説明

高彩度複層塗膜の形成方法及び塗装物

【課題】高彩度でかつ深みのある意匠性を備える複層塗膜を提供する。
【解決手段】被塗装物の上に形成された中塗り塗膜、中塗り塗膜の上に形成された第1ベース塗膜、第1ベース塗膜の上に形成された第2ベース塗膜、第2ベース塗膜の上に形成されたクリア塗膜を少なくとも含む複層塗膜の形成方法であって、該方法が、第1ベース塗膜形成工程、第2ベース塗膜形成工程、クリア塗膜形成工程、焼付工程を含み、第1水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度が、第1水性ベース塗料の全質量に対して5〜15質量%の範囲であり、第2水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度が、第2水性ベース塗料の全質量に対して15〜45質量%の範囲であり、基剤樹脂及び硬化剤が硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜の膜厚が2〜8 μmの範囲であり、基剤樹脂及び硬化剤が硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜と第2ベース塗膜との膜厚の比率が1:1.5〜1:6の範囲である、前記複層塗膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物の上に順次形成された中塗り塗膜、第1ベース塗膜、第2ベース塗膜及びクリア塗膜を少なくとも含む複層塗膜の形成方法であって、高彩度でかつ深みのある意匠性を有する複層塗膜を形成させる前記方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体の塗装は、通常、被塗装物上に電着塗膜、中塗り塗膜及び上塗り塗膜を順次形成させることによって実施される。従来の方法では、被塗装物を電着塗料中に浸漬することによって電着塗装した後、高温で焼付処理することにより塗料を硬化させて電着塗膜を形成させ、その後、電着塗膜上に中塗り塗料を塗装した後、焼付処理して中塗り塗膜を形成させて、さらに中塗り塗膜上に上塗り塗料を塗装した後、焼付処理して上塗り塗膜を形成させる工程が一般的であった。しかしながら、上記のように各塗膜の形成時に毎回焼付処理を行うのは、資源及びコスト削減を図る観点から好ましくない。それ故、近年では、中塗り塗料及び/又は上塗り塗料の塗装後に焼付処理を行わず、未硬化の塗膜上に次工程の塗料を重ねて塗装する、ウェット・オン・ウェット塗装が行われるようになっている。
【0003】
例えば、近年主流となっているメタリック塗色やマイカ塗色は、上塗り塗料として、光沢感を得るための光輝性顔料と彩度を得るための着色顔料とを含むベース塗料、及び透明なクリア塗料を使用する。通常、光輝性顔料としては、メタリック塗色の場合には金属性の光沢を有するアルミニウムフレーク顔料が、マイカ塗色の場合には干渉性を有するマイカが、それぞれ使用される。これらの塗色の複層塗膜の場合、焼付処理された中塗り塗膜上に、前記ベース塗料及びクリア塗料をウェット・オン・ウェット塗装して未硬化塗膜を形成した後、得られた未硬化塗膜を1回の焼付処理で硬化させる。
【0004】
しかしながら、メタリック塗色やマイカ塗色のウェット・オン・ウェット塗装を行う場合、ベース塗料に含有される光輝性顔料の配向が乱れることにより、金属光沢感、金属調意匠性及び/又はフリップフロップ性が低下する、光沢ムラが発生する、さらには彩度が不十分になる等の問題があった。
【0005】
上記のような問題を解決するために、様々な方法が提案されている。
【0006】
例えば特許文献1には、被塗装物上に着色成分及び/又は光輝材を含有している第1塗料を塗布して未硬化の第1塗膜を形成させ、未硬化の第1塗膜の上に着色成分を含有している第2塗料を塗布して未硬化の第2塗膜を形成させ、未硬化の第2塗膜の上にクリア塗料を塗布してクリア塗膜を形成させる工程を含む多層塗膜形成方法が記載されている。当該文献には、上記の方法において第2塗料中の着色成分含有量を規定することによって、色ムラ、色落ち及び耐候性の低下等の問題が発生せず、かつ、色に深みがあり、彩度の高い高意匠性多層複層塗膜を形成することができると記載されている。
【0007】
特許文献2には、被塗装物上に水性第1ベース光輝性塗料を塗装して未硬化の第1ベース塗膜を形成させ、未硬化の第1ベース塗膜の上に水性第2ベース光輝性塗料を塗装して未硬化の第2ベース塗膜を形成させ、未硬化の第2ベース塗膜の上にクリア塗料を塗装してクリア塗膜を形成させ、未硬化の第1ベース、第2ベース及びクリア塗膜を一度に加熱硬化させる工程を含む光輝性塗膜形成方法が記載されている。当該文献には、上記の方法において水性第1ベース光輝性塗料及び水性第2ベース光輝性塗料中の塗料固形分含有量を規定することによって、金属性の光沢を有するアルミニウムフレーク顔料等では光輝ムラのない金属外観を示し、また、干渉性を有するマイカ顔料等では非常に高いフリップフロップ性を発現する光輝性塗膜を得ることができると記載されている。
【0008】
特許文献3には、被塗装物上に光輝材含有溶剤型ベースコート塗料(A)を塗布して未硬化の塗膜(a)を形成させ、未硬化の塗膜(a)の上に光輝材含有溶剤型ベースコート塗料(B)を塗布して未硬化の塗膜(b)を形成させ、未硬化の塗膜(b)の上にトップクリア塗料を塗布してクリア塗膜を形成させ、その後、未硬化の塗膜(a)、塗膜(b)及びクリア塗膜に対して同時に焼付を行う工程を含む塗膜形成方法が記載されている。当該文献には、上記の方法においてベースコート塗料中の光輝性顔料及び塗料固形分の含有量、並びに塗膜の乾燥膜厚を規定することによって、金属光沢感及び金属意匠性に極めて優れた塗膜を得ることができると記載されている。
【0009】
特許文献4には、被塗装物上に光輝性顔料含有水性ベースコート塗料(A1)を塗装して未硬化の第1ベースコート塗膜を形成させ、未硬化の第1ベースコート塗膜の上に光輝性顔料含有水性ベースコート塗料(A2)を塗布して未硬化の第2ベースコート塗膜を形成させ、その後、両塗膜を同時に加熱硬化させる工程を含む光輝性複層塗膜形成方法が記載されている。当該文献には、上記の方法において水性ベースコート塗料中の塗料固形分含有量及び光輝性顔料含有水性ベースコート塗料(A1)中に含有される無機微粒子の粒径を規定することによって、光輝感と塗膜の平滑性に優れた塗膜を得ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001-314807号公報
【特許文献2】特開2004-351389号公報
【特許文献3】特開2006-150169号公報
【特許文献4】特表2009-505807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年高まっている環境負荷軽減に対する社会的な要請により、自動車車体の塗装分野においても、環境中に放出される有機溶剤を削減するため、希釈溶剤として有機溶剤の代わりに水を使用する、水性塗料の活用への取り組みが活発である。しかしながら、水性塗料は希釈溶剤である水の揮散速度が遅い上、揮散速度が温度や湿度等の塗装環境条件に大きく影響を受ける。このため、水性塗料を使用したウェット・オン・ウェット塗装の場合、有機溶剤型塗料を使用する場合に比べて光輝性顔料の配向の乱れが生じやすくなり、結果として、彩度の低下がより顕著となっていた。それ故本発明は、光輝性顔料を含有する第1水性ベース塗料と着色顔料を含有する第2水性ベース塗料を使用することにより、光輝性顔料の配向性を向上させ、高彩度でかつ深みのある意匠性を有する複層塗膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、複層塗膜の形成時に使用される第1及び第2水性ベース塗料の各成分濃度、及びベース塗膜の乾燥膜厚に関する好適な条件を見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0014】
