説明

高強度溶融亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法

【課題】鋼板表面に酸化鉄を形成させる工程を経ることなく、めっき性に優れた高強度溶融亜鉛系めっき鋼板を得る。
【解決手段】C:0.01〜2.0質量%、Mn:0.2〜3.0質量%、Cr:0.10〜1.0質量%、Al:0.01〜5.0質量%、P:0.2質量%以下、S:0.02質量%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼板表面に、浴中Al濃度が0.001質量%以上である溶融亜鉛系めっき浴で溶融めっきして形成しためっき層(溶融めっき後合金化処理したものを含む。)を有する高強度溶融亜鉛系めっき鋼板であって、めっき層のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域、及び、下地鋼板のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域の一方または両方の領域においてAl、MnおよびCrの各濃度が、各々下地鋼板中のAl、MnおよびCrの各濃度の3倍以上である部分が存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Mn、Cr含有高強度鋼板を母材とする溶融亜鉛系めっき鋼板とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、家電、建材等の分野において素材鋼板に防錆性を付与した表面処理鋼板として、安価に製造できかつ防錆性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板が使用されている。
【0003】
一般的に、溶融亜鉛めっき鋼板は、スラブを熱延、冷延あるいは熱処理した薄鋼板を母材として用い、この母材鋼板表面を前処理工程にて脱脂および/または酸洗して洗浄した後、あるいは前処理工程を省略して予熱炉内で母材鋼板表面の油分を燃焼除去した後、還元性雰囲気中で700〜900℃程度の温度で加熱することで焼鈍され、また還元処理される。その後、非酸化性雰囲気中あるいは還元性雰囲気中で鋼板をめっきに適した温度まで冷却して大気に触れることなく微量Al(0.1〜0.2質量%程度)を添加した溶融亜鉛浴中に浸漬することで製造される。また合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき後の鋼板を引き続いて合金化炉内で熱処理し、めっき層をFe−Zn合金化することで製造される。
【0004】
ところで、近年、自動車、家電、建材等の分野で使用される鋼板では高性能化とともに軽量化が推進され、鋼板の高強度化が求められており、防錆性を兼ね備えた高強度溶融亜鉛めっき鋼板や高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板の使用量が増加している。鋼板の高強度化にはMn、Si、P、Al等の固溶強化元素の添加が行われている。しかしながら、Mn含有高強度鋼板を母材とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板および高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板には以下の問題がある。
【0005】
前述のように溶融亜鉛めっき鋼板は還元雰囲気中で700〜900℃程度の温度で加熱焼鈍を行った後溶融亜鉛めっき処理を行う。しかし、鋼中のMnは易酸化性元素であり、一般的に用いられる還元雰囲気中で選択表面酸化されて表面に濃化し、酸化物を形成する。Mnの酸化物はめっき処理時の溶融亜鉛との濡れ性を低下させて不めっきを生じさせるので、鋼中Mn濃度の増加とともに濡れ性が急激に低下し不めっきが多発する。また、不めっきに至らなくても、めっき密着性に劣るという問題がある。
【0006】
さらに鋼中のMnが選択表面酸化されて表面に濃化すると、溶融亜鉛めっき後の合金化処理工程において著しい合金化遅延が生じる。その結果生産性を著しく阻害する問題、また生産性を確保するために過剰に高温で合金化処理すると耐パウダリング性の劣化を招く問題があり、そのため高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、高い生産性と良好な耐パウダリング性を両立させることが困難である。
【0007】
このような問題に対して、予め酸化性雰囲気中で鋼板を加熱して表面に酸化鉄を形成した後加熱することで還元焼鈍を行うことにより溶融亜鉛との濡れ性が改善されることが知られている(特許文献1、2参照)。
【0008】
また、特許文献3には、溶融めっきに先立って硫黄または硫黄化合物をS量として0.1〜1000mg/m付着させた後、予熱工程を弱酸化性雰囲気で行い、その後水素を含む非酸化性雰囲気中で焼鈍することで、めっき密着性と耐パウダリング性を向上させる方法が開示されている。
【0009】
