説明

高強度を有するCu−Ga系スパッタリングターゲット材およびその製造方法

【課題】 高温成形時の溶融を抑制することで高密度化を達成できる、太陽電池の光吸収薄膜層を製造するための高強度Cu−Ga系スパッタリングターゲット材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 原子%で、Gaを29〜40%含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなる粉末冶金ターゲット材において、X線回折においてCuベースのfcc相の(111)面とCu9Ga4相の(330)面からのX線回折ピーク強度比が、0.05≦Cu[I(111)]/Cu9Ga4[I(330)]≦0.80、かつCuGa2相の(102)とCu9Ga4相の(330)面からのX線回折ピーク強度比が、CuGa2[I(102)]/Cu9Ga4[I(330)]≦0.10であり、さらに相対密度が95%以上であることを特徴とした高強度Cu−Ga系ターゲット材、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の光吸収薄膜層を製造するための高強度Cu−Ga系スパッタリングターゲット材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、太陽電池の光吸収層を製造するためのスパッタリングターゲット材として、Cu−Ga系ターゲット材が用いられている。このCu−Ga系ターゲット材は、例えば特開2000−73163号公報(特許文献1)に開示されているように、鋳造法により製造されることが多いが、一方で、特開2008−138232号公報(特許文献2)に開示されているように、粉末冶金法によっても製造されている。
【0003】
Cu−Ga系合金は、例えば、特許文献2の段落[0003]に記載されている通り、Ga濃度が高くなるに伴い、硬くかつ脆くなるため、ターゲット材への機械加工時に欠けや割れが発生しやすくなる問題がある。この問題に対し特許文献2では粉末工法によりターゲット材を作製すると共に、原料粉末を低Ga粉末と高Ga粉末の混合粉末とすることによって、脆さを改善している技術である。
【0004】
しかしながら、Cu−Ga系合金は2元状態図からわかるとおり、Ga含有量が増加するに伴い、固相線(溶融開始温度)が急激に低下するため、固化成形時の溶融を避けるために、固化成形温度を極端に低く設定せざるを得なくなる。例えば、特許文献2における実施例は全て200℃で固化成形されている。特許文献2では実施例により作製されたターゲット材の密度についての記載はないが、200℃程度の低温でCu系合金粉末を真密度近くまで上げることは極めて困難である。
【0005】
また、特許文献2の実施例では600MPaという大きな圧力でホットプレス成形しているが、近年の太陽電池パネルの大型化に伴い、Cu−Ga系ターゲット材も大型化する傾向にあり、例えば400mm四方のターゲット材を600MPaで成形するためには、総圧100000kN近い圧力が必要となるため、工業的に困難であり、成形圧力の観点からも相対密度95%以上の高密度化は不可能となってくる。
【特許文献1】特開2000−73163号公報
【特許文献2】特開2008−138232号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のような問題に加えて、一般に、ターゲット材を用いてスパッタ工法により薄膜を作製する場合、ターゲット材の相対密度が低いと異常放電やスプラッツが多く発生し、薄膜の不良率が増えることが知られており、95%以上のターゲット材を用いることはスパッタ工法により作製される薄膜の不良率を減らすため極めて工業的に価値が高い。このように、ターゲット材としての形状への機械加工の時に、欠けや割れの発生を抑制できるよう脆さを改善され、かつ、95%以上の相対密度を有するCu−Ga系ターゲット材の製造は極めて困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のような問題を解消するために発明者らは鋭意開発を進めた結果、低Ga粉末が延性の高いCuベースfcc相を生成し、かつ高Ga粉末のGa上限を設定することで、高温成形時の溶融を抑制することで高密度化を達成できる、太陽電池の光吸収薄膜層を製造するための高強度Cu−Ga系スパッタリングターゲット材およびその製造方法を提供するものである。
【0008】
その発明の要旨とするところは、
