説明

高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板およびその製造方法

【課題】高強度(540MPa以上の引張強度TS)を有し、且つ表面外観に優れた溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる熱延鋼板を提供する。
【解決手段】C:0.04〜0.20質量%、Si:0.7〜2.3質量%、Mn:0.8〜2.8質量%、P:0.1質量%以下、S:0.01質量%以下、Al:0.1質量%以下、N:0.008質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、Si、Mn、Feの中から選ばれる1種以上の元素を含有する内部酸化物が地鉄の粒界および粒内に存在し、このうち地鉄の粒界の内部酸化物は、地鉄表面から5μm以内に存在し且つ鋼板幅方向における内部酸化物の形成深さの差が2μm以内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車部材用途に好適な表面安定性に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用の熱延鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の保護意識の高まりから、自動車のCO排出量削減に向けた燃費改善が強く求められている。これに伴い、車体材料を高強度化して薄肉化を図り、車体を軽量化しようとする動きが活発となってきている。しかしながら、鋼板を高強度化すると、延性の低下が懸念される。このため高強度高延性鋼板の開発が望まれている。
鋼板の高強度化には、Si、Mn、P、Al等の固溶強化元素の添加が行われる。なかでもSiやAlは鋼の延性を損なわずに高強度化できる利点があり、Si含有鋼板は高強度鋼板として有望である。しかし、Siを多量に含有する高強度鋼板を母材とする溶融亜鉛めっき鋼板や合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合、以下のような問題がある。
【0003】
溶融亜鉛めっき鋼板の製造工程では、非酸化性雰囲気または還元雰囲気中において600〜900℃程度の温度で加熱焼鈍を行った後に、溶融亜鉛めっき処理を行う。しかし、鋼中のSiは易酸化性元素であるため、一般的に用いられる非酸化性雰囲気や還元雰囲気中でも選択酸化されて、表面に濃化し、酸化物を形成する。この酸化物はめっき処理時の溶融亜鉛との濡れ性を低下させて不めっきを生じさせるので、鋼中Si濃度の増加とともに濡れ性が急激に低下し、不めっきが多発する。また、不めっきに至らなかった場合でも、付着量制御性が劣る或いは合金化が著しく遅延するという問題を生じる。特に、合金化の遅延は鋼板の長手方向および幅方向での合金化速度の差が出やすいため、均一な表面を得ることが困難となる。
【0004】
さらに、Si含有鋼は熱間圧延工程でデスケーリングによるスケール除去が困難であり、赤スケールと呼ばれるスケール欠陥が表面に生じる。また、赤スケールが形成しなかった場合でも、鋼板表面へ噴射される水の当たり方にムラが生じることにより、鋼板幅方向でスケールの剥離性が異なる領域が存在する。デスケーリング後に残存したスケールは熱間圧延後の酸洗で除去されるが、スケールの剥離性が異なる領域では表面性状に差があるため、その後の溶融亜鉛めっきの合金化工程においてムラが発生し、スジ状の模様が生じる欠陥となる。
【0005】
これらの問題のうちSiの表面濃化については、特許文献1において、予め酸化性雰囲気中で鋼板を加熱して表面に酸化鉄を形成した後、還元焼鈍を行うことにより、溶融亜鉛との濡れ性を改善する方法が提案されている。また、特許文献2には、還元焼鈍工程における酸素ポテンシャルを低下させることにより、Siの表面濃化を抑制する方法が提案されている。
一方、デスケーリングについては、特許文献3において、高圧水の噴射圧力を高圧化することでデスケーリングを強化する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3956550号公報
【特許文献2】特開2010−255100号公報
【特許文献3】特許第4035117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2の方法は、鋼帯長手方向および幅方向でのムラに関しては何ら考慮されていない。さらに、焼鈍前の冷延ままの段階で鋼板にムラがあった場合には対応できず、却ってムラを著しく増大させる恐れがある。また、特許文献3では、熱間圧延工程における表面ムラの対策について提案しているが、噴射水の干渉について考慮されていないため、干渉によるデスケーリングムラを解消できない。
【0008】