(1)被塗装物の上に形成された中塗り塗膜、中塗り塗膜の上に形成された第1ベース塗膜、第1ベース塗膜の上に形成された第2ベース塗膜、第2ベース塗膜の上に形成されたクリア塗膜を少なくとも含む複層塗膜の形成方法であって、該方法が:
中塗り塗膜の上に、光輝性顔料を含有する熱硬化性の第1水性ベース塗料を塗装して未硬化の第1ベース塗膜を形成させる、第1ベース塗膜形成工程;
未硬化の第1ベース塗膜の上に、着色顔料を含有する熱硬化性の第2水性ベース塗料を塗装して未硬化の第2ベース塗膜を形成させる、第2ベース塗膜形成工程;
未硬化の第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜の上に、熱硬化性のクリア塗料を塗装して未硬化のクリア塗膜を形成させる、クリア塗膜形成工程;
未硬化の第1ベース塗膜、第2ベース塗膜、及びクリア塗膜を焼付処理して各塗膜を加熱硬化させて、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜、第2ベース塗膜及びクリア塗膜を含む複層塗膜を形成させる、焼付工程;
を含み、第1水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度が、第1水性ベース塗料の全質量に対して5〜15質量%の範囲であり、第2水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度が、第2水性ベース塗料の全質量に対して15〜45質量%の範囲であり、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜の膜厚が2〜8 μmの範囲であり、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜と第2ベース塗膜との膜厚の比率が1:1.5〜1:6の範囲である、前記複層塗膜の形成方法。
【0015】
(2) 第2ベース塗膜形成工程とクリア塗膜形成工程の間に、未硬化の第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜をプレヒート処理して未硬化のプレヒート処理された第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜を形成させるプレヒート工程をさらに含む、前記(1)の複層塗膜の形成方法。
【0016】
(3) 第1水性ベース塗料に含有される光輝性顔料濃度が、第1水性ベース塗料に含有される塗料固形分100質量部に対して10〜60質量部の範囲である、前記(1)又は(2)の複層塗膜の形成方法。
【0017】
(4) 第2水性ベース塗料に含有される着色顔料濃度が、第2水性ベース塗料に含有される塗料固形分100質量部に対して0.1〜20質量部の範囲である、前記(1)〜(3)のいずれか1項の複層塗膜の形成方法。
【0018】
(5) 前記(1)〜(4)のいずれか1項の方法で形成された複層塗膜を備える塗装物。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、光輝性顔料の配向性を向上させ、高彩度でかつ深みのある意匠性を有する複層塗膜の形成方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1ベース塗膜を備える塗板において、第1ベース塗膜の乾燥膜厚と塗板正面方向からの入射光の反射強度との関係を示す図である。
【図2】本発明の複層塗膜を備える塗板において、第1ベース塗膜の乾燥膜厚と塗膜表面の彩度との関係を示す図である。
【図3】本発明の複層塗膜を備える塗板において、第1水性ベース塗料の固形分濃度と塗膜表面の彩度との関係を示す図である。
【図4】本発明の複層塗膜を備える塗板において、第2水性ベース塗料の固形分濃度と塗膜表面の彩度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
1.複層塗膜の形成方法
本発明の複層塗膜の形成方法は、被塗装物の上に形成された中塗り塗膜、中塗り塗膜の上に形成された第1ベース塗膜、第1ベース塗膜の上に形成された第2ベース塗膜、第2ベース塗膜の上に形成されたクリア塗膜を少なくとも含む複層塗膜の形成方法であって、該方法が、第1ベース塗膜形成工程、第2ベース塗膜形成工程、クリア塗膜形成工程、及び焼付工程を含む方法である。
【0022】
本発明の複層塗膜の形成方法は、第1ベース塗膜形成工程を実施する前に、電着塗膜形成工程及び/又は中塗り塗膜形成工程をさらに含んでも良い。この場合、本発明の複層塗膜は、被塗装物の上に形成された電着塗膜、電着塗膜の上に形成された中塗り塗膜、中塗り塗膜の上に形成された第1ベース塗膜、第1ベース塗膜の上に形成された第2ベース塗膜、第2ベース塗膜の上に形成されたクリア塗膜を少なくとも含む。
【0023】
また、本発明の複層塗膜の形成方法は、第2ベース塗膜形成工程とクリア塗膜形成工程の間に、未硬化の第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜をプレヒート処理して未硬化のプレヒート処理された第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜を形成させるプレヒート工程をさらに含んでも良い。
【0024】
本明細書において、「被塗装物」は、本発明の複層塗膜の形成方法によってその表面に塗膜の形成が予定される物を意味し、「塗装物」は、本発明の複層塗膜の形成方法によって形成される複層塗膜を被塗装物の表面に備える物を意味する。本発明の複層塗膜の形成方法に使用される被塗装物の材料としては、金属若しくはそれらを含有する合金又はプラスチックを挙げることができる。本発明の複層塗膜が被塗装物の上に形成された電着塗膜をさらに含む場合、被塗装物の材料としては、導電性の金属若しくはそれらを含有する合金、又は予め導電処理を施したプラスチックが好ましい。一例として、鉄、銅、アルミニウム、スズ若しくは亜鉛等の金属又はそれらを含有する合金が特に好ましい。また、本発明の複層塗膜の形成方法によって得られる塗装物の用途としては、例えば、乗用車、トラック若しくはオートバイ等の自動車車体又は部品が好ましく、該塗装物の形状としては、上記のような用途に使用するための形状が好ましい。それ故、本発明の複層塗膜の形成方法において特に好ましい被塗装物は、上記の好適な金属若しくはそれらを含む合金からなる、自動車車体及び/又は部品を製造するための板並びに成型物である。上記のような材料及び形状からなる被塗装物に本発明の複層塗膜の形成方法を適用することにより、高彩度でかつ深みのある意匠性を有する複層塗膜を備える塗装物を製造することが可能となる。
【0025】
以下、各工程について詳細に説明する。
1−1.電着塗膜形成工程
本工程は、被塗装物の上に熱硬化性の電着塗料を塗装して、電着塗膜を形成させることを目的とする。
【0026】
本明細書において、「電着塗料」は、上記のような被塗装物の表面に塗装されることにより、塗装物の錆、腐食を防止するとともに、塗装物表面の耐衝撃性を強化するために使用される塗料を意味する。本工程に使用される電着塗料は、当業界で慣用される熱硬化性の水性塗料であることが好ましく、カチオン型電着塗料又はアニオン型電着塗料のいずれも使用することができる。かかる電着塗料は、基剤樹脂及び硬化剤と、水及び/又は親水性有機溶剤からなる水性媒体とを少なくとも含有する水性塗料であることが好ましい。耐錆性の観点から、基剤樹脂としてはエポキシ樹脂、アクリル樹脂又はポリエステル樹脂等を、硬化剤としてはブロック化ポリイソシアネート化合物又はアミノ樹脂等を使用することが好ましい。ここで、親水性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール又はエチレングリコール等を使用することができる。上記の好適な構成の電着塗料を塗装することにより、耐錆性及び耐衝撃性の高い電着塗膜を得ることが可能となる。
