説明

高強度ポリエチレン繊維からなるロープ

【課題】 高強度であって、繊維の内部構造が均一で、かつ繊維を構成するフィラメント強度のバラツキの少ない新規なポリエチレン繊維を利用したロープを提供する。
【解決手段】 本発明は、モノクリニック由来の結晶サイズが9nm以下である高強度ポリエチレン繊維を含んでなるロープに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度ポリエチレン繊維を含んでなるロープに関する。
より詳しくは、高強度であって、繊維の内部構造が均一で、かつ繊維を構成するフィラメント強度のバラツキの少ない新規なポリエチレン繊維を利用したロープに関する。
【背景技術】
【0002】
高強度ポリエチレン繊維に関しては、超高分子量のポリエチレンを原料にし、いわゆる「ゲル紡糸法」により従来にない高強度・高弾性率繊維が得られることが知られており、既に産業上広く利用されている(例えば、特許文献1、特許文
献2)。
【0003】
【特許文献1】特公昭60―47922号公報
【特許文献2】特公昭64−8732号公報
【0004】
超高分子量ポリエチレン繊維は、様々な用途に使用されており、コンクリートやモルタルを補強するために使用されている(例えば、特許文献3)。
【0005】
【特許文献3】特開2004-285557号公報
【0006】
ロープの強度は、繊維の強度と高い相関が得られる。しかし、ロープが実際に使用される場合、ロープの両端にはアイ加工と呼ばれる加工が施されるが、ロープの最も破断しやすい部分は、このアイ加工が施された部分である。特に高強力繊維を用いたロープの場合、湾曲状でその両端から荷重が掛かると、破断し易く、引張強度に対する残存強度は非常に低くなる傾向にある。このような湾曲形状での引張強度は、繊維の伸度が大きく影響しているものと考えられるが、単糸繊度の太さ斑も影響を与える因子の一つと考えられる。湾曲形状で引張荷重が掛かると、湾曲部の最外層部分の繊維から荷重が掛かり、単糸繊度の太さ斑が大きいと、細い繊維から破断し易くなり、次々に細い繊維から破断することにより、強力値が低減するものと予想される。よって、高強度なロープを得る為には、繊維の改質が必須と考えられる。特にロープの場合は、端末にアイ加工を施すため、湾曲した状態での引張破断強度の向上が重要と考えられる。また、係留用ロープとして使用する場合、様々な箇所で屈曲しながら引張作用を受ける為、屈曲磨耗強度も重要となる。屈曲によって、ロープの同じ箇所が擦れる。このため、繊維の繊度のバラツキが大きいと、細い繊維は早く破断し、その結果、屈曲磨耗によるロープの残存強度も低下すると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの広範囲な要求を満足するのに有効な手段は、繊維の内部に存在する欠陥を限りなく少なくすることである。加えて、繊維を構成するフィラメントが均一で有ることである。従来のゲル紡糸法では、この内部の欠陥構造を十分低いレベルに押さえらなかった。また、繊維を構成するそれぞれのフィラメント強度のバラツキも大きかった。これらの原因について、本発明者らは次のように考えている。
【0008】
従来のゲル紡糸法を用いた場合、超延伸操作が可能となり、高強度・高弾性率化は達成され、結果として得られる繊維の構造は、小角X線散乱測定に於いて長周期構造が観察されないほど高度に結晶化・秩序化する。その反面、後で詳しく説明するように、どうしても消去することの出来ない欠陥構造が生成するため、この凝集が繊維に応力を与えたとき繊維内部に大きな応力分布が誘引される問題があった。繊維のスキンコア構造などは、この欠陥構造の一つであると考えられる。
【0009】
本発明者らは、モノクリニック由来の結晶サイズを低く抑えることが、結節強度を高める上で最も重要であることを見出した。理由は定かではないが、得られたポリエチレン繊維のX線回折をとると、オルソロンビック結晶系由来の回折点がメインではあるものの、若干のモノクリニック回折由来のピークが確認された。本検討の結果、モノクリニック回折由来の結晶サイズをある一定以下に抑えることが重要であることが判明した。この理由については正確には明らかではないが、大略以下のとおりであると理解している。すなわち、溶媒の抜けたキセロゲルの状態から延伸したとき、モノクリニック結晶の成長を阻害する溶媒分子が少ないためか、モノクリニック由来結晶のサイズが比較的大きく成長することが判った。このような、モノクリニック結晶がある限度以上のサイズまで成長した状態になると、繊維が変形を受けたときモノクリニック由来の結晶とオルソロンビック由来の結晶の間に応力集中が生じ破壊の起点となり得、結果的に、結節強度の観点からも不利となり好ましくない。
【0010】
次に本発明者らは、結節強度と、繊維を構成する微細結晶サイズ、配向、繊維各部位でのこれら構造パラメータのばらつきとの間に相関関係があることを見出した。結節強度を向上させるためには、繊維が微視的に見ても巨視的に見ても、しなやかに任意に曲げ得る状態が理想の状態である。この時、曲げたことが原因となって繊維微細構造の破壊が生じる可能性をできる限り低く抑える必要がある。このとき、繊維の結晶配向や結晶サイズをできるだけ大きくする必要がある。また同時に、これらをあまり大きくしすぎると、残留するアモルファス領域との対比(コントラスト)がつきすぎるため、かえって結節強度が悪くなる傾向がある。さらには、繊維の各部位での結晶サイズや配向も大体同じ程度に作りこむことが重要であることも、本発明者らは見出した。もし微細構造の各部位、特に隣接する部位間に、結晶サイズや配向などの構造不均一があれば、変形を与えたときに、その不均一個所を起点として応力集中が発生し、結果として結節強度の低下を招くことが判った。
