高強度繊維複合材ケーブル
【課題】良好で安定した強度を有し、しかも曲げに対して軸力が均等で形状が安定していて、リールに型崩れせずに巻くことが可能であり、穴や筒への挿入時にも座屈しにくい高強度繊維複合材ケーブルを提供する。
【解決手段】高強度低伸度繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた繊維のプリプレグを多数数本収束しあるいは撚り合せた複合素線を複数本片撚りした片撚りケーブルをストランドとし、これの複数本を撚り角度2〜12°でストランドの撚り方向と逆方向に撚り合わせた構造とした。
【解決手段】高強度低伸度繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた繊維のプリプレグを多数数本収束しあるいは撚り合せた複合素線を複数本片撚りした片撚りケーブルをストランドとし、これの複数本を撚り角度2〜12°でストランドの撚り方向と逆方向に撚り合わせた構造とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複撚り構造の高強度織誰複合材ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
高強度繊維複合材ケーブルは、高強度、低伸度であり、しかも軽量で高耐食、高疲労性を有していることから、鉄鋼製のワイヤロープやストランドケーブル、PC緊張材などに代わるものとして適用が拡大している。
こうした高強度繊維複合材ケーブルにおいて、高張力を要する大型構造物やグラウンドアンカーなどに適用される場合には、従来、図1(a)のように、高強度繊維と樹脂を複合した素線sを複数の層に重ね撚合せた多層構造のケーブル、あるいは、図1(b)のように、高強度繊維と樹脂を複合した素線sを撚り合わせた複数のストランドkを、相互に適度な間隔を保持しながら平行に束ねて構成したケーブルが使用されている。
【0003】
しかし、このような従来の高強度織誰複合材ケーブルでは、次のような問題があった。
1.多層撚り構造ケーブル
1)素線が線接触の関係にあり、断面が円形に近く、表面積が小さいので、使用時にスリーブに樹脂あるいはセメントを注入してスリーブとケーブルを一体化させる端末定着加工において、十分な付着を得るために端末を素線ごとにばらす作業を必要とする。
2)多層撚り構造ケーブルは、素線を一括して所定方向に撚りあわせた形態であるので、素線の数が増えるに従って撚り合せる設備が大型となり、その投資費用は甚大である。
【0004】
2.複数のストランドを平行状に束ねて構成したケーブル
1)使用に際して、ケーブルに張力が導入される時、構成する各ストランドの長さが揃っていなかったりケーブルが偏向部などで曲げられて配置された揚合、各ケーブルヘ張力が均等に伝わらずケーブル本来の設計張力を達成できない可能性がある。
2)ケーブルを搬送するためにケーブルをリールヘ巻くと型崩れを起し、取り扱いが困難であり、そのうえ、ケーブルの内側と外側の径の差により曲げ応力が働き、ケーブルが損傷する可能性がある。
【0005】
3)ケーブルはストランドを平行状に引き揃えているだけであるため、捻れに弱く、特にストランドの撚り方向と逆方向に捻られた揚合、素線が開き破損してしまう。
4)軸方向への圧縮(挫屈)に弱い。
5)ケーブルの外周に筒体を取り付け、筒体内部に樹脂あるいはセメントを充填してケーブルと筒体を一体化させる場合や、グラウンドアンカーにおいて、ケーブル外周のシース管へ比重調整剤を充填する場合に、ストランド同士の隙間から充填材が流れ出すため、製造時あるいは施工時に隙間を埋める処理が必要であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記のような問題点を解消するためになされたもので、その目的とするところは、良好で安定した強度を有し、しかも曲げに対して軸力が均等で形状が安定していて、リールに型崩れせずに巻くことが可能であり、穴や筒への挿入時にも座屈しにくく、十分な端末定着力を得ることができる高強度繊維複合材ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、高強度低伸度繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた繊維のプリプレグを多数数本収束しあるいは撚り合せた複合素線を複数本片撚りした片撚りケーブルをストランドとし、前記片撚りケーブルの複数本を撚り角度2〜12°で片撚りケーブルの撚り方向と逆方向に撚り合わせてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるときには、次のようなすぐれた効果が得られる。
1)各片撚りケーブルの長さの不揃いがほとんど出ないため、各片撚りケーブルあるいは各素線への張力が均等になり、設計強度を確実に実現することができる。
2)片撚りケーブルをこれの撚り方向と逆方向に撚り合わせて太径の複撚りケーブルとするので、該ケーブルが曲げられた場合でもストランドを構成する各片撚りケーブルにかかる軸力は均等となり、また、形状が安定した構造であるため、リールへ巻く時や展開する時に型崩れが起こりにくく、重ねて巻取ることができる。
【0009】
3)筒や穴の中ヘケーブルを挿入する場合にも挫屈による損傷を受け難い。
4)ケーブル外周の表面積が大きいため,端末定着加工を行う際に、多層撚りケーブルのように端部をバラス必要なしに十分な定着力を得ることができる。
