説明

高強度型湿式吹付けコンクリ−ト

【目的】 従来の湿式吹付けコンクリ−トに比し、著しく高い強度の高強度型湿式吹付けコンクリ−トを提供すること。
【構成】 カルシウムアルミネ−トを主成分とする急結材と生コンクリ−トを用いてなる湿式吹付けコンクリ−トにおいて、生コンクリ−トとして、早強ポルトランドセメントを主体とした結合主材に対し、予め無水石膏を内割で1.0〜5.0質量%添加した結合材を使用し、該結合材の量が400kg/m3以上で、かつ水結合材比が50質量%以下のものを用いること。
【効果】 このような生コンクリ−トを使用することで、湿式吹付けで成形した成形体を20℃で養生した場合で、材令28日で500kgf/cm2以上の圧縮強度を有する高強度型湿式吹付けコンクリ−トが得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、カルシウムアルミネ−トを主成分とする急結材と生コンクリ−トを用いてなる湿式吹付けコンクリ−トに関し、特に、トンネルや地下構造物などの建設工事で施工される湿式吹付け工法における高強度型湿式吹付けコンクリ−トに関する。
【0002】
【従来の技術】掘削されたトンネルや地下空間の建設工事では、露出面にコンクリ−トを吹付けてライニングし、該面の崩落を防止する方法が広く実施されている。
【0003】コンクリ−トの吹付け工法としては、乾式工法と湿式工法が知られている。乾式工法は、セメントと骨材を空練りした混練物に急結材を添加して吹付け装置に供給し、圧搾空気で輸送する途中に水を添加混合して吹付ける工法である。一方、湿式工法は、生コンクリ−トを吹付け装置に供給し、圧搾空気で輸送しながらその途中で急結材を圧入して混合し、吹付ける工法である。この湿式工法は、乾式工法に比べて、粉塵の発生が少ないという利点を有する以外に、コンクリ−トの品質管理がしやすく、安定した強度が得られるので、吹付け工法の主流となっている。
【0004】湿式吹付け工法で用いられる代表的な生コンクリ−トは、セメントとして普通ポルトランドセメントを用い、単位セメント量:350〜370kg/m3、水セメント比:55〜70質量%である。これにカルシウムアルミネ−トを主成分とする急結材(例えば特開昭63-112448号公報に記載の急結材)を、セメントに対する割合として5〜10質量%添加される。このような吹付けコンクリ−トの圧縮強度は、材令28日で200〜300kgf/cm2程度である。
【0005】通常は、吹付けコンクリ−トの施工後、その内側にさらにコンクリ−トを打設し、二次覆工が施される。すなわち、吹付けコンクリ−トそれ自体は、一次的な仮設構造物として施工されてきた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、最近では、工期の短縮や工費の削減を目的として、吹付けコンクリ−トの施工後の二次覆工をなくす、または、プレキャストコンクリ−ト板による簡易な二次覆工で建設することが試み始められている。このような方法で施工を行うには、従来に比べて吹付けコンクリ−トに高い支保効果が必要となるため、高い強度が要求されるが、これまでは、急結性のよいものは長期強度の伸びが悪くなる傾向にあつた。
【0007】そこで、本発明者等は、吹付けコンクリ−トに不可欠である急結性を損わずに、吹付け成形体の材令28日における強度を圧縮強度で500kgf/cm2以上まで向上する技術について鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成したものであって、本発明の目的は、高い強度を有することにより、トンネルなどの地下構造物において従来の吹付けコンクリ−トより著しく高い支保効果が得られる、急結性の高強度型湿式吹付けコンクリ−トを提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、カルシウムアルミネ−トを主成分とする急結材と生コンクリ−トを用いてなる湿式吹付けコンクリ−トにおいて、生コンクリ−トとして、・早強ポルトランドセメントを主体とした結合主材に対し、予め無水石膏を内割で1.0〜5.0質量%添加した結合材を使用し、・該結合材の量が400kg/m3以上で、かつ水結合材比が50質量%以下のものを用いる、ことを特徴とし、このような生コンクリ−トを使用することで、湿式吹付けで成形した成形体を20℃で養生した場合で、材令28日で500kgf/cm2以上の圧縮強度を発揮できる効果を有する高強度型湿式吹付けコンクリ−トを提供するものである。
