説明

高強度、高靱性Al−Zn合金製品およびそのような製品の製造方法

本発明は、良好な耐食性を維持することにより、高靱性と高強度の組合せが改良されたAl−Zn合金鍛造製品およびそのような製品の製造方法に関し、該合金は、(質量%で)、Zn6.0〜11.0、Cu1.4〜2.2、Mg1.4〜2.4、Zr0.05〜0.15、Ti<0.05、Hfおよび/またはV<0.25、および所望によりScおよび/またはCe0.05〜0.25、およびMn0.05〜0.12、他の元素各0.05未満、合計で0.50未満を包含し、残りがアルミニウムであり、そのような合金は、完成した製品のT/10位置で実質的に完全に再結晶化されていない微小構造を有する。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、良好な耐食性を維持するために大量のZnを含む、高強度、高靱性Al−Zn合金の鍛造された製品、およびそのような高強度、高靱性Al−Zn合金の製造方法、およびそのような合金の板製品に関する。より詳しくは、本発明は、構造的航空用途に関するアルミニウム協会(Aluminum Association)の国際命名法でAA7000シリーズと呼ばれる、高強度、高靱性Al−Zn合金に関する。さらに詳しくは、本発明は、良好な耐食性を維持することにより、強度および靱性の組合せが改良された、特別な時効または焼戻しを必要としないAl−Zn合金を得るための、新規な化学組成範囲(chemistry window)に関する。
【発明の背景】
【0002】
この分野では、熱処理可能なアルミニウム合金を、比較的高い強度、高い靱性および耐食性が関与する多くの用途、例えば航空機の機体、車両部材、その他の用途に使用することが公知である。アルミニウム合金AA7050およびAA7150は、T6型焼戻しで高強度を示す。析出硬化させたAA7x75、AA7x55合金製品も、T6焼戻しで高い強度値を示す。T6焼戻しは、合金の強度を高めることが知られており、その際、大量の亜鉛、銅およびマグネシウムを含む上記のAA7x50、AA7x75およびAA7x55合金製品は、それらの強度−対−重量比が高いことで知られており、従って、特に航空機工業で使用されている。しかし、これらの用途では非常に様々な気象条件にさらされるので、応力腐食および剥離の両方を含む腐食に対する十分な強度および耐性を与えるために、作業および時効条件を慎重に管理する必要がある。
【0003】
応力腐食および剥離ならびに破壊靱性に対する耐性を高めるために、これらのAA7000シリーズ合金を人工的に過時効にかけることが公知である。T79、T76、T74またはT73型焼戻しに人工的に時効にかけると、それらの応力腐食、剥離腐食に対する耐性および破壊靱性が上記の順で、ただしT6焼戻し条件と比較した強度を犠牲にして、改良される(T73が最良であり、T79はT6に近い)。より妥当な焼戻し条件は、T74型焼戻しであり、これは、妥当なレベルの引張強度、応力腐食耐性、剥離腐食耐性および破壊靱性を得るための、T73とT76の間の制限された過時効である。そのようなT74焼戻しは、アルミニウム製品を温度121℃で6〜24時間、続いて171℃で約14時間過時効にかけることによって行われる。
【0004】
特定の航空機構成部品のための設計基準に応じて、強度、靱性または耐食性における小さな改良でも、重量が低下し、これが、とりわけ航空機の耐用寿命全体にわたる燃費の向上につながる。これらの要求に応えるために、他の幾つかの7000シリーズ型合金が開発されている。
【0005】
例えば、欧州特許第0377779号、米国特許第5,221,377号および第5,496,426号は、それぞれ、航空宇宙分野における、高い靱性および良好な腐食特性を備えたシートまたは薄板用途、例えば上側翼部材、向けの合金製品および7055合金の改良された製造方法であって、質量%で、Zn7.6〜8.4、Cu2.2〜2.6、Mg1.8〜2.1または2.2、およびZr、Mn、VおよびHfから選択された一種以上の、合計で0.6質量%を超えない、元素、残りの部分を構成するアルミニウムおよび不可避不純物からなる組成を有する素地を加工する工程、該製品を溶体化熱処理および急冷する工程、および該製品を、順に79℃〜163℃の一種以上の温度で3回熱処理するか、またはそのような製品を先ず79℃〜141℃の一種以上の温度に2時間以上加熱し、該製品を148℃〜174℃の一種以上の温度に加熱することにより、人工的時効にかける工程を含んでなる方法を開示している。これらの製品は、「EB」またはそれより優れた、改良された剥離腐食耐性を示し、T76焼戻し条件における類似サイズの7x50対抗品よりも約15%大きな降伏強度を示す。これらの製品は、さらに、類似サイズの7x50−T77対抗品(7150−T77は、以下に基準合金として使用する)より少なくとも約5%高い強度を示す。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、好ましくは板製品用の、高い(圧縮)強度および高い靱性を有する、改良されたAl−Zn合金を提供することである。耐食性は低下すべきではない。