(1)原子%で、Gaを29〜40%含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu−Ga系スパッタリングターゲット材において、Cuベースfcc固溶体相とCu9Ga4金属間化合物相からなる二相もしくは、さらに前記二相に加えCuGa2金属間化合物相の三相からなることを特徴とした高強度Cu−Ga系スパッタリングターゲット材。
【0009】
(2)原子%で、Gaを29〜40%含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu−Ga系スパッタリングターゲット材において、X線回折によるCuベースの相のうちfcc相の(111)面からの回折線のピーク値であるCu[I(111)]とCu9Ga4相の(330)面からの回折線のピーク値であるCu9Ga4[I(330)]とのピーク比が、0.05≦Cu[I(111)]/Cu9Ga4[I(330)]≦0.80、かつCuGa2相の(102)面からの回折線のピーク値であるCuGa2[I(102)]とCu9Ga4相の(330)面からの回折線のピーク値であるCu9Ga4[I(330)]とのピーク比が、CuGa2[I(102)]/Cu9Ga4[I(330)]≦0.10であり、さらに相対密度が95%以上であることを特徴とした高強度Cu−Ga系スパッタリングターゲット材。
【0010】
(3)原子%で、Gaを29〜40%含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu−Ga系スパッタリングターゲット材において、Cuベースfcc固溶体相と、Cu9Ga4金属間化合物相からなる二相もしくは、さらに前記二相に加えCuGa2金属間化合物相の三相からなり、X線回折によるCuベースの相のうちfcc相の(111)面からの回折線のピーク値であるCu[I(111)]とCu9Ga4相の(330)面からの回折線のピーク値であるCu9Ga4[I(330)]とのピーク比が、0.05≦Cu[I(111)]/Cu9Ga4[I(330)]≦0.80、かつCuGa2相の(102)面からの回折線のピーク値であるCuGa2[I(102)]とCu9Ga4相の(330)面からの回折線のピーク値であるCu9Ga4[I(330)]とのピーク比が、CuGa2[I(102)]/Cu9Ga4[I(330)]≦0.10であり、さらに相対密度が95%以上であることを特徴とした高強度Cu−Ga系スパッタリングターゲット材。
【0011】
(4)Gaを21%以下(0を含む)含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなる粉末と、Gaを30〜45%含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなる粉末を混合した粉末を原料とし、この原料粉末を300℃以上、850℃以下の温間で固化成形することを特徴とした前記(1)〜(3)のいずれか1に記載のCu−Ga系スパッタリングターゲット材の製造方法にある。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、合金の構成相を所定の条件に制御することにより脆さを改善し、かつ原料粉末とするCu−Ga系粉末の組成を所定の条件にすることで高温で固化成形でき、95%以上の高密度ターゲット材の製造を可能とした、太陽電池の光吸収薄膜層を製造するための高強度Cu−Ga系スパッタリングターゲット材およびその製造方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
Cu−Ga系2元状態図から、CuにGaを添加していくと、少量添加であればf.c.c.構造のCu固溶体となるが、更に添加量を増やしていくと、様々な金属間化合物を生成することがわかる。そこで発明者らはCu−Ga系合金の脆さに関して詳細に研究した結果、合金の構成相を所定の条件に制御することにより脆さを改善できることを見出した。更に、原料粉末とするCu−Ga系粉末の組成を所定の条件にすることにより、比較的高温で固化成形でき、95%以上の高密度ターゲット材が作製できることを見出したものである。
【0014】
本発明において、Cuベースのfcc相の(111)とCu9Ga4相の(330)面からのX線回折ピーク強度比が、0.05≦Cu[I(111)]/Cu9Ga4[I(330)]≦0.80とした理由は、Gaを29〜40%含むCu−Ga系2元合金は、平衡状態においてCu9Ga4相が主相になり、Cuベースfcc相はほぼ生成しない。しかしながら、このCu9Ga4相は極めて脆いことがわかった。ここで、Cuベースのfcc相の(111)面からのX線回折ピークをCu[I(111)]と示し、Cu9Ga4相の(330)面からのX線回折ピークをCu9Ga4[I(330)]と示している。