したがって本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、高強度(540MPa以上の引張強度TS)を有し、且つ表面外観に優れた溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる熱延鋼板を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、そのような熱延鋼板を安定して製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Siを含有する熱延鋼板であって、表面外観に優れた高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造するための熱延鋼板を得るべく鋭意検討を重ねた結果、以下のような事実を見出した。
溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板の表面に形成された欠陥や合金化のムラと焼鈍以前の段階で鋼板に形成される酸化物のムラの対応を調査したところ、熱間圧延工程で形成される酸化物のムラが大きな影響を及ぼすことが判った。すなわち、まず、熱間圧延工程で鋼板内部に形成される酸化物の形成状態にムラがあると、その後の焼鈍時に鋼板表面に形成されるSi酸化物のムラとなり、これがめっき後の付着量および合金化ムラの原因となることが判った。
【0010】
熱間圧延時に形成される内部酸化物に着目して調査した結果、地鉄粒界における内部酸化物の形成深さが5μm以下であれば、めっき後のムラの発生が抑制される傾向があることが判った。これは、地鉄粒界に内部酸化物が形成された場合に、その後の酸洗工程で粒界が優先的に腐食されるため、酸化物の形成深さによるムラがさらに大きくなるためであると考えられる。さらに、鋼板幅方向において粒界の内部酸化物の形成深さの差が2μm以下の場合には、めっき後のムラがほぼ解消されることが判った。
【0011】
熱間圧延時の内部酸化は主に巻取り後にスケールから鋼板内部に酸素が供給されることにより形成される。したがって、巻取り温度を低下させることで内部酸化の形成を抑制し、めっき後のムラを抑制することができる。
しかし、巻取り温度を低下させても鋼板の幅方向において内部酸化のムラが解消されない場合があることが判った。そこで、内部酸化物と表面状態の関係に着目して調査した結果、スケールの剥離性が異なった領域の内部酸化物の形成状態を比較すると、スケールが剥離された領域では内部酸化が抑制され、スケールの剥離性が悪かった領域では内部酸化が促進される傾向があることが判った。これは、スケールの剥離性が悪かった領域では、巻取り前にもスケールから鋼板内部へ酸素が供給されるが、スケールが剥離された領域では酸素が供給されないためであると考えられる。この結果、内部酸化物の形成深さの差が2μm超となり、めっき後のムラが発生すると推測される。したがって、内部酸化物の形成ムラを抑制するためには、デスケーリングによるスケール剥離を均一にする必要があることが判った。
【0012】
さらに、熱間圧延工程では内部酸化物をできるだけ形成させないことが望ましいが、焼鈍工程では内部酸化物の形成を促進することでめっき性の改善が見込まれる。そこで、鋼板の成分と内部酸化形成量との関係を調査した結果、鋼板に含有されるSiとMnの質量比が1未満であると同じ焼鈍条件でもSiの表面濃化は抑制され、一方、内部酸化は促進されることが判った。さらに、合金化温度も低下するため、合金化度の差が出にくいことも判った。
本発明は、以上のような知見に基づいてなされたものであり、以下を要旨とするものである。
【0013】
[1]C:0.04〜0.20質量%、Si:0.7〜2.3質量%、Mn:0.8〜2.8質量%、P:0.1質量%以下、S:0.01質量%以下、Al:0.1質量%以下、N:0.008質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、Si、Mn、Feの中から選ばれる1種以上の元素を含有する内部酸化物が地鉄の粒界および粒内に存在し、このうち地鉄の粒界の内部酸化物は、地鉄表面から5μm以内に存在し且つ鋼板幅方向における内部酸化物の形成深さの差が2μm以内であることを特徴とする、高強度溶融亜鉛めっき鋼板および高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板。
【0014】
[2]上記[1]の熱延鋼板において、成分組成のSiとMnの質量比[Si/Mn]が1未満であることを特徴とする、高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板。
[3]上記[1]または[2]の熱延鋼板において、成分組成として、さらに、Cr:0.05〜1.0質量%、V:0.005〜0.5質量%、Mo:0.005〜0.5質量%、Ni:0.05〜1.0質量%、Cu:0.05〜1.0質量%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの熱延鋼板において、成分組成として、さらに、Ti:0.01〜0.1質量%、Nb:0.01〜0.1質量%、B:0.0003〜0.0050質量%の中から選ばれる1種以上含有することを特徴とする、高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板。
