説明

高強度コンクリートの爆裂性試験方法

【課題】簡易な試験体を用いて、実大規模の試験体における爆裂性を容易に評価することが可能な、高強度コンクリートの爆裂性試験方法を提供する。
【解決手段】小規模の試験体1に対し加熱温度履歴を与える加熱実験ステップS102と、加熱実験ステップにおける小規模試験体の昇温履歴を計測する昇温計測ステップS104と、昇温計測ステップにおける昇温履歴の値から伝熱に関する方程式を用いて小規模試験体の伝熱に関する物性値を求める物性計算ステップS108と、物性計算ステップで求められた物性値、実大規模の試験体の寸法および加熱温度履歴の値を伝熱に関する方程式に代入し小規模試験体の実大寸法における昇温履歴推定値を求める実大昇温履歴推定ステップS112と、昇温履歴推定値から小規模試験体の実大寸法における爆裂性を評価する評価ステップS114とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、簡易な試験体を用いて、実大規模の試験体における爆裂性を容易に評価することが可能な、高強度コンクリートの爆裂性試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
柱や梁や壁など高強度コンクリート構造物の、火災時などにおける爆裂性をあらかじめ検証するには、JIS A 1304に定められた「建築構造部分の耐火試験方法」などの公的な標準に基づいて、実大規模の試験体(モデル)を製作し、このモデルに当該標準に定められた標準曲線の加熱温度値を与えることにより加熱試験を行う(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】日本規格協会「JISハンドブック」2005年版 第8巻 ”建築2”の中の「建築構造部分の耐火試験方法」(規格番号:JIS A 1304:1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記JIS標準などの耐火試験方法により、高強度コンクリートの爆裂性を検証することには様々な問題点があった。すなわち、実大規模のモデルを用いて試験を行うことは、モデルの製作や試験の実施などに多大な費用や時間、労力を要する上、その大きさゆえに取り扱いが非常に困難である。従ってある特性のモデルを多数製作し、繰り返し何度も試験したり、また、コンクリートの調合や被覆や形状など、様々な特性を有するモデルをそれぞれ製作して試験を行うようなことが非常に困難である。このような実大規模のモデルに対し、火災などを想定した比較的高温の、さらには上記JIS標準などに正確に準拠した加熱温度値を与えるためには、相応に大規模で、かつ高性能の加熱炉などを備えた試験装置を使用しなければならない。実際、そのような試験装置を保有する機関は非常に限られているため、試験計画立案の自由度は極めて低く、高強度コンクリートの爆裂性についての正確な試験結果を豊富に得ることは非常に困難であった。
【0004】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、簡易な試験体を用いて、実大規模の試験体における爆裂性を容易に評価することが可能な、高強度コンクリートの爆裂性試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかる高強度コンクリートの爆裂性試験方法は、実大寸法の試験体よりも小規模の試験体に対し、加熱温度履歴を与える加熱実験ステップと、上記加熱実験ステップにおける上記小規模試験体の昇温履歴を計測する昇温計測ステップと、上記昇温計測ステップにおける上記小規模試験体の昇温履歴の値から、伝熱に関する方程式を用いて、当該小規模試験体の伝熱に関する物性値を求める物性計算ステップと、上記物性計算ステップで求められた上記小規模試験体の伝熱に関する物性値と、実大規模の試験体の寸法および加熱温度履歴の値とを、上記伝熱に関する方程式に代入し、上記小規模試験体の実大寸法における昇温履歴推定値を求める実大昇温履歴推定ステップと、上記求められた昇温履歴推定値から、上記小規模試験体の実大規模における爆裂性を評価する評価ステップとを含むことを特徴とする。
【0006】
また、前記評価ステップは、複数の前記小規模試験体に対し異なる加熱温度履歴を与えて爆裂の有無を観察し、爆裂の有無を分ける境界となる昇温履歴である閾値昇温履歴を決定し、該閾値昇温履歴に基づいて評価することを特徴とする。
【0007】