【0009】即ち、本発明は、「カルシウムアルミネ−トを主成分とする急結材と生コンクリ−トを用いてなる湿式吹付けコンクリ−トにおいて、前記生コンクリ−トが、早強ポルトランドセメントを母体とした結合主材に無水石膏を予め1.0〜5.0質量%添加してなる結合材を用い、該結合材量が400kg/m3以上で、水結合材比が50質量%以下であることを特徴とする高強度型湿式吹付けコンクリ−ト。」(請求項1)を要旨とし、そして、前記結合主材が、早強ポルトランドセメント100〜40質量部及び高炉スラグ微粉末0〜60質量部からなるものである(請求項2)。
【0010】以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明で言う“結合主材”とは、「早強ポルトランドセメント単味あるいは早強ポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末との混合物」を意味し、また、“結合材”とは、「該結合主材に無水石膏を加えたもの」を意味するものである。
【0011】本発明において、セメントとしては、早強ポルトランドセメントを用いることが肝要である。その理由は、一般に吹付けコンクリ−トの施工で使用されている普通ポルトランドセメントでは、吹付けて成形した試験体を20℃で養生した場合、材令28日で500kgf/cm2以上の高強度を得ることが困難であるからである。
【0012】本発明において、早強ポルトランドセメントと併用する高炉スラグ微粉末としては、その粉末度が大きいほど、コンクリートの強度発現が向上するが、流動性が低下する傾向があり、そのため低水結合材比では、圧送性が悪くなる。また、ブレ−ン比表面積で10,000cm2/gを超える細かさのものは、製造に要する労力が大きく実用的ではない。従って、本発明では、高炉スラグ微粉末の粉末度としては、ブレ−ン比表面積で4,000cm2/g以上、特に6,000〜8,000cm2/g程度のものが好ましい。
【0013】本発明で用いる無水石膏とは、II型無水石膏であり、この無水石膏の割合としては、早強ポルトランドセメント及び高炉スラグ微粉末の合計量に対して、内割で1.0〜5.0質量%が好ましい。1.0質量%未満では、無水石膏の添加効果が明瞭に表れず(後記比較例4,5参照)、一方、5.0質量%を超えると、吹付けコンクリートに不可欠な急結性の低下を引き起こすため(後記比較例6参照)、いずれも好ましくない。
【0014】石膏としては、無水石膏(II型無水石膏)以外に、半水石膏や二水石膏が知られている。しかしながら、無水石膏以外の石膏を用いると、コンクリ−トの急結性が低下する傾向があるので、本発明では、特に無水石膏(II型無水石膏)の使用が好ましい。無水石膏とそれ以外の半水石膏、二水石膏との「コンクリ−トの急結性に対する効果上の相違」については、詳細なところは不明であるが、半水石膏、二水石膏の溶解度及び溶解速度が無水石膏より著しく高いことに起因するものと考えられる。
【0015】本発明において、無水石膏の粉末度については、特に限定するものではないが、ブレ−ン比表面積で3,000cm2/g以上が好ましく、この比表面積以上であれば実用上問題なく使用することができる。
【0016】無水石膏、早強ポルトランドセメント及び高炉スラグ微粉末の混合方法については、本発明で特に限定するものではなく、例えば、予めこの3種類の粉体を所定の割合で混合し、これを生コンクリ−トプラントに供給することができ、または、生コンクリ−トの製造時にそれぞれを計量してミキサ−に投入することができ、いずれの場合でも、効果は変わらない。
【0017】本発明において重要な点は、早強ポルトランドセメントを母体とした結合主材に無水石膏を予め添加してなる結合材を用いる点にある。即ち、吹付けコンクリ−トの母材である生コンクリ−トの製造時に予め無水石膏も混練されることである。無水石膏を、カルシウムアルミネ−トを主成分とする急結材と一緒に、もしくは、この急結材に混合して、圧送されている生コンクリ−トに添加混合すると、急結性が損われるので好ましくない。
【0018】結合主材中の早強ポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末との割合は、前者が100〜40質量部、後者が0〜60質量部であることが好ましい。高炉スラグ微粉末が60質量部を超えると、急結性は損なわれ、強度発現も悪くなるので(後記比較例10参照)、好ましくない。
【0019】本発明において、早強ポルトランドセメント、高炉スラグ微粉末及び無水石膏から構成される結合材の合計量が生コンクリ−ト中で400kg/m3以上で、かつ水結合材比が50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、結合材の単位量が500kg/m3以上、水結合材比が40質量%以下(30〜40質量%)である。