【0015】
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの熱延鋼板において、成分組成として、さらに、Ca:0.001〜0.005質量%、REM:0.001〜0.005質量%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の成分組成を有する鋼スラブを、熱間圧延工程において、粗圧延後、仕上げ圧延前に衝突圧0.3MPa以上1.8MPa未満で高圧水噴射によるデスケーリングを行い、仕上げ温度850℃以上で圧延終了した後、450〜650℃で巻き取ることを特徴とする、高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板の製造方法。
なお、本発明において、「高強度溶融亜鉛めっき鋼板」および「高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板」とは、引張強度TSが540MPa以上である溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の熱延鋼板によれば、高強度(540MPa以上の引張強度TS)を有し、且つ表面外観に優れた溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造することができる。これらのめっき鋼板は、特に自動車構造部材に適用することにより車体軽量化による燃費改善を図ることができる。
また、本発明の製造方法によれば、そのような熱延鋼板を安定して製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の詳細を説明する。
まず、鋼板の成分組成について説明する。本発明の熱延鋼板は、C:0.04〜0.20質量%、Si:0.7〜2.3質量%、Mn:0.8〜2.8質量%、P:0.1質量%以下、S:0.01質量%以下、Al:0.1質量%以下、N:0.008質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する。また、以上の成分組成において、SiとMnの質量比[Si/Mn]は1未満であることが好ましい。
・C:0.04〜0.20質量%
Cはオーステナイト生成元素であり、焼鈍板組織を複合化し、強度と延性の向上に有効な元素である。C量が0.04質量%未満では、焼鈍板の強度の確保が難しい。一方、Cを0.20質量%を超えて過剰に添加すると、溶接部および熱影響部の硬化が著しく、溶接部の機械的特性が劣化するため、スポット溶接性、アーク溶接性等が低下する。このためC量は0.04〜0.20質量%とする。また、以上の観点から、より好ましいC量は0.05〜0.14質量%であり、特に好ましいC量は0.07〜0.12質量%である。
【0018】
・Si:0.7〜2.3質量%
Siはフェライト生成元素であり、焼鈍板のフェライトの固溶強化および加工硬化能の向上に有効な元素でもある。デスケーリングムラによる合金化ムラの問題はSi量が0.7質量%以上で顕在化する。一方、Si量が2.3質量%を超えると後述する製造方法においても、付着量ムラおよび合金化ムラが避けられない。このため、Si量は0.7〜2.3質量%とする。
・Mn:0.8〜2.8質量%
Mnは、オーステナイト生成元素であり、焼鈍板の強度確保に有効な元素である。Mn量が0.8質量%未満では強度の確保が難しい。一方、Mnを2.8質量%を超えて過剰に添加すると、熱間圧延段階でのフェライト変態とパーライト変態が遅延し、材質が低下する懸念がある。また近年、Mnの合金コストが高騰しているため、コストアップの要因にもなる。このため、Mn量は0.8〜2.8質量%とする。また、上記の観点からより好ましいMn量は1.2〜2.8質量%である。
【0019】
・P:0.1質量%以下
Pは、鋼の強化に有効な元素であるが、0.1質量%を超えて過剰に添加すると、粒界偏析により脆化を引き起こし、耐衝撃性を劣化させる。また、0.1質量%を超えると合金化速度を大幅に遅延させる。このため、Pは0.1質量%以下とする。また、上記の観点からより好ましいP量は0.02質量%以下である。
・S:0.01質量%以下
Sは、MnSなどの介在物となって、耐衝撃性の劣化や溶接部のメタルフローに沿った割れの原因となるので極力低い方がよいが、製造コストの面からS量は0.01質量%以下とする。また、上記の観点からより好ましいS量は0.005質量%以下である。
【0020】
・Al:0.1質量%以下
Alの過剰な添加は、酸化物系介在物の増加による表面性状や成形性の劣化を招き、コスト高にもなるため、Al量は0.1質量%以下とする。また、上記の観点からより好ましいAl量は0.05質量%以下である。
・N:0.008質量%以下