【0007】
より詳しくは、本発明の目的は、航空宇宙分野における上側翼用途に使用できる、圧縮降伏強度が改良され、単位伝播エネルギー(unit propagation energy)が高く、従来のT77焼戻しにおけるAA7055合金の特性より優れた特性を有する合金製品を提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、T6型焼戻しの範囲内にある強度およびT73型焼戻しの範囲内にある靱性および耐食性を示す、AA7000−シリーズアルミニウム合金を得ることである。
【0009】
本発明の別の目的は、本発明のアルミニウム合金製品を製造する方法を提供することである。
【0010】
本発明は、これらの目的の一つ以上を、独立請求項の特徴により達成する。さらに、好ましい実施態様を従属請求項に記載し、規定する。
【好ましい実施態様の詳細な説明】
【0011】
以下に記載するように、他に指示がない限り、合金の名称および焼戻しの名称は、すべて米国アルミニウム協会(US Aluminum Association)から出版されているアルミニウム標準およびデータおよび登録記録(Aluminum Standards and Data and the Registration Records)におけるアルミニウム協会名称による。
【0012】
本発明の上記目的の一つ以上は、良好な耐食性を維持することにより、高靱性と高強度の組合せが改良されたAl−Zn合金製品を使用することにより達成され、該合金は、(質量%で)
Zn:6.0〜11.0
Cu:1.4〜2.2
Mg:1.4〜2.4
Zr:0.05〜0.15
Ti:0.05未満
Hfおよび/またはV:0.25未満、
所望によりScおよび/またはCe:0.05〜0.25、および
所望によりMn:0.05〜0.12、
および不可避不純物および残部アルミニウム、好ましくは他の元素各0.05未満、合計で0.50未満を含んでなり、好ましくは上記成分からなり、該合金製品は、完成した製品のT/10位置で実質的に完全に再結晶化されていない微小構造を有する。
【0013】
AA7000シリーズ合金に対するそのような化学組成範囲は、好ましくは航空宇宙用上側翼用途に使用できる、ゲージが20mm〜60mmの比較的薄い板製品に製造した時に、優れた特性を示す。
【0014】
上に規定する合金は、上記の手間の掛かる複雑なT77の3工程時効サイクルを使用せずに、T77焼戻しにおけるAA7x50またはAA7x55シリーズの既存の合金と同等であるか、またはより優れた特性を有する。この化学組成から得られるアルミニウム製品は、コスト的により有利であるのみならず、必要な処理工程が少ないので、製造も簡単である。さらに、この化学組成には、T77焼戻し合金を使用した場合には適用できない新規な製造技術、例えば時効成形または時効クリープ成形、が可能である。上に規定する化学組成は、T77焼戻しに時効処理することもでき、その際、耐食性がさらに改良される。
【0015】
本発明の、大量のZnおよび特別な範囲のMgとCuの特殊な組合せを使用する、元素の選択された範囲により、強度および靱性の非常に優れた組合せが得られ、良好な腐食性能、例えば剥離腐食耐性および応力腐食割れ耐性、が維持されることが分かった。
【0016】
本発明は、この化学組成を、以下に説明するような、そのような化学組成から圧延された製品を製造する方法との組合せでも使用し、完成した製品のT/10位置で実質的に完全に再結晶化されていない微小構造を得る。より好ましくは、この製品は、厚さ全体にわたって再結晶化されていない。再結晶化されていないとは、我々は、完成した圧延製品のゲージの80%強、好ましくは90%強が、実質的に再結晶化されていないことを意味する。このため、本発明は、航空機用の上側翼外板に特に好適であり、厚さが20〜60mm、好ましくは30〜50mmである合金製品を開示する。
【0017】
優れた圧縮降伏強度および靱性を得るために、圧延した製品をゆっくり冷却するか、または圧延した製品のゲージを増加する必要はないことが分かった。