また、前記評価ステップは、複数の異なる爆裂防止処理を施した前記小規模試験体に対し、加熱温度履歴を与えて爆裂の有無を観察し、爆裂の有無を分ける境界となる昇温履歴である閾値昇温履歴を決定し、該閾値昇温履歴に基づいて評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる高強度コンクリートの爆裂性試験方法にあっては、簡易な試験体を用いて、実大規模の試験体における爆裂性を容易に評価することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明にかかる高強度コンクリートの爆裂性試験方法の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。本実施形態にかかる高強度コンクリートの爆裂性試験方法は、基本的に、加熱実験ステップS102と、昇温計測ステップS104と、物性計算ステップS108と、実大昇温履歴推定ステップS112と、評価ステップS114とからなる。
【0010】
まず実大寸法の試験体よりも小規模の高強度コンクリート試験体(以下、単に試験体という)1の製作を行う(S100)。試験体1は、試験の目的などに応じて材料や調合などの特性を設定する。例えば、設計基準強度100N/mm2、水セメント比20%などと設定する。試験体1の形状は、後述する電気炉2の寸法に合わせて設定すればよいが、本実施形態では平板状のものを使用し、例えば280mm×370mm×50mmの寸法を有するものとする。
【0011】
加熱実験ステップS102では、上記試験体製作ステップS100において製作した試験体1に対し、加熱温度履歴を与える。加熱温度履歴を与える装置として、本実施形態では電気炉2を用いる。一例として、最高温度1150℃、出力2.4Kw程度の能力を有する電気炉を用いることができる。試験体1の設置方法としては、電気炉2の扉(蓋)を取り外し、その開口部に、扉の代わりに炉内を閉止するように平板状の試験体1を取り付ける(図2参照)。
【0012】
試験体1を炉内に完全に入れてしまうのではなく、このように平板状の試験体1の片側面のみを炉内に面するようにし、加熱する理由の1つは、小規模の試験体1の加熱試験の結果と、実大寸法の試験体の加熱試験の結果とは、その形状の相違などから単なる相似則によっては説明されないからである。そこで本実施形態では、平板状の試験体1の一面から加熱温度履歴を与え、後述するように、試験体内外に配置された熱電対3を用いて各位置の昇温履歴を計測することにより、一次元的な熱の伝達についてまず調べ、その結果から実大寸法で、かつ、平板のみならず柱や梁など様々な形状の構造体における昇温履歴(例えば図6に示す柱断面の側面中央表層部P1、P4や、隅角表層部P2、P5、さらには柱の中心付近P3)などを計算により推定してゆく。
【0013】
図2に示す試験体1にあっては、主に、試験体本体4と、試験体本体4の炉内に面する側に設けられた被覆5とから構成されている。本実施形態の試験方法では、各試験体本体4に、様々な種類の被覆5や、繊維混入などの爆裂防止処理を施し、それら各種の爆裂防止処理のうち、いずれの爆裂防止処理が有効なものであるのかを調べてゆく。対照実験として爆裂対策を講じていない試験体1も含まれる。試験体1の、炉内に面する部分以外は、耐火性を有する断熱材6で覆っている。この断熱材6の熱伝導率や熱伝達率などの諸物性値は、試験体1の昇温履歴にも影響を与えるので、あらかじめ把握しておく。また被覆5を含めた試験体1と、電気炉2の開口部を囲繞する枠部との接続箇所には、耐火性の充填材7を設けて炉内を断熱している。
【0014】
昇温計測ステップS104では、加熱実験ステップS102における加熱実験の際に、炉内、試験体本体4の炉内側表面、および試験体本体4内部の各位置に設置された3つ以上の熱電対3a、3b、3cなどを用いてこれら各位置の昇温履歴を計測し、一次元的な伝熱についてまず調べる。このうち、炉内に配置された熱電対3aは、炉内温度を計測するものであるが、炉内温度はどの位置でもほぼ一様となる(かつまた試験体1の被覆5の表面における温度とほぼ一致する)ので、他の熱電対3に対し厳密に直線的な配置とする必要はない。なお、より多くの位置に熱電対3を設ければ、より詳細な伝熱の様子、すなわちより詳細な昇温履歴データを得ることができ、後述する物性計算ステップS108や実大昇温履歴推定ステップS112などにおいて、より詳細な計算や推定が可能となるので好ましい。
【0015】
