説明

高性能熱可塑性ポリマーナノ粒子の新規で安定な水性分散液およびその膜形成剤としての使用

【課題】高性能熱可塑性ポリマーのナノ粒子の新規で安定な水性分散液およびそれらの膜形成剤としての使用。
【解決手段】本発明は、膜形成剤として、特に繊維の取り扱いを容易にするための繊維のサイジングのために、そして複合材を作るために、好適な、熱可塑性ポリマーの新規な水性分散液に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜形成用、特に繊維の取り扱いを容易にするための繊維のサイジング用、および複合材の製造用、に好適なポリマーの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
現在は、高性能な用途における大抵の複合材は、カーボン繊維および熱硬化性マトリックス、例えばポリエポキシ樹脂を主成分としている。しかしながら、これらの熱硬化性マトリックスは、低い耐化学薬品性および低い機械的耐衝撃性を欠点として有しており、配合の複雑さを招き、それがその応用を複雑にしている。更に、これらの複合材は、それらの三次元鎖構造のために、再生利用が可能ではない。
【0003】
従って、これらの欠点が、環境に関する基準を更に満足するであろう熱可塑性マトリックスの潜在的な有益性を明らかにする。熱安定性の熱可塑性マトリックスは、ハイテク事業活動分野、例えば航空学および宇宙産業において用いることができる。
【0004】
マトリックスの性質に関わらず、マトリックスとカーボン繊維との界面は、極めて重大な問題のままである。このために、この繊維は、サイズと称される薄膜で被覆されている。このサイズは、通常はオリゴマーまたはポリマー状であり、用いられるマトリックスに応じて適用することができる。サイズは、適用の間の繊維の取り扱いを容易にする役割を有しているが、しかしながら、特にはこの繊維とマトリックスの間の相互作用を促進させる。現在用いられている高性能複合材の大部分が熱硬化性マトリックに基づいていることを考慮すれば、大抵のサイジング剤はエポキシ樹脂からなっている。従って、熱可塑性マトリックス、特には熱安定性の熱可塑性マトリックス、に適用されるサイジング剤は存在せず、それらのサイジング剤は、しばしば300℃以上の、高い適用温度に耐えられなければならない。
【0005】
実用的な観点からは、サイジングは、溶媒中の溶液もしくは分散液中のポリマーから、浸漬または繊維上への噴霧によって理想的には成し遂げられる。
【0006】
健康上、安全上の理由から、および更には環境を維持するために、溶媒として水を用いることが望ましい。しかしながら、高性能熱可塑性ポリマーは、通常は水には溶解せず、そしてそれらの重合方法は、水とは両立しない。従って、熱安定性の熱可塑性ポリマーの安定な水性分散液を利用できるようにすることが望ましい。
【0007】
ポリマーのナノ粒子の安定な水性分散液を得ることは、異なる方法で達成することができる:
a)水性エマルジョンまたはマイクロエマルジョンでの重合で、ラテックスの形成をもたらすことによって、
b)溶媒のエマルジョン/蒸発によって、
c)溶媒拡散または抽出によって、
d)複合コアセルベーションによって。
【0008】
b)〜d)の方法は、特に農業食品および薬品工業において、活性成分をカプセルに包み、特に開放速度を制御し、そして活性成分の分解を回避するために、広く用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特にサイジングを可能とする物理化学的特性を有する高性能熱可塑性ポリマーの安定な水性分散液は、開発されてはいない。
【0010】
本発明の目的は、熱可塑性剤サイジング剤に適合することができる物理的特性を有するポリマーの、安定で長期間貯蔵性の、ナノ粒子水性分散液を確立することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、第1の目的は、本発明は、高性能熱可塑性ポリマーの、または高性能熱可塑性ポリマー混合物のナノ粒子の、安定な水性分散液に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明による分散液は、室温における通常の貯蔵条件下で、少なくとも6ヶ月間安定である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、例1による、透過型電子顕微鏡でのPEI粒子の懸濁液を示している。
