説明

高強力高モジュラスフィラメント

【課題】高強力高モジュラスヤーンの提供。
【解決手段】ポリエチレン溶液を多孔紡糸口金26を通してクロスフローガス流中へと押出して、流体生成物33を形成させる。ゲルが生じる温度において、その流体生成物を、約3m/min未満のクロスフローガス流速度を用いて、約25mm未満の長さにわたって、5:1の延伸比で延伸する。その流体生成物を、不混和性液から成る急冷浴中36で急冷してゲル生成物を形成させる。そのゲルから溶媒を除去して、キセロゲルを形成させ、そのキセロゲル生成物を少なくとも二段階で延伸して、少なくとも35g/dの強力、少なくとも1600g/dのモジュラス、及び少なくとも65J/gの破断仕事を特徴とするポリエチレンヤーンを製造する。高ひずみ斜方晶系結晶成分を約60%超の結晶含量で、及び単斜晶系結晶成分を約2%超の結晶含量で有するポリエチレンマルチフィラメントヤーンを得る。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の背景
ポリエチレンのフィラメント、フィルム及びテープは当業において公知である。しかしながら、最近では、前記製品の引張特性は、一般的に、競合材料に比べて、例えばポリアミド及びポリエチレンテレフタレートに比べて平凡である。
【0002】
近年、高分子量ポリオレフィンの高強力(tenacity)フィラメント及びフィルムを調製するための多くの方法が開示されている。本発明は、その全体が引例として本明細書にそれぞれ取り入れられる米国特許第4,413,110号、第4,663,101号、第5,578,374号、第5,736,244号及び第5,741,451号において記載されている方法及び生成物に関する改良である。他の方法も公知であり、それらの方法を用いて、予期外に高強力で高モジュラスの単一フィラメントが調製されてきた。例えば、Polymer Science U.S.S.R., 26, No.9, 2007 (1984) においてA.V. Savitski ら は、強度7.0GPa(81.8g/d)の単一ポリエチレンフィラメントの調製を報告している。日本国特許JP−A59/216913では、モジュラス216GPa(2524g/d)の単一フィラメントが報告されている。しかしながら、紡糸技術において公知であるように、強いヤーンを製造する難しさは、フィラメントの数が増すと共に増大する。
【0003】
本発明の目的は、ユニークで新規な微構造と極めて高い靭性とを有する高強力(tenacity)高モジュラスポリエチレンマルチフィラメントヤーンを提供することである。前記マルチフィラメントヤーンは、対弾道複合材料(anti-ballistic composites)において砲弾のエネルギーを吸収するのに予期外に有効である。
【0004】
その利点と共に本発明の他の目的は、以下の説明から理解される。
発明の概要
本発明は、次の工程:すなわち、約4dl/g から40dl/gの固有粘度(135℃のデカリン中で測定した)を有する、ポリエチレンと溶媒との溶液を、多孔紡糸口金(multi-orifice spinneret)を通してクロスフロー(cross-flow)ガス流の中に押出して、流体生成物を形成させる工程;(ゲルが生じる温度を超える温度において)その流体生成物を、約3m/min未満のクロスフローガス流速度を用いて、約25mm未満の長さにわたって、少なくとも5:1の延伸比で延伸する工程;その流体生成物を、不混和性液から成る急冷浴中で急冷してゲル生成物を形成させる工程;そのゲル生成物を延伸する工程;そのゲル生成物から溶媒を除去して、実質的に溶媒を有していないキセロゲル生成物を形成させる工程;及び少なくとも35g/dの強力、少なくとも1600g/dのモジュラス、及び少なくとも65J/gの破断仕事(work-to-break)を特徴とするポリエチレンマルチフィラメントヤーンを製造するのに充分な総延伸比で、そのキセロゲル生成物を延伸する工程を含む高強力高モジュラスマルチフィラメントヤーンを調製する方法に関する。
【0005】
本方法は、更に、約500min−1を超える引張速度(extension rate)で流体生成物を延伸する工程を含む。
押出工程は、好ましくは、吐出孔(orifice)それぞれが、先細入口領域(tapered entry region)と、その先に横断面が一定の領域とを有し、且つ長さ/横の寸法の比が約10:1を超えていることを特徴とする多孔紡糸口金を用いて行う。更に、長さ/横の寸法が約25:1を超えていても良い。
