説明

高強度マグネシウム合金押出し材

【課題】300MPa以上の引張強度を有し、押出し加工によって容易に製造することができるMg−Zn−Zr系の合金材の提供。
【解決手段】1%以上・7%以下のZnおよび1.0%以下のZrを含有し、残部Mgから成り、Znの40%以上が固溶Znである高強度マグネシウム合金押出し材、さらに、外周近傍の合金材を構成する結晶の平均粒径Aと断面中央部の合金材を構成する結晶の平均粒径Bとの比が1.3≧A/B≧0.7ある高強度マグネシウム合金押出し材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mg−Zn−Zr系の高強度マグネシウム合金押出し材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電等の各種部分品の軽量化を目的とするMg−Zn−Zr系の高強度マグネシウム合金材として、下記特許文献1は、機械的性質および耐食性を改善する目的で合金組成ならびに結晶組織を工夫している。すなわち、この種合金材のhcp構造が、合金の加工性および耐食性を阻害する傾向にあることから、Zn4.5〜6%、Zr0.2〜2.0%を含有し、かつ結晶の粒径を調整したマグネシウム合金押出し材を提案している。この合金材は、強度等の機械的性質、耐食性および成形性を向上するとしている。
【0003】
ところが、この種のMg−Zn−Zr系マグネシウム合金材の機械的特性は、含有するZnの固溶量に依存するところが大きく、この点を考慮する必要がある。すなわち、この種の合金材は熱間押出しにより製造されるのが一般的であるが、押出し工程における発熱作用によりMgZn化合物の析出を加速すると、合金材に要求される諸特性を確保することが困難になる。また、この熱間押出しが通常の条件下で実施される限り、ビレットの中央部と表層部における合金結晶の平均粒径差が30%を超え、押出し材をさらに機械加工すると、その形状によっては引張強度および合金の結晶組織の均一性等機械的性質に問題を生じさせるおそれがある。実際、この特許文献の方法でも200〜400℃での一般的な熱間押出しによっているだけで、上記の問題点を残している。
【特許文献1】2001−181774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、300MPa以上の引張強度およびすぐれた機械的性質を有し、しかも通常の熱間押出しあるいは静水圧押出し加工によって容易に製造することができるMg−Zn−Zr系の合金材の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を容易に解決するために、
(1)1%以上・7%以下のZnおよび1.0%以下のZrを含有し、残部Mgから成り、同Zrの40%以上が固溶Zrである高強度マグネシウム合金押出し材、
(2)外周近傍の合金材を構成する結晶の平均粒径Aと断面中央部の合金材を構成する結晶の平均粒径Bとの比が1.3≧A/B≧0.7である上記1に記載の高強度マグネシウム合金押出し材、および
(3)静水圧押出しされた上記1または2に記載の高強度マグネシウム合金押出し材である。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、ZnおよびZrの含有量ならびに同Znの固溶比率を上記の特定範囲に規定することにより、300MPa以上の高い引張り強度を有するMg−Zn−Zr系の合金材が熱間押出しあるいは静水圧押出しにより容易に製造することができる。さらには、押出し材の外周近傍と断面中央部との結晶粒径比を規制することで、機械的性質の均質性が十分に確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のMg−Zn−Zr系押出し合金材は、1%以上のZnを含有する。ZnはMgマトリックス中に固溶し、あるいはMgZn化合物のかたちで分散析出し、合金材の強度を向上する。そして、このためには1%以上のZnが必要であり、3%以上の含有が好ましいが、4〜6%になると効果は飽和し、場合によっては、押出し後の合金材に割れが発生するおそれがあるので、7%以下にて調整する必要がある。
【0008】
