説明

高強度7000系アルミニウム合金押出材

【課題】T処理にて高強度が得られる7000系アルミニウム合金押出材の提供を目的とする。
【解決手段】質量%で、Mg:1.0〜2.5%,Zn:6〜7%,Ag:0.5〜2.0%含有することを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用の構造部材等に好適な7000系の新規アルミニウム合金を用いた押出材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の分野では、車両の軽量化を図ることが燃費向上に寄与し、地球環境保護の観点からも近年、さらなる軽量化が要求されている。
その一方で、安全性の観点からは構造部材の高強度化が要求されている。
従来の高強度アルミニウム合金の代表例に、Al−Zn−Mg系,Al−Zn−Mg−Cu系のJIS7000系アルミニウム合金がある。
しかし、上記従来の7000系アルミニウム合金では、近年の車両の軽量化ニーズと高剛性化のニーズに応えるだけの強度がなかった。
単に、Mg,Znなどの化学成分の添加量を増加させるだけでは、押出生産性の著しい低下により、車両の高剛性構造部材に必要な中空断面押出材の押出成形そのものが困難であったり、高コストの原因となった。
さらには、車両用構造部材に適用する際には、優れた耐応力腐食割れ性も要求される。
【0003】
例えば、特許文献1には、以下全て質量%で、Zn:4〜5%,Mg:0.8〜1.7%,Cu:0.6〜1%及びこれらにAg:0.5〜1%添加した高強度アルミニウム合金を開示する。
しかし、同公報に開示する高強度アルミニウム合金は圧延材としての使用を目的としているのみならずT処理をすることで高強度化を図ったものである。
ところが、水焼入れを有するT処理では材料に水素が取り込まれやすく、その結果として表面に応力腐食割れによる割れが発生する恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−339671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、T処理にて高強度が得られる7000系アルミニウム合金押出材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る7000系アルミニウム合金押出材は、質量%で、Mg:1.0〜2.5%,Zn:6〜7%,Ag:0.5〜2.0%含有することを特徴とする。
ここで、7000系アルミニウム合金押出材とはAl−Zn−Mg系又はAI−Zn−Mg−Cu系のアルミニウム合金に他の添加成分を加え、直接押出成形又は間接押出成形により生産された押出材をいう。
本発明にあっては、上記7000系アルミニウム合金にAg:0.5〜2.0%含まれていることを特徴とする。
Mg成分とZn成分は、アルミニウム合金押出材の高強度化を図るのに必須な成分であり、合金組織中にはMgZnとして析出すると推定されている。
本発明にあっては、さらにAg成分を添加することでAlAgMgの析出硬化を図ったものである。
よって、これらの析出量を考慮し、Mg:1.0〜2.5%,Zn:6〜7%,Ag:0.5〜2.0%の範囲に設定した。
より具体的に説明すると、Mg成分が1.0%未満ではT処理にて充分な強度が得られなく、Mg成分が2.5%を超えると押出性が低下し、中空断面形状の押出材が得られ難くなる。
Zn成分は押出性の低下を抑えつつ、高強度化に寄与することからZn成分を6%以上に設定し、上限を7%以下とした。
ここで、上限を7%に設定したのは7%を超えると耐応力腐食割れ性が低下し、車両の構造部材への範囲が困難になるからである。
Ag成分は0.5%以上添加することで強度向上の効果が大きく出現し、Ag成分を20.%を超えて添加すると、Mgに対して過剰になるからである。
【0007】
本発明にあっては、Zr:0.05〜0.25%添加するとAlと結合し、微細な化合物を形成し、再結晶を抑制することで強度向上を図ることができる。
ここでZr成分が0.25%を超えると焼入れ感受性が強くなり、T処理で充分な強度が得られにくくなる。
なお、同様の効果を示す成分にMn及びCrがあり、これを添加する場合にはMn:0.05〜0.25%,Cr:0.05〜0.25%の範囲がよいが、Mn及びCrはZrよりも焼入れ感受性への影響が大きい。
【0008】
本発明において、Si:0.2〜1.0%添加してもよい。
SiはMgSiの析出により強度向上が期待される。
ただし、Siを1.0%を超えて添加すると押出成形後の空冷にて焼入れ感受性が強くなり過ぎ、逆に強度低下する恐れが高い。
【0009】
本発明においても、Cu成分を0.1〜0.8%添加することでAlCuMgの析出による強度向上の期待ができるものの、押出性低下の原因になり、0.8%を超えると耐食性が低下するから、本発明にあってはCu成分の添加をすることなく高強度化を図るのが好ましい。
【0010】
本発明にあって、Ti成分及びB成分は必須でないが、押出成形用ビレットの鋳造組織を微細化する作用があり、添加する場合にはTi:0.005〜0.05%,B:0.001〜0.01%の範囲である。
また、Fe成分は一般的に不純物として含まれ、押出材の靭性を悪化させるので、0.2%以下に抑えるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明にあっては、7000系アルミニウム合金にAg成分又は/及びSi成分を所定量添加することで、T処理にて高い強度が得られ、特にAgを添加することで0.2%耐力値410MPa以上の高強度が得られ、さらにZr成分と組み合せると同耐力値420MPa以上の約440MPaの強度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】アルミニウム合金組成と機械的性質の評価結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1の表、実施例1〜6及び比較例21〜23に示す化学成分のアルミニウム合金の溶湯を調整し、直径48mmの円柱ビレットを鋳造し、500〜540℃の温度範囲にて均質化処理し、押出温度450〜520℃にて押出成形した。
押出直後はファン冷却し、その後に人工時効処理(T)した。
人工時効処理条件は50〜150℃+150〜200℃の二段時効を施した。
このようにして得られた押出材の機械的性質の評価結果を図1の表に示す。
本発明に係る実施例1〜6において、実施例1はSi:0.33%添加した7000系アルミニウム合金であり、これにより従来の比較例合金よりも強度が向上している。
実施例2はSi:0.33%,Zr:0.20%添加した7000系アルミニウム合金である。
実施例3,4は先の実施例1,2に対してさらにCu:0.56%添加したものであり、さらに強度が向上している。
特に実施例4はZrの添加効果が大きく出現している。
実施例5,6はAg:0.95%添加した7000系アルミニウム合金であり、従来のCu成分を添加することなく、T処理処理にて0.2%耐力値にて410MPa以上の高強度が得られている。
特に実施例6はZr成分の効果も加わり、0.2%耐力値にて443MPaの値が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、Mg:1.0〜2.5%,Zn:6〜7%,Ag:0.5〜2.0%含有することを特徴とする7000系アルミニウム合金押出材。
【請求項2】
さらに、Zr:0.05〜0.25%含有することを特徴とする請求項1記載の7000系アルミニウム合金押出材。
【請求項3】
さらに、Si:0.2〜1.0%含有することを特徴とする請求項1又は2記載の7000系アルミニウム合金押出材。
【請求項4】
さらに、Cu:0.1〜0.8%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の7000系アルミニウム合金押出材。
【請求項5】
質量%で、Mg:1.0〜2.5%,Zn:6〜7%,Si:0.2〜1.0%含有することを特徴とする7000系アルミニウム合金押出材。

【図1】
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【公開番号】特開2011−241449(P2011−241449A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114766(P2010−114766)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000100791)アイシン軽金属株式会社 (137)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)