高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法

【課題】 高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定において、小型試験法およびその評価方法を大幅に改善し、ESSO試験や二重引張試験の大型試験を行うことなく、板厚50mm以上の高強度厚鋼板のアレスト性能を簡便な手法で推定して、高強度厚鋼板の性能を検査する。
【解決手段】 本発明の複合小型試験は:表層小型試験片を用いて落重試験を行う工程と;内部小型試験片を用いて脆性破面率または吸収エネルギーを測定する小型試験を行う工程と;を含む。この複合小型試験は、表層小型試験片と内部小型試験片に対してそれぞれ異なる方法で小型試験を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脆性き裂の伝播で起きる大規模な損傷や損壊を防止する必要がある構造物の建造に使用する高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能を簡便でかつ合理的な手法で推定して、高強度厚鋼板の性能を検査する方法に関する。
本願は、2009年3月4日に、日本に出願された特願2009−050983号、2009年3月4日に、日本に出願された特願2009−051005号、及び、2009年3月4日に、日本に出願された特願2009−050991号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
溶接構造体であるコンテナ船やバルクキャリアーは、タンカーと異なり、船倉内の仕切り壁が少なく、船の上部が大きく開口している。逆に、タンカーは、油槽により内部が細かく仕切られていて、内部壁や上甲板も船殻強度を担う構造となっている。
【0003】
これに対し、コンテナ船は、積載能力の向上や荷役効率の向上のため、上部を大きく開口した船殻構造となっている。このため、コンテナ船では、船殻構造の強度を確保するため、特に、船体外板として高強度鋼板を使用する必要がある。
【0004】
近年、コンテナ船は大型化し、6000〜20000TEU(Twenty feet Equivalent Unit)の大型コンテナ船が建造され、また、計画されている。これに伴い、船体外板用の鋼板は、厚肉化するとともに、高強度化し、板厚50mm〜100mmで、降伏強度390N/mm2級、470N/mm2級の厚肉の鋼板(厚鋼板)が用いられるようになってきた。
【0005】
なお、TEUは、コンテナ船の積載能力を示す指標で、長さ20フィートのコンテナに換算した場合のコンテナの個数で表示する。
【0006】
上記のように船舶等に用いられる厚鋼板において、脆性き裂伝播停止性能(以下「アレスト性能」ということがある)は、厚鋼板の安全性を評価する上で非常に重要な特性となる。
【0007】
このアレスト性能の向上を図るため、様々な成分組成や、製造工程を伴う鋼材、あるいは、種々の大型溶接構造体等が開発され、製造されている。これら新規に開発された鋼材のアレスト性能を定量的に評価するには、ESSO試験(脆性き裂伝播停止試験:試験片に脆性き裂を人為的に発生させ、脆性き裂を停止させる性能を評価する試験)や、二重引張試験等の大型試験などが実施される。例えば、ESSO試験の場合、寸法が500mm×500mm×板厚程度の大型試験片を作製し、この試験片の端部にV切欠を形成する。試験片には温度勾配を付与し、V切欠に、楔を介して衝撃荷重を負荷していき、脆性き裂を人為的に発生させる。試験体に付加された応力と、脆性き裂の伝播が停止した位置での温度と、き裂の長さに基づいてKca値(破壊靭性値)を算出する。
【0008】
温度勾配条件及び負荷荷重条件を変えて試験を行い、き裂停止温度とK値の関係を求め、任意温度におけるアレスト性能をKca値で評価する。また、アレスト性能の指標として、所定のKcaを確保し得る限界温度(最低温度)を目標Kca限界温度と呼び、TKcaと表記する。具体的には、例えば、目標とするKca値が6000N/mm1.5である場合の目標Kca限界温度は、TKca6000と表記される。
鋼板をコンテナ船などの鋼構造物に使用する場合には、その鋼構造物の設計温度又は最低使用温度が定められている。所定の鋼板について測定または推算したTKca6000がその設計温度以下の温度であれば、この設計温度において、上記の鋼板は、十分なアレスト性能を確保することができると評価する。
【0009】
しかし、Kca値を実測するには、大型試験片と大型試験機を必要とし、試験結果を得るまで、多くの手数と時間が必要である。特に、板厚50mm以上の厚鋼板の大型試験には、1000トン以上の引張荷重を付加することが可能な大型試験機が必要とされていた。そこで、従来の鋼板の性能検査または品質管理では、厚鋼板全体のアレスト性能と、厚鋼板から採取した小型試験片を用いた簡易な小型試験結果と、の相関関係を予め求めておく必要があった(例えば、特許文献1および非特許文献1から3を参照)。そして、その事前の検討結果を用いて、必要なアレスト性能から算出される小型試験の要求値を元に、製鐵所などで製造される鋼板に小型試験を行い、その試験結果が小型試験の要求値を満たしているか否かを判定する方法で、鋼板の性能検査または品質管理が行われてきた。
【0010】
非特許文献1には、板厚16mm程度の低温用鋼のアレスト性能と小型試験の相関関係が記載されている。非特許文献2には、鋼板表層部に特殊な超細粒組織を有する複層構造の鋼板のアレスト性能の簡易評価法が記載されている。非特許文献3には、極厚高強度790N/mm2級鋼板で板厚の中心部、1/4と表面下2mmのシャルピー衝撃試験で求められた破面遷移温度からアレスト性能を簡易評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−302993号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】鉄鋼協会講演概要、CAMP−ISIJ Vol.4(1991)−918、「Kcaと小型アレスト試験法との相関とアレスト性能支配因子」(鋼板のアレスト性能の検討(5))
【非特許文献2】西部造船会会報第106号(平成15年8月)、P275−280、「表層超細粒鋼板のアレスト性能簡易評価法(その1)−アレスト性能推定式の確立−」
【非特許文献3】溶接学会全国大会講演概要、第49集(1991年8月25日発行)、P108〜109、「極厚HT790のアレスト性に及ぼす板厚と板圧方向靱性分布の影響」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
大型コンテナ船の安全性確保のため、使用される板厚50mm〜100mmで、降伏強度390N/mm2級、470N/mm2級の厚肉の鋼板(厚鋼板)には、−10℃で4000N/mm1.5から6000N/mm1.5程度のアレスト性能が非常に重要なことが判ってきた。このアレスト性要求に応えるために、高アレスト性能を有する鋼板が開発されてきたが、全ての鋼板に対して4000N/mm1.5から6000N/mm1.5程度のアレスト性能を具備させることは容易でなかった。このため、製鐵所で鋼板の出荷試験などでアレスト性能を確認することが求められるようになってきた。しかしながら、前記のように、全ての鋼板に対しESSO試験などの大型試験を行うことは困難である。また、上記大型試験でのアレスト性能と小型試験結果の相関には大きなバラツキがあり、バラツキを考慮すると、製鐵所で安定して製造できないような非常に厳しい小型試験要求値とならざるを得なかった。このため、板厚50mm〜100mmで、降伏強度390N/mm2級、470N/mm2級の厚肉の鋼板に対して、高精度でアレスト性能を小型試験を用いて簡易評価する方法が求められてきた。
そこで、本発明者らは、厚鋼板全体のアレスト性能と、厚鋼板から採取した小型試験片を用いた簡易な小型試験結果と、の相関関係をこれまでよりも格段に高精度で求める方法を検討した。
【0014】