5)ケーブルの撚り方向がストランドである片撚りケーブルの撚り方向と逆方向であるため自転性が小さく、捻れにくく、型崩れしない。
6)既存の撚り線機で容易に撚り合わせが可能であり、撚り合せる片撚りケーブルの本数を増減するだけで目的の引張張力を得ることができる。
【実施例1】
【0010】
以下添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図2ないし図6は本発明による高強度繊維複合材ケーブルの実施態様を示しており、1は高強度繊維複合材ケーブルの全体を指し、2はそれぞれが高強度低伸度繊維と熱硬化性樹脂を複合した片撚りケーブルである。
高強度繊維複合材ケーブル1は、前記片撚りケーブル2をストランドの複数本(図面では7本)を長い撚りピッチ、すなわち2〜12°の撚り角度αで撚り合わせて1体の太径のケーブルとしたものである。
【0011】
この例では、7本の片撚りケーブル2を用いているため、中心に1本の片撚りケーブル2aを心ストランドとして配置し、その周りに6本の片撚りケーブル2a2bを側ストランドとして配置しており、芯ストランドの片撚りケーブル2aの周りには介在層3が設けられている。
【0012】
詳述すると、ストランドとしての片撚りケーブル2(2a、2b)は、図3のように、炭素繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維などから選択される高強度低伸度繊維にエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などから選択される熱硬化性樹脂を含浸させた多数の複合素線20からなっている。複合素線20は、高強度低伸度繊維のプリプレグ200の多数本を収束し、あるいは長い撚りピッチで撚り合わせ、外周に高強度低伸度繊維あるいはポリエステル繊維などの合成繊維糸202をラッピングの形態で被覆している。
【0013】
前記片撚りケーブル2(2a、2b)の撚り方向と高強度繊維複合材ケーブル1の撚り方向は逆方向になっている。すなわち、前記片撚りケーブル2(2a、2b)の撚り方向がたとえばS方向であれば、高強度繊維複合材ケーブル1の撚り方向はZ方向とされる。これは、自転性を小さくし、捻れにくく型崩れしにくくするためである。
【0014】
前記片撚りケーブル2(2a、2b)を高強度繊維複合材ケーブル1に撚り合わせるときの撚り角度αを限定したのは、後述するように、損傷や型崩れを起させずに目標とする引張り強度を達成させるため、また、既存の撚線機で容易に撚り合わせ工程を実施できるようにするため、さらに、後に説明するが、熱硬化性樹脂の硬化工程が最終工程に限定されない利点があるからである。より好ましい撚り角度αは、2〜8°である。
【0015】
撚り角度の下限を2°としたのは、これ未満では、引張り強度は高いものの、平行に近づくため、先に述べた従来のケーブルの欠点、すなわち、リールヘ巻くと型崩れを起し、取り扱いが困難となる点、ケーブルの内側と外側の径の差により曲げ応力が働き、ケーブルが損傷する可能性がある点や、捻れに弱く、特にケーブルの撚り方向とは逆方向に捻られた揚合、素線が開き、破損してしまう点を解消できなくなるからである。
【0016】
撚り角度の上限を12°としたのは、引張り強度が低下するからである。すなわち、高強度繊維複合材は、曲げ、せん断、ねじれに弱く、完全脆性材料であるため大きな撚り角度で撚り合わせると、引張り方向と繊維方向の角度差が大きくなり、せん断により強度低下をきたすからである。
なお、通常の場合、片撚りケーブル2(2a、2b)を得る場合の撚りピッチP1よりも、高強度繊維複合材ケーブル1に撚り合わせるときの撚りピッチPの方を大きくする。
【0017】
介在層3は無くてもよいが、あった方が好ましい。その理由は、各片撚りケーブルが接触する場合には、高強度繊維複合材ケーブルに張力がかかった場合や、曲げられた場合に互いの素線同士の擦れや側圧で素線が損傷し、十分な強度が発揮できなくなるが、介在層3が存在することにより、心ストランドと側ストランド間の接触を緩和でき、また、介在層3の存在による拡径作用で、側ストランド相互間の接触も緩和され、内部摩耗による引張り強度の低下(撚減り)を低減できるからである。
さらに、高強度繊維複合材ケーブル1を穴や筒に入れ、セメントミルクや樹脂などの充填材を注入した時に、ケーブルの内部(ストランド同士の隙間)から充填材が流出しなくなるからである。
【0018】
介在層3は、図6(a)のように合成樹脂製の線状体30などをストランド2aの各外周谷間に配してもよい。この方式は、片撚りケーブル2(2a、2b)を高強度繊維複合材ケーブルに撚り合わせるときに実施できる利点がある。これに代え、図6(b)のように、溶融樹脂を押し出すなどして、あらかじめ片撚りケーブル2aの外周に樹脂被覆31を施してもよい。線状体30、被覆樹脂31は、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂が好ましい。
【0019】
本発明は、図示する例に限定されるものではない。
1)片撚りケーブル2を構成する複合素線20の数は、3本以上であればよく、第2図のように7本である場合に限定されない。図4(b)、(c)のように19本などであってもよい。