【0006】
本発明は、更に、1つのフィラメントあたり約0.5デニールから約3デニール(dpf)、少なくとも35g/dのヤーン強力、少なくとも1600g/dのモジュラス、及び少なくとも約65J/gの破断仕事を有する、約12から約1200のフィラメントから成るポリエチレンマルチフィラメントヤーンを含む。本発明のマルチフィラメントヤーンは、更に、高ひずみ斜方晶系結晶成分を約60%超の結晶含量で、また単斜晶系結晶成分を約2%超の結晶含量で有することを特徴としている。好ましい態様では、本発明のヤーンは、約0.7から約2dpfのデニール、約45g/dのヤーン強力、約2200g/dのモジュラス、結晶含量約60%超で高ひずみ斜方晶系結晶成分、及び結晶含量約2%超で単斜晶系結晶成分を有する約60から約480のポリエチレンフィラメントを含む。
【0007】
また、本発明は、少なくとも約35g/dの強力、少なくとも1600g/dのモジュラス、少なくとも約65J/gの破断仕事を有するポリエチレンマルチフィラメントヤーンを含み、且つ該ヤーンが、結晶含量約60%超で高ひずみ斜方晶系結晶成分及び結晶含量約2%超で単斜晶系結晶成分を有することを特徴としている複合パネルも含む。
【0008】
本発明は、更に、試験手順NILECJ−STD−0101.01を用いる38口径弾に対して、少なくとも約300J・m/Kgの複合材料の比エネルギーを有する弾道抵抗性複合パネル(ballistic resistant composite panel)を含む。
【0009】
発明の詳細な説明
高強度、高モジュラス、高靭性、高い寸法安定性及び加水分解安定性を有する耐力ベアリングを必要とする多くの用途が存在する。例えば、海用のロープ及びケーブル、例えば積荷ステーションにタンカーを係留するために用いられる係船索及び水中のアンカーに対してドリリングプラットフォーム(drilling platform)を固定するために用いられるケーブルは、現在、海水による加水分解作用又は腐蝕作用に対して暴露されるナイロン、ポリエステル、アラミド及び鋼から作られている。その結果、前記の係船索及びケーブルは、有意な安全率を有するように作られ、しばしば交換される。重量の大きな増加及び頻繁な交換のためのニーズは、実質的に運用上の及び経済的な重荷になっている。高強力高モジュラスヤーンは、対弾道複合材料の作製において、スポーツ用品、ボートの船体及び円材において、高性能の軍用及び航空宇宙用途、高圧容器、病院用品、及びインプラント及び人工装具を含む医療用途においても用いられる。
【0010】
本発明は、高強力高モジュラスヤーンを調製する改良方法である。本発明で用いられるポリマーは結晶可能なポリエチレンである。「結晶可能」という用語は、部分的に結晶質の物質に起因するX線回折を示すポリマーを意味している。
【0011】
而して、本発明は、約4dl/gから約40dl/gの固有粘度(135℃のデカリン中で測定した)を有するポリエチレンと溶媒との溶液を多孔紡糸口金を通してクロスフローガス流中に押出して、マルチフィラメント流体生成物を形成させる工程を含む高強力高モジュラスマルチフィラメントヤーンを調製する方法に関する。マルチフィラメント流体生成物は、ゲルが形成する温度を超える温度において、約3m/分未満のクロスフローガス流速度を用いて、約25mm未満の長さにわたって、少なくとも5:1の延伸比で延伸する。次に、その流体生成物を、不混和性液から成る急冷浴中で急冷してゲル生成物を形成させる。そのゲル生成物を延伸する。そのゲル生成物から溶媒を除去して、実質的に溶媒を有していないキセロゲル生成物を形成させる。少なくとも35g/dの強力、少なくとも1600g/dのモジュラス、及び少なくとも65J/gの破断仕事を有するポリエチレン製品を製造するのに充分な総延伸比で、そのキセロゲル生成物を延伸する。
【0012】
「キセロゲル」という用語は、シリカゲルに対する類推から由来し、本明細書で用いているように、ガスによって(例えば、窒素のような不活性ガスによって又は空気によって)置換される液体を有する湿潤ゲルの固体マトリックスに対応する固体マトリックスを意味している。キセロゲルは、ポリマーの立体網目構造(solid network)が損なわれない条件下で乾燥させることによって、第二溶媒が除去されるときに形成される。
