高強度高靱性薄肉鋼の製造方法及び熱処理装置
【課題】 薄肉低炭素鋼の強度、靭性を高めるのに適した技術を提供する。
【解決手段】厚さ1.2mm以下の普通鋼である薄肉低炭素鋼について、急加熱及び急冷を行うことにより、ミクロ組織が、均質ではなく、粒径の異なる結晶粒が混合された混粒組織になり、好ましくは、この混粒組織に加えて硬質相組織が含まれているものが得られ、高強度、高靱性の薄肉低炭素鋼が得られる。また、急加熱及び急冷を伴う熱処理工程を複数回実施することにより、粒径のより小さな結晶粒の混粒組織あるいはそれに含まれる硬質相組織が得られ、より高強度、高靱性の薄肉低炭素鋼が得られる。
【解決手段】厚さ1.2mm以下の普通鋼である薄肉低炭素鋼について、急加熱及び急冷を行うことにより、ミクロ組織が、均質ではなく、粒径の異なる結晶粒が混合された混粒組織になり、好ましくは、この混粒組織に加えて硬質相組織が含まれているものが得られ、高強度、高靱性の薄肉低炭素鋼が得られる。また、急加熱及び急冷を伴う熱処理工程を複数回実施することにより、粒径のより小さな結晶粒の混粒組織あるいはそれに含まれる硬質相組織が得られ、より高強度、高靱性の薄肉低炭素鋼が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉低炭素鋼を受入材として熱処理を行って高強度高靱性薄肉鋼を製造する高強度高靱性薄肉鋼の製造方法及び熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車、航空機等の輸送機器用のシートフレームは、燃費改善や二酸化炭素排出規制等の観点から軽量化が強く求められており、そのためにシートフレームを形成する鋼材の高強度化が求められている。一方、シートフレームは、高強度化だけでなく、変形による衝撃吸収性等の観点から靭性(延性も含む)が高いことも求められる。このような要求に応える技術として、例えば特許文献1〜3に開示の高強度鋼板が知られている。
【0003】
これらに開示の高強度鋼板は、いずれも、炭素以外の合金元素の添加量を制御することを前提としたものであり、例えば、Mn、Mo、Crなどを所定量以上含有させて所定の硬度、延性を確保するなどとしている。そして、自動車用の鋼材等として使用するため、最終的に1.2mmに冷間圧延しているが、冷間圧延前の工程において行う熱処理は、鋼スラブを厚さ3.2mmに熱間圧延するものである。つまり、厚さ数mm以上の鋼板を得るものであるため、熱処理においては、鋼板における板厚方向を含めてのミクロ組織の均一化を図ることが必要であり、そのため、合金元素の添加量制御が重要な要素となっている技術である。
【0004】
一方、特許文献4〜5では、普通低炭素鋼の高強度化を図った技術が開示されている。特許文献4は、それ以前の技術において、普通低炭素鋼の焼入れ性が悪いことから、マルテンサイトを出発組織とすると、焼鈍時に不均一な混粒組織が生成されて所定の高強度、高延性鋼材を得ることができなかった、という課題を解決するためになされたものである。このため、特許文献4では、普通低炭素鋼を焼入れしてマルテンサイト相を90%以上とした後、全圧下率20%以上80%未満の冷間圧延と焼鈍を行うことによって粒径1.0μm以下の超微細結晶粒フェライト組織を得ている。特許文献5は、本出願人が提案した技術であるが、プレス成形などの内部応力を高める加工処理を行って、熱処理により、低炭素鋼の金属組織の微細化、混粒化を図って高強度化したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4005517号公報
【特許文献2】特開2005−213640号公報
【特許文献3】特開2008−297609号公報
【特許文献4】特許第4189133号公報
【特許文献5】特開2008−13835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車のシートフレーム等は、省エネルギー化、環境問題への対応等のから、今後益々コストの削減や資源のリサイクル性への要請が高くなる。従って、特許文献1〜3の技術のように、合金化による高強度化、高靱性化よりも、リサイクル性が高くなる普通低炭素鋼を用いて達成できることが望まれる。また、これらは、主として鉄鋼材料メーカーが、鋼スラブから所定の高強度高靱性鋼を作り出すために実施されている手法であり、市販の鋼を用いてシートフレーム等を加工する加工メーカーにおいて利用できる技術ではない。加工メーカーとしては、このように鉄鋼材料メーカーが高強度高靱性鋼として販売しているものを購入して使用するのではなく、鉄鋼材料メーカーから安価で成形が容易な普通鋼を購入した上で、必要な場合に必要な箇所にその普通鋼の高強度化高靱性化を図ることができれば、シートフレームのコストの低減につながる。
【0007】
特許文献4の技術は、普通低炭素鋼を熱処理の受入材として用いて、所望の強度、延性を得ようとする技術であるが、鋼材全体をマルテンサイト化した後に冷間圧延して均質に微細化することが必要である。従って、圧延機能を備えた設備が必要となり、設備コスト、製造コストの点で課題がある。これは、特許文献4の実施例において厚さ2mmの普通低炭素鋼材が例示されていることからも明らかなように、ある程度の厚さの鋼を高強度化、高延性化するためには、板厚方向にも均質な微細化が必要であり、そのためマルテンサイト化後における所定条件下での冷間圧延工程が必須だからである。
【0008】
特許文献5の技術の場合、実施例において、厚さ1.2mm、1.0mmの薄肉の冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板を熱処理して微細化し高強度化しているが、靭性の点ではさらに改善の余地がある。
【0009】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、低コストでリサイクル性にも優れると共に、加工メーカーサイドで普通鋼である薄肉低炭素鋼の強度、靭性を高めるのに適した技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、厚さ1.2mm以下の普通鋼である薄肉低炭素鋼の場合、薄肉であることから、熱容量が高く、急加熱、急冷しやすい。そして、急加熱、急冷によって形成される粒径の異なる結晶粒が混合された混粒組織により、好ましくは、このような混粒組織に加えてそれらよりも高い硬度の硬質相組織が含まれた組織により、肉厚の鋼のように1μm以下の微細結晶粒が高率で含まれたものでなくても、また板厚方向に均質化させなくても、強度と靭性を高いレベルでバランスさせた鋼が得られることに着目した。また、本発明者は、薄肉の低炭素鋼において、このように結晶粒の粒径の異なる混粒組織を得るに当たっては、熱処理後の冷間圧延工程などを要することなく、急加熱及び急冷を伴う熱処理工程を複数回実施することが有効であることに着目した。
【0011】
すなわち、本発明の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法は、鋼素材を熱処理して高強度高靱性薄肉鋼を製造する方法であって、熱処理の受入材である前記鋼素材として、厚さ1.2mm以下に加工された普通鋼である薄肉低炭素鋼を使用し、前記薄肉低炭素鋼を急加熱後急冷し、マルテンサイト組織を得る第1工程と、前記第1工程を経た前記薄肉状低炭素鋼を、前記第1工程における急加熱時の温度よりも低い温度まで再度急加熱した後急冷する第2工程とを具備し、前記薄肉低炭素鋼を、前記第1工程及び第2工程における急加熱及び急冷処理を行う各加熱部及び各冷却部に対して、相対移動させながら実施し、前記第1工程においては、前記薄肉低炭素鋼を、300℃/秒以上の速度で1000℃以上まで急加熱する工程と、900℃以上で10秒以内保持した後300℃/秒以上の速度で急冷する工程とを有し、前記第2工程においては、第1工程における冷却後300℃/秒以上の速度で700℃以上まで急加熱する工程と、600℃以上で10秒以内保持した後300℃/秒以上の速度で急冷する工程とを有することを特徴とする。
前記第1工程における急加熱及び前記第2工程における急加熱を、高周波誘導加熱により実施することが好ましい。また、前記第1工程における急加熱及び前記第2工程における急加熱を、レーザ加熱により実施することができる。前記第1工程及び第2工程における処理を複数回施すこともできる。
前記薄肉低炭素鋼は、Cの含有量が質量%で0.01〜0.12%であり、残部が鉄及び不可避不純物であることが好ましい。前記第1工程における前記急加熱工程では、1000℃〜1250℃の範囲の温度に至るまで急加熱し、前記第2工程における前記急加熱工程では、750℃〜1050℃の範囲の温度に至るまで急加熱することが好ましい。前記第1工程における前記急加熱後急冷前の保持時間を5秒以内とし、前記第2工程における前記急加熱後急冷前の保持時間を5秒以内とすることが好ましい。
前記薄肉炭素鋼を処理する熱処理装置が、前記第1工程における急加熱処理を行う第1加熱部と、前記第1工程における急冷却処理を行う第1冷却部と、前記第2工程における急加熱処理を行う第2加熱部と、前記第2工程における急冷却処理を行う第2冷却部とを備えてなり、前記薄肉低炭素鋼が、前記第1加熱部、前記第1冷却部、前記第2加熱部及び前記第2冷却部によって順に処理されるようにすることが好ましい。また、前記第1加熱部と第2加熱部とが、移動方向に所定の長さを備えた一つの加熱部により兼用され、かつ、前記第1工程における冷却処理及び前記第2工程における冷却処理を、処理対象の前記薄肉状低炭素鋼に対し、互いに反対面側から施すようにすることができる。
前記薄肉低炭素鋼がパイプ状の場合には、該薄肉低炭素鋼を回転させながら処理を行うことが好ましい。また、熱処理の受入材である前記鋼素材が厚さ1.0mm以下の薄肉低炭素鋼であることが好ましく、熱処理の受入材である前記鋼素材が厚さ0.8mm以下の薄肉低炭素鋼であることがより好ましく、熱処理の受入材である前記鋼素材が厚さ0.5mm以下の薄肉低炭素鋼であることがさらに好ましい。
本発明の熱処理装置は、熱処理の受入材である前記鋼素材として、厚さ1.2mm以下に加工された普通鋼である薄肉低炭素鋼を使用し、前記薄肉低炭素鋼を急加熱後急冷し、マルテンサイト組織を得る第1工程と、前記第1工程を経た前記薄肉状低炭素鋼を、前記第1工程における急加熱時の温度よりも低い温度まで再度急加熱した後急冷する第2工程とにより、高強度高靱性薄肉鋼を製造するために用いられる熱処理装置であって、処理対象である前記薄肉低炭素鋼を支持するワーク支持部と、前記第1工程における急加熱処理を行う第1加熱部と、前記第1工程における急冷却処理を行う第1冷却部と、前記第2工程における急加熱処理を行う第2加熱部と、前記第2工程における急冷却処理を行う第2冷却部とが順に配置されてなり、前記第1加熱部、前記第1冷却部、前記第2加熱部及び前記第2冷却部が、前記ワーク支持部に対して相対移動可能に設けられていることを特徴とする。
また、本発明の熱処理装置は、移動方向に所定の長さを備えた一つの加熱部と、前記ワークを挟んで前記加熱部と反対側に配置された第1冷却部と、前記ワークを挟んで前記加熱部と同じ側又は前記第1冷却部と同じ側に、前記加熱部又は前記第1冷却部に対して移動方向後方に所定間隔をおいて配置された第2冷却部とを備えると共に、前記加熱部は、その前部付近が前記第1冷却部に対応し、後部付近が前記第1冷却部よりも移動方向後方に延在している長さを有し、前記加熱部の前部付近が前記第1工程の急加熱を行う前記第1加熱部の機能と、前記加熱部の後部付近が前記第2工程の急加熱を行う前記第2加熱部の機能とを兼用した構成であることを特徴とする。この場合、前記第2冷却部は、前記加熱部と同じ側に配置されていることが好ましい。