2)高強度繊維複合材ケーブル1は、必ずしも片撚りケーブル2aからなる心ストランドを有している場合に限定されない。図4(a)、(b)のように3本の片撚りケーブル2を用いた構造であってもよい。この例では、3×7構造、3×19構造を採用している。このような芯ストランドがない場合、介在層3は図4(a)で代表的に示すように、片撚りケーブル2,2間に介在される。この介在層3は樹脂などで断面が多角形ないしこれに類する形状に成形した条体を使用できる。
3)片撚りケーブルからなる心ストランド2aを有している場合、図4(c)で例示するように、7×19構造も採用できる。なお、この図では介在層3を省略している。
【0020】
次に本発明による高強度繊維複合材ケーブルの製作工程を説明すると、図7と図8は製作工程の2つの例を示している。
第1の方式は、レヤー工程―ラッピング工程―1次クロージング工程で樹脂が未硬化状態の片撚りケーブルを製作し、その未硬化の片撚りケーブルの複数本を2次クロージング工程で高強度繊維複合材ケーブル1に撚り合わせ、最後にキュア工程によって全体を硬化させる。
第2の方式は、レヤー工程―ラッピング工程―1次クロージング工程―キュア工程によって樹脂が硬化した片撚りケーブルを製作し、得られた片撚りケーブルの複数本を、2次クロージング工程で高強度繊維複合材ケーブル1に撚り合わせる。
【0021】
なお、片撚りケーブルの心ストランドがある場合に適用される第3の方式がある。これは、レヤー工程―ラッピング工程―1次クロージング工程―キュア工程によって樹脂が硬化した片撚りケーブルを1本製作し、それとは別にレヤー工程―ラッピング工程―1次クロージング工程で樹脂が未硬化状態の片撚りケーブルを製作し、樹脂硬化した片撚りケーブルを心ストランドとして、その周りに樹脂が未硬化状態の片撚りケーブルを側ストランドとして配し、2次クロージング工程で高強度繊維複合材ケーブル1に撚り合わせ、最後にキュア工程によって樹脂が未硬化状態の片撚りケーブルからなる側ストランドを硬化させる。
【0022】
レヤー工程は、図8(a)のように、熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグ200を多数本たとえば10〜20本、それぞれボビンから撚り機5に送って所定のピッチで撚り合わせ、素線20’を得る。
ラッピング工程は、図8(b)のように、素線20´を複数本たとえば7本送り出しつつ、ラッピング機6から合成繊維糸202を繰り出して素線20’の外周にスパイラル状に巻きつける。
1次クロージング工程は、図8(c)のように、ラッピング済素線20をたとえば7本それぞれボビンから繰り出し、クロージング機7で所定のピッチたとえば100〜200mmで撚り合わせる。これで、樹脂が未硬化の片撚りケーブル2´が得られる。
【0023】
第1の方式では、ラッピング済素線20をクロージング機7で所定のピッチたとえば100〜200mmで撚り合わせて、樹脂が未硬化の片撚りケーブル2´を得たならば、そのまま、図8(d)のようにクロージング機9で撚り角度を2〜12°の範囲とし、撚り方向を片撚りケーブル撚り工程での撚り方向と逆にして撚り合わせて、樹脂未硬化状態の素高強度繊維複合材ケーブル1´を得、それをトンネル状の熱処理炉8を通過させて120〜135℃で加熱し、樹脂を硬化させて本発明高強度繊維複合材ケーブル1を得る。
【0024】
第2方式では、樹脂が未硬化の片撚りケーブル2´を、図8(e)のように、トンネル状の熱処理炉8を通過させて120〜135℃で加熱し、樹脂を硬化させた片撚りケーブル2を得る。そして、それら樹脂硬化片撚りケーブル2をクロージング機9で撚り合わせ、本発明高強度繊維複合材ケーブル1を得る。このときに、撚り角度を2〜12°の範囲とし、撚り方向を片撚りケーブル撚り工程での撚り方向と逆にする。第1と第2の方式では、キュア工程は1度で足りるので、工程が簡易である。
【0025】
なお、介在層3を設ける場合、心ストランドがないケーブル構造では、介在層となるべき条体や線条体を中央に配してその周りにストランドを配して2次クロージング工程を行なえばよい。
また、心ストランドがある高強度繊維複合材ケーブル構造の場合には、一本の片撚りケーブルからなるストランドの外周に介在層を施し、それを中心にして他の片撚りケーブルからなるストランド2bを配して2次クロージング工程を行なえばよい。片撚りケーブルは硬化されていても、未硬化であってもよい。
なお、第3の方式は、未硬化の片撚りケーブルからなる側ストランド2bを撚り合せる際に、中心に樹脂を硬化させた剛性のある片撚りケーブルからなるストランド2aが存するので、撚り工程が楽であるという利点がある。
【0026】
具体例を示すと、製作法として、第2の方式を用い、本発明高強度繊維複合材ケーブルを製作した。
炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させた径が7ミクロンの繊維を12000本束ねたプリプレグを15本、撚り方向Z、ピッチ90mmで撚り合わせ、次いでラッピングを施して外径4.2mmの素線を得た。
この素線を7本撚り方向S,ピッチ160mmで撚り合わせて1×7構造の片撚りケーブルを得た。該片撚りケーブルを熱処理炉で130度×90分加熱して樹脂を硬化させた。
【0027】
この片撚りケーブルの7本のうち、1本の外周にポリエチレンの被覆を施して心ストランドとし、被覆を施さないもの6本を側ストランドとして、撚り方向Z,撚り角度αを2〜18°の範囲にとって撚り合わせ、7×7構造の本発明複撚りケーブルを得た。ちなみに、撚り角度α:2°の撚りピッチは2200mm、撚り角度α:4.1°の撚りピッチは1100mm、撚り角度α:5°の撚りピッチは900mmである。