図3、図4は、各種の爆裂防止処理を施した試験体1の、それぞれ炉内、試験体本体4表面における昇温履歴(以下、それぞれ炉内昇温履歴、表面昇温履歴という)である。その他の昇温履歴は図示を省略している。ここで、本実施形態にあっては、電気炉2の加熱機能などを用いた上記加熱実験ステップS102における加熱温度履歴の管理は、炉内昇温履歴の計測値により行う。すなわち、加熱実験ステップS102における、各試験体1に対する加熱温度履歴は、各試験体1について計測される炉内昇温履歴に等しい。
【0016】
一般に、電気炉2は燃焼炉ほど高い加熱能力を持たないため、特に加熱時間の初期において急激に高温を与えることができない。これに対して、図3に太い実線で示すように、初期において比較的急激に温度上昇する、従来の、実大寸法の試験体用の耐火試験の加熱温度履歴(図3ではISO834「耐火試験」に規定された加熱曲線に相当する加熱温度履歴を示している)に近い加熱温度履歴を与えたい場合には、例えば、炉内に炭火などの補助熱源8を付加することによって加熱能力を補完することも可能である。
【0017】
また、本実施形態にあっては、加熱実験ステップS102における加熱実験の際に、各試験体1の爆裂の有無を観察し確認する(S106)。図3、図4中、加熱の途中で爆裂を生じた試験体1は実線で、爆裂を生じなかった試験体1については点線で示している。爆裂を生じた試験体1の昇温履歴はいずれも、炉内昇温履歴、表面昇温履歴ともに、爆裂の時点から急激に下降している。
【0018】
本実施形態では、爆裂防止処理として、特に、厚さ15mmと25mmの繊維混入けい酸カルシウム板(以下、ケイカル板という)による被覆5を施した試験体1に注目した。それらのグラフは、図中に特に明示されている。また、比較対象として、無被覆の試験体1にも注目し、これも図中に明示している。無被覆の試験体1は、加熱時間がちょうど2時間の頃に爆裂を生じているが、厚さ15mmと25mmのケイカル板被覆を施した試験体1は、どちらもこれらの図の時間内においては爆裂を生じていない。
【0019】
図3の炉内昇温履歴が様々に異なるのは、試験体1ごとに、様々に異なる加熱温度履歴を与えているからである。具体的には、電気炉2の機能により加熱温度を変化させたり、上記補助熱源8を付加したりすることにより、異なる加熱温度履歴を与えている。従って、この加熱実験において爆裂を生じたか否かは、実大規模の試験体に実大規模の試験体用の加熱温度履歴を与えた場合の爆裂性とは対応しないので、注意を要する。
【0020】
図4の表面昇温履歴は、爆裂を生じた試験体1のグループと、生じなかった試験体1のグループとが比較的はっきりと分かれている。すなわち、25mmケイカル板被覆の試験体1を含め、表面昇温履歴の上昇勾配が緩やかに押さえられている試験体1は700℃近くまで昇温しても爆裂を生じなかったのに対し、無被覆の試験体1を含め、表面昇温履歴が一定以上の上昇勾配となる試験体1は、おおむね400℃前後で爆裂を生じている。
【0021】
このことから、閾値昇温履歴が決定される(S110)。すなわち、上記加熱実験の結果より、試験体1の爆裂の有無は試験体1の表面昇温履歴と密接な関係を有すると推察され、その爆裂の有無を分ける境界は、ほぼ図4に太い実線で示すような閾値昇温履歴で表される。本実施形態における閾値昇温履歴を示すグラフは、加熱時間がほぼ2時間の時点までほぼ直線的に上昇し、2時間の時点でほぼ400℃を示し、その後は400℃を維持するように決定している。本来ならば、太い点線で示すように2時間経過後も同じ傾きで上昇するように決定してもよいのであるが、そのようにしていない理由は、後述する評価ステップS114において、危険側の評価とならないようにするためである。より詳しくは後述する。また、加熱時間の初期、1時間を過ぎる当たりまでについては、閾値昇温履歴のグラフが描かれていないが、その理由は、ごく初期においては各グラフが未だ十分に分化していないことと、爆裂は大抵400℃前後から起こり始めるので、せいぜい200℃前後にしか到達しない1時間過ぎまでは特に決定する必要がないからである。
【0022】