Nは、鋼の耐時効性を最も大きく劣化させる元素であり、少ないほど好ましく、0.008質量%を超えると耐時効性の劣化が顕著となる。このため、N量は0.008質量%以下とする。
・SiとMnの質量比[Si/Mn]:1未満
鋼板が含有するSiとMnの質量比[Si/Mn]が1未満であると、SiとMnの複合酸化物の形成酸素ポテンシャルが低下するため、Siが複合酸化物として鋼板内に内部酸化を形成しやすくなる。その結果、焼鈍でのSi表面濃化が抑制され、焼鈍での表面ムラが生成しにくくなる。このため、SiとMnの質量比[Si/Mn]は1未満とすることが好ましい。
【0021】
本発明の熱延鋼板は、上述した成分元素に加えて、以下の合金元素を必要に応じて添加することができる。
・Cr:0.05〜1.0質量%、V:0.005〜0.5質量%、Mo:0.005〜0.5質量%、Ni:0.05〜1.0質量%、Cu:0.05〜1.0質量%の中から選ばれる1種以上
Cr、V、Mo、Ni、Cuは鋼の強化に有効な元素であり、本発明で規定した範囲内であれば鋼の強化に使用して差し支えない。その効果は、Crは0.05質量%以上、Vは0.005質量%以上、Moは0.005質量%以上、Niは0.05%質量以上、Cuは0.05質量%以上で得られる。しかしながら、Crは1.0質量%、Vは0.5質量%、Moは0.5質量%、Niは1.0質量%、Cuは1.0質量%を超えて過剰に添加すると、マルテンサイト等の第二相の分率が過大となり、著しい強度上昇による延性の低下の懸念が生じる。また、コストアップの要因にもなる。このため、これらの元素を添加する場合には、Cr量は0.05〜1.0質量%、V量は0.005〜0.5質量%、Mo量は0.005〜0.5質量%、Ni量は0.05〜1.0質量%、Cu量は0.05〜1.0質量%とする。
【0022】
・Ti:0.01〜0.1質量%、Nb:0.01〜0.1質量%、B:0.0003〜0.0050質量%の中から選ばれる1種以上
Ti、Nbは鋼の析出強化に有効な元素である。その効果は、Tiは0.01質量%以上、Nbは0.01質量%以上で得られる。また、Bは鋼の強化に有効な元素であり、その効果は、0.0003質量%以上で得られる。しかしながら、Tiは0.1質量%、Nbは0.1質量%、Bは0.0050質量%を超えて過剰に添加すると、マルテンサイト等の第二相の分率が過大となり、著しい強度上昇による延性の低下の懸念が生じる。また、コストアップの要因にもなる。このため、これらの元素を添加する場合には、Ti量は0.01〜0.1質量%、Nb量は0.01〜0.1質量%、B量は0.0003〜0.0050質量%とする。
【0023】
・Ca:0.001〜0.005質量%、REM:0.001〜0.005質量%の中から選ばれる1種以上
CaおよびREMは、硫化物の形状を球状化し、局部延性への硫化物の悪影響を改善するために有効な元素である。この効果を得るためには、それぞれ0.001質量%以上必要である。しかしながら、過剰な添加は、介在物等の増加を引き起こし表面および内部欠陥などを引き起こす。したがって、Ca、REMを添加する場合は、その添加量はそれぞれ0.001〜0.005質量%とする。
【0024】
次に、鋼板の内部酸化物の形成条件について説明する。本発明の熱延鋼板は、Si、Mn、Feの中から選ばれる1種以上の元素を含有する内部酸化物が地鉄の粒界および粒内に存在し、このうち地鉄の粒界の酸化物は地鉄表面から5μm以内に存在し、且つ鋼板幅方向における内部酸化物形成深さの差が2μm以内であることを条件とする。
【0025】
・Si、Mn、Feの中から選ばれる1種以上の元素を含有する内部酸化物が地鉄の粒界および粒内に存在し、このうち地鉄の粒界の酸化物は地鉄表面から5μm以内に存在すること
Siを含有するスラブを熱間圧延するために加熱すると、Siまたは/およびMnを含む内部酸化が生じる。この内部酸化物は、鋼板内部で酸素ポテンシャルが比較的高い、粒界および鋼板表面付近の粒内に形成される。内部酸化物が鋼板表層から5μmを超えて形成されると、内部酸化物形成深さにムラが生じやすくなるため、焼鈍中の表面濃化ムラにつながる。内部酸化物のなかでも、特にSiを含む内部酸化物がそのような問題を生じやすい。また、粒内に酸化物が形成した場合には、その後の酸洗により内部酸化物が形成された結晶粒ごと除去されるが、粒界に形成した場合には粒界が優先的に腐食されるため、ムラの原因となる。そのため、粒界に存在する酸化物の存在範囲は地鉄表面から5μm以内とする。
【0026】
・鋼板幅方向での粒界の内部酸化物の形成深さの差が2μm以内であること
粒界の内部酸化物の形成深さが鋼板の幅方向で異なると、焼鈍工程における表面濃化の形成状態が異なり、めっき後のムラが生じる。鋼板幅方向での内部酸化層の形成深さの差が2μmを超えるとめっき後のムラが顕著になる。そのため、鋼板幅方向での内部酸化物の形成深さの差は2μm以内とする。
【0027】
