説明

高強度で耐応力腐食割れ性に優れたハイドロフォーム成形用アルミニウム合金押出管

【課題】ポートホール押出により、ハイドロフォームによる拡管成形性に優れ、かつ耐応力腐食割れ性にも優れた高強度7000系アルミニウム合金押出管を製造する。
【解決手段】Zn:6.0〜9.0%、Mg:0.8〜2.0%、Cu:0.6〜2.0%、Mn:0.1〜0.5%、Cr:0.1〜0.3%、Zr:0.1〜0.3%を含有し、残部Al及び不可避不純物からなり、不可避不純物のうちSiが0.05%以下に制限され、表面再結晶層の厚さが70μm以下の7000系アルミニウム合金押出管。望ましくは、CuとMgの合計含有量が3.5%以下とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度で耐応力腐食割れ性に優れたハイドロフォーム成形用アルミニウム合金押出管に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金押出管の製造方法には、ポートホール押出とマンドレル押出がある。ポートホール押出は、複数のポート穴を備えたマンドレルボディとダイスを組み合わせたポートホールダイスを使用して行われ、アルミニウム合金ビレットはポート穴で分断された後、マンドレルを取り囲んで再び溶着して一体化し、内面をマンドレルで、外面をダイスで成形されて中空の押出管となる。このためポートホール押出管には溶着部が存在し、溶着部でうまく溶着できなければ安定した押出管が得られない。
【0003】
また、アルミニウム合金押出管を構造材として用いる場合、より高強度な合金であることが望まれるが、一般に合金強度が向上すると、それに伴い変形抵抗も増大する。このため、押出性が低下し、ポートホール押出ができないということが生じ得る。
このため、7000系アルミニウム合金押出管(特にAl−Zn−Mg−Cu系)の場合、Cu及びMgの含有量が比較的少なく、強度が比較的低い合金ではポートホール押出が行われ(特許文献1参照)、Cu及びMgの含有量が比較的多い高強度合金ではマンドレル押出(間接押出)が行われる(特許文献2参照)。
【0004】
一方、例えば自動二輪車の外装用構造部材などでは高強度であることが要求され、例えばハンドル部材では、Cu及びMgの含有量の多い高強度の7000系合金(7050:Al−6.7Zn−2.3Mg−2.3Cu)の中空押出管が用いられている。この合金はポートホール押出ができないため、やむを得ずマンドレル押出が行われているが、マンドレル押出では、ポートホール押出ほどの寸法精度が確保できないばかりか、歩留まりが悪くコストがかかるという問題がある。
【0005】
また、前記ハンドル部材は、高強度の7000系アルミニウム合金押出管を曲げ加工し、続いてハイドロフォームによる拡管成形を行って所定の部材形状にするため、優れた成形性が要求される。さらに、高強度の7000系アルミニウム合金押出管は、使用条件によっては力腐食割れが懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−170139号公報
【特許文献2】特開2007−119853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、例えば自動二輪車のハンドル部材のように、ハイドロフォーム成形される高強度の7000系アルミニウム合金押出管に関する上記問題点に鑑みてなされたもので、ポートホール押出を前提とし、ポートホール押出における溶着性、及び成形性(主としてハイドロフォームによる拡管成形性)に優れ、かつ耐応力腐食割れ性にも優れたアルミニウム合金押出管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るハイドロフォーム成形用アルミニウム合金押出管は、Zn:6.0〜9.0%、Mg:0.8〜2.0%、Cu:0.6〜2.0%、Mn:0.1〜0.5%、Cr:0.1〜0.3%、Zr:0.1〜0.3%を含有し、残部Al及び不可避不純物からなり、不可避不純物のうちSiが0.05%以下に制限され、ポートホール押出により押出成形されたものであり、表面再結晶層の厚さが70μm以下であることを特徴とする。