本発明者らは、まず、複数の組成・製法で高強度厚鋼板を製造し、非特許文献1及び2に開示されている手法により、ESSO試験で高強度厚鋼板のKca値を求めた。また、上記の厚鋼板から小型試験片を採取し、これに対して、各種の小型試験(Vノッチシャルピー衝撃試験、落重試験等)を行って小型試験片の特性値を求めた。その上で、得られた大型試験の結果であるKca値と、小型試験片の特性値との対応関係を調査した。上述したように、板厚20mm程度の鋼板に係る相関関係を求める既存の手法で、小型試験で求めた特性値とアレスト性能を関係付けた場合、十分な精度での相関関係が得られないことが判明した。
【0015】
そこで、本発明は、小型試験法およびその評価方法を大幅に改善し、ESSO試験や二重引張試験の大型試験を行うことなく、板厚50mm以上の高強度厚鋼板のアレスト性能を簡便な手法で推定して、高強度厚鋼板の性能を検査する方法を提供することを一つの課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、小型試験の結果とアレスト性能を関係付ける従来手法を、板厚50mm以上の高強度厚鋼板のアレスト性能と小型試験の結果の関係付けに適用できない理由について鋭意検討した。特に、広範囲の鋼種・製法の鋼材において適用可能な方法について検討を行った。その結果、「脆性き裂が発生する板厚方向の位置によって、脆性き裂の伝播挙動が異なり、この伝播挙動の相違が、鋼板全体のアレスト性能に大きく影響する」という知見を得るに至った。
【0017】
本発明者らは、上記知見を踏まえ、板厚50mm以上の高強度厚鋼板における脆性き裂伝播挙動を詳細に調査した。その結果、き裂伝播挙動の板厚方向における相違が、アレスト性能の評価に反映されるように、小型試験片を、板厚方向に沿って複数個採取し、採取位置に応じて最適な方法で小型試験を行い、試験結果を適切に組み合せることによって、組合せ結果が、大型試験で得たKca値と高い精度で対応関係を得られることが判明した。
【0018】
また、更なる詳細な調査の結果、き裂伝播挙動の板厚方向における相違が、アレスト性能の評価に反映するように、小型試験片を、少なくとも鋼板表層と鋼板中央部(板厚1/2)から採取して、それぞれの採取位置に適した方法で行った複合小型試験の結果が、大型試験で得たK値(破壊靭性値)と、極めて良い相関関係にあることを、本発明者らは見出した。
【0019】
また、高強度厚鋼板のアレスト性能の推定に重要な要素である、鋼板表層の小型試験片についての特性評価方法を検討した結果、最適な方法が落重試験であることを見出した。また、鋼板内部から採取した小型試験片については、落重試験は好ましくなく、脆性破面率または吸収エネルギーを測定する小型試験が最適であることを見出した。つまり、表層の小型試験片と、内部の小型試験片には異なった方法の小型試験を用いることが望ましい。
【0020】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0021】
(1) 本発明の一態様にかかる高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能を判別する方法は、標準鋼を用いて大型試験及び複合小型試験を行う工程と;前記標準鋼を用いた前記大型試験の結果と前記複合小型試験の結果との相関モデルを算出する工程と;サンプル鋼を用いて前記複合小型試験を行う工程と;前記サンプル鋼を用いた前記複合小型試験の結果を前記相関モデルに代入して前記サンプル鋼の脆性き裂伝播停止性能を推算する工程と;を含み、前記複合小型試験は:(a)鋼板表層部を含む表層小型試験片を採取する工程と;(b)鋼板表層部を含まない一箇所又は二箇所以上の内部領域からそれぞれ内部小型試験片を採取する工程と;(c)前記表層小型試験片を用いて落重試験を行う工程と;(d)前記内部小型試験片を用いて脆性破面率または吸収エネルギーを測定する小型試験を行う工程と;を含み、前記複合小型試験は、前記表層小型試験片と前記内部小型試験片に対してそれぞれ異なる方法で小型試験を行う。
【0022】
(2) 上記(1)の方法において、Yを前記表層小型試験片の前記落重試験の結果であるNDT温度、X1を前記内部小型試験片を用いた小型試験の結果である破面遷移温度または吸収エネルギー遷移温度、a,b,dを係数、目標Kca限界温度をTKcaとすると、前記相関モデルが、a・Y+b・X1+d=TKcaであってもよい。
【0023】
(3) 上記(2)の方法において、前記サンプル鋼の脆性き裂伝播停止性能を推算する工程では、前記サンプル鋼を用いた前記複合小型試験の結果であるY’及びX1’を前記相関モデルに代入することによって前記サンプル鋼の目標Kca限界温度の推算値であるTKca’を算出する工程と;前記TKca’と前記標準鋼の実測された目標Kca限界温度であるTKcaとを比較し、TKca’≦TKcaであったときに、前記サンプル鋼の脆性き裂伝播停止性能を良好と判定する工程と;をさらに含んでもよい。
【0024】
(4) 上記(1)の方法において、Yを前記表層小型試験片の前記落重試験の結果であるNDT温度、X1を第1の内部領域から採取した前記内部小型試験片を用いた小型試験の結果である破面遷移温度、X2を第2の内部領域から採取した前記内部小型試験片を用いた小型試験の結果である破面遷移温度、a,b,c,dを係数、目標Kca限界温度をTKcaとすると、前記相関モデルが、a・Y+b・X1+c・X2+d=TKcaであってもよい。
【0025】
(5) 上記(4)の方法は、前記前記サンプル鋼の脆性き裂伝播停止性能を推算する工程では、前記サンプル鋼を用いた前記複合小型試験の結果であるY’、X1’、及びX2’を前記相関モデルに代入することによって前記サンプル鋼の目標Kca限界温度の推算値であるTKca’を算出する工程と;前記TKca’と前記標準鋼の実測された目標Kca限界温度であるTKcaとを比較し、TKca’≦TKcaであったときに、前記サンプル鋼の脆性き裂伝播停止性能を良好と判定する工程と;をさらに含んでもよい。
【0026】
(6) 上記(1)〜(5)のいずれか一項の方法において、前記内部小型試験片が、シェブロンノッチシャルピー衝撃試験片、Vノッチシャルピー衝撃試験片、シャープノッチシャルピー衝撃試験片、プレスノッチシャルピー衝撃試験片、プレクラックシャルピー衝撃試験片、3面シャープノッチシャルピー衝撃試験片、及び、Uノッチシャルピー衝撃試験片のうちのいずれかであってもよい。
【0027】
(7) 上記(1)〜(5)のいずれか一項の方法において、前記内部領域が、板厚中心部を含まず、かつ板厚中心部から5mm以内の位置を含む領域であってもよい。
【0028】
(8) 上記(1)〜(5)のいずれか一項の方法において、前記内部領域が、板厚1/4の位置を含む領域であってもよい。
【0029】
(9) 上記(1)〜(5)のいずれか一項の方法において、前記高強度厚鋼板の降伏強度が、240〜600N/mm2であってもよい。
【0030】
(10) 上記(1)〜(5)のいずれか一項の方法において、前記表層小型試験片及び前記内部小型試験片の厚さが、10〜25mmであってもよい。
【0031】
(11) 上記(1)〜(5)のいずれか一項の方法において、前記高強度厚鋼板が、大型船体用鋼板であってもよい。
【0032】
(12) 上記(1)〜(5)のいずれか一項の方法において、前記高強度厚鋼板の板厚が、50mm以上であってもよい。
【0033】
(13) 上記(1)〜(5)のいずれか一項の方法において、前記落重試験において、前記表層小型試験片の表面のうち、前記サンプル鋼の表層側に対応する面にクラック開始ウェルドを設け、前記内部小型試験片の表面のうち、前記サンプル鋼の厚さ方向に沿ってノッチを設けてもよい。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、大型溶接構造物に使用する高強度厚鋼板のアレスト性能を評価するに際して、製造される各ロットの鋼片ごとにESSO試験用の試験片のような大型試験片や、1000トン以上の大型破壊試験機を用いる必要がない。予め標準標本鋼に対して一度の大型試験を行い、同じ標準標本鋼から採取した小型試験片に対して小型試験を行うことで、大型試験結果と小型試験結果との間の相関関係を求めることができる。この後で、複数の製造ロットの試験鋼に対して、小型試験片の採取と小型試験を行う。これらの小型試験結果に、予め求めた上記相関関係を適用することで、通常なら大型試験でのみ得られる各試験鋼のアレスト性能を、簡便に推定できる。なお、試験鋼表層部から採取した小型試験片については、落重試験を用いる。一方、試験鋼内部から採取した試験片については、脆性破面率または吸収エネルギーを測定する試験を用いる。これによって、アレスト性能推定の精度を向上し、ロットごとの大型試験を省略できる。この結果、各ロットの高強度厚鋼板が大型溶接構造体を破壊するような致命的大規模損傷や損壊を防止し得るかどうかを、簡便な手法で、迅速、適確に評価することができる。従って、本発明の方法は、例えば大型溶接構造物に使用する高強度厚鋼板の生産時の品質管理に、有効に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1A】鋼板中を伝播する脆性き裂の伝播挙動を模式的に示す図である。板厚T5が50mm以上の厚鋼板における脆性き裂の伝播挙動を示す。
