説明

高強度溶融亜鉛めっき鋼帯

本発明は、質量%で、次の元素:0.10〜0.18%のC、1.90〜2.50%のMn、0.30〜0.50%のSi、0.50〜0.70%のAl、0.10〜0.50%のCr、0.001〜0.10%のP、0.01〜0.05%のNb、最大0.004%のCa、最大0.05%のS、最大0.007%のNと、場合により次の元素のうち少なくとも1種:0.005〜0.50%のTi、0.005〜0.50%のV、0.005〜0.50%のMo、0.005〜0.50%のNi、0.005〜0.50%のCu、最大0.005%のB、残部であるFeおよび不可避不純物からなり、0.80%<Al+Si<1.05%およびMn+Cr>2.10%である、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯に関する。この鋼材は高強度で改善された成形性を呈し、良い生産性および被覆性と一緒に良い溶接性および表面品質を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車産業で用いられるような、改善された成形性を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼帯に関する。
【背景技術】
【0002】
このような鋼種は公知であり、二相鋼種の名称で開発されてきた。このような鋼種は、自動車産業で多くの用途に要求されるような所要の成形性を供しない。この理由から、TRIP支援二相鋼種が開発されてきた。
【0003】
このような鋼種について記載する文献がEP1889935A1である。この文献は(質量%で):
0.05〜0.3%のC、
0.08〜3%のMn、
最大1.4%のSi、
0.1〜2.5%のAl、
0.1〜0.5%のCr、
0.003〜0.1%のP、
最大0.07%のS、
最大0.007%のN、
残部であるFeおよび不可避不純物を含有し、Si+Al≧0.5%である、高強度溶融亜鉛めっき鋼板について記載している。場合により、幾つかの他の元素も存在しうる。31の鋼種が実験室規模で試験されてきたが、そのうち19種が発明組成物とみなされている。これらの実施例は、特にSiおよびAlの広範囲の量がEP1889935A1による発明性要件を満たすことを示している。
【0004】
成形性は、しかしながら、TRIP支援二相鋼帯に関する唯一の要件ではない。合金元素は鋼材のコストをできるだけ低く抑える上で量的に少なくするべきであり、鋼帯を製造してそれを被覆することができるだけ容易であるべきであり、鋼帯は高強度、良い溶接性を有しなければならず、良い表面品質も示すべきである。これらの要件は、例えば、ホワイトボディへ点溶接される自動車部品へ形成されねばならない、工業的に製造されるTRIP支援二相鋼種で特に重要である。
【発明の開示】
【0005】
このように、鋼帯の成形性と加工性とのバランスを図った高強度溶融亜鉛めっき鋼帯の組成を見出すことが、本発明の目的である。
【0006】
溶融亜鉛めっきプロセス時に良い被覆性を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を提供することが、本発明の別な目的である。
【0007】
良い溶接性を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を提供することが、本発明の更に別な目的である。
【0008】
良い表面品質を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を提供することが、本発明のもう1つの目的である。
【0009】
できるだけ低いコスト価格を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を提供することが、本発明の更にもう1つの目的である。
【0010】
これら目的のうち1以上は、本発明に従い、質量%で、以下の元素:
0.10〜0.18%のC、
1.90〜2.50%のMn、
0.30〜0.50%のSi、
0.50〜0.70%のAl、
0.10〜0.50%のCr、
0.001〜0.10%のP、
0.01〜0.05%のNb、
最大0.004%のCa、
最大0.05%のS、
最大0.007%のN、
および場合により下記元素のうち少なくとも1種:
0.005〜0.50%のTi、
0.005〜0.50%のV、
0.005〜0.50%のMo、
0.005〜0.50%のNi、
0.005〜0.50%のCu、
最大0.005%のB、
残部であるFeおよび不可避不純物