【0018】
銅およびマグネシウムは、合金に強度を付与するための重要な元素である。マグネシウムおよび銅の量が低過ぎると、強度が低下するのに対し、マグネシウムおよび銅の量が高過ぎると、腐食性能が悪くなり、合金製品の溶接性に関する問題が生じる。先行技術は、特殊な時効手順を使用して強度を改良し、良好な腐食性能を達成するために、少量のマグネシウムおよび銅を使用している。強度、靱性および腐食性能を調和させるために、銅およびマグネシウムの量を(質量%で)、Mgに関して1.7〜2.2%、好ましくは、1.7〜2.1%、Cuに関して1.8〜2.1%にすることにより、薄い板製品で良好なバランスが得られることが分かった。本発明で特許権請求する化学組成全体にわたって、T74焼戻し合金の特性に類似した腐食性能を維持しながら、T6焼戻し合金の領域にある強度レベルを達成することができる。
【0019】
マグネシウムおよび銅の量とは別に、本発明は、マグネシウムおよび銅の亜鉛に対するバランス、特にマグネシウムの亜鉛に対するバランスを開示するが、これが合金にこれらの性能特性を与えている。本発明の合金の改良された耐食性は、EB以上の、好ましくはEA以上の剥離特性(「EXCO」)を有する。
【0020】
亜鉛の量(質量%で)は、好ましくは7.4〜9.6%の範囲内、より好ましくは8.0〜9.6%の範囲内、最も好ましくは8.4〜8.9%の範囲内である。試験により、最適亜鉛レベルは約8.6%であることが分かった。下記の例で、より詳細に説明する。
【0021】
さらに、本発明の好ましい実施態様により、Sc含有合金が、高強度対高切欠き靱性レベルを得るための優れた候補であることが分かった。銅、マグネシウム、亜鉛、ジルコニウムおよびチタンを含んでなる合金にScを添加することにより、微小構造が再結晶化されずに維持され、それによって、強度および靱性に関して優れた特性を示すことが分かった。従って、Scの好ましい量は、(質量%で)[Zr]+1.5[Sc]<0.15%である。(質量%で)Znの量が約8.70%であり、MgおよびCuが約2.10%である場合、ScまたはCeの好ましい量は0.03〜0.06%である。単位伝播エネルギーのレベルは、Sc、CeまたはMn合金化元素を添加した合金で著しく優れている。
【0022】
本発明の良好な耐食性を備えた、高強度、高靱性Al−Zn合金製品の好ましい製造方法は、
a.下記の組成、すなわち(質量%で)
Zn:6.0〜11.0、
Cu:1.4〜2.2、
Mg:1.4〜2.4、
Zr:0.05〜0.15、
Ti:0.05未満、
Hfおよび/またはV:0.25未満、
所望によりScおよび/またはCe:0.05〜0.25、および
所望によりMn:0.05〜0.12
および不可避不純物および残部アルミニウムを有し、好ましくは、他の元素が各0.05未満、合計で0.50未満であるインゴットを鋳造する工程、
b.鋳造後、該インゴットを均質化および/または予備加熱する工程、
c.該インゴットを予備加工製品に熱間加工する工程、
d.該予備加工製品を再加熱し、かつ、
d1.該再加熱された製品を最終ゲージに熱間圧延する工程、または
d2.該再加熱された製品を最終ゲージに熱間圧延および冷間圧延する工程、
e.溶体化熱処理し、該溶体化熱処理された製品を急冷する工程、
f.所望により、該急冷された、または冷間加工された合金製品を伸長または圧縮し、応力を除去する工程、および
g.所望により、該急冷された、および所望により伸長または圧縮された製品を時効処理し、合金製品が、完成した製品のT/10位置で実質的に完全に再結晶化されていない微小構造を有する所望の焼戻しを達成する工程
を含んでなる。
【0023】
本発明の、製品を予備加工し、該予備加工された製品を熱間圧延および/または冷間圧延する工程を行った時、合金製品の微小構造は、その表面下で、実質的に完全に再結晶化されずに維持されることが分かった。
【0024】
本発明の一実施態様では、本方法は、均質化されたインゴットを先ず予備加工された製品に熱間圧延し、再加熱された製品を、(最終ゲージの%で)約150〜250に熱間圧延し、次いで該熱間圧延された製品を最終ゲージに冷間圧延するか、または再加熱された製品を、(最終ゲージの%で)約105〜140に熱間圧延し、次いで該熱間圧延された製品を最終ゲージに冷間圧延することを包含する。「最終ゲージの%」とは、最終製品の厚さと比較した厚さの百分率を意味する。200最終ゲージ%は、最終加工された製品の厚さの2倍の厚さを意味する。つまり、予備加熱された製品を最終製品の厚さの約2倍の厚さに先ず熱間圧延し、次いで該熱間圧延された製品を最終的な厚さに冷間圧延するか、または予備加熱された製品を最終製品の厚さより約20%大きい厚さに熱間圧延し、次いで該製品を冷間圧延し、該熱間圧延された製品のゲージを約20%減少させるのが有利であることが分かった。