また、前記ワーク支持部が前記薄肉低炭素鋼を支持した状態で回転可能に設けられた構成とすることができる。また、前記各加熱部が高周波誘導加熱を行うコイルを備えて構成されることが好ましく、前記各加熱部がレーザ加熱を行うレーザを備えてなる構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法及び熱処理装置によれば、 厚さ1.2mm以下の普通鋼である薄肉低炭素鋼について、急加熱及び急冷を行うことにより、ミクロ組織が、均質ではなく、粒径の異なる結晶粒が混合された混粒組織になり、好ましくは、この混粒組織に加えて硬質相組織が含まれているものが得られ、高強度、高靱性の薄肉低炭素鋼が得られる。また、急加熱及び急冷を伴う熱処理工程を複数回実施することにより、粒径のより小さな結晶粒の混粒組織あるいはそれに含まれる硬質相組織が得られ、より高強度、高靱性の薄肉低炭素鋼が得られる。また、2つの加熱部と2つの冷却部を所定の順に備えた熱処理装置を用いることにより、上記の複数回の急加熱及び急冷処理を効率的に実施できる。さらには、所定長の加熱部を一つ用いると共に、第1冷却部を、ワークを挟んで該加熱部の反対側に配置することで、より簡易な装置とすることができ、高強度高靱性薄肉鋼の製造コストの低減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)は、高周波誘導加熱装置の概略構成の一例を示す図であり、図1(b)は、高周波誘導加熱装置の好ましい例の概略構成を示した図であり、図1(c)は、第1工程及び第2工程における急加熱を行う加熱部が一つであって、かつ、ワークの両面から急冷処理行う高周波誘導加熱装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、試験例1における処理条件(A),(B)の温度条件を示した図である。
【図3】図3(a)〜(c)は、試験例1の処理条件(A),(B)で処理した試料1〜3のミクロ組織の電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は、試験例2における処理条件(C)の温度条件を示した図である。
【図5】図5は、試験例2の処理条件(C)で処理した試料1のミクロ組織の電子顕微鏡写真である。
【図6】図6(a)は、試料1及び試料2の素材の状態のミクロ組織の電子顕微鏡写真であり、図6(b),(c)は、比較例1で処理した試料1(比較試料1)及び試料2(比較試料2)の各ミクロ組織の電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、試験例1、試験例2及び比較例1で処理した試料1〜試料3の硬度(Hv)とフラクタル次元との関係を示した図である。
【図8】図8は、試験例1、試験例2及び比較例1で処理した試料1〜試料2の破断伸びとフラクタル次元との関係を示した図である。
【図9】図9(a),(b)は、試験例3の曲げ試験の測定方法を説明するための図である。
【図10】図10は、試験例3の曲げ試験の測定結果を示した図である。
【図11】図11は、試験例4の引張試験の測定結果を示した図である。
【図12】図12は、試験例5のパイプ状の鋼の引張試験の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の高強度高靱性薄肉鋼を製造する方法において、熱処理する際の受入材となる鋼素材は市販の普通鋼であって、薄肉かつ低炭素のもの(以下、「薄肉低炭素鋼」という)である。薄肉低炭素鋼としては、自動車のシートフレームなどに用いられる安価で加工性のよい圧延鋼板が適し、冷間圧延鋼板と熱間圧延鋼板のいずれも含む。厚さは、1.2mm以下である。これより厚い鋼の場合、高強度化、高靱性化を図るには、急加熱・急冷を行うに当たって、大きな熱源と大規模な冷却設備が必要となり、また、板厚方向で結晶粒の均質性が必要となるため制御が難しく、本発明の処理対象の鋼素材としては適さない。圧延工程を伴わず、急加熱、急冷の熱処理工程のみによって高強度化、高靱性化を図る本発明の処理対象鋼素材としては、厚さ1.0mm以下の薄肉低炭素鋼が好ましく、厚さ0.8mm以下の薄肉低炭素鋼がより好ましく、厚さ0.5mm以下の薄肉低炭素鋼がさらに好ましい。
【0015】
上記薄肉低炭素鋼は、炭素含有量が0.01〜0.3%で残部が鉄及び不可避不純物である低炭素鋼を用いることもできるが、炭素含有量が0.01〜0.12%で残部が鉄及び不可避不純物である極低炭素鋼を用いることが好ましい。炭素含有量がより低い、より安価な材料を用いることで、シートフレーム等の製造コストの低減を図ることができる。また、本発明は、薄肉に限定することにより、炭素含有量が低くても強度を上げるとことができる共に、靭性とのバランスも図ることができるため、炭素以外の合金元素の添加等を行う必要はなく、リサイクル性に優れている。一方、上記の炭素含有量以外については成分の制限がないため、例えば、普通鋼として使用されたものを混ぜ合わせたリサイクル鋼材で、炭素以外の成分が種々混入しているものであっても使用可能である。なお、加工処理対象の薄肉低炭素鋼は、板状のもの、パイプ状のもののいずれも含む。
【0016】
上記薄肉低炭素鋼を熱処理する工程は、次のような2工程で行うことが好ましい。すなわち、薄肉低炭素鋼を急加熱後急冷し、マルテンサイト組織を得る第1工程と、第1工程を経た薄肉低炭素鋼を、第1工程における急加熱時の温度よりも低い温度まで再度急加熱した後急冷する第2工程とを備えている。なお、薄肉低炭素鋼の第1工程及び第2工程による処理を複数回繰り返して施すことも可能である。
【0017】
第1工程においては、薄肉低炭素鋼を、300℃/秒以上の速度で1000℃以上まで、好ましくは1000℃〜1250℃の範囲の温度に至るまで急加熱する工程と、急加熱後900℃以上の所定の温度に低下するまで、好ましくは1000℃〜1100℃の範囲の温度に低下するまで10秒以内、好ましくは5秒以内保持し、その後300℃/秒以上の速度で急冷する工程とを有している。上記温度まで急加熱することにより、薄肉低炭素鋼の金属組織がオーステナイト化され、急冷によってマルテンサイト組織が形成されるが、本発明の処理対象である薄肉低炭素鋼は厚さ1.2mm以下であるため、このような300℃/秒以上という、いわば超急速加熱と超急速冷却により、比較的粗大化を免れた均質なマルテンサイト組織を形成できる。なお、急加熱速度及び急冷速度は、500℃/秒以上とすることがより好ましい。
【0018】
第2工程においては、第1工程における冷却後300℃/秒以上の速度で700℃以上まで、好ましくは750℃〜1050℃の範囲の温度に至るまで急加熱する工程と、急加熱後600℃以上の所定の温度に低下するまで、好ましくは700℃〜950℃の範囲の温度に低下するまで10秒以内、好ましくは5秒以内保持し、その後300℃/秒以上の速度で急冷する工程とを有している。第1工程を経た薄肉低炭素鋼を第2工程において再度熱処理する場合、第1工程による急冷によって、200℃以下まで下がってから行うことが好ましい。より低い温度、例えば、室温まで下がった後に別ラインで第2工程における熱処理を行ってもよい。なお、第2工程における急加熱速度及び急冷速度も、第1工程と同様に、500℃/秒以上とすることがより好ましい。
【0019】
第2工程における上記の超急速加熱と超急速冷却を行うことにより、マルテンサイト組織が変化し、最終的には、1μm以上30μm以下の異なる粒径(本明細書において「粒径」は「円相等粒径」のことをいう)の結晶粒の混粒組織を有し、平均粒径が、マルテンサイトを形成する熱処理を行った場合に得られる該マルテンサイトの平均粒径、すなわち、第1工程における熱処理を行った際に得られたマルテンサイトの平均粒径よりも小さい、粒径の異なる結晶粒が集まった混粒組織が得られる。
【0020】
混粒組織は、粒径1μm以上5μm未満の結晶粒と5μm〜30μmの結晶粒とが混合されて構成された組織であることが好ましく、さらには、粒径1μm以上5μm未満の結晶粒と5μm〜20μmの結晶粒とが混合されて構成されていることが好ましい。熱処理後の鋼が、このように均質な粒径ではなく、粒径の異なる混粒組織を有していることにより、薄肉低炭素鋼の場合には、部分伸びが生じ、それにより高い靭性の鋼が得られる。より高い強度を得るためには、混粒組織中に、該混粒組織よりも硬度の高い硬質相組織が分散されていることが好ましい。例えば、混粒組織が、粒径の異なるフェライト組織の場合に、その混粒組織に、粒径30μm以下、好ましくは20μm以下の島状マルテンサイトが分散されていることが好ましい。これにより、曲げ特性において、弾性域から塑性域に入ったところでの曲げモーメントによるはりのたわみによる反力が熱処理前と比較して1.5倍以上、引張特性における降伏点が熱処理前と比較して1.5倍以上の強度を有し、破断伸びが、薄肉低炭素鋼をマルテンサイトを形成する熱処理を行った状態すなわち第1工程における熱処理を行った際の破断伸びと比較して1.5倍以上の高強度高靱性の薄肉低炭素鋼が得られる。
【0021】
本発明によって得られる高強度高靱性薄肉鋼は、ミクロ組織が、上記したように粒径の異なる結晶粒の混粒組織であり、好ましくは、混粒組織中にマルテンサイト等の硬質相組織が分散された組織である。本発明は、このような組織制御により高い強度と靭性を備えた薄肉低炭素鋼を得ているが、本発明者は、このミクロ組織を粒径のフラクタル次元という観点から規定可能であることを見出した。詳細は後述するが、本発明のように熱処理によって制御された薄肉低炭素鋼のミクロ組織は、マルテンサイトを形成する熱処理を行った場合、すなわち第1工程の熱処理のみで得られるマルテンサイトにおける粒径のフラクタル次元よりも高くなっていた。
【0022】
なお、「フラクタル次元」とは、複雑さの程度を表す尺度で、自己相似性のある図形において、図形を1/nに縮小した相似形m個によって構成されるとき、フラクタル次元(相似性次元)Dは、D=log(m)/log(n)=log(元の図形と相似な同じ図形の数)/log(等分割した数)で表される。従って、本明細書の「粒径のフラクタル次元」は、結晶粒が細かくなるほど高くなる。
【0023】
上記した第1工程及び第2工程の各熱処理を行う熱処理装置としては、高周波誘導加熱装置を用いることが好ましい。また、高周波誘導加熱装置の加熱部(誘導加熱装置の場合には、誘導加熱部を構成するコイル)及び冷却部(冷却水を供給する冷却水供給部)が、熱処理対象の上記薄肉低炭素鋼及びワーク支持部に対し、相対的に所定の速度で移動するものが好ましい。これにより、規模が小さな設備であっても、上記した極めて短い時間での急加熱、急冷処理を実現できる。高周波誘導加熱装置の加熱部(誘導加熱装置の場合には、誘導加熱部を構成するコイル)及び冷却部の移動速度は、30mm/秒以内の範囲に設定することが好ましく、さらには18mm/秒以内の範囲に設定することがより好ましい。なお、ワーク(薄肉低炭素鋼)は、ワーク支持部によって支持され、ワークが板状の場合には、該ワーク支持部として板状のワークを載置可能な平板状のテーブルやワークの端部を把持する把持部(図1(a)〜(c)参照)から構成することができる。また、ワークがパイプ状のものの場合には、ワークを回転させながら処理することが好ましいことから、該ワーク支持部は、パイプ状のものを把持できる把持部を有し、この把持部が回転可能になっている構成とすることが好ましい。
【0024】
高周波誘導加熱装置は、図1(a)に示したように、加熱部と冷却水供給部が順に備えられたものを用いることができる。この加熱部と冷却水供給部は1セットのみであり、第1工程の処理を行う場合には、該加熱部を、所定の温度に制御して第1加熱部(コイル)として機能させて処理し、同様に、冷却水供給部を第1冷却部(冷却水供給部)として機能させる。そして、第1工程の処理を行った後、再び、図1(a)に示した高周波誘導加熱装置によって第2工程の処理を行う。この場合には、加熱部を、第1工程の処理よりも低い温度に制御して第2加熱部(コイル)として機能させ、冷却部を第2冷却部(冷却水供給部)として機能させて処理するものである。なお、高周波誘導加熱装置は、このように、加熱部と冷却水供給部が1セットのみ備えられたものに限らず、図1(b)に示したように、第1工程の処理を行う第1加熱部(コイル)及び第1冷却部(第1冷却水供給部)と、第2工程の処理を行う第2加熱部(コイル)及び第2冷却部(第2冷却水供給部)とが順に備えられた構成とすることが好ましい。図1(b)に示した装置によれば、第1工程及び第2工程を連続して施すことができ、ワークの処理速度が向上する。