同時に、本発明では、合金中におけるZnの固溶状態を次のように制御することが重要な特徴である。すなわち、合金材中に含有する総Znを100%として、その40%以上を固溶させることとし、好ましくは、50%以上を固溶させる。なお、Znの固溶率はZnの含有量と関係しており、5%を超えて添加してもZnの固溶率は次第に飽和するので、この点からもZnの含有量は、上記のとおり7%以下とする。Znの固溶率を総Znの40%以上確保するのは、合金押出し材の強度をより向上させるためである。本発明はマグネシウム合金押出し材の強度をおよそ300MPa以上にすることを目的としており、後述の実施例および比較例にて明らかなように、Znの固溶率が40〜50%を超えて増加するにともない合金の強度が確実に増大する。
【0009】
つぎに、本発明押出し合金材は、結晶粒を効果的に微細化して合金材の強度を高めるために必須の元素として0.2%以上のZrを含有させる。Zrは合金マトリックス中に分散して結晶成長核となるもので、できれば0.4%以上が好ましいが、0.8%以上になるとその効果が飽和し、場合によってはZrの偏析を招くので1.0%以下とする。
また、本発明は、上記の結晶粒径について、合金押出し材の断面中央部および外周近傍の大小関係を、両者の比率を限定することにより、合金材の機械的特性に強く影響する合金組織の均一性を有効に向上させていることが他の特徴である。すなわち、外周近傍の合金材を構成する結晶の平均粒径Aと断面中央部の合金材を構成する結晶の平均粒径Bとの比が1.3≧A/B≧0.7となるように制御すると、合金材の機械的特性のばらつきが実用上ほぼ無視できるほどに僅少となる。断面がパイプ状あるいは、複雑な形状である場合、実質的には押出金型と接触している外周部と外周部から最も離れている内部のある点における粒径差が限定される対象となる。例えば、パイプ状の場合、金型と接触している内外周面に対してその中間部が上記断面中央部に相当すると見なす。なお、この範囲は多数の実験により特定されたもので、下記実施例で明らかにする。
ところで、本発明の高強度マグネシウム合金押出し材は、その押出し加工の条件を、以下に例示するように巧みに制御すれば、容易に目的とする高強度の押出し材を得ることができる。
【0010】
Znの固溶量は、押出し温度に比例して増大し、結果的には、押出し後の冷却過程で析出することなく固溶状態を維持し、容易に所定の固溶Zn量を確保することができる。なお、押出し前にZn固溶量を出来るだけ上げておく為に溶体化処理したビレットを使用する場合、いったん冷却してから押出し温度まで加熱すると、その過程でZnの析出が進行することになる。したがって、この場合は、溶体化処理後、押出し温度までそのまま冷却して直ちに押出しをすれば、もっとも効率よくZnの固溶量を十分に確保することができる。このような溶体化処理条件は合金組成により変化するが、320〜330℃、16〜24時間が適当である。また、逆にZn固溶量を減少させるには、押出し後に180〜220℃で数時間の熱処理を実施すれば、時効析出により容易に適切な固溶量に調節できる。なお、これらの傾向は、押出し後の冷却条件や製品のサイズにも影響されるので、実際の操業条件に合わせて調整すればよく、たとえば、押出し後の急冷はZnの固溶量をそのまま維持できるし、徐冷時はZnの析出量を増加する傾向がある。
【0011】
ところで、押出し温度が低いほど、押出し加工後の結晶粒径がやや小さくなる傾向があるが、静水圧押出しの押出し温度は、結晶粒径よりもZn固溶量に与える影響の方が大きいので、両者のバランスを考慮して静水圧押出し温度は、150〜330℃の範囲とするのが安全である。
【0012】
本発明の高強度マグネシウム合金押出し材の製造にあたっては、通常の熱間押出しによることは勿論可能であるが、押出し過程において余分のせん断力や摩擦力を作用させないで、押出し中の加工発熱を抑制するとともに外周部と中心部との加工度差が小さくできる点で、静水圧押出しによるのが有効である。この場合、下記のような押出し条件で静水圧押出しすると、より効果的にこの合金押出し材の特徴を出すことができる。
【0013】
・押出し比:10以上、好ましくは20以上。ただし、50以上は効果が飽和する。
【0014】
・押出し速度:20m/min.以下。
(実施例)
表1に記載したように、本発明に属する各種組成のマグネシウム合金20種ならびに比較合金材6種を準備し、真空溶解炉で溶解してφ150mm×270mmのビレットを作成した。そして、各ビレットを150〜330℃で全体が均一温度になるまで予熱し、製品速度5〜10m/min.で静水圧押出しをした。押出し比は10、20、30とし、比較のために5のものも実施した。また、一部は通常の直接押出しによることとし、この場合は、押出し金型から押出された試験片をミスト含有冷風にて強制冷却した。一部は、320℃×18時間の溶体化処理後、大気中で所定の温度まで急冷し、そのまま押出しを行なっている。
【0015】