【0013】
更に、本発明は、上記方法によって製造されるヤーンを含む。本発明のヤーン及びフィラメントは、結晶含量約60%超で斜方晶系結晶成分、及び/又は結晶含量約2%超で単斜晶系結晶成分を含む高ひずみ斜方晶系結晶成分によって特徴付けられるユニークで新規な微構造を有する。以下の実施例で考察してあるように、前記ヤーンは、対弾道複合材料において砲弾のエネルギーを吸収するのに予期外に有効である。「ヤーン」は、それらの長さに比べてはるかに小さい横断面寸法を有する複数の独立フィラメントを含む伸張体(elongated body)と規定されると理解される。更に、ヤーンという用語は、ヤーンを含むフィラメントの形状に関して、又はフィラメントをヤーンの中に組み入れる方法に関してなんらの限定も加えない。個々のフィラメントは、横断面形又は不規則な形状であることができ、ヤーン内において互いに絡み合っているか又は平行に並んでいることができる。ヤーンは、捩じれているか、又は秩序正しい配置から逸脱していても良い。
【0014】
本発明の方法で用いられるポリエチレンは、約4dl/gから約40dl/gの固有粘度(IV)(135℃のデカリン中で測定した)を有する。好ましくは、ポリエチレンは12dl/gから30dl/gのIVを有する。
【0015】
ポリエチレンは、いくつもの商業的な方法によって、例えばチーグラー法によって作ることができ、例えばプロピレン又は1−ヘキセンのような別のアルファオレフィンを組み込むことによって生成される側鎖を少量含むことができる。好ましくは、1000個の炭素原子あたりのメチル基の数によって測定される側鎖の数は、約2未満である。更に好ましくは、側鎖の数は、1000個の炭素原子あたり約1未満である。最も好ましくは、側鎖の数は、1000個の炭素原子あたり約0.5未満である。また、ポリエチレンは、流動促進剤、酸化防止剤及びUV安定剤などを半量未満、10重量%未満、好ましくは5重量%未満含んでいても良い。
【0016】
本発明で用いられるポリエチレンのための溶媒は、紡糸条件下で不揮発性であるべきである。好ましいポリエチレン溶媒は、初期沸点が350℃を超える完全飽和白色鉱油であるが、他のより低沸点の溶媒、例えばデカヒドロナフタレン(デカリン)を用いることもできる。
【0017】
図1を参照されたい。本発明の生成物を調製するために用いられる装置10の概略図である。ポリエチレンの溶液又は溶融液は、任意の適当なデバイスにおいて、例えば加熱ミキサー、長い加熱管、又は一軸もしくは二軸押出機において形成することができる。前記デバイスは、ポリエチレン溶液を、定容量紡糸ポンプ(constant displacement metering pump)へと、更に次に、一定の濃度及び温度で紡糸口金へと送達できる必要がある。ポリエチレン溶液を作るための加熱ミキサー12は図1に示してある。溶液中のポリエチレンの濃度は少なくとも約5重量%であるべきである。
【0018】
ポリエチレン溶液は、バレル16を含む押出機14へと送達される。バレル16内には、一定の流量で歯車ポンプ22へとポリマー溶液を送達するための、モーター20によって駆動されるスクリュー18が存在している。モーター24は、歯車ポンプ22を駆動させ、紡糸口金26を通してポリマー溶液を押出すために取り付けてある。押出機14及び紡糸口金26へと送達される溶液の温度は、130℃から330℃であるべきである。好ましい温度は、溶媒と、ポリエチレンの濃度及び分子量とに左右される。高濃度及び高分子量では、高い温度を用いる。押出機及び紡糸口金の温度は、同じ温度範囲にあるべきであり、好ましくは、溶液温度に等しいか又はそれよりも高い温度である。
【0019】
図1を参照しつつ、図2を参照されたい。図2は、紡糸口金26の吐出孔に関する横断面図である。紡糸口金孔(spinneret hole)28は、先細入口領域30と、その先に一定横断面セクションのキャピラリー領域32を有しているべきであり、その場合、長さ/直径(L/D)比は、約10:1超、好ましくは約25:1超、最も好ましくは約40:1超である。キャピラリーの直径は、0.2から2mm、好ましくは0.5から1.5mmであるべきである。
【0020】