【図1B】鋼板中を伝播する脆性き裂の伝播挙動を模式的に示す図である。板厚T2が20mm程度の鋼板における脆性き裂の伝播挙動を示す。
【図2A】厚鋼板から小型試験片を採取する位置を示す図である。
【図2B】厚鋼板から小型試験片を採取する位置を示す図である。
【図3】厚鋼板から試験片を採取する位置および向きを示す図である。
【図4A】落重試験の試験機および小型試験片の配置を示す該略図である。
【図4B】落重試験の試験結果の判定方法を示す該略図である。
【図5A】小型試験片の形状を示す図であり、落重試験片を示す。図中の数値は寸法(単位:mm)を示す。
【図5B】小型試験片の形状を示す図であり、Vノッチシャルピー衝撃試験片を示す、概略側面および正面図である。
【図5C】小型試験片の形状を示す図であり、1面シャープノッチシャルピー衝撃試験片を示す。
【図5D】小型試験片の形状を示す図であり、3面シャープノッチシャルピー衝撃試験片を示す。図中の数値は寸法(単位:mm)を示す。
【図5E】小型試験片の形状を示す図であり、シェブロンノッチシャルピー衝撃試験片の形状を示す。
【図6A】図6A〜図6Eは比較例を示し、Vノッチシャルピー衝撃試験のみを用いた複合小型試験と、大型試験で測定したアレスト性能との相関例を示す図である。小型試験には様々な位置から採取した試験片を用いた。図6Aは、図2Bに示す小型試験片10aまたは小型試験片11のいずれか一方を用いた場合の相関図である。
【図6B】図6Bは、図2Bに示す小型試験片8aを用いた場合の相関図である。
【図6C】図6Cは、図2Bに示す小型試験片9aを用いた場合の相関図である。
【図6D】図6Dは、図2Bに示す小型試験片10aと9aとを両方用い、得られた小型試験結果を加重平均した場合の相関図である。
【図6E】図6Eは、図2Bに示す小型試験片10aと8aとを両方用い、得られた小型試験結果を加重平均した場合の相関図である。
【図7A】図7A〜図7Eは比較例を示し、シェブロンノッチシャルピー衝撃試験のみを用いた複合小型試験と、大型試験で測定したアレスト性能との相関例を示す図である。小型試験には様々な位置から採取した試験片を用いた。図7Aは、図2Bに示す小型試験片10aまたは小型試験片11のいずれか一方を用いた場合の相関図である。
【図7B】図7Bは、図2Bに示す小型試験片8aを用いた場合の相関図である。
【図7C】図7Cは、図2Bに示す小型試験片9aを用いた場合の相関図である。
【図7D】図7Dは、図2Bに示す小型試験片10aと9aとを両方用い、得られた小型試験結果を加重平均した場合の相関図である。
【図7E】図7Eは、図2Bに示す小型試験片10aと8aとを両方用い、得られた小型試験結果を加重平均した場合の相関図である。
【図8A】本発明の第1の実施形態にかかる方法を用いた複合小型試験結果と、大型試験で測定したアレスト性能との相関例を示す図である。表層小型試験に落重試験を、内部小型試験にシェブロンノッチシャルピー衝撃試験を行い、これらの結果を加重平均して用いた。
【図8B】図8Bは、比較例にかかる方法を用いた複合小型試験結果と、大型試験で測定したアレスト性能との相関例を示す図である。表層小型試験として落重試験を、内部小型試験としても落重試験を行い、これらの結果を加重平均して用いた。
【図8C】本発明の第2の実施形態にかかる方法を用いた複合小型試験結果と、大型試験で測定したアレスト性能との相関例を示す図である。内部小型試験片は2箇所から採取した。表層小型試験として落重試験を、内部小型試験としてシェブロンノッチシャルピー衝撃試験を行い、これら3つの結果を加重平均して用いた。
【図8D】本発明の第1の実施形態にかかる方法を用いた複合小型試験結果と、大型試験で測定したアレスト性能との相関例を示す図である。図8Aとの差異は、内部小型試験に、シェブロンノッチシャルピー衝撃試験の代わりにVノッチシャルピー衝撃試験を行った点である。
【図9A】図9A,9Bは、小型試験の結果からサンプル鋼のアレスト性能を推算するための係数決定の工程を示すフローチャートである。図9Aは2点計測の場合の工程を示す。
【図9B】図9Bは3点計測の場合に追加される係数の決定工程を示す。
【図10A】表層超細粒鋼の落重試験の破面の模式図である。
【図10B】一般鋼の落重試験の破面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の第1の実施形態に係る高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法を、図面に基づいて説明する。
本明細書において小型試験とは、上記のように用意された試験材から、その一部を切り出して小型試験片を採取し、この小型試験片を用いて行う試験を指す。後に詳しく述べるように、各種の小型試験片の採取は、試験材中の一箇所から行っても良いし、複数の箇所から行ってもよい。小型試験は、部分試験と呼ぶこともできる。
本実施形態は、高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能を、小型試験の結果に基づいて推定する際に、小型試験に供する小型試験片を、高強度厚鋼板の板厚方向において区分した複数の領域のうち、表面の1つの領域、及び内部の少なくとも1つの領域からそれぞれ採取することを特徴とする。
【0037】
図1Aは、厚鋼板7の厚さ方向に沿った断面模式図であり、鋼板中を矢印方向に伝播する脆性き裂の伝播挙動を模式的に示す。紙面上下方向が厚鋼板7の厚さ方向であり、上端及び下端が表裏の鋼板表面を示す。き裂は紙面左端の鋼板端部において発生し、矢印方向に伝播している。
図1Aは、板厚T5が50mm以上の厚鋼板7における脆性き裂の伝播挙動を示し、図1Bは、板厚T2が20mm程度の鋼板における脆性き裂の伝播挙動を示す。
【0038】
まず、板厚50mm以上の厚鋼板における脆性き裂の伝播挙動と、板厚20mm程度の鋼板における脆性き裂の伝播挙動の相違について説明する。
【0039】
これまで、板厚20mm程度の鋼板を対象に、脆性き裂伝播特性と小型試験の結果との相関が検討され、その結果、脆性き裂の伝播機構は、次のように考えられている。
【0040】
図1Bに示すように、板厚20mm程度の鋼板6では、脆性き裂伝播面Zdのき裂先端d(鋼板6の板厚方向に形成され、表面に達している)が矢印方向に移動して、脆性き裂が伝播する。脆性き裂伝播面Zdは、鋼板6の板厚方向に沿う連続面であるので、小型試験の結果は、小型試験片の採取位置(鋼板表層部、鋼板中央部)に大きく影響されず、ほほ一定値となり、この値が、板厚20mm程度の鋼板の脆性き裂伝播特性を代表することになる。
【0041】
しかし、板厚50mm以上の厚鋼板では、図1Aに示すように、厚鋼板7の板厚方向に、複数の脆性き裂伝播面(図中、Za、Zb、Zc)が形成される。脆性き裂伝播面(Za、Zb、Zc)のそれぞれは、厚鋼板7の板厚方向に沿う連続面である。一方、脆性き裂伝播面同士は、厚鋼板7の板厚方向に沿って不連続に存在する。つまり、一般的には脆性き裂伝播面(Za、Zb、Zc)はそれぞれ、板厚方向に略平行で互いに重ならない別々の平面上に含まれている。そしてき裂先端a、b、cが、それぞれ独立して矢印方向に移動して、脆性き裂が進行する。
【0042】