【0020】結合材の単位量が400kg/m3に満たない場合、又は、水結合材比が50質量%を超える場合は、強度が充分でなく、材令28日で500kgf/cm2以上の圧縮強度が得られないので好ましくない。なお、本発明において、水結合材比の下限を特に限定するものではないが、極端に低い水結合材比では、流動性が低下し、圧搾空気でコンクリ−トを輸送することが困難となるので好ましくなく、その下限としては、実用的には30質量%程度までである。同様に、結合材量の上限も特に限定するものではないが、これが極端に高いと、流動性が低下し、圧搾空気でコンクリ−トを輸送し難くなるので、実用的には600kg/m3程度までである。
【0021】カルシウムアルミネ−トを主成分とする急結材としては、例えば特開昭63-112448号公報に記載されている「カルシウムアルミネ−ト50〜90重量%、炭酸アルカリ10〜40重量%及びアルミン酸アルカリ0〜10重量%未満からなる湿式吹付けコンクリ−ト用急結材」、または、特公平7-25577号公報に記載されている「50重量%を越える量のカルシウムアルミネ−トと50重量%未満のアルカリ炭酸塩からなるセメントモルタル又はコンクリ−トの湿式吹付け用急結材」などを使用することができる。
【0022】本発明は、コンクリ−トにのみ限定されるものではなく、粗骨材をすべて細骨材に置換することによって吹付けモルタルにも適用でき、これも本発明に包含されるものである。なお、吹付けコンクリ−トの施工法については、通常行われている湿式工法が任意に適用することができ、本発明において、特定の湿式工法に限定されるものではない。
【0023】
【実施例】次に、本発明の実施例を比較例と共に挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】ここで、以下の実施例及び比較例で使用する材料をまとめて説明する。
・無水石膏 :第一セメント社製[ブレ−ン比表面積7800cm2/g]
・セメント :日本セメント社製早強ポルトランドセメント:日本セメント社製普通ポルトランドセメント・高炉スラグ:第一セメント社製“ファインセラメント20A(商品名)”[ブレ−ン比表面積6200cm2/g]
・急結材 :日本セメント社製“アサノス−パ−ナトム(商品名)”[カルシウムアルミネ−トを主成分とする]
・細骨材 :富士川水系川砂[粗粒率2.8]
・粗骨材 :青梅産砕砂[最大粒径13mm]
・混和材 :エヌエムビ−社製減水剤“NT-1000(商品名)”
【0025】また、以下の実施例及び比較例での「吹付けコンクリ−トの急結性」「圧縮強度」の各試験は、次のとおりである。「吹付けコンクリ−トの急結性」は、目視および触感で評価した。また、「圧縮強度」は、材令24時間の場合、15×15×53cmの型枠内に吹付けた供試体で測定し、材令28日の場合、木箱内に吹付けて成形したコンクリ−トブロックより直径10cm、高さ20cmのコアを切出して測定した。
【0026】15×15×53cmの型枠内に吹付けた供試体及び木箱内に吹付けて成形したコンクリ−トブロックは、20±3℃の室内で所定の材令まで養生した。吹付け装置として日本プライブリコ社製“ニ−ドガン”を、急結材の供給装置として日本プライブリコ社製“Qガン”を用いて吹付け施工を行った。また、実施例、比較例のいずれの場合も、急結材の添加率は、結合材に対して6質量%となるように、急結材の供給装置を調整した。
【0027】(実施例1〜7、比較例1〜3)下記表1に示すように、コンクリ−トの配合を変えて吹付け施工実験を実施し、急結性及び圧縮強度を測定した。結合材としては、早強ポルトランドセメントに無水石膏を内割で2.0質量%混合したものを用いた。
【0028】比較例1は、普通ポルトランドセメントを用いた通常の吹付けコンクリ−トの性能試験である。このコンクリ−トの配合は、細骨材比60質量%で、減水剤は無添加である。そのスランプは12cmであった。実施例1〜7、比較例2、3の生コンクリ−トは、スランプが14±2cmとなるように、細骨材比及び減水剤の添加率を変えて調製した。結果を表1に示す。
【0029】
【表1】


【0030】表1から明らかなように、本発明で規定する結合材の量(400kg/m3以上)及び水結合材比(50質量%以下)の範囲内の実施例1〜7では、材令28日圧縮強度が本発明で所望する500kgf/cm2以上の高強度のものが得られた。