【0025】
本発明の別の実施態様により、合金が再結晶しないように、再加熱された製品を300℃〜420℃の範囲内の低温で熱間圧延するのが有利である。所望により、SCC性能を改良する場合、加工され、熱処理された製品を2工程T79またはT76焼戻しで人工的に時効処理するか、またはT77−3工程焼戻しを使用することも可能である。
【0026】
本発明は、鋳造後のインゴットを熱間圧延し、所望により20〜60mmゲージの加工された製品に冷間圧延するのに有用である。
【0027】
本発明は、上記の組成を有する高強度、高靱性Al−Zn合金の板製品にも関し、該板製品は、好ましくは、薄い航空機部材、さらに好ましくは、細長い構造形状部材、例えば航空機の上側翼部材、上側翼の薄い外板部材、またはけた、である。
【0028】
特許権請求する合金の特性は、温度105℃〜135℃、好ましくは約120℃で、2〜20時間、好ましくは約8時間の第一熱処理、および135℃より高いが、210℃未満の温度、好ましくは約155℃で、4〜12時間、好ましくは8〜10時間の第二熱処理を含んでなる人工時効工程により、さらに向上させることができる。
【実施例】
【0029】
本発明の合金の上記の、および他の特徴および利点は、下記の、好ましい実施態様の詳細な説明から容易に理解できる。
【0030】
例1
実験室規模で、14種類の異なったアルミニウム合金をインゴットに鋳造し、均質化させ、約410℃で6時間以上予備加熱し、4mm板に熱間圧延した。溶体化熱処理を475℃で行い、その後、水で急冷させた。その後、急冷させた製品を2工程T76時効手順により時効処理した。化学組成を表1に示す。
【0031】
表1 薄い板形態にある合金の、質量%で表した化学組成、残りの部分はアルミニウムおよび不可避不純物、Fe0.06、Si0.05、Ti0.04およびZr0.12である。

合金 Cu Mg Zn その他
1 2.0 2.1 8.0 0.08Mn
2 2.1 2.1 8.1 −
3 1.7 1.75 8.7 −
4 2.1 1.7 8.6 −
5 2.4 1.7 8.6 −
6 1.7 2.2 8.7 −
7 2.1 2.1 8.6 −
8 2.4 2.1 8.7 −
9 1.7 2.5 8.7 −
10 2.1 2.4 8.6 −
11 2.5 2.5 8.7 −
12 2.1 2.1 9.2 −
13 2.1 2.1 8.7 0.03Ce
14 2.1 2.1 8.7 0.06Sc
【0032】
表1の合金を、3種類の処理変形(工程5参照)を使用して処理した。
1.均質化は、加熱速度40℃/hで温度460℃に加熱し、次いで460℃で12時間均熱処理し、別に25℃/hで温度475℃に加熱し、475℃で24時間均熱処理し、室温に冷却させることにより、行った。
2.予備加熱は、加熱速度40℃/hで、420℃で6時間行った。
3.実験室規模のインゴットを、80から25mmに熱間圧延し、ゲージを1回通す毎に約6〜8mm下げた。
4.厚さ25mmの製品を420℃に約30分間再加熱した。
5.変形1 再加熱した製品を4.0mmに熱間圧延した。
変形2 再加熱した製品を8.0mmに熱間圧延し、その後、4.0mmに冷間圧延した。
変形3 再加熱した製品を5.0mmに熱間圧延し、次いで、4.0mmに冷間圧延した。
6.溶体化熱処理を475℃で1時間行い、その後、水急冷した。
7.伸長を、急冷後約1時間以内に1.5〜2.0%行った。
8.その後、伸長した製品をT76時効手順で時効処理し、その際、温度を速度30℃/hで120℃に上昇させ、温度を120℃に5時間保持し、温度を速度15℃/hで160℃に上昇させ、6時間均熱処理し、時効処理した製品を室温に空気冷却させた。
【0033】
強度は、小Euronormを使用して測定し、靱性は、ASTMB−871(1996)により測定した。上記3種類の変形の結果を表2a〜2cに示す。
【0034】
表2a 表1に示す合金の変形1による、MPaおよび切欠き靱性(TYR)で示す強度および靱性

合金 Rp UPE TYR
1 582 211 1.31
2 564 215 1.48
3 534 243 1.49
4 550 214 1.48
5 579 208 1.44
6 592 84 1.34
7 595 120 1.32
8 605 98 1.32
9 612 30 1.31
10 613 54 1.12