からなり、0.80%<Al+Si<1.05%およびMn+Cr>2.10%である、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を提供することにより果たされる。
【0011】
炭素、マンガン、ケイ素、アルミニウムおよびクロムである鋼材の主構成元素の量の慎重な選択により、所要の成形性、加工性、強度および伸びを有し、同時に十分な溶接性、被覆性および表面品質を呈する高強度溶融亜鉛めっき鋼帯が製造されうることを、本発明者らは見い出した。最先端技術で示されたいずれの実施例もこれらすべての要件を同時に満たすものではないことが、本発明者らにより見い出された。
【0012】
本発明による鋼帯の組成は、鋼材の成形性が良く、ネッキングが生じないようなものであり、プレス部品の端部延性がクラッキングを生じないようなものである。
【0013】
主構成元素の量に関する理由は次の通りである。
C:0.10〜0.18質量%.慣用的な焼なまし/亜鉛めっきラインで利用される冷却速度で焼入性とマルテンサイトの形成を確実にするために十分高い量で、炭素は存在しなければならない。マルテンサイトは適度な強度をもたらすために要される。遊離炭素も、改善された加工硬化ポテンシャルと得られる強度レベルで良い成形性をもたらす、オーステナイトの安定化を可能にする。0.10質量%の下限はこれらの理由から要される。0.18質量%の最大レベルは、良い溶接性を確実にする上で必須であることがわかった。
【0014】
Mn:1.90〜2.50質量%.マンガンは焼入性を増すために加えられ、こうして慣用的な連続焼なまし/亜鉛めっきラインの冷却速度能力内でマルテンサイトの形成を容易にさせる。マンガンは引張強度を増してフェライト相を強化する固溶強化にも寄与し、こうして残留オーステナイトを安定化することに役立つ。マンガンは二相鋼の変態温度範囲を低下させ、こうして慣用的な連続焼なまし/亜鉛めっきラインで直ちに到達しうるレベルまで所要の焼なまし温度を低下させる。1.90質量%の下限は上記の理由から要される。2.50質量%の最大レベルは、軟質変態生産物(フェライトおよびパーライト)への二相鋼の十分な変態を確実にすることにより、熱間ミルで許容しうる圧延力を確実にして、冷間ミルで許容しうる圧延力を確実にするために定められる。この最大レベルは、鋳造時により強い偏析と、より高い値で鋼帯中マルテンサイトの帯の形成という観点からも示される。
【0015】
Si:0.30〜0.50質量%.ケイ素は固溶強化をもたらし、こうして高強度の達成と、フェライトマトリックスの強化によるオーステナイトの安定化を可能にする。ケイ素は過時効時にカーバイドの形成を非常に効果的に遅らせ、こうしてオーステナイトの安定化のために炭素を溶解状態に保つ。これらの理由から0.30質量%の下限が要される。0.50質量%の最大レベルは鋼帯の被覆性という観点から定められ、高レベルのケイ素が密着性の減少のせいで許容しえない被覆品質へ至るからである。
【0016】
Al:0.50〜0.70質量%.アルミニウムは脱酸素の目的で溶鋼に加えられる。正しい量のとき、それはベイナイト変態の加速も促し、こうして慣用的な連続焼なまし/亜鉛めっきラインの焼なましセクションにより課される時間制約内でベイナイト形成を可能にする。アルミニウムはカーバイドの形成も遅らせ、こうして炭素を溶解状態に保ち、そのため過時効時にオーステナイトの分割化を生じさせ、オーステナイトの安定化を促す。0.50質量%の下限は上記の理由から要される。0.70質量%の最大レベルは鋳造性のために定められ、高いアルミニウム含有率が鋳型スラグの毒作用化と、結果的に鋳型スラグ粘性の増加へ至り、鋳造時に不正確な熱伝達と潤滑性へ繋がるからである。
【0017】
Cr:0.10〜0.50%質量%.クロムは焼入性を増すために加えられる。クロムはフェライトを形成し、カーバイドの形成を抑え、こうして残留オーステナイトの形成を高める。0.10質量%の下限は上記の理由から要される。0.5質量%の最大レベルは鋼帯の十分な酸洗を確実にして、鋼帯のコストを十分に低く保つために定められる。
【0018】