ポリエチレン溶液は、紡糸口金26から押出されて、マルチフィラメント流体生成物33を形成し、その流体生成物33は、スピンギャップ(spin gap)34を通って、急冷浴36中に入って、ゲル37を形成する。紡糸口金26と急冷浴36との間のスピンギャップ34の寸法は、約25mm未満、好ましくは約10mm未満、最も好ましくは約3mmである。最高の引張特性を有する最も均質なヤーンを得るために、スピンギャップ34は一定であることが不可欠であり、また急冷浴36の表面の摂動が最小であることが不可欠である。
【0021】
スピンギャップ34におけるガス速度は、流体生成物に対して横方向であり、自然対流又は強制対流のいずれかによって引き起こされ、また前記速度は、約3m/min未満、好ましくは約1m/min未満でなければならない。この領域における横方向ガス速度は、例えばアリゾナ州スコッツデールにあるShortridge Instruments Inc. によって製造されているAirdata Multimeter Model ADM-860のような指向性の風速計(directional anemometer)によって測定することができる。
【0022】
スピンギャップ34(「ジェット延伸(jet draw)」)における流体生成物の延伸比は、第一駆動ローラー38の表面速度 対 紡糸口金26から吐出している流体生成物33の速度の比によって測定される。このジェット延伸は、少なくとも約5:1、好ましくは少なくとも約12:1でなければならない。
【0023】
急冷液は、ポリエチレン溶液を調製するために用いられる溶媒と混和しない任意の液体であることができる。好ましくは、水、又は0℃未満の凝固点を有する水性媒体、例えば水性ブライン又はエチレングリコール溶液である。急冷液がポリエチレン溶媒と混和性であることは、生成物の特性に対して有害であることが
見出された。急冷浴の温度は約−20℃から20℃であるべきである。
【0024】
本発明の重要な面は、紡糸口金孔の寸法、ダイと急冷浴との間のギャップにおける流体生成物の延伸比、スピンギャップの寸法、及びスピンギャップにおけるクロスフローの速度である。これらの因子は、スピンギャップにおける溶液フィラメントの伸張速度(extension rate)及び急冷浴における急冷速度を確立するのに最も重要である。また、これらの因子は、得られるフィラメント微構造及びその特性の決定要因である。
【0025】
スピンギャップにおける流体フィラメントの伸張速度は、以下のようにしてダイ出口速度、ジェット延伸比及びスピンギャップの寸法から計算することができる。ダイ出口速度は、紡糸口金孔(吐出孔)の出口における流体フィラメントの速度である。
【0026】
伸張速度、min−1 = ジェット延伸比 x (ダイ出口速度、mm/min−1)/スピンギャップ、mm
スピンギャップにおける流体フィラメントの伸張速度は、少なくとも約500min−1であるべきであり、好ましくは約1000min−1超であるべきである。
【0027】
ゲルが急冷浴を出たら、ゲルを室温で最大に延伸する。紡糸溶媒は、トリクロロトリフルオロエタン中でゲルを還流することによって、Sohxlet抽出器で抽出することができる。次に、ゲルを乾燥させ、得られたキセロゲルを、約120℃から約155℃の温度において、少なくとも2つの段階で熱間延伸する。
【0028】
以下、実施例を掲げて、本発明を更に詳細に説明するが、実施例によって本発明が限定されるものと解釈すべきではない。
実施例1〜5
比較実施例A〜O及び実施例1〜5
Atlantic Research Corporationによって製造されたオイルジャケット付きダブルヘリカル(Helicone)ミキサーに、線状ポリエチレンを12重量%、鉱油(Witco,“Kaydor”) を87.25重量%及び酸化防止剤(Irganox B-225')を0.75重量%入れた。線状ポリエチレンは、18dl/gの固有粘度及び1000個の炭素原子あたり0.2未満のメチル枝を有するHimont UHMW 1900であった。ミキサー中の装入物を攪拌しながら240℃まで加熱して、均質なポリマー溶液を形成させた。ミキサーの底部放出口(bottom discharge opening)は、ポリマー溶液が、まず最初に歯車ポンプへと、次に250℃に維持された16孔紡糸口金へと供給されるように適合させた。紡糸口金の孔は、それぞれ、直径1.016mm及びL/D100:1であった。歯車ポンプの速度は、ダイに対して16cm/minで送達するように設定した。
【0029】