【0027】
本明細書において、「電着塗膜」は、上記の電着塗料を被塗装物の上に塗装して形成される塗膜を意味する。
【0028】
本工程において、電着塗料を被塗装物の上に塗装する手段は、当業界で慣用される電着塗装方法を採用することができる。上記の塗装方法により、予め成形処理を施された被塗装物においても、その表面の略全体に亘って耐錆性の高い塗膜を形成させることが可能となる。
【0029】
本工程において形成される電着塗膜は、続いて形成される中塗り塗膜との間における混層の発生を防止し、結果として得られる複層塗膜の塗装外観を向上させるために、熱硬化性の電着塗料を塗装した後、未硬化の該塗膜を焼付処理して加熱硬化させることが好ましい。本明細書において、「焼付処理」は、熱硬化性の塗料が表面に塗装された塗装物を高温条件下で加熱することにより、塗料中に含有される水性媒体を揮散させるとともに、基剤樹脂及び硬化剤を重合させ、硬化した乾燥状態の塗膜を形成させる処理を意味する。基剤樹脂及び硬化剤を重合させるためには、重合に必要な硬化温度を超える温度で焼付処理する必要がある。しかしながら、一般に180℃を超える温度で焼付処理を行うと、塗膜が固くなり過ぎて脆くなり、また110℃未満の温度で焼付処理を行うと、上記の成分の重合が不十分となり、いずれも好ましくない。それ故、本発明の複層塗膜の形成方法において実施される焼付処理は、使用される熱硬化性の塗料に含有される基剤樹脂及び硬化剤の硬化温度に対して10〜50℃高い温度であることが好ましい。本工程において、未硬化の電着塗膜の焼付処理の温度は、110〜180℃であることが好ましい。また、焼付処理の時間は、10〜60分間であることが好ましい。上記の条件で焼付処理を行うことにより、硬化した乾燥状態の電着塗膜を得ることが可能となる。
【0030】
また、上記の条件で焼付処理した後の、硬化した電着塗膜の乾燥膜厚は、5〜40 μmの範囲であることが好ましい。
【0031】
なお、本明細書において、「乾燥膜厚」は、熱硬化性の塗料を塗装して未硬化の塗膜を形成させた後、該未硬化の塗膜を焼付処理して形成される硬化した乾燥状態の塗膜の厚さを意味する。乾燥膜厚は、例えば、JIS K 5600-1-7(1999)により測定することができる。
【0032】
上記の好適な構成の電着塗膜を形成させることにより、塗装物の耐錆性及び耐衝撃性を向上させることが可能となる。
【0033】
1−2.中塗り塗膜形成工程
本工程は、電着塗膜の上に熱硬化性の中塗り塗料を塗装して、中塗り塗膜を形成させることを目的とする。
【0034】
本明細書において、「中塗り塗料」は、塗膜の表面平滑性を確保し、かつ耐衝撃性及び耐チッピング性(小石などの障害物の衝突によって生じる塗膜の損傷に対する耐性)等の塗膜物性を強化するために使用される塗料を意味する。本工程に使用される熱硬化性の中塗り塗料は、当業界で慣用される熱硬化性の水性塗料であって、基剤樹脂及び硬化剤と、水及び/又は親水性有機溶剤からなる水性媒体とを少なくとも含有する水性塗料であることが好ましい。ここで上記の基剤樹脂及び硬化剤としては、当業界で慣用される公知の化合物を使用すれば良く、基剤樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂又はアクリル樹脂等を、硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物又はブロック化ポリイソシアネート化合物等を使用することができる。親水性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール又はエチレングリコール等を使用することができる。また、本発明の複層塗膜の形成方法に使用される中塗り塗料は、上記の成分に加えて、所望により紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、表面調整剤又は顔料等を適宜含有しても良い。
【0035】
上記の好適な構成の中塗り塗料を塗装することにより、塗装物の耐衝撃性及び耐チッピング性を向上させることが可能となる。
【0036】
本明細書において、「中塗り塗膜」は、上記の中塗り塗料を被塗装物又は電着塗膜の上に塗装して形成される塗膜を意味する。
【0037】
中塗り塗料を塗装する方法は、当業界で慣用される通常の塗装方法を採用することができる。かかる塗装方法としては、例えば、刷毛又は塗装機を用いる塗装方法を挙げることができる。塗装機を用いる塗装方法が好ましい。また、塗装機としては、エアレススプレー塗装機、エアスプレー塗装機又は塗料カセット式のような回転霧化式静電塗装機が好ましい。特に好ましくは、回転霧化式静電塗装機である。上記の塗料及び塗装方法を使用することにより、色ムラ、タレなどの好ましくない不具合を生じることなく、良好な塗装外観を得ることが可能となる。
【0038】
本工程で形成される中塗り塗膜は、未硬化で且つ水性媒体を含有する状態であっても良く、続いて実施される第1ベース塗膜形成工程の前に予め上記で説明した焼付処理を実施することにより、塗膜を硬化させ、且つ塗料中に含有される水性媒体を揮散させた乾燥状態であっても良い。第1ベース塗膜形成工程によって形成される第1ベース塗膜との混層の発生を防止し、第1ベース塗膜に含有される光輝性顔料の配向性を向上させるために、予め焼付処理によって硬化させた乾燥状態の中塗り塗膜であることが好ましい。かかる場合、未硬化の中塗り塗膜の焼付処理の温度は、110〜180℃であることが好ましい。また、焼付処理の時間は、10〜60分間であることが好ましい。上記の条件で焼付処理を行うことにより、高い重合度の中塗り塗膜を得ることが可能となる。
【0039】
また、上記の条件で焼付処理した後の硬化した乾燥状態の中塗り塗膜の膜厚は、10〜50μmの範囲であることが好ましい。
【0040】
上記の好適な構成の中塗り塗膜を形成させることにより、塗装物の塗装外観を向上させるとともに、耐衝撃性及び耐チッピング性を向上させることが可能となる。
【0041】
1−3.第1ベース塗膜形成工程
本工程は、中塗り塗膜の上に、光輝性顔料を含有する熱硬化性の第1水性ベース塗料を塗装して未硬化の第1ベース塗膜を形成させることを目的とする。
【0042】
本明細書において、「第1水性ベース塗料」は、光輝性顔料を含有する水性塗料であって、金属光沢感、金属調意匠性及び/又はフリップフロップ性を付与するとともに、下地となる電着塗膜及び中塗り塗膜を隠蔽するために使用される塗料を意味する。本工程に使用される熱硬化性の第1水性ベース塗料は、当業界で慣用される熱硬化性の水性塗料であって、基剤樹脂及び硬化剤と、水及び/又は親水性有機溶剤からなる水性媒体とを少なくとも含有する水性塗料であることが好ましい。ここで上記の基剤樹脂及び硬化剤としては、当業界で慣用される公知の化合物を使用すれば良く、基剤樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂等を、硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物又はブロック化ポリイソシアネート化合物等を使用することができる。水性媒体としては、水及び/又は少なくとも1種類の親水性有機溶剤からなる媒体を使用すれば良く、該親水性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール又はエチレングリコール等を使用することができる。また、本発明の複層塗膜形成方法に使用される熱硬化性の第1水性ベース塗料は、上記の成分に加えて、所望により着色顔料、体質顔料、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤又は表面調整剤等を適宜含有しても良い。
【0043】