【図2】図2は、例3による、透過型電子顕微鏡でのネガティブ染色したPEKK懸濁液を示している。
【図3】図3は、例7によるPEI懸濁液から形成した膜の、走査型電子顕微鏡写真を示している。
【図4】図4は、例7によるPEI懸濁液でサイジングされた、PEEK/カーボン繊維複合材の凍結切片の、走査型電子顕微鏡写真を示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の有利な態様では、分散されるポリマーは、熱可塑性サイジングに適応できるそれらの物理的性質(耐熱性、溶解性)によって、ならびに予め選択された分散技術によって、選択される。
【0015】
本発明に好適な前記熱可塑性ポリマーは、ポリエーテルイミドおよびポリアリールエーテルケトンの族、ならびにそれらの混合物、例えばポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)から選ばれる。
【0016】
このポリエーテルイミド(PEI)は、以下の式で示すことができる。
【0017】
【化1】

【0018】
ポリエーテルケトンケトン(PEKK)は、以下の式で示すことができる。
【0019】
【化2】

【0020】
本発明における意味としては、ポリマーは、2〜100の範囲に含まれる重合度を有する化合物を意味している。
【0021】
本発明によれば、PEIは、好ましくは10〜50の範囲に含まれる、特には約20の平均重合度、すなわち12000g/モルの平均分子量を有し、そしてPEKKは、好ましくは、1〜10の範囲に含まれる、有利には約3の平均重合度、すなわち1000g/モルの平均分子量を有している。
【0022】
本発明による安定な水性分散液は、前記ポリマーの、10〜1000nm、好ましくは50〜150nmの範囲に含まれる平均直径を有しているナノ粒子から本質的になる。
【0023】
本発明による分散液中の前記ポリマーの質量パーセントは、通常は、0.01〜0.1%の範囲に、好ましくは0.03〜0.06%の範囲に含まれる。これらの大きさおよび濃度の範囲は、特にサイジング剤の堆積のために有利である。
【0024】
本発明による分散液は、更に、1種もしくは2種以上の乳化剤および/または分散剤を含んでいてもよい。これらの化学薬品は、特に界面活性剤および/または水溶性もしくは両親媒性ポリマーの群から選ぶことができる。
【0025】
一般に、乳化剤および/または分散剤の質量パーセントは、0.01〜20%の範囲、好ましくは0.01〜5%の範囲、そして有利には約0.5%である。
【0026】
界面活性剤の中では、非イオン性、カチオン性、アニオン性、両性イオン性、水素化もしくはフッ化両親媒性分子、例えばコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム、レシチン、リン脂質、トゥイーン(Tween)20、トゥイーン40、トゥイーン60、トゥイーン80、スパン(Span)20、スパン40、スパン60、スパン80、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ドデシル硫酸ナトリウム、長鎖を有するアンモニウム塩、例えば臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、ならびにこれらの分子の全ての組み合わせが挙げられる。
【0027】
本発明の有利な態様では、界面活性剤は、ドデシル硫酸ナトリウムおよび/またはナトリウムジオクチルスルホサクシネートから選択される。
【0028】
本発明への適用に好適な分散剤ポリマーは、天然もしくは合成由来の高分子、ホモポリマーもしくは共重合体、荷電したホモポリマーもしくは荷電した共重合体、両親媒性ホモポリマーもしくは両親媒性共重合体、高分岐ポリマーもしくは高分岐共重合体、デンドリマー、多糖、ならびにそれらの高分子の全ての組み合わせ、乳化剤、例えばゼラチン、ならびにそれらのポリマーの全ての組み合わせ、から選択することができる。
【0029】
本発明によれば、分散液はエマルジョンから、または水中油のエマルジョン/分散液から、蒸発法によって、もしくはポリマー溶液の水中への拡散によって、もしくは油相中への分散によって、調製される。
【0030】
従って、他の目的によれば、本発明はまた、本発明による分散液の調製方法に関し、該方法は、有機溶媒もしくは有機溶媒混合物中の溶液または分散液の前記ポリマーの、水相への移動を含んでおり、