望ましくは、CuとMgの合計含有量が3.6%以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポートホール押出され、押出材の溶着性及びハイドロフォーム成形性に優れ、高強度で耐応力腐食割れ性に優れたハイドロフォーム成形用アルミニウム合金押出管を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
続いて、本発明に係るアルミニウム合金押出管の合金組成及び表面再結晶層について説明する。
Zn;
Znは強度を向上させる元素であり、添加量は6.0〜9.0%とする。下限値未満では十分な強度が得られず、上限値を超えると溶着性が低下し、また耐応力腐食割れ性が低下する。添加量は7.0〜8.0%が望ましい。
【0011】
Mg;
Mgも強度を向上させる元素であり、添加量は1.0〜2.0%とする。下限値未満では十分な強度が得られず、上限値を超えると溶着できず、また耐応力腐食割れ性が低下する。添加量は1.2〜1.8%が望ましい。
Cu;
Cuは強度及び耐応力腐食割れ性を向上させる元素であり、添加量は0.6〜2.0%とする。下限値未満では十分な強度及び耐応力腐食割れ性が得られず、上限値を超えるとポートホール押出中の変形抵抗が大きく、溶着のための圧力不足により管の製造が不可能となる。添加量は1.2〜1.8%が望ましい。
なお、押出管の溶着及び押出変形抵抗の観点から、CuとMgの合計添加量が3.5%以下であることが望ましい。
【0012】
Mn,Cr,Zr;
Mn,Cr及びZrは、溶体化処理による加熱の際に押出材の結晶粒を繊維状組織(未再結晶組織)に保ち、耐応力腐食割れ性を向上させる元素であり、添加量は、Mn:0.1〜0.5%、Cr:0.1〜0.3%、Zr:0.1〜0.3%とする。いずれかの元素が下限値未満では結晶粒を繊維状に保てず表面再結晶層が厚くなり、又は溶体化処理によって再結晶組織となり、耐応力腐食割れ性を低下させ、一方、上限値を超えると粗大な金属間化合物を形成し、ハイドロフォーム成形性及び延性の低下を招く。Mn:0.1〜0.3%、Cr:0.1〜0.2%、Zr:0.1〜0.2%が望ましい。
【0013】
不可避不純物;
不可避不純物として含有される元素のうちFe,Si,Tiは、粗大な金属間化合物を形成するため延性が低下し、ハイドロフォームによる成形性の低下を招く。このためFe:0.20%以下、Si:0.05%以下、Ti:0.03%以下に制限することが望ましい。
表面再結晶層;
押出管の表面に厚い表面再結晶層が形成されると、耐応力腐食割れ性が低下し、ハイドロフォームで拡管成形したとき、管表面に肌荒れが発生する。このため、押出管の外側表面の再結晶層の平均厚さは70μm以下とする。なお、押出管の内側表面の再結晶層は一般に外側表面より薄く形成されることから、耐応力腐食割れ性及び肌荒れの観点で特に考慮する必要はない。
【0014】
本発明に係るアルミニウム合金押出管は、ポートホール押出により製造されたもので、例えば自動二輪車のハンドル部材に成形される。この場合、熱間押出のまま(質別T1)で、必要に応じて曲げ加工を行った後、所定形状にハイドロフォーム成形し、その後、溶体化処理及び人工時効処理を行えばよい。
【実施例】
【0015】
表1,2に示す組成の7000系アルミニウム合金を、定法にて溶解鋳造し、それぞれφ155mmのビレットを得た。このビレットを470℃×6時間の均質化処理後、ファン空冷し、450℃に再加熱後、外径25mm、内径20mm、肉厚2.5mmの断面形状にポートホール押出し、ファン空冷した。この段階で、それぞれの押出管から試験片を採取し、下記要領で拡管試験を行い、溶着部の健全性(溶着性)を評価した。その結果を表3,4に示す。
【0016】
【表1】

