卵黄レシチンを得た。
【0136】
(調製例4)
PC含有量31.3%の卵黄由来精製レシチンを原料として用い、反応時間を60時間としたこと以外は調製例1と同様にして、ヨウ素価0.25の水素添加卵黄レシチンを得た。
【0137】
(調製例5)
原料のレシチンとして、PC含有率85.6%の大豆レシチンを用いたこと以外は調製例1と同様にして、ヨウ素価0.09の水素添加大豆レシチンを得た。
【0138】
(調製例6)
原料のレシチンとして、PC含有率70.4%の大豆レシチンを用いたこと以外は調製例1と同様にして、ヨウ素価0.21の水素添加大豆レシチンを得た。
【0139】
(調製例7)
原料のレシチンとして、PC含有率30.6%の大豆レシチンを用いたこと以外は調製例1と同様にして、ヨウ素価0.16の水素添加卵黄レシチンを得た。
【0140】
(調製比較例1)
水素添加反応に使用した溶媒を、n−ヘキサンのみからなる溶媒としたこと以外は調製例1と同様にして、ヨウ素価0.50の水素添加卵黄レシチンを得た。
【0141】
(調製比較例2)
水素添加反応に使用した溶媒を、n−ヘキサンのみからなる溶媒としたこと、および反応時間を24時間としたこと以外は調製例1と同様にして、ヨウ素価1.85の水素添加卵黄レシチンを得た。
【0142】
(調製比較例3)
水素添加反応に使用した溶媒を、n−ヘキサンのみからなる溶媒としたこと、および反応時間を60時間としたこと以外は調製例6と同様にして、ヨウ素価0.62の水素添加大豆レシチンを得た。
【0143】
(調製比較例4)
水素添加反応に使用した溶媒を、n−ヘキサンのみからなる溶媒としたこと、および反応時間を24時間としたこと以外は調製例6と同様にして、ヨウ素価2.31の水素添加大豆レシチンを得た。
【0144】
(実施例1)
調製例1で得た水素添加卵黄レシチン(ヨウ素価0.03)と、調製例4で得た水素添加卵黄レシチン(ヨウ素価0.25)と、調製比較例1で作成した水素添加卵黄レシチン(ヨウ素価0.50)と、調製比較例2で作成した水素添加卵黄レシチン(ヨウ素価1.85)とをガラス瓶に密封し、50℃における加速試験で比較した。
【0145】
上記の各種水素添加レシチン粉末をガラス瓶に密封して、50℃で放置し、粉末の色の変化および臭いの変化を観察した。得られた結果を以下の表1に示す。なお、表中で「OK」とは、悪臭が生じなかったことを示す。
【0146】
【表1】

【0147】
(実施例2)
調製例5、6ならびに調製比較例3および4で得られた水素添加レシチン粉末をガラス瓶に密封して、50℃で放置し、粉末の色の変化および臭いの変化を観察した。得られた結果を以下の表2に示す。なお、表中で「OK」とは、悪臭が生じなかったことを示す。
【0148】
【表2】

【0149】
(実施例3)
調製例5、ならびに調製比較例3および4で得られた水素添加レシチン粉末を常法に従い配合して、それぞれ中性クリーム(親水軟膏)を得た。得られた中性クリームの配合は、以下の通りである:
白色ワセリン 25%
ステアリルアルコール 18%
スクアレン 3%
コレステロール 0.3%
プロピレングリコール 10%
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5%
水素添加レシチン 2%
防腐剤 0.04%
(100%の残りは、精製水である)。
【0150】
得られた中性クリームを容器中に密閉し、50℃で放置し、粉末の色の変化および臭いの変化を観察した。得られた結果を以下の表3に示す。なお、表中で「OK」とは、悪臭が生じなかったことを示す。
【0151】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明の好ましい実施形態によれば、以下の水素添加レシチンなどが提供される。
(項1) ヨウ素価が0.3以下である、水素添加レシチン。
(項2) ヨウ素価が0.1以下である、上記項1に記載の水素添加レシチン。
(項3) 前記ヨウ素価が0.3以下であり、かつ、天然レシチン中のリン脂質の組成が維持されている、天然の卵黄由来の水素添加卵黄レシチン。
(項4) ヨウ素価が0.1以下である、上記項3に記載の水素添加卵黄レシチン。
(項5) ヨウ素価が0.3以下である水素添加レシチンを含む、化粧料用組成物。
(項6) 前記水素添加レシチンが水素添加卵黄レシチンである、上記項5に記載の組成物。
(項7) 水素添加レシチンの製造方法であって、
水素雰囲気中、水素化触媒の存在下、脂肪族飽和炭化水素と脂肪族アルコールと水との混合溶媒を含有する反応液中で、天然レシチンを水素化して、ヨウ素価を0.3以下とする工程を包含する、方法。
(項8) 前記脂肪族飽和炭化水素がn−ヘキサンであり、前記脂肪族アルコールがエタノ−ルである、上記項7に記載の方法。
(項9) 前記混合溶媒の混合比率が、
脂肪族飽和炭化水素:脂肪族アルコール:水の体積比として
100:(20〜300):(10〜300)
である、上記項7または8に記載の方法。
(項10) さらに、水素化されたレシチンをアセトンから析出させる工程を包含する、上記項7に記載の方法。
(項11) 上記項1または2に記載の水素化されたレシチンを含む、溶液、エマルジョンまたは可溶化液。
(項12) 上記項1または2に記載の水素添加レシチンを含む、リポソーム。
(項13) 上記項1または2に記載の水素添加レシチンで表面処理された、顔料。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明

【公開番号】特開2011−105768(P2011−105768A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40727(P2011−40727)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【分割の表示】特願平11−375708の分割
【原出願日】平成11年12月28日(1999.12.28)
【出願人】(390024442)株式会社ワイエムシィ (22)
【Fターム(参考)】