− 前記ポリマーは、前記有機溶媒中に可溶もしくは分散可能であり、そして、
− 前記有機溶媒は、水と混和性、または非混和性である。
【0031】
本発明における意味としては、通常の圧力および温度条件の下で水と非混和性の揮発性溶媒は、有利には、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、脂肪族炭化水素、ハロゲン化脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、シクロへキサン、ハロゲン化芳香族炭化水素、エーテル、酢酸エチル、ギ酸エチル、およびそれらの混合物によって構成される化合物を意味している。より好ましくは、この溶媒は、クロロホルムである。
【0032】
本発明における意味としては、水と混和性の溶媒は、有利には、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、ジオキサンおよびN−メチル−2−ピロリドン、を含む群から選ばれる化合物を意味している。より好ましくは、この溶媒は、N−メチル−2−ピロリドンである。
【0033】
前記有機溶媒中のポリマーの質量パーセントは、通常は、0.1〜10%の範囲、好ましくは1〜5%の範囲、有利には約3%である。
【0034】
本発明による方法は、通常は以下の工程を含んでいる。
a)前記ポリマーの前記有機溶媒中への溶解または分散工程、
b)工程(a)で得られた溶液または分散液を、場合によっては1種もしくは2種以上の乳化剤および/または分散剤を含む水溶液と、混合する工程、
c)前記有機溶媒の蒸発または拡散工程。
【0035】
溶媒+水混合物(工程(a))中の溶媒の体積分率は、通常は0.05〜0.5の範囲、有利には約0.1である。
【0036】
前記ポリマーが、前記有機溶媒中に可溶か、または分散可能であるか、そして前記有機溶媒が水と混和性か、または非混和性であるか、によって、従って、本発明による方法を適用するための、4つの可能性のある態様(P1〜P4と番号を付す)が区別される。
【0037】
P1:
前記ポリマーが前記有機溶媒中に可溶であり、そして前記有機溶媒が揮発性で、水と非混和性である場合には、本発明による分散液は、エマルジョンおよび蒸発によって作ることができる。
【0038】
従って、この態様によれば、本発明の方法は、前記可溶性ポリマーの、水と非混和性の前記揮発性有機溶媒中のエマルジョンからの蒸発工程を含んでいる。
【0039】
より具体的には、方法P1は、以下の連続的な工程を含んでいる。
a)ポリマーもしくはポリマー混合物の、揮発性有機溶媒中への、0.1〜10質量%、有利には3質量%での溶解工程。
b)工程a)に従って得られた、混合物の最終的な5〜50%、有利には10%の体積パーセントに相当する量が、必要であれば乳化剤または分散剤、例えば界面活性剤もしくはポリマー、有利には界面活性剤を含んでいる、水中に注がれる工程。この化学薬品は、通常は、0.01〜20%、有利には0.5%の質量濃度で存在している。次いで、この混合物は、強力な機械的攪拌または超音波、有利には超音波で、乳化される。
c)工程b)に従って得られたエマルジョンは、大気圧もしくは真空下、そして5℃から、選択された圧力におけるこの溶媒の沸点以下までの範囲の温度で、より有利には、室温で、かつ大気圧の下で、機械的に攪拌される。次いで、このエマルジョンは、溶媒の全体が蒸発するまで機械的に攪拌される。
d)10〜150nmの範囲に含まれる大きさの、0.01〜0.1%、有利には0.03%の質量パーセントの粒子を含む、最終的な、安定な分散液を得る工程。
【0040】
有利には、方法P1は、PEIの安定な分散液を、好ましくは水と非混和性の揮発性溶媒としてクロロホルムを用いることとによって、得るために用いられる。
【0041】
P2:
前記ポリマーが、前記有機溶媒に可溶であり、そして前記有機溶媒が水と混和性である場合には、本発明の分散液は、拡散によって作ることができる。
【0042】
従って、この態様によれば、本発明による方法は、前記ポリマーの溶液を、水と混和性の前記有機溶媒中に、拡散させるための工程を含んでいる。
【0043】
より具体的には、方法P2は、以下の連続的な工程を含んでいる。
a)前記ポリマーもしくはポリマー混合物を、水と混和性の有機溶媒中に、0.1〜5質量%、有利には3質量%で、溶解する工程。