【0011】
構造中に生じる応力分布は、例えばYoungらが示したように、ラマン散乱法を用いて測定することが出来る(Journal of Materials Science, 29, 510 (1994))。ラマンバンド、即ち基準振動位置は、繊維を構成する分子鎖の力の定数と分子の形(内部座標)から構成される方程式を解くことにより決定される(E. B. Wilson, J. C. Decius, P.C. Cross著Molecular Vibrations, Dover Publications (1980))。この現象の理論的な説明としては、例えばWoolらによれば、繊維が歪むにつれて該分子も歪み、結果として基準振動位置が変化するとの説明を与えている(Macromolecules, 16, 1907 (1983))。
【0012】
欠陥凝集などの構造不均一が存在すると、外部歪みを与えたときに、繊維中の部位により、生じる応力が異なることになる。この変化は、バンドプロファイルの変化として検出できるため、逆に、繊維に応力を与えたとき、その強度とラマンバンドプロファイルの変化の関係を調べることによって、繊維内部に誘引された応力分布を定量出来る。即ち、構造不均一が小さい繊維は、後述するように、ラマンシフトファクターがある領域の値をとるようになる。
【0013】
上記に加え、これまで開示されている「ゲル紡糸法」による高強度ポリエチレン繊維は、その高度に配向した構造故に引っ張り強度は非常に強いものの、結節強度のように繊維が折れ曲がった状態となると、比較的低い応力で容易に破断してしまう欠点があった。さらに繊維中に例えばスキンコア構造の様な繊維の断面方向に不均一構造が存在すると、折れ曲がった状態では、さらに容易に繊維が破断する。本発明者らは、鋭意検討を行い、構造不均一の小さい繊維は、折れ曲がった状態での引っ張り状態に強いこと、また、構造不均一が小さい繊維は、引っ張り強度に対する結節強度の割合が高くなることを見出した。
【0014】
これまで開示されている「ゲル紡糸法」による高強度ポリエチレン繊維の欠点は、通常の溶融紡糸法などによって得られる繊維に比べて、ノズル孔から紡出後の状態によって、単糸繊維間に強度のむらが生じてしまうことであった。その為、特にヤーンの平均繊度あたりの強度と比較して著しく強度の低い単糸が存在してしまう問題点があった。繊維中にこのような平均強度より低い強度を持つ単繊維が存在すると、例えば、繊維が摩擦を受けた場合等、特に、釣り糸・ロープ・防弾・防護衣料などに本繊維を用いる場合、太細むらが存在すると細い部分で応力が集中し破断が生じる。また、製造工程に於いても、単糸切れなどによる工程トラブルの原因となり、生産性に悪い影響を与える。
【0015】
本発明は、これらの問題が改善され、単糸間強度のばらつきが少なく均一性に優れる高強度ポリエチレン繊維を含んでなる、高性能ロープを提供することを課題とする。
【0016】
本発明者らは鋭意検討し、従来のゲル紡糸法のような手法では得ることが困難であった、高強度で繊維の内部構造が均一であって、かつ、繊維を構成するフィラメントの強度のバラツキの少ない新規なポリエチレン繊維を得ることに成功し、これをロープ用に使用することにより本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、特定の高強度ポリエチレン繊維を使用した下記のロープに関する。即ち、ポリエチレン繊維中には、通常、オルソロンビック(直方体)とモノクリニック(斜方)の2種類の結晶が含まれるが、本発明における高強度ポリエチレン繊維は、モノクリニック由来の結晶サイズが小さいことに特徴がある。
【0018】
[1]モノクリニック由来の結晶サイズが9nm以下である高強度ポリエチレン繊維を含んでなるロープ。
[2]前記高強度ポリエチレン繊維において、オルソロンビック結晶(200)と(020)回折面由来の結晶サイズの比が0.8以上1.2以下である[1]に記載のロープ。
[3]前記高強度ポリエチレン繊維の応力ラマンシフトファクターが−5.0cm−1/(cN/dTex)以上である、[1]または[2]に記載のロープ。
[4]前記高強度ポリエチレン繊維の平均強度が20cN/dTex以上である[1]〜[3]のいずれかに記載のロープ。
[5]前記高強度ポリエチレン繊維を構成するモノフィラメントの結節強度の保持率が40%以上である[1]〜[4]のいずれかに記載のロープ。
[6]前記高強度ポリエチレン繊維を構成するモノフィラメントの単糸強度のばらつきを示すCVが25%以下である[1]〜[5]のいずれかに記載のロープ。
[7]前記高強度ポリエチレン繊維を構成するモノフィラメントの破断伸度が2.5%以上6.0%以下である[1]〜[6]のいずれかに記載のロープ。
[8]前記高強度ポリエチレン繊維を構成するモノフィラメントの単糸繊度が10dTex以下である[1]〜[7]のいずれかに記載のロープ。
[9]前記高強度ポリエチレン繊維の融点が145℃以上である[1]〜[8]のいずれかに記載のロープ。
【発明の効果】
【0019】