熱硬化性の第1水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度は、第1水性ベース塗料の全質量に対する塗料固形分の質量の割合によって表される。本明細書において、「塗料固形分」は、110℃で1時間乾燥させた後に残存する、塗料に含有される基剤樹脂、硬化剤等の不揮発性成分を意味する。それ故、熱硬化性の第1水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度は、アルミ箔カップ等の耐熱容器に未硬化の第1水性ベース塗料を量り取り、容器底面に亘って展延した後、110℃で1時間乾燥させ、乾燥後に残存する塗料成分の質量を秤量して、乾燥前の塗料の全質量に対する乾燥後に残存する塗料成分の質量の割合を求めることにより、算出することができる。
【0044】
熱硬化性の第1ベース塗料、第2ベース塗料及びクリア塗料を未硬化の状態で順次塗装(ウェット・オン・ウェット塗装)する従来の複層塗膜の形成方法では、塗装後の粘度を増大させてタレを防止し、光輝性顔料の配向性を向上させるために、熱硬化性の第1水性ベース塗料の塗料固形分濃度は概ね15質量%よりも高い範囲であることが好ましいとされてきた。例えば、特許文献3には、当該濃度は18質量%以上であることが好ましいと記載されている。これに対し、本発明の複層塗膜の形成方法では、塗料固形分濃度が低い熱硬化性の第1水性ベース塗料を使用することにより、より高い彩度の複層塗膜を得ることができる。熱硬化性の第1水性ベース塗料中の塗料固形分濃度が低い場合、水性媒体の含有量が高くなるため、以下で説明するプレヒート工程又は焼付工程における水性媒体の揮散に伴い、未硬化の塗膜は膜厚方向に向かって顕著に収縮する。結果として、焼付工程において形成される硬化した乾燥状態の塗膜の膜厚は薄くなる。未硬化の塗膜が膜厚方向に向かって収縮すると、膜厚方向すなわち下層の塗膜表面方向に向かって、未硬化塗膜に含有される光輝性顔料等の塗料成分を配向させる力が作用する。このように、水性媒体の揮散に伴う未硬化塗膜の収縮によって生じる収縮力が、未硬化の第1ベース塗膜に含有される光輝性顔料に対して作用する配向の駆動力となる。熱硬化性の第1水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度が15質量%を超える場合、上記の収縮力が低下し、光輝性顔料の配向が低下することから好ましくない。一方、熱硬化性の第1水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度が5質量%未満である場合、結果として得られる第1ベース塗膜の下地隠蔽性が低下するだけでなく、塗膜の強度が低下することから好ましくない。それ故、熱硬化性の第1水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度は、5〜15質量%の範囲であることが好ましく、8〜12質量%の範囲であることがより好ましい。
【0045】
なお、熱硬化性の第1水性ベース塗料に含有される塗料固形分の質量は上記と同様の方法により算出することができる。
【0046】
上記の組成及び濃度で塗料固形分を含有する熱硬化性の第1水性ベース塗料を使用することにより、高い配向性の光輝性顔料を有する第1ベース塗膜を得ることが可能となる。
【0047】
熱硬化性の第1水性ベース塗料に含有される光輝性顔料は、塗膜に光輝感又は光干渉性を付与する顔料であって、例えば、アルミニウムフレーク顔料、蒸着アルミニウムフレーク顔料、金属酸化物被覆アルミニウムフレーク顔料、着色アルミニウムフレーク顔料、マイカ(雲母)、酸化チタン被覆雲母、酸化鉄被覆雲母、雲母状酸化鉄、酸化チタン被覆シリカ、酸化チタン被覆アルミナ、酸化鉄被覆シリカ又は酸化鉄被覆アルミナ等を挙げることができる。好ましくはアルミニウムフレーク顔料又は着色アルミニウムフレーク顔料である。
【0048】
上記の光輝性顔料を含有する熱硬化性の第1水性ベース塗料を使用することにより、高彩度でかつ深みのある意匠性を有する複層塗膜を形成させることが可能となる。
【0049】
熱硬化性の第1水性ベース塗料に含有される光輝性顔料は、鱗片状又は薄板状の形状であることが好ましい。上記の形状である場合、光輝性顔料は、5〜20 μmの平均粒径を有することが好ましく、8〜15 μmの平均粒径を有することがより好ましい。また、光輝性顔料は、0.05〜0.40 μmの平均厚さを有することが好ましく、0.05〜0.30 μmの平均厚さを有することがより好ましい。上記の形状の光輝性顔料を含有する熱硬化性の第1水性ベース塗料を使用することにより、光輝性顔料による光の反射強度を向上させ、塗装物表面の彩度を向上させることが可能となる。
【0050】
なお、本明細書において、光輝性顔料の平均粒径は、レーザー回折散乱法により測定される体積基準粒度分布のメジアン径(d50)を意味し、例えば、マイクロトラック粒度分布測定装置(MT3300, 日機装社製)等を用いることにより測定することができる。また、本明細書において、光輝性顔料の平均厚さは、形成された塗膜表面に対して垂直方向の断面を電子顕微鏡で観察し、電子顕微鏡画像上で無作為に引いた直線上に位置する当該光輝性顔料20個の厚さを平均した値を意味する。
【0051】
本発明の複層塗膜の形成方法に使用される熱硬化性の第1水性ベース塗料は、上記の光輝性顔料をそれぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて含有することができる。光輝性顔料濃度が10質量部未満の場合、光輝性顔料による金属光沢感の付与等の効果を十分に発揮することができず、下地隠蔽性も低下することから好ましくない。また、光輝性顔料濃度が60質量部を超える場合、塗料の物性が低下して塗装時の作業性を損なうだけでなく、塗膜の表面平滑性を損なうことから好ましくない。それ故、熱硬化性の第1水性ベース塗料に含有される光輝性顔料濃度は、第1水性ベース塗料に含有される塗料固形分100質量部に対して、10〜60質量部の範囲であることが好ましく、15〜40質量部の範囲であることがより好ましい。
【0052】
なお、熱硬化性の第1水性ベース塗料に含有される塗料固形分の質量は上記の方法により算出することができ、光輝性顔料の質量は、未硬化の第1水性ベース塗料に含有される光輝性顔料の質量に基づいて決定することができる。
【0053】
上記の濃度で光輝性顔料を含有する第1水性ベース塗料を使用することにより、下地の隠蔽性及び塗膜の表面平滑性を向上させることが可能となる。
【0054】
本明細書において、「第1ベース塗膜」は、上記の第1水性ベース塗料を中塗り塗膜の上に塗装して形成される塗膜を意味する。
【0055】
熱硬化性の第1水性ベース塗料を塗装する方法は、当業界で慣用される通常の塗装方法を採用することができる。かかる塗装方法としては、例えば、刷毛又は塗装機を用いる塗装方法を挙げることができる。塗装機を用いる塗装方法が好ましい。また、塗装機としては、エアレススプレー塗装機、エアスプレー塗装機又は塗料カセット式のような回転霧化式静電塗装機が好ましい。特に好ましくは、回転霧化式静電塗装機である。上記の塗料及び塗装方法を使用することにより、色ムラ、タレなどの好ましくない不具合を生じることなく、良好な塗装外観を得ることが可能となる。
【0056】
本発明の複層塗膜の形成方法では、以下で説明する焼付工程において、未硬化の第1ベース塗膜、第2ベース塗膜、及びクリア塗膜を同時に焼付処理することにより、各塗膜を加熱硬化させて、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜、第2ベース塗膜及びクリア塗膜を含む複層塗膜を形成させる。それ故、本工程においては焼付処理を実施しない。本工程で形成される第1ベース塗膜は、未硬化で且つ水性媒体を含有する状態で、続いて実施される第2ベース塗膜形成工程に供される。
【0057】
上記の好適な構成の第1ベース塗膜を形成させることにより、光輝性顔料の配向性を向上させることが可能となる。
【0058】