内部酸化物を確認するためには、鋼板の断面埋め込み研磨サンプルを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する。内部酸化物は軽元素を含むため、SEMの反射電子像において鋼板より暗いコントラストで観察される部分として確認することができる。
本発明において、上述した粒界の内部酸化物の最大形成深さと、鋼板幅方向での粒界の内部酸化物の形成深さの差を求めるには、デスケーリングノズル間隔とは異なる間隔で鋼板幅方向の8箇所からサンプルを採取し(このような条件でサンプルを採取する理由は、鋼板幅方向で等間隔に配置されるデスケーリングノズルのノズル直下とノズル間ではデスケーリング性が異なるためである)、上述した断面観察により内部酸化物の形成深さを測定する。そして、その最大値を内部酸化物の最大形成深さとし、形成深さの最大値と最小値の差を内部酸化層の形成深さの差とする。
【0028】
次に、本発明の熱延鋼板の製造方法について説明する。
本発明の熱延鋼板の製造方法は、上述した成分組成を有する鋼スラブを、熱間圧延工程において、粗圧延後、仕上げ圧延前に衝突圧0.3MPa以上1.8MPa未満で高圧水噴射によるデスケーリングを行い、仕上げ温度850℃以上で圧延終了した後、450〜650℃で巻き取ることにより製造することができる。
溶製された鋼は分塊または連続鋳造を経てスラブとし、熱間圧延を施して熱延鋼板とする。スラブの加熱温度は特に限定しないが、1100〜1300℃程度が好ましい。熱間圧延工程では、粗圧延後、仕上げ圧延前に高圧水噴射によるデスケーリングを行い、引き続き仕上げ圧延を行ってコイルに巻き取る。
【0029】
・粗圧延後、仕上げ圧延前における衝突圧0.3MPa以上1.8MPa未満での高圧水噴射によるデスケーリング
高圧水噴射によるデスケーリングでの高圧水の衝突圧が0.3MPa未満ではスケールが多量に残存するため、スケール性欠陥の原因となる。高圧水噴射によるデスケーリングの衝突圧はスケール剥離の観点から一般には大きい方が望ましい。特にSiを含有する鋼板では、スケールの剥離性が劣化するため高圧のデスケーリングが一般的である。しかし、衝突圧はノズルからの距離および隣り合うデスケーリングノズルからの高圧水の干渉により鋼板幅方向で差が生じるためスケール剥離に差が生じる。このスケール剥離ムラが内部酸化物の形成ムラにつながる。さらに、スケールの剥離ムラが生じた領域では、付着量および合金化度がムラにならない場合でも、表面性状が異なるため合金化後にスジ状の模様となる場合がある。これらの鋼板幅方向のムラが生じる傾向は衝突圧が1.8MPa以上で顕著になる。このため、衝突圧は0.3MPa以上1.8MPa未満とする。
【0030】
・熱延仕上げ温度:850℃以上
熱延仕上げ温度(仕上げ圧延出側温度)が850℃未満の場合、デスケーリング性が劣るためスケール剥離しにくくなり、スケール性の欠陥が生じる。そのため、熱延仕上げ温度は850℃以上とする。
・熱延巻取り温度:450〜650℃
熱延巻取り温度が650℃を超えると、内部酸化物が多量に生成し、内部酸化物の存在深さが5μmを超える。一方、熱延巻取り温度が450℃未満では、内部酸化物がほとんど形成せず、一方において、マルテンサイトやベイナイトといった低温変態相が多く形成され、鋼板の幅方向で不均一な硬度分布が生じて材質が劣化しやすい。このため、熱延巻き取り温度は450〜650℃とする。
なお、本発明の製造方法における熱間圧延工程の熱処理については、熱履歴条件さえ満足すれば、どのような設備で熱処理を施しても構わない。
【0031】
以上のようにして得られた本発明の熱延鋼板は、通常、酸洗され、必要に応じて脱脂などの予備処理を施された後、必要に応じて冷間圧延を行い、焼鈍処理および溶融亜鉛めっき処理が施される。この焼鈍処理および溶融亜鉛めっき処理については、例えば、焼鈍前の前処理または焼鈍雰囲気の酸素ポテンシャルの低下などによりSiの表面濃化を抑制し、不めっきが生じない条件であれば、通常公知の工程でよい。加えて、溶融亜鉛めっき後に合金化処理を施す場合は、合金化処理後に形状矯正のために調質圧延を実施してもよい。
【実施例】
【0032】
表1に示す成分組成を有し、残部がFeおよび不可避的不純物よりなる鋼を転炉にて溶製し、連続鋳造法にてスラブとした。得られたスラブを1200℃に加熱し、粗圧延を行った後、高圧水噴射によるデスケーリングを行い、引き続き仕上げ圧延を行うことで2.3〜4.5mmの各板厚まで熱間圧延し、巻取りを行った。次いで、得られた熱延板を酸洗し、必要に応じて冷間圧延を施した後、連続溶融亜鉛めっきラインにより焼鈍および溶融亜鉛めっき処理を施し、このめっき処理後、必要に応じて合金化処理を施し、溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た。
【0033】