しかし、鋼中Mn濃度の高い鋼板の場合、特許文献1、2に記載される方法では、めっき層中にΓ相が発生し易くなり、耐パウダリング性が劣化してしまう。また、酸化量が多くなると、焼鈍炉内ロールに鋼板の酸化物が付着し、押し疵等の欠陥を発生させてしまい、ロールに付着した酸化物を除去するために生産性が低下する問題が発生する。さらに、酸化量の制御が困難であるため、酸化のムラが発生し、めっき後の概観を損ねる原因となる。
【0010】
特許文献3に記載される方法では、酸化量が多くなりすぎてしまい、酸化量の制御が困難であるため、酸化のムラが発生し、めっき後の外観を損ねてしまうことが多くなる
【特許文献1】特許第2587724号公報
【特許文献2】特開2002−220637号公報
【特許文献3】特開平11−50223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、高Mn含有鋼板を母材として用い、特許文献1〜3にあるような鋼板表面に酸化鉄を形成させる工程を経ることなく、溶融めっき後合金化処理しないめっき鋼板では、不めっきのない美麗な表面外観と優れためっき密着性を有し、溶融めっき後合金化処理しためっき鋼板では、不めっきのない美麗な表面外観と優れた耐パウダリング性を有する、めっき性に優れた高強度溶融亜鉛系めっき鋼板とその製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは以下の事項を見出した。
焼鈍加熱時に起こる鋼中のMnの選択酸化に伴う鋼板表面への拡散は、鋼中にCrを添加することにより阻害される。鋼中に適量のMnとCrを含有させた鋼板では、焼鈍時に表面濃化して形成されたMn及びCrを含む酸化物が多く形成されるようになる。Mn及びCrを含む酸化物(MnとCrの複合酸化物)はMnのみの酸化物(Mn)に比べて浴中Alで還元されやすく、その粒径も小さいため、MnおよびCrを含む酸化物は容易に還元されることで、鋼板と浴中Alとの反応性が向上する。その結果、鋼中に適量のMnとCrを含有させ鋼板は、鋼板表面と溶融亜鉛との濡れ性が改善され、良好なめっき外観が得られるようになる。また溶融亜鉛めっき後に合金化処理したときは、合金化反応の容易に進み、耐パウダリング性を改善できる。
【0013】
また、めっき層、下地鋼板表層部の酸化物存在状態について調査結果から、めっき層のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域、及び、下地鋼板のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域の一方または両方の領域において、Al、MnおよびCrの各濃度が、各々下地鋼板中のAl、MnおよびCrの各濃度の3倍以上である部分が存在すると、溶融亜鉛めっきしたときに良好なめっき外観とめっき密着性が得られ、溶融亜鉛めっき後合金化処理したときに良好なめっき外観と耐パウダリング性が得られる。
【0014】
本発明はこの知見に更に検討を加えてなされた。上記課題を解決する本発明の手段は、下記のとおりである。
【0015】
(1)C:0.01〜2.0質量%、Mn:0.2〜3.0質量%、Cr:0.10〜1.0質量%、Al:0.01〜5.0質量%、P:0.2質量%以下、S:0.02質量%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼板表面に、浴中Al濃度が0.001質量%以上である溶融亜鉛系めっき浴で溶融めっきして形成しためっき層または溶融めっき後合金化処理しためっき層を有する高強度溶融亜鉛系めっき鋼板であって、めっき層のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域、及び、下地鋼板のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域の一方または両方の領域において、Al、MnおよびCrの各濃度が、各々下地鋼板中のAl、MnおよびCrの各濃度の3倍以上である部分が存在することを特徴とする、めっき性に優れた高強度溶融亜鉛系めっき鋼板。
【0016】
(2) (1)記載の組成を有する鋼板を、焼鈍工程後、浴中Al濃度が0.001質量%以上の溶融亜鉛めっき浴で溶融めっきを施し、またはさらに合金化処理を施して溶融亜鉛系めっき鋼板を製造する際に、焼鈍工程は、炉内雰囲気の露点が−60℃以上0℃以下でかつH:1.0vol%以上含有する還元雰囲気であるH−Nガス雰囲気中で、雰囲気の鋼板に対する相対流速が300mpm以上1000mpm以下になるようにし、鋼板は、600℃以上700℃以下の温度域は加熱時間が1秒以上100秒以下となるように加熱し、700℃以上900℃以下の温度域は加熱時間が5秒以上となるようにすることを特徴とするめっき性に優れた高強度溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高Mn含有鋼板を母材として用いて、溶融めっき後合金化処理しないめっき鋼板では、不めっきのない美麗な表面外観と優れためっき密着性を有し、溶融めっき後合金化処理しためっき鋼板では、高生産性を確保しながら、不めっきのない美麗な表面外観と優れた耐パウダリング性を有し、また強度伸びバランスにも優れた高強度合金化溶融亜鉛系めっき鋼板を得ることができる。