【0028】
得られた複撚りケーブルについて、9水準の引張試験を行った結果を図9に示す。この結果から、撚り角度を2〜12°の範囲、特に2〜8°にすると、破断荷重の低下はほとんど見られないことがわかる。
【0029】
比較のため、撚り角度α=4°とし、片撚りケーブルからなる心ストランドに被覆を施さずにα=4°で前記7×7構造の複撚りケーブルを製作し、引張り試験を行った。その結果、破断荷重は1100kNであり、撚り角度α=4°とし、心ストランドに被覆を施した複撚りケーブルは1250kNであった。
また、前記ストランドを7本、平行状に束ねた従来ケーブル(従来例2という)について破断荷重の比較も行った。この結果、該従来例2は、1070kNで、本発明よりも劣っていた。
【0030】
前記高強度繊維複合材ケーブルについて、リールの胴径と撚り長さの関係を巻取り実験により調査した。その結果、撚り角度αが2〜18°の範囲内にある場合、撚り長さP/リール胴径Dが0.73以下であれば、図10(a)のように正常に巻取り可能であることが確認された。撚り角度αが1.6°すなわち撚りピッチ2800mmでは、P/Dが0.93では巻取り中にケーブルに損傷や型崩れが発生した。比較のため、前記従来例2についても巻取り試験を行ったが、その結果は、図10(b)のように型崩れが発生し、重ね巻きができなかった。
【0031】
片撚りケーブルからなる心ストランドにポリエチレン被覆を施したタイプで、撚り角度α:4°の本発明ケーブル(7×7構造)について、図11(a)のように、曲げ径200mmとして曲げ角度2θが0°〜8°となる範囲で曲げ引張試験を行った。
比較のため、断面積が同一となる1×37構造(従来例1)と、7本のストランドを束ねたケーブル(従来例2)についても同様の曲げ引張試験を行った。その結果を図11(b)に示す。この図からわかるように、本発明ケーブルは良好な曲げ性能を呈し、これに対して、従来例2は、曲げによる破断荷重の低下が最も大きかった。
【0032】
図12のように、片撚りケーブルからなる心ストランドにポリエチレン披覆を施した7×7構造のケーブル外周へ筒体を被せ、筒体の両端開口にエポキシ粘土を詰め込んでシールした状態で、筒体下部に設けた注入孔からセメントミルクを注入したところ、ケーブル内部からセメントが流れ出ることなく充填が成功した。この結果から、介在層が効果的であることがわかる。
また、定着性を検討するため、図13のように鋼管製のスリーブ15に本発明高強度繊維複合材ケーブル1を挿入し、セメントミルク16を注入した。比較のため図14のように、従来例1について素線をばらしてスリーブに挿入しセメントミルクを注入した。この結果、本発明高強度繊維複合材ケーブル1は片撚りケーブルからなる各ストランドをばらさないにもかかわらず、高い定着強度が得られた。これは、本発明の高強度繊維複合材ケーブルではストランドである片撚りケーブル同士が点接触であるためケーブル外周の凹凸が大きく、付着表面積が大きいこと、しかも片撚りケーブルのらせんが引き抜き抵抗となったことによるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)と(b)はそれぞれ従来の高強度繊維複合材ケーブルの部分的斜視図である。
【図2】本発明による高強度繊維複合材ケーブルの一例を示す部分的斜視図である。
【図3】本発明における複合素線を示す部分的斜視図である。
【図4】(a)(b)(c)は本発明ケーブルの他の例を示す断面図である。
【図5】(a)は本発明ケーブルの撚り角度を示す説明図、(b)は撚り長さを示す説明図である。
【図6】(a)(b)は本発明ケーブルの介在層を例示した側面図である。
【図7】(a)(b)は本発明ケーブルの製造工程例を示す説明図である。
【図8】(a)はレヤー工程の説明図、(b)はラッピング工程の説明図、(c)は1次クロージング工程の説明図、(d)は2次クロージング工程の説明図、(e)はキュア工程の説明図である。
【図9】撚り角度と破断荷重の関係を示す線図である。
【図10】(a)は本発明ケーブルの巻取り試験状態を示す平面図、(b)は従来ケーブルの巻取り試験状態を示す平面図である。
【図11】(a)は曲げ引張り試験の概要を示す説明図、(b)は本発明ケーブルと従来ケーブルの曲げ角度と破断荷重を示す線図である。
【図12】充填試験状態を示す斜視図である。
【図13】(a)は本発明ケーブルの端末定着加工の状態を示す縦断側面図、(b)は横断面図である。
【図14】(a)は従来の多層撚りケーブルの端末定着加工状態を示す縦断側面図、(b)は横断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 本発明の高強度繊維複合材ケーブル
2 片撚りケーブル
2a 心ストランド
2b 側ストランド
20 複合素線
【技術分野】
【0001】
本発明は複撚り構造の高強度織誰複合材ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
高強度繊維複合材ケーブルは、高強度、低伸度であり、しかも軽量で高耐食、高疲労性を有していることから、鉄鋼製のワイヤロープやストランドケーブル、PC緊張材などに代わるものとして適用が拡大している。