Mg−Zn−Zr合金には、そのマトリックス中に固溶するZnならびにMgZn化合物の析出物が存在するが、固溶Znについてつぎの手順で定量し評価した。まず、各押出し材を押出し方向と直行する断面方向に切断して研磨し、中央部について固溶ZnをXRDで測定した。さらに、析出物のMgZn相をリーぺルト法により定量し、添加Znの総量から同析出相量を差し引く方法で固溶Znを定量化した。なお、XRDは、銅ターゲットを使用し、ターゲット出力は40kV・200mAの条件で測定している。また、添加Zn量は、ICP分析にて各押出し材について定量化している。
【0016】
次に、合金の結晶粒径を、JIS H 0501の結晶粒度測定法(クロスカット法)により、図1のようにして測定した。同図は線描であるが、光学顕微鏡により所定倍率で供試片断面の結晶組織を観察撮影し、その側面を縦横それぞれ3〜5本の直線によって区切り、各線上の結晶数をカウントした。そして、これら縦横各直線の長さL1〜L6の合計値(L1+L2+L3+L4+L5+L6)を、各直線上にある結晶粒の個数の合計値(n1+n2+n3+n4+n5+n6)で割り、倍率換算した値を以って下表1の平均結晶粒径とした(下式)。
【0017】
(L1+L2+・・・)/(n1+n2+・・・)×倍率換算値=平均結晶粒径(μm)
なお、この測定は、押出し材の中央部と外周から1mm以内の近傍部との双方について実施し、それぞれ3点平均をとっている。
【0018】
また、試験片の引張り強度は、試験片断面の平均結晶粒径およびJIS14−A号試験片による引張り強度の2種について、下記条件のもとで計測した。
【0019】
・使用機器:(株)島津製作所製AG−100kNE
・引張り試験片:JIS14−A号
・試験片の形状:丸棒
・標点間の距離:35mm
・引張り速度:2%変位までは0.5mm/min.それ以降0.7mm/min.
・試験温度:室温
表1に実施例および比較例の合金組成と押出し加工条件ならびに諸特性値を示す。本発明の実施例であるNo.1〜20の合金材は、いずれも引張り強度が300MPa以上の高強度の特性を保持しているのに対し、比較例のNo.1〜6合金材は、いずれも引張り強度が劣っている。比較例のNo.1は、Znの含有量が本発明の下限値1%より少量にし、Zrも同様であるが、その固溶率を80%と高くしても強度は300MPaに達しない。同No.2は、Zrのみを少なくしたものであるが、同様の結果となっている。なお、同No.3〜6は、組成は本発明の範囲内としたもので、No.3はZnの固溶率が30%と低く強度が満足できない。一方、No.4の強度が満足できないのは、結晶粒が比較的に粗いことによるからで、静水圧押出しの条件をコントロールすることで容易に解決できる。また、No.5、6は、通常の熱間押出しによるもので、本発明の高強度マグネシウム合金材は、通常の熱間押出しよりも静水圧押出しによるものの方がよりよいことを意味している。
【0020】
実施例のうちNo.8および13は、通常の押出し加工による例であるが、結晶の平均粒径が本発明が規定する限界値の1.3を示し、押出し材の強度が低めとなっているが、Znの固溶率は40%以上を超えて引張り強度は満足できる結果となっている。
【0021】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例の押出し材断面の顕微鏡組織の線描図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1重量%(以下同じ)以上・7%以下のZnおよび1.0%以下のZrを含有し、残部Mgから成り、同Zrの40%以上が固溶Zrであることを特徴とする高強度マグネシウム合金押出し材。
【請求項2】
外周近傍の合金材を構成する結晶の平均粒径Aと断面中央部の合金材を構成する結晶の平均粒径Bとの比が1.3≧A/B≧0.7であることを特徴とする請求項1に記載の高強度マグネシウム合金押出し材。
【請求項3】
静水圧押出しされたことを特徴とする請求項1または2に記載の高強度マグネシウム合金押出し材。


【図1】
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【公開番号】特開2007−119823(P2007−119823A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−311550(P2005−311550)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(591081055)神鋼メタルプロダクツ株式会社 (17)