押出された溶液フィラメントをスピンギャップに通し、そこで溶液フィラメントを延伸し、次に9〜12℃の水急冷浴中に入れた。空気流速度(air flow velocity)は、自然対流の結果として又は近接送風機によって維持されて、スピンギャップにおいて、前記フィラメントに対して横方向に存在していた。溶液フィラメントが急冷浴に入ると、それらは急冷されてゲルヤーン(gel yam)が得られた。そのゲルフィラメントを、急冷浴中にあるフリーホィーリングローラー(free-wheeling roller)下を通過させ、スピンギャップにおける延伸比を設定する駆動ゴデットへと出した。
【0030】
水急冷浴に残留しているゲルヤーンを、室温で延伸し、芯上に集めた。還流しているトリクロロトリフルオロエタン(TCTFE)を用いてSohxlet装置中において、そのゲルヤーンから鉱油を抽出した。次に、ゲルヤーンを風乾してキセロゲルを生成させ、最初に120℃で、次に150℃において、二段階で熱間延伸した。延伸比は、ゲルヤーン及びキセロゲルヤーンを延伸する各段階で最大化された。
【0031】
表Iは、いくつもの比較実施例(A〜O)及び実施例1〜5に関して、スピンギャップにおける流体フィラメントのジェット延伸比、スピンギャップの長さ、スピンギャップにおける横方向の空気速度、及びスピンギャップにおける伸張速度を示している。また、表Iは、引例として本明細書に取り入れられるASTMD2256によって測定される、固相延伸比(室温でのゲル延伸比と熱間延伸比との積に等しい)、総延伸比(ジェット延伸比と固相延伸比との積に等しい)及び最終ヤーン特性も示している。比較実施例A〜Oでは、いずれの場合も、スピンギャップは25mm超であり、ジェット延伸は5.0:1未満であり、横方向の空気速度は1m/min超であり、又はスピンギャップにおける伸張速度は約500min−1未満であった。また、これらの比較実施例では、平均ヤーン強力は33g/dを超えておらず、また平均ヤーンモジュラスも1840g/dを超えなかった。
【0032】
対照として、実施例1〜5では、上記紡糸条件のすべてを満たしていた。実施例1では、ジェット延伸は6.0であり、スピンギャップは6.4mmであり、横方向の空気速度は0.76m/minであり、スピンギャップにおける伸張速度は968min−1であったことが認められる。これらの紡糸条件の結果として、ヤーン強力は38g/dであり、モジュラスは2000g/dであった。
【0033】
実施例2〜5では、横方向の空気速度は0.76m/minに維持され、スピンギャップは3.2mmまで更に短くし、ジェット延伸(比)は、それぞれ9.8、15、22.7及び33.8と変化した。ヤーン強力は、最大53g/dまで増加し、ヤーンモジュラスは、ジェット延伸22.7においてピークの2430g/dであったことが認められる。
【0034】
【表1】

【0035】
実施例6
ヤーンの調製及び引張特性
鉱油中8.0重量%スラリーポリエチレンを、直径40mm及びL/D43:1の共回転Berstorif二軸スクリュー押出機に供給した。ポリエチレンのIVは27であり、検出可能な分枝を有していなかった(1000個の炭素原子あたりメチル0.2未満)。ポリエチレンは、押出機を横断しているときに、鉱油中に溶解した。押出機から、ポリエチレン溶液を歯車ポンプ中に通し、次に、320℃に維持された60フィラメント紡糸口金中に通した。紡糸口金の各孔は、直径1mm及びL/D40:1であった。紡糸口金の各孔を通る体積流量は1cc/minであった。押出された溶液フィラメントを3.2mmの空隙ギャップ(air gap)に通し、そこで前記フィラメントを15:1に延伸し、次に9℃の水急冷浴中に入れる。自然対流の結果としてのスピンギャップにおけるフィラメントに対して横方向の空気流速度は0.8m/minであった。溶液フィラメントが急冷浴に入ると、それらは急冷されてゲルヤーンが生成した。そのゲルフィラメントを、急冷浴中にあるフリーホィーリングローラー下を通過させ、スピンギャップにおける延伸比を設定する駆動ゴデットへと出した。
【0036】
水急冷浴に残留しているゲルヤーンを、室温で3.75:1に延伸し、45℃の温度のトリクロロトリフルオロエタン(CFC−113)流に対して向流にして洗浄機キャビネット中に通した。この経路によって、ヤーンから鉱油を抽出し、CFC−113と交換した。次に、洗浄機を横断しているときに、ゲルヤーン1.26:1に延伸した。