Ca:最大0.004質量%:カルシウムの添加は、硫化マンガン介在物の形態を改変する。カルシウムが加えられた場合、該介在物は伸長形よりむしろ球状となる。ストリンガー(stringer)とも呼ばれる伸長介在物は、ラメラテイヤおよび剥離破壊が生じうる弱面として作用することがある。ストリンガーの回避は、穴の拡大またはフランジの張出しを伴う鋼板の成形プロセスに有益であり、等方性成形挙動を促進する。カルシウム処理は、アルミニウム脱酸素鋼種において硬質で、角張った、研摩性アルミナ介在物の形成も妨げ、その代わりに圧延温度においてより軟質で球状のアルミン酸カルシウム介在物を形成し、それにより材料の加工特性を改善する。連続鋳造機において、溶融鋼で生じる一部の介在物はノズルを塞ぐ傾向を有し、生産低下とコスト上昇を招く。カルシウム処理は、鋳造機ノズルを詰まらせない低融点種の形成を促すことにより、閉塞の傾向を減らす。
【0019】
P:0.001〜0.10%質量%.リンはカーバイドの形成を妨げ、したがって鋼材に少量のリンは有利である。しかしながら、リンは溶接に際して鋼材を脆くさせ、そのためリンの量は、特にイオウおよび窒素のような他の脆化元素との組合せのとき、慎重に管理されるべきである。
【0020】
イオウおよび窒素は少量で存在するが、これらの元素は溶接性にとり有害だからである。
【0021】
ニオブは、微粒化および成形性のために0.01〜0.05%質量%の量で加えられる。ニオブはランアウトテーブル上で変態を促し、こうしてより軟質でより均質な中間生産物を供する。ニオブは更に等温過時効温度でマルテンサイトの形成を抑え、それにより残留オーステナイトの安定化を促す。
【0022】
任意の元素が、主に鋼材を強化するために加えられる。
【0023】
上記の理由に加えて、ランアウトテーブル上で完全な変態をもたらして冷間圧延されうる鋼帯を確保し、焼なましラインで炭素の速い溶解を可能にして焼入性と正しいフェライト/ベイナイト変態挙動を促せる出発構造を供する上で、正しいバランスが見い出されるように、アルミニウム、クロムおよびマンガンの範囲が選択される。更に、アルミニウムはベイナイト変態を加速し、クロムは減速させるため、制限された過時効セクションのある慣用的な溶融亜鉛めっきラインで許容される時間尺度内において正しい量のベイナイトを生じるように、アルミニウムとクロムの正しいバランスが存在しなければならない。
【0024】
上記のような諸元素の絶対含有率とは別に、ある元素類の相対量も重要である。
【0025】
アルミニウムおよびケイ素は、合算すると、正しい組成のとき、最終製品でカーバイドの抑制と十分量のオーステナイトの安定化を確実化し、成形性の望ましい拡大を供するために、0.8〜1.05質量%で維持されるべきである。
【0026】
マンガンおよびクロムは、合算すると、マルテンサイトの形成、ひいては慣用的な連続焼なましラインと溶融亜鉛めっきラインで強度の達成にとり十分な焼入性を確保するために、2.10質量%以上にすべきである。
【0027】
好ましくは、元素Cは0.13〜0.16%の量で存在する。この範囲のとき、鋼材の焼入性は最良であり、一方で鋼材の溶接性が高められる。
【0028】
好ましい態様によると、元素Mnは1.95〜2.40%の量、好ましくは1.95〜2.30%の量、更に好ましくは2.00〜2.20%の量で存在する。高い量のマンガンほど高い強度の鋼材を提供し、そのため下限を1.95または更には2.00質量%マンガンまで上げることが有利である。他方、鋼材の熱間圧延および冷間圧延は高い量のマンガンほど難しくなり、そのため上限を2.40、2.30または更には2.20質量%マンガンまで下げることが有利である。
【0029】
好ましくは、元素Siは0.35〜0.45%の量で存在する。0.30%でなくそれより高い量のケイ素は過時効に際してカーバイドの良い遅延化を確実にし、そのことは鋼材の成形性にとり有利である。0.50%より低い量のケイ素は鋼帯の被覆性を改善する。
【0030】
好ましい態様によると、元素Alは0.55〜0.65%の量で存在する。アルミニウムの下限上昇はより高い量のケイ素と同様の効果を有するが、ベイナイト形成も改善する。アルミニウムのより低い上限は鋼材の鋳造性を改善する。
【0031】
好ましくは、元素Crは0.20〜0.50%の量、更に好ましくは0.30〜0.50%の量で存在する。下限の上昇は鋼材の焼入性を増す。
【0032】
好ましい態様によると、元素Nbは0.01〜0.04%の量で存在する。上記のように、ニオブは中間生産物の均質性を改善する。上限は主にニオブのコストを考慮したものである。
【0033】
好ましくは、鋼材は780MPaの極限引張強度を有する。この強度は鋼材に存在する諸元素の量の慎重な選択のおかげで達成され、一方で慣用的600MPa二相鋼の成形性が維持されている。
【0034】
好ましい態様によると、鋼材は55〜75容量%のフェライト、20〜10容量%のベイナイト、20〜10容量%のマルテンサイトおよび10〜5容量%の準安定残留オーステナイトからなるミクロ構造を有している。