ここで、加熱実験ステップS102における加熱実験において、必ずしも本実施形態のように、試験体1ごとに様々に異なる加熱温度履歴を与える必要はなく、第1の変形例として、どの試験体1にも一定の加熱温度履歴を与えることとしてもよい。その理由は、重要なことは、試験体1の表面昇温履歴のばらつきの中から、爆裂の有無を分ける境界となる閾値昇温履歴を決定することであるが、様々に異なる爆裂防止処理を施した各試験体1は、一定の(同一の)加熱温度履歴を与えてもそれぞれ異なる表面昇温履歴を呈して表面昇温履歴にばらつきが生ずるからである。同じ理由から、第2の変形例として、一定の(同一の)爆裂防止処理を施した試験体1を複数準備し、これらのそれぞれに対し異なる加熱温度履歴を与えることによっても、各試験体1が呈する表面昇温履歴にばらつきを生じさせ、閾値昇温履歴を決定することができる。ただしこの第2の変形例の場合は、一種の爆裂防止処理を施した試験体1についてしか昇温履歴のデータを得ることができないので、昇温計測ステップS104や、その後段の物性計算ステップS108、実大昇温履歴推定ステップS112、評価ステップS114などについても当該一種の試験体1に対してしか行うことが出来ない。なおここで、本実施形態にあっては、加熱実験ステップS102における加熱実験において、昇温計測ステップS104と、閾値昇温履歴の決定S110の両方を行うこととしたが、閾値昇温履歴を決定するための加熱実験は、昇温計測ステップS104を行う加熱実験とは別個に行うこととしてもよい。そのようにすれば、第2の変形例の場合でも、閾値昇温履歴を別途決定しつつ、様々な試験体1に対して昇温計測ステップS104以降の各ステップを実施することが出来る。
【0023】
物性計算ステップS108では、昇温計測ステップS104において計測された各試験体1の昇温履歴の値から、下記の式(1)に示す伝熱に関する方程式を用いて、各試験体1について、その伝熱に関する物性値を求める。なおここで、上記加熱実験においてさほど高い加熱温度履歴を与えていないにも関わらず爆裂を生じた試験体1については、その時点で「十分に有効な爆裂防止処理ではない」と評価し、物性計算ステップS108、およびそれ以降の各ステップS112、S114の対象から除外することとしてもよい。
【0024】
【数1】

本実施形態において使用する上記の式(1)は、いわゆる一次元の非定常熱伝導の方程式である。物性計算ステップS108では、いわゆる逆解析によって、各位置3a、3b、3cにおける昇温履歴の値や試験体本体4や被覆5に関する既知の諸物性値を式(1)に代入し、試験体本体4と被覆5についての伝熱に関する物性値を求める。すなわち、各熱電対3で計測された昇温履歴の値Tとその計測時間t、一次元の座標軸上で見た各熱電対3の位置x、および試験体本体4や被覆5の密度ρなどを代入し、試験体本体4や被覆5の熱伝導率λ(または熱伝達係数λ’)や比熱容量cを求める。具体的な計算手段としては、差分法や、計算機を用いた有限要素法(FEM)解析などを用いることができる。
【0025】
実大昇温履歴推定ステップS112では、いわゆる順解析によって、物性計算ステップS108において計算対象とした試験体1が、実際の寸法(実大規模)および形状を有すると想定した場合、さらに、実大規模の試験体用の加熱温度履歴を与えた場合に、どのような昇温履歴を示すか(昇温履歴推定値)が計算される。
【0026】
具体的には、試験体本体4や被覆5の、物性計算ステップS108で求められた伝熱に関する物性値をλ、λ’、cとして、また、実際の柱における実大寸法値をxとして、さらに実大寸法の試験体用の加熱温度履歴の一例であるISO834に規定された加熱曲線に相当する加熱温度履歴の値をTとして上記の式(1)に代入し、各位置xにおける昇温履歴推定値を求める。
【0027】
ここで、実大の形状としては、柱、梁、壁、床などいかなる部材も想定可能であり、かつまた実際の部材のいかなる位置における昇温履歴推定値も計算可能である。例えば、鉄筋コンクリート柱を想定した場合、図6に示すような各位置、すなわち、ある面の中央付近の表層P1やその鉄筋かぶり深さP4、隅角部の表層P2や鉄筋かぶり深さP5、さらには柱の中心部P3などについて、それぞれ昇温履歴推定値を求めることが可能である。
【0028】
図5は、無被覆の試験体1、15mmケイカル板被覆を施した試験体1、25mmケイカル板被覆を施した試験体1の3通りについての、実大寸法の柱を想定した隅角部表層P2における昇温履歴推定値のグラフである。図4の、各試験体1の表面昇温履歴の計測値、および閾値昇温履歴のグラフと重ねて描いている。無被覆の試験体1の昇温履歴推定値は、加熱温度履歴の値とほぼ一致している。またここで、特に図示していないが、加熱実験ステップS102において電気炉2に補助熱源8を加えるなどしてISO834の加熱曲線に近い加熱温度履歴を与えた試験体は、小規模の試験体1に対する上記昇温計測ステップS104における表面昇温履歴のグラフ(図4)と、実大昇温履歴推定ステップS112における隅角部表層P2の昇温履歴推定値のグラフ(小規模の試験体1と寸法・形状が異なるのみであって加熱温度履歴はほぼ同一である)とがほぼ一致する。このことは、本試験方法の昇温履歴推定値が非常に正確であることを示している。