【0018】
また、還元焼鈍の前に鋼板表面に酸化鉄を形成させるような酸化処理を必要としないため、鋼板表面に形成される酸化鉄が焼鈍炉内のロールに付着して押し疵等の欠陥を発生させる問題や生産性を低下させる問題もない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、鋼板の化学成分およびめっき層の各元素の含有量の単位はいずれも「質量%」であるが、特に断らない限り単に「%」で示す。また炉内雰囲気ガス成分の「%」は「vol%」であるが、特に断らない限り単に「%」で示す。
【0020】
先ず、鋼板の化学成分について説明する。
【0021】
C:0.01〜2.0%
Cは、鋼板の高強度化に有効な元素であり、さらに残留オーステナイトや低温変態相の生成に効果があり、TS×Elの向上を確保するために有効な元素である。しかし、C含有量が0.01%未満では所望の機械特性(TS×El)を得がたい。一方、2.0%を超えると、溶接性の劣化を招く。以上より、Cは0.01%以上2.0%以下の範囲に限定する。
【0022】
Mn:0.2〜3.0%
Mnは、固溶強化により鋼を強化するとともに、鋼の焼入性を向上し、さらに残留オーステナイトや低温変態相の生成を促進する作用を有し、良好な材質を得るための有効な元素である。このような作用は、Mn含有量が0.2%以上で認められる。一方、3.0%を超えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果が期待できなくなりコストの上昇を招く。以上より、Mnは0.2%以上3.0%以下の範囲に限定する。
【0023】
Cr:0.10〜1.0%
Crを添加しない場合、Mnの酸化物は溶融亜鉛との濡れ性が悪いため、不めっき欠陥が発生してしまう。しかしながら、Crを添加することで、焼鈍後の鋼板表面にMnとCrの両方を含む酸化物を形成させ、溶融亜鉛との濡れ性を改善させることができる。このような作用はCr含有量が0.10%以上で認められる。一方、1.0%を超えて含有した場合、Crの表面への選択酸化による濃化量が増加するため、溶融亜鉛との濡れ性を劣化させ、めっき性を阻害してしまう。以上より、Crは0.10%以上1.0%以下の範囲に限定する。Cr含有量を0.4%以上にするとMnとCrの複合酸化物をより形成しやすくできるので、めっき性を向上させ、不めっき等の欠陥の発生を防止する作用が向上する。しかし、0.7%を超えるとこの効果が飽和し、コストの上昇を招く。よって、Cr含有量は0.4%以上0.7%以下の範囲がより好ましい。
【0024】
鋼中のMnとCrは、下式(1)を満足することが好ましい。
0.5≦Mn/Cr≦0.5+1.8/Cr…(1)
但し、MnはMn含有量(%)、CrはCr含有量(%)である。
これはMnとCrの複合酸化物として、とくにスピネル型のMnCrを形成させることがより望ましいためである。これはAlもスピネル型の酸化物の形態(MnAl)をとることが可能なため、Alによる還元効果がより大きく、溶融亜鉛との濡れ性改善効果がより大きくなるためである。Mn/Crが0.5を下回る場合、スピネル形成量は少なくなり、Crが多くなる。一方、0.5+1.8/Crを超える場合、同様にスピネル形成量が少なくなり、MnOが多くなる。
【0025】
Al:0.01〜5.0%
Alは、Siと同様に炭化物の生成を抑制し、残留オーステナイト相の生成を促進する作用を有し、良好な材質を得るために有効な元素である。このような作用は、0.01%以上の含有で認められる。一方、5.0%を超える含有は、鋼中の介在物量を増加させ、延性を低下させる。以上より、Alは0.01%以上5.0%以下の範囲に限定する。
【0026】
その他の添加元素については本発明の効果を妨げるものではなく、特に限定するものではないが、必要に応じて、Si、Ti、Nb、Mo、B、N、V、Zr、Cu、Ni、W等の元素の1種または2種以上を適量加えることで、機械特性やめっき特性を向上させることができる。
【0027】
Si:0.01〜3.0%
Siは、固溶強化により鋼を強化するとともに、炭化物の生成を抑制し、オーステナイトを安定化し、残留オーステナイト相の生成を促進する作用を有し、伸びを向上させる効果を発現させるために有効な元素である。このような作用は、Si含有量が0.01%以上で認められる。一方、3.0%を超えて含有すると、めっき前焼鈍時においてSiが鋼板表面において選択酸化するため、めっき性が顕著に劣化する。以上より、Siは0.01%以上3.0%以下の範囲が好ましい。
【0028】
V:0.001〜0.1%、Nb:0.001〜0.1%、Ti:0.001〜0.1%、N:0.00001〜0.1%の1種または2種以上