11 603 33 1.11
12 − − −
13 597 163 1.27
14 587 121 1.35
【0035】
表2b 表1に示す合金の変形2による、MPaおよび切欠き靱性(TYR)で示す強度および靱性

合金 Rp UPE TYR
1 599 125 1.30
2 567 268 1.45
3 533 143 1.53
4 587 205 1.38
5 563 178 1.45
6 569 134 1.35
7 − − −
8 616 72 1.10
9 − − −
10 601 22 1.00
11 612 5 1.05
12 − − −
13 595 88 1.16
14 626 71 1.26
【0036】
表2c 表1に示す合金の変形3による、MPaおよび切欠き靱性(TYR)で示す強度および靱性

合金 Rp UPE TYR
1 600 170 1.35
2 575 211 1.47
3 535 232 1.59
4 573 260 1.46
5 604 252 1.39
6 587 185 1.43
7 613 199 1.26
8 627 185 1.18
9 − − −
10 607 31 1.09
11 614 26 0.92
12 606 58 1.11
13 601 148 1.26
14 616 122 1.35
【0037】
表2a〜2cに示す結果から、軽度(10〜20%)の冷間圧延が、最適な靱性と強度のバランスにとって有益であることが明らかである。変形1(表2a)により純粋に熱間圧延した材料は、最適に近いが、一般的には変形3の合金がより優れている。
【0038】
さらに、Sc含有合金14は、高強度と高切欠き靱性が必要である場合に有利であることが分かる。少量のマンガンは、強度を高めるが、靱性がある程度犠牲になる。
【0039】
例2
別の化学組成を上記の処理工程1〜8により処理したが、その際、例1の工程5の変形3およびT76時効を使用した。
【0040】
表3 薄板合金の、質量%で表した化学組成、すべての合金に対して残りの部分はアルミニウムおよび不可避不純物、Fe0.06、Si0.05である。

合金 Cu Mg Zn Zr Ti その他
1 2.0 2.1 8.0 0.11 0.03 0.08Mn
2 2.1 2.1 8.1 0.12 0.03 -
3 1.7 2.2 8.7 0.12 0.03 -
4 2.1 2.1 8.6 0.12 0.03 -
5 2.4 2.1 8.7 0.12 0.03 -
6 2.1 2.1 9.2 0.12 0.03 -
7 2.1 2.1 8.7 0.12 0.04 0.04Ce
8 2.1 2.1 8.7 0.10 0.04 0.06Sc
9 1.7 2.1 9.3 0.12 0.03 -
10 1.6 2.5 9.2 0.12 0.04 -
11 2.1 2.4 9.2 0.12 0.04 -
【0041】
表3に示す合金の特性を、強度に関してL方向で、靱性に関してL−T方向で試験した。
【0042】
表4 表3に示す合金の変形3による、MPaおよび切欠き靱性(TS/Rp)で示す、強度および靱性

合金 Rp Rm UPE TS/Rp
(MPa) (MPa) (kJ/m)
1 601 637 177 1.35
2 575 603 221 1.48
3 591 610 194 1.45
4 613 647 199 1.34
5 624 645 178 1.18
6 608 638 63 1.13
7 601 639 163 1.27
8 618 652 132 1.35
9 613 632 75 1.25
10 618 650 5 1.29
11 619 654 26 1.18
【0043】
表4に示す靱性対引張降伏強度(Rp)は、亜鉛約8.6〜8.7質量%を含む合金で最良の靱性対引張降伏強度値が得られることを明らかに示している。亜鉛レベルが低い合金は、類似した靱性値を示すが、引張強度が−一般的に言って−低いのに対し、高レベルの亜鉛は、引張強度レベルは高いが、靱性レベルが低くなる。少量のマンガンは、強度を増加するが、靱性が犠牲になる。
【0044】
例3
亜鉛レベル8.6および8.7でさらに試験を行い、その際、銅およびマグネシウムレベルを変化させた。同じ強度レベルで靱性レベルを増加できることが分かる。幾つかの追加合金を、上記および例1の工程5の変形3に記載する処理工程1〜8使用し、例2における合金と同様に処理した。
【0045】
表5 薄板合金の、質量%で表した化学組成、すべての合金に対して残りの部分はアルミニウムおよび不可避不純物、Fe0.06、Si0.05である。