こうした高強度繊維複合材ケーブルにおいて、高張力を要する大型構造物やグラウンドアンカーなどに適用される場合には、従来、図1(a)のように、高強度繊維と樹脂を複合した素線sを複数の層に重ね撚合せた多層構造のケーブル、あるいは、図1(b)のように、高強度繊維と樹脂を複合した素線sを撚り合わせた複数のストランドkを、相互に適度な間隔を保持しながら平行に束ねて構成したケーブルが使用されている。
【0003】
しかし、このような従来の高強度織誰複合材ケーブルでは、次のような問題があった。
1.多層撚り構造ケーブル
1)素線が線接触の関係にあり、断面が円形に近く、表面積が小さいので、使用時にスリーブに樹脂あるいはセメントを注入してスリーブとケーブルを一体化させる端末定着加工において、十分な付着を得るために端末を素線ごとにばらす作業を必要とする。
2)多層撚り構造ケーブルは、素線を一括して所定方向に撚りあわせた形態であるので、素線の数が増えるに従って撚り合せる設備が大型となり、その投資費用は甚大である。
【0004】
2.複数のストランドを平行状に束ねて構成したケーブル
1)使用に際して、ケーブルに張力が導入される時、構成する各ストランドの長さが揃っていなかったりケーブルが偏向部などで曲げられて配置された揚合、各ケーブルヘ張力が均等に伝わらずケーブル本来の設計張力を達成できない可能性がある。
2)ケーブルを搬送するためにケーブルをリールヘ巻くと型崩れを起し、取り扱いが困難であり、そのうえ、ケーブルの内側と外側の径の差により曲げ応力が働き、ケーブルが損傷する可能性がある。
【0005】
3)ケーブルはストランドを平行状に引き揃えているだけであるため、捻れに弱く、特にストランドの撚り方向と逆方向に捻られた揚合、素線が開き破損してしまう。
4)軸方向への圧縮(挫屈)に弱い。
5)ケーブルの外周に筒体を取り付け、筒体内部に樹脂あるいはセメントを充填してケーブルと筒体を一体化させる場合や、グラウンドアンカーにおいて、ケーブル外周のシース管へ比重調整剤を充填する場合に、ストランド同士の隙間から充填材が流れ出すため、製造時あるいは施工時に隙間を埋める処理が必要であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記のような問題点を解消するためになされたもので、その目的とするところは、良好で安定した強度を有し、しかも曲げに対して軸力が均等で形状が安定していて、リールに型崩れせずに巻くことが可能であり、穴や筒への挿入時にも座屈しにくく、十分な端末定着力を得ることができる高強度繊維複合材ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明は、高強度低伸度繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた繊維のプリプレグを多数数本収束しあるいは撚り合せた複合素線を複数本片撚りした片撚りケーブルをストランドとし、前記片撚りケーブルの複数本を撚り角度2〜12°で片撚りケーブルの撚り方向と逆方向に撚り合わせてなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によるときには、次のようなすぐれた効果が得られる。
1)各片撚りケーブルの長さの不揃いがほとんど出ないため、各片撚りケーブルあるいは各素線への張力が均等になり、設計強度を確実に実現することができる。
2)片撚りケーブルをこれの撚り方向と逆方向に撚り合わせて太径の複撚りケーブルとするので、該ケーブルが曲げられた場合でもストランドを構成する各片撚りケーブルにかかる軸力は均等となり、また、形状が安定した構造であるため、リールへ巻く時や展開する時に型崩れが起こりにくく、重ねて巻取ることができる。
【0009】
3)筒や穴の中ヘケーブルを挿入する場合にも挫屈による損傷を受け難い。
4)ケーブル外周の表面積が大きいため,端末定着加工を行う際に、多層撚りケーブルのように端部をバラス必要なしに十分な定着力を得ることができる。
5)ケーブルの撚り方向がストランドである片撚りケーブルの撚り方向と逆方向であるため自転性が小さく、捻れにくく、型崩れしない。
6)既存の撚り線機で容易に撚り合わせが可能であり、撚り合せる片撚りケーブルの本数を増減するだけで目的の引張張力を得ることができる。
【実施例1】
【0010】
以下添付図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図2ないし図6は本発明による高強度繊維複合材ケーブルの実施態様を示しており、1は高強度繊維複合材ケーブルの全体を指し、2はそれぞれが高強度低伸度繊維と熱硬化性樹脂を複合した片撚りケーブルである。
高強度繊維複合材ケーブル1は、前記片撚りケーブル2をストランドの複数本(図面では7本)を長い撚りピッチ、すなわち2〜12°の撚り角度αで撚り合わせて1体の太径のケーブルとしたものである。
【0011】
この例では、7本の片撚りケーブル2を用いているため、中心に1本の片撚りケーブル2aを心ストランドとして配置し、その周りに6本の片撚りケーブル2a2bを側ストランドとして配置しており、芯ストランドの片撚りケーブル2aの周りには介在層3が設けられている。
【0012】