炭窒化物を形成し、鋼を析出効果により高強度化する作用を有する元素であり、必要に応じて添加できる。このような作用は、V、Nb、Tiを0.001%以上、Nを0.1ppm以上含有して認められる。一方、V、Nb、Tiを0.1%超、Nを1000ppm超含有すると、過度に高強度化し、延性が劣化してしまう。以上より、含有する場合、Vは0.001%以上0.1%以下、Nbは0.001%以上0.1%以下、Tiは0.001%以上0.1%以下、Nは0.00001%以上0.1%以下以下が好ましい。
【0029】
Mo:0.01〜1.0%、B:0.001〜0.01%の1種または2種以上
鋼の焼入性を向上し、低温変態相の生成を促進する作用を有する元素である。このような作用は、Mo:0.01%以上、B:0.001%以上含有して認められる。一方、Mo:1.0%、B:0.01%を超えて含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果を期待できず、経済的に不利となる。以上より、含有する場合、Moは0.01%以上1.0%以下、Bは0.001%以上0.01%以下が好ましい。
【0030】
Cu:0.01〜2.0%、Ni:0.01〜2.0%、W:0.001〜0.1%、Zr:0.001〜0.1の1種または2種以上
Si、Mnと複合添加する事により、Γ相の生成を抑制し、めっき密着性を向上させる効果がある。このような作用はCuを0.01%以上、Niを0.01%以上、W、Zrを0.001%以上含有して認められる。一方、Cuを2.0%、Niを2.0%、W、Zrを0.1%超含有しても効果が飽和し、含有量に見合う効果を期待できず、経済的に不利となる。以上より、含有する場合、Cuは0.01%以上2.0%以下、Niは0.01%以上2.0%以下、W、Zrは0.001%以上0.1%以下が好ましい。
【0031】
なお、本発明に用いる鋼板は、上記した化学成分以外は、残部Feおよび不可避的不純物からなる。不可避的不純物としては、Pは深絞り性を劣化せずに高強度化することができる元素であるが、過剰な添加は合金化を遅延したり、二次加工脆性を劣化させたりするので、0.2%以下に制限する。Sは、MnSなどの介在物となって、耐衝撃性の劣化や溶接部のメタルフローに沿った割れの原因となるので極力低い方がよいが、製造コストの面から0.2%以下とする。
【0032】
本発明では、めっき層のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域、及び、下地鋼板のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域の一方または両方の領域において、Al、MnおよびCrの各濃度が、各々下地鋼板中のAl、MnおよびCrの各濃度の3倍以上である部分が存在することを規定する。
【0033】
焼鈍時に鋼板表面に形成されるMnおよびCrを含む酸化物は、溶融亜鉛めっき時に浴中のAlと反応するため、鋼板表面がMn単独の酸化物の場合に比べて、鋼板と溶融亜鉛の濡れ性が改善する。焼鈍時に鋼板表面に存在した酸化物は溶融亜鉛めっき浸漬時にAlと反応し、溶融状態の亜鉛めっき層内を拡散するか、局部的にZnと反応して溶融状態にある下地鋼板中を拡散する可能性があるが、その拡散距離は高々1μmである。濃化したAlについては、浴中AlがMn−Cr複合酸化物を還元した際に酸化物として存在するものが多いが、鋼中Alが濃化してMn、Crとの複合酸化物を形成することに起因するものもある。そして、溶融亜鉛めっき後または溶融亜鉛めっきし合金化処理後、めっき層のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域、及び、下地鋼板のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域の一方または両方の領域において、Al、MnおよびCrの各濃度が、各々下地鋼板中のAl、MnおよびCrの各濃度の3倍以上である部分が存在するときにめっき性が改善され、そうでないときはめっき性が改善されないことが判明した。
【0034】
めっき層のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域、及び、下地鋼板のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域の各々において、Al、MnおよびCrの濃度を、ビーム径が0.01μmの分析機器(EDX)で測定する。濃化部分の偏析等を考慮して各々20箇所またはそれ以上の箇所を測定する。ビーム径を0.01μmとしたのは、ビーム径が0.01μm超になると、周辺に存在する化合物の影響を受け分析精度が低下するためである。そして、下地鋼板中のAl、Mn、および、Crの濃度の3倍以上である箇所がいずれかの領域に1箇所以上存在したときに、下地鋼板中のAl、MnおよびCrの各濃度の3倍以上である部分が存在すると判定する。
【0035】
次に、製造方法について説明する。
【0036】