【0029】
評価ステップS114では、実大昇温履歴推定ステップS112において求められた昇温履歴推定値から、各試験体1の爆裂性を評価する。特に前述のように、試験体1の爆裂の有無は、試験体1の表面昇温履歴と密接な関係を有すると推察されるので、面中央部の表層P1や、隅角部の表層P2における昇温履歴推定値から、各試験体1の爆裂性を評価する。本実施形態にあっては、図5に示すように、柱の隅角部表層P2の昇温履歴推定値と閾値昇温履歴のグラフとを比較することにより評価を行っている。図5において、無被覆の場合と15mmケイカル板被覆の場合の昇温履歴推定値のグラフは、閾値昇温履歴のグラフを上回っているので、実大規模の試験体に対し、実大規模の試験体用の加熱温度を与えた場合は、両者は爆裂を生じるものと評価される。25mmケイカル板被覆のグラフは、閾値昇温履歴を下回っており、実大規模の試験体に対し、実大規模の試験体用の加熱温度を与えた場合にも、爆裂を生じないものと評価される。従ってこの3種の試験体1の中では、25mmケイカル板被覆が最も有効な爆裂防止処理であると考えられる。
【0030】
なおここで、閾値昇温履歴を、仮に図4、図5で太い点線で示すように2時間経過の後も一定の傾きを有する直線とした場合には、被覆材料が熱反応によって変成して耐火性能を向上させるような性質のものであった場合に、初期には閾値昇温履歴を上回るが2時間以降に閾値昇温履歴を下回るため、「爆裂性なし」と評価してしまうことも考えられることから、危険側の評価となることを防止するため、本実施形態では閾値昇温履歴を2時間経過後は400℃に維持されるものと決定している。
【0031】
なお、評価ステップS114における、各試験体1の爆裂性の評価結果は、別途行われた実大寸法の試験体の載荷加熱試験の結果とよく一致することが確認された。図7は、15mmケイカル板被覆を施した小規模の試験体1について、本試験方法により求められた、実大寸法の柱形状を想定した場合の昇温履歴推定値のグラフと、同じ被覆を施した実大寸法の高強度コンクリートの載荷加熱実験の実験結果のグラフである。どちらもISO834に規定された加熱曲線に相当する加熱温度履歴により加熱された場合であり、面中央部表層P1、隅角部表層P2、柱の中心部P3の三つの位置についてのグラフである。いずれの位置においても、昇温履歴推定値のグラフと、載荷加熱実験値のグラフとはよく一致している。載荷加熱実験のグラフは途中で爆裂を生じたため、面中央表層P1、および隅角部表層P2において、爆裂を生じた時点から急激に高温となっている。
【0032】
以上説明したように、本実施形態にかかる高強度コンクリートの爆裂性試験方法にあっては、実大寸法の試験体よりも小規模の試験体1に対し、加熱温度履歴を与える加熱実験ステップS102と、加熱実験ステップS102における小規模試験体1の昇温履歴を計測する昇温計測ステップS104と、昇温計測ステップS104における小規模試験体1の昇温履歴の値から、伝熱に関する方程式(1)を用いて、小規模試験体1の伝熱に関する物性値を求める物性計算ステップS108と、物性計算ステップS108で求められた小規模試験体1の伝熱に関する物性値と、実大規模の試験体の寸法および加熱温度履歴の値とを、伝熱に関する方程式(1)に代入し、小規模試験体1の実大寸法における昇温履歴推定値を求める実大昇温履歴推定ステップS112と、求められた昇温履歴推定値から、小規模試験体1の実大規模における爆裂性を評価する評価ステップS114とを含むこととしたので、試験体1や、試験体1を加熱実験するための試験装置が小規模で簡易なもので済むとともに、そのような簡易な試験体1でありながら、実大規模(実大寸法)および形状を有すると想定した場合、さらに、実大規模の試験体用の加熱温度履歴を与えた場合の昇温履歴推定値を正確に推定することができ、その爆裂性を容易に評価することが可能となる。その結果、コストや試験時間、労力や、試験体1の取り扱いなどの点において非常に有利である。また、背景技術のように特別な試験装置を備えた機関を利用する必要がないため、試験計画立案の自由度を非常に高めることができる。
【0033】
特に本実施形態で用いた電気炉2は、背景技術の、実大規模の試験体に対する試験装置における加熱炉などに比べ、はるかに小型で安価であり、市販の電気炉を利用して自作することも容易である。また、小規模の試験体1を炉の中に完全に収容して試験する必要がなく、試験体1の一面が電気炉2の開口部に面するように取り付けるだけでよいので、その分さらに電気炉2は小型のもので済む。