【0025】
また、図1(c)に示したように、加熱部(コイル)の移動方向に沿った長さが所定以上のもの、例えば、5〜10cm程度の長尺のものを用いることにより、第1工程における第1加熱部と第2工程における第2加熱部とを兼用させた構成とすることができる。すなわち、この加熱部は、ワーク(薄肉低炭素鋼)の一面側に配置されており、ワークの反対側においては、該加熱部の移動方向前部付近に対応して冷却部(第1冷却水供給部)が設けられている。これにより、加熱部の移動方向前部付近が第1工程の急加熱処理を行い、それに対応する第1冷却水供給部が第1工程の急冷処理を行う。この加熱部と第1冷却水供給部とは、セットになって移動していく。すると、加熱部の後部付近により、第1工程の急加熱及び急冷処理が行われた部位が再度急加熱される。これにより、第2工程の急加熱処理が実行される。その後、加熱部の移動方向後方に所定間隔をおいて配置された冷却部(第2冷却水供給部)が、加熱部の後部付近によって急加熱された部位を急冷し、第2工程の急冷処理が施される。従って、図1(c)に示した長尺の加熱部(コイル)を用いた場合には、第1工程及び第2工程における急加熱を一つの加熱部(コイル)で実施できるため、簡易かつ安価な構造の高周波誘導加熱装置とすることができる。なお、図1(c)においては、第2冷却水供給部を、ワークを境として加熱部と同じ側に配置しているが、第1冷却水供給部と同じ側に配置することも可能である。但し、より効率のよい急冷処理を行うためには、図1(c)に示したように、加熱部と同じ側に配置することが好ましい。
【0026】
なお、第1工程及び第2工程における第1加熱部及び第2加熱部としてレーザを装着し、各急加熱処理をレーザ加熱により行うことも可能である。
【0027】
(試験例1)
次の各試料について、熱処理を施した。
(1)試料1:普通鋼冷延鋼板(SPCC)
・化学成分(%):C=0.04、Si=0.02、Mn=0.26、P=0.011、S=0.006
・厚さ:0.5mm、幅:100mm、長さ:200mm
(2)試料2:普通鋼冷延鋼板(SPCC)
・化学成分(%):C=0.037、Si=0.004、Mn=0.19、P=0.013、S=0.012、solAl=0.015、Cu=0.02、Ni=0.02、B=14(PPM)
・厚さ:0.5mm、幅:100mm、長さ:200mm
(3)試料3:普通鋼冷延鋼板(JSC440)
・化学成分(%):C=0.12、Si=0.06、Mn=1.06、P=0.022、S=0.005
・厚さ:0.6mm、幅:100mm、長さ:200mm
【0028】
熱処理装置としては、図1(a)に示した加熱部と冷却水供給部が1セットの高周波誘導加熱装置を用い、加熱部及び冷却水供給部により第1工程の処理を行った後、各試料を室温まで放置し、その後、同じ高周波誘導加熱装置により第2工程の処理を行った。処理条件は、次の(A)、(B)2つの条件で行った。
【0029】
・処理条件(A)
・第1工程:
(1)加熱部及び冷却水供給部の移動速度:800mm/分
(2)加熱部のコイルを120Aに調節した。相対的に加熱部が近づいてくると試料は徐々に温度が上がって予備加熱されるが、400℃から約1秒間で1200℃まで急加熱した。その後、1050℃に下がるまで約2.5秒間保持し、次いで冷却水供給部から冷却水を供給して200℃以下に至るまで約0.5秒で急冷した(図2の第1工程における実線)。
・第2工程:
(1)加熱部及び冷却水供給部の移動速度:800mm/分
(2)試料が室温まで低下した後、再び高周波誘導加熱装置にセットした。加熱部のコイルに流す電流を100Aに調節し、予備加熱されて400℃に至った以降約0.5秒で900℃まで急加熱した。800℃に下がるまで約2.5秒間保持し、次いで冷却水供給部から冷却水を供給して200℃以下まで約0.5秒で急冷し、その後、室温になるまで放置した(図2の第1工程における実線)。
【0030】
・処理条件(B)
・第1工程:
(1)加熱部及び冷却水供給部の移動速度:800mm/分
(2)加熱部のコイルを120Aに調節した。相対的に加熱部が近づいてくると試料は徐々に温度が上がって予備加熱されるが、400℃から約1秒間で1200℃まで急加熱した。その後、1050℃に下がるまで約2.5秒間保持し、次いで冷却水供給部から冷却水を供給して200℃以下に至るまで約0.5秒で急冷した(図2の第1工程における実線)。
・第2工程:
(1)加熱部及び冷却水供給部の移動速度:1000mm/分
(2)試料が室温まで低下した後、再び高周波誘導加熱装置にセットした。加熱部のコイルに流す電流を100Aに調節し、予備加熱されて400℃に至った以降約0.5秒で800℃まで急加熱した。700℃に下がるまで約2.5秒間保持し、次いで冷却水供給部から冷却水を供給して200℃以下まで約0.5秒で急冷し、その後、室温になるまで放置した(図2の第2工程における破線)。
【0031】
図3(a)は、処理条件(A),(B)による試料1の長さ方向の中央付近を切断して観察したミクロ組織の電子顕微鏡写真であり、図3(b)は、処理条件(A),(B)による試料2の長さ方向の中央付近を切断して観察したミクロ組織の電子顕微鏡写真である(なお、試料1、試料2の素材状態のミクロ組織は図6(a)の「素材」の欄参照)。図3(c)は、処理条件(A),(B)による試料3の長さ方向の中央付近を切断して観察したミクロ組織の電子顕微鏡写真である
【0032】
図3(a)から、処理条件(A)により処理された試料1は、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜30μmのフェライト組織との混粒組織となっており、混粒組織中に粒径30μm以下の島状マルテンサイトが5%未満であるが含まれていた。これに対し、処理条件(A)よりも、移動速度が速く、第2工程における加熱温度の低い処理条件(B)の場合には、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜20μmのフェライト組織との混粒組織になっており、処理条件(A)によるものの方が、結晶粒が大きめであった。
【0033】
図3(b)の場合、処理条件(A)により処理された試料2は、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜30μmのフェライト組織との混粒組織に加えて粒径30μ以下の島状マルテンサイトが約20%含まれていた。処理条件(B)の場合には、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜20μmのフェライト組織との混粒組織になっていた。
【0034】
試料3は、Cの含有量が0.12%と試料1及び試料2よりも多い。従って、3(c)に示したように、処理条件(A),(B)共に、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜30μmのフェライト組織との混粒組織に加えて粒径30μ以下の島状マルテンサイトが含まれていたが、島状マルテンサイトが約50〜60%の含まれていた。
【0035】
(試験例2)
上記の試料1を、図1(c)に示した長さ6cmの長尺なコイルからなる加熱部と、第1及び第2冷却水供給部とを備えた高周波誘導加熱装置により熱処理した。処理条件は、次の(C)のとおりである。
【0036】
・処理条件(C)
・第1工程:
(1)加熱部、第1及び第2冷却水供給部の移動速度:800mm/分
(2)加熱部のコイルを120Aに調節した。相対的に加熱部が近づいてくると試料は徐々に温度が上がって予備加熱されるが、400℃から約1秒間で1200℃まで急加熱した。その後、1050℃に下がるまで約2.5秒間保持し、次いで冷却水供給部から冷却水を供給して200℃以下に至るまで約0.5秒で急冷した(図4の第1工程の実線)。
・第2工程:
(1)加熱部、第1及び第2冷却水供給部の移動速度:1000mm/分
(2)加熱部のコイルに流す電流を90Aに調節し、約200℃になっていた試料1を加熱部の後部によって、約0.5秒で800℃まで急加熱した。700℃に下がるまで約2.5秒間保持し、次いで第2冷却水供給部から冷却水を供給して200℃以下まで約0.5秒で急冷し、その後、室温になるまで放置した(図4の第2工程の実線)。
【0037】
図5は、処理条件(C)による試料1の長さ方向の中央付近を切断して観察したミクロ組織の電子顕微鏡写真である。図5から、処理条件(C)により処理された試料1は、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜20μmのフェライト組織との混粒組織に加え、粒径5〜10μm前後の島状マルテンサイトが約20%形成されていた。
【0038】
(比較例1)
熱処理装置として、図1(a)に示した加熱部と冷却水供給部が1セットの高周波誘導加熱装置を用い、試料1(比較試料1)及び試料2(比較試料2)について、急加熱及び急冷を1回のみ行う熱処理を行った。
【0039】
処理条件は、加熱部(コイル)によって1200℃まで急加熱した後、冷却水供給部により急冷した場合(熱処理1)と、加熱部(コイル)によって900℃まで急加熱した後、冷却水供給部により急冷した場合(熱処理2)について試験した。熱処理1の条件は、マルテンサイト組織にすることをねらったものであり、熱処理2の条件は、混粒組織又は島状マルテンサイトを含んだ混粒組織にすることをねらったものである。各試料の長さ方向中央付近を切断して観察したミクロ組織の電子顕微鏡写真を図6に示す。なお、図中、「素材」は熱処理を行う前の試料1及び試料2のミクロ組織である。
【0040】
図6(a)から、「素材」の状態では、試料1及び試料2共に、粒径10μm以下のほぼ均等なフェライト組織になっている。図6(b)の「熱処理1」の状態では、比較試料1及び比較試料2共に、粒径20〜100μmの粗大なマルテンサイト組織になっている。図6(c)の「熱処理2」の状態では、比較試料2は、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜30μmのフェライト組織との混粒組織となってはいる。比較試料1の場合は、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜30μmのフェライト組織との混粒組織に加えて、粒径5〜10μm前後の島状マルテンサイトが形成されている。
【0041】
図7は、平均硬度(Hv)を横軸に、粒径のフラクタル次元を縦軸にとって、試験例1及び試験例2の各試料1,2,3及び比較例1の比較試料1,2の各値をプロットした図である。この図から明らかなように、試料1及び試料2の場合、試験例1,2のいずれも、混粒組織又は混粒組織に島状マルテンサイトを形成したものは、比較例1においてマルテンサイト組織を形成した比較試料1,2(熱処理1)よりもフラクタル次元が高かった。また、図7に示した最小二乗法により求めた傾きが、比較例1よりも試験例1の方が全体としてフラクタル次元の高い傾向を示しており、試験例1のように複数回の急加熱処理、急冷処理を行うことにより、同じ混粒組織又は混粒組織に島状マルテンサイトを形成したものであっても、比較試料1,2(熱処理2)より、試料1,2−A処理(処理条件(A)による処理)及び試料1,2−B処理(処理条件(B)による処理)の方が、細粒化が図られ、靭性を高めることができることがわかった。また、試験例2の試料1−C処理(処理条件(C)による処理)の場合も、硬度が高くなっているにも拘わらず、比較試料1(熱処理2)の混粒組織を形成した場合と同程度のフラクタル次元であった。
【0042】
また、試験例1の試料3は非常に高い硬度が得られている。これは、島状マルテンサイトの分散割合が多いためであり、靭性の点では、試料1,2−A処理及び試料1,2−B処理によるものよりも劣っている。但し、比較試料1,2(熱処理1)と比べた場合には、マルテンサイト組織となっている図6(b)の場合に劣らない硬度を維持しながら、フラクタル次元が高くなっており、比較試料1,2(熱処理1)よりは高い硬度で靭性も高めることができることがわかる。しかし、Cの含有量がこれ以上の場合には、靭性がより劣るおそれがあることから、Cの含有量としては0.12%以下とすることがより望ましい。