上記組成を有する鋼板は、熱間圧延後酸洗工程で脱スケール処理された熱延鋼板、冷延圧延された冷延鋼板のいずれでもよい。該鋼板の製造方法は限定されず、常法でよい。
【0037】
本発明では、脱脂、酸洗等、通常(公知)の前処理を行った後、鋼板を焼鈍する。前記の処理後鋼板表面に酸化鉄を形成させるような酸化処理を行った後焼鈍を行ってもよいが、本発明では、この酸化処理は特に必要としない。
【0038】
焼鈍炉内雰囲気の鋼板に対する相対流速:300mpm以上1000mpm以下
焼鈍炉内雰囲気の鋼板に対する相対流速を大きくすると、雰囲気ガスの鋼板表面への供給量が多くなり、鋼板−雰囲気界面での酸素ポテンシャルが比較的大きくなるため、Mnの鋼板表面への拡散が抑制され、Crの外方拡散が促進され、Crの表面での選択酸化が促進される。その結果、鋼板表面でのMn及びCrの複合酸化物が形成されやすくなる。Mn単独の酸化物(MnwOv)よりもMn及びCrの複合酸化物の方が浴中Alにより還元されやすいため、鋼板表面濃化物がMn単独の酸化物(MnwOv)の場合よりも、MnおよびCrの両方を含む酸化物の方が浴中Alとの反応性が向上する。その結果、MnおよびCrの両方を含む酸化物が形成されると、Mn単独の酸化物(MnwOv)が形成される場合よりも溶融亜鉛との濡れ性が良好となる。相対流速が1000mpmを超えるとこの効果は飽和し、経済的に不利になる。相対流速が300mpmより小さいと、鋼板表面でのMn及びCrの複合酸化物は形成されるがMnの単独酸化物も多く形成されるため、めっき性を改善できなくなる。以上から、相対流速は300mpm以上1000mpm以下に規定する。
【0039】
相対流速は、雰囲気ガスを鋼帯進行方向の逆方向に吹き付けたり、ライン速度をアップさせるなどして、容易に調整できる。ただし、相対流速の実現方法については、上記の方法に限定されない。
【0040】
炉内雰囲気:露点が−60℃以上0℃未満かつH1.0%以上含有する還元雰囲気であるH−Nガス雰囲気
露点が0℃超になると、鋼板が酸化されてしまい、還元焼鈍処理には不適である。−60℃未満では、鋼板の還元焼鈍の効果が飽和し、経済的に不利である。また雰囲気はH−Nガス系が好ましく、H濃度は1.0〜90%が好ましい。1.0%未満だと露点を下げても還元が不十分であり、90%超は経済的に不利である。
【0041】
鋼板温度が600℃以上700℃以下の温度域での加熱時間が1秒以上100秒以下
600℃〜700℃では、鋼板組織の再結晶が不十分な温度域であるが、鋼中のCrやMnの鋼板表面への拡散は起こってしまう。鋼板組織の再結晶が不十分な場合、結晶粒径が著しく小さく、拡散経路となる粒界の数が非常に多いため、CrやMnの表面濃化が多くなる。この結果、焼鈍後の鋼板表面に存在するCrまたは/およびMnを含む酸化物の粒径(長径と短径の平均)が非常に大きくなり、めっき性が劣化する。従ってこの温度域での加熱時間はなるべく短い方が良い。100秒を超えるとめっき性が劣化する。一方、1秒未満ではCrやMnの表面への濃化は少なく、この効果は飽和する。従って600℃以上700℃以下の温度域での加熱時間を1秒以上100秒以下にすることが必要である。
【0042】
鋼板温度が700℃以上900℃以下の温度域で加熱時間が5秒以上
鋼板表面の還元および鋼板組織の再結晶のための加熱温度は700℃未満だと鋼板表面の還元および鋼板組織の再結晶が不十分であり、また、900℃以上ではその効果が飽和し、経済的に不利であるため、700℃以上900℃とする。さらに、加熱時間は5秒未満だと還元が不十分であるため、5秒以上とする。
【0043】
溶融亜鉛めっき前の焼鈍後鋼板表面に存在する粒状のMnまたは/およびCrを含む酸化物のうち、その粒径が0.1μm以下である酸化物の割合(個数割合)が70%以上であることが好ましい。鋼板表面と溶融亜鉛との濡れ性を改善する効果がより優れるためである。なお、粒径は、長径と短径の平均である。
【0044】
表面酸化物をスピネル型のMnCrとすることで粒径が0.1μm以下である酸化物の割合を70%以上とすることが可能となる。スピネル型のMnCrはMnOやCrに比べ粒径が非常に小さくなる傾向がある。具体的には、鋼中Cr、Mnを、0.4≦Cr≦0.7、0.5Cr≦Mn≦0.5Cr+1.8を満足させることで可能である。Cr、Mnいずれか一方が少ない場合、または多い場合、形成される表面酸化物のスピネル型の占める割合が小さくなるため、粒径が0.1μm以下である酸化物の割合を70%以上とすることができなくなる。具体的には、Crが非常に少ないと、表面酸化物のMnOの占める割合が多くなり、Mnが非常に少ないとCrの占める割合が多くなってしまう。以上から、鋼中のCrとMnは上記を満足することが望ましい。
【0045】