詳述すると、ストランドとしての片撚りケーブル2(2a、2b)は、図3のように、炭素繊維、アラミド繊維、炭化珪素繊維などから選択される高強度低伸度繊維にエポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂などから選択される熱硬化性樹脂を含浸させた多数の複合素線20からなっている。複合素線20は、高強度低伸度繊維のプリプレグ200の多数本を収束し、あるいは長い撚りピッチで撚り合わせ、外周に高強度低伸度繊維あるいはポリエステル繊維などの合成繊維糸202をラッピングの形態で被覆している。
【0013】
前記片撚りケーブル2(2a、2b)の撚り方向と高強度繊維複合材ケーブル1の撚り方向は逆方向になっている。すなわち、前記片撚りケーブル2(2a、2b)の撚り方向がたとえばS方向であれば、高強度繊維複合材ケーブル1の撚り方向はZ方向とされる。これは、自転性を小さくし、捻れにくく型崩れしにくくするためである。
【0014】
前記片撚りケーブル2(2a、2b)を高強度繊維複合材ケーブル1に撚り合わせるときの撚り角度αを限定したのは、後述するように、損傷や型崩れを起させずに目標とする引張り強度を達成させるため、また、既存の撚線機で容易に撚り合わせ工程を実施できるようにするため、さらに、後に説明するが、熱硬化性樹脂の硬化工程が最終工程に限定されない利点があるからである。より好ましい撚り角度αは、2〜8°である。
【0015】
撚り角度の下限を2°としたのは、これ未満では、引張り強度は高いものの、平行に近づくため、先に述べた従来のケーブルの欠点、すなわち、リールヘ巻くと型崩れを起し、取り扱いが困難となる点、ケーブルの内側と外側の径の差により曲げ応力が働き、ケーブルが損傷する可能性がある点や、捻れに弱く、特にケーブルの撚り方向とは逆方向に捻られた揚合、素線が開き、破損してしまう点を解消できなくなるからである。
【0016】
撚り角度の上限を12°としたのは、引張り強度が低下するからである。すなわち、高強度繊維複合材は、曲げ、せん断、ねじれに弱く、完全脆性材料であるため大きな撚り角度で撚り合わせると、引張り方向と繊維方向の角度差が大きくなり、せん断により強度低下をきたすからである。
なお、通常の場合、片撚りケーブル2(2a、2b)を得る場合の撚りピッチP1よりも、高強度繊維複合材ケーブル1に撚り合わせるときの撚りピッチPの方を大きくする。
【0017】
介在層3は無くてもよいが、あった方が好ましい。その理由は、各片撚りケーブルが接触する場合には、高強度繊維複合材ケーブルに張力がかかった場合や、曲げられた場合に互いの素線同士の擦れや側圧で素線が損傷し、十分な強度が発揮できなくなるが、介在層3が存在することにより、心ストランドと側ストランド間の接触を緩和でき、また、介在層3の存在による拡径作用で、側ストランド相互間の接触も緩和され、内部摩耗による引張り強度の低下(撚減り)を低減できるからである。
さらに、高強度繊維複合材ケーブル1を穴や筒に入れ、セメントミルクや樹脂などの充填材を注入した時に、ケーブルの内部(ストランド同士の隙間)から充填材が流出しなくなるからである。
【0018】
介在層3は、図6(a)のように合成樹脂製の線状体30などをストランド2aの各外周谷間に配してもよい。この方式は、片撚りケーブル2(2a、2b)を高強度繊維複合材ケーブルに撚り合わせるときに実施できる利点がある。これに代え、図6(b)のように、溶融樹脂を押し出すなどして、あらかじめ片撚りケーブル2aの外周に樹脂被覆31を施してもよい。線状体30、被覆樹脂31は、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂が好ましい。
【0019】
本発明は、図示する例に限定されるものではない。
1)片撚りケーブル2を構成する複合素線20の数は、3本以上であればよく、第2図のように7本である場合に限定されない。図4(b)、(c)のように19本などであってもよい。
2)高強度繊維複合材ケーブル1は、必ずしも片撚りケーブル2aからなる心ストランドを有している場合に限定されない。図4(a)、(b)のように3本の片撚りケーブル2を用いた構造であってもよい。この例では、3×7構造、3×19構造を採用している。このような芯ストランドがない場合、介在層3は図4(a)で代表的に示すように、片撚りケーブル2,2間に介在される。この介在層3は樹脂などで断面が多角形ないしこれに類する形状に成形した条体を使用できる。
3)片撚りケーブルからなる心ストランド2aを有している場合、図4(c)で例示するように、7×19構造も採用できる。なお、この図では介在層3を省略している。
【0020】
次に本発明による高強度繊維複合材ケーブルの製作工程を説明すると、図7と図8は製作工程の2つの例を示している。
第1の方式は、レヤー工程―ラッピング工程―1次クロージング工程で樹脂が未硬化状態の片撚りケーブルを製作し、その未硬化の片撚りケーブルの複数本を2次クロージング工程で高強度繊維複合材ケーブル1に撚り合わせ、最後にキュア工程によって全体を硬化させる。
第2の方式は、レヤー工程―ラッピング工程―1次クロージング工程―キュア工程によって樹脂が硬化した片撚りケーブルを製作し、得られた片撚りケーブルの複数本を、2次クロージング工程で高強度繊維複合材ケーブル1に撚り合わせる。
【0021】
なお、片撚りケーブルの心ストランドがある場合に適用される第3の方式がある。これは、レヤー工程―ラッピング工程―1次クロージング工程―キュア工程によって樹脂が硬化した片撚りケーブルを1本製作し、それとは別にレヤー工程―ラッピング工程―1次クロージング工程で樹脂が未硬化状態の片撚りケーブルを製作し、樹脂硬化した片撚りケーブルを心ストランドとして、その周りに樹脂が未硬化状態の片撚りケーブルを側ストランドとして配し、2次クロージング工程で高強度繊維複合材ケーブル1に撚り合わせ、最後にキュア工程によって樹脂が未硬化状態の片撚りケーブルからなる側ストランドを硬化させる。