【0031】これに対して、普通ポルトランドセメントを使用した比較例1、早強ポルトランドセメントを用いたが、結合材の量が本発明で規定する範囲外の350kg/m3を使用した比較例2では、いずれも材令28日圧縮強度が500kgf/cm2以下の262kgf/cm2、342kgf/cm2であった。また、早強ポルトランドセメントを使用し、結合材の量も本発明で規定する範囲内の500kg/m3であるが、水結合材比が本発明で規定する範囲外の55質量%である比較例3では、急結性がやや不良であり、しかも材令28日圧縮強度が381kgf/cm2であった。
【0032】(実施例8,9、比較例4〜8)下記表3に示すように、無水石膏の割合を変えて早強ポルトランドセメントに予め添加混合したものを用いて生コンクリ−トを製造し、これと前記急結材を用いて吹付け施工実験を行い、吹付け時の急結性及び圧縮強度を測定した(実施例8,9及び比較例4〜6)。また、比較として、普通ポルトランドセメントと無水石膏の組合せの吹付けも同様に行った(比較例7,8)。本実施例8,9、比較例4〜8で使用した生コンクリ−トの基本配合を表2に示す。スランプは減水剤の添加率で調整した。結果を表3に示す。なお、表3に前記実施例3(早強ポルトランドセメントに無水石膏を内割で2.0質量%混合した例)を併記した。
【0033】
【表2】


【0034】
【表3】


【0035】表3から、本発明で規定する無水石膏の結合材に対する添加量(1.0〜5.0質量%)の範囲内である実施例8,9では、材令28日圧縮強度が本発明で意図する500kgf/cm2以上の高強度のものが得られた。
【0036】これに対して、無水石膏を添加しない比較例4,7では、本発明で意図する500kgf/cm2以下の411kgf/cm2、381kgf/cm2であった。また、無水石膏を添加しても、その添加量が本発明で規定する添加量の範囲外の比較例5,6、その添加量が本発明で規定する範囲内であっても、普通ポルトランドセメントを用いた比較例8では、いずれも本発明で意図する圧縮強度のものが得られなかった。
【0037】(比較例9)無水石膏をセメントなどと一緒に生コンクリートに加えておいた場合と、急結材に混合して後から生コンクリ−トに添加した場合の急結性を比較した。前記実施例3に添加した2.0質量%に相当する無水石膏を、同じく6.0質量%に相当する急結材と混合し、この混合物を無水石膏を除いて前記実施例3と同じ配合割合(単位結合材量500kg/m3)になるようにした生コンクリ−トに圧入添加して湿式吹付け施工実験を行った。その結果、実施例3に比べてコンクリ−トの急結性が悪く、付着後のダレや剥落が著しかった。
【0038】(実施例10〜12,比較例10)下記表4に示すように、結合材の早強ポルトランドセメントと高炉スラグ微粉末の割合を変えて生コンクリ−トを製造し、吹付け施工実験を実施し、急結性及び圧縮強度を測定した。無水石膏の添加率は、結合主材の2.0質量%で一定とした。生コンクリ−トの基本配合は、前記した表2と同じである。結果を表4に示す。なお、表4に前記実施例3(早強ポルトランドセメントに無水石膏を内割で2.0質量%混合した例)を併記した。
【0039】
【表4】


【0040】表4から明らかなように、結合主材として早強ポルトランドセメントと60質量%以下の高炉スラグ微粉末を使用した実施例10〜12では、早強ポルトランドセメント単味の結合主材を用いた実施例3に比して、材令28日圧縮強度が向上することが認められた。一方、高炉スラグ微粉末を70質量%と多量に配合した結合主材を使用した比較例10では、急結性がやや不良であり、しかも材令28日圧縮強度が391kgf/cm2と低いものであった。
【0041】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明による高強度型湿式吹付けコンクリ−トは、従来の湿式吹付けコンクリ−トと比べて著しく高い強度が得られる効果が生じる。従って、本発明により、トンネルなどの地下構造物において、従来の吹付けコンクリ−トより著しく高い支保効果が得られ、実用的価値が極めて高いものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 カルシウムアルミネ−トを主成分とする急結材と生コンクリ−トを用いてなる湿式吹付けコンクリ−トにおいて、前記生コンクリ−トが、早強ポルトランドセメントを母体とした結合主材に無水石膏を予め1.0〜5.0質量%添加してなる結合材を用い、該結合材量が400kg/m3以上で、水結合材比が50質量%以下であることを特徴とする高強度型湿式吹付けコンクリ−ト。
【請求項2】 前記結合主材が、早強ポルトランドセメント100〜40質量部及び高炉スラグ微粉末0〜60質量部からなることを特徴とする請求項1記載の高強度型湿式吹付けコンクリ−ト。