【0015】
一方、Gaが29%より少ない組成においてはCuベースのfcc相も存在し、このfcc相は比較的延性があることがわかった。そこで、それぞれのメインピーク比を0.05≦Cu[I(111)]/Cu9Ga4[I(330)]≦0.80の範囲にすることにより、欠けなどが発生しにくく取り扱いの容易なターゲット材となることを見出した。このピーク比が0.05未満では十分な延性が得られず、0.80を超えるとターゲットトータルのGa量を多くすることができない。なお、Cuベースfcc相のメインピークは(111)面から、Cu9Ga4相のメインピークは(330)面からのX線回折ピークである。
【0016】
また、CuGa2相の(102)とCu9Ga4相の(330)面からのX線回折ピーク強度比が、CuGa2[I(102)]/Cu9Ga4[I(330)]≦0.10とした理由は、CuGa2は比較的Ga量の多い合金において生成するが、この相が多く生成すると溶融温度が低いため、固化成形後に凝固巣ができるなど、高密度化が困難となる。すなわち、メインピーク比CuGa2[I(102)]/Cu9Ga4[I(330)]が0.10を超えると高密度化が困難となる。なお、CuGa2相のメインピークは(102)面からのX線回折ピークである。ここで、CuGa2相の(102)面からのX線回折ピークをCuGa2[I(102)]と示す。
【0017】
また、Gaを21%以下(0を含む)含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなる粉末Aと、Gaを30〜45%含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなる粉末Bを混合した粉末とした理由は、原料粉末として単一組成の粉末ではなく、2種類の組成の粉末による混合粉末を用い、かつGaを21%以下含む粉末を用いると、固化成形後に比較的延性の高いCuベースfcc相を多く存在させることができるため好ましい。Gaが15%を超える場合、ターゲットトータルのGa量を多く設定できるためより好ましい。また、もう一方の粉末として、Gaが30〜45%を含む粉末を用いることが好ましい。これは、Gaが30%未満では、ターゲットトータルのGa量を多くすることができない。45%を超えると低融点のCuGa2相が多くなり、高密度ターゲット材が得られない。
【0018】
さらに、300℃以上、850℃以下の温間で固化成形した理由は、300℃未満での固化成形では95%以上の高密度が得られず、850℃を超える高温では溶融による凝固巣の発生で低密度となる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明について実施例によって具体的に説明する。
粉末Aとして表1に示すNo.a〜No.gの組成の各粉末を、粉末BとしてNo.h〜No.lの組成の各粉末を作製した。粉末の作製方法はガスアトマイズ法で、まず各組成となるように原料を合計で20kg計量し、これをアルミナ坩堝にて溶解し、径8mmのノズルからこの溶湯を出湯し、アルゴンガスにて噴霧した。得られた粉末Aおよび粉末Bを表2に示すターゲットトータル組成となるよう計量し、これをV型混合機にて1時間混合した。この粉末を表2に示す温度でホットプレスもしくはHIP法にて固化成形した。ホットプレスは径150mmのカーボン型で20MPaの圧力で2時間成形した。HIPについては径200mmの炭素鋼外筒管に粉末を充填し、脱気封入後、118MPaで2時間成形した。
【0020】
それぞれの成形体から、2mm角で長さ20mmの試験片を採取し、3点曲げ試験により抗折強度を測定し、200MPa以上を○、200MPa未満を×とした。また、成形体から切り出した小片を鏡面研磨し、光学顕微鏡像で観察することによりポアの面積を算出してポアの面積率を求め、この面積率を100%から差し引いて成形体の相対密度とした。相対密度が95%以上の成形体を○、95%未満の成形体を×とした。また、同様の鏡面に研磨した試験片をX線回折し、Cu[I(111)]/Cu9Ga4[I(330)]のピーク比A、CuGa2[I(102)]/Cu9Ga4[I(330)]のピーク比Bを算出した。その粉末Aに用いる各粉末および粉末Bに用いる各粉末の組成を表1に示す。そしてこれら粉末の混合し成形した結果およびこの成形体の試験結果を表2に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

表2に示すように、No.1〜12は本発明例であり、No.13〜18は比較例である。
【0023】