【0035】
本発明の第二面によると、上記のような高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を製造する方法が提供され、その際に鋳造鋼は望ましい厚さを有する鋼帯へ熱間圧延および冷間圧延され、その後に鋼帯は焼なましラインで鋼種のAc1〜Ac3温度間の温度へ再加熱され、フェライトへの再変態を避けられるような冷却速度で急冷され、その後で等温過時効がベイナイトを形成するために適用され、鋼帯が溶融亜鉛めっきされる。
【0036】
この方法において、熱間圧延時の変形スケジュール、仕上げ圧延温度およびその後のランアウトテーブル上における冷却パターンは、冷間ミルで厚さの更なる減少に役立つミクロ構造を熱間圧延製品で得られるように選択しうる。特に、所要の冷間圧延荷重を最少化するように熱間圧延鋼帯の強度を制限する注意が払われる。焼なましラインにおける温度は、鋼帯がフェライトとオーステナイトの双方を含んでなるように選択しうる。冷却速度は、原則的にフェライトが形成され、ベイナイトの形成を促すように等温過時効が適用されるようなものにすべきである。溶融亜鉛めっきは常法で行われる。この方法に際して、ほとんどの工程の温度および期間は最終製品で強度と延性との望ましいバランスの実現のために重要である。
【0037】
当業者に知られているように、鉄‐炭素共晶系は下記のように幾つかの臨界変態温度を有している。これらの温度は化学および加工条件に依存している:
A1‐それ以下ではミクロ構造がフェライト(アルファ‐Fe)およびFe3C/パーライトの混合物から構成される温度;
A2‐キュリー温度:それ以上では材料が磁気を帯びることを止める温度;
A3‐それ以上ではミクロ構造がオーステナイトから完全に構成される温度;
接尾辞cおよびrは加熱および冷却サイクルにおける変態を各々表す。
【0038】
本発明は以下で説明されている;幾つかの組成が、最初に説明される一部周知の成形性パラメーターに関して評価されている。
【0039】
n値:加工硬化係数またはn値は一様伸びと密接に関連している。ほとんどの鋼板成形プロセスにおいて、成形性の限界は局所減肉または“ネッキング”に対する抵抗により調べられる。一軸引張試験において、ネッキングは一様伸びの程度で始まる。引張試験から導かれるn値および一様伸びは、板鋼の成形性の尺度として見ることができる。帯鋼の成形性を改善する目的の場合、n値および一様伸びはほとんどの適切な最適化パラメーターを表す。
【0040】
穴拡大係数(HEC):工業的スタンピング操作でうまく適用されるためには、板金はそれらの剪断縁の伸張に耐えうるある能力を有していなければならない。これは国際技術規格ISO/TS16630に従い試験される。10mmの直径を有する穴が、寸法90×90mmを有する試験片の中央に設けられる。60°先端をもつ40mm直径のコーンポンチが穴へ押し込まれ、一方で該片が55mmの内径を有するダイに固定される。クラックが試験片の厚さ方向に広がったとき、穴の直径が測定される。最大HECは最高HEC%=((Dh−Do)/Do)×100で求められたが、ここでDoは原穴径であり、Dhはクラッキング後における穴の直径である。伸びフランジ性は最大HEC基準で評価され、HEC>25%の場合に十分とみなされる。
【0041】
エリクセン指数(EI):エリクセン試験は引張成形で塑性変形を受ける金属の能力に関するもので、国際標準試験ISO20482:2003に従い試験される。半球形ポンチが完全にクランプされた板へ押し込まれる。潤滑剤として、グラファイトグリースがポンチの上に用いられる。板厚方向クラックが検出されたとき、ポンチ進行が止められる。摩擦のせいで、破損はポンチの上ではなく側部に起こり、そのため等二軸歪みではなく平面歪み寄りである。ポンチ貫入の深さが測定される。エリクセンカッピング指数(IE)の値は最低3回の個別測定の平均であり、ミリメートルで表示され、本発明の場合はEI>10mmの場合に十分とみなされる。
【0042】
溶接性:抵抗点溶接は自動車産業で用いられる主要な接合技術であり、平均の車で約2000〜3000の点溶接を含む。伝統的に、点溶接はいつも非常に安くて信頼しうる接合型であったが、しかしながらAHSSの導入以来、この信頼性は損なわれてしまった。溶接性は点溶接される材料の能力により測定される。産業界の標準であるが、AHSSには必ずしも最適ではない、BS1140:1993から、溶接条件が採用された。点溶接性は生じる点溶接(プラグ)の破損モードにより測定される。材料が溶接できない場合、プラグは2接合面間の界面に沿い割れてくる。完全に溶接された材料の場合、破損は母材において、プラグ以外、好ましくは熱影響部以外で起きる。これは全プラグ破損として知られ、即ち全プラグが母材から外れる。点溶接性は全界面破損と全プラグ破損との間の尺度で表示され、前者が未溶接とみなされる。
