説明

高強度・高導電銅合金及びその製造方法

【課題】高い強度と導電性を併せ持ち、尚且つハーフエッチング時の均一なエッチング性に優れた高強度・高導電銅合金及びその製造方法を提供する。
【解決手段】0.05〜1.0質量%のFe、0.05〜1.0質量%のNi、0.02〜0.3質量%のPを含有し、FeとNiの合計とPの質量比(Fe+Ni)/Pが3〜10、FeとNiの質量比Ni/Feが1〜10であり、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であって、銅合金中に含まれる粒径が10nm以上の晶出物及び析出物のうち、粒径が100nm以上である晶出物及び析出物の割合が1%以下である高強度・高導電銅合金及びその製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、半導体リードフレームやコネクタ端子などの電気・電子部品の材料として用いられる銅合金に係り、特に、薄型の半導体パッケージの半導体リードフレーム材に好適な高強度・高導電銅合金及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体パッケージは、小型化・薄型化が進んでおり、半導体リードフレームにはより薄い板厚の材料が使用され、それに伴って強度の高い材料が求められている。また、半導体パッケージをより薄型化するために、エッチングによって半導体リードフレームの板厚を部分的に薄くするハーフエッチングの技術が広く用いられるようになっている。この場合、エッチング面が均一に溶解され易い材料であることが重要である。
【0003】
また、PPFめっきが施される場合、PPFめっきの前処理として酸洗が行われる。このとき、合金元素にMg等を含むとスマットが多く発生し、めっき処理を阻害する要因になってしまう。ところが、一般に広く用いられるC7025など従来の高強度材ではMg等のめっき処理を阻害する元素が含まれていることが多かった。
【0004】
半導体リードフレームに用いられる銅合金材料としては、FeとPとを含有するCu−Fe−P系合金が広く一般に用いられている(例えば、特許文献1〜4参照)。代表的なものとしてFe:0.05〜0.15%、P:0.025〜0.04%を含有する銅合金(C19210)や、Fe:2.1〜2.6%、P:0.015〜0.15%、Zn:0.05〜0.20%を含有する銅合金(C19400)が標準的な合金として広く知られている。これらの銅合金は、熱処理することで銅の母相中にFe又はFe−Pが析出し、それによって導電性や熱伝導性と強度が同時に向上する特徴を持っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−48225号公報
【特許文献2】特開2005−29826号公報
【特許文献3】特開2002−309326号公報
【特許文献4】特開2000−17355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の一般に広く用いられているCu−Fe−P系合金は、引張強さが400〜500MPa程度であり、薄板化の進行によって今後より強度の高いものが必要になってくると考えられる。また、薄型の半導体パッケージにおいてハーフエッチングで半導体リードフレームの板厚を部分的に薄くする場合、材料中に晶出物や粗大な析出物が含まれると、エッチング面の溶解が不均一になる問題がある。従来のCu−Fe−P系合金の中でもFeの含有量が多いものはFeの晶出物や粗大な析出物が生じ易く、均一なエッチング性を確保する上で問題がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高い強度と導電性を併せ持ち、尚且つハーフエッチング時の均一なエッチング性(エッチング加工性)に優れた高強度・高導電銅合金及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために創案された本発明は、0.05〜1.0質量%のFe、0.05〜1.0質量%のNi、0.02〜0.3質量%のPを含有し、FeとNiの合計とPの質量比(Fe+Ni)/Pが3〜10、FeとNiの質量比Ni/Feが1〜10であり、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であって、前記銅合金中に含まれる粒径が10nm以上の晶出物及び析出物のうち、粒径が100nm以上である晶出物及び析出物の割合が1%以下である高強度・高導電銅合金である。
【0009】
また本発明は、0.05〜1.0質量%のFe、0.05〜1.0質量%のNi、0.02〜0.3質量%のPを含有し、FeとNiの合計とPの質量比(Fe+Ni)/Pが3〜10、FeとNiの質量比Ni/Feが1〜10であり、更にSn、Zn、Mn、Zr、Cr、Tiから選択された1種以上の成分を合計0.03〜1質量%含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であって、前記銅合金中に含まれる粒径が10nm以上の晶出物及び析出物のうち、粒径が100nm以上である晶出物及び析出物の割合が1%以下である高強度・高導電銅合金である。