本発明における高強度ポリエチレン繊維は、従来のゲル紡糸法では十分低いレベルに押さえられていなかった繊維の内部に存在する欠陥が限りなく少なく、かつマルチフィラメントを構成するフィラメントの強度のバラツキが小さく均一な繊維である。
本発明によれば、かかる高強度ポリエチレン繊維を使用することにより、従来の超高分子量ポリエチレン繊維を使用したロープに比較し、アイ加工部分での破断耐力が増し、且つ屈曲磨耗性も向上するため、長期使用の可能な高性能ロープを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る繊維を得る手法に関しては、新規な手法が必要であり、例えば以下のような方法が推奨されるが、それらに限定されるものでは無い。
本繊維の製造に当たっては、その原料となる高分子量のポリエチレンとして超高分子量ポリエチレンを使用することが好ましい。このようなポリエチレンの極限粘度[η]は5以上であることが好ましく、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上である。極限粘度が低すぎると、所望とする強度20cN/dtexを超えるような高強度繊維が得られないことがある。一方、ポリエチレンの極限粘度[η]は35以下であることが好ましく、より好ましくは30以下、さらに好ましくは25以下である。極限粘度が高すぎると、加工性が低下して繊維化が困難になることがある。
【0021】
本発明における超高分子量ポリエチレンとは、その繰り返し単位が実質的にエチレンであることを特徴とし、少量の他のモノマー、例えばα−オレフィン、アクリル酸及びその誘導体、メタクリル酸及びその誘導体、ビニルシラン及びその誘導体などとの共重合体であってもよいし、これら共重合物どうし、あるいはエチレン単独ポリマーとの共重合体、さらには他のα−オレフィン等のホモポリマーとのブレンド体であってもよい。特にプロピレン、ブテンー1などのαオレフィンとの共重合体を用いることにより、短鎖あるいは長鎖の分岐をある程度含有させることは、繊維を製造する上で、特に紡糸・延伸において、製糸上の安定性を付与し得るため、より好ましい。しかしながら、エチレン以外の含有量が増えすぎると却って延伸の阻害要因となるため、高強度・高弾性率繊維を得る観点からは、αオレフィン等の他のモノマーは、モノマー単位で0.2mol%以下、好ましくは0.1mol%以下であることが望ましい。もちろんエチレン単独のホモポリマーであってもよい。
【0022】
本発明の推奨する製造方法においては、このような高分子量のポリエチレンをデカリン・テトラリン等の揮発性の有機溶剤を用いて溶解することが好ましい。常温で固体または非揮発性の溶剤では、紡糸での生産性が非常に悪くなる傾向にある。揮発性溶媒を用いると、紡糸の初期段階において紡糸口金から吐出後のゲル糸表面に存在する溶媒が若干蒸発するが、この時の溶媒の蒸発に伴う蒸発潜熱による冷却効果により、製糸状態が安定するものと推定される。溶解する際の濃度は30wt%以下が好ましく、より好ましくは20wt%以下である。原料超高分子量ポリエチレンの極限粘度[η]に応じて最適な濃度が選択される。さらに、紡糸段階において、紡糸口金温度を、ポリエチレンの融点より30℃以上、用いた溶媒の沸点以下とすることが好ましい。ポリエチレンの融点近傍の温度領域では、ポリマーの粘度が高すぎるため、素早い速度で引き取ることが困難となる。また、用いる溶媒の沸点より高い温度では、紡糸口金を出た直後に溶媒が沸騰するため、紡糸口金直下で糸切れが頻繁に発生することがあるため好ましくない。
【0023】
本発明の推奨する、均一な繊維を製造する方法における重要な因子について記載する。
その第1は、ノズル下でオリフィスから吐出された吐出溶液の各々に対して独立に、予め整流された高温の不活性ガスを供給することである。この時の供給する不活性ガスの速度は、1m/s以内が好ましい。速度が大きすぎると、溶媒の蒸発速度が速くなり、糸断面方向に不均一な構造ができることがある。さらには、繊維が破断してしまう可能性もある。また、この時の不活性ガスの温度は、ノズルの温度に対してプラスマイナス10℃の範囲が好ましく、更に好ましくは、プラスマイナス5℃の範囲である。各々の吐出糸状に対して独立に不活性ガスを供給することにより、各々の糸状の冷却状態が均一となり、均一な構造を持つ未延伸糸が得られる。この均一な構造を持つ未延伸糸を均一に延伸することにより、所望の均一な高強度ポリエチレン繊維を得ることが可能となる。
【0024】
第2の因子は、紡糸口金から吐出した吐出ゲル糸状を急激、かつ均一に冷却すること、及び冷却媒体とゲル糸状の冷却速度差を制御することである。その冷却速度は、1000℃/s以上が好ましく、さらに好ましくは3000℃/s以上である。また、速度差に関しては、速度差の積分値(口金から吐出後の時間で積分)、即ち累積速度差が30m/min以下であることが好ましい。さらに好ましくは、15m/min以下である。以上によって、均一性に優れる未延伸糸を得ることができる。ここで、累積速度差は次式:
累積速度差=∫(糸状の速度−糸状引き取り方向の冷却媒体の速度)
に基づいて計算し得る。
【0025】
このように、急激にかつ均一に冷却することにより、繊維断面方向が均一な未延伸糸を製造することが可能となる。吐出糸状の冷却速度が遅くなると、繊維の内部構造に不均一な状態が発生する傾向にある。また、マルチフィラメントの場合、各フィラメントの冷却状態が異なるとフィラメント間での不均一性が増加する。また、引き取り糸状と冷却媒体の速度差が大きいと、引き取り糸状と冷却媒体の間で摩擦力が働くことにより十分な紡糸速度で引き取ることが困難となる。