【0043】
本発明の目的の1つは、600MPa AHSS溶融亜鉛めっき鋼帯の範囲で成形性を有するが、780MPaまたはそれ以上の強度レベルである800MPa AHSS鋼帯の強度レベルを有する、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を提供することである。これは、一様伸びおよびn値で適切な増加を実現することにより果たされる。
【0044】
本発明による高強度溶融亜鉛めっき鋼帯の開発に際して、鋼帯の幾つかのコイルが、文字A〜Sの合金で、表1で示されているように製造された。
【表1】

【0045】
表1では、本発明の方法に従い製造された鋼帯に関して化学組成または合金が示されている。表1の最終欄では、鋼帯が本発明による化学組成を有するかまたはそうでないかについて示されている。合金D、J、KおよびLは本発明の組成を有している。値が元素について示されていない場合には、値が測定できなかった。
【0046】
表2では、組成が上記表1で示されていた鋼帯の幾つかについて、各機械的性質の関連情報が示されている。
【表2】

【0047】
表2によれば、鋼帯組成または合金D、J、KおよびLに関して、慣用的な焼なましラインにおいて高強度(780MPa以上のUTS)に達するように焼なまし温度と過時効の温度および時間が選択されうる。しかも0.2%耐力がこれらの合金で450MPa以上であり(合金Dでは測定されない)、一様伸びが14%以上であり、全伸びが19%以上である。n値は少なくとも0.17である。他の合金は所要UTSに達しうるが、所要の0.2%耐力、一様伸びおよび/または全伸びを有しない。合金Rのみがこれらの基準を満たすが、表3ではこの合金が溶接不能であることを示している。
【0048】
表3は、表1および2で示されているようなコイルから幾つかのサンプルに関する、穴拡大係数試験、エリクセン試験および溶接試験の結果について示している。穴拡大係数およびエリクセン値が高いほど、鋼帯の成形性は良くなる。
【表3】

【0049】
表3によれば、鋼帯D、J、KおよびLの成形性は穴拡大係数およびエリクセン指数値からみて適度に良く、溶接性も適度に良い。
【0050】
各表は、マンガンが高い強度および成形性の望ましい組合せを達成する上で役立つことを示している。マンガン含有率が1.9%より低い場合、780MPaの望ましい引張強度は実施例A、B、C、NおよびPからみられるように達成されない。該強度が1.9%以下のマンガン含有率で達成される唯一の例は実施例Rである。低マンガンを補うためには、合金がもはや点溶接不能であるほど、合金は炭素およびリンの非常に高い添加率を有する。この合金の成形性も、穴拡大係数およびエリクセン指数からみて十分とみなせる場合よりはるかに低い。
【0051】
実施例E、F、GおよびHにおいて、マンガン含有率は高強度へ至る規格内にあるが、二次元素炭素(合金F)、クロム(合金E、F、GおよびH)およびアルミニウム(合金EおよびG)の組合せは乏しい点溶接性、(一様伸びで表示されるような)低い延性および(HECおよびEIで表示されるような)低い成形性へ各々至る。
【0052】
高クロム、低ケイ素および無アルミニウムの実施例(合金M)の実施例では、引張強度が延性(一様および全伸び)と共に優位な機械的性質になり、成形性(HEC)が本発明と比べてかなり低下することがわかる。
【0053】
最後に、0.18より高い炭素含有率を有する鋼材(合金F、N、PおよびR)の点溶接性は炭素含有率と比例してかなり低下する。実施例Fは望ましい組成よりわずかに高い炭素含有率を有し、高いクロム含有率と組み合わさると、乏しい点溶接性に至る。これは炭素含有率に関する臨界値であるらしく、0.18%よりかなり多く炭素を含有する合金が正常な状況下で点溶接しうるとは考えられない。
【0054】
合金元素の慎重な選択が本発明によれば必要であり、焼なましおよび過時効工程に際して適切な加工工程がTRIP支援二相鋼の望ましい性質を獲得するために要されることがわかる。
【0055】