【0037】
CFC−113を含むゲルを、温度60℃の乾燥キャビネット中に通した。乾燥状態で乾燥機からヤーンを出し、更に1.03:1に延伸した。
乾燥したヤーンを巻き取って包装し、二段階延伸ベンチへと送る。そこでヤーンを136℃で5:1及び150℃で1.5:1に延伸した。
【0038】
この60フィラメントヤーンの引張特性(ASTM D2256)は:
0.9デニール/フィラメント;
強力45g/d;
モジュラス2190g/d;及び
破断仕事78J/g
であった。
【0039】
実施例7
A.高ひずみ結晶成分
従来技術のヤーンの微構造及び実施例6のヤーンを、広角X線回折で分析した。図3aは、無負荷下で−60℃における、Honeywell international Inc.によって製造されている市販のSPECTRA(登録商標)1000ヤーンに関する002回折ピークによる経線スキャンを示している。図3bは、ヤーンが破断するのにはほんの少し足りない
引張ひずみ下での同じピークを示している。002回折がシフトし分裂していることが認められる。高い方のアングルピーク(angle peak)は低ひずみ結晶成分に対応していて、低い方のアングルピークは高ひずみ結晶成分に対応している。高ひずみ結晶成分の割合は58%である(相対ピーク面積で決定した)。
【0040】
図4は、破断ひずみにはほんの少し足りない引張ひずみ下で−60℃におけるDYNEEMA(登録商標)SK77 高モジュラスポリエチレンヤーンの002回折ピークによる経線スキャンを示している。高ひずみ結晶成分の割合は50%を少し超えるぐらいであることが認められる。
【0041】
図5aは、 無負荷下で−60℃の温度における、実施例6のヤーンに関する002回折ピークによる経線スキャンを示している。図5bは、ヤーンの破断にはほんの少し足りない引張ひずみ下での同じピークを示している。高ひずみ結晶成分の割合は85%である。他のヤーンは、高ひずみ結晶成分の割合は高くなかった。
B.単斜晶系結晶成分含量
広角X線回折によって、多くの他の高モジュラスポリエチレンヤーン及び実施例6のヤーンの単斜晶系結晶含量を測定した。その結果は表IIに示してある。
【0042】

表II
ヤーン 単斜晶系含量%
SPECTRA 900 <0.5
SPECTRA 1000 0.74
Dyneema SK75 1.8
Dyneema SK77 1.8
実施例6 4.1

実施例6のヤーンの単斜晶系結晶含量の割合が、他の市販されている高モジュラスポリエチレンヤーンのそれをはるかに超えていることが認められる。
C.対弾道特性
実施例6の60フンラメントヤーンの4つの端を撚って240フィラメントヤーンを作った。そのヤーンを用いて、2つの異なる弾丸に対する弾道有効性(ballistic effectiveness )に関して、標準的な市販のSPECTRA SHIELD(登録商標)複合パネルと比較試験するために、柔軟な複合パネルを作った。2つのパネルは、同じ繊維体積分率及び同じマトリックス樹脂を用いて作った。17グレーン破片(grain fragment)による試験では、規定の重量、硬度及び寸法(Mil-Spec. MIL-P 46593A(ORD))の22口径不変形鋼破片を用いた。38口径弾による試験は、試験手順NILECJ−STD−0101.01にしたがって行った。構造の防護力は、通常、弾丸の50%が止められるV50値と呼ばれる衝撃速度を記載することによって表す。弾道抵抗性複合材料の有効性に関する別の有用な尺度は、V50における弾丸の運動エネルギー 対 複合材料の面密度の割合(ADC)である。前記割合は、複合材料の比エネルギー吸収(SEAC)と呼ばれる。弾道発射試験(ballistic firing tests)の結果は表IIIに示してある。
【0043】
【表2】

【0044】
実施例6のヤーンから調製された複合材料は、他の市販の標準物と比較して、著しく改良された対弾道特性(anti-ballistic properties)を有していたことが認められる。
17グレーン破片は硬化鋼弾丸(hardened steel projectile)である。図6は、上記標的に対して弾丸を試験した後の弾丸の写真である。実施例6のヤーン複合材料によって止められた弾丸は衝撃によって変形したことが認められる。他の市販の標準製品によって止められた弾丸は変形しなかった。この事実も、本発明のヤーンの優れた対弾道特性を示唆している。