このような冷却速度を得るためには、冷却媒体として熱伝達係数の大きい液体を用いることが推奨される。なかでも、使用する溶媒と非相溶である液体が好ましい。例えば、簡便さから水が推奨される。
【0026】
第3は、紡糸口金から吐出した吐出ゲル糸状が冷却媒体と接触するまでに走行する気体媒質空間を部材で覆うことである。該気体媒質空間を外部空間から遮蔽しない場合、外部空間の温度や風速の変動により、該気体媒質空間において、該吐出ゲル糸状の冷却速度や該吐出ゲル糸状からの溶媒蒸発速度がモノフィラメント毎に変動し、モノフィラメント間の構造が不均一になる。さらには、モノフィラメントが破断してしまう可能性がある。部材の材質として断熱構造を有していることが推奨される。該吐出ゲル糸状の様子を視認できる様に、例えば耐熱ガラスが推奨される。該吐出ゲル糸状の様子を視認する必要がない場合は、実質的に真空な部分を介した二重構造を有する金属製の部材を用いてもよい。
【0027】
冷却媒体として液体を用いる場合、液面変動を1mm以下にすることが重要である。液面変動が1mmを越えると、モノフィラメントの長手方向及びモノフィラメント間における該気体媒質空間の通過時間の変動が顕著になり、モノフィラメントの構造不均一が長手方向、及びフィラメント間で顕著になることがある。特に液面変動が酷い場合、該気体媒質空間においてモノフィラメントが破断する。
【0028】
冷却媒体として溶媒と非相溶で、且つ、溶媒よりも比重が大きい液体を用いる場合、該気体媒質中を通過する間に該吐出ゲル糸状から揮発した溶媒が液化し、経時的に冷却媒体上層に累積する。該累積溶媒を該ゲル糸状が冷却媒体に突入する部位より連続的に除去する必要がある。該累積溶媒を除去しない場合、該ゲル糸状突入部位に累積する溶媒層の厚みが経時的に増加し、該ゲル糸状同士の融着が生じる。該ゲル糸状同士の融着が酷い場合、糸物性が著しく低下する。
【0029】
また、累積速度差を小さくする為には、以下のような手法が考えられるが、本発明はそれに限定されるものではない。例えば、円筒状バスの中心に漏斗を取り付け、液体とゲル糸を同時に引き取ったり、滝の様に落下している液体にゲル糸を沿わして同時に引き取ったりする方法が推奨される。このような方法を用いることで、静止している液体を用いてゲル糸を冷却した場合と比較し、累積速度差を小さくすることが可能である。
【0030】
得られた未延伸糸をさらに加熱し、溶媒を除去しながら数倍に、場合により多段で、延伸することにより、前述の内部構造の均一性に優れた高強度ポリエチレン繊維を製造し得る。この時、延伸時の繊維の変形速度は、重要なパラメータとして挙げられる。繊維の変形速度があまりにも速いと、十分な延伸倍率へ到達する前に繊維の破断が生じてしまうため好ましくない。また、繊維の変形速度があまりにも遅いと、延伸中に分子鎖が緩和してしまい、延伸により繊維は細くなるものの高い物性の繊維が得られないため好ましくない。従って、好ましい変形速度は0.005s-1以上0.5s-1以下である。さらに好ましくは、0.01s-1以上0.1s-1以下である。変形速度は、繊維の延伸倍率、延伸速度及びオーブンの加熱区間長さから計算可能である。つまり、変形速度は、
変形速度(s-1)=(1―1/延伸倍率)延伸速度/加熱区間の長さ
で示される。
また、所望の強度の繊維を得るためには、繊維の延伸倍率は10倍以上、好ましくは12倍以上、さらに好ましくは15倍以上が推奨される。
【0031】
本発明に係る高強度ポリエチレン繊維において、モノクリニック由来の結晶サイズは、9nm以下であることが望ましく、さらに望ましくは8nm以下であり、特に望ましくは7nm以下である。結晶サイズが大きすぎると、繊維を変形させたとき、モノクリニック由来の微結晶とオルソロンビック由来の微結晶の間で応力集中が生じ、破壊の起点となる可能性がある。
【0032】
本発明に係る高強度ポリエチレン繊維において、オルソロンビック結晶(200)と(020)回折面由来の結晶サイズの比は、0.8以上1.2以下であることが望ましい。ここで、オルソロンビック結晶(200)と(020)回折面由来の結晶サイズの比とは、(200)面に垂直方向の長さに相当する結晶サイズと(020)面に垂直方向の長さに相当する結晶サイズの比を意味する。さらに望ましくは0.85以上1.15以下、特に望ましくは0.9以上1.1以下である。結晶サイズ比が小さすぎる場合、もしくは結晶サイズ比が大きすぎる場合、結晶の形を考えたとき、1つの軸方向に選択的に成長した形態となる。このため、繊維を変形させたときに、周りに存在する微結晶同士で衝突が生じ、応力集中や構造破壊を生じる可能性がある。
【0033】
本発明に係る高強度ポリエチレン繊維において、応力ラマンシフトファクターは−5.0cm−1/(cN/dTex)以上であることが望ましく、さらに望ましくは−4.5cm−1/(cN/dTex)以上であり、特に望ましくは−4.0cm−1/(cN/dTex)以上である。応力ラマンシフトファクターが小さい場合には、応力集中に起因する応力分布の存在が示唆される。
【0034】
本発明に係る高強度ポリエチレン繊維において、平均強度は20cN/dTex以上であることが望ましく、さらに望ましくは22cN/dTex以上であり、特に望ましくは24cN/dTex以上である。平均強度が小さすぎる場合、応用製品を作成したとき、製品としての強度が不足する可能性があり望ましくない。