即ち、図1Aの右図に示すように、脆性き裂伝播面(Za、Zb、Zc)の間に段差(点線で囲まれた位置を参照)が存在する場合がある。それ故、板厚50mm以上の厚鋼板から小型試験片を採取して小型試験を行う場合、試験結果は、小型試験片の採取位置の影響を受けて大きく分散する。結局、板厚50mm以上の厚鋼板から任意に採取した小型試験片に係る試験結果は、単一の試験のみでは板厚50mm以上の厚鋼板の脆性き裂伝播特性を代表するには不十分である。
【0043】
このように、板厚50mm以上の厚鋼板における脆性き裂伝播挙動は、板厚方向の各位置における脆性き裂伝播特性の違いに大きく影響を受けるのであり、板厚方向において一様でない。
【0044】
ここで、板厚50mm以上の厚鋼板における板厚中心部のき裂伝播挙動と、鋼板表層部近傍のき裂伝播挙動が相違する理由について説明する。
【0045】
板厚50mm以上の厚鋼板の板厚方向において、脆性き裂伝播挙動が異なる原因は、き裂先端が、板厚内部では平面歪状態にあり、表面近傍では、平面応力状態にあることに関係する。即ち、厚鋼板の板厚内部では、き裂先端が平面歪状態にあるので、き裂先端に形成される塑性域の寸法は、板厚表面近傍に存在するき裂先端の塑性域に比べて小さく、その結果、き裂の伝播に対する抵抗が小さくなり、脆性き裂が進展し易くなっている。
【0046】
一方、厚鋼板の表面近傍(表層部)では、き裂先端は、平面応力状態にあるので、き裂先端に形成される塑性域の寸法は、板厚内部に存在するき裂先端の塑性域の寸法より大きく、その結果、脆性き裂は、板厚内部に比べ、伝播し難くなっている。このため、表層部近傍にシアリップが形成され、脆性き裂伝播停止性能の向上に大きく寄与することは広く知られている。このように、鋼板の表層部では板厚内部と全く異なる現象が起きている。本発明者らは、表層部での最適試験方法について検討した結果、表面の脆性き裂の伝播をそのまま評価できる落重試験が最もよい方法であることを見出した。
【0047】
このように、板厚50mm以上の厚鋼板においては、脆性き裂を伝播させる駆動力となるき裂先端の応力−歪場や、き裂先端の塑性域の広がりが、板厚方向で異なるので、脆性き裂伝播挙動が板厚方向において異なる。
【0048】
さらに,板厚50mm以上の厚鋼板では、製造時に、板厚方向の温度履歴が異なるうえ、圧延時に、鋼板内部に作用する歪も板厚方向で異なることがある。このため、鋼板組織の結晶粒径や集合組織が、板厚方向で大きく異なる場合が多い。
【0049】
それ故、板厚50mm以上の厚鋼板から、任意の位置で小型試験片を採取して小型試験を行った場合、試験結果は、小型試験片の採取位置の影響を受けて大きく分散し、板厚50mm以上の厚鋼板全体の脆性き裂伝播特性を代表しない。
【0050】
本実施形態においては、板厚50mm以上の厚鋼板の脆性き裂伝播挙動が、板厚方向において異なることを踏まえ、小型試験に供する小型試験片を、高強度厚鋼板の板厚方向において区分した複数の領域から採取する。
【0051】
以降の記載において、厚鋼板の表面、または表面下2mm程度までの位置を少なくとも含むように採取した試験片を表層小型試験片と呼ぶ。本実施形態では表層小型試験片に加えて、厚鋼板の厚み方向内部から少なくとも1箇所、更に好ましくは2箇所以上の位置から試験片を採取する。以降の記載において、このような、厚鋼板の表面部分を含まず、厚鋼板の厚み方向で表面下10mm以上の内部から採取された試験片を、内部小型試験片と呼ぶ。
【0052】
内部小型試験片を採取する場合、採取位置は、厚鋼板の板厚中心部(中心偏析部)を避けるのが好ましい場合がある。図2Aに示すように、厚鋼板7の板厚中心部から小型試験片8を採取すれば、試験結果は、板厚中心部の脆性き裂伝播挙動を示すと通常は考えられる。ところが、連続鋳造プロセスで製造した鋼板には、板厚中心部に、中心偏析部と呼ばれる合金元素濃化域が存在することが多く、中心偏析が顕著な場合は、この中心偏析部が、脆性き裂の伝播に大きく影響すると考えられる。
【0053】
そこで、本発明者らは、脆性き裂伝播挙動に及ぼす中心偏析部の影響を実験的に検討した。その結果、脆性き裂伝播挙動に対する局所的な中心偏析部の直接の影響は小さいことが判明した。
【0054】
一方、別の実験の結果、中心偏析部は、脆性き裂発生特性を著しく低下させる原因となっていることが判明した。小型試験結果は、脆性き裂発生特性と脆性き裂伝播特性が重畳した結果である。したがって、脆性き裂伝播性能が同じでも、中心偏析部が、脆性き裂発生特性に大きく影響すると、小型試験の結果に大差が生じ、脆性き裂伝播特性を適確に推定できないという問題が生じる。
【0055】
そこで、本発明者らは、厚鋼板内部において、中心偏析が顕著な場合は、図2Aに示すように、小型試験片を、脆性き裂伝播面が中心偏析部を含まない領域(9)で採取することが好ましいことを知見した。なお、厚鋼板内部において、中心偏析が顕著でない場合は、板厚中心部を含む小型試験片を採取してもよい。
【0056】
厚鋼板の板厚中心部近傍で、板厚中心部を含まない小型試験片を採取する場合、板厚中心部から厚さ方向に0.1mm以上離れた(更に好ましくは1mm以上離れた)領域を採取することが好ましく、かつ、板厚中心部から5mm以内の位置を含む領域を採取することが好ましい。厚鋼板の板厚中心部を含まず、板厚中心部から5mm以内の位置を含むように採取した小型試験片に係る試験結果は、中心偏析部の影響が排除されているので、板厚中心部の脆性き裂伝播特性を適確に示すものとなる。
【0057】
図2Aに示すように、き裂先端が平面応力状態にあり、脆性き裂が伝播し難い鋼板表面近傍(表層部)から小型試験片10を採取する場合、鋼板表面を含む試験片(表層小型試験片)を採取することが最も好ましい。鋼板の製造後、鋼板表面にスケール、脱炭部分等、鋼板内部と比較して大きく特性の異なる層が存在する場合は、これらの層をなるべく薄く切削して排除してから試験片を採取してもよい。表面を切削する場合でも、鋼板表面から2mmを超えて大きく切削すると、鋼板表面のき裂伝播特性を代表する試験片が得られない虞がある。スケール、脱炭部分等の影響を避けるためなどの理由により、鋼板表面を切削する場合でも、鋼板表面2mm以内とする必要がある。
【0058】
また、厚鋼板の表面から、板厚1/4の深さ位置を含む小型試験片を採取してもよい。厚鋼板の板厚1/4の位置を含む領域は、図1Aに示す脆性き裂伝播面Za、Zcを含む領域の脆性き裂伝播挙動を代表できる領域なので、小型試験片を採取する領域として好ましい領域である。
【0059】
図2Bに、小型試験片の採取の態様を示す。小型試験片9aは、板厚中心部から5mm以内の位置を含む小型試験片である。小型試験片10aは、鋼板表面下2mmの位置を含む小型試験片である。小型試験片11は、厚鋼板の板厚1/4の位置を含む小型試験片を採取する態様である。小型試験片8aは、板厚中心部を含む小型試験片である。小型試験片12は、鋼板表面下2mmの位置および鋼板表面を含む。
【0060】
そして、内部小型試験は、シアリップの影響をさけるため、鋼板表面から10mm以上離れるよう採取する必要がある。内部小型試験片としては、板厚中心部を含む試験片、又は、板厚中心部から5mm以内の位置を含むように採取した試験片、厚鋼板の板厚1/4の位置を含むように採取した小型試験片等を用いることができる。
【0061】
内部小型試験片の厚鋼板の板厚方向に沿った寸法は、脆性き裂伝播面の幅におおよそ対応させて、10〜20mmにすることが好ましい。板厚が50mm以上の厚鋼板の場合、板厚方向で、脆性き裂伝播挙動が異なるので、板厚方向に沿って、複数の小型試験片を採取するのがより好ましい。
【0062】
このように、小型試験片を採取して小型試験をすることにより、板厚方向で異なる脆性き裂伝播挙動に対応する試験結果を得ることができる。この試験結果に基づいて、板厚50mm以上の厚鋼板のアレスト性能を推定することができる。この推定の方法については後述する。
【0063】
き裂厚鋼板の表層部分以外の領域から採取した小型試験片(内部小型試験片)を用いて行う小型試験は、脆性破面率または吸収エネルギーを測定する小型試験であれば、特定の試験に限定されない。このような試験の場合、小型試験片の内部をき裂が進行する際の挙動を十分に評価できる。