【0010】
前記銅合金は、0.1〜0.5質量%のSn、0.1〜0.5質量%のZnを含有すると良い。
【0011】
前記銅合金は、0.1〜0.5質量%のSnを含有すると良い。
【0012】
前記銅合金は、0.1〜0.5質量%のZnを含有すると良い。
【0013】
前記銅合金は、合計1質量%以下のMn、Zr、Cr、Tiを含有すると良い。
【0014】
前記FeとNiの合計とPの質量比(Fe+Ni)/Pが3〜6であると更に良い。
【0015】
また本発明は、前記銅合金の素材を熱間圧延し、前記熱間圧延以降の工程で加工度20%以上の冷間圧延と、300〜470℃で10秒〜10分間加熱する熱処理との組み合わせを少なくとも2回以上実施する高強度・高導電銅合金の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高い強度と導電性を併せ持ち、尚且つハーフエッチング時の均一なエッチング性に優れた高強度・高導電銅合金及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0018】
本実施の形態に係る高強度・高導電銅合金は、0.05〜1.0質量%のFe、0.05〜1.0質量%のNi、0.02〜0.3質量%のPを含有し、FeとNiの合計とPの質量比(Fe+Ni)/Pが3〜10、FeとNiの質量比Ni/Feが1〜10であり、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金をベースの材料とする。これによって、従来のCu−Fe−P系合金よりも優れた強度を持ち、尚且つ強度と導電性をバランス良く兼備した材料を得ることができる。
【0019】
ここでNiとFeは、Pと共に添加することによってP化合物を形成して材料中に分散析出し、材料の良好な導電率を維持しながら強度を向上させる働きをする。
【0020】
また、Ni、Fe、Pの組成比を特定の範囲、即ち(Fe+Ni)/P=3〜10、Ni/Fe=1〜10に規定することにより、導電率を低下させるCu中の固溶元素量を抑えながら析出物の分散による強度の向上を効果的に利用して、導電率と強度を好ましいバランスで兼備した材料を得ることができる。
【0021】
Pの添加量を0.02質量%未満にすると十分な量のP化合物を形成することができず、満足できる強度が得られない。一方、0.3質量%を超えて添加すると鋳造時や熱間加工時にP化合物の偏析に起因する割れが起こり易くなる。そのため、Pの組成範囲を0.02〜0.3質量%に規定した。
【0022】
このPの組成範囲に対して効果的に化合物を形成させ、高強度と高導電性をバランス良く両立させるためには、Feの組成範囲を0.05〜1.0質量%、Niの組成範囲を0.05〜1.0質量%とし、且つFeとNiの合計とPの質量比(Fe+Ni)/Pを3〜10、FeとNiの質量比Ni/Feを1〜10となるように規定する必要がある。
【0023】
Fe及びNiの含有量が組成範囲の下限を下回る場合、P化合物の形成量が不十分になり、強度が不足する。一方、組成範囲の上限を超える場合は、余剰のFe、NiがCu中に固溶して導電率を低下させる。
【0024】
更に、FeとNiの合計量がPの含有量の3倍未満になる場合は化合物成形時にPが過剰となり、10倍を超える場合は逆にFe、Niが過剰となる。このような過剰成分はCu中に固溶状態で存在するため、導電率を害する結果となる。過剰成分をより少なくするため、規定範囲の中でも(Fe+Ni)/P=3〜6の範囲を選択することがより望ましい。
【0025】
また、FeとNiは、強度と導電率に対して同様の効果を期待して添加するものであるが、Feのみを添加したCu−Fe−P系合金では低強度、高導電率の特性になり易く、逆にNiだけの添加では高強度、低導電率の特性になり易い。よって、強度と導電率のバランスが良い材料を得るためには、FeとNiを組み合わせて添加することが有効であり、本発明者らが配合比率を検討した結果、NiをFeと同程度以上添加することにより高い強度が得られることが分かった。そこで、実用上支障がない範囲として、FeとNiの質量比Ni/Feを1〜10に規定した。
【0026】
これらの成分に加えてSn、Zn、Mn、Zr、Cr、Tiから選択された1種以上の成分を合計0.03〜1質量%含有しても良い。これらの元素は、強度の向上に効果的に働くと共に、耐熱性を向上させて高温下での強度低下を防ぐ作用を持つため、より良好な特性を期待することができる。
【0027】
Snは、少量の添加でも強度を大きく向上させる効果を持った添加元素であり、また耐熱性を向上させる効果も大きい。但し、含有量が多くなると導電性を低下させる悪影響が大きくなる。そのため、Snの組成範囲は0.1〜0.5質量%とすることが好ましい。