合金 Cu Mg Zn Zr Ti その他
3 1.7 2.2 8.7 0.12 0.03 -
4 2.1 2.1 8.6 0.12 0.03 -
5 2.4 2.1 8.7 0.12 0.03 -
12 2.5 2.5 8.7 0.11 0.03 0.08Mn
13 2.1 2.4 8.6 0.12 0.03 -
14 1.7 2.5 8.7 0.12 0.03 -
15 1.7 1.7 8.7 0.12 0.03 -
16 2.4 1.7 8.6 0.12 0.03 -
17 2.1 1.7 8.6 0.12 0.04 -
【0046】
表6 表5に示す合金の変形3による、MPaおよび切欠き靱性(TS/Rp)で示す、強度および靱性

合金 Rp UPE TS/Rp
(MPa) (kJ/m)
3 591 194 1.45
4 613 199 1.34
5 624 178 1.18
12 614 26 0.92
13 607 31 1.09
14 621 55 1.01
15 535 232 1.59
16 604 252 1.39
17 573 260 1.46
【0047】
表6に示すように、マグネシウムレベルは2.4%未満、最適には約1.7%にするのが有利である。マグネシウムレベルが約1.7%である場合、優れた靱性が得られるが、強度レベルは低下する。マグネシウムレベルが約2.1%で、最良の強度レベルが得られる。従って、マグネシウムは1.7〜2.1%が最良である。
【0048】
上記の全ての合金を、ASTMG−34により、剥離腐食試験にかけた。これらの合金は全て、EB以上の性能を示した。
【0049】
さらに、CeまたはScを添加することにより、合金の微小構造が強化され、それによって、回復過程が低下することが分かった。合金材料中の回復が低いので、標準的な経路により溶体化熱処理を使用しても、再結晶が起こらない。Scが再結晶化を抑制するので、通常、薄板製品の厚さの90%強が再結晶化されずに維持される。
【0050】
以上、本発明を十分に説明したが、当業者には明らかな様に、ここで説明した本発明の精神または範囲から離れることなく、多くの変形および修正を行うことが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
良好な耐食性を備えた、高強度、高靱性Al−Zn合金製品の製造方法であって、
a)下記の組成、すなわち質量%で、
Zn:6.0〜11.0%、
Cu:1.4〜2.2%、
Mg:1.4〜2.4%、
Zr:0.05〜0.15%、
Ti:0.05%未満、
Hfおよび/またはV:0.25%未満、
所望によりScおよび/またはCe:0.05〜0.25%、
所望によりMn:0.05〜0.12%、および
不可避不純物および残部アルミニウム
を有するインゴットを鋳造する工程、
b)鋳造後、前記インゴットを均質化および/または予備加熱する工程、
c)前記インゴットを予備加工製品に熱間加工する工程、
d)前記予備加工製品を再加熱し、かつ、
d1)前記再加熱された製品を最終ゲージに熱間圧延する工程、または
d2)前記再加熱された製品を最終ゲージに熱間圧延および冷間圧延する工程、
e)溶体化熱処理し、前記溶体化熱処理された製品を急冷する工程、
f)所望により、前記急冷された合金製品を伸長または圧縮する工程、および
g)所望により、前記急冷された、および所望により伸長または圧縮された製品を時効処理し、所望の焼戻しを達成する工程
を含んでなり、前記製品が、その最終焼戻しで、完成した製品の少なくともT/10の位置で実質的に完全に再結晶化されていない微小構造を有する、方法。
【請求項2】
前記再加熱された製品を、(最終ゲージの%で)約150〜250に熱間圧延し、次いで前記熱間圧延された製品を最終ゲージに冷間圧延する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記再加熱された製品を、(最終ゲージの%で)約105〜140に熱間圧延し、次いで前記熱間圧延された製品を最終ゲージに冷間圧延する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記合金が再結晶しないように、前記再加熱された製品を300℃〜420℃の低温で熱間圧延する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程g)の際の人工的時効処理が、T79、およびT76からなる群から選択された焼戻しであり、好ましくは2工程時効処理により行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