b)工程a)に従って得た、混合物の最終的な0.1〜50%、有利には10%の体積パーセントに相当する量を、必要であれば、乳化剤もしくは分散剤、例えば界面活性剤またはポリマー、有利には界面活性剤を含んでいる水中に注ぐか、または注入する工程。この化学薬品は、通常は、0.01〜20%、有利には0.5%の質量濃度で存在している。
c)工程b)に従って得られた分散液は、溶媒の完全な拡散が起こるまで、そして有利には室温で、大気圧の下で、機械的に攪拌される。
d)10〜200nmの範囲に含まれる大きさの、0.01〜0.1%、有利には0.03%の質量パーセントの粒子を含む、最終的な、安定な分散液を得る工程。
【0044】
有利には、方法P2は、PEIの安定な分散液を、好ましくは水と混和性の溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いて得るために用いられる。
【0045】
P3:
前記ポリマーが、前記有機溶媒中に分散可能であり、そして前記有機溶媒が揮発性の、水と非混和性である場合には、本発明による分散液は、エマルジョン/分散および蒸発によって作ることができる。
【0046】
従って、この態様によれば、本発明による方法は、水と非混和性の揮発性の前記有機溶媒中に分散することができる前記ポリマーの、水中油エマルジョン/分散液からの蒸発工程を含んでいる。
【0047】
より具体的には、方法P3は、以下の連続的な工程を含んでいる。
a)前記ポリマーもしくはポリマー混合物を、揮発性の有機溶媒中に、0.1〜10質量%、有利には3質量%で、分散させる工程。
b)工程a)に従って得られる、混合物の最終的な、5〜50%、有利には10%の体積パーセンテージに相当する量を、必要であれば、乳化剤または分散剤、例えば界面活性剤もしくはポリマー、有利には界面活性剤を含んでいる水中に注ぐ工程。この化学薬品は、通常は、0.01〜20%、有利には0.5%の質量濃度で存在する。次いで、この混合物は、強力な機械的攪拌の下に、または超音波で、有利には超音波で、乳化/分散される。
c)工程b)に従って得られるエマルジョン/分散液は、大気圧もしくは真空下で、そして5℃から、選択された圧力におけるその溶媒の沸点までの範囲であることのできる温度、より有利には室温で、そして大気圧で、機械的に攪拌される。次いで、このエマルジョン/分散液は、溶媒の全てが蒸発するまで、機械的に攪拌される。
d)10〜250nmの範囲に含まれる大きさの、0.01〜0.1%、有利には0.03%の質量パーセントの、粒子を含む、最終的な、安定した分散液を得る工程。
【0048】
有利には、方法P3は、安定なPEKK分散液を、好ましくは揮発性の、水と非混和性の溶媒としてクロロホルムを用いることとによって、得るために用いられる。
【0049】
P4:
前記ポリマーが、前記有機溶媒中に分散可能であり、そして前記有機溶媒が水と混和性である場合には、本発明による分散液は拡散によって得ることができる。
【0050】
従って、この態様によれば、本発明による方法は、前記ポリマーの分散液を、水と混和性の前記有機溶媒中に拡散する工程を含んでいる。
【0051】
より具体的には、方法P4は、以下の連続的な工程を含んでいる。
a)前記ポリマーもしくはポリマー混合物を、水と混和性の有機溶媒中に、0.1〜10質量%、有利には5質量%で、分散させる工程。
b)工程a)に従って得られる、混合物の最終的な0.1〜10%、有利には5%の体積濃度に相当する量を、必要であれば、乳化剤または分散剤、例えば界面活性剤もしくはポリマー、有利には界面活性剤を含んでいる水中に注ぐか、または注入する工程。この化学薬品は、通常は、0.01〜20%、有利には5%の質量濃度で存在する。
c)工程b)に従って得られる分散液は、溶媒の全てが拡散するまで、有利には室温で、そして大気圧の下で、機械的に攪拌される。
d)10〜250nmの範囲に含まれる大きさの、0.01〜0.1%、有利には0.03%の質量パーセントの、粒子を含む、最終的な、安定な分散液を得る工程。
【0052】
有利には、方法P4は、安定なPEKK分散液を、好ましくは水と混和性の溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いて、得るために用いられる。
【0053】
それによって得られた安定な水性分散液は、熱可塑性複合材を作り出すために、コーティング膜を形成するために、好ましくは繊維もしくはカーボンナノチューブ、または炭素を基にする他の形態構造、ならびに芳香族ポリアミドを、サイジングするために、用いられる。
【0054】