例えば各種のシャルピータイプ衝撃試験片、具体的には、Vノッチシャルピー衝撃試験片、シャープノッチシャルピー衝撃試験片、プレスノッチシャルピー衝撃試験片、プレクラックシャルピー衝撃試験片、3面シャープノッチシャルピー衝撃試験片、シェブロンノッチシャルピー衝撃試験片及び、Uノッチシャルピー衝撃試験片を用いることができる。いずれの試験片においても、衝撃試験時の吸収エネルギーを測定できる。また、破断面の延性破面率又は脆性破面率を測定できる。特定の鋼材の小型試験における延性破面率と吸収エネルギーとの間には通常正の相関関係がある。脆性破面率と吸収エネルギーとの測定では、いずれも、小型試験片の表面部分のみでなく、試験片内部を含み、試験片の断面全体に対して応力が作用した結果が積分的に蓄積されて十分に試験結果に反映される。このために、内部小型試験片の評価方法として、脆性破面率(又は延性破面率)または吸収エネルギーの測定を行うことによって、厚鋼板内部における脆性き裂伝達特性を高精度に評価できるものと考えられる。なお、延性破面率と脆性破面率を合計すると100%になるため、脆性破面率の代わりに、延性破面率を用いてもよい。
これに対して、内部小型試験として落重試験を用いると、内部小型試験片を作成する際に恣意的に形成された表面に、脆化溶接ビード(クラック開始ウェルド)を配置することになる。このため、厚鋼材に本来存在する表面とは異なる、恣意的な試験片表面におけるき裂伝播特性に直接依存する試験結果が得られる。この場合、本来の厚鋼材の脆性き裂伝播特性を必ずしも正確に評価できない。
【0064】
Vノッチシャルピー衝撃試験や落重試験は、ASTM規格やJIS規格に準拠した試験法を用いて行ってよい。シェブロンノッチシャルピー衝撃試験やシャープノッチシャルピー衝撃試験は、脆性き裂が発生し易いように、ノッチ形状を工夫し、脆性き裂伝播特性の寄与を大きく抽出できるよう、試験片の形状を調整することが望ましい。好ましい試験片の形状については、実施例で説明する。
【0065】
図5Aから図5Eに、好適な小型試験片の形状を示す。図5Aは落重試験片、図5BはVノッチシャルピー衝撃試験片、図5Cは(1面)シャープノッチシャルピー衝撃試験片、図5Dは3面シャープノッチシャルピー衝撃試験片、図5Eはシェブロンノッチシャルピー衝撃試験片の代表的な形状をそれぞれ示す。
【0066】
本実施形態の方法に従って表層小型試験として落重試験を用いた場合、厚鋼板の最表面部分の脆性き裂伝播特性を直接的に評価することができる。このため、表層小型試験をVノッチシャルピー衝撃試験等、他の方法で試験した場合に比較して、高い精度で厚鋼板のアレスト性能を評価できる。
【0067】
また、Vノッチシャルピー衝撃試験は、脆性き裂が比較的発生しにくい条件となるため、その試験結果では脆性き裂発生特性が支配的となる場合がある。この逆に、小型試験において、脆性き裂が発生し易い小型試験片を用いれば、小型試験結果に、脆性き裂伝播特性を大きく反映できる場合がある。
【0068】
それ故、脆性き裂が発生し易く工夫した小型試験片を用いる試験法を採用することがより望ましい。例えば、切欠部をスリット状に加工し、かつ、切欠形状を、シェブロン型に形成した試験片を用いるシェブロンノッチシャルピー衝撃試験がより望ましい。
【0069】
シェブロンノッチシャルピー衝撃試験片(図5E、参照)の寸法について、板厚方向に採取した寸法が10mm程度で、本実施形態の条件内にあれば、脆性き裂伝播領域の面積を増大したほうが、板厚50mm以上の厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能を試験する大型試験との相関をみるうえで望ましい。図5Eにおいて、R1で示すノッチ谷部分のなす角度は60度より小さく、ノッチの谷底部分底部の曲率半径は0.1〜0.2mmであるのが望ましい。ノッチは試験片の幅方向に延在し、正面視点(試験片の長手方向に沿った視点)において山形に折れ曲がる形状に加工される。山形の頂点部分(図5EのR2)は、試験中にき裂の発生点となる。頂点部分R2におけるノッチの折れ曲がりの曲率半径は0.1〜0.2mmであるのが望ましい。R2部分の試験片底部からの高さは13mmとするのが望ましい。
【0070】
落重試験では、図5Aに示すように、試験片の表面に溶接部(溶接ビード,図3の101b)を形成し、溶接部に切欠(クラック開始ウェルド,スリット加工)を形成する。落重試験片101は、図3に示すように厚鋼板の表層部を含むように採取される。つまり、落重試験片101の片方の表面101aが厚鋼板の表面に対応するように採取される。図3に模式的に示すように、溶接ビード101bは、この表面101aに形成する。
【0071】
取得した試験片101を用い、ASTM(Standards of American Society for Testing and Materials;米国材料試験協会規格)のE208−06に規定されたNRL(Naval Research Laboratory)落重試験を行う。試験片101の片方の表面101aに、上記規定に従った溶接材料で、長手方向に64mm程度の溶接ビード101bを付設する(図5A)。このビードがクラック開始ウェルド(Crack starter weld)として作用する。さらにこの溶接ビード101bに、幅1.5mm以下のスリットを形成する。
次に、図4Aに示すように、落重試験機200の試験片設置台200bに落重試験片101を設置する。このとき、溶接ビード101bの形成された表面101aが下向きになるように設置される。落重試験では、規定の形状・重量をもつ錘200aが試験片101上に落下する。試験片101の鋼材の靭性が低いと、試験温度等の条件によって、溶接ビードの切欠から発生した脆性き裂が、試験片101内部へ伝播する。
切欠から始まったクラックが試験片の表面101aを試験片101の幅方向に伝播してその端部まで進行した場合、(図4Bの状態)試験結果はBreak(き裂伝播あり)と判定される。幅方向の端部にき裂が達しなかった場合は試験結果はNo Break(き裂伝播なし)と判定される。上記試験操作を、試験片温度を5℃刻みで変化させながら2個づつの試験片で反復して行い、2個の試験片ともにno breakが得られた最も低い温度から5℃低い温度を、NDT温度とする。
き裂は試験片を貫通して溶接ビード設置面101aと半対側の面に進行する場合もあるが、本実施形態で採用する落重試験では、この貫通の有無を評価に含めない。
【0072】
落重試験でのNDT温度をアレスト靭性値Kcaの簡易評価に用いた例として、表層超細粒鋼という特殊な鋼板の破壊評価に用いた例がある(非特許文献2)。表層超細粒鋼では、表層部に、ほぼ均一の超細粒組織で脆性破壊し難い層が存在する。上記文献では表層超細粒鋼の評価に落重試験が用いられている。ただし、この文献では、落重試験で発生させた脆性き裂が、表層超細粒鋼を貫通して裏面に到達するか否かを主な評価基準とするよう、試験条件、相関式等が最適化されている。このため、ASTM規格の落重試験の一般的な運用法とは、試験全体の用法および結果の解釈、相関式等が大きく異なる。すなわち、この先行技術では、表層超細粒層の特性評価専用の特殊な相関式が得られるものの、当該相関式等の試験条件を一般鋼材に用いることは困難である。また、上記文献の試験では、ビード設置面に沿った態様のき裂の伝播は、試験結果に直接決定的影響を必ずしも与えない。これは、表層超細粒鋼では、き裂が表層超細粒部分を垂直方向に貫通し、その後表層超細粒部分の内側(下側)をき裂が伝播するという、特殊な伝播態様が生じるためである。図10Aにこの表層超細粒鋼の落重試験の破面の様子を、図10Bに一般鋼材の落重試験の破面の様子を示す。表層超細粒鋼の落重試験では、この超細粒組織からなる表層部を脆性き裂が貫通し、図10Aの領域Pに達すれば試験片は全破断する。領域Pまでき裂が貫通しない場合は停止となる。つまり、実質超細粒域の境界まで亀裂が到達すれば、Go(伝播)と判定される。すなわち、表層超細粒鋼の落重試験では、超細粒組織からなる表層部のみの評価をしていることに等しい。一方、一般鋼材の落重試験では、脆性き裂は板厚方向、試験片幅方向の両方向(図10Bの矢印)に伝播し、幅方向の貫通によりBreak(き裂伝播あり)と判定される。このように、一般鋼材の落重試験では、板表面近傍の板表面に平行な脆性き裂の伝播特性を評価するものである点が表層超細粒鋼の落重試験とは大きく異なる。このため、上記文献の試験方法は、表層超細粒鋼にのみ適用できる条件に設定されており、一般鋼の試験には適用できない。