本発明による高強度溶融亜鉛めっき鋼帯はビークル用のバンパービームで用いられてきた。バンパーを製造するための鋼帯はロール成形および引張曲げプロセスに際して十分な延性を有していなければならず、成形後における十分な残留延性はこのようなバンパーを用いたビークルの衝突時に破損を防ぎ、それによりビークルのフロントエンドの衝突構造の完全性を維持し続けるにちがいない。バンパービームが壊れたら、衝突構造の完全性は失われ、衝突エネルギー吸収に乏しくなる。
【0056】
合金Kの組成を有する鋼帯を、バンパーを成形するために用いた。バンパーの成形は成功し、バンパーを問題なく装甲背材に溶接させた。本発明によるTRIP支援二相鋼製のバンパーと鋼帯の装甲背材からこのように形成されたビームの仮組立品を、バンパーの中央にポールを置いて、45km/hで前面衝突をシミュレートする落重試験で試験した。バンパーの破損はみられなかった。これは本発明によるTRIP支援二相鋼の優れた延性と成形性のためであり、衝突衝撃を吸収するために十分な成形後延性でコンポーネントの引張成形を可能にしている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、以下の元素:
0.10〜0.18%のC、
1.90〜2.50%のMn、
0.30〜0.50%のSi、
0.50〜0.70%のAl、
0.10〜0.50%のCr、
0.001〜0.10%のP、
0.01〜0.05%のNb、
最大0.004%のCa、
最大0.05%のS、
最大0.007%のN、
および場合により下記元素のうち少なくとも1種:
0.005〜0.50%のTi、
0.005〜0.50%のV、
0.005〜0.50%のMo、
0.005〜0.50%のNi、
0.005〜0.50%のCu、
最大0.005%のB、
残部であるFeおよび不可避不純物
からなり、0.80%<Al+Si<1.05%およびMn+Cr>2.10%である、高強度溶融亜鉛めっき鋼帯。
【請求項2】
元素Cが0.13〜0.16%の量で存在する、請求項1に記載の鋼帯。
【請求項3】
元素Mnが1.95〜2.40%の量、好ましくは1.95〜2.30%の量、更に好ましくは2.00〜2.20%の量で存在する、請求項1または2に記載の鋼帯。
【請求項4】
元素Siが0.35〜0.45%の量で存在する、請求項1、2または3に記載の鋼帯。
【請求項5】
元素Alが0.55〜0.65%の量で存在する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項6】
元素Crが0.20〜0.50%の量、好ましくは0.30〜0.50%の量で存在する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項7】
元素Nbが0.01〜0.04%の量で存在する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項8】
溶融亜鉛めっき鋼帯が780MPaの極限引張強度を有している、請求項1〜7のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項9】
溶融亜鉛めっき鋼帯が、55〜75容量%のフェライト、20〜10容量%のベイナイト、20〜10容量%のマルテンサイトおよび10〜5容量%の準安定残留オーステナイトからなるミクロ構造を有している、請求項1〜8のいずれか一項に記載の鋼帯。
【請求項10】
鋳造鋼が望ましい厚さを有する鋼帯へ熱間圧延および冷間圧延され、その後に該鋼帯が焼なましラインで鋼種のAc1〜Ac3温度間の温度へ再加熱され、フェライトへの再変態を避けられるような冷却速度で急冷され、その後で等温過時効がベイナイトを形成するために適用され、該鋼帯が溶融亜鉛めっきされる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼帯を製造する方法。

【公表番号】特表2013−515167(P2013−515167A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545150(P2012−545150)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007819
【国際公開番号】WO2011/076383
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(500252006)タタ、スティール、アイモイデン、ベスローテン、フェンノートシャップ (16)
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL IJMUIDEN BV
【Fターム(参考)】