【0028】
Znは、強度向上の効果を持つと共にはんだ濡れ性やSnめっき密着性の改善に大きな効果がある副成分である。但し、ZnもSnと同様に含有量が多くなると導電性を低下させる悪影響が大きくなる。そのため、Znの組成範囲は0.1〜0.5質量%とすることが好ましい。
【0029】
Mnは、結晶粒を微細化し、強度を向上させる働きを持つ副成分である。但し、含有量が多くなると導電率を低下させる悪影響が大きくなる。ZrやCrは、強度や耐熱性を向上させる働きを持つと共に、導電率に与える悪影響が比較的少ないことを特徴とする副成分である。但し、含有量が多すぎると鋳造性の悪化などの悪影響が生じる。Tiも強度や耐熱性を向上させる効果に優れた副成分である。
【0030】
これらの元素は、単独若しくは組み合わせて添加することで先に述べた効果が期待できるが、その合計の含有量が1質量%を超えると導電率の低下や鋳造性の悪化などの悪影響が顕著になる。よって、Mn、Zr、Cr、Tiの合計の組成範囲は1質量%以下とすることが好ましい。
【0031】
さて、本実施の形態に係る高強度・高導電銅合金では、銅合金中に含まれる粒径が10nm以上の晶出物及び析出物のうち、粒径が100nm以上である晶出物及び析出物の割合が1%以下であることを特徴の一つとしている。その理由を以下に述べる。
【0032】
本発明者らは、均一なエッチング性を確保するために銅合金中に含まれる晶出物や析出物の大きさに注目し、ベース材料としての銅合金では、エッチングに悪影響を及ぼす可能性のある粒径が100nm以上の大きさの晶出物や析出物ができる限り生じないようにすることとした。
【0033】
ここで晶出とは液体の中から固体が形成される現象を指し、析出とは既に固体になっているものの中で固体の第2相が形成される現象を指す。本実施の形態では、例えば、鋳造工程で溶銅が固まるときに晶出物が生じ、既に固体になっているCu中で熱処理によって析出物が生じる。
【0034】
なお、本明細書では「晶出物及び析出物」を、母相であるCuの中に生じた合金元素・化合物からなる第2相を包括的に含む表現として用いる。
【0035】
この析出物の大きさは、通常、透過型電子顕微鏡(TEM)での観察結果によって判断することが多い。しかしながら、通常は、1万倍程度の観察では粒径が10nm未満の大きさの析出物を観察することは困難である。そこで、本実施の形態では、1万倍程度の観察によって確認可能な10nm以上の大きさの粒子を対象とし、その中で粒径が100nm以上の大きさの粒子の割合を1%以下に抑えることで良好なエッチング性を確保するようにした。粒径が100nmを超える大きさの粒子の割合が1%を超える場合、エッチング面に突起などの不均一部分が生じる可能性があり、エッチング性が悪化する虞があるからである。
【0036】
先に述べたように、ハーフエッチングで半導体リードフレームの板厚を部分的に薄くする際に、銅合金中に晶出物や粗大析出物が存在すると、その周囲でエッチングされる速度が不均一になり、エッチング後のエッチング面に突起が生じるなどの不具合が起こる。このとき問題となる晶出物や析出物は100nm以上の大きさのものであり、100nm未満のものであれば問題は生じない。
【0037】
このような高強度・高導電銅合金を得るための製造方法としては、前述した組成を持つ銅合金の素材を熱間圧延し、熱間圧延以降の工程で加工度20%以上の冷間圧延と、300〜470℃で10秒〜10分間加熱する熱処理との組み合わせを少なくとも2回以上実施することが有効である。これにより、大きな晶出物や析出物が生じることを防ぎつつ、良好な強度と導電性を持った高強度・高導電銅合金を製造することができる。
【0038】
具体的には、先ず、所定の組成の銅合金の素材を熱間圧延によって加工する。ここで熱間圧延時の加熱は、鋳造工程で生じた晶出物や析出物を一旦母相中に固溶させる溶体化の効果を持つ。
【0039】
より好ましい溶体化状態を得るためには、加熱温度を900℃以上にすることが望ましく、また熱間圧延終了後の温度を700℃以上に維持することが望ましく、熱間圧延後はできるだけ急速に冷却することが望ましい。
【0040】
熱間圧延以降の工程においては、冷間圧延による加工硬化と熱処理による析出を組み合わせて強度と導電性の向上を図る。
【0041】
ここで従来のCu−Fe−P系合金では、銅合金の材料を400〜600℃で長時間保持する時効を行って強度と導電率の向上を図っていた。しかし、長時間の加熱は、析出物の成長を促進し、粗大な析出物が生じる原因となる。
【0042】
本実施の形態では、析出物の成長を抑えつつ、強度と導電率を向上させる工程を検討し、冷間圧延と短時間の熱処理とを繰り返して行うことが効果的であるとの結果を得た。
【0043】