【0043】
なお、金属組織の結晶粒の微細化により高強度化を図った場合、図7の素材の状態と比較して、ホール-ペッチ(Hall-Petch)の法則に従って、矢印Xで示したように、フラクタル次元が大きく上昇するが、超急加熱及び超急冷却の本発明の手法の場合には、結晶粒の微細化によらないことが、フラクタル次元の値の上昇割合が小さい傾向を示していたことからもわかる。
【0044】
図8は、破断伸び(%)を横軸に、粒径のフラクタル次元を縦軸にとって、試験例1及び試験例2の各試料1,2及び比較例1の比較試料1,2の各値をプロットした図である。例えば、「試料1−A処理」は、上記した混粒組織中に島状マルテンサイトが5%未満含まれているものであって、破断伸びは18.16%であり、「試料2−A処理」は、上記した混粒組織からなるものであり、破断伸びは20.44%である。フラクタル次元の高くなるほど、靭性の指標の一つである破断伸びが大きくなる傾向にあり、上記したフラクタル次元と靭性との相関が明らかになった。そして、この図8からも、急加熱処理及び急冷処理を1回だけ行った比較試料1,2と比べて、本発明の複数回の急加熱処理、急冷処理を行った試料1,2の方が、靭性を高めることができることがわかった。
【0045】
(試験例3)
(曲げ試験)
上記した試料1の普通鋼冷延鋼板と同じ化学成分であって、厚さ0.5mm、0.8mm、1.0mmの3種類の試料を、幅30mm、長さ100mmの範囲が含まれるように熱処理した(図9(a)参照)。熱処理は、上記した「処理条件(A)」に従って、第1工程、第2工程の各処理を行った。
【0046】
図9(b)に示したように、上記した各試料の両端部付近を支持する支持台上にセットし、熱処理を施した範囲の長さ方向中央部をクロスヘッドにより負荷速度:10mm/分で荷重をかけた。いずれの試料も熱処理を施していないもの(図10中、「生材」と表示)と熱処理を施したもの(図10中、「熱処理」と表示)のそれぞれについて試験した。その結果を図10に示す。
【0047】
図10から明らかなように、曲げ特性において、弾性域から塑性域に入ったところでの曲げモーメントによるはりのたわみによる反力は、厚さ0.5mmの熱処理後の試料は熱処理前の約2倍になっており、厚さ0.8mm及び厚さ1.0mmの熱処理後の試料はいずれも熱処理前の約2.5倍になっている。従って、厚さ0.8mmの生材に代えて厚さ0.5mmの熱処理後の試料を使用し、あるいは、厚さ1.0mmの生材に代えて厚さ0.8mmの熱処理後の試料を使用することにより、シートフレーム等の軽量化に寄与する。
【0048】
(試験例4)
(引張試験)
長さ150mm、幅30mmの試料の長さ方向端部をチャックに把持して試験した。試料は、上記した曲げ試験で使用した試料1の厚さ0.5mm、0.8mmのものと、試料2の厚さ0.5mmのものである。結果を図11に示す。図11中、「熱処理−A(試料1)」及び「熱処理−A(試料2)」は、上記した試験例1の処理条件(A)に従って熱処理したもので、ミクロ組織が混粒組織か又は混粒組織に島状マルテンサイトが形成されたものである。「熱処理1」は、上記した比較例1の「熱処理1」の条件に従って熱処理したもので、マルテンサイト組織になっているものである。
【0049】
この結果、比較例1において熱処理1のマルテンサイト組織が形成されたものは、降伏点(耐力)は高いが、破断伸びが小さい。これに対し、「熱処理−A(試料1)」及び「熱処理−A(試料2)」は、厚さ0.5mmの場合、降伏点(耐力)は熱処理前の素材の約2倍で、マルテンサイト組織が形成されたものよりも低いが、破断伸びは、マルテンサイト組織が形成されたものの3倍以上であった。厚さ0.8mmのものも、降伏点(耐力)は熱処理前の素材の約2.5倍でありながら、破断伸びは、マルテンサイト組織が形成されたものと比較して約2倍であった。
【0050】
(試験例5)
直径12mm、厚さ1.0mm、C含有量:0.08%の機械構造用炭素鋼鋼管(STKM−13C)を400rpmで回転させながら熱処理した。図1(a)の高周波誘導加熱装置によって第1工程及び第2工程の熱処理を行った場合(図12において「2段熱処理」と表示)と、第1工程の熱処理のみを行った場合(図12において「1段熱処理」と表示)について、引張試験を行って比較した。図12にその結果を示す。
【0051】
図12から明らかなように、本発明の2段熱処理を行ったものは、降伏点(耐力)が素材の約2倍以上となり、1段熱処理と比較して約2倍以上の破断伸びを有していた。なお、図12において「素材」は、伸び計をつけていないためグラフの立ち上がり方が他の熱処理したものと異なっているが、破断伸びは実測値から補正した。また、熱処理したもののグラフにおいて、いずれも途中で荷重が下がっているのは、伸び計を装着したままだと破断まで測定できないために、途中で測定機械を止めて取り外したためである。
【0052】
以上のことから、本発明の熱処理を施したミクロ組織が混粒組織か又は混粒組織に島状マルテンサイトが形成されたもの、すなわち、第1工程及び第2工程における急加熱及び急冷処理を行ったものは、硬度、降伏点(耐力)、引張強さ、曲げモーメントによるはりのたわみによる反力、破断伸びが、いずれも高いレベルで保たれており、市販の普通鋼を熱処理したものでありながら、高強度高靱性(高延性)のものが得られることがわかった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉低炭素鋼を受入材として熱処理を行って高強度高靱性薄肉鋼を製造する高強度高靱性薄肉鋼の製造方法及び熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車、航空機等の輸送機器用のシートフレームは、燃費改善や二酸化炭素排出規制等の観点から軽量化が強く求められており、そのためにシートフレームを形成する鋼材の高強度化が求められている。一方、シートフレームは、高強度化だけでなく、変形による衝撃吸収性等の観点から靭性(延性も含む)が高いことも求められる。このような要求に応える技術として、例えば特許文献1〜3に開示の高強度鋼板が知られている。
【0003】
これらに開示の高強度鋼板は、いずれも、炭素以外の合金元素の添加量を制御することを前提としたものであり、例えば、Mn、Mo、Crなどを所定量以上含有させて所定の硬度、延性を確保するなどとしている。そして、自動車用の鋼材等として使用するため、最終的に1.2mmに冷間圧延しているが、冷間圧延前の工程において行う熱処理は、鋼スラブを厚さ3.2mmに熱間圧延するものである。つまり、厚さ数mm以上の鋼板を得るものであるため、熱処理においては、鋼板における板厚方向を含めてのミクロ組織の均一化を図ることが必要であり、そのため、合金元素の添加量制御が重要な要素となっている技術である。
【0004】
一方、特許文献4〜5では、普通低炭素鋼の高強度化を図った技術が開示されている。特許文献4は、それ以前の技術において、普通低炭素鋼の焼入れ性が悪いことから、マルテンサイトを出発組織とすると、焼鈍時に不均一な混粒組織が生成されて所定の高強度、高延性鋼材を得ることができなかった、という課題を解決するためになされたものである。このため、特許文献4では、普通低炭素鋼を焼入れしてマルテンサイト相を90%以上とした後、全圧下率20%以上80%未満の冷間圧延と焼鈍を行うことによって粒径1.0μm以下の超微細結晶粒フェライト組織を得ている。特許文献5は、本出願人が提案した技術であるが、プレス成形などの内部応力を高める加工処理を行って、熱処理により、低炭素鋼の金属組織の微細化、混粒化を図って高強度化したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4005517号公報
【特許文献2】特開2005−213640号公報
【特許文献3】特開2008−297609号公報
【特許文献4】特許第4189133号公報
【特許文献5】特開2008−13835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動車のシートフレーム等は、省エネルギー化、環境問題への対応等のから、今後益々コストの削減や資源のリサイクル性への要請が高くなる。従って、特許文献1〜3の技術のように、合金化による高強度化、高靱性化よりも、リサイクル性が高くなる普通低炭素鋼を用いて達成できることが望まれる。また、これらは、主として鉄鋼材料メーカーが、鋼スラブから所定の高強度高靱性鋼を作り出すために実施されている手法であり、市販の鋼を用いてシートフレーム等を加工する加工メーカーにおいて利用できる技術ではない。加工メーカーとしては、このように鉄鋼材料メーカーが高強度高靱性鋼として販売しているものを購入して使用するのではなく、鉄鋼材料メーカーから安価で成形が容易な普通鋼を購入した上で、必要な場合に必要な箇所にその普通鋼の高強度化高靱性化を図ることができれば、シートフレームのコストの低減につながる。
【0007】
特許文献4の技術は、普通低炭素鋼を熱処理の受入材として用いて、所望の強度、延性を得ようとする技術であるが、鋼材全体をマルテンサイト化した後に冷間圧延して均質に微細化することが必要である。従って、圧延機能を備えた設備が必要となり、設備コスト、製造コストの点で課題がある。これは、特許文献4の実施例において厚さ2mmの普通低炭素鋼材が例示されていることからも明らかなように、ある程度の厚さの鋼を高強度化、高延性化するためには、板厚方向にも均質な微細化が必要であり、そのためマルテンサイト化後における所定条件下での冷間圧延工程が必須だからである。
【0008】
特許文献5の技術の場合、実施例において、厚さ1.2mm、1.0mmの薄肉の冷間圧延鋼板、熱間圧延鋼板を熱処理して微細化し高強度化しているが、靭性の点ではさらに改善の余地がある。
【0009】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、低コストでリサイクル性にも優れると共に、加工メーカーサイドで普通鋼である薄肉低炭素鋼の強度、靭性を高めるのに適した技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、厚さ1.2mm以下の普通鋼である薄肉低炭素鋼の場合、薄肉であることから、熱容量が高く、急加熱、急冷しやすい。そして、急加熱、急冷によって形成される粒径の異なる結晶粒が混合された混粒組織により、好ましくは、このような混粒組織に加えてそれらよりも高い硬度の硬質相組織が含まれた組織により、肉厚の鋼のように1μm以下の微細結晶粒が高率で含まれたものでなくても、また板厚方向に均質化させなくても、強度と靭性を高いレベルでバランスさせた鋼が得られることに着目した。また、本発明者は、薄肉の低炭素鋼において、このように結晶粒の粒径の異なる混粒組織を得るに当たっては、熱処理後の冷間圧延工程などを要することなく、急加熱及び急冷を伴う熱処理工程を複数回実施することが有効であることに着目した。
【0011】
すなわち、本発明の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法は、鋼素材を熱処理して高強度高靱性薄肉鋼を製造する方法であって、熱処理の受入材である前記鋼素材として、厚さ1.2mm以下に加工された普通鋼である薄肉低炭素鋼を使用し、前記薄肉低炭素鋼を急加熱後急冷し、マルテンサイト組織を得る第1工程と、前記第1工程を経た前記薄肉状低炭素鋼を、前記第1工程における急加熱時の温度よりも低い温度まで再度急加熱した後急冷する第2工程とを具備し、前記薄肉低炭素鋼を、前記第1工程及び第2工程における急加熱及び急冷処理を行う各加熱部及び各冷却部に対して、相対移動させながら実施し、前記第1工程においては、前記薄肉低炭素鋼を、300℃/秒以上の速度で1000℃以上まで急加熱する工程と、900℃以上で10秒以内保持した後300℃/秒以上の速度で急冷する工程とを有し、前記第2工程においては、第1工程における冷却後300℃/秒以上の速度で700℃以上まで急加熱する工程と、600℃以上で10秒以内保持した後300℃/秒以上の速度で急冷する工程とを有することを特徴とする。