従って、他の目的によれば、本発明は、以下の工程を含む、支持体上に膜を生成させる方法に関する。
− 本発明による分散液を、前記支持体上に堆積させる工程、および
− 水を蒸発させる工程。
【0055】
前記支持体は、特には、カーボン繊維もしくはナノチューブ、芳香族ポリアミドの繊維、アラミド繊維から選ぶことができる。
【0056】
また、本発明は、本発明による方法によって得ることができるサイジングされた繊維を目的としている。
【0057】
他の目的によれば、本発明はまた、前記で規定した、高性能熱可塑性ポリマーまたは高性能熱可塑性ポリマーの混合物のナノ粒子を含むサイジング剤に関する。
【0058】
ナノ粒子に堆積された膜によって作られた粒状サイジング剤は、繊維の応用性、および繊維とマトリックス、特にポリアリールエーテルケトン(PAEK)マトリックス、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)もしくはポリエーテルケトン(PEK)の間の接着性の向上を可能にする。
【0059】
他の目的によれば、本発明はまた、
− 本発明によるサイジングされた繊維、または本発明によるサイジング剤で被覆された繊維、および
− 熱可塑性ポリマーマトリックス、
を含む複合材に関する。
【0060】
前記熱可塑性マトリックスとしては、特にはポリアリールエーテルケトン(PAEK)マトリックス、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)またはポリエーテルケトン(PEK)がある。
【実施例】
【0061】
以下の例および参照する図は、本発明を説明するものであって、限定するものではない。
【0062】
例1
0.0922gのポリエーテルイミド(n=20)(PEI)を、2mLのクロロホルム中に溶解させた。
20mLの蒸留水中に溶解させた0.1005gのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含むビーカー中に、クロロホルムに溶解したこのPEI溶液を注いだ。
このビーカーを室温で水浴中に置き、そして超音波で、連続した出力4(Bioblock ScientificのVibra Cell、600W、20kHz)で5分間乳化させた。
1000回転/分での電磁式攪拌の下に、室温で、そして大気圧の下に、クロロホルムを全て蒸発させた。
懸濁したPEI粒子は、65nmの水準の、0.33の多分散指数を備えた、均一な大きさであった(図1)。
得られた水性懸濁液は、室温で、6ヶ月間安定であった。
【0063】
例2
0.0922gのポリエーテルイミド(n=20)(PEI)を、2mLのクロロホルム中に溶解させた。
20mLの蒸留水中に溶解させた0.1005gのナトリウムジオクチルスルホサクシネート(SDOS)を含むビーカー中に、クロロホルムに溶解したこのPEI溶液を注いだ。
このビーカーを室温で水浴中に置き、そして超音波で、連続した出力4(Bioblock ScientificのVibra Cell、600W、20kHz)で5分間乳化させた。
1000回転/分での電磁式攪拌の下に、室温で、そして大気圧の下に、クロロホルムを全て蒸発させた。
懸濁したPEI粒子は、50nmの水準の、0.29の多分散指数を備えた、均一な大きさであった。
得られた水性懸濁液は、室温で、6ヶ月間安定であった。
【0064】
例3
0.0922gのポリエーテルケトンケトン(n=3)(PEKK)を、文献(Y. Sakaguchiら、繊維学会誌、第62巻、第7号、2006年、p.141、M.G. Zolotukhinら、Polymer、第38巻、第6号、1997年、p.1471)中に記載されているように、2mLのクロロホルム中に、超音波浴を用いることによって、均一に分散させた。
20mLの蒸留水中に溶解させた0.1005gのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含むビーカー中に、クロロホルムで調製したこのPEKK分散液を注いだ。
このビーカーを室温で水浴中に置き、そして超音波で、連続した出力4(Bioblock ScientificのVibra Cell、600W、20kHz)で5分間乳化/分散させた。
1000回転/分での電磁式攪拌の下に、室温で、そして大気圧の下に、クロロホルムを全て蒸発させた。
懸濁したPEKK粒子は、100nmの水準の、0.28の多分散指数を備えた、均一な大きさであった。また、電子顕微鏡検査(図2)は、35nmの、小さな粒子の集合体を示した。