この理由は明確ではないが、以下のように推察される。一般的にMnまたは/およびCrを含む酸化物の粒径が大きくなると、浴中Alが反応性の良いFe露出面と接触しにくくなり、反応性が低下し、濡れ性が劣化する。Crを適量添加することで、めっき前還元焼鈍後のMn含有鋼板表面のMnまたは/およびCrを含む酸化物の粒径が0.1μm以下であるものの割合が多くなり、またMn及びCrを含む酸化物の方がMnのみの酸化物に比べて浴中Alにより還元され易く、浴中Alとの反応性が向上する。一方、Crを添加しない場合及びCrを1.0%超添加した場合、表面の酸化物の粒径が0.1μmを超える場合があり、このとき溶融亜鉛との濡れ性は劣化する。1μmの領域内で観察される粒状のMnまたは/およびCrを含む酸化物のうち、その粒径が0.1μm以下である酸化物の割合が70%を下回った場合、めっき性が劣化する。
【0046】
粒径が0.1μm以下である酸化物の割合は、焼鈍後の鋼板表面を、電子顕微鏡観察によって1μmの領域を観察し、酸化物の組成、粒径を特定し、Mnまたは/およびCrを含む酸化物のうち、その粒径が0.1μm以下である酸化物の割合を求めることができる。なお、割合は、10箇所について観察、測定し、その平均値である。
【0047】
還元焼鈍処理後に非酸化性あるいは還元性雰囲気中でめっきに適した温度まで冷却され、めっき浴中に浸漬してめっきする。
【0048】
溶融亜鉛めっき処理は従来から行われている方法に従えばよい。例えば、めっき浴温は440〜520℃程度、鋼板のめっき浴浸漬温度はほぼめっき浴温に等しくする。
【0049】
浴中Al濃度:0.001%以上
亜鉛めっき浴中のAl濃度は0.001%以上とすることが望ましい。これは浴中Alが焼鈍時に形成されるMn及びCrの複合酸化物と反応することにより、複合酸化物と溶融亜鉛との濡れ性が改善される。Al濃度が0.001%よりも低い場合、この効果は発現されない。また、浴中Al濃度は0.1〜0.2%とするのが一般的ではあるが、上限は特に限定するものではない。あるいは、めっき鋼板の用途によってはめっき温度、めっき浴組成等の上記めっき条件を変更する場合があるが、めっき条件の違いは本発明の効果に何ら寄与するものではなく、特に限定するものではない。例えば、めっき浴中にAl以外にPb、Sb、Fe、Mg、Mn、Ni、Ca、Ti、V、Cr、Co、Sn等の元素が混入していても本発明の効果は何ら変わらない。
【0050】
めっき後のめっき厚さを調整する方法は特に限定するものではないが、一般的にガスワイピングが使用され、ガスワイピングのガス圧、ワイピングノズル/鋼板間距離等により調整される。このとき、めっき層の厚さは特に限定するものではないが、片面あたり20〜150g/mが好ましい。20g/m未満では防錆性が充分得られない。一方、150g/m超えでは防錆性が飽和し、一方で加工性、経済性を損なうので好ましくは150g/m以下とする。但し、めっき層の厚さの違いは本発明の効果を妨げるものではなく、特に限定するものではない。
【0051】
本発明では前記溶融亜鉛めっきの後に必要に応じて合金化処理を施す。前述のように本発明によれば、鋼板表面に酸化鉄を形成させるような酸化処理を必要としないため、Γ相が過剰に形成することもなく、その結果、耐パウダリング性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、生産性を阻害することなく製造することができる。合金化処理方法はガス加熱、インダクション加熱や通電加熱等の従来から行われているどのような加熱方法を用いてもよく、特に限定するものではない。
【0052】
また、合金化処理条件は特に限定するものではなく、例えば合金化処理板温は460〜600℃程度、合金化保持時間は5〜60秒程度とするのが一般的ではあるが、合金化処理条件の違いが本発明の効果を妨げるものではない。
【0053】
本発明によれば、高Mn含有鋼板を母材として用い、溶融めっき後合金化処理しないめっき鋼板は、不めっきのない美麗な表面外観と優れためっき密着性を有し、溶融めっき後合金化処理しためっき鋼板は、高生産性を確保しながら、不めっきのない美麗な表面外観と優れた耐パウダリング性を有し、強度伸びバランスに優れた高強度合金化溶融亜鉛系めっき鋼板を得ることができる。
【0054】
また、還元焼鈍の前に鋼板表面に酸化鉄を形成させるような酸化処理を必要としないため、鋼板表面に形成される酸化鉄が焼鈍炉内のロールに付着して押し疵等の欠陥を発生させる問題や生産性を低下させる問題もない。
【0055】
なお、本発明が対象とする溶融亜鉛系めっき鋼板は、めっき浴中にAlを0.1〜0.2%程度含むZn浴で溶融亜鉛めっきしたままのめっき鋼板(所謂溶融亜鉛めっき鋼板)、溶融亜鉛めっき後さらに合金化処理を施しためっき鋼板(所謂合金化溶融亜鉛めっき鋼板)が代表的であるが、このめっき鋼板だけでなく、浴中Al濃度が上記より低いZn浴または高いZn浴で溶融めっきした溶融めっき鋼板、および溶融めっき後さらに合金化処理を施した合金化溶融めっき鋼板を含む。
【実施例】
【0056】
以下、本発明を、実施例に基づいて具体的に説明する。
【0057】
(1)供試めっき鋼板の作製
表1に示した鋼組成を有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼スラブを加熱炉で1260℃、60分加熱し、引き続き2.8mmまで熱間圧延をして540℃で巻き取った。その後酸洗で黒皮スケールを除去して、1.6mmまで冷間圧延した。