前記第1工程における急加熱及び前記第2工程における急加熱を、高周波誘導加熱により実施することが好ましい。また、前記第1工程における急加熱及び前記第2工程における急加熱を、レーザ加熱により実施することができる。前記第1工程及び第2工程における処理を複数回施すこともできる。
前記薄肉低炭素鋼は、Cの含有量が質量%で0.01〜0.12%であり、残部が鉄及び不可避不純物であることが好ましい。前記第1工程における前記急加熱工程では、1000℃〜1250℃の範囲の温度に至るまで急加熱し、前記第2工程における前記急加熱工程では、750℃〜1050℃の範囲の温度に至るまで急加熱することが好ましい。前記第1工程における前記急加熱後急冷前の保持時間を5秒以内とし、前記第2工程における前記急加熱後急冷前の保持時間を5秒以内とすることが好ましい。
前記薄肉炭素鋼を処理する熱処理装置が、前記第1工程における急加熱処理を行う第1加熱部と、前記第1工程における急冷却処理を行う第1冷却部と、前記第2工程における急加熱処理を行う第2加熱部と、前記第2工程における急冷却処理を行う第2冷却部とを備えてなり、前記薄肉低炭素鋼が、前記第1加熱部、前記第1冷却部、前記第2加熱部及び前記第2冷却部によって順に処理されるようにすることが好ましい。また、前記第1加熱部と第2加熱部とが、移動方向に所定の長さを備えた一つの加熱部により兼用され、かつ、前記第1工程における冷却処理及び前記第2工程における冷却処理を、処理対象の前記薄肉状低炭素鋼に対し、互いに反対面側から施すようにすることができる。
前記薄肉低炭素鋼がパイプ状の場合には、該薄肉低炭素鋼を回転させながら処理を行うことが好ましい。また、熱処理の受入材である前記鋼素材が厚さ1.0mm以下の薄肉低炭素鋼であることが好ましく、熱処理の受入材である前記鋼素材が厚さ0.8mm以下の薄肉低炭素鋼であることがより好ましく、熱処理の受入材である前記鋼素材が厚さ0.5mm以下の薄肉低炭素鋼であることがさらに好ましい。
本発明の熱処理装置は、熱処理の受入材である前記鋼素材として、厚さ1.2mm以下に加工された普通鋼である薄肉低炭素鋼を使用し、前記薄肉低炭素鋼を急加熱後急冷し、マルテンサイト組織を得る第1工程と、前記第1工程を経た前記薄肉状低炭素鋼を、前記第1工程における急加熱時の温度よりも低い温度まで再度急加熱した後急冷する第2工程とにより、高強度高靱性薄肉鋼を製造するために用いられる熱処理装置であって、処理対象である前記薄肉低炭素鋼を支持するワーク支持部と、前記第1工程における急加熱処理を行う第1加熱部と、前記第1工程における急冷却処理を行う第1冷却部と、前記第2工程における急加熱処理を行う第2加熱部と、前記第2工程における急冷却処理を行う第2冷却部とが順に配置されてなり、前記第1加熱部、前記第1冷却部、前記第2加熱部及び前記第2冷却部が、前記ワーク支持部に対して相対移動可能に設けられていることを特徴とする。
また、本発明の熱処理装置は、移動方向に所定の長さを備えた一つの加熱部と、前記ワークを挟んで前記加熱部と反対側に配置された第1冷却部と、前記ワークを挟んで前記加熱部と同じ側又は前記第1冷却部と同じ側に、前記加熱部又は前記第1冷却部に対して移動方向後方に所定間隔をおいて配置された第2冷却部とを備えると共に、前記加熱部は、その前部付近が前記第1冷却部に対応し、後部付近が前記第1冷却部よりも移動方向後方に延在している長さを有し、前記加熱部の前部付近が前記第1工程の急加熱を行う前記第1加熱部の機能と、前記加熱部の後部付近が前記第2工程の急加熱を行う前記第2加熱部の機能とを兼用した構成であることを特徴とする。この場合、前記第2冷却部は、前記加熱部と同じ側に配置されていることが好ましい。
また、前記ワーク支持部が前記薄肉低炭素鋼を支持した状態で回転可能に設けられた構成とすることができる。また、前記各加熱部が高周波誘導加熱を行うコイルを備えて構成されることが好ましく、前記各加熱部がレーザ加熱を行うレーザを備えてなる構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法及び熱処理装置によれば、 厚さ1.2mm以下の普通鋼である薄肉低炭素鋼について、急加熱及び急冷を行うことにより、ミクロ組織が、均質ではなく、粒径の異なる結晶粒が混合された混粒組織になり、好ましくは、この混粒組織に加えて硬質相組織が含まれているものが得られ、高強度、高靱性の薄肉低炭素鋼が得られる。また、急加熱及び急冷を伴う熱処理工程を複数回実施することにより、粒径のより小さな結晶粒の混粒組織あるいはそれに含まれる硬質相組織が得られ、より高強度、高靱性の薄肉低炭素鋼が得られる。また、2つの加熱部と2つの冷却部を所定の順に備えた熱処理装置を用いることにより、上記の複数回の急加熱及び急冷処理を効率的に実施できる。さらには、所定長の加熱部を一つ用いると共に、第1冷却部を、ワークを挟んで該加熱部の反対側に配置することで、より簡易な装置とすることができ、高強度高靱性薄肉鋼の製造コストの低減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)は、高周波誘導加熱装置の概略構成の一例を示す図であり、図1(b)は、高周波誘導加熱装置の好ましい例の概略構成を示した図であり、図1(c)は、第1工程及び第2工程における急加熱を行う加熱部が一つであって、かつ、ワークの両面から急冷処理行う高周波誘導加熱装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2は、試験例1における処理条件(A),(B)の温度条件を示した図である。
【図3】図3(a)〜(c)は、試験例1の処理条件(A),(B)で処理した試料1〜3のミクロ組織の電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は、試験例2における処理条件(C)の温度条件を示した図である。
【図5】図5は、試験例2の処理条件(C)で処理した試料1のミクロ組織の電子顕微鏡写真である。
【図6】図6(a)は、試料1及び試料2の素材の状態のミクロ組織の電子顕微鏡写真であり、図6(b),(c)は、比較例1で処理した試料1(比較試料1)及び試料2(比較試料2)の各ミクロ組織の電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、試験例1、試験例2及び比較例1で処理した試料1〜試料3の硬度(Hv)とフラクタル次元との関係を示した図である。
【図8】図8は、試験例1、試験例2及び比較例1で処理した試料1〜試料2の破断伸びとフラクタル次元との関係を示した図である。
【図9】図9(a),(b)は、試験例3の曲げ試験の測定方法を説明するための図である。
【図10】図10は、試験例3の曲げ試験の測定結果を示した図である。
【図11】図11は、試験例4の引張試験の測定結果を示した図である。
【図12】図12は、試験例5のパイプ状の鋼の引張試験の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の高強度高靱性薄肉鋼を製造する方法において、熱処理する際の受入材となる鋼素材は市販の普通鋼であって、薄肉かつ低炭素のもの(以下、「薄肉低炭素鋼」という)である。薄肉低炭素鋼としては、自動車のシートフレームなどに用いられる安価で加工性のよい圧延鋼板が適し、冷間圧延鋼板と熱間圧延鋼板のいずれも含む。厚さは、1.2mm以下である。これより厚い鋼の場合、高強度化、高靱性化を図るには、急加熱・急冷を行うに当たって、大きな熱源と大規模な冷却設備が必要となり、また、板厚方向で結晶粒の均質性が必要となるため制御が難しく、本発明の処理対象の鋼素材としては適さない。圧延工程を伴わず、急加熱、急冷の熱処理工程のみによって高強度化、高靱性化を図る本発明の処理対象鋼素材としては、厚さ1.0mm以下の薄肉低炭素鋼が好ましく、厚さ0.8mm以下の薄肉低炭素鋼がより好ましく、厚さ0.5mm以下の薄肉低炭素鋼がさらに好ましい。
【0015】
上記薄肉低炭素鋼は、炭素含有量が0.01〜0.3%で残部が鉄及び不可避不純物である低炭素鋼を用いることもできるが、炭素含有量が0.01〜0.12%で残部が鉄及び不可避不純物である極低炭素鋼を用いることが好ましい。炭素含有量がより低い、より安価な材料を用いることで、シートフレーム等の製造コストの低減を図ることができる。また、本発明は、薄肉に限定することにより、炭素含有量が低くても強度を上げるとことができる共に、靭性とのバランスも図ることができるため、炭素以外の合金元素の添加等を行う必要はなく、リサイクル性に優れている。一方、上記の炭素含有量以外については成分の制限がないため、例えば、普通鋼として使用されたものを混ぜ合わせたリサイクル鋼材で、炭素以外の成分が種々混入しているものであっても使用可能である。なお、加工処理対象の薄肉低炭素鋼は、板状のもの、パイプ状のもののいずれも含む。
【0016】
上記薄肉低炭素鋼を熱処理する工程は、次のような2工程で行うことが好ましい。すなわち、薄肉低炭素鋼を急加熱後急冷し、マルテンサイト組織を得る第1工程と、第1工程を経た薄肉低炭素鋼を、第1工程における急加熱時の温度よりも低い温度まで再度急加熱した後急冷する第2工程とを備えている。なお、薄肉低炭素鋼の第1工程及び第2工程による処理を複数回繰り返して施すことも可能である。
【0017】
第1工程においては、薄肉低炭素鋼を、300℃/秒以上の速度で1000℃以上まで、好ましくは1000℃〜1250℃の範囲の温度に至るまで急加熱する工程と、急加熱後900℃以上の所定の温度に低下するまで、好ましくは1000℃〜1100℃の範囲の温度に低下するまで10秒以内、好ましくは5秒以内保持し、その後300℃/秒以上の速度で急冷する工程とを有している。上記温度まで急加熱することにより、薄肉低炭素鋼の金属組織がオーステナイト化され、急冷によってマルテンサイト組織が形成されるが、本発明の処理対象である薄肉低炭素鋼は厚さ1.2mm以下であるため、このような300℃/秒以上という、いわば超急速加熱と超急速冷却により、比較的粗大化を免れた均質なマルテンサイト組織を形成できる。なお、急加熱速度及び急冷速度は、500℃/秒以上とすることがより好ましい。
【0018】
第2工程においては、第1工程における冷却後300℃/秒以上の速度で700℃以上まで、好ましくは750℃〜1050℃の範囲の温度に至るまで急加熱する工程と、急加熱後600℃以上の所定の温度に低下するまで、好ましくは700℃〜950℃の範囲の温度に低下するまで10秒以内、好ましくは5秒以内保持し、その後300℃/秒以上の速度で急冷する工程とを有している。第1工程を経た薄肉低炭素鋼を第2工程において再度熱処理する場合、第1工程による急冷によって、200℃以下まで下がってから行うことが好ましい。より低い温度、例えば、室温まで下がった後に別ラインで第2工程における熱処理を行ってもよい。なお、第2工程における急加熱速度及び急冷速度も、第1工程と同様に、500℃/秒以上とすることがより好ましい。
【0019】
第2工程における上記の超急速加熱と超急速冷却を行うことにより、マルテンサイト組織が変化し、最終的には、1μm以上30μm以下の異なる粒径(本明細書において「粒径」は「円相等粒径」のことをいう)の結晶粒の混粒組織を有し、平均粒径が、マルテンサイトを形成する熱処理を行った場合に得られる該マルテンサイトの平均粒径、すなわち、第1工程における熱処理を行った際に得られたマルテンサイトの平均粒径よりも小さい、粒径の異なる結晶粒が集まった混粒組織が得られる。
【0020】