また、上記文献では、板厚内部も落重試験で評価している。板厚内部がアレスト性に寄与する主なメカニズムは、脆性き裂伝播抵抗のエネルギーであり、シアリップ形成のエネルギーではない。このため、内部試験片を落重試験で評価することは、試験鋼の製造バッチ別、製造法別に生じる鋼性状の偏差に起因する評価誤差の原因となると考えられる。当該鋼板では、表層超細粒域のアレスト特性に対する寄与があまりにも大きいため、このような誤差が大きくならず、実用化されている。このため、当該評価式は一般鋼材には適用できない。
一方、一般の鋼材の板厚表層の評価に関しては、最表面の評価と、内部の評価に別々の最適な方法を使い分けることが重要となる。本発明者らは幅広い加工条件・組成の厚鋼板において、最表面の評価としてASTM規格に規定されている落重試験のNDT温度が適していることを発見した。本実施形態で仕様する落重試験では、試験片の裏層にき裂が達しているかどうかは評価に含まない。この落重試験は、表層側の寄与が最も大きく裏面側の寄与が小さい試験法であり、鋼材表層のシアリップ効果の評価に適している。
【0073】
本実施形態は、厚鋼板のアレスト性能に関する性能検査方法に関するものである。従って、前述した手法に従って、板厚方向における総体的な性能であるアレスト性能を推定して性能保証をする方法は、全て、本実施形態の技術思想の範囲に含まれる可能性がある。なお、本発明の範囲は添付の請求の範囲によって定められる。
【0074】
本実施形態は、小型試験の結果に基づいて、厚鋼板のアレスト性能を推定することを基本思想とするものであり、成分組成に基づく特性は試験結果に現れる。このため、広い成分組成の厚鋼板に対して本実施形態の方法を適用することができる。本実施形態で用いる厚鋼板は、公知の成分組成の溶接用構造用鋼から製造したものでよい。即ち、本実施形態で用いる厚鋼板は、公知の成分組成の厚鋼板でよい。
【0075】
なお、溶接用構造用鋼としては、例えば、質量%で、C:0.02〜0.20%、Si:0.01〜1.0%、Mn:0.3〜2.0%、Al:0.001〜0.20%、N:0.02%以下、P:0.01%以下、S:0.01%以下を基本成分とし、母材強度や継手靭性の向上等、要求される特性に応じて、Ni、Cr、Mo、Cu、W、Co、V、Nb、Ti、Zr、Ta、Hf、REM、Y、Ca、Mg、Te、Se、Bの1種又は2種以上を含有した厚鋼板を用いてもよい。
【実施例】
【0076】
次に、本実施形態の実施例について説明する。実施例の条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した条件の例であり、本発明の適用範囲は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0077】
本実施例で用いた鋼板の成分組成を表1に示す。各鋼板製造時の主な圧延条件、冷却条件、熱処理条件、板厚、および降伏強度YS等を、表2に示す。これらの板厚70mmの厚鋼板から、図2Bに示す採取態様で、小型試験片を採取した。表3に、小型試験の種類と採取位置を示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
Vノッチシャルピー衝撃試験の結果は、延性脆性破面遷移温度と称される50%脆性破面率を示す温度:vTrsで示す。シェブロンノッチシャルピー衝撃試験の結果は、70Jの吸収エネルギーを確保できる遷移温度で示す。シャープノッチシャルピー衝撃試験の結果は、40Jの吸収エネルギーを確保できる遷移温度で示す。
【0081】
次に、小型試験結果と、各鋼材に対して実施した大型試験で測定したアレスト性能Kcaとの相関について説明する。小型試験は、本実施形態に係る方法、および比較例に係る方法を用いて行った。
【0082】
図6A〜図6Eは比較例に係る結果を示し、Vノッチシャルピー衝撃試験のみを用いた小型試験と、大型試験で測定したアレスト性能と、の相関例を示す図である。小型試験には様々な位置から採取した試験片を用いた。
Vノッチシャルピー衝撃試験片(試験片厚み:10mm)は、JISに規定されている標準試験片である(図5B、参照)。
図6Aは、図2Bに示す小型試験片10aまたは小型試験片11のいずれか一方を用いた場合の相関図である。
図6Bは、図2Bに示す小型試験片8aを用いた場合の相関図である。
図6Cは、図2Bに示す小型試験片9aを用いた場合の相関図である。
図6Dは、図2Bに示す小型試験片10aと9aとを両方用い、得られた小型試験結果を加重平均した場合の相関図である。
図6Eは、図2Bに示す小型試験片10aと8aとを両方用い、得られた小型試験結果を加重平均した場合の相関図である。
なお、加重平均は、表層試験結果に0.4、内部試験結果に0.6を乗じて加算することで行った。この加重係数を求める手順は後述する。
【0083】
図6A、図6B、及び、図6Cに示す相関例では、大きくばらついていた相関関係が、図6Dでは、やや改善されている。また、中心偏析の影響を受けた試験片8aを用いた図6Eでは、図6Dよりも相関のばらつきが大きい。しかし、小型試験のみを出荷試験に用いてアレスト特性を保証するためには、図6Dの相関を更に向上することがより好ましい。
【0084】
図7A〜7Eに、板厚70mmの厚鋼板10種から、小型試験片としてシェブロンノッチシャルピー衝撃試験片のみを採取して行った小型試験の結果と、大型試験で測定したアレスト性能との相関例を示す。
シェブロンノッチシャルピー衝撃試験片(試験片厚み:10mm)については、図5Eに、具体的な形状、寸法(単位:mm)を示す。
小型試験片の形状と小型試験方法が異なる以外、小型試験片の採取位置、及び、結果の整理方法は、図6A〜6Eの場合と同じである。
【0085】
シェブロンノッチシャルピー衝撃試験を採用した結果,脆性き裂発生特性の寄与が小さくなったので、図7Dに示す相関関係は、図6Dに示す相関関係に比べ、やや相関度が改善されている。
【0086】
図7Eに、図2Bに示す試験片8aを用いた場合における相関関係を示す。中心偏析を含む小型試験片8aを用いていることが原因で、シェブロンノッチシャルピー衝撃試験片であっても、図7Dに示す相関関係に比べ、相関度は良好でない。
【0087】
なお、詳細な結果は記述しないが、シェブロンノッチシャルピー衝撃試験片と同様,シャープノッチシャルピー衝撃試験片でも、脆性き裂発生特性の寄与が小さく抑制されているので,Vノッチシャルピー衝撃試験片を用いるよりも相関度が良好になる傾向が見られる。
【0088】
一面シャープノッチシャルピー衝撃試験片(試験片厚み:10mm)については、図5Cに、具体的な形状、寸法(単位:mm)を示す。試験材の3面にシャープノッチを形成した3面シャープノッチシャルピー衝撃試験片(図5D)を用いることもできる。
【0089】
上述した図6A〜6E及び図7A〜7Eに示す比較例の小型試験片の試験結果と、大型試験で測定したKca値が6000N/mm1.5を示す温度:TKca6000(℃)との相関関係から、厚鋼板のKca値を推定した。推定結果を表3に示す。表3には、実際に、大型試験で測定したTkca6000を、併せて示す。
【0090】
【表3】
【0091】
表3中、VNCは、Vノッチシャルピー衝撃試験片、CNCは、シェブロンノッチシャルピー衝撃試験片、NDTは、ASTMで規定されている落重試験片を示す。図5Aに、具体的な形状、寸法(単位:mm)を示す。
比較例VNCでは、表層小型試験、内部小型試験の双方にVノッチシャルピー衝撃試験を用いた。
比較例CNCでは、表層小型試験、内部小型試験の双方にシェブロンノッチシャルピー衝撃試験を用いた。
比較例NDTでは、表層小型試験、内部小型試験の双方に落重試験を用いた。
比較例8aでは、表層小型試験にも、内部小型試験にも、Vノッチシャルピー衝撃試験を用いた。他の例では内部小型試験の試験片を位置9aから採取しているのに対し、比較例8aでは内部小型試験の試験片を位置8aから採取している。
発明例では、表層小型試験に落重試験を用い、内部小型試験にシェブロンノッチシャルピー衝撃試験片を用いた。