ここで冷間圧延は、加工度が20%以上となる範囲で実施する。これにより、銅合金の材料は加工硬化して強度が向上する。また、冷間圧延によって銅合金中には多数の格子欠陥が導入され、これが次の熱処理工程において析出物形成の起点として働くことから、均一に分散した析出を促進する効果も持つ。ここで加工度が20%未満である場合は、銅合金の加工硬化が十分でないために最終材で得られる強度が低くなり易い。
【0044】
次に、冷間圧延に引き続いて行う熱処理は、300〜470℃で10秒〜10分間加熱して行う。この熱処理では、P化合物の析出を促進し、導電率と強度を向上させることができる。熱処理条件がこの範囲より低温、短時間の場合、析出が十分に起こらないために十分な導電率や強度を得ることができない。この範囲より高温、長時間の熱処理条件では、一度の熱処理で一気に析出が進行して析出物が粗大化する虞がある。
【0045】
以上の冷間圧延と熱処理の組み合わせを2回以上繰り返して実施する。冷間圧延では繰り返しを重ねるほど加工硬化によって強度が向上していく。それと共に新たな析出物を生み出す起点となる格子欠陥を導入することにより、初期の熱処理で生成した析出物が粗大化するのを抑え、新たな微細析出物を形成させることができる。熱処理では直前の冷間圧延で低下した延性を回復させつつ、繰り返しを重ねる毎に数多くの析出物が形成されて導電率が向上していく。
【0046】
本実施の形態では、これら加工硬化や析出を一度に急激に実施するのではなく、少しずつ何回にも分けて実施していくことで両者の効果をバランス良く最大限に引き出す点に特徴がある。
【0047】
本実施の形態に係る高強度・高導電銅合金は、従来の銅合金に比べて良好な強度、導電率を維持しつつ、銅合金中に含まれる大きな晶出物や析出物の発生を抑えてエッチング性を向上させている。また、銅合金中に大きな晶出物や析出物を含まないことは、より薄い板厚まで安定して加工できるという利点もあるため、プリント配線板や電池の集電体などの用途で使われる圧延銅箔の材料としても有効に活用することができる。これにより、従来より高い強度を持つ圧延銅箔の製造が可能になる。
【0048】
以上のように、本発明の高強度・高導電銅合金は、従来のCu−Fe−P系合金に比べてより高い強度と導電性を併せ持ち、尚且つハーフエッチング時の均一なエッチング性に優れている。こうした材料は、半導体リードフレームとして最適であり、特に半導体パッケージの薄型化に対して高い信頼性を持つため、半導体パッケージ薄型化の進展を材料面から支え、その発展に大きく寄与するものである。
【実施例】
【0049】
本発明の実施例について説明する。
【0050】
無酸素銅を母材にして、Fe:0.15質量%、Ni:0.6質量%、P:0.15質量%、Sn:0.15質量%、Zn:0.3質量%を含有した銅合金を高周波溶解炉で溶製し、厚さ25mm、幅30mm、長さ150mmのインゴットに鋳造した。これを950℃に加熱して厚さ8mmまで熱間圧延した後、厚さ2.5mm(加工度68.5%)に冷間圧延して350℃で1分間焼鈍した。更にこれを厚さ1mm(加工度60%)に冷間圧延して350℃で1分間焼鈍することにより試料(実施例1)を製作した。
【0051】
以上のようにして製作した実施例1の試料について、最終の熱処理後の導電率、引張強さ、伸びを調べた結果を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
圧延と熱処理の組み合わせを繰り返すことで導電率が上昇し、引張強さも向上した。最終の熱処理材は、40%IACSを超える良好な導電率と650MPaを超える高強度を併せ持った材料であった。また、強度上昇に伴う伸びの低下量は僅かであり、最終の熱処理後でも8%の伸びが確保されるため十分な曲げ加工性が期待できる。
【0054】
更に表2に示すような組成の実施例2〜11の銅合金を溶解鋳造し、実施例1と同じ工程で加工熱処理を行って厚さ0.15mmの試料を作製した。各実施例の特性値を表3に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
いずれの実施例も40%IACSを超える高い導電率と600MPaを超える高強度を併せ持っており、薄型の半導体パッケージの半導体リードフレームとして十分な導電性と強度が得られている。
【0058】
以上の実施例1〜11について透過型電子顕微鏡を用いて晶出物や析出物を観察した。粒径が10nm以上及び100nm以上のものをカウントし、100nm以上のものの個数の割合を求めた。その結果、各実施例共に粒径が100nm以上の晶出物や析出物の個数の割合は1%以下であり、エッチング性の良い材料と評価することができた。
【0059】
次に、本発明の銅合金について、その合金組成の限定理由について比較例を挙げて説明する。
【0060】
表2に組成を示した比較例1〜8について、前述の実施例と同様に溶解鋳造し、同じ工程で加工熱処理を行って厚さ0.15mmの試料を製作した。各比較例の特性値は表3に示した。
【0061】