混粒組織は、粒径1μm以上5μm未満の結晶粒と5μm〜30μmの結晶粒とが混合されて構成された組織であることが好ましく、さらには、粒径1μm以上5μm未満の結晶粒と5μm〜20μmの結晶粒とが混合されて構成されていることが好ましい。熱処理後の鋼が、このように均質な粒径ではなく、粒径の異なる混粒組織を有していることにより、薄肉低炭素鋼の場合には、部分伸びが生じ、それにより高い靭性の鋼が得られる。より高い強度を得るためには、混粒組織中に、該混粒組織よりも硬度の高い硬質相組織が分散されていることが好ましい。例えば、混粒組織が、粒径の異なるフェライト組織の場合に、その混粒組織に、粒径30μm以下、好ましくは20μm以下の島状マルテンサイトが分散されていることが好ましい。これにより、曲げ特性において、弾性域から塑性域に入ったところでの曲げモーメントによるはりのたわみによる反力が熱処理前と比較して1.5倍以上、引張特性における降伏点が熱処理前と比較して1.5倍以上の強度を有し、破断伸びが、薄肉低炭素鋼をマルテンサイトを形成する熱処理を行った状態すなわち第1工程における熱処理を行った際の破断伸びと比較して1.5倍以上の高強度高靱性の薄肉低炭素鋼が得られる。
【0021】
本発明によって得られる高強度高靱性薄肉鋼は、ミクロ組織が、上記したように粒径の異なる結晶粒の混粒組織であり、好ましくは、混粒組織中にマルテンサイト等の硬質相組織が分散された組織である。本発明は、このような組織制御により高い強度と靭性を備えた薄肉低炭素鋼を得ているが、本発明者は、このミクロ組織を粒径のフラクタル次元という観点から規定可能であることを見出した。詳細は後述するが、本発明のように熱処理によって制御された薄肉低炭素鋼のミクロ組織は、マルテンサイトを形成する熱処理を行った場合、すなわち第1工程の熱処理のみで得られるマルテンサイトにおける粒径のフラクタル次元よりも高くなっていた。
【0022】
なお、「フラクタル次元」とは、複雑さの程度を表す尺度で、自己相似性のある図形において、図形を1/nに縮小した相似形m個によって構成されるとき、フラクタル次元(相似性次元)Dは、D=log(m)/log(n)=log(元の図形と相似な同じ図形の数)/log(等分割した数)で表される。従って、本明細書の「粒径のフラクタル次元」は、結晶粒が細かくなるほど高くなる。
【0023】
上記した第1工程及び第2工程の各熱処理を行う熱処理装置としては、高周波誘導加熱装置を用いることが好ましい。また、高周波誘導加熱装置の加熱部(誘導加熱装置の場合には、誘導加熱部を構成するコイル)及び冷却部(冷却水を供給する冷却水供給部)が、熱処理対象の上記薄肉低炭素鋼及びワーク支持部に対し、相対的に所定の速度で移動するものが好ましい。これにより、規模が小さな設備であっても、上記した極めて短い時間での急加熱、急冷処理を実現できる。高周波誘導加熱装置の加熱部(誘導加熱装置の場合には、誘導加熱部を構成するコイル)及び冷却部の移動速度は、30mm/秒以内の範囲に設定することが好ましく、さらには18mm/秒以内の範囲に設定することがより好ましい。なお、ワーク(薄肉低炭素鋼)は、ワーク支持部によって支持され、ワークが板状の場合には、該ワーク支持部として板状のワークを載置可能な平板状のテーブルやワークの端部を把持する把持部(図1(a)〜(c)参照)から構成することができる。また、ワークがパイプ状のものの場合には、ワークを回転させながら処理することが好ましいことから、該ワーク支持部は、パイプ状のものを把持できる把持部を有し、この把持部が回転可能になっている構成とすることが好ましい。
【0024】
高周波誘導加熱装置は、図1(a)に示したように、加熱部と冷却水供給部が順に備えられたものを用いることができる。この加熱部と冷却水供給部は1セットのみであり、第1工程の処理を行う場合には、該加熱部を、所定の温度に制御して第1加熱部(コイル)として機能させて処理し、同様に、冷却水供給部を第1冷却部(冷却水供給部)として機能させる。そして、第1工程の処理を行った後、再び、図1(a)に示した高周波誘導加熱装置によって第2工程の処理を行う。この場合には、加熱部を、第1工程の処理よりも低い温度に制御して第2加熱部(コイル)として機能させ、冷却部を第2冷却部(冷却水供給部)として機能させて処理するものである。なお、高周波誘導加熱装置は、このように、加熱部と冷却水供給部が1セットのみ備えられたものに限らず、図1(b)に示したように、第1工程の処理を行う第1加熱部(コイル)及び第1冷却部(第1冷却水供給部)と、第2工程の処理を行う第2加熱部(コイル)及び第2冷却部(第2冷却水供給部)とが順に備えられた構成とすることが好ましい。図1(b)に示した装置によれば、第1工程及び第2工程を連続して施すことができ、ワークの処理速度が向上する。
【0025】
また、図1(c)に示したように、加熱部(コイル)の移動方向に沿った長さが所定以上のもの、例えば、5〜10cm程度の長尺のものを用いることにより、第1工程における第1加熱部と第2工程における第2加熱部とを兼用させた構成とすることができる。すなわち、この加熱部は、ワーク(薄肉低炭素鋼)の一面側に配置されており、ワークの反対側においては、該加熱部の移動方向前部付近に対応して冷却部(第1冷却水供給部)が設けられている。これにより、加熱部の移動方向前部付近が第1工程の急加熱処理を行い、それに対応する第1冷却水供給部が第1工程の急冷処理を行う。この加熱部と第1冷却水供給部とは、セットになって移動していく。すると、加熱部の後部付近により、第1工程の急加熱及び急冷処理が行われた部位が再度急加熱される。これにより、第2工程の急加熱処理が実行される。その後、加熱部の移動方向後方に所定間隔をおいて配置された冷却部(第2冷却水供給部)が、加熱部の後部付近によって急加熱された部位を急冷し、第2工程の急冷処理が施される。従って、図1(c)に示した長尺の加熱部(コイル)を用いた場合には、第1工程及び第2工程における急加熱を一つの加熱部(コイル)で実施できるため、簡易かつ安価な構造の高周波誘導加熱装置とすることができる。なお、図1(c)においては、第2冷却水供給部を、ワークを境として加熱部と同じ側に配置しているが、第1冷却水供給部と同じ側に配置することも可能である。但し、より効率のよい急冷処理を行うためには、図1(c)に示したように、加熱部と同じ側に配置することが好ましい。
【0026】
なお、第1工程及び第2工程における第1加熱部及び第2加熱部としてレーザを装着し、各急加熱処理をレーザ加熱により行うことも可能である。
【0027】
(試験例1)
次の各試料について、熱処理を施した。
(1)試料1:普通鋼冷延鋼板(SPCC)
・化学成分(%):C=0.04、Si=0.02、Mn=0.26、P=0.011、S=0.006
・厚さ:0.5mm、幅:100mm、長さ:200mm
(2)試料2:普通鋼冷延鋼板(SPCC)
・化学成分(%):C=0.037、Si=0.004、Mn=0.19、P=0.013、S=0.012、solAl=0.015、Cu=0.02、Ni=0.02、B=14(PPM)
・厚さ:0.5mm、幅:100mm、長さ:200mm
(3)試料3:普通鋼冷延鋼板(JSC440)
・化学成分(%):C=0.12、Si=0.06、Mn=1.06、P=0.022、S=0.005
・厚さ:0.6mm、幅:100mm、長さ:200mm
【0028】
熱処理装置としては、図1(a)に示した加熱部と冷却水供給部が1セットの高周波誘導加熱装置を用い、加熱部及び冷却水供給部により第1工程の処理を行った後、各試料を室温まで放置し、その後、同じ高周波誘導加熱装置により第2工程の処理を行った。処理条件は、次の(A)、(B)2つの条件で行った。
【0029】
・処理条件(A)
・第1工程:
(1)加熱部及び冷却水供給部の移動速度:800mm/分
(2)加熱部のコイルを120Aに調節した。相対的に加熱部が近づいてくると試料は徐々に温度が上がって予備加熱されるが、400℃から約1秒間で1200℃まで急加熱した。その後、1050℃に下がるまで約2.5秒間保持し、次いで冷却水供給部から冷却水を供給して200℃以下に至るまで約0.5秒で急冷した(図2の第1工程における実線)。
・第2工程:
(1)加熱部及び冷却水供給部の移動速度:800mm/分
(2)試料が室温まで低下した後、再び高周波誘導加熱装置にセットした。加熱部のコイルに流す電流を100Aに調節し、予備加熱されて400℃に至った以降約0.5秒で900℃まで急加熱した。800℃に下がるまで約2.5秒間保持し、次いで冷却水供給部から冷却水を供給して200℃以下まで約0.5秒で急冷し、その後、室温になるまで放置した(図2の第1工程における実線)。
【0030】
・処理条件(B)
・第1工程:
(1)加熱部及び冷却水供給部の移動速度:800mm/分
(2)加熱部のコイルを120Aに調節した。相対的に加熱部が近づいてくると試料は徐々に温度が上がって予備加熱されるが、400℃から約1秒間で1200℃まで急加熱した。その後、1050℃に下がるまで約2.5秒間保持し、次いで冷却水供給部から冷却水を供給して200℃以下に至るまで約0.5秒で急冷した(図2の第1工程における実線)。
・第2工程:
(1)加熱部及び冷却水供給部の移動速度:1000mm/分
(2)試料が室温まで低下した後、再び高周波誘導加熱装置にセットした。加熱部のコイルに流す電流を100Aに調節し、予備加熱されて400℃に至った以降約0.5秒で800℃まで急加熱した。700℃に下がるまで約2.5秒間保持し、次いで冷却水供給部から冷却水を供給して200℃以下まで約0.5秒で急冷し、その後、室温になるまで放置した(図2の第2工程における破線)。
【0031】
図3(a)は、処理条件(A),(B)による試料1の長さ方向の中央付近を切断して観察したミクロ組織の電子顕微鏡写真であり、図3(b)は、処理条件(A),(B)による試料2の長さ方向の中央付近を切断して観察したミクロ組織の電子顕微鏡写真である(なお、試料1、試料2の素材状態のミクロ組織は図6(a)の「素材」の欄参照)。図3(c)は、処理条件(A),(B)による試料3の長さ方向の中央付近を切断して観察したミクロ組織の電子顕微鏡写真である
【0032】
図3(a)から、処理条件(A)により処理された試料1は、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜30μmのフェライト組織との混粒組織となっており、混粒組織中に粒径30μm以下の島状マルテンサイトが5%未満であるが含まれていた。これに対し、処理条件(A)よりも、移動速度が速く、第2工程における加熱温度の低い処理条件(B)の場合には、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜20μmのフェライト組織との混粒組織になっており、処理条件(A)によるものの方が、結晶粒が大きめであった。
【0033】
図3(b)の場合、処理条件(A)により処理された試料2は、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜30μmのフェライト組織との混粒組織に加えて粒径30μ以下の島状マルテンサイトが約20%含まれていた。処理条件(B)の場合には、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜20μmのフェライト組織との混粒組織になっていた。
【0034】
試料3は、Cの含有量が0.12%と試料1及び試料2よりも多い。従って、3(c)に示したように、処理条件(A),(B)共に、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜30μmのフェライト組織との混粒組織に加えて粒径30μ以下の島状マルテンサイトが含まれていたが、島状マルテンサイトが約50〜60%の含まれていた。
【0035】
(試験例2)
上記の試料1を、図1(c)に示した長さ6cmの長尺なコイルからなる加熱部と、第1及び第2冷却水供給部とを備えた高周波誘導加熱装置により熱処理した。処理条件は、次の(C)のとおりである。
【0036】
・処理条件(C)
・第1工程:
(1)加熱部、第1及び第2冷却水供給部の移動速度:800mm/分
(2)加熱部のコイルを120Aに調節した。相対的に加熱部が近づいてくると試料は徐々に温度が上がって予備加熱されるが、400℃から約1秒間で1200℃まで急加熱した。その後、1050℃に下がるまで約2.5秒間保持し、次いで冷却水供給部から冷却水を供給して200℃以下に至るまで約0.5秒で急冷した(図4の第1工程の実線)。
・第2工程:
(1)加熱部、第1及び第2冷却水供給部の移動速度:1000mm/分
(2)加熱部のコイルに流す電流を90Aに調節し、約200℃になっていた試料1を加熱部の後部によって、約0.5秒で800℃まで急加熱した。700℃に下がるまで約2.5秒間保持し、次いで第2冷却水供給部から冷却水を供給して200℃以下まで約0.5秒で急冷し、その後、室温になるまで放置した(図4の第2工程の実線)。
【0037】
図5は、処理条件(C)による試料1の長さ方向の中央付近を切断して観察したミクロ組織の電子顕微鏡写真である。図5から、処理条件(C)により処理された試料1は、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜20μmのフェライト組織との混粒組織に加え、粒径5〜10μm前後の島状マルテンサイトが約20%形成されていた。
【0038】
(比較例1)
熱処理装置として、図1(a)に示した加熱部と冷却水供給部が1セットの高周波誘導加熱装置を用い、試料1(比較試料1)及び試料2(比較試料2)について、急加熱及び急冷を1回のみ行う熱処理を行った。
【0039】
処理条件は、加熱部(コイル)によって1200℃まで急加熱した後、冷却水供給部により急冷した場合(熱処理1)と、加熱部(コイル)によって900℃まで急加熱した後、冷却水供給部により急冷した場合(熱処理2)について試験した。熱処理1の条件は、マルテンサイト組織にすることをねらったものであり、熱処理2の条件は、混粒組織又は島状マルテンサイトを含んだ混粒組織にすることをねらったものである。各試料の長さ方向中央付近を切断して観察したミクロ組織の電子顕微鏡写真を図6に示す。なお、図中、「素材」は熱処理を行う前の試料1及び試料2のミクロ組織である。
【0040】
図6(a)から、「素材」の状態では、試料1及び試料2共に、粒径10μm以下のほぼ均等なフェライト組織になっている。図6(b)の「熱処理1」の状態では、比較試料1及び比較試料2共に、粒径20〜100μmの粗大なマルテンサイト組織になっている。図6(c)の「熱処理2」の状態では、比較試料2は、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜30μmのフェライト組織との混粒組織となってはいる。比較試料1の場合は、粒径1μm以上5μm未満の細粒のフェライト組織と粒径5〜30μmのフェライト組織との混粒組織に加えて、粒径5〜10μm前後の島状マルテンサイトが形成されている。
【0041】
図7は、平均硬度(Hv)を横軸に、粒径のフラクタル次元を縦軸にとって、試験例1及び試験例2の各試料1,2,3及び比較例1の比較試料1,2の各値をプロットした図である。この図から明らかなように、試料1及び試料2の場合、試験例1,2のいずれも、混粒組織又は混粒組織に島状マルテンサイトを形成したものは、比較例1においてマルテンサイト組織を形成した比較試料1,2(熱処理1)よりもフラクタル次元が高かった。また、図7に示した最小二乗法により求めた傾きが、比較例1よりも試験例1の方が全体としてフラクタル次元の高い傾向を示しており、試験例1のように複数回の急加熱処理、急冷処理を行うことにより、同じ混粒組織又は混粒組織に島状マルテンサイトを形成したものであっても、比較試料1,2(熱処理2)より、試料1,2−A処理(処理条件(A)による処理)及び試料1,2−B処理(処理条件(B)による処理)の方が、細粒化が図られ、靭性を高めることができることがわかった。また、試験例2の試料1−C処理(処理条件(C)による処理)の場合も、硬度が高くなっているにも拘わらず、比較試料1(熱処理2)の混粒組織を形成した場合と同程度のフラクタル次元であった。
【0042】
また、試験例1の試料3は非常に高い硬度が得られている。これは、島状マルテンサイトの分散割合が多いためであり、靭性の点では、試料1,2−A処理及び試料1,2−B処理によるものよりも劣っている。但し、比較試料1,2(熱処理1)と比べた場合には、マルテンサイト組織となっている図6(b)の場合に劣らない硬度を維持しながら、フラクタル次元が高くなっており、比較試料1,2(熱処理1)よりは高い硬度で靭性も高めることができることがわかる。しかし、Cの含有量がこれ以上の場合には、靭性がより劣るおそれがあることから、Cの含有量としては0.12%以下とすることがより望ましい。
【0043】
なお、金属組織の結晶粒の微細化により高強度化を図った場合、図7の素材の状態と比較して、ホール-ペッチ(Hall-Petch)の法則に従って、矢印Xで示したように、フラクタル次元が大きく上昇するが、超急加熱及び超急冷却の本発明の手法の場合には、結晶粒の微細化によらないことが、フラクタル次元の値の上昇割合が小さい傾向を示していたことからもわかる。
【0044】
図8は、破断伸び(%)を横軸に、粒径のフラクタル次元を縦軸にとって、試験例1及び試験例2の各試料1,2及び比較例1の比較試料1,2の各値をプロットした図である。例えば、「試料1−A処理」は、上記した混粒組織中に島状マルテンサイトが5%未満含まれているものであって、破断伸びは18.16%であり、「試料2−A処理」は、上記した混粒組織からなるものであり、破断伸びは20.44%である。フラクタル次元の高くなるほど、靭性の指標の一つである破断伸びが大きくなる傾向にあり、上記したフラクタル次元と靭性との相関が明らかになった。そして、この図8からも、急加熱処理及び急冷処理を1回だけ行った比較試料1,2と比べて、本発明の複数回の急加熱処理、急冷処理を行った試料1,2の方が、靭性を高めることができることがわかった。
【0045】
(試験例3)
(曲げ試験)
上記した試料1の普通鋼冷延鋼板と同じ化学成分であって、厚さ0.5mm、0.8mm、1.0mmの3種類の試料を、幅30mm、長さ100mmの範囲が含まれるように熱処理した(図9(a)参照)。熱処理は、上記した「処理条件(A)」に従って、第1工程、第2工程の各処理を行った。
【0046】
図9(b)に示したように、上記した各試料の両端部付近を支持する支持台上にセットし、熱処理を施した範囲の長さ方向中央部をクロスヘッドにより負荷速度:10mm/分で荷重をかけた。いずれの試料も熱処理を施していないもの(図10中、「生材」と表示)と熱処理を施したもの(図10中、「熱処理」と表示)のそれぞれについて試験した。その結果を図10に示す。
【0047】
図10から明らかなように、曲げ特性において、弾性域から塑性域に入ったところでの曲げモーメントによるはりのたわみによる反力は、厚さ0.5mmの熱処理後の試料は熱処理前の約2倍になっており、厚さ0.8mm及び厚さ1.0mmの熱処理後の試料はいずれも熱処理前の約2.5倍になっている。従って、厚さ0.8mmの生材に代えて厚さ0.5mmの熱処理後の試料を使用し、あるいは、厚さ1.0mmの生材に代えて厚さ0.8mmの熱処理後の試料を使用することにより、シートフレーム等の軽量化に寄与する。
【0048】
(試験例4)
(引張試験)
長さ150mm、幅30mmの試料の長さ方向端部をチャックに把持して試験した。試料は、上記した曲げ試験で使用した試料1の厚さ0.5mm、0.8mmのものと、試料2の厚さ0.5mmのものである。結果を図11に示す。図11中、「熱処理−A(試料1)」及び「熱処理−A(試料2)」は、上記した試験例1の処理条件(A)に従って熱処理したもので、ミクロ組織が混粒組織か又は混粒組織に島状マルテンサイトが形成されたものである。「熱処理1」は、上記した比較例1の「熱処理1」の条件に従って熱処理したもので、マルテンサイト組織になっているものである。
【0049】
この結果、比較例1において熱処理1のマルテンサイト組織が形成されたものは、降伏点(耐力)は高いが、破断伸びが小さい。これに対し、「熱処理−A(試料1)」及び「熱処理−A(試料2)」は、厚さ0.5mmの場合、降伏点(耐力)は熱処理前の素材の約2倍で、マルテンサイト組織が形成されたものよりも低いが、破断伸びは、マルテンサイト組織が形成されたものの3倍以上であった。厚さ0.8mmのものも、降伏点(耐力)は熱処理前の素材の約2.5倍でありながら、破断伸びは、マルテンサイト組織が形成されたものと比較して約2倍であった。
【0050】
(試験例5)
直径12mm、厚さ1.0mm、C含有量:0.08%の機械構造用炭素鋼鋼管(STKM−13C)を400rpmで回転させながら熱処理した。図1(a)の高周波誘導加熱装置によって第1工程及び第2工程の熱処理を行った場合(図12において「2段熱処理」と表示)と、第1工程の熱処理のみを行った場合(図12において「1段熱処理」と表示)について、引張試験を行って比較した。図12にその結果を示す。
【0051】
図12から明らかなように、本発明の2段熱処理を行ったものは、降伏点(耐力)が素材の約2倍以上となり、1段熱処理と比較して約2倍以上の破断伸びを有していた。なお、図12において「素材」は、伸び計をつけていないためグラフの立ち上がり方が他の熱処理したものと異なっているが、破断伸びは実測値から補正した。また、熱処理したもののグラフにおいて、いずれも途中で荷重が下がっているのは、伸び計を装着したままだと破断まで測定できないために、途中で測定機械を止めて取り外したためである。
【0052】
以上のことから、本発明の熱処理を施したミクロ組織が混粒組織か又は混粒組織に島状マルテンサイトが形成されたもの、すなわち、第1工程及び第2工程における急加熱及び急冷処理を行ったものは、硬度、降伏点(耐力)、引張強さ、曲げモーメントによるはりのたわみによる反力、破断伸びが、いずれも高いレベルで保たれており、市販の普通鋼を熱処理したものでありながら、高強度高靱性(高延性)のものが得られることがわかった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼素材を熱処理して高強度高靱性薄肉鋼を製造する方法であって、
熱処理の受入材である前記鋼素材として、厚さ1.2mm以下に加工された普通鋼である薄肉低炭素鋼を使用し、
前記薄肉低炭素鋼を急加熱後急冷し、マルテンサイト組織を得る第1工程と、
前記第1工程を経た前記薄肉状低炭素鋼を、前記第1工程における急加熱時の温度よりも低い温度まで再度急加熱した後急冷する第2工程と
を具備し、
前記薄肉低炭素鋼を、前記第1工程及び第2工程における急加熱及び急冷処理を行う各加熱部及び各冷却部に対して、相対移動させながら実施し、
前記第1工程においては、前記薄肉低炭素鋼を、300℃/秒以上の速度で1000℃以上まで急加熱する工程と、900℃以上で10秒以内保持した後300℃/秒以上の速度で急冷する工程とを有し、
前記第2工程においては、第1工程における冷却後300℃/秒以上の速度で700℃以上まで急加熱する工程と、600℃以上で10秒以内保持した後300℃/秒以上の速度で急冷する工程とを有することを特徴とする高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程における急加熱及び前記第2工程における急加熱を、高周波誘導加熱により実施することを特徴とする請求項1記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程における急加熱及び前記第2工程における急加熱を、レーザ加熱により実施することを特徴とする請求項1記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程及び第2工程における処理を複数回施すことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項5】
前記薄肉低炭素鋼は、Cの含有量が質量%で0.01〜0.12%であり、残部が鉄及び不可避不純物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程における前記急加熱工程では、1000℃〜1250℃の範囲の温度に至るまで急加熱し、
前記第2工程における前記急加熱工程では、750℃〜1050℃の範囲の温度に至るまで急加熱することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項7】