【0045】
本発明の有用性及び用途を拡大できることは当業者には容易に理解される。本明細書に記載した以外の本発明の多くの態様及び適応、ならびに多くの変法、改良及び等価な配置は、本発明の主題及び範囲から逸脱せずに、本発明及び上記説明から明らかであるか又は合理的に示唆される。
【0046】
而して、本発明を、その好ましい態様に関して詳細に説明してきたが、この開示は、本発明のほんの説明と例示であって、本発明の完全で実際的な開示を提供するためだけのものであると理解すべきである。上記開示は、本発明を限定するものと解釈されることを意図しておらず、任意の他の態様、適応、変法、改良又は等価な配置を含む。本発明は、本発明のクレーム及びクレームの等価物によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0047】

【図1】本発明の生成物を調製するために用いられる装置の概略図である。
【図2】本発明にしたがう紡糸口金の吐出孔に関する横断面図である。
【図3】広角X線回折から得られた結果を示していて、(a)は、負荷無しにおいて、−60℃の温度で、市販のSPECTRA(登録商標)1000ポリエチレンヤーンに関する002回折ピークによる経線スキャン(meridional scan)を示しているプロットであり;及び(b)は、破断ひずみに少し不足の引張ひずみ下において、−60℃の温度で、市販のSPECTRA 1000 ヤーンに関する002回折ピークによる経線スキャンを示しているプロットである。SPECTRA 1000は、バージニア州コロニアルハイツにあるHoneywell International Inc.から市販されている製品である。
【図4】破断ひずみにほんの少し不足の引張ひずみ下において、−60℃の温度で、オランダ国にあるDSM HPFから市販されているDYNEEMA(登録商標)SK77高モジュラスポリエチレンヤーンに関する002回折ピークによる経線スキャンの広角X線回折から得られた結果を示しているプロットである。
【図5】広角X線回折から得られた結果を示していて、(a)は、負荷無しにおいて、−60℃の温度で、実施例6のヤーンに関する002回折ピークによる経線スキャンを示しているプロットであり;及び(b)は、ヤーン破断ひずみにほんの少し不足の引張ひずみ下における同じピークを示しているプロットである。
【図6】市販のSPECTRA SHIELD材料と、本発明の実施例6のヤーンから作製された複合パネルから成る標的を試験した後の弾丸を示している図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも35g/dの強力、少なくとも1600g/dのモジュラス、及び少なくとも65J/gの破断仕事を有し、且つ高ひずみ斜方晶系結晶成分を約60%超有することを特徴とするポリエチレンマルチフィラメントヤーン。
【請求項2】
少なくとも35g/dの強力、少なくとも1600g/dのモジュラス、及び少なくとも約65J/gの破断仕事を有し、且つ単斜晶系結晶成分を約2%超の結晶含量で有することを特徴とするポリエチレンマルチフィラメントヤーン。
【請求項3】
少なくとも35g/dの強力、少なくとも1600g/dのモジュラス、及び少なくとも65J/gの破断仕事を有し、且つ高ひずみ斜方晶系結晶成分を約60%超の結晶含量で、また単斜晶系結晶成分を約2%超の結晶含量で有することを特徴とするポリエチレンマルチフィラメントヤーン。
【請求項4】
試験手順NILECJ−STD−0101.01を用いる38口径弾に対して、少なくとも300J・m2/KgのSEACを有する対弾道複合パネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−208347(P2011−208347A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108338(P2011−108338)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【分割の表示】特願2001−570880(P2001−570880)の分割
【原出願日】平成13年3月27日(2001.3.27)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】