上記熱延板から採取したサンプルについて、粒界の内部酸化物の最大形成深さと、鋼板幅方向における粒界の内部酸化物の形成深さの差を測定した。粒界の内部酸化物の最大形成深さの測定では、さきに述べたように鋼板幅方向8箇所からサンプルを採取して、断面観察により内部酸化物の形成深さを測定し、最大値を内部酸化物の最大形成深さとした。また、鋼板幅方向での粒界の内部酸化物の形成深さの差は、同じく鋼板幅方向8箇所からサンプルを採取し、断面観察により内部酸化物の形成深さを測定し、形成深さの最大値と最小値の差を内部酸化物の形成深さの差とした。
また、さきに述べたように、内部酸化物の確認・測定は、鋼板の断面埋め込み研磨サンプルを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することで行った。この時、サンプルを適当な条件でエッチングし、エッチング前と同視野で観察することにより内部酸化物の形成領域と粒界との対応を確認することができる。
【0034】
また、溶融亜鉛めっき鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、表面のスケール性欠陥およびスジ状模様の有無、鋼板幅方向のめっき付着量差および合金化度差を測定し、表面安定性の評価を行った。
めっき付着量および合金化度は、鋼板幅方向の1/4位置、2/4位置、3/4位置および鋼板両端部から100mm位置の合計5箇所でめっき付着量および合金化度を測定し、最大値と最小値の差を求めた。
スケール性欠陥およびスジ状模様の有無は、溶融めっき後および合金化後に目視で確認した。
【0035】
そして、以上の測定結果から、表面安定性を以下のような基準で総合評価した。
◎:スケール性欠陥およびスジ状模様がなく、めっき付着量差が2.0g/m未満で且つ合金化度差が1%未満の場合
○:スケール性欠陥およびスジ状模様がなく、めっき付着量差が5.0g/m未満で且つ合金化度差が2%未満の場合(但し、上記“◎”の場合を除く)
×:スケール性欠陥若しくはスジ状模様がある場合、またはめっき付着量差が5.0g/m以上若しくは合金化度差が2%以上の場合
以上の結果を表2〜表5に示す。これによれば、本発明例の熱延鋼板は、いずれも引張強度TSが540MPa以上であり、しかも表面安定性にも優れている。一方、比較例では、めっき付着量差または合金化度差が大きく、表面安定性に劣っている。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.04〜0.20質量%、Si:0.7〜2.3質量%、Mn:0.8〜2.8質量%、P:0.1質量%以下、S:0.01質量%以下、Al:0.1質量%以下、N:0.008質量%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、Si、Mn、Feの中から選ばれる1種以上の元素を含有する内部酸化物が地鉄の粒界および粒内に存在し、このうち地鉄の粒界の内部酸化物は、地鉄表面から5μm以内に存在し且つ鋼板幅方向における内部酸化物の形成深さの差が2μm以内であることを特徴とする、高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板。
【請求項2】
成分組成のSiとMnの質量比[Si/Mn]が1未満であることを特徴とする、請求項1に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板。
【請求項3】
成分組成として、さらに、Cr:0.05〜1.0質量%、V:0.005〜0.5質量%、Mo:0.005〜0.5質量%、Ni:0.05〜1.0質量%、Cu:0.05〜1.0質量%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板。
【請求項4】
成分組成として、さらに、Ti:0.01〜0.1質量%、Nb:0.01〜0.1質量%、B:0.0003〜0.0050質量%の中から選ばれる1種以上含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板。
【請求項5】
成分組成として、さらに、Ca:0.001〜0.005質量%、REM:0.001〜0.005質量%の中から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の成分組成を有する鋼スラブを、熱間圧延工程において、粗圧延後、仕上げ圧延前に衝突圧0.3MPa以上1.8MPa未満で高圧水噴射によるデスケーリングを行い、仕上げ温度850℃以上で圧延終了した後、450〜650℃で巻き取ることを特徴とする、高強度溶融亜鉛めっき鋼板または高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板用熱延鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2013−108107(P2013−108107A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251960(P2011−251960)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】