【0022】
レヤー工程は、図8(a)のように、熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグ200を多数本たとえば10〜20本、それぞれボビンから撚り機5に送って所定のピッチで撚り合わせ、素線20’を得る。
ラッピング工程は、図8(b)のように、素線20´を複数本たとえば7本送り出しつつ、ラッピング機6から合成繊維糸202を繰り出して素線20’の外周にスパイラル状に巻きつける。
1次クロージング工程は、図8(c)のように、ラッピング済素線20をたとえば7本それぞれボビンから繰り出し、クロージング機7で所定のピッチたとえば100〜200mmで撚り合わせる。これで、樹脂が未硬化の片撚りケーブル2´が得られる。
【0023】
第1の方式では、ラッピング済素線20をクロージング機7で所定のピッチたとえば100〜200mmで撚り合わせて、樹脂が未硬化の片撚りケーブル2´を得たならば、そのまま、図8(d)のようにクロージング機9で撚り角度を2〜12°の範囲とし、撚り方向を片撚りケーブル撚り工程での撚り方向と逆にして撚り合わせて、樹脂未硬化状態の素高強度繊維複合材ケーブル1´を得、それをトンネル状の熱処理炉8を通過させて120〜135℃で加熱し、樹脂を硬化させて本発明高強度繊維複合材ケーブル1を得る。
【0024】
第2方式では、樹脂が未硬化の片撚りケーブル2´を、図8(e)のように、トンネル状の熱処理炉8を通過させて120〜135℃で加熱し、樹脂を硬化させた片撚りケーブル2を得る。そして、それら樹脂硬化片撚りケーブル2をクロージング機9で撚り合わせ、本発明高強度繊維複合材ケーブル1を得る。このときに、撚り角度を2〜12°の範囲とし、撚り方向を片撚りケーブル撚り工程での撚り方向と逆にする。第1と第2の方式では、キュア工程は1度で足りるので、工程が簡易である。
【0025】
なお、介在層3を設ける場合、心ストランドがないケーブル構造では、介在層となるべき条体や線条体を中央に配してその周りにストランドを配して2次クロージング工程を行なえばよい。
また、心ストランドがある高強度繊維複合材ケーブル構造の場合には、一本の片撚りケーブルからなるストランドの外周に介在層を施し、それを中心にして他の片撚りケーブルからなるストランド2bを配して2次クロージング工程を行なえばよい。片撚りケーブルは硬化されていても、未硬化であってもよい。
なお、第3の方式は、未硬化の片撚りケーブルからなる側ストランド2bを撚り合せる際に、中心に樹脂を硬化させた剛性のある片撚りケーブルからなるストランド2aが存するので、撚り工程が楽であるという利点がある。
【0026】
具体例を示すと、製作法として、第2の方式を用い、本発明高強度繊維複合材ケーブルを製作した。
炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させた径が7ミクロンの繊維を12000本束ねたプリプレグを15本、撚り方向Z、ピッチ90mmで撚り合わせ、次いでラッピングを施して外径4.2mmの素線を得た。
この素線を7本撚り方向S,ピッチ160mmで撚り合わせて1×7構造の片撚りケーブルを得た。該片撚りケーブルを熱処理炉で130度×90分加熱して樹脂を硬化させた。
【0027】
この片撚りケーブルの7本のうち、1本の外周にポリエチレンの被覆を施して心ストランドとし、被覆を施さないもの6本を側ストランドとして、撚り方向Z,撚り角度αを2〜18°の範囲にとって撚り合わせ、7×7構造の本発明複撚りケーブルを得た。ちなみに、撚り角度α:2°の撚りピッチは2200mm、撚り角度α:4.1°の撚りピッチは1100mm、撚り角度α:5°の撚りピッチは900mmである。
【0028】
得られた複撚りケーブルについて、9水準の引張試験を行った結果を図9に示す。この結果から、撚り角度を2〜12°の範囲、特に2〜8°にすると、破断荷重の低下はほとんど見られないことがわかる。
【0029】
比較のため、撚り角度α=4°とし、片撚りケーブルからなる心ストランドに被覆を施さずにα=4°で前記7×7構造の複撚りケーブルを製作し、引張り試験を行った。その結果、破断荷重は1100kNであり、撚り角度α=4°とし、心ストランドに被覆を施した複撚りケーブルは1250kNであった。
また、前記ストランドを7本、平行状に束ねた従来ケーブル(従来例2という)について破断荷重の比較も行った。この結果、該従来例2は、1070kNで、本発明よりも劣っていた。
【0030】
前記高強度繊維複合材ケーブルについて、リールの胴径と撚り長さの関係を巻取り実験により調査した。その結果、撚り角度αが2〜18°の範囲内にある場合、撚り長さP/リール胴径Dが0.73以下であれば、図10(a)のように正常に巻取り可能であることが確認された。撚り角度αが1.6°すなわち撚りピッチ2800mmでは、P/Dが0.93では巻取り中にケーブルに損傷や型崩れが発生した。比較のため、前記従来例2についても巻取り試験を行ったが、その結果は、図10(b)のように型崩れが発生し、重ね巻きができなかった。
【0031】
片撚りケーブルからなる心ストランドにポリエチレン被覆を施したタイプで、撚り角度α:4°の本発明ケーブル(7×7構造)について、図11(a)のように、曲げ径200mmとして曲げ角度2θが0°〜8°となる範囲で曲げ引張試験を行った。