得られた水性懸濁液は、室温で、6ヶ月間安定であった。
【0065】
例40.0922gのポリエーテルケトンケトン(n=3)(PEKK)を、文献(Y. Sakaguchiら、繊維学会誌、第62巻、第7号、2006年、p.141、M.G. Zolotukhinら、Polymer、第38巻、第6号、1997年、p.1471)中に記載されているように、2mLのクロロホルム中に、超音波浴を用いることによって、完全に分散させた。
20mLの蒸留水中に溶解させた0.1005gのナトリウムジオクチルスルホサクシネート(SDOS)を含むビーカー中に、クロロホルムで調製したこのPEKK分散液を注いだ。
このビーカーを室温で水浴中に置き、そして超音波で、連続した出力4(Bioblock ScientificのVibra Cell、600W、20kHz)で5分間乳化/分散させた。
1000回転/分での電磁式攪拌の下に、室温で、そして大気圧の下に、クロロホルムを全て蒸発させた。
懸濁したPEKK粒子は、150nmの水準の、0.46の多分散指数を備えた、均一な大きさであった。
得られた水性懸濁液は、室温で、6ヶ月間安定であった。
【0066】
例5(方法P2)
0.0922gのポリエーテルイミド(n=20)(PEI)を、2mLのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に完全に溶解させた。
20mLの蒸留水中に溶解させた0.1005gのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含むビーカー中に、NMP中に溶解させたPEI溶液を、ガラス製注射器によって滴下して、超音波を伴って、注いだ。
乳白色の溶液を得るために、超音波の下で、10分間攪拌を続けた。
攪拌の全体の継続時間に亘って、冷水浴により、温度を制御した。
懸濁したPEI粒子は、170nmの水準の、0.55の多分散指数を備えた、均一な大きさであった。
得られた水性懸濁液は、室温で、6ヶ月間安定であった。
【0067】
例6(方法P2)
0.0922gのポリエーテルイミド(n=20)(PEI)を、2mLのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に完全に溶解させた。
20mLの蒸留水中に溶解させた0.1005gのドデシル硫酸ナトリウム(SDOS)を含むビーカー中に、NMP中に溶解させたPEI溶液を、ガラス製注射器によって滴下して、超音波を伴って、注いだ。
乳白色の溶液を得るために、超音波の下で、10分間攪拌を続けた。
攪拌の全体の継続時間に亘って、冷水浴により、温度を制御した。
懸濁したPEI粒子は、130nmの水準の、0.45の多分散指数を備えた、均一な大きさであった。
得られた水性懸濁液は、室温で、6ヶ月間安定であった。
【0068】
例7
例1に従って得たサイジング剤を、品番AS4 12000単繊維(Hexcell、米国)のカーボン繊維のサイジングされていない粗糸(rove)上に噴霧し、それを蒸発させた後に、均一なPEI膜にした(図3)。この粗糸を一旦サイジングして、これを100μmのポリエーテルエーテルケトン(PEEK)の2つの膜の間に挿入し、そしてこの全体を、予め離型剤で被覆された型中で、2枚の400℃の加熱板の間に配置して、15分間接触させた。この型が、100℃の温度に到達すると直ぐに、この複合材は型から取り出すことができる。凍結切片のSEM画像(図4)によって示されるように、このサイジング剤は、繊維を適性に覆い包んでおり、そしてまたマトリックスと混和されている。同様の手順を、例2〜例6に従って得た水性分散液で、カーボン繊維をサイジングするために用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高性能熱可塑性ポリマーまたは高性能熱可塑性ポリマー混合物のナノ粒子の安定な、水性分散液。
【請求項2】
前記ポリマーが、ポリエーテルイミド、ポリアリールエーテルケトンおよびそれらの混合物から選ばれる、請求項1記載の分散液。
【請求項3】
前記ナノ粒子が、10〜1000nmの範囲に含まれる平均直径を有する、請求項1〜3のいずれか1項記載の分散液。
【請求項4】
前記ポリマーの質量パーセントが、0.01〜0.1質量%の範囲に含まれる、請求項1〜3のいずれか1項記載の分散液。
【請求項5】