1−4.第2ベース塗膜形成工程
本工程は、未硬化の第1ベース塗膜の上に、着色顔料を含有する熱硬化性の第2水性ベース塗料を塗装して未硬化の第2ベース塗膜を形成させることを目的とする。
【0059】
本明細書において、「第2水性ベース塗料」は、着色顔料を含有する水性塗料であって、所望の色彩を付与するために使用される塗料を意味する。本工程に使用される熱硬化性の第2水性ベース塗料は、当業界で慣用される熱硬化性の水性塗料であって、基剤樹脂及び硬化剤と、水及び/又は親水性有機溶剤からなる水性媒体とを少なくとも含有する水性塗料であることが好ましい。ここで上記の基剤樹脂及び硬化剤としては、当業界で慣用される公知の化合物を使用すれば良く、基剤樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂又はポリウレタン樹脂等を、硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物又はブロック化ポリイソシアネート化合物等を使用することができる。水性媒体としては、水及び/又は少なくとも1種類の親水性有機溶剤からなる媒体を使用すれば良く、該親水性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール又はエチレングリコール等を使用することができる。また、本発明の複層塗膜形成方法に使用される熱硬化性の第2水性ベース塗料は、上記の成分に加えて、所望により体質顔料、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤又は表面調整剤等を適宜含有しても良い。
【0060】
熱硬化性の第2水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度は、第2水性ベース塗料の全質量に対する塗料固形分の質量の割合によって表される。熱硬化性の第2水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度が15質量%未満である場合、塗膜の強度が低下することから好ましくない。一方、熱硬化性の第2水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度が45質量%を超える場合、粘度が増大して塗装時の作業性を損ない、結果として得られる塗膜の表面平滑性が低下するだけでなく、第1ベース塗膜に含有される光輝性顔料による反射光の透過率が低下して、塗装物表面における彩度が低下することから好ましくない。それ故、熱硬化性の第2水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度は、15〜45質量%の範囲であることが好ましい。
【0061】
上記の組成及び濃度で塗料固形分を含有する熱硬化性の第2水性ベース塗料を使用することにより、表面平滑性及び光輝性顔料による反射光の透過性が高い第2ベース塗膜を得ることが可能となる。
【0062】
なお、熱硬化性の第2水性ベース塗料に含有される塗料固形分の質量は上記と同様の方法により算出することができる。
【0063】
熱硬化性の第2水性ベース塗料に含有される着色顔料は、塗膜に所望の色彩を付与する顔料であって、例えば、酸化チタン等の白色顔料、カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、ボーンブラック、黒鉛、鉄黒若しくはアニリンブラック等の黒色顔料、ペリレンマルーン、赤色酸化鉄、ナフトールAS系アゾレッド、アンサンスロン、アンスラキノニルレッド、キナクリドン系赤顔料、ジケトピロロピロール、ウォッチングレッド若しくはパーマネントレッド等の赤色顔料、黄色酸化鉄、チタンイエロー、モノアゾイエロー、縮合アゾイエロー、アゾメチンイエロー、ビスマスバナデート、ベンズイミダゾロン、イソインドリノン、イソインドリン、キノフタロン、ベンジジンイエロー若しくはパーマネントイエロー等の黄色顔料、パーマネントオレンジ等の橙色顔料、コバルト紫、キナクリドンバイオレッド若しくはジオキサジンバイオレッド等の紫色顔料、コバルトブルー、フタロシアニンブルー若しくはスレンブルー等の青色顔料、又はフタロシアニングリーン等の緑色顔料等を挙げることができる。好ましくはペリレンマルーン、赤色酸化鉄又はフタロシアニンブルーである。
【0064】
本発明の複層塗膜の形成方法に使用される熱硬化性の第2水性ベース塗料は、上記の着色顔料をそれぞれ単独で、又は2種以上を組み合わせて含有することができる。熱硬化性の第2水性ベース塗料に含有される着色顔料濃度は、第2水性ベース塗料に含有される塗料固形分100質量部に対して、0.1〜20質量部の範囲であることが好ましく、0.1〜5質量部の範囲であることがより好ましい。
【0065】
上記の着色顔料を含有する熱硬化性の第2水性ベース塗料を使用することにより、深みのある色彩を有する複層塗膜を形成させることが可能となる。
【0066】
なお、熱硬化性の第2水性ベース塗料に含有される塗料固形分の質量は上記の方法により算出することができ、着色顔料の質量は、未硬化の第2水性ベース塗料に含有される着色顔料の質量に基づいて決定することができる。
【0067】
本明細書において、「第2ベース塗膜」は、上記の第2水性ベース塗料を第1ベース塗膜の上に塗装して形成される塗膜を意味する。
【0068】
熱硬化性の第2水性ベース塗料を塗装する方法は、上記で説明した第1水性ベース塗料を塗装する方法と同様の方法を採用することができる。特に好ましくは、回転霧化式静電塗装機を用いる塗装方法である。上記の塗料及び塗装方法を使用することにより、色ムラ、タレなどの好ましくない不具合を生じることなく、良好な塗装外観を得ることが可能となる。
【0069】
本発明の複層塗膜形成方法では、以下で説明する焼付工程において、未硬化の第1ベース塗膜、第2ベース塗膜、及びクリア塗膜を同時に焼付処理することにより、各塗膜を加熱硬化させて、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜、第2ベース塗膜及びクリア塗膜を含む複層塗膜を形成させる。それ故、本工程においては焼付処理を実施しない。本工程で形成される第2ベース塗膜は、未硬化で且つ水性媒体を含有する状態で、続いて実施されるプレヒート工程又は焼付工程に供される。
【0070】
上記の好適な構成の第2ベース塗膜を形成させることにより、塗装物の彩度を向上させることが可能となる。
【0071】
1−5.プレヒート工程
本発明の複層塗膜の形成方法は、第2ベース塗膜形成工程とクリア塗膜形成工程の間にプレヒート工程をさらに含んでも良い。本工程は、未硬化で且つ水性媒体を含有する第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜をプレヒート処理して、該塗膜に含有される水性媒体を短時間で揮散させ、未硬化で且つ乾燥状態の第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜を形成させることを目的とする。
【0072】
本明細書において、「プレヒート処理」は、塗膜が表面に形成された塗装物を、塗膜に含有される基剤樹脂及び硬化剤が重合・硬化しないか又は実質的に重合・硬化しない時間及び温度条件で加熱することにより、該塗膜に含有される水性媒体及び/又は他の揮発性物質を、最終的に得られる複層塗膜の品質に実質的に影響を与えない含有量まで揮散させる処理を意味する。また、本明細書において、「乾燥状態」は、塗膜に含有される水性媒体が、最終的に得られる複層塗膜の品質に実質的に影響を与えない含有量まで揮散した状態を意味する。
【0073】