【0034】
また、試験体1は小規模であるため、試験体1の製作も容易であり、多種多様な試験体1を準備することや、繰り返し多数の加熱実験を行うことも容易である。そのため、多数の加熱実験データを短期間に収集したり、各試験体1について多面的な昇温履歴データを収集することも容易である。
【0035】
また、小規模な平板状の試験体1を用いるだけで、柱をはじめ様々な形状の部材の、しかもその隅角部や面中央部や中心部など様々な位置における、実大寸法の昇温履歴推定値を求めることができ、そのそれぞれにおける爆裂性を評価することができる。
【0036】
また、評価ステップS114では、複数の小規模試験体1に対し異なる加熱温度履歴を与えて爆裂の有無を観察し、その爆裂の有無を分ける境界として閾値昇温履歴を決定し、あるいは複数の異なる爆裂防止処理を施した小規模試験体1に対し、加熱温度履歴を与えて爆裂の有無を観察し、その爆裂の有無を分ける境界として閾値昇温履歴を決定し、その閾値昇温履歴に基づいて評価することとしたので、図5のグラフにおいて実大寸法における昇温履歴推定値のグラフと閾値昇温履歴のグラフとを比較したように、試験体1の爆裂性を一目瞭然で容易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明にかかる高強度コンクリートの爆裂性試験方法の好適な一実施形態を示すフローチャート図である。
【図2】図1の高強度コンクリートの爆裂性試験方法で使用される、試験体を加熱するための試験装置の図である。
【図3】図1の高強度コンクリートの爆裂性試験方法における、各試験体に対する炉内昇温履歴を示す図である。
【図4】図1の高強度コンクリートの爆裂性試験方法における、各試験体本体の表面昇温履歴を示す図である。
【図5】図1の高強度コンクリートの爆裂性試験方法における、実大規模(実大寸法)および実際の形状を有すると想定した場合、さらに、実大規模の試験体用の加熱温度履歴を与えた場合の昇温履歴推定値を示す図である。
【図6】実大寸法の高強度コンクリート柱の断面模式図である。
【図7】図1の高強度コンクリートの爆裂性試験方法における、昇温履歴推定値と、実大寸法の試験体の載荷加熱実験値との比較を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 小規模の試験体
S102 加熱実験ステップ
S104 昇温計測ステップ
S108 物性計算ステップ
S112 実大昇温履歴推定ステップ
S114 評価ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実大寸法の試験体よりも小規模の試験体に対し、加熱温度履歴を与える加熱実験ステップと、
上記加熱実験ステップにおける上記小規模試験体の昇温履歴を計測する昇温計測ステップと、
上記昇温計測ステップにおける上記小規模試験体の昇温履歴の値から、伝熱に関する方程式を用いて、当該小規模試験体の伝熱に関する物性値を求める物性計算ステップと、
上記物性計算ステップで求められた上記小規模試験体の伝熱に関する物性値と、実大規模の試験体の寸法および加熱温度履歴の値とを、上記伝熱に関する方程式に代入し、上記小規模試験体の実大寸法における昇温履歴推定値を求める実大昇温履歴推定ステップと、
上記求められた昇温履歴推定値から、上記小規模試験体の実大規模における爆裂性を評価する評価ステップとを含む
ことを特徴とする高強度コンクリートの爆裂性試験方法。
【請求項2】
前記評価ステップは、複数の前記小規模試験体に対し異なる加熱温度履歴を与えて爆裂の有無を観察し、爆裂の有無を分ける境界となる昇温履歴である閾値昇温履歴を決定し、該閾値昇温履歴に基づいて評価することを特徴とする請求項1に記載の高強度コンクリートの爆裂性試験方法。
【請求項3】
前記評価ステップは、複数の異なる爆裂防止処理を施した前記小規模試験体に対し、加熱温度履歴を与えて爆裂の有無を観察し、爆裂の有無を分ける境界となる昇温履歴である閾値昇温履歴を決定し、該閾値昇温履歴に基づいて評価することを特徴とする請求項1に記載の高強度コンクリートの爆裂性試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−329697(P2006−329697A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150740(P2005−150740)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【Fターム(参考)】