前記分散液が、界面活性剤または水溶性もしくは両親媒性ポリマーの群から選ばれる、1種もしくは2種以上の乳化剤および/または分散剤を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項記載の分散液。
【請求項6】
乳化剤および/または分散剤の質量パーセントが、0.01〜20%の範囲に含まれる、請求項5記載の分散液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の分散液の調製方法であって、有機溶媒もしくは有機溶媒混合物中の溶液または分散液の前記ポリマーを、水相に移動させることを含み、
− 前記ポリマーが、前記有機溶媒中に可溶であるか、または分散可能であり、かつ
− 前記有機溶媒が、水と混和性である、方法。
【請求項8】
前記方法が、水と非混和性の前記揮発性有機溶媒中に可溶な前記ポリマーのエマルジョンからの蒸発工程を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記方法が、前記揮発性有機溶媒中に分散可能であり、かつ水と非混和性の前記ポリマーの水中油エマルジョン/分散液からの蒸発工程を含む、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、前記ポリマーの、水と混和性の前記有機溶媒中の拡散工程を含む、請求項7〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記方法が、前記ポリマーの分散液を、水と混和性の前記有機溶媒中に拡散する工程を含む、請求項7〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
水と非混和性の前記揮発性有機溶媒が、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、脂肪族炭化水素、ハロゲン化脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、シクロへキサン、ハロゲン化芳香族炭化水素、エーテル、酢酸エチル、ギ酸エチルおよびそれらの混合物から選ばれる、請求項8または9記載の方法。
【請求項13】
水と混和性の前記有機溶媒が、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトン、ジオキサンおよびN−メチル−2−ピロリドンから選ばれる、請求項10または11記載の方法。
【請求項14】
前記有機溶媒中のポリマーの質量パーセントが、0.1〜10%の範囲に含まれる、請求項7〜13のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、以下の工程、
a)前記ポリマーを、前記有機溶媒中に溶解または分散させる工程、
b)工程a)で得た溶液または分散液を、場合によっては1種もしくは2種以上の乳化剤および/または分散剤を含む水溶液と混合する工程、
c)前記有機溶媒を蒸発または拡散させる工程
を含む、請求項7〜14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
支持体上に膜を形成させる方法であって、
− 請求項1〜6のいずれか1項記載の分散液の、前記支持体上への堆積、および
− 水の蒸発、
を含む方法。
【請求項17】
前記支持体が、カーボン繊維またはナノチューブ、アラミド繊維から選ばれる、請求項16記載の方法。
【請求項18】
請求項16または17記載の方法によって得ることができる、サイジングされた繊維。
【請求項19】
請求項1〜6のいずれか1項記載の、高性能熱可塑性ポリマーもしくは高性能熱可塑性ポリマーのナノ粒子を含むサイジング剤。
【請求項20】
− 請求項18または19記載のサイジングされた繊維、および
− 熱可塑性ポリマーマトリックス、
を含む複合材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−256389(P2011−256389A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−127738(P2011−127738)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【出願人】(509347273)エアバス オペラシオン ソシエテ パ アクシオンス シンプリフィエ (33)
【Fターム(参考)】