程g)の際の人工的時効処理が、温度105℃〜135℃で2〜20時間の第一時効工程、および135℃より高いが、210℃未満の温度で4〜12時間の第二時効工程からなり、T79およびT76焼戻しから選択された焼戻しとなる、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程g)の際の人工的時効処理が、温度約120℃で2〜20時間の第一時効工程、および135℃より高いが、210℃未満の温度で4〜12時間の第二時効工程からなり、T79およびT76焼戻しから選択された焼戻しとなる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程g)の際の人工的時効処理が、温度約120℃で2〜20時間の第一時効工程、および温度約155℃で4〜12時間の第二時効工程からなり、T79およびT76焼戻しから選択された焼戻しとなる、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
Znの量が7.4〜9.6質量%である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
Znの量が8.0〜9.6質量%、好ましくは8.4〜8.9質量%である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
Cuの量が1.7〜2.2質量%、好ましくは1.8〜2.1質量%である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
Mgの量が1.7〜2.2質量%、好ましくは1.7〜2.1質量%である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
Scの量が、[Zr]+1.5[Sc]<0.15質量%である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
Scの量が0.03〜0.06%であり、Ceの量が0.03〜0.06%である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
不可避不純物の量が各0.05質量%未満、合計で0.5質量%未満である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
完成した圧延製品のゲージの80%超、好ましくは90%超が、実質的に再結晶化されていない微小構造を有する、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記Al−Zn製品が、20〜60mm、好ましくは30〜50mmのゲージを有する薄板である、請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記Al−Zn製品が、薄い航空機部材、航空機の上側翼部材、上側翼の薄い外板部材、またはけたである、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
良好な耐食性を維持することにより、高靱性と高強度の組合せが改良されたAl−Zn合金鍛造製品であって、(質量%で)
Zn:6.0〜11.0
Cu:1.4〜2.2
Mg:1.4〜2.4
Zr:0.05〜0.15
Ti:0.05未満
Hfおよび/またはV:0.25未満、
所望によりScおよび/またはCe:0.05〜0.25、および
所望によりMn:0.05〜0.12、
他の元素:各0.05未満、合計で0.50未満、
残部アルミニウム
からなり、前記Al−Zn合金鍛造製品が、完成した製品の少なくともT/10の位置で実質的に完全に再結晶化されていない微小構造を有する、製品。

【公表番号】特表2008−516079(P2008−516079A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−533966(P2007−533966)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【国際出願番号】PCT/EP2005/010809
【国際公開番号】WO2006/037648
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(507108003)アレリス、アルミナム、コブレンツ、ゲゼルシャフト、ミット、ベシュレンクテル、ハフツング (10)
【氏名又は名称原語表記】ALERIS ALUMINUM KOBLENZ GMBH