表2に示すように、比較例No.13は粉末Aが比較例であるgであり、また、ピーク比Aが0.02と小さいために、抗折強度が低い。比較例No.14、15は単一組成粉末のみで製造したもので、ピーク比Aが0.05未満であり脆く、抗折強度が低い。比較例No.16は粉末Bが比較例であるlであり、また、ピーク比Bが大きいために、相対密度が低い。
【0024】
比較例No.17はターゲットトータルのGaが29%未満であり、ピーク比Aが0.85と大きく、成形温度が低いため、相対密度が低い。比較例No.18は成形温度が高く、かつピーク比Aが0.01と小さいために、抗折強度、相対密度が低い。これに対し、本発明例であるNo.1〜12はいずれも本発明の条件を満たしていることから、抗折強度および相対密度の優れていることが分かる。
【0025】
以上のように、本発明による、低Ga粉末が延性の高いCuベースfcc相を生成し、かつ高Ga粉末のGa上限を設定することで、温間成形時の溶融を抑制することで高密度化を達成できる、太陽電池の光吸収薄膜層を製造するための高強度Cu−Ga系スパッタリングターゲット材およびその製造方法を可能とした極めて優れた効果を奏するものである。


特許出願人 山陽特殊製鋼株式会社
代理人 弁理士 椎 名 彊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子%で、Gaを29〜40%含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu−Ga系スパッタリングターゲット材において、Cuベースfcc固溶体相と、Cu9Ga4金属間化合物相からなる二相もしくは、さらに前記二相に加えCuGa2金属間化合物相の三相からなることを特徴とした高強度Cu−Ga系スパッタリングターゲット材。
【請求項2】
原子%で、Gaを29〜40%含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu−Ga系スパッタリングターゲット材において、X線回折によるCuベースの相のうちfcc相の(111)面からの回折線のピーク値であるCu[I(111)]とCu9Ga4相の(330)面からの回折線のピーク値であるCu9Ga4[I(330)]とのピーク比が、0.05≦Cu[I(111)]/Cu9Ga4[I(330)]≦0.80、かつCuGa2相の(102)面からの回折線のピーク値であるCuGa2[I(102)]とCu9Ga4相の(330)面からの回折線のピーク値であるCu9Ga4[I(330)]とのピーク比が、CuGa2[I(102)]/Cu9Ga4[I(330)]≦0.10であり、さらに相対密度が95%以上であることを特徴とした高強度Cu−Ga系スパッタリングターゲット材。
【請求項3】
原子%で、Gaを29〜40%含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなるCu−Ga系スパッタリングターゲット材において、Cuベースfcc固溶体相と、Cu9Ga4金属間化合物相からなる二相もしくは、さらに前記二相に加えCuGa2金属間化合物相の三相からなり、X線回折によるCuベースの相のうちfcc相の(111)面からの回折線のピーク値であるCu[I(111)]とCu9Ga4相の(330)面からの回折線のピーク値であるCu9Ga4[I(330)]とのピーク比が、0.05≦Cu[I(111)]/Cu9Ga4[I(330)]≦0.80、かつCuGa2相の(102)面からの回折線のピーク値であるCuGa2[I(102)]とCu9Ga4相の(330)面からの回折線のピーク値であるCu9Ga4[I(330)]とのピーク比が、CuGa2[I(102)]/Cu9Ga4[I(330)]≦0.10であり、さらに相対密度が95%以上であることを特徴とした高強度Cu−Ga系スパッタリングターゲット材。
【請求項4】
Gaを21%以下(0を含む)含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなる粉末と、Gaを30〜45%含み、残部Cuおよび不可避的不純物からなる粉末を混合した粉末を原料とし、この原料粉末を300℃以上、850℃以下の温間で固化成形することを特徴とした請求項1〜3のいずれか1項に記載のCu−Ga系スパッタリングターゲット材の製造方法。

【公開番号】特開2011−149039(P2011−149039A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9691(P2010−9691)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】