比較例1、2は、Fe、Ni、Pの含有量が本発明の規定範囲から外れたものである。比較例1はFe、Ni、Pの添加量が低すぎる例である。この場合、実施例に比べて引張強さが低く十分な強度が得られない結果となっている。比較例2は、Fe、Ni、Pの添加量が多すぎる例である。この場合、曲げ加工での割れが発生し易くなってしまうことから本発明の目的を満足させることはできない。
【0062】
比較例3、4は、FeとNiの合計とPの質量比が規定範囲から外れた例である。Fe、Niが過剰になった場合もPが過剰になった場合も導電率が低下している。また、引張強さについても規定範囲内のものに比べて低い値となっている。
【0063】
比較例5、6は、FeとNiの質量比が規格範囲から外れた例である。Feの比率が高すぎる比較例5は引張強さが不足しており、Niの比率が高すぎる比較例6は伸びが小さく、また導電率も低くなっている。
【0064】
比較例7、8は、副成分として添加したSn、Znなどの含有量が過剰になった例である。いずれも引張強さは良好であるが、導電率が大きく低下している。
【0065】
次に、本発明に適した製造方法について、加工熱処理条件の限定理由について比較例を挙げて説明する。
【0066】
実施例1と同じ組成を持つ銅合金について熱間圧延を行った後、表4に示すような条件で冷間圧延と熱処理の組み合わせを繰り返し実施して比較例9〜11の試料を製作した。それぞれの特性値及び析出物の観察結果を表5に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
【表5】

【0069】
比較例9〜11は、熱処理条件が規定範囲を外れる例である。比較例9は、熱処理温度が低い例であるが、この場合は十分な導電率が得られない。比較例10は、熱処理温度が高い例である。この場合、実施例と同等の良好な引張強さ及び導電率が得られている。しかし、析出物の観察結果から粒径が100nm以上の大きな析出物がより多く発生していることが分かり、本発明の特徴である均一なエッチング性を維持することができない。比較例11は、熱処理の加熱時間が長すぎる例である。この場合も比較例10と同様に析出物が多く、満足するエッチング性が得られない。
【0070】
以上のように本発明で規定した条件範囲を外れた比較例は、いずれも本発明の実施例に比べて不十分な特性しか得られない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.05〜1.0質量%のFe、0.05〜1.0質量%のNi、0.02〜0.3質量%のPを含有し、FeとNiの合計とPの質量比(Fe+Ni)/Pが3〜10、FeとNiの質量比Ni/Feが1〜10であり、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であって、
前記銅合金中に含まれる粒径が10nm以上の晶出物及び析出物のうち、粒径が100nm以上である晶出物及び析出物の割合が1%以下であることを特徴とする高強度・高導電銅合金。
【請求項2】
0.05〜1.0質量%のFe、0.05〜1.0質量%のNi、0.02〜0.3質量%のPを含有し、FeとNiの合計とPの質量比(Fe+Ni)/Pが3〜10、FeとNiの質量比Ni/Feが1〜10であり、更にSn、Zn、Mn、Zr、Cr、Tiから選択された1種以上の成分を合計0.03〜1質量%含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる銅合金であって、
前記銅合金中に含まれる粒径が10nm以上の晶出物及び析出物のうち、粒径が100nm以上である晶出物及び析出物の割合が1%以下であることを特徴とする高強度・高導電銅合金。
【請求項3】
前記銅合金は、0.1〜0.5質量%のSnを含有する請求項2に記載の高強度・高導電銅合金。
【請求項4】
前記銅合金は、0.1〜0.5質量%のZnを含有する請求項2又は3に記載の高強度・高導電銅合金。
【請求項5】
前記銅合金は、合計1質量%以下のMn、Zr、Cr、Tiを含有する請求項2〜4のいずれかに記載の高強度・高導電銅合金。
【請求項6】
前記FeとNiの合計とPの質量比(Fe+Ni)/Pが3〜6である請求項1〜5のいずれかに記載の高強度・高導電銅合金。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の銅合金の素材を熱間圧延し、前記熱間圧延以降の工程で加工度20%以上の冷間圧延と、300〜470℃で10秒〜10分間加熱する熱処理との組み合わせを少なくとも2回以上実施することを特徴とする高強度・高導電銅合金の製造方法。

【公開番号】特開2013−87338(P2013−87338A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229659(P2011−229659)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)