本発明の複層塗膜の形成方法においては、熱硬化性の第1ベース塗料及び第2ベース塗料が未硬化の状態で順次塗装(ウェット・オン・ウェット塗装)される。それ故、焼付処理によって塗膜を硬化させる前にプレヒート処理を行うことにより、第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜から水性媒体を短時間で揮散させて、未硬化で且つ乾燥状態の第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜(プレヒート処理された第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜)を形成させることができる。
【0074】
上記で説明したように、未硬化の第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜をプレヒート処理すると、水性媒体の揮散に伴い未硬化の塗膜は膜厚方向に向かって顕著に収縮する。これにより、プレヒート処理された第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜は、焼付工程において形成される硬化した乾燥状態の塗膜の膜厚と、実質的に等しい膜厚にまで収縮する。
【0075】
プレヒート処理を行う前の第1ベース塗膜は、未硬化で且つ水性媒体を含有しているため、該塗膜中の光輝性顔料は比較的自由に配向しうる。ここでプレヒート処理を行うと、塗膜の収縮によって生じる収縮力が光輝性顔料に対して作用する配向の駆動力となり、各々の光輝性顔料が被塗装物の塗装面に対して平行又は実質的に略平行に整列するように配向される。光輝性顔料が鱗片状又は薄板状の形状を有する場合、上記のように光輝性顔料自体が整列する際に、各々の表面(反射面)も塗装面に対して平行又は実質的に略平行に整列するように配向される。塗装物の表面における光の反射は、第1ベース塗膜に含有される各光輝性顔料の反射面における光の反射の和として観測される。このため、光輝性顔料の配向性が向上することにより、塗装物の表面方向からの入射光の反射強度が向上する。
【0076】
本工程において、プレヒート処理の温度は、60〜100℃であることが好ましい。また、プレヒート処理の時間は、1〜10分であることが好ましい。
【0077】
上記の条件でプレヒート処理を行うことにより、第1ベース塗膜中の光輝性顔料の配向性を向上させ、結果として複層塗膜を備える塗装物の表面における彩度を向上させることが可能となる。
【0078】
1−6.クリア塗膜形成工程
本工程は、未硬化の第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜の上に熱硬化性のクリア塗料を塗装して、未硬化のクリア塗膜を形成させることを目的とする。前記未硬化の第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜は、第2ベース塗膜形成工程後の、未硬化で且つ水性媒体及び/又は他の揮発性物質を含む塗膜であっても良く、プレヒート工程後の、未硬化で且つ乾燥状態の塗膜であっても良い。
【0079】
本明細書において、「クリア塗料」は、第1及び第2ベース塗膜の凹凸を平滑にするとともに、第1及び第2ベース塗膜を保護するために使用される塗料を意味する。本工程に使用される熱硬化性のクリア塗料は、当業界で慣用される熱硬化性の水性塗料であって、基剤樹脂及び硬化剤と、水及び/又は親水性有機溶剤からなる水性媒体とを少なくとも含有する水性塗料であることが好ましい。ここで上記の基剤樹脂及び硬化剤としては、当業界で慣用される公知の化合物を使用すれば良く、基剤樹脂としては、例えば、カルボキシル基含有アクリル樹脂、エポキシ基含有アクリル樹脂又は水酸基含有アクリル樹脂等を、硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリイソシアネート化合物又はブロック化ポリイソシアネート化合物等を使用することができる。水性媒体としては、水及び/又は少なくとも1種類の親水性有機溶剤からなる媒体を使用すれば良く、該親水性有機溶剤としては、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール又はエチレングリコール等を使用することができる。また、本発明の複層塗膜の形成方法に使用される熱硬化性のクリア塗料は、上記の成分に加えて、所望により上記で説明した着色顔料及び光輝性顔料の他、体質顔料、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤又は表面調整剤等を適宜含有しても良い。
【0080】
上記の好適な構成の熱硬化性のクリア塗料を塗装することにより、第1及び第2ベース塗膜の保護に十分な乾燥膜厚を有し、かつ表面平滑性に優れたクリア塗膜を得ることが可能となる。
【0081】
本明細書において、「クリア塗膜」は、上記のクリア塗料を未硬化の第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜の上に塗装して形成される塗膜を意味する。
【0082】
クリア塗料を塗装する方法は、上記で説明した第1水性ベース塗料を塗装する方法と同様の方法を採用することができる。特に好ましくは、回転霧化式静電塗装機を用いる塗装方法である。上記の塗料及び塗装方法を使用することにより、色ムラ、タレなどの好ましくない不具合を生じることなく、良好な塗装外観を得ることが可能となる。
【0083】
本発明の複層塗膜形成方法では、以下で説明する焼付工程において、未硬化の第1ベース塗膜、第2ベース塗膜、及びクリア塗膜を同時に焼付処理することにより、各塗膜を加熱硬化させて、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜、第2ベース塗膜及びクリア塗膜を含む複層塗膜を形成させる。それ故、本工程においては焼付処理を実施しない。本工程で形成されるクリア塗膜は、未硬化で且つ水性媒体を含有する状態で、続いて実施される焼付工程に供される。
【0084】
上記の好適な構成のクリア塗膜を形成させることにより、表面平滑性に優れた塗装外観を得ることが可能となる。
【0085】
1−7.焼付工程
本工程は、上記で説明した未硬化の第1ベース塗膜、第2ベース塗膜、及びクリア塗膜を同時に焼付処理して、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜、第2ベース塗膜及びクリア塗膜を含む複層塗膜を形成させることを目的とする。前記未硬化の第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜は、第2ベース塗膜形成工程後の未硬化で且つ水性媒体及び/又は他の揮発性物質を含む塗膜であっても良く、プレヒート工程後の未硬化で且つ乾燥状態の塗膜であっても良い。
【0086】
本工程において、焼付処理の温度は、110〜180℃であることが好ましい。また、焼付処理の時間は、10〜60分であることが好ましい。
【0087】
本工程において形成される硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜の膜厚が2 μm未満である場合、該塗膜の単位面積当たりに含有される光輝性顔料の量が少なくなり、反射強度が低下することから好ましくない。また、前記塗膜の乾燥膜厚が8 μmを超える場合、光輝性顔料の配向性が低下することから好ましくない。それ故、本工程において形成される硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜の膜厚は、2〜8 μmの範囲であることが好ましく、3〜5 μmの範囲であることがより好ましい。
【0088】