【0017】
【表2】

【0018】
(溶着性試験)
長さ50mmの試験片(管)の端部から円錐コーン(先端角45°)を押し込み、外径が元径の1.5倍になるまで拡管し、全く割れが生じなかったものと割れが生じたが溶着部ではないものを合格(○)と評価し、溶着部で割れが生じたものを不合格(×)と評価した。
【0019】
続いて、押出管に対し空気炉で465℃×60分保持する溶体化処理を行った後、水焼き入れを施した。続いて、65〜75℃×5時間及び125〜135℃×12時間の2段階の人工時効処理を施し、T6調質とした。T6調質後の押出管から試験片を採取し、下記要領で引張特性、表面再結晶層厚さ、及び耐応力腐食割れ性を調査した。その結果を表3,4に示す。
【0020】
(引張特性)
押出管からJIS−11号試験片を採取し、JIS−Z2241の引張試験法に従って、引張強さ、耐力及び伸びを測定した。引張強さ及び耐力については、それぞれ470N/mm及び380N/mm以上を合格と評価し、伸びについては、12%以上を合格と評価した。
(表面再結晶層厚さ)
押出管から長さ20mmの試験材を採取し、非溶着部の押出平行断面をケラー液でエッチングした後、外側表面の表面再結晶層の厚さ(長さ20mmの範囲の平均値)を測定した。
【0021】
(耐応力腐食割れ性)
クロム酸促進法による耐応力腐食割れ試験を行った。すなわち、押出管からCリング状の試験片を採取し(溶着部がCリング中央に位置しないように採取)、ジグでLT方向(押出方向と直角方向)に耐力の70%に相当する引張応力を負荷した後、90℃の試験溶液に最大10時間まで浸漬し、応力腐食割れを目視で観察した。なお、応力負荷はジグのボルト・ナットを締めることにより試験片の外表面に引張応力を発生させ、応力値はこの外表面に接着した歪みゲージによって測定した。また、試験溶液は、蒸留水に酸化クロム36g、2クロム酸カリウム30g及び食塩3g(1リットル当たり)を加えて作製した。0.5時間毎に割れ発生の有無を観察し、割れ無し又は割れ発生までの時間が6時間以上であったものを合格と評価した。
【0022】
一方、上記ファン空冷した押出管に対し、焼鈍処理(325℃×3hr)を施した後、それぞれの押出管を所定長さに切断し、下記要領でハイドロフォーム成形性試験を行い、成形性を評価した。その結果を同じく表3,4に示す。
【0023】
(ハイドロフォーム成形性試験)
長さ1000mmの押出管をハイドロフォーム成形後の外形を規定する型にセットし、押出管内部に液体を充填した後、液体圧力を上げながら、押出管を両側から軸方向に押して型内に押し込み、押出管中央部を長さ400mmにわたり外径30mmに拡管した。目的とする形状が得られたものを合格(○)と評価し、目的の形状が得られなかったもの及び拡管部で割れが発生したものを不合格(×)と評価した。
【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
表2に示すように、合金組成及び表面再結晶層厚さが本発明の規定範囲内であるNo.1〜12は、ポートホール押出が可能で、溶着性に優れ、ハイドロフォーム成形も可能で、人工時効処理後の引張特性及び耐応力腐食割れ性も優れている。
これに対し、No.13,15はそれぞれZn添加量とMg添加量が下限未満であるため強度が低く、No.14,16はそれぞれZn添加量とMg添加量が上限を超えているため溶着性及び耐応力腐食割れ性が劣り、No.17はCu添加量が下限未満であるため強度が低くかつ耐応力腐食割れ性が劣り、No.18はCu添加量が上限を超えているためポートホール押出による管の製造ができなかった。また、No.19はZr添加量が上限を超えているためハイドロフォーム成形性及び伸びが劣り、No.22,23はMn,Cr,Zr添加量が上限を超えているため溶着性及び伸びが劣る。No.20はZr添加量が下限未満であり、No.21はMn及びCr添加量が下限未満であるため、いずれも表面再結晶層が厚くなり、耐応力腐食割れ性が劣る。No.24,25,26はそれぞれSi,Fe,Tiが上限値を超えているため、ハイドロフォームによる成形性の低下を招き、時効処理後の伸びも劣る。No.27はCuとMgの合計含有量が上限を超えているため、溶着性が劣る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn:6.0〜9.0%(質量%、以下同じ)、Mg:0.8〜2.0%、Cu:0.6〜2.0%、Mn:0.1〜0.5%、Cr:0.1〜0.3%、Zr:0.1〜0.3%を含有し、残部Al及び不可避不純物からなり、不可避不純物のうちSiが0.05%以下に制限され、ポートホール押出により押出成形され、表面再結晶層の厚さが70μm以下であることを特徴とする、高強度で耐応力腐食割れ性に優れたハイドロフォーム成形用アルミニウム合金中空押出管。
【請求項2】
CuとMgの合計含有量が3.5%以下であることを特徴とする、請求項1に記載された高強度で耐応力腐食割れ性に優れたハイドロフォーム成形用アルミニウム合金中空押出管。

【公開番号】特開2010−196089(P2010−196089A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−40174(P2009−40174)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】