【0058】
【表1】

【0059】
冷間圧延した鋼板を、プレ酸化(DFF)型焼鈍炉を備えるCGLまたはRTF型焼鈍炉を備えるCGLを用いて、焼鈍した後溶融亜鉛めっきし、またさらに合金化処理を行った。
【0060】
プレ酸化(DFF)型焼鈍炉は、直火型加熱炉(Direct Fired Furnace)とRTF型の還元焼鈍炉を備え、直火型加熱炉(Direct Fired Furnace)は、O、CO、COの炉内濃度を制御し、鋼板のFe酸化量を制御することが可能である。
【0061】
RTF型焼鈍炉は、RTF(Radiant Tube Furnace)型の加熱焼鈍炉を備え、雰囲気はN−H(H:3〜8%が一般的)であり、Feに対しては還元雰囲気である。
【0062】
プレ酸化(DFF)型焼鈍炉を備えるCGLでは、DFFは空気比:0.9で550〜650℃まで加熱し、鋼板表面を酸化し、還元焼鈍炉(RTF)で800℃で加熱することで還元焼鈍した(N−H雰囲気でH濃度が5%)後引き続き、460℃のAl含有Zn浴(Al濃度0.14%)にて溶融亜鉛めっきを施した。一部はZn浴のAl濃度を変えて溶融亜鉛めっきを施した。めっき付着量はガスワイピングにより片面当たり20〜150g/mに調節した。合金化処理温度は540℃で行い、処理時間を調整してFe濃度が10%になるようにした。
【0063】
RTF型焼鈍炉を備えるCGLでは、RTFの加熱温度を種々変えて加熱することで還元焼鈍した。還元焼鈍後は、前述のDFF型焼鈍炉を備えるCGLでの条件と同様の条件とした。RTFはN−H雰囲気とし、雰囲気のH濃度、露点、雰囲気の鋼板に対する相対流速を変更した。露点は、高湿N−H流量を増減することで調整した。相対流速は、炉内への総ガス流量を増減すること、及びライン速度を増減することで調整した。なお、相対流速はガス流速とライン速度から、相対速度を算出することで求めた。
【0064】
(2)焼鈍後、めっきポットの溶融亜鉛を空にしてめっきポットを空通し、合金化炉も空通して、溶融亜鉛めっき前の焼鈍後鋼板を採取した。この鋼板表面を電子顕微鏡観察し、1μmの領域内に観察される粒状のMnまたは/およびCrを含む酸化物のうち、その粒径(長径と短径の平均)が0.1μm以下である酸化物の割合が70%以上であるか否かを調査し、1μmの領域内に観察される粒状のMnまたは/およびCrを含む酸化物のうち、その粒径(長径と短径の平均)が0.1μm以下である酸化物の割合が70%以上である場合を○、70%未満である場合を×とした。割合は、10箇所について観察、測定し、その平均値である。
【0065】
(3)合金化処理しためっき鋼板の断面電子顕微鏡観察(ビーム径が0.01μmの測定機器(EDX))によって、めっき層のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域及び下地鋼板のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域内の面積0.01μmの領域を20箇所観察し、Al、MnおよびCrの各濃度が、各々下地鋼板中のAl、MnおよびCrの各濃度の3倍以上の濃度に濃化している領域が1箇所以上観察される場合を○、観察されない場合を×とした。下地鋼板のAl、Mn、Crの濃度は表1に記載した濃度を用いた。
【0066】
(4)めっき外観の評価
溶融亜鉛めっきままのめっき鋼板の表面外観を目視観察し、不めっき有無を評価した。不めっきが全くない場合は良好(◎)、不めっきが多少はあるが表面品質を損ねる程ではない軽微な欠陥の場合は概ね良好(○)、不めっきがあり表面品質が劣る場合は不良(×)とした。○、◎が合格である。合金化処理後のめっき鋼板の表面外観を目視観察し、合金化遅延による外観ムラの有無を評価した。ムラがないものは良好、ムラがあるものは不良とした。
さらに、両方の評価がいずれも良好なものは、○:外観良好と判定し、少なくともいずれか一方が不良のものは、×:外観不良と判定した。
【0067】
(5)溶融亜鉛めっきままのめっき鋼板のめっき密着性の評価
ボールインパクト試験を行い、テープ剥離した際のめっき剥離状態を評価した。試験条件は、直径1/2インチの半球状突起の上に載せた溶融亜鉛めっき鋼板上に、2.8kgの重りを1mの高さから落下させた後、凸側面のテープ剥離を行い、めっき剥離程度に応じて以下の通り評価した。○、◎が合格である。
◎:めっき剥離なし(良好)
○:めっき剥離僅かにあり(概ね良好)
×:めっき剥離あり(不良)
【0068】
(6)合金化処理しためっき鋼板の耐パウダリング性の評価
耐パウダリング性は、めっき鋼板に粘着テープを貼り、テープ貼り付け面を内側にして曲げ半径1.6mmで90°曲げ戻しを行った場合の単位長さ当たりの剥離量を蛍光X線によりZnカウント数を測定し、下記の基準に照らしてランク1、2、3のものを良好(◎)、4のものを概ね良好(○)、5のものを不良(×)として評価した。○、◎が合格である。
蛍光X線カウント数 :ランク