【0035】
本発明における高強度ポリエチレン繊維を構成するモノフィラメントの結節強度の保持率は、40%以上であることが望ましく、さらに望ましくは43%以上であり、特に望ましくは45%以上である。結節強度の保持率が小さすぎる場合、応用製品としてのロープを作成するときに、工程通過中に糸がダメージを受ける可能性がある。
【0036】
本発明における高強度ポリエチレン繊維を構成するモノフィラメントの単糸強度のばらつきを示すCVは25%以下であることが望ましく、さらに望ましくは23%以下であり、特に望ましくは21%以下である。単糸強度のばらつきを示すCVが大きすぎる場合、応用製品としてのロープを作成したときに、製品としての強度のばらつきが生じる場合がある。
【0037】
本発明における高強度ポリエチレン繊維を構成するモノフィラメントの破断伸度は、2.5%以上6.0%以下であることが望ましく、さらに望ましくは3.0%以上5.5%以下であり、特に望ましくは3.5%以上5.0%以下である。破断伸度が小さすぎる場合、製造時の工程通過中に、繊維の単糸が切れることによる操業性の低下を招くことがある。破断伸度が大きすぎる場合、製品として使用したときに永久変形の影響が無視できなくことがある。
【0038】
本発明における高強度ポリエチレン繊維を構成するモノフィラメントの単糸繊度は、10dTex以下であることが望ましく、さらに望ましくは8dTex以下であり、特に望ましくは6dTex以下である。単糸繊度が大きいすぎると、繊維製造過程において所望の力学物性まで製品性能を高めることが困難となる場合がある。単糸繊度は小さいことが好ましいが、細すぎると毛羽が立ち易くなるため、0.1dTex以上が望ましい。
【0039】
本発明における高強度ポリエチレン繊維の融点は、145℃以上であることが望ましく、さらに望ましくは148℃以上である。繊維の融点が、145℃以上であると、加温を必要とする工程において、より高い温度に繊維が耐えることが出来るため、処理の省力化の観点から望ましい。
【0040】
本発明の高性能ロープは、上記の高強度ポリエチレン繊維を含んでなり、モノフィラメント自体の強度のばらつきが少なく、局所的に弱い部分を減少させることができる。従って、ロープ全体としても、早く破断する箇所の発生を低減でき、その結果、強度が高く信頼性の高いロープが得られる。
また本発明のロープは、上記の高強度ポリエチレン繊維を含んでいる限り、他の繊維が混入されていてもよい。従って、意匠や機能によって、例えば低分子量のポリオレフィンやウレタン樹脂などの別素材で外周を被覆しても構わない。ロープの形態としても、三つ打ち、六つ打ち等の撚り構造、八つ打ち、十二打ち、二重組打索等の編構造、芯部分の外周をヤーン及びストランド等で螺旋状に被覆してなるダブルブレード構造に仕上げることにより、用途と性能に合わせて理想的なロープを設計し得る。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の有効性を、実施例等を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下の実施例等における物性の評価方法は以下の通りである。
【0042】
(マルチフィラメントの強度・伸度・弾性率)
オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長200mm(チャック間長さ)、伸長速度100%/分の条件で、歪−応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%の条件下で測定した。破断点での応力と伸びから強度(cN/dTex)、伸度(%)を求め、曲線の原点付近の最大勾配を与える接線から弾性率(cN/dTex)を計算して求めた。なお、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
【0043】
(単繊維の強度等)
フィラメント(単繊維)の強度、弾性率の測定に際し、測定対象である1本のマルチフィラメントから無作為に10本の単糸(フィラメント)を抜き取ってサンプルとした。フィラメントの構成本数が、10本に満たない場合は、すべての単糸(フィラメント)を測定対象とした。
単繊維約2mを各々取り出し、該繊維1mを使用して重さを測定し、10000mに換算して繊度(dTex)とした。この単糸繊維1mの長さの測定時、単糸繊度の約1/10の荷重を掛けて定長のサンプルを作成した。残りの部分を使用して、繊維の強度と同じ方法で強度を測定した。CVは以下の計算式:
CV=単糸強度の標準偏差/単糸強度の平均値×100
で計算される。
【0044】
(単繊維の結節強度保持率)
フィラメント(単繊維)の結節強度保持率の測定に際し、測定対象の1本のマルチフィラメントから無作為に10本の単糸(フィラメント)を抜き取りサンプルとした。フィラメントの構成本数が、10本に満たない場合は、すべての単糸(フィラメント)を測定対象とした。
単繊維約2mを各々取り出し、該繊維1mを使用して重さを測定し、10000mに換算して繊度(dTex)とした。この単糸繊維1mの長さの測定時、単糸繊度の約1/10の荷重を掛けて定長のサンプルを作成した。さらに該繊維の残りの部分を使用して、単繊維の真中に結び目を作成した後、「マルチフィラメントの強度・伸度・弾性率」に記載の方法と同様の方法で引っ張り試験を実施した。この時、結び目の作り方は、JIS L1013に記載されている図3に準じて行った。尚、結び目の方向は常に同じとし、図3のbとした。結節強度保持率は、下記式:
結節強度保持率=単糸結節強度の平均値/単糸強度の平均値×100
によって求めた。
【0045】
(極限粘度)
ウベローデ型毛細粘度管を用い、135℃のデカリン中で種々の希薄溶液の比粘度を測定し、その粘度を濃度に対してプロットし、最小2乗近似で得られる直線の原点への外挿点から、極限粘度を決定した。
測定に際し、サンプルを約5mm長の長さに分割または切断し、ポリマーに対して1wt%の酸化防止剤(商標名「ヨシノックスBHT」吉富製薬製)を添加し、135℃で4時間攪拌溶解して、測定溶液を調製した。
【0046】
(融点)
測定は、示差走査熱量計としてパーキンエルマー社製「DSC7型」を用いて行った。予め5mm以下に裁断したサンプルを、アルミパンに約5mg充填封入し、同様の空のアルミパンをリファレンスとして、10℃/分の昇温速度で室温から200℃まで上昇させ、その吸熱ピークを求めた。得られた曲線の最も低温側に現れる融解ピークのピークトップの温度を融点とした。
【0047】
(ラマン散乱測定)
下記の方法に従い、ラマン散乱スペクトルの測定を行った。ラマン測定装置(分光器)として、レニショー社のシステム1000を用いた。光源としてヘリウム−ネオンレーザー(波長633nm)を用い、偏光方向に繊維軸が平行になるように繊維を設置して測定した。
ヤーンから単繊維(モノフィラメント)を分繊し、矩形(縦50mm横10mm)の穴が空いたボール紙の穴の中心線上に、長軸が繊維軸と一致するように貼り、両端をエポキシ系接着剤(アラルダイト)で止めて2日間以上放置した。その後、マイクロメーターで長さが調節できる治具に該繊維を取り付け、単繊維を保持するボール紙を注意深く切り取った後、所定の荷重を繊維に印加し、該ラマン散乱装置の顕微鏡ステージにのせ、ラマンスペクトルを測定した。このとき、繊維に働く応力と歪を同時に測定した。ラマンの測定は、Static Modeにて、測定範囲850cm-1から1350cm-1について、1ピクセルあたりの分解能を1cm-1以下としてデータを収集した。解析に用いたピークとしては、C−C骨格結合の対称伸縮モードに帰属される1128cm-1のバンドを採用した。
バンド重心位置と線幅(バンド重心を中心としたプロファイルの標準偏差、2次モーメントの平方根)を正確に求めるために、該プロファイルを2つのガウス関数の合成として近似することで、うまくカーブフィットできることが分かった。歪みをかけると2つのガウス関数のピーク位置が一致せず、それらの距離が遠ざかることが判明した。この様な場合、本発明に於いてはバンド位置をピークプロファイルの頂点とは考えず、2つのガウスピークの重心位置でもってバンドピーク位置と定義した。定義を次式(重心位置、<x>):
【0048】
<x>=∫x f(x) dx/∫f(x) dx
f(x)=f1(x−a)+f2(x−b)
(式中、fiはガウス関数を表す。)
に示す。バンド重心位置<x>と繊維にかかる応力をプロットしたグラフを作成し、得られたプロットの最小二乗法を用いた原点を通る近似曲線の勾配を、応力ラマンシフトファクターと定義した。
【0049】
(結晶サイズ及び配向の評価)
結晶サイズおよび配向の評価は、X線回折法を用いて行った。X線ソースとしては、大型放射光施設SPring8をX線源とし、BL24XUハッチを使用した。使用するX線のエネルギーは、10keV(λ=1.2398Å)であった。アンジュレーターを通して取り出したX線は、モノクロメーター(シリコン結晶の(111)面)を通して単色化した後、位相ゾーンプレートを用いてサンプル位置で収束するようにセットした。焦点の大きさは、縦横とも径が3μm以下となるように調整した。サンプル繊維は、XYZステージ上に、繊維軸が水平になるように載せる。別に取り付けたトムソン散乱検出器を用いて検出しながらステージを微動せしめ、トムソン散乱強度を測定し、強度が最大になった点を繊維の中心と判定した。X線強度は非常に強いため、サンプルの露光時間が長すぎるとサンプルにダメージが入る。そこで、X線回折測定時の露光時間は2分以内とした。この測定条件にて、繊維のスキン部から中心部にかけて実質的に等間隔な5点以上の部位にビームを当て、それぞれの場所についてのX線回折図形を測定した。X線回折図形は、フジ製イメージングプレートを用いて記録した。データの読み出しは、フジ製ミクロルミノグラフィーを用いて実施した。記録された画像データは、パソコンに転送して、赤道方向および方位角方向のデータを切り出した後、線幅を評価した。結晶サイズ(ACS)は、赤道方向の回折プロファイルの半値幅βから、次の式(III):
【0050】
ACS=0.9λ/βcosθ (III)
(式中、λは使用したX線の波長、2θは回折角である。)
に示すシェラーの式を用いて算出した。尚、回折ピークの同定はBunnら(Trans Faraday Soc., 35, 482 (1939)) に従って行った。結晶サイズとしては、5点以上について測定・評価して得た平均値を採用した。CVは、下記式:
【0051】
CV=結晶サイズの標準偏差/結晶サイズの平均値×100
を用いて算出した。
【0052】
配向角OAとしては、得られた2次元回折図形のそれぞれについて、方位角方向に走査して求めたプロファイルの半値幅を採用した。5点以上について測定・評価して得た平均値を配向角として採用した。CVは次式:
CV=配向角の標準偏差/配向角の平均値×100
を用いて算出した。
【0053】
(モノクリニック結晶サイズの評価方法)
結晶サイズは、X線回折法を用いて測定した。測定に用いた装置は、リガク製リント2500である。X線源として、銅対陰極を選択した。運転出力は40kV200mAであった。コリメーターは0.5mmとし、繊維を繊維試料台に取り付け、赤道方向および子午線方向にカウンターを走査して、X線回折強度分布を測定した。この時、受光スリットとしては、縦制限横制限とも1/2°を選択した。結晶サイズ(ACS)は、回折プロファイルの半値幅βから、次の式(IV):
【0054】
ACS=0.9λ/β0cosθ (IV)
ただし、β0=(β2 −βs)0.5
(式中、λは使用したX線の波長、2θは回折角、βsは標準サンプルを用いて測定したX線ビームそのものの半値幅である。)
に示すシェラーの式を用いて算出した。
【0055】
モノクリニックの結晶サイズは、モノクリニック(010)由来の回折点の線幅から、シェラー式を用いてACSを計算することにより求めた。尚、回折ピークの同定はSetoら(Jap. J. Appl. Phys., 7, 31 (1968))に従った。
オルソロンビック結晶サイズの比は、(200)回折面由来の結晶サイズを(020)回折面由来の結晶サイズで除して求めた。
【0056】
(強度及び耐久性)
両端にアイ加工を施したロープを作製し、滑り止めを目的として、ウレタン系の樹脂を含浸させ、乾燥させた。ロープの強度は、ロープ両端をピンで固定した後、島津製作所(株)製の油圧サーボ式強度試験機(サーボパルサ)を用いて、引張速度20cm/分で測定した。
さらに、屈曲磨耗試験は、ロープを250mmφの滑車に渡し、破断強力の40%の荷重をかけた状態で、100万回繰り返し屈曲させることにより行った。試験後のロープを上記と同様に両端にアイ加工を施した後ロープ強度を測定し、屈曲磨耗試験前後の残留率(%)を算出した。
【0057】
(実施例1〜3)
極限粘度21.0dl/gの超高分子量ポリエチレンとデカヒドロナフタレンを重量比8:92で混合しスラリー状液体を形成させた。該物質を混合及び搬送部を備えた2軸スクリュー押出し機で溶解し、得られた透明な均一物質を円状に配列したホール数30個、直径0.8mmのオリフィスから1.8g/minで押出した。該押出し溶解物質を長さ10mmのエアギャップを介して、定常流の水で満たされた円筒状の流管(厚さ5mmの耐熱ガラスで覆い外部空間より遮蔽)を通過させることにより、液面変動を0.5mm以下に抑え、且つ、液面に累積するデカヒドロナフタレンを該押出し溶解物質が水面に突入する部位より連続的に除去しながら均一に冷却し、該押出し溶解物質中の溶媒を該押出し溶解物質から除去することなしに紡糸速度60m/minでゲル糸状を引き取った。この時、繊維の冷却速度は、9667℃/sで累積速度差は5m/minであった。ついで、該ゲル繊維を巻き取ること無く窒素加熱オーブン中、3倍の延伸比で延伸し延伸糸を巻き取った。ついで、該繊維を149℃で最大6.5倍の延伸倍率で延伸を行い種々の延伸倍率の延伸糸を得た。
得られたポリエチレン繊維の諸物性を表1に示した。
【0058】
(実施例4、5)
極限粘度が19.6の超高分子量ポリエチレンポリマーを10wt%およびデカヒドロナフタレン90wt%のスラリー状の混合物を分散しながら230℃の温度に設定したスクリュー型の混練り機で溶解し、177℃に設定した直径0.6mmを400ホール有する口金に軽量ポンプにて単孔吐出量1.2g/分で供給した。各々のノズル直下に独立に設置したカラー状のクエンチ設備にて、0.1m/sの窒素ガスを整流に気をつけ、できるだけ吐出される糸条に各々に均等に当たるようにして繊維の表面のデカリンを極微量蒸発させ、さらに窒素雰囲気のエアギャップを通したこと以外は実施例1と同様にしてポリエチレン繊維を作製した。尚、2段目の延伸倍率は、4.5及び6.0倍とした。この時、クエンチに用いた窒素温度は、178℃に制御した。また、エアギャップに関しては、温度制御を行わなかった。
得られた繊維の物性値を表1に示す。非常に均一性に優れ、高い強度を有していることが判明した。
【0059】
(比較例1)
極限粘度が19.6の超高分子量ポリエチレンを10wt%およびデカヒドロナフタレン90wt%のスラリー状の混合物を分散しながら230℃の温度に設定したスクリュー型の混練り機で溶解し、175℃に設定した直径0.6mmを400ホール有する口金に軽量ポンプにて単孔吐出量1.6g/分で供給した。ノズル直下に設置したスリット状の気体供給オリフィスにて1.2m/sの高速度で100℃に調整した窒素ガスを整流に気をつけ、できるだけ糸条に均等に当たるようにして繊維の表面のデカリンを積極的に蒸発させ、さらに115℃に設定された窒素流にて繊維に残るデカリンを蒸発させ、ノズル下流に設置されたネルソン状のローラーにて80m/分の速度で引き取らせた。この時、クエンチ区間の長さは1.0mであり、繊維の冷却速度は、100℃/s、累積速度差は80m/minであった。引き続き、得られた繊維を125℃の加熱オーブン下で4.0倍に延伸した、引き続きこの繊維を149℃に設置した加熱オーブン中にて4.1倍で延伸した。途中破断することなく均一な繊維が得ることができた。得られた繊維の物性値を表1に示した。
【0060】
(比較例2)