前記第1工程における前記急加熱後急冷前の保持時間を5秒以内とし、前記第2工程における前記急加熱後急冷前の保持時間を5秒以内としたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項8】
前記薄肉炭素鋼を処理する熱処理装置が、前記第1工程における急加熱処理を行う第1加熱部と、前記第1工程における急冷却処理を行う第1冷却部と、前記第2工程における急加熱処理を行う第2加熱部と、前記第2工程における急冷却処理を行う第2冷却部とを備えてなり、
前記薄肉低炭素鋼が、前記第1加熱部、前記第1冷却部、前記第2加熱部及び前記第2冷却部によって順に処理されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項9】
前記第1加熱部と第2加熱部とが、移動方向に所定の長さを備えた一つの加熱部により兼用され、かつ、前記第1工程における冷却処理及び前記第2工程における冷却処理を、処理対象の前記薄肉状低炭素鋼に対し、互いに反対面側から施すことを特徴とする請求項8記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項10】
前記薄肉低炭素鋼がパイプ状の場合に、該薄肉低炭素鋼を回転させながら処理を行うことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項11】
熱処理の受入材である前記鋼素材が厚さ1.0mm以下の薄肉低炭素鋼であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項12】
熱処理の受入材である前記鋼素材が厚さ0.8mm以下の薄肉低炭素鋼であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項13】
熱処理の受入材である前記鋼素材が厚さ0.5mm以下の薄肉低炭素鋼であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項14】
熱処理の受入材である前記鋼素材として、厚さ1.2mm以下に加工された普通鋼である薄肉低炭素鋼を使用し、前記薄肉低炭素鋼を急加熱後急冷し、マルテンサイト組織を得る第1工程と、前記第1工程を経た前記薄肉状低炭素鋼を、前記第1工程における急加熱時の温度よりも低い温度まで再度急加熱した後急冷する第2工程とにより、高強度高靱性薄肉鋼を製造するために用いられる熱処理装置であって、
処理対象である前記薄肉低炭素鋼を支持するワーク支持部と、
前記第1工程における急加熱処理を行う第1加熱部と、前記第1工程における急冷却処理を行う第1冷却部と、前記第2工程における急加熱処理を行う第2加熱部と、前記第2工程における急冷却処理を行う第2冷却部とが順に配置されてなり、
前記第1加熱部、前記第1冷却部、前記第2加熱部及び前記第2冷却部が、前記ワーク支持部に対して相対移動可能に設けられていることを特徴とする熱処理装置。
【請求項15】
移動方向に所定の長さを備えた一つの加熱部と、前記ワークを挟んで前記加熱部と反対側に配置された第1冷却部と、前記ワークを挟んで前記加熱部と同じ側又は前記第1冷却部と同じ側に、前記加熱部又は前記第1冷却部に対して移動方向後方に所定間隔をおいて配置された第2冷却部とを備えると共に、前記加熱部は、その前部付近が前記第1冷却部に対応し、後部付近が前記第1冷却部よりも移動方向後方に延在している長さを有し、
前記加熱部の前部付近が前記第1工程の急加熱を行う前記第1加熱部の機能と、前記加熱部の後部付近が前記第2工程の急加熱を行う前記第2加熱部の機能とを兼用した構成であることを特徴とする請求項14記載の熱処理装置。
【請求項16】
前記第2冷却部が、前記加熱部と同じ側に配置されていることを特徴とする請求項15記載の熱処理装置。
【請求項17】
前記ワーク支持部が前記薄肉低炭素鋼を支持した状態で回転可能に設けられていることを特徴とする請求項14〜16のいずれか1に記載の熱処理装置。
【請求項18】
前記各加熱部が高周波誘導加熱を行うコイルを備えてなることを特徴とする請求項14〜17のいずれか1に記載の熱処理装置。
【請求項19】
前記各加熱部がレーザ加熱を行うレーザを備えてなることを特徴とする請求項14〜17のいずれか1に記載の熱処理装置。
【請求項1】
鋼素材を熱処理して高強度高靱性薄肉鋼を製造する方法であって、
熱処理の受入材である前記鋼素材として、厚さ1.2mm以下に加工された普通鋼である薄肉低炭素鋼を使用し、
前記薄肉低炭素鋼を急加熱後急冷し、マルテンサイト組織を得る第1工程と、
前記第1工程を経た前記薄肉状低炭素鋼を、前記第1工程における急加熱時の温度よりも低い温度まで再度急加熱した後急冷する第2工程と
を具備し、
前記薄肉低炭素鋼を、前記第1工程及び第2工程における急加熱及び急冷処理を行う各加熱部及び各冷却部に対して、相対移動させながら実施し、
前記第1工程においては、前記薄肉低炭素鋼を、300℃/秒以上の速度で1000℃以上まで急加熱する工程と、900℃以上で10秒以内保持した後300℃/秒以上の速度で急冷する工程とを有し、
前記第2工程においては、第1工程における冷却後300℃/秒以上の速度で700℃以上まで急加熱する工程と、600℃以上で10秒以内保持した後300℃/秒以上の速度で急冷する工程とを有することを特徴とする高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程における急加熱及び前記第2工程における急加熱を、高周波誘導加熱により実施することを特徴とする請求項1記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程における急加熱及び前記第2工程における急加熱を、レーザ加熱により実施することを特徴とする請求項1記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程及び第2工程における処理を複数回施すことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項5】
前記薄肉低炭素鋼は、Cの含有量が質量%で0.01〜0.12%であり、残部が鉄及び不可避不純物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程における前記急加熱工程では、1000℃〜1250℃の範囲の温度に至るまで急加熱し、
前記第2工程における前記急加熱工程では、750℃〜1050℃の範囲の温度に至るまで急加熱することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項7】
前記第1工程における前記急加熱後急冷前の保持時間を5秒以内とし、前記第2工程における前記急加熱後急冷前の保持時間を5秒以内としたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項8】
前記薄肉炭素鋼を処理する熱処理装置が、前記第1工程における急加熱処理を行う第1加熱部と、前記第1工程における急冷却処理を行う第1冷却部と、前記第2工程における急加熱処理を行う第2加熱部と、前記第2工程における急冷却処理を行う第2冷却部とを備えてなり、
前記薄肉低炭素鋼が、前記第1加熱部、前記第1冷却部、前記第2加熱部及び前記第2冷却部によって順に処理されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項9】
前記第1加熱部と第2加熱部とが、移動方向に所定の長さを備えた一つの加熱部により兼用され、かつ、前記第1工程における冷却処理及び前記第2工程における冷却処理を、処理対象の前記薄肉状低炭素鋼に対し、互いに反対面側から施すことを特徴とする請求項8記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項10】
前記薄肉低炭素鋼がパイプ状の場合に、該薄肉低炭素鋼を回転させながら処理を行うことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項11】
熱処理の受入材である前記鋼素材が厚さ1.0mm以下の薄肉低炭素鋼であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項12】
熱処理の受入材である前記鋼素材が厚さ0.8mm以下の薄肉低炭素鋼であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項13】
熱処理の受入材である前記鋼素材が厚さ0.5mm以下の薄肉低炭素鋼であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1に記載の高強度高靱性薄肉鋼の製造方法。
【請求項14】
熱処理の受入材である前記鋼素材として、厚さ1.2mm以下に加工された普通鋼である薄肉低炭素鋼を使用し、前記薄肉低炭素鋼を急加熱後急冷し、マルテンサイト組織を得る第1工程と、前記第1工程を経た前記薄肉状低炭素鋼を、前記第1工程における急加熱時の温度よりも低い温度まで再度急加熱した後急冷する第2工程とにより、高強度高靱性薄肉鋼を製造するために用いられる熱処理装置であって、
処理対象である前記薄肉低炭素鋼を支持するワーク支持部と、
前記第1工程における急加熱処理を行う第1加熱部と、前記第1工程における急冷却処理を行う第1冷却部と、前記第2工程における急加熱処理を行う第2加熱部と、前記第2工程における急冷却処理を行う第2冷却部とが順に配置されてなり、
前記第1加熱部、前記第1冷却部、前記第2加熱部及び前記第2冷却部が、前記ワーク支持部に対して相対移動可能に設けられていることを特徴とする熱処理装置。
【請求項15】
移動方向に所定の長さを備えた一つの加熱部と、前記ワークを挟んで前記加熱部と反対側に配置された第1冷却部と、前記ワークを挟んで前記加熱部と同じ側又は前記第1冷却部と同じ側に、前記加熱部又は前記第1冷却部に対して移動方向後方に所定間隔をおいて配置された第2冷却部とを備えると共に、前記加熱部は、その前部付近が前記第1冷却部に対応し、後部付近が前記第1冷却部よりも移動方向後方に延在している長さを有し、
前記加熱部の前部付近が前記第1工程の急加熱を行う前記第1加熱部の機能と、前記加熱部の後部付近が前記第2工程の急加熱を行う前記第2加熱部の機能とを兼用した構成であることを特徴とする請求項14記載の熱処理装置。
【請求項16】
前記第2冷却部が、前記加熱部と同じ側に配置されていることを特徴とする請求項15記載の熱処理装置。
【請求項17】
前記ワーク支持部が前記薄肉低炭素鋼を支持した状態で回転可能に設けられていることを特徴とする請求項14〜16のいずれか1に記載の熱処理装置。
【請求項18】
前記各加熱部が高周波誘導加熱を行うコイルを備えてなることを特徴とする請求項14〜17のいずれか1に記載の熱処理装置。
【請求項19】
前記各加熱部がレーザ加熱を行うレーザを備えてなることを特徴とする請求項14〜17のいずれか1に記載の熱処理装置。
【図1】
【図2】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【図5】
【図6】
【図2】
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【図5】
【図6】
【公開番号】特開2010−196106(P2010−196106A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41571(P2009−41571)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(594176202)株式会社デルタツーリング (111)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(594176202)株式会社デルタツーリング (111)
【Fターム(参考)】
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