0−500未満 :1(良)
500−1000未満 :2
1000−3000未満:3
3000−5000未満:4
5000以上 :5(劣)
【0069】
(7)耐食性の評価
寸法70mm×150mmの合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、JIS Z 2371(2000年)に基づく塩水噴霧試験を3日間行い、腐食生成物をクロム酸(濃度200g/L、80℃)を用いて1分間洗浄除去し、試験前後のめっき腐食減量片面あたり(g/m・日)を重量法にて測定し、下記基準で評価した。
○(良好):20g/m・日未満
×(不良):20g/m・日以上
【0070】
(8)機械的特性の評価
機械的特性の評価は、合金化処理溶融亜鉛めっき鋼板からJIS5号引張試験片を採取し、引張試験を行って測定した引張強さTS(MPa)及び伸びEl(%)より、TS×Elの値が20000MPa・%以上である場合を良好な強度延性バランスを示すとして、機械的特性良好(○)とし、TS×Elの値が20000MPa・%以未満である場合を機械的特性不良(×)とした。TS×Elの値が20000MPa・%以上であれば、自動車用用途として十分な強度・伸びバランスを有すると考えられるためである。
【0071】
供試材の構成、製造条件及び評価結果を表2〜表7に示す。
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
【表4】

【0075】
【表5】

【0076】
【表6】

【0077】
【表7】

【0078】
表2〜表7から明らかなように、本発明法で製造された実施例のめっき鋼板は、Mnを高濃度で含有するにも係わらず、溶融亜鉛めっきまま、合金化処理後のいずれの場合もめっき外観が良好であり、まためっき密着性、耐パウダリング性が良好である。また、強度延性バランスに優れ、また生産性が低下する問題もない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の本発明の高強度溶融亜鉛系めっき鋼板は、溶融めっき後合金化処理しない場合は、不めっきのない美麗な表面外観と優れためっき密着性を有し、溶融めっき後合金化処理した場合は、高生産性を確保しながら、不めっきのない美麗な表面外観と優れた耐パウダリング性を有し、また強度伸びバランスに優れるので、鋼板の高強度化と防錆性とが求められる自動車、家電、建材等の分野で使用する鋼板として好適に利用することができる。
【0080】
本発明の高強度溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法は、前述の高強度溶融亜鉛系めっき鋼板を高生産性を確保しながら製造する方法として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.01〜2.0質量%、Mn:0.2〜3.0質量%、Cr:0.10〜1.0質量%、Al:0.01〜5.0質量%、P:0.2質量%以下、S:0.02質量%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼板表面に、浴中Al濃度が0.001質量%以上である溶融亜鉛系めっき浴で溶融めっきして形成しためっき層または溶融めっき後合金化処理しためっき層を有する高強度溶融亜鉛系めっき鋼板であって、めっき層のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域、及び、下地鋼板のめっき−下地鋼板界面から1μmまでの領域の一方または両方の領域においてAl、MnおよびCrの各濃度が、各々下地鋼板中のAl、MnおよびCrの各濃度の3倍以上である部分が存在することを特徴とする、めっき性に優れた高強度溶融亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
請求項1記載の組成を有する鋼板を、焼鈍工程後、浴中Al濃度が0.001質量%以上の溶融亜鉛めっき浴で溶融めっきを施し、またはさらに合金化処理を施して溶融亜鉛系めっき鋼板を製造する際に、焼鈍工程は、炉内雰囲気の露点が−60℃以上0℃以下でかつH2:1.0vol%以上含有する還元雰囲気であるH−Nガス雰囲気中で、雰囲気の鋼板に対する相対流速が300mpm以上1000mpm以下になるようにし、鋼板は、600℃以上700℃以下の温度域は加熱時間が1秒以上100秒以下となるように加熱し、700℃以上900℃以下の温度域は加熱時間が5秒以上となるようにすることを特徴とするめっき性に優れた高強度溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。

【公開番号】特開2010−65314(P2010−65314A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272828(P2008−272828)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】