オリフィス直下から10mmの位置から、50℃、0.5m/sの窒素風を整流に注意しながら出来るだけ糸状に均一にあててゲル糸を得たこと以外は実施例と同様にして、延伸糸を得た。この時の繊維の冷却速度は、208℃/s、累積速度差は80m/minであった。
【0061】
(比較例3)
極限粘度が10.6の超高分子量ポリマーの主成分ポリマー(C)を15wt%およびパラフィンワックス85wt%のスラリー状の混合物を分散しながら230℃の温度に設定したスクリュー型の混練り機で溶解し、190℃に設定した直径1.0mmを400ホール有する口金に軽量ポンプにて単孔吐出量2.0g/分で供給した。エアギャップを30mmとして15℃のn−ヘキサンを満たした紡糸浴に浸漬した。浸析した繊維をネルソン状のローラーで50m/分の速度で引き取った。この時の繊維の冷却速度は、4861℃/s、累積速度差は50m/minであった。引き続き、得られた繊維を125℃の加熱オーブン下で3.0倍に延伸した、さらにこの繊維を149℃に設置した加熱オーブン中にて3倍に延伸した後、もう一度1.5倍で延伸した。途中破断することなく均一な繊維が得ることができた。得られた繊維の物性値を表1に示す。
【0062】
(比較例4)
比較例1と同じ条件で作成、巻き取った延伸前の繊維を3日間エタノール中に浸漬して糸中に残留したデカリンを取り除いた後、2日間風乾してキセロゲル繊維を作成した。さらに、該キセロゲル繊維を125℃の加熱オーブン中で4.0倍に延伸した。引き続きこの繊維を155℃に設定した加熱オーブン中にて4.3倍で延伸した。途中破断することなく均一な繊維を得ることができた。
【0063】
(実施例6)
実施例1の記載に従って得た繊維を約100万デニールになるよう合糸し、S撚りに36t/mの撚りを掛けて撚糸を作製し、更にこの撚糸を10本合わせてZ撚りに12t/mの撚りを掛け、ヤーンを得た。このヤーンを7本集束しストランドを得た。このストランドを8本ブレード上に組み合わせ、約10mm径の8打ちブレードロープを作製した。引張試験の結果とその時の破断箇所、また屈曲磨耗試験後の強力と残存率を表2に示す。
【0064】
(実施例7)
実施例4の記載に従って得た繊維を約100万デニールになるよう合糸し、S撚りに36t/mの撚りを掛けて撚糸を作製し、更にこの撚糸を10本合わせてZ撚りに12t/mの撚りを掛け、ヤーンを得た。このヤーンを7本集束しストランドを得た。このストランドを8本ブレード上に組み合わせ、約10mm径の8打ちブレードロープを作製した。引張試験の結果とその時の破断箇所、また屈曲磨耗試験後の強力と残存率を表2に示す。
【0065】
(比較例5)
比較例1の記載に従って得た繊維を約100万デニールになるよう合糸し、S撚りに36t/mの撚りを掛けて撚糸を作製し、更にこの撚糸を10本合わせてZ撚りに12t/mの撚りを掛け、ヤーンを得た。このヤーンを7本集束しストランドを得た。このストランドを8本ブレード上に組み合わせ、約10mm径の8打ちブレードロープを作製した。引張試験の結果とその時の破断箇所、また屈曲磨耗試験後の強力と残存率を表2に示す。

また、実施例6、実施例7、比較例5で得られたロープ用途に関する物性を表2にまとめる。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る高強度ポリエチレン繊維は、高強度・高弾性率且つ繊維の内部構造が均一であり、これを使用した製品中には性能低下部分が生じず、均一に高い性能を有する。従って、ロープ末端のアイ加工部分の強度が向上し、引いてはロープの破断強力が向上することになる。また屈曲磨耗においても耐久性が向上するため、高性能で高品質のロープを得ることが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノクリニック由来の結晶サイズが9nm以下である高強度ポリエチレン繊維を含んでなるロープ。
【請求項2】
前記高強度ポリエチレン繊維において、オルソロンビック結晶(200)と(020)回折面由来の結晶サイズの比が0.8以上1.2以下である請求項1に記載のロープ。
【請求項3】
前記高強度ポリエチレン繊維の応力ラマンシフトファクターが−5.0cm−1/(cN/dTex)以上である、請求項1または2に記載のロープ。
【請求項4】
前記高強度ポリエチレン繊維の平均強度が20cN/dTex以上である請求項1〜3のいずれかに記載のロープ。
【請求項5】
前記高強度ポリエチレン繊維を構成するモノフィラメントの結節強度の保持率が40%以上である請求項1〜4のいずれかに記載のロープ。
【請求項6】
前記高強度ポリエチレン繊維を構成するモノフィラメントの単糸強度のばらつきを示すCVが25%以下である請求項1〜5のいずれかに記載のロープ。
【請求項7】
前記高強度ポリエチレン繊維を構成するモノフィラメントの破断伸度が2.5%以上6.0%以下である請求項1〜6のいずれかに記載のロープ。
【請求項8】
前記高強度ポリエチレン繊維を構成するモノフィラメントの単糸繊度が10dTex以下である請求項1〜7のいずれかに記載のロープ。
【請求項9】
前記高強度ポリエチレン繊維の融点が145℃以上である請求項1〜8のいずれかに記載のロープ。

【公開番号】特開2006−342442(P2006−342442A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−167045(P2005−167045)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】