本発明の複層塗膜の形成方法が適用される塗装物が自動車車体及び/又は部品を製造するための板並びに成型物である場合、被塗装物上に形成される硬化した乾燥状態の複層塗膜のうち、第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜の部分の膜厚は、通常20μm未満である。それ故、本工程において形成される硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜と第2ベース塗膜との膜厚の比率が、好ましくは1:1.5〜1:6の範囲、より好ましくは1:1.5〜1:4の範囲となるように、第2ベース塗膜を形成させることが好ましい。より具体的には、本工程において形成される硬化した乾燥状態の第2ベース塗膜の膜厚が3 μm未満である場合、塗膜の強度が低下することから好ましくない。また、前記塗膜の乾燥膜厚が17 μmを超える場合、複層塗膜全体の乾燥膜厚が増大することに加えて、第1ベース塗膜に含有される光輝性顔料による反射光の透過率が低下して、塗装物表面における彩度が低下することから好ましくない。それ故、本工程において形成される硬化した乾燥状態の第2ベース塗膜の膜厚は、3〜17 μmの範囲であることが好ましく、5〜16 μmの範囲であることがより好ましい。
【0089】
また、本工程において形成される硬化した乾燥状態のクリア塗膜の膜厚が15 μm未満である場合、表面平滑性が低下することから好ましくない。また、前記塗膜の乾燥膜厚が60 μmを超える場合、光輝性顔料による反射光の透過率が低下して、塗装物表面における彩度が低下することから好ましくない。それ故、本工程において形成される硬化した乾燥状態のクリア塗膜の膜厚は、15〜60 μmの範囲であることが好ましく、25〜45 μmの範囲であることがより好ましい。
【0090】
上記の条件で焼付処理を行うことにより、高彩度でかつ深みのある意匠性を有する複層塗膜を備える塗装物を製造することが可能となる。
【0091】
2.複層塗膜を備える塗装物
上記で説明した本発明の複層塗膜の形成方法を、様々な被塗装物、好ましくは金属又はそれらを含む合金からなる自動車車体及び/又は部品を製造するための板又は成型物に適用することにより、従来技術による複層塗膜と比較して高彩度でかつ深みのある意匠性を有する複層塗膜を備える塗装物を得ることが可能となる。
【実施例】
【0092】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。
3コート方式の赤色メタリック塗装において、以下の手順で本発明の効果を検証した。
【0093】
[塗装材料]
使用した塗料は以下の通りである。
中塗り塗料 :TP-65-2(関西ペイント社製)
第1水性ベース塗料(光輝性顔料):MH-8801(旭化成ケミカルズ社製)
第2水性ベース塗料(着色顔料) :ペリレンマルーン6438(サンケミカル社製)
クリア塗料 :マジクロンKINO-1210(関西ペイント社製)
【0094】
以下の実施例において、各塗料の塗料固形分濃度(質量%)は、塗料の全質量に対する塗料固形分の質量の割合を表し、アルミ箔カップに未硬化の塗料を量り取り、容器底面に亘って展延した後、110℃で1時間乾燥させ、乾燥後に残存する塗料成分の質量を秤量して、乾燥前の塗料の全質量に対する乾燥後に残存する塗料成分の質量の割合を求めることによって算出した。光輝性顔料又は着色顔料濃度(質量部)は、塗料に含有される塗料固形分100質量部に対する光輝性顔料又は着色顔料の質量の割合を表し、上記の方法で算出した塗料固形分の質量に対する光輝性顔料又は着色顔料の質量の割合を求めることによって算出した。また、各塗料によって形成される硬化した乾燥状態の塗膜の膜厚は、焼付処理によって加熱硬化させた後の各塗膜の膜厚を、電磁式膜厚計によって測定することで決定した。
【0095】
第1水性ベース塗料に含有される光輝性顔料は、13〜15 μmの平均粒径で0.2〜0.3 μmの平均厚さのアルミニウム片を含有するアルミニウムフレーク顔料を使用した。
【0096】
なお、前記塗料を用いた塗装は、いずれも回転霧化式静電塗装機にて行った。
【0097】
[塗装方法]
あらかじめ電着塗装を施した鋼板に、硬化した乾燥状態の膜厚が35 μmとなるように熱硬化性の中塗り塗料を塗装し、140℃で30分間、焼付処理を行った。中塗り塗膜が形成された塗板に、硬化した乾燥状態の膜厚が所定の膜厚となるように熱硬化性の第1水性ベース塗料を塗装した。未硬化の第1ベース塗膜が形成された塗板に、硬化した乾燥状態の膜厚が所定の膜厚となるように熱硬化性の第2水性ベース塗料を塗装した。次いで、未硬化の第1及び第2ベース塗膜が形成された塗板を、80℃で3分間、プレヒート処理を行った。その後、未硬化で且つ乾燥状態のベース塗膜が形成された塗板に、硬化した乾燥状態の膜厚が40 μmとなるように熱硬化性のクリア塗料を塗装し、140℃で30分間、焼付処理を行うことにより、複層塗膜が形成された塗板を作製した。
【0098】
[実施例1:第1ベース塗膜の乾燥膜厚と反射強度との関係]
上記の塗装方法にしたがい、硬化した乾燥状態の膜厚が3、8又は12 μmとなるように熱硬化性の第1水性ベース塗料(塗料固形分濃度:10質量%;顔料濃度:40質量部)を塗装した。その後、未硬化の第1ベース塗膜が形成された塗板に熱硬化性の第2水性ベース塗料及びクリア塗料を塗装することなく、そのまま140℃で30分間、焼付処理を行うことにより、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜のみが形成された塗板を作製した。上記の塗板について、反射強度測定装置(ALCOPE LMR-200;関西ペイント社製)を用いて塗板正面方向から測定を行い、反射強度を評価した。結果を図1に示す。
【0099】
図1に示すように、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜の膜厚が薄くなるのにしたがって、第1ベース塗膜が形成された塗板正面方向における入射光の反射強度は向上した。
【0100】
熱硬化性の第1水性ベース塗料には光輝性顔料が含有されており、第1ベース塗膜が形成された塗板の表面における光の反射は、主に各光輝性顔料の表面(反射面)における光の反射の和として観測される。それ故、第1ベース塗膜が形成された塗板において、各光輝性顔料の反射面が塗板面に対して平行となるように光輝性顔料を配向させることにより、塗板正面方向からの入射光の反射強度は向上すると考えられる。本実施例において、各第1ベース塗膜の形成に使用された熱硬化性の第1水性ベース塗料の塗料固形分濃度及び光輝性顔料濃度は、全て同一である。このため、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜の膜厚が薄くなるほど、第1ベース塗膜中の光輝性顔料の配向の自由度は低くなり、結果として塗板面に対する配向性が向上することとなる。特に、本実施例において使用された熱硬化性の第1水性ベース塗料は、光輝性顔料として13〜15 μmの平均粒径で0.2〜0.3 μmの平均厚さのアルミニウム片を含有していることから、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜の膜厚が12 μm未満の場合、第1ベース塗膜中の光輝性顔料の配向性は著しく制限されたと考えられる。なお、結果は示していないが、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜の膜厚を2 μm未満とした場合、該塗膜の単位面積当たりに含有される光輝性顔料の量が少なくなるため、かえって反射強度が低下した。
【0101】
[実施例2:第1ベース塗膜の乾燥膜厚と彩度との関係]
実施例1と同様に、硬化した乾燥状態の膜厚が3、8又は12 μmとなるように熱硬化性の第1水性ベース塗料(塗料固形分濃度:10質量%;顔料濃度:40質量部)を塗装した。その後、上記の塗装方法にしたがい、熱硬化性の第2水性ベース塗料(塗料固形分濃度:30質量%;顔料濃度:2質量部)及びクリア塗料を塗装し、焼付処理を行うことにより、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜の膜厚が異なる複層塗膜が形成された塗板を作製した。上記の塗板について、MA-68II(X-Rite社製)を用いて、受光角15°におけるC*(15°)を測定し、塗膜表面の彩度を評価した。より具体的には、測定対象面に垂直な軸に対し45°の角度から測定光を照射し、正反射角から測定光の方向に15°の角度で受容した光についてC*を測定した。結果を図2に示す。