比較のため、断面積が同一となる1×37構造(従来例1)と、7本のストランドを束ねたケーブル(従来例2)についても同様の曲げ引張試験を行った。その結果を図11(b)に示す。この図からわかるように、本発明ケーブルは良好な曲げ性能を呈し、これに対して、従来例2は、曲げによる破断荷重の低下が最も大きかった。
【0032】
図12のように、片撚りケーブルからなる心ストランドにポリエチレン披覆を施した7×7構造のケーブル外周へ筒体を被せ、筒体の両端開口にエポキシ粘土を詰め込んでシールした状態で、筒体下部に設けた注入孔からセメントミルクを注入したところ、ケーブル内部からセメントが流れ出ることなく充填が成功した。この結果から、介在層が効果的であることがわかる。
また、定着性を検討するため、図13のように鋼管製のスリーブ15に本発明高強度繊維複合材ケーブル1を挿入し、セメントミルク16を注入した。比較のため図14のように、従来例1について素線をばらしてスリーブに挿入しセメントミルクを注入した。この結果、本発明高強度繊維複合材ケーブル1は片撚りケーブルからなる各ストランドをばらさないにもかかわらず、高い定着強度が得られた。これは、本発明の高強度繊維複合材ケーブルではストランドである片撚りケーブル同士が点接触であるためケーブル外周の凹凸が大きく、付着表面積が大きいこと、しかも片撚りケーブルのらせんが引き抜き抵抗となったことによるものである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】(a)と(b)はそれぞれ従来の高強度繊維複合材ケーブルの部分的斜視図である。
【図2】本発明による高強度繊維複合材ケーブルの一例を示す部分的斜視図である。
【図3】本発明における複合素線を示す部分的斜視図である。
【図4】(a)(b)(c)は本発明ケーブルの他の例を示す断面図である。
【図5】(a)は本発明ケーブルの撚り角度を示す説明図、(b)は撚り長さを示す説明図である。
【図6】(a)(b)は本発明ケーブルの介在層を例示した側面図である。
【図7】(a)(b)は本発明ケーブルの製造工程例を示す説明図である。
【図8】(a)はレヤー工程の説明図、(b)はラッピング工程の説明図、(c)は1次クロージング工程の説明図、(d)は2次クロージング工程の説明図、(e)はキュア工程の説明図である。
【図9】撚り角度と破断荷重の関係を示す線図である。
【図10】(a)は本発明ケーブルの巻取り試験状態を示す平面図、(b)は従来ケーブルの巻取り試験状態を示す平面図である。
【図11】(a)は曲げ引張り試験の概要を示す説明図、(b)は本発明ケーブルと従来ケーブルの曲げ角度と破断荷重を示す線図である。
【図12】充填試験状態を示す斜視図である。
【図13】(a)は本発明ケーブルの端末定着加工の状態を示す縦断側面図、(b)は横断面図である。
【図14】(a)は従来の多層撚りケーブルの端末定着加工状態を示す縦断側面図、(b)は横断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 本発明の高強度繊維複合材ケーブル
2 片撚りケーブル
2a 心ストランド
2b 側ストランド
20 複合素線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高強度低伸度繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを多数数本収束しあるいは撚り合せた複合素線(20)を複数本片撚りした片撚りケーブル(2)をストランドとし、前記片撚りケーブル(2)の複数本を撚り角度2〜12°で片撚りケーブル(2)の撚り方向と逆方向に撚り合わせてなることを特徴とする高強度繊維複合材ケーブル。
【請求項1】
高強度低伸度繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを多数数本収束しあるいは撚り合せた複合素線(20)を複数本片撚りした片撚りケーブル(2)をストランドとし、前記片撚りケーブル(2)の複数本を撚り角度2〜12°で片撚りケーブル(2)の撚り方向と逆方向に撚り合わせてなることを特徴とする高強度繊維複合材ケーブル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2006−169714(P2006−169714A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35305(P2006−35305)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【分割の表示】特願2003−104545(P2003−104545)の分割
【原出願日】平成15年4月8日(2003.4.8)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【分割の表示】特願2003−104545(P2003−104545)の分割
【原出願日】平成15年4月8日(2003.4.8)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【Fターム(参考)】
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