【0092】
比較例VNC、CNCでは小型試験と大型試験の差異が鋼種によって大きく異なり、十分な精度の推定値が得られない鋼種が有る。
比較例8aは中心偏析部を含む8a採取位置の小型試験結果を用いたものであるが、推定誤差が大きくなっている。比較例NDTでは非特許文献2にある表層超細粒鋼と関連する評価方法を適用したが、一般鋼材では、中央部試験片に落重試験を用いた評価方法は精度が低いことが明らかになった。発明例では、小型試験より推定した値と、大型試験で測定した値の差異は、上記比較例に比べて小さく、小型試験の結果で、大型試験の結果を、工業的に精度よく推定することができることが解る。
【0093】
発明例VNCでは、表面の落重試験と板厚内部のVノッチシャルピー衝撃試験を用いて相関を求めた。前記発明例に比較してやや精度が下がるものの、比較例に比べて精度が良く、推定可能であることが解る。
【0094】
発明の実施例では誤差が比較的小さいが、誤差はデータ数により強く影響を受けるため、本特許に含まれる実施例よりデータ数が多い場合は誤差が大きくなる傾向がある。本実施例の誤差はN=10の場合のデータであり、N>10の場合には誤差はさらに大きくなる。すなわち実際の鋼材評価試験としてNが数十〜数百となる場合には、本実施例より大きな誤差となると予想される。そのような場合でも本発明は十分有用な精度良い簡易判定手法を提供するものである。
【0095】
図8Aは、本発明の第1の実施形態にかかる方法を用いた複合小型試験結果と、大型試験で測定したアレスト性能との相関例を示す図である。表層小型試験片に落重試験を、内部小型試験片にシェブロンノッチシャルピー衝撃試験を行い、これらの結果を加重平均して用いた。比較例に対して、非常に高い相関が現れている。
【0096】
図8Bは、比較例NDTにかかる方法を用いた複合小型試験結果と、大型試験で測定したアレスト性能との相関例を示す図である。
【0097】
なお、鋼3、鋼5、鋼7、鋼10では、本発明の第1の実施形態にかかる発明例の方法においても推定精度の誤差が4℃以上であった。このため、小型試験を追加し,3位置での小型試験による推定を試みた。表4に発明例2として示す。発明例2では誤差がさらに小さくなり、小型試験結果から大型試験の結果が、高精度で推定できることが解る。
【0098】
図8Cは、本発明の第2の実施形態にかかる方法を用いた複合小型試験結果と、大型試験で測定したアレスト性能との相関例を示す図である。ここで表層小型試験片は図2Bに示す位置12から採取し、内部小型試験片は図2Bに示す9aと11の2箇所から採取した。表層小型試験片に落重試験(NDT、小型試験1)を、2箇所の内部小型試験片にシェブロンノッチシャルピー衝撃試験(CNC、小型試験2、3)を行い、これら3つの小型試験結果を加重平均して用いた。本試験中最も高い相関が得られている。
【0099】
図8Dは、図8Aと同じく、本発明の第1の実施形態にかかる方法を用いた複合小型試験結果と、大型試験で測定したアレスト性能との相関例を示す図である。表層小型試験片に落重試験を、内部小型試験片にVノッチシャルピー衝撃試験を行い、これらの結果を加重平均して用いた。図8Aの試験と、図8Dの試験との差異は、内部小型試験片がシェブロンノッチシャルピー衝撃試験片(図8A)か、Vノッチシャルピー衝撃試験片(図8D)か、の違いである。図8Dの結果でも、比較例に対して、十分に高い相関が現れている。
【0100】
【表4】
第2の実施形態にかかる発明例2の方法では、鋼3、鋼5、鋼7、鋼10においても、実測Tkca6000を高精度で推定することができている。
【0101】
図9A、9Bに、推定式の係数を算出する方法のフローチャートを示す。まず、合否判定基準から、線形での傾きすなわちaとbの比を求め、求めた比を用いてY+aX/bとTKcaを比較して相関式を決定する。その際精度が不十分であれば、第3位置での小型試験を用いa:bを変化させて、上記の手順を行い誤差を最小化する。
【0102】
上記で説明した第1および第2の実施例において、発明例では、小型試験より推定した値と、大型試験で測定した値の差異は、比較例に比べて小さく、小型試験の結果で、大型試験の結果を、工業的に精度よく推定することができる。
即ち、本発明によれば、小型試験の結果に基づいて推定したアレスト性能Kcaと、実際の大型試験で得たアレスト性能Kが、広い鋼種、工法にわたって、非常に精度よく一致することが解る。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の方法によると、ESSO試験のように、大型試験装置を必要し、高コストの大型試験を省略することが可能となる。つまり、各バッチの製品鋼材からサンプル鋼材を選出し、このサンプル鋼材から切り出した小型試験片を用いて小型試験を行い、大型試験と同様の高い精度で実製品のアレスト性能を推定できる。本発明の方法を用いると、成分・工程レベルの品質保証に替わって、小型試験に基づいた各バッチの製品鋼材レベルの品質保証を提供できる。
【符号の説明】
【0104】
Za、Zb、Zc、Zd 脆性き裂伝播面
a、b、c、d き裂先端
7 厚鋼板
8、8a、9、9a、10、10a、11、12 小型試験片
101 落重試験片
101a 片方の表面
101b 溶接ビード
102 小型試験片
103 小型試験片
N ノッチ
200 落重試験機
200b 試験片設置台
200a 錘
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能を判別する方法であって:
標準鋼を用いて大型試験及び複合小型試験を行う工程と;
前記標準鋼を用いた前記大型試験の結果と前記複合小型試験の結果との相関モデルを算出する工程と;
サンプル鋼を用いて前記複合小型試験を行う工程と;
前記サンプル鋼を用いた前記複合小型試験の結果を前記相関モデルに代入して前記サンプル鋼の脆性き裂伝播停止性能を推算する工程と;
を含み、
前記複合小型試験は:
(a)鋼板表層部を含む表層小型試験片を採取する工程と;
(b)鋼板表層部を含まない一箇所又は二箇所以上の内部領域からそれぞれ内部小型試験片を採取する工程と;
(c)前記表層小型試験片を用いて落重試験を行う工程と;
(d)前記内部小型試験片を用いて脆性破面率または吸収エネルギーを測定する小型試験を行う工程と;
を含み、
前記複合小型試験は、前記表層小型試験片と前記内部小型試験片に対してそれぞれ異なる方法で小型試験を行う、
ことを特徴とする、高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法。
【請求項2】
Yを前記表層小型試験片の前記落重試験の結果であるNDT温度、
X1を前記内部小型試験片を用いた小型試験の結果である破面遷移温度または吸収エネルギー遷移温度、
a,b,dを係数、
目標Kca限界温度をTKcaとすると、
前記相関モデルが、
a・Y+b・X1+d=TKca
であることを特徴とする、請求項1に記載の高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法。
【請求項3】
前記サンプル鋼の脆性き裂伝播停止性能を推算する工程では、前記サンプル鋼を用いた前記複合小型試験の結果であるY’及びX1’を前記相関モデルに代入することによって前記サンプル鋼の目標Kca限界温度の推算値であるTKca’を算出する工程と;
前記TKca’と前記標準鋼の実測された目標Kca限界温度であるTKcaとを比較し、
TKca’≦TKca
であったときに、前記サンプル鋼の脆性き裂伝播停止性能を良好と判定する工程と;
をさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法。
【請求項4】
Yを前記表層小型試験片の前記落重試験の結果であるNDT温度、
X1を第1の内部領域から採取した前記内部小型試験片を用いた小型試験の結果である破面遷移温度、
X2を第2の内部領域から採取した前記内部小型試験片を用いた小型試験の結果である破面遷移温度、
a,b,c,dを係数、
目標Kca限界温度をTKcaとすると、
前記相関モデルが、
a・Y+b・X1+c・X2+d=TKca
であることを特徴とする、請求項1に記載の高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法。
【請求項5】
前記前記サンプル鋼の脆性き裂伝播停止性能を推算する工程では、前記サンプル鋼を用いた前記複合小型試験の結果であるY’、X1’、及びX2’を前記相関モデルに代入することによって前記サンプル鋼の目標Kca限界温度の推算値であるTKca’を算出する工程と;
前記TKca’と前記標準鋼の実測された目標Kca限界温度であるTKcaとを比較し、
TKca’≦TKca
であったときに、前記サンプル鋼の脆性き裂伝播停止性能を良好と判定する工程と;
をさらに含むことを特徴とする、請求項4に記載の高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法。
【請求項6】
前記内部小型試験片が、シェブロンノッチシャルピー衝撃試験片、Vノッチシャルピー衝撃試験片、シャープノッチシャルピー衝撃試験片、プレスノッチシャルピー衝撃試験片、プレクラックシャルピー衝撃試験片、3面シャープノッチシャルピー衝撃試験片、及び、Uノッチシャルピー衝撃試験片のうちのいずれかであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法。
【請求項7】
前記内部領域が、板厚中心部を含まず、かつ板厚中心部から5mm以内の位置を含む領域であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法。
【請求項8】
前記内部領域が、板厚1/4の位置を含む領域であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法。
【請求項9】
前記高強度厚鋼板の降伏強度が、240〜600N/mm2であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法。
【請求項10】
前記表層小型試験片及び前記内部小型試験片の厚さが、10〜25mmであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法。
【請求項11】
前記高強度厚鋼板が、大型船体用鋼板であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法。
【請求項12】
前記高強度厚鋼板の板厚が、50mm以上であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法。
【請求項13】
前記落重試験において、前記表層小型試験片の表面のうち、前記サンプル鋼の表層側に対応する面にクラック開始ウェルドを設け、
前記内部小型試験片の表面のうち、前記サンプル鋼の厚さ方向に沿ってノッチを設ける、
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の高強度厚鋼板の脆性き裂伝播停止性能の判定方法。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図5E】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図6E】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【公開番号】特開2010−230666(P2010−230666A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
物理学 | 測定;試験 | 材料の化学的または物理的性質の決定による材料の調査または分析 | 機械的応力の負荷による固体材料の強さの調査 | 単衝撃力の適用によるもの
化学;冶金 | 鉄冶金 | 鉄系金属の物理的構造の改良;鉄系もしくは非鉄系金属または合金の熱処理用の一般的装置;脱炭,焼もどし,または他の処理による金属の可鍛化 | 熱処理と結合した変形あるいは後に熱処理を伴う変形による物理的性質の改良 | 板あるいはストリップの製造中におけるもの
化学;冶金 | 冶金;鉄または非鉄合金;合金の処理または非鉄金属の処理 | 合金 | 鉄合金,例.合金鋼
化学;冶金 | 冶金;鉄または非鉄合金;合金の処理または非鉄金属の処理 | 合金 | 鉄合金,例.合金鋼 | アルミニウムを含有するもの
化学;冶金 | 冶金;鉄または非鉄合金;合金の処理または非鉄金属の処理 | 合金 | 鉄合金,例.合金鋼 | 鉛,セレン,テルル,アンチモンまたは0.04重量%より多く硫黄を含有するもの
【出願番号】特願2010−48417(P2010−48417)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社
【Fターム(参考)】
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査方法;試験の仕方 | 衝撃試験 | 衝撃破壊試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 力を掛ける方法(時間的、空間的) | 動的負荷による試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査環境 | 低温
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査対象項目 | 強度 | 破壊強度 | 脆性破壊強度
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験片、材料 | 金属材料
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験片、形状、構造及び部分、部品 | 切欠のあるもの
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 | Al
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 | B
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 | C0.1%未満
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 | C0.1%以上0.5%未満
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 | Cu1%未満
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 | Mn2%未満
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 | N
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 | Nb
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 | Ni1%未満
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 | P
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 | S
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 | Si1%未満
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 |
鋼の加工熱処理 | 鋼の合金成分及び不純物 | V
鋼の加工熱処理 | 特定な物品の製造 | 板、帯
鋼の加工熱処理 | 熱間圧延終了(仕上)温度 | 600℃以上750℃未満
鋼の加工熱処理 | 熱間圧延終了(仕上)温度 | 750℃以上850℃未満
鋼の加工熱処理 | 熱間圧延終了(仕上)温度 | 850℃以上
鋼の加工熱処理 | 熱延後熱延材(巻取前)冷却速度 | 急冷(水冷)
鋼の加工熱処理 | 熱延材再加熱温度 | 600℃未満
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