【0102】
図2に示すように、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜の膜厚が薄くなるのにしたがって、複層塗膜が形成された塗板の彩度は向上した。
【0103】
本実施例において、複層塗膜が形成された塗板は、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜の乾燥膜厚のみが異なり、基剤樹脂及び硬化剤が硬化した乾燥状態の第2ベース塗膜の膜厚及び成分組成は同一である。また、実施例1の結果から、本実施例の塗板においても、第1ベース塗膜の乾燥膜厚が薄くなるのにしたがって、該塗板における入射光の反射強度が向上したと考えられる。ここで、図1及び図2の結果を比較すると、両者の結果は高い相関を示している。それ故、複層塗膜が形成された塗板表面における彩度の差は、第1ベース塗膜の乾燥膜厚の差に起因する反射強度の差が反映された結果であると考えられる。
【0104】
[実施例3:第1ベース塗膜の塗料固形分濃度と彩度との関係]
所定の濃度で塗料固形分及び顔料を含有する熱硬化性の第1水性ベース塗料及び第2水性ベース塗料を用いて、上記の塗装方法にしたがい複層塗膜が形成された塗板を作製した。上記の塗板について、前記C*の測定を行い、塗膜表面の彩度を評価した。熱硬化性の第1水性ベース塗料及び第2水性ベース塗料中の塗料固形分及び顔料の濃度、並びに各塗板に形成された硬化した乾燥状態の第1及び第2ベース塗膜の膜厚と塗板表面の彩度を表1に、第1水性ベース塗料中の塗料固形分濃度と塗板表面の彩度との関係を図3に、それぞれ示す。
【0105】
【表1】

【0106】
図3に示すように、熱硬化性の第1水性ベース塗料中の塗料固形分濃度が5〜15質量%の範囲である場合、結果として得られる塗板表面の彩度は高い値を示した。
【0107】
熱硬化性の第1水性ベース塗料中の塗料固形分濃度が低い場合、水分含有量が高くなるため、プレヒート処理時の水分揮散による塗膜の収縮力が大きくなる。未硬化の第1ベース塗膜中の光輝性顔料は、上記の収縮力を駆動力として塗板面に対して平行に配向される。それ故、熱硬化性の第1水性ベース塗料中の塗料固形分がより低濃度であるほど、第1ベース塗膜中の光輝性顔料の配向性が向上し、結果として塗板表面の彩度も向上すると考えられる。
【0108】
[実施例4:第2ベース塗膜の塗料固形分濃度と彩度との関係]
所定の濃度で塗料固形分及び顔料を含有する熱硬化性の第1水性ベース塗料及び第2水性ベース塗料を用いて、上記の塗装方法にしたがい複層塗膜が形成された塗板を作製した。上記の塗板について、前記C*の測定を行い、塗膜表面の彩度を評価した。熱硬化性の第1水性ベース塗料及び第2水性ベース塗料中の塗料固形分及び顔料の濃度、並びに各塗板に形成された硬化した第1及び第2ベース塗膜の乾燥膜厚と塗板表面の彩度を表2に、熱硬化性の第2水性ベース塗料中の塗料固形分濃度と塗板表面の彩度との関係を図4に、それぞれ示す。
【0109】
【表2】

【0110】
図4に示すように、熱硬化性の第2水性ベース塗料中の塗料固形分濃度が15〜45質量%の範囲である場合、結果として得られる塗板表面の彩度にはあまり影響はなく、何れの塗板も高い彩度を示した。
【0111】
3コート1ベイクタイプの複層塗膜を形成させる従来の技術では、第1ベース塗膜への溶剤の吸い込みによる第2ベース塗膜表面の平滑性の低下が知られていた(例えば、特開2006-150169)。これに対し、本実施例の複層塗膜は、熱硬化性の第2水性ベース塗料中の塗料固形分が15〜45質量%と比較的高濃度であっても、塗膜表面の平滑性や意匠性を損なうことなく、高い彩度を示した。この結果は、本実施例の複層塗膜では熱硬化性の第1水性ベース塗料中の塗料固形分濃度が低いため、第1ベース塗膜への溶剤の吸い込みが殆ど発生しないことに起因すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の複層塗膜形成方法は、熱硬化性の第1水性ベース塗料及び第2水性ベース塗料中の塗料固形分及び顔料の濃度、並びに該塗料により形成される硬化した乾燥状態の第1及び第2ベース塗膜の膜厚を規定することにより、従来の塗装工程を変更することなく、高彩度でかつ深みのある意匠性を有する複層塗膜を提供することができる。これにより、塗装コストを上昇させることなく、高品質の塗装物を製造することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物の上に形成された中塗り塗膜、中塗り塗膜の上に形成された第1ベース塗膜、第1ベース塗膜の上に形成された第2ベース塗膜、第2ベース塗膜の上に形成されたクリア塗膜を少なくとも含む複層塗膜の形成方法であって、該方法が:
中塗り塗膜の上に、光輝性顔料を含有する熱硬化性の第1水性ベース塗料を塗装して未硬化の第1ベース塗膜を形成させる、第1ベース塗膜形成工程;
未硬化の第1ベース塗膜の上に、着色顔料を含有する熱硬化性の第2水性ベース塗料を塗装して未硬化の第2ベース塗膜を形成させる、第2ベース塗膜形成工程;
未硬化の第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜の上に、熱硬化性のクリア塗料を塗装して未硬化のクリア塗膜を形成させる、クリア塗膜形成工程;
未硬化の第1ベース塗膜、第2ベース塗膜、及びクリア塗膜を焼付処理して各塗膜を加熱硬化させて、硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜、第2ベース塗膜及びクリア塗膜を含む複層塗膜を形成させる、焼付工程;
を含み、
第1水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度が、第1水性ベース塗料の全質量に対して5〜15質量%の範囲であり、
第2水性ベース塗料に含有される塗料固形分濃度が、第2水性ベース塗料の全質量に対して15〜45質量%の範囲であり、
硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜の膜厚が2〜8 μmの範囲であり、
硬化した乾燥状態の第1ベース塗膜と第2ベース塗膜との膜厚の比率が1:1.5〜1:6の範囲である、
前記複層塗膜の形成方法。
【請求項2】
第2ベース塗膜形成工程とクリア塗膜形成工程の間に、未硬化の第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜をプレヒート処理して未硬化のプレヒート処理された第1ベース塗膜及び第2ベース塗膜を形成させるプレヒート工程をさらに含む、請求項1の複層塗膜の形成方法。
【請求項3】
第1水性ベース塗料に含有される光輝性顔料濃度が、第1水性ベース塗料に含有される塗料固形分100質量部に対して10〜60質量部の範囲である、請求項1又は2の複層塗膜の形成方法。
【請求項4】
第2水性ベース塗料に含有される着色顔料濃度が、第2水性ベース塗料に含有される塗料固形分100質量部に対して0.1〜20質量部の範囲である、請求項1〜3のいずれか1項の複層塗膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項の方法で形成される複層塗膜を備える塗装物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−147916(P